GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
「先日ウチの学校に転入生が来たのは知ってる?」
「いいや、聞いてない」
ソーが知らないのも無理はないだろう。彼は学校に通っているわけではない。昼間はステラを探して街中を移動し、もうこの街で探していない所はないと思われる。
士道たちもソーたちの前ではあまり精霊のことを話さない。そういった話は〈ラタトスク〉の方で進めているのだろう。だからこそ、ソーの所には精霊に関する情報というのはあまり入って来ないのだ。だがリアは士道と同じ来禅高校に通っている。しかもクラスは士道の隣であるため、士道のクラスに転入生が来たということはすぐに耳に入って来た。
そして彼女が違和感を感じたのもまた、それと同じ日であった。
「最初聞いた時は耳を疑ったわ。琴里が精霊に関することは一般には公開されていない秘匿事項だと言っていたのに、それを自分から堂々と明かすんだもの」
リアはソーの隣に腰掛けると話を始める。
「でも彼女が精霊である確証なんてどこにも無かったし、どうせ士道が苦労することになるんだろうって、そう思ってたのよ」
「結局そいつは精霊だったのか?」
ペットボトルの中身を飲み干したソーは容器をゴミ箱に向かって放り投げる。綺麗な放物線を描いた容器は、そのままスコンという音と共にゴミ箱の中に収まった。
「どうやらそうだったみたいね。〈ラタトスク〉が動いているわ」
「そうか」
「で、問題はここからなんだけど。私が最初に違和感を感じたのはその転入生がやって来た日だったわ。たまたま廊下ですれ違っただけだったんだけど、少し、本当に少しだけ、彼女のエネルギーを感じた」
リアは一呼吸おいて口を開く。
「間違いない。あの時、近くにステラがいたわ」
夜の公園に沈黙が流れる。聞こえてくるのは木々が風に揺れる音だけ。
「…………つまり、そいつが行方不明になっているステラと関わっているということか?」
しばらく膝に腕を乗せて地面を見ていたソーが口を開く。
「分からないわ」
リアの言葉にソーはリアの方を見た。だが彼女の表情が何も分からないということを表していると気づき、再び地面の方を向く。
「分からないの。確かにあの日、あの廊下ですれ違った時はステラの存在を感じ取った。これは間違いない。だから次の日も確かめようと思ったの。姿を消してこっそり後をつけてね。でも何も分からなかった。前の日は確かにあったはずのステラの気配が無くなっていたのよ」
リアは前を向いたまま悔しそうな表情を浮かべる。
「そいつの名前は?」
「時崎狂三」
「……聞かないな。どんな姿かは分かるか?」
「そうね……」
リアは立ち上がるとソーの前に立ち、その姿を変化させる。真っ赤な流体が消え去るとリアの姿は学校での狂三へと変貌していた。どこから見てもその姿は狂三と同じである。
「こいつは……いや、だが似てるだけの可能性も……」
「何か知ってるの?」
「確証は無いが、俺はこいつに会っている可能性がある」
ソーは狂三の姿をしたリアの目を見ると、そう答えた。
翌日、リアは改めて狂三を観察するため、昼休みにこっそりと士道の教室を覗いていた。だがそこに狂三の姿はない。教室では十香が一人寂しく椅子に座っていた。いつも十香と言い合っている折紙の姿も見られない。
(誰もいない? 士道はいつも教室で昼食を取っているはずなのに)
しばらく教室から距離を取ったところで観察をしていたが戻ってくる気配はない。リアは仕方なく自分の教室に戻ろうとして誰かにぶつかった。
「いたっ。ごめんなさい、……って士道じゃない。どこに行ってたの?」
ぶつかったのは士道だった。だが彼の表情はまるで何か酷いものを見た後かのように生気がない。
「士道? 顔色が良くないわね。何かあったの?」
「いや、大丈夫だ。すまん」
そう言って士道はリアの脇を通り抜けようとするが、それをリアが腕を掴んで止める。
「待ちなさい。一体何があったの?」
「悪い……話せそうにない」
「……そう」
リアは士道の腕を離す。士道は黙ったまま教室へと戻って行った。その背中をただ見送る。今日1日で一体何があったというのだろうか。
自分の教室に戻り、机に頬をくっつけてボーっと廊下の方を見ていると、廊下を狂三が1人で歩いているのが見えた。
リアは彼女に意識を集中してみるが、何も感じることは出来なかった。
(やっぱり何も感じない。気のせいだったのかしら?)
