GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
天宮駅東口改札前。
そこから少し離れたところで、改札前に立つ狂三の様子を伺っている2つの影があった。
「だから嫌な予感しかしなかったんだ…………」
「あら、私はよくお似合いだと思うけれど?」
その2人の格好だが、リアは普段の姿から髪の色を黒に変えているだけだが、もう1人、ソーの方はというともはや誰だか分からない。
「なんで俺は女なんだよ!」
輝く金色の髪を肩まで伸ばし、身体の方も女性のものへと変貌したソーは今すぐ元に戻せとリアに詰め寄っていた。
「何よ。可愛いじゃない」
「お前、楽しんでるな? そんなに今の俺が惨めか?」
「静かにしなさい。狂三に気付かれるわ」
隣で騒ぐソーをはいはいと抑えつけるリア。暴れるソーの頭を抑えながら狂三の方を見ると、ちょうど士道がやってきたところであった。
全力で走ってきたのか、息が上がっているようにも見える。
「ほら、士道が来たわよ」
「くっ……今日1日の我慢だ」
女性の身体に可愛らしい服を着せられ、羞恥で悶え死にそうだったソーは、無理矢理リアに引っ張り出されたため若干不機嫌である。そんなことはお構い無しとばかりにリアはソーの手を引っ張って次の地点へと移動していく。
狭い路地に入ってその影から士道と狂三の様子を伺う。この繰り返しだ。
「特におかしい所なんて無いがな」
「まだ始まったばかりでしょ。その内なにかあるかもしれないじゃない」
ものすごく帰りたいという意思表示をしてくるソーをリアは無理矢理引き止める。
「ステラが見つからなくてもいいの?」
「よし、張り切って行くぞ!」
「あんたね…………」
そうしているうちに士道と狂三はビルの1つへと入って行った。少し間隔を空けてから2人もビルの中へと入る。
中に入ってから2人の姿を探していると、男性には似つかわしくない店に士道がいた。
「何やってるんだあいつら」
「さあ? 士道がそこまでの変態だとは思わないけど」
士道も店の前で非常に居心地が悪そうにしている。と、そこに狂三がやって来た。
「まさか、士道に自分の下着を選ばせようとしてるの?」
「変態はあっちの方だったか」
狂三は士道の手を引いて店の中へと入って行った。
「……大丈夫なのか?」
「さあ? …………ってヤバっ」
リアが後ろを振り返ったかと思うと急に慌ててソーの頭を飾りの植木の下に隠れさせた。
「うおっ⁉︎ 何だよいきなり」
「いいから、静かに!」
リアはそーっと影から顔を出すと店の方の様子を伺う。先程後ろからやって来ていたのは士道のクラスメートの女子3人。亜衣、麻衣、美衣である。
「なんだ、あの3人がどうかしたのか?」
「隣のクラスの友人よ。変装してるとはいえ、見つかると面倒だし」
ソーとリアは少し移動すると店の商品に隠れて士道たちの方を覗き見る。
その3人組は士道を発見すると一斉に詰め寄っていた。それもそうだろう。十香の恋路を応援する3人は今日、十香に士道をデートに誘うよう仕向けさせたのだから。その相手が今ここにいるとなれば怪しみもする。
3人が士道を問い詰めていると、その後ろにある試着室のカーテンが開かれ、早速試着をしていたであろう狂三が現れた。
「士道さん。いかがでして……」
「なっ⁉︎」
「「「はっ?」」」
明らかに布面積の小さい下着を身に付けた狂三にその場にいる4人が固まる。そしてしばらくの沈黙の後、3人組が士道を一斉に睨み付けた。
「あんた、これはどういうこと⁉︎」
「十香ちゃんとは遊びだったの⁉︎」
十香はいないが修羅場の発生である。
「あんたは見るなー!」
「いだだだだっ! 何するんだ!」
一方でそれを覗いていた側では、リアがソーの頭を商品棚に突っ込んでいた。
「わ、悪い狂三。腹痛が酷いからちょっとトイレ行ってくる! ちなみに凄く可愛いぞ!」
「コラ待てー!」
「逃げんなこのヤロー!」
「処刑執行!」
走り去る士道を3人組が追いかけていく。残された狂三は士道に褒められたからか少し頰を赤くしてしばらくその場に立っていた。
「あー、首が……もう少しで変な方向に曲がる所だった」
商品棚から顔を出したソーは自分の首を触りながらブツブツと文句を言っている。
「士道は次の所へ行ったわね。このまま監視を続けるわよ」
だがソーの返事はない。それを訝しんだリアが後ろを振り返ると、そこにはもじもじと落ち着かない様子のソーがいた。
