GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第16話 平穏な日々は無く

 〈氷結傀儡(ザドキエル)〉がその頭をゆっくりとこちらへ向ける。士道は死を覚悟した。この攻撃を受ければ、きっと無事では済まないだろう。

 

 口がゆっくりと開かれ、その隙間から冷気が漏れる。

 士道は目を瞑った。

 

 凄まじい音が鳴り、辺りが振動する。

 やがて振動は収まり、辺りは静寂に包まれた。だが体のどこにも異常は感じられない。攻撃はどうなったのだろうか。

 

 士道はゆっくりと瞼を開け、それを目にした。

 そこにあったのは巨大な玉座。それは怪物の攻撃から士道を守るように立ちはだかっていた。

 

「こ、れは……」

「シドー!」

 

 士道が目の前にそびえ立つ玉座に目を奪われていると、背後から声がした。

 

「十、香?」

「シドー! 無事か?」

 

 この玉座を呼び出した張本人、十香がこちらに駆け寄ってくる。その後ろにはソーとリアの姿も見えた。

 

「十香、その格好は一体?」

 

 十香は来禅高校の制服を着ているが、所々に薄い光のヴェールのようなものが見える。

 

「よく分からんが、気が付いたらこうなっていたのだ。それよりも、今はあれを」

 

 そう言って見るのは四糸乃がいる方向。そこには吹雪が発生し、雪と氷が巨大な渦を巻いていた。

 

『大した結界ね』

 

 嵐を解析したであろう琴里の声が耳に響く。

 

「あの中に四糸乃が?」

『ええ。それにあのASTの様子を見るに、あの結界は霊力に反応するわ』

 

 結界を破ろうと攻撃を仕掛けるASTの隊員が凍り付いていくのが目に入る。

 

「だったらどうすれば……」

 

 その時、バキバキという音が鳴り空中に巨大な影が浮かび上がった。

 

『鳶一折紙……強行手段に出たわね』

「あれは不味くないか?」

『ええ、最悪物量で結界がこじ開けられるかもしれないわね。でもそうなれば……』

「四糸乃がどうなるか分からない」

 

 これ以上四糸乃を刺激するのは危険だ。最悪この街が消滅する可能性もある。

 

「はあ、仕方ないわね」

 

 そう言って歩き出したのは赤い髪の少女、リア。

 

「士道、あんたは四糸乃って子の所に辿り着く方法を考えなさい。あいつらの相手は私たちがするわ。十香、いくわよ」

「リア……分かった」

「シドー、彼女を救ってやってくれ」

「十香……任せろ!」

 

 3人はASTの元へと走って行く。士道は渦巻く結界へと立ち向かった。

 

「サポートならするぞ」

 

 ソーが士道の隣に立つ。

 

「ああ、悪いな」

「それでどういう作戦だ?」

 

 2人で氷の結界を見る。その上にはビルの先端部が落下しようとしている。

 

「考えたんだが、これしか思い付かなかった」

 

 落下し始めたビルの先端が一瞬で粉末に変化し散っていく。恐らくリアが何かしたのだろう。ASTの隊員達は一斉に標的を変更し、攻撃を開始していた。

 

「あの中に入る」

『ちょっと、何言ってるの。やめなさい』

 

 琴里の声が聞こえてくるが、今は自分がやるしかない。

 

「……ふむ、いいだろう。あの中は氷の嵐だが、そこは大丈夫なのか?」

「多分な」

『士道、ダメよ。あの結界は霊力に反応する。氷漬けにされるわ』

「つまり、俺のこの不思議な力は霊力だったのか」

『っ⁉︎』

 

 士道はゆっくりと吹雪へと向かって歩き出す。

 

「道を開けよう。だがあの散弾を全ては防げん。覚悟は出来てるな?」

「ああ、頼む」

『士道、お願い戻ってきて!』

 

 いつもの司令官はどこへ行ったのか。ふっ、と笑みを浮かべながら士道は歩き続ける。

 

 ソーがストームブレイカーを天に掲げると、激しい雷鳴と共に光が集まり出した。それを吹雪に向かって一直線に放出すると、雷撃が氷を破壊し、一筋の道が開かれる。

 

「待ってろ、四糸乃!」

 

『いや! 待って! おにい──』

 

 琴里の声は届かず、ただ吹雪の音だけが後に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ったか……」

 

 士道を結界の中へと送り出したソー。背後からの爆発音で振り向いてみれば、リアと十香がASTの隊員達と激闘を繰り広げていた。

 

「……加勢に行くか」

 

 あの2人なら負けることはないと分かっているが、自分もここにいるだけでは暇である。精霊に関することは自分には分からない。そこは先程士道に一任した。

 

 後は士道が解決するまで時間を稼げはいい。ソーはASTと戦っている2人の後を追って走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ白な街にミサイルや銃弾が飛び交う。どれもただの武器ではない。精霊を倒すための、顕現装置(リアライザ)によって強化された兵器。それらが雨のように降り注ぐ。