ステラの捜索は、再び迷宮入りとなってしまった。
放課後、リアは誰かと一緒に帰ることもなく1人路地を歩き続ける。すでに太陽は山に差し掛かり、綺麗な夕日が街を照らし出している。来週からはまた雨だと今朝の天気予報では言っていた。この時期に綺麗な夕焼けが見られたのはラッキーなのかもしれない。
明日は休み。士道たちは何をするのだろうか。当然自分たちはステラの捜索に時間を使うつもりだ。しばらく歩くといつもの公園へと到着する。そこにはすでに先客がいた。
公園のベンチにソーが寝ている。近づいても反応がない。完全に爆睡している。自分がステラの事についてあれこれ考えていたっていうのにこの男は……、と少しイラッと来たので足元に落ちていた石ころの先端を尖らさせて顔に打ち込む。彼はこれでもアスガルド人。ただの人間なら大怪我でも彼にとってはちょっとした痛み程度だろう。だが痛いものは痛い。
「グワッ⁉︎……敵襲か⁉︎」
飛び起きて辺りをキョロキョロと見回しているソーの肩をリアはやれやれといった感じで叩く。
「ん? なんだ、リアか。遅かったな。待ちくたびれたぞ」
彼は立ち上がって大きく伸びをすると肩を回して体をほぐし始めた。
「あんた、一体いつからここに居たのよ」
「30分くらい前からだ」
「はあ、恋人とのデートじゃないんだから……まあいいわ。行くわよ」
2人は公園を後にし街を歩き始める。現在の2人の目標はステラを発見する事。本来なら残りのストーンを探しに行っているところなのだが、行方不明になった彼女の身が危うい可能性がある。そのため放課後もこうして捜索を行なっているのである。
「それで、どうだったんだ? その、狂三とかいう精霊は」
「ダメだったわ。やっぱり何も感じない。でもそんなはずが無いのよね」
「そんなにハッキリと分かったのか?」
「ステラの気配自体はそれほど強くはなかった。恐らく私しか気づかないでしょうね」
「気のせいという可能性もあるかもしれんぞ?」
「ふん、私があの子を間違える訳がないでしょう。絶対にあの日ステラはあそこに居たわ」
そこだけは自信満々に答えられるというリア。
「じゃあ何故今は居ない?」
「私にも分からないわよ。その次に狂三に会った時にはその気配が綺麗さっぱり無くなっていたんだから」
「そもそも狂三で無いということは……」
「それじゃあ最初からやり直しじゃない!」
ステラの気配を感じ取ったのがたまたま狂三が来た日であったというだけで、彼女が関係しているという証拠自体はまだどこにもない。ソーの言った可能性も否定は出来ないが、そうなるとまたスタートラインに戻らなければならないのだ。
「参ったな……。士道の方から情報は得られないのか?」
相手がもし精霊なのならば士道に聞いた方が早いかもしれない。あちらは精霊の攻略を目標に活動しているのだから、精霊に関する情報については沢山持っているのだろう。
「そうね。ただ、今日は士道の様子がおかしかったから、また明日にした方がいいかもね。何なら琴里に聞いた方がいいかも」
「そうか」
話しているうちに街の中央まで来てしまった。辺りは帰宅するサラリーマン達が行き交っている。そろそろ引き返して家に帰った方が良いだろう。
「今日はこの辺にするか。明日はまず情報収集だな。それから対策を練るぞ」
「分かった。明日も大変そうね」
2人は今日の捜索を終えて家へと向かう。だが彼女達は知らない。明日の情報収集は、想像以上に大変だということを。
「つまり、狂三がステラの失踪に関係しているか知りたいってこと?」
「そうだ」
ソーとリアはその夜、士道ではなく琴里に直接申し出をしていた。リアの言った通り、今日の士道は少しいつもとは調子が違ったため、琴里に相談しようと思ったのだ。
「そうね。……はっきり言うと、狂三は今までの中で一番謎の多い精霊よ。私たちもまだ彼女の事をほとんど知らないのよ。これは実際に起こった事なんだけれど、正直理解出来ないわ。…………昨日、狂三は死んでいるはずなの」
琴里はそう言うと端末を操作して1つの映像をソ2人に見せる。
そこにはとある路地が映っていた。
「これは……」
