GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第20話 士道の覚悟

 突然の大きな音と共に何かが公園に飛び込んで来た。

 士道を安全な場所へと遠ざけ、ASTの隊員と共に狂三の後始末に取り掛かっていた真那は〈随意領域(テリトリー)〉を操作し、砂埃の中の様子を確認する。

 

「皆さんはここで待機しやがってください」

 

 真那は他の隊員達をその場に留まらせると、慎重にその影に近づく。確認できたのは何やら取っ組み合っている女2人。

 舞い上がっていた塵が収まり、視界が鮮明になっていく。そこには地面に倒れ、手足を地面から伸びる蔦のようなもので拘束されている金髪の少女と、その上に馬乗りになっている黒髪の少女がいた。

 

「おめーさん達、何してやがりますか? ここは立ち入り禁止の筈」

 

 真那は光を放つ剣を油断なく向けながら距離を詰めていく。

 

「はあっ、はあっ、……くそっ」

 

 手足を拘束され身動きが取れないソーはリアの肩越しに向こうにいるASTの隊員を発見する。

 

「げっ、AST!」

「ちょっ……」

 

 ソーはリアが真那に気を取られている隙に拘束から逃れると、立ち上がって一瞬で真那から距離を取った。

 今度は2人並んで真那の方を警戒する。

 

「なあ、これってマズくないか?」

「ええ、嫌な予感しかしないわ」

「こういう時は……」

「そうね……」

「もう一度聞きます。何者でいやがりますか。警告しておきますが、もし不審な行動を見せれば容赦なく……」

 

「「逃げる!」」

 

 2人で真那の忠告を無視して逃げ出した。

 ソーは足元のストームブレイカーを蹴り上げてキャッチするとそのまま空へ、リアはエネルギーを自分の身体能力に回すと人とは思えないスピードで走り出した。

 

「あ、逃がさねーですよ! 私は黒髪の方を追います! 皆さんは空に行った方をよろしく頼みます!」

 

 その言葉と共にASTの隊員達は一斉に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これは一体どういう事なのかしら?」

 

 司令官の怒りがひしひしと伝わって来る。

 モニターに映っている映像では山の中でASTの隊員が全滅しており、また他方では街の一角が壊滅し、その中心にある大穴の中には1人の隊員が意識を失って転がっている。

 

「も、元はと言えばソーが余計なことを始めたのが原因だし……」

「お前が俺をあんな格好にしなければ始まらなかった事だ」

「ちょっとカフェでお茶しようとしただけじゃない!」

「俺は我慢の限界だった!」

「何よ! だいたい……っ⁉︎」

 

 その時2人の頭に容赦の無い鉄拳制裁が降りた。

 

「あんたら、いい加減にしなさああああああい‼︎」

 

 艦長席の前で正座をさせられている2人は頭を抱えてうずくまっている。

 

「あ、頭が、割れる……」

「普段からあれだけ問題を起こさないよう言ってるのに、下らない喧嘩でASTに見つかり街を壊したですって? 少し罰を与えないと理解出来ないのかしら?」

「いや、罰はもう充分……」

「なに? 文句でもあるの?」

「いえ、何も……」

 

 2人には反論の余地すら与えられていない。この後2人は2時間正座をさせられ、仲良く歩いて家まで帰らされた。

 

 

 

 

「それは大変だったな」

 

 2人の愚痴を聞かされていた士道は苦笑する。2人揃ってこういう所だけ一緒になって話して来るのだから、元々相性は良いのかもしれない。

 

「お前は大丈夫なのか?」

 

 今日、士道が何を見たのかを聞いた2人は士道の身を案じてそう聞くが、士道はそれに決意の込められた眼差しで答える。

 

「ああ、俺は決めた。狂三が何と言おうと俺はあいつを救う。そして真那にももう狂三を殺させない」

「……やるのね」

 

 リアの視線に士道は頷く。

 

「それと、真那の事なんだけど……」

 

 リアは申し訳なさそうに士道の方を見る。士道も状況は聞かされていたのだろう、リアの方を見て苦笑した。

 

「まあ、色々あったんだと思うけど、謝るなら本人に言ってやってくれ」

「……そうね、色々迷惑掛けたし。それじゃ、私はお風呂に入ってくるから」

 