 

「はあっ!」

 

 十香は〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を一閃させてそれらを弾き飛ばす。

 

「キリがないわね」

 

 やむことのない銃弾の雨はリアには届かない。全て彼女に触れる直前で砂塵に還っていた。

 

 そこへ突如リアに迫る一本の剣が。

 

「おっと」

 

 それをギリギリでかわし、リアは攻撃してきた相手を見る。

 

「鳶一折紙……」

「あなたは、一体何者」

 

 折紙はレイザーブレード〈ノーペイン〉を油断なく構え、リアの方を睨みつける。

 

「さあ、何者なんだろね」

「何故、精霊に肩入れする」

「あんたは、あの子達の気持ちを考えたことある?」

 

 そう言って他の隊員達と対峙する十香の方を見る。彼女の瞳には強い意志が込められていた。

 

「考える必要もない」

「何があんたをそうさせてるのか知らないけど、もっと余裕を持ったらどうなの?」

「あなたにとやかく言われる筋合いは、無いっ!」

 

 折紙は剣を握りしめると一気に距離を詰め、リアに斬りかかる。

 

「はあ、聞く耳も持たないか……ソー!」

「っ⁉︎」

 

 その時、剣を振り上げた折紙の側にソーが雷撃と共に着地した。折紙は爆風で吹き飛ばされ、瓦礫に突っ込む。

 

「そろそろ潮時だな」

「そうね」

 

 いつの間にか街を覆っていた冷気が消え去っている。そしてどんよりとしていた空が割れ、一筋の光が差し込んでいた。

 その光の先には2人の姿が。

 

「前も思ったんだけど、あれって犯罪じゃないかしら」

「言ってやるな」

 

 士道と、霊装が消え去り一糸纏わぬ姿となった四糸乃。四糸乃は恥ずかしそうに身を縮こまらせ、士道は大慌てしていた。

 そんな彼らを見て、リアはふっと笑みをこぼす。

 

「十香! そろそろ行くわよ!」

「分かった! だがこやつらが!」

 

 未だにASTと戦っている十香。そろそろ撤収したいのだがASTがしつこく、振り切れない様子。そこへソーが一歩前へ進み出る。

 

「要するにあいつらの足止めをすればいいのだろう?」

「やり過ぎないでよ」

 

 ソーがストームブレイカーを掲げ、それを一気に地面に向かって振り下ろす。すると十香に追撃を仕掛けようとしていた隊員達に巨大な落雷が直撃した。

 

 雷撃は周囲にも拡散し、周辺にいた他の隊員達も倒れていく。

 

「あー……少し強過ぎたか?」

「ばか、やり過ぎないでって言ったでしょ!」

「2人とも、すまぬ、助かった」

 

 そこへASTの追撃を免れた十香が合流。これでいつでも撤収できる。だがまだ諦めていない者がいた。

 

「くっ……、はぁっ、はぁっ、逃すわけには」

「ほんと、しつこいわね。でも、今日はここまでよ」

 

 先程の雷撃を喰らってもなお立ち上がる折紙。だがこれ以上は付き合っていられない。

 リアが手をかざすと3人の姿が消えていく。

 

「それじゃ、またね」

「くっ!」

 

 折紙はそこへ剣を振り抜くが、それはただ空を切るだけであった。敵が消え去った事により、集中が切れた折紙はその場に座り込む。

 

 また、何も出来なかった。精霊と対峙する度に、あの男達と対峙する度に、自分の無力さを思い知らされる。

 

「…………っ‼︎」

 

 怒り任せに隣にある建物の瓦礫を殴りつける。瓦礫はヒビが入り崩れ落ちるが、それで自分が得られることは何もない。

 光の差し始めた街で、心にぽっかりと穴が空いたような感覚と共に、ただ空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんの、アホ共がああああぁぁぁぁっ‼︎」

「クベェッ!」

「グハッ!」

 

 〈フラクシナス〉に回収されるや否や、男2人に見事な蹴りが入った。2人とも床をゴロゴロと転がっていく。

 

「勝手に話を進めて危険な行動までして! 私がどれだけ心配したと思ってるの!」

 

 何とか立ち上がった士道に琴里が抱き着く。

 

「悪いな。これしか方法が思い付かなくて」

 

 腕の中で泣き出した妹を士道は頭を撫でて落ち着かせる。いつもはしっかりとした司令官も、ここでは1人の少女であった。

 

「…………痛い」

 

 一方でソーの方は未だに床の上に転がったままであった。

 

「自業自得じゃない」

 

 そんな彼をバッサリと切り捨てるリア。そんな彼女をソーはムッと睨みつける。

 