「どうかしたの?」
「あー、その……トイレに行きたいんだが」
「行ってこればいいじゃない」
「…………本気で言ってるのか?」
「何よ。今のあなたは可愛い女の子なんだから、普通に入っても問題ないでしょ。別に他人のあれこれ見るわけじゃないでしょうし」
「無理だ」
「行きなさい」
「無理」
「行け」
「無……」
この後彼はリアに引きずられ、また恥ずかしい思いをすることになった。
「覚えとけよ。いつか必ず思い知らせてやる」
「覚えてたらね」
さっきからぐちぐちと文句を言ってくるソーを適当に受け流しながらリアは狂三を探す。彼女はまだ先程の店にいるようだった。レジで会計をしているところを見ると、士道に選んでもらった下着を購入したのだろう。
「ほんと、狂三の行動力には驚かされるわ」
「そこが恐ろしくもあるがな」
彼女は会計を終えたがその場から離れる気配はない。特に行動は起こさずにトイレに行った士道を待っているのだろう。
しばらく待っていると士道が戻って来た。ここにくる前は誰の所へ行っていたのだろうか。お腹を抑えていることから何か食べて来たのだろう。そこへ狂三が容赦ない一言を放つ。
「士道さん、そろそろお腹が空きませんこと?」
「うわぁ、士道は大変ね」
「そもそも何故あいつは3人と同時にデートをしてるんだ? この国にそのような風習は無かったと思うが」
「精霊が絡むと事情が複雑になるのよ」
「そういうものなのか」
レストランへと向かう2人を後から追いかける。士道の顔は引きつっているが本当に大丈夫なのだろうか。
「私たちもお昼にしましょ」
「そうだな」
ここでソーとリアの2人も昼食をとることに。士道と狂三の入ったレストランと同じ所へ入り、2人の様子がギリギリ見える席に座る。
様子を伺っていると、案の定士道が苦しそうな表情をしながらパスタを食べていた。
チラリと前を見やれば2人の観察などまるで忘れているかのようにハンバーグを食べているソーがいる。
「あんたね、今はいつもの姿じゃ無いんだから、もう少しお淑やかにしてなさい」
「うるさいな。料理が美味いんだから仕方ないだろう」
「はぁ…………」
しばらく観察していると、再び士道がトイレと言って立ち上がった。狂三は走ってトイレに駆け込む士道を不思議そうな目で見ている。
「にしても、中々尻尾を掴ませてはくれないわね」
「本当にあいつは関係していないのかもしれんな」
「また振り出しか……。嫌になるわね」
ガックリと肩を落とすリア。ここまで調べておいてまた振り出しとなればやる気も大幅ダウンするだろう。
「だがまだ決まったわけじゃない。これはまだ続けるのか?」
「もちろんよ」
早く元の姿に戻りたいソーは今すぐにでも離脱したい気分だが、ステラの為ならば仕方がない。戻って来た士道と席を立つ狂三の後を追って2人は行動を開始した。
それからも狂三の行動を観察し、不審な点やステラの発見に繋がることは無いかと色々探っていた2人だが、特に怪しい点などは見受けられずそろそろ退屈し始めていた。
現在はビルの間の路地にて休憩を取っている。リアはそろそろ切り上げて休憩しようと言っているのだが、人前にあまり出たくないと言うソーが路地から出ようとしないのだ。
「別に元のあんたを知ってる人なんて居ないじゃない」
「それでも嫌なものは嫌だ。俺は絶対にあんな所行かないからな」
そう言う視線の先にはオシャレなカフェがある。
彼はそこに行くことに抵抗を感じていた。どうもあのような雰囲気の店には入りづらい。そしてこの姿で動き回りたくない。早く元に戻せと、そんな事ばかり考えて今日一日を過ごしてきた。
「はぁ、あんたも男ならこれくらいちゃっちゃと覚悟決めればいいのに」
「俺を男じゃなくしたのは何処のどいつだ?」
「屁理屈ばっかり」
ふん、とそっぽを向いたソーはそのまま梃子でも動かないつもりだ。そんな彼にリアがどうしようかと考えていた時だった。
背後から複数の影が現れた。
一方で士道と別れた十香は急に居なくなった士道を探して街を歩いていた。そして運の悪いことにあまり会いたくない相手と出会ってしまう。
「貴様、ここで何をしている!」
「貴女には関係のないこと」
「ふん、私は今忙しいのだ。貴様に構っている暇はない」
今日士道とデートをしている2人が偶然にも街中で出会ってしまった。そうなれば今日の行いがバレてしまうのは時間の問題である。特にこの2人、士道に対しては特別な執着心を持っているこの2人が出会って問題が起こらない訳がない。