 そう言ってリアはリビングを出て行った。

 残された2人は今後の事について話し合う。

 

「狂三はまた姿を現わすか?」

「あいつの狙いは俺だ。必ずまたやって来る。……でも、何でソーがそんな事聞くんだ?」

 

 士道には狂三がステラの失踪に関係しているかもしれないという事は話していない。疑問に思うのも最もだろう。だがソーが狂三の警戒に当たる理由はこれだけでは無い。

 

「今日の罰としてお前の護衛みたいなものをやらされることに」

「それは……何というか、悪いな」

「いや、別に構わん。むしろ丁度いい。ステラの手掛かりが見つかるかもしれんしな」

 

 その言葉に士道はピクリと反応した。

 

「狂三が、ステラと関わっているのか?」

 

 ソーはこれまでの経緯を全て士道に話した。リアが学校で狂三からステラの気配を感じ取ったこと。次の日にはそれが無くなっていたことなど。

 

「あくまで可能性の話だ。もしかしたら違っているかもしれん」

「それでもその可能性があるのなら、狂三を止めなきゃいけない」

「明後日から俺は学校の周囲で警戒に当たる。何かあったらすぐに駆け付けられるようにな」

「俺はもう一度、狂三と接触してみるよ」

「頼む」

 

 最悪の精霊は間もなく動き出す。これ以上狂三に人を殺させないためにも、士道は諦めない。戦いの準備は、着々と進められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、公園での惨劇があった日から最初の登校日。

 

「シドー、大丈夫か? 顔色が良く無いのではないか?」

 

 隣を歩く十香が心配そうに士道の顔を覗き込んでくる。考えすぎて彼女を不安にさせてしまったようだ。

 

「悪いな。大丈夫だ」

 

 この間も十香を不安にさせてしまったようだし、今度埋め合わせをしないとな、とそんな事を思いながら2人並んで学校への道を歩く。

 

 あの惨劇は自分にとって中々堪えるものがあった。狂三は、自分なんかが簡単に救うなんて言っていい相手じゃないのだと、そう感じて諦めかけたこともあった。

 でも、ここで諦めたら狂三はこれからもまた人を殺し続ける。そして狂三が人を殺せば、今度は真那が狂三を殺しに来る。連鎖は止まらない。これを終わらせるには、狂三を救うしかないのだ。では一体誰が彼女を救えるというのか。

 

「待ってろよ、狂三。お前が何と言おうと、俺はお前を救って見せる」

 

 

 

 学校に到着し、教室に入ると狂三はすでに席に着いていた。先日あのような事があったばかりだというのに、いつもと変わらず平然とした様子で前を向いている。

 

「おはようございます士道さん。先日はとても楽しかったですわ」

「おはよう狂三。楽しんでもらえたようで何よりだ」

 

 士道はこちらも平気な様子を相手に伝える。

 

「でも、正直驚きましたわ。今日は学校をお休みになるのかと」

「生憎、タフさに関してはここ最近でかなり鍛えられているものでね。……狂三、俺は決めたからな」

「?」

「俺は、お前を救って見せる。お前が何をしようと、誰が邪魔をしようともな」

「へえ、そうですの」

 

 瞬間、今まで柔らかい微笑を浮かべていた狂三の表情が凍り付く。

 

「そんな取って付けたような甘い考えがわたくしに通じるとでも思いまして?」

「言っただろ、何があろうともお前を救うと」

「ふっ、分かりましたわ。でしたら士道さん、今日の放課後、屋上に来て下さいまし」

 

 狂三は冷ややかな笑みを浮かべて言う。そこまで言うならやってみろと彼を試すかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カツンカツンと、コンクリートの地面に靴底の当たる音が響く。来禅高校の屋上には、今の時間は授業を受けている筈の人物の姿があった。

 

「さあ、甘っちょろい考えで動く愚かな方に、絶望という物を見せて差し上げようではありませんの」

 

 狂三は凄絶な笑みを浮かべて片足を屋上にカツンと叩き付ける。

 

 ゆっくりと、その足を中心に、不気味な影が広がっていった。まるでこの学校の校舎を、1つの孤立した空間として、切り取っていくかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャリと玄関の扉を開けて外に出る。外は今日もいい天気、最近は暑くなってきたように感じる。夏が徐々に本格化しているのだろう。