「なんだその言いようは。俺は手伝っただけだ。結果オーライだった筈だぞ」

「たまたまでしょ。もっと頭を使いなさいよ。……あ、でもあんたには無理だったかしら」

「おい、バカにしてるのか。俺が頭を使えないとでも?」

「いつもそうでしょ。この筋肉バカ」

「なんだと!」

 

 いつのまにか喧嘩に発展しているソーとリアの間に神無月が割って入る。

 

「はいはい、2人共そこまでです。第一、司令にあの素晴らしい蹴りを頂いただけでも光栄なことですよ。私なら喜びのあまり今日からの仕事がどんどん捗ってしまいますね」

「…………なあ、こいつはちょっとヤバいんじゃないのか?」

「それに関しては同意するわ」

 

 1人恍惚な表情を浮かべて語り出した神無月を冷たい目で見る2人。

 

「無駄のない動きから繰り出される司令の軽やかな蹴り。ああ! 素晴らしい! さあ、司令! 次は私にその素晴らしい蹴りを……」

「うるさい!」

「ぐはぁっ! ありがとう、ござい、ます」

 

 神無月は歓喜の表情を浮かべながら、その場に崩れ落ちていった。そんな彼を無視して琴里は士道の方に向き直る。

 

「とにかく、今度からいああいう危険な行為は禁止よ。こっちだって心配なんだから」

「うっ……なるべく善処する」

「絶対よ! それから四糸乃のことなんだけど、家の隣にマンションが完成したから、これから精霊達にはそこに住んでもらうわ。もちろん、彼女達のアフターケアはあなたの仕事よ。この前みたいなことの無いようにね」

「わ、分かった」

 

 一先ず四糸乃の件については一件落着といったところだろうか。彼女も現在は落ち着いているという。どうも、人とのコミュニケーションに苦手意識を持っているようだが。

 

「さて、向こうは落ち着いたみたいだし、私たちも捜索を再開するわよ」

「そうだな」

 

 精霊の件が終わっても、こちらはまだ何も進展していない。この世界にいる4つのインフィニティ・ストーン達。そして行方不明になったステラ。やる事はまだ山積みである。

 まずはステラの捜索からであるが、今の所手がかりは何も無い。

 

「腹が減った」

 

 床に寝転がったままそんなことを呟くソーに、リアはやれやれと首を振る。

 

「はあ、今日は色々あったし、捜索は明日からにしましょうか」

「おう、明日からは忙しいぞ」

「今のあんたを見ても全然そうは思えないけれどね」

 

 こうして1日が終わりを迎える。精霊、四糸乃は少年、五河士道に救われ、人間達と共に生活することになった。五河家の隣には精霊達が生活するためのマンションが建てられ、〈ラタトスク〉のこれからの活動が活発になることを表しているかのようである。

 他の世界からの来訪者は、増えてしまった捜索対象を探して、再び行動を開始する。また一方で、自分の悲願を叶えるために膨大すぎる力を手に入れようと躍起になる者。

 

 同じ瞬間に、それぞれの人が、それぞれの思いを持って行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、士道の前には、新たな精霊が姿を見せる。

 

「琴里、よく聞いてくれ。精霊が転校してきた」

『……悪い冗談じゃ無いわよね」

「こんな事で嘘なんかつけるかよ!」

『分かってるわそれくらい。ただちょっと頭の中が整理出来ていないだけよ』

 

 この日、士道のクラスに精霊を名乗る少女が転入してきた。彼女の名前は時崎狂三。妖艶な雰囲気を持った美少女である。

 

「それに何故か俺が学校を案内することになった」

『ふーん、丁度いい機会じゃない。向こうから接触してきてくれるならこれとなく好都合だわ』

「やってみる」

 

 新たなミッションが動き出す。まずは精霊を名乗る彼女と接触し、会話を試みる。話してみれば彼女のことが分かるかもしれない。今日の放課後に彼女を連れて学校の案内をする予定だ。そこがチャンスであろう。

 

『一応こちらでも観測を行ってみるわ』

「頼む。そろそろ切るぞ」

『ええ。健闘を』

 

 そうして琴里との通話は切れた。四糸乃を救ってから、まだそれほど日は経っていないというのに、早くも次の精霊が姿を現した。

 この世界には一体どれだけの精霊がいるのだろうか。士道は全くわからない未来に不安を抱きながら、教室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 士道の隣のクラスでは、リアが1人机に両肘をついて、組んだ手の上に顎を乗せていた。彼女の視線はどこを捉えているわけでもなく、ただひたすら何かを考えている。

 

(……どういうこと? さっきから感じるこの感覚は確かに…………でもそんなことが……)

 

 彼女は自分だけが感じているその気配にずっと気を割いていたが、確証を得るには至っていなかった。

 

「ステラが…………いる?」

 

 居ても立っても居られなくなったリアは、机の上に置いてある携帯を掴むと、席を立って颯爽と教室から去って行った。

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