「私も、今は忙しい。なぜなら……」
「シドーを探しているからな!」
「士道を探しているから」
見事に2人のセリフが被った。どちらも相手の言ったことに驚愕し目を見開いている。
「何? どういうことだ鳶一折紙!」
「それはこちらのセリフ」
「シドーは今日私とデートしているのだ!」
「それは幻覚。士道は私とデートしている。貴女の頭がおかしくなったのでは?」
「なんだと⁉︎」
街中でいがみ合い始めた2人。そんな2人を街行く人達は不思議そうに見ている。
そこで折紙は思案する。今日自分は士道を時崎狂三と遭遇させないようにする為に彼をデートに誘った。だが夜刀神十香も今日は士道とデートをしているという。精霊の分際で実に腹立たしい。彼は私のものなのに。
そこまで考えて思考を切り替える。今はそんな事を考えている場合ではない。今日士道と会っているのが自分だけでは無いのだとしたら……。
「まさか……」
折紙はそう思うや否や側にいた十香を置いて走り出した。
「なっ、貴様! 何処へ行くのだ!」
後ろから声が聞こえるが振り向かない。今はただ、士道が無事であることだけを祈って走り続けるしかなかった。
「なあ君達、こんな所で何してるのかなあ?」
複数の気配が現れたことに気づいたリアは周囲を見る。路地の両側にいつの間にか男達がおり、2人は挟まれる形になっていた。
「何よあんた達」
リアは近付い来る男の1人を睨み付ける。
「そんな怖い顔しなくてもさー、俺たちと一緒に楽しいことしない?」
「残念だけどお断りするわ。汚い思考の持ち主とはもう関わりたくないの」
「ギャハハ、振られてやがる!」
「連れて行くぞ」
男がリアの手を掴むと強引に連れて行こうとする。
「ちょっ、離しなさい!」
「いいねー、元気のある子は嫌いじゃないぜ」
周りの男たちがふざけて騒ぎ出す。そしてその内の1人が木箱の上に座っているソーの方に近付いた。
「おい、こっちの子もすげぇ可愛いぞ!」
そう言って肩に手を乗せた。これが自分の寿命を縮めることになるとは知りもせずに。
「離しなさいよ!」
リアは複数の男たちに担がれ、身動きが取れなくなっている。
「こいつも連れて行け」
男はソーの手を引っ張るとこちらも強引に連れて行こうとする。
その時、男の手が弾かれた。
「なっ、ぐわっ!」
ソーは男の襟首を掴むとそのまま横に放り投げる。
一同はその光景に目を疑った。投げ飛ばされた男は有り得ない距離を飛んでいき、突き当たりの壁に激突してそのまま地面に崩れ落ちた。その場に動揺の空気が流れる。
「なんだお前は!」
「あ?」
男たちは怖くなったのか逃げ出そうとするが、彼がそれを見逃すはずがない。彼の両手には青白い閃光がバチバチと迸っていた。
「あーっ、スッキリした」
パンパンと手を叩いて埃を払いながらソーは地面に転がる男たちを見た。1人は遠くで崩れており、残りは全員丸焦げである。
全員ということは当然……。
「……こんの、やってくれたわね」
「今日の分の仕返しだ」
丸焦げで転がっている人間の中から起き上がる影が1つ。
「そっちがその気なら……ふんっ」
さりげなく丸焦げにされたリアは両側の壁を変形させるとソーに襲い掛かる。彼はそれを器用に躱しながらリアから逃げる。
「この、待ちなさい」
「誰が襲って来る奴を待つか!」
彼は走りながら手を出すと、路地をクネクネと曲がりながらリアの攻撃を躱す。
しばらくすると彼の元にストームブレイカーが飛んでくる。
「あっ、コラ!」
飛び立とうとしたソーの進路をリアが妨害、少しスピードが落ちた所にコンクリートの蔦がソーの足に絡みつく。
「ふふん、捕まえたわよ」
「しまっ……」
リアは足を捉えた蔦を大きく振り回すとそのまま地面に向かって叩きつけた。
大きな音が響き、ソーの体は地面に埋まる。またその衝撃で地面にはヒビが入り、亀裂は建物にまで広がっていた。
「ぬあっ!」
リアが砂埃が立つ中へと足を踏み入れた瞬間、頭上から落雷が襲いかかる。
「うっ……」
彼女が怯んだ隙にその場を離れようとするソーだが、リアがその背中に掴みかかり、2人で取っ組み合いながら路地の外へと飛び出した。
「このっ、離せ!」
「逃がすわけないでしょ!」
「うぐっ!」
一撃を貰ってバランスを崩したソーは地面に墜落する。当然その背中に掴まっていたリアも一緒にだ。2人は飛んできた勢いのまま公園の中に突っ込んでいった。