リアはその映像に映っている人物を見て息を飲む。
何しろその人に自分たちは会っている。そこにいたのは、霊装を纏った狂三をその手に持つ剣で形が無くなるほど切り刻んでいる真那だった。そして地面に横たわる狂三は…………
「ちょっと待って。狂三は確かに今日学校にいたわよ」
リアは自分の頭がおかしくなったのかと思い、琴里に抗議する。
「分かってるわ。時崎狂三は昨日、確かに死んだはずだった。いや、殺されたと言った方が正しいわね。でも彼女は今日、まるで何事も無かったかのように学校に姿を現した」
「こいつ、真那とか言ったか、こいつは何者だ」
琴里は少し複雑な表情で足を組む。
「真那は、DEM社の出向社員。ASTと同じ、精霊を武力によって殲滅しているわ」
「こいつは士道の妹なのだろう? 年齢もまだ若いはず。その割に、やけに動作が慣れているな」
ソーは映像を見て思った。この少女は、「殺し」に慣れすぎていると。普通このくらいの年の少女が人を殺すなど考えられない。この星が地球であるならば尚更だ。それに殺すにしても何らかの動揺や抵抗はあるはず。だが真那にはそれらが一切見られない。言葉通り、既に事切れているであろう狂三にとどめを刺すその動作も、一切の躊躇が見られない。
一体これまでにどれだけの「殺し」を行ってきたというのだろうか。
「この映像、士道にも見せたの?」
今日の士道の様子が気になっていたリアは琴里にそう尋ねる。
「……ええ」
琴里はどこか悲しそうな表情をして答えた。その顔は司令官としてではなく、彼の妹として、兄にあのような悲劇を伝えてしまったことの後悔が含まれているように見えた。
「士道は明日、狂三とデートするわ。もし狂三について何か知りたいのだったら、2人の邪魔をしない程度に観察してちょうだい」
「コソコソやるのは苦手なんだがな」
「そのための私でしょ」
隠れながら事を進めることに抵抗のあるソーの肩をリアがポンと叩く。
「あ、言い忘れてたけど、明日のデートは狂三だけじゃないからその辺も気を付けて」
「「は?」」
2人の声が、見事に被ったのだった。
午後10時。
ソーは外の空気を吸おうとベランダへのドアを開けて、庭にリアがいることに気が付いた。
彼女は地面に大の字になって寝転がり、星空を見上げている。
「何やってるんだ?」
「この世界と同調してるのよ」
「…………なんだって?」
自分の耳が悪かったのか、はたまた彼女の言っていることがおかしかったのか、ソーは取り敢えずもう一度聞いてみる。
「世界と同調してるのよ。この世界と前の世界は素材が同じでも構成は異なるから。この世界を知ることで自由に力を使えるようにもなるし。大切なことよ」
「そうか…………てっきりお前の頭がついにおかしくなっ……痛い痛い、分かったから石を投げるな」
ソーが何を考えていたのか分かったリアは自分の言葉が恥ずかしくなり、彼の脛に向かって石を投げつける。
「まったく、変なこと言ったつもりじゃ無かったのになぜか恥ずかしいじゃない」
「普通の人から見たら十分変なことだと思うが……」
「あんたは普通の人じゃないでしょ」
「そうだった」
リアは体を起こすと欠伸を1つして立ち上がった。
「さて、明日は1日探偵ごっこだし、今日はもう寝るわ」
「だが相手はあの精霊だろう? 以前会った時もあいつは何かを企んでいた。危険な気配しかしない。バレたら大変なことになりそうだぞ」
「だから変装よ。私に任せなさい。見事な変装を披露してあげるから」
「嫌な予感がするぞ……」
上機嫌でリビングへと上がっていくリアに不安を覚えながらもその後ろを追って家へと入るソー。
明日は世にも珍しいトリプルデート。そのスケジュールは見ただけで目眩が襲ってきそうなものである。そしてそれを実行しようとしているのが、精霊を救うために立ち上がった少年、五河士道。彼は狂三に、そして真那にこれ以上人を殺させないために狂三とデートをする。その合間に十香と折紙のデートが挟まっているのだが。
そしてそのトリプルデートを後ろから追いかける探偵もどきがおよそ2名。彼らは行方不明の仲間のために狂三の謎に迫る。果たして、前代未聞のデートの行方は如何に。