 

『今日もあっついねー』

「だが景色はいいだろう」

「はい…………」

 

 ソーはストームブレイカーを玄関の壁に立て掛けると見送りをしてくれている四糸乃とよしのんの方を向いた。

 

「よし、では行ってくる」

「行ってらっしゃい、です」

『気を付けてねー』

 

 可愛らしく手を振る四糸乃に見送られて、彼は学校へと向かった。

 

 今日は午前から学校での張り込みをしている。少し異変を感じたのが午前9時過ぎのこと。一応こちらで観察しては情報をリアと交換している。異変は感じたものの、特に目立った変化は無いため、動き出すことは出来ずにいる。

 

 

 

 

 

 

(結局、今日も何も無いままなのかしら……)

 

 ボンヤリと午後の授業を聞きながら外の風景を眺める。9時過ぎに少し異変があったとソーから連絡があった。でも狂三は隣の教室で授業を受けていた筈。そこにいる狂三が何かしようものなら周囲にいる士道や十香、折紙が気づく筈だ。

 授業にはほとんど集中出来ないまま、午後の授業はどんどん終わりへと向かっていく。

 

 本日最後の授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、生徒達は帰る支度を始めるか、或いは部活へと向かう準備を始める。

 

 士道はインカムを耳に装着すると、深呼吸をしてこれからの行動をイメージしていた。

 

『大丈夫かい、シン』

「はい」

 

 インカムから令音の声が聞こえてくる。〈フラクシナス〉ではこれから行う狂三攻略の準備が完了しているのだろう。

 

 16時半、士道は約束通り、屋上へと向かって歩き出した。

 

『充分に気をつけたまえ』

「分かってます」

 

 廊下を歩き、屋上へと続く階段の前に到着。そのまま階段に足を掛けようとして、士道は異変に気付いた。

 

「なっ⁉︎……これは」

『シン! 大丈夫かい?』

「はい……何とか」

 

 周囲が少し暗くなったかと思うと、空気が意思を持っているかのように身に纏わりつき、動きづらくなる。周囲を見渡して見れば、生徒達が意識を失ってばたばたと倒れていた。

 

「おい! 大丈夫か!」

 

 声を掛けて見るも反応はない。

 

「でも何で俺は……」

『シン、君の体には十香や四糸乃の力。精霊の力が封印されている。恐らくこれは狂三の仕業だろう。精霊の攻撃に対して君はある程度の耐性があると思えばいいだろう』

「霊力……十香!」

 

 士道は今通って来た道を戻ると、教室に駆け込んだ。

 

「ぬ……シドー?」

 

 そこには頭を抑え、怠そうにしている十香がいた。

 

「十香! 無事か?」

「ああ、だが、何だか頭が痛いのだ」

「待ってろ、すぐに助けてやるからな」

「シドー?」

 

 士道は教室を飛び出すと屋上へと全力で向かう。

 屋上の扉は鍵が壊され、簡単に開けることが出来た。その扉を開けると、外の景色が目に飛び込んで来る。そしてその中心には、目的の人物が立っていた。

 

「ようこそ、歓迎いたしますわ。──士道さん」

 

 狂三は華麗な挨拶をして見せると、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、士道」

 

 校舎の中では折紙が緊急装着用デバイスを使用。その際の頭痛がまだ残っているが、今は休んでいる暇はない。

 この学校を中心に広域結界が張られた。恐らくは時崎狂三の仕業だろうと判断した折紙はレイザーブレード〈ノーペイン〉を握りしめると反応のある屋上へと向かって歩き始めた。

 

 だがその前に影が広がり、狂三が姿を現わす。

 

「精霊と遭遇。交戦を開始する」

『待ちなさい! 折紙!』

 

 折紙は隊長の言葉を無視して狂三に斬りかかった。

 

 

 

 

 

「シドー、シドー! 何処にいるのだ!」

 

 教室に取り残された十香は士道を追って校舎を彷徨う。シドーはすぐに助けてやると言って何処かへ行ってしまった。彼の助けになりたい、そう強く願った直後、十香は力がみなぎってくるのを感じた。自分の姿を見れば、四糸乃の時と同じ限定的に力を扱えるあの姿になっている。

 

「シドー、今行くからな」

 

 だがその前には黒い影が。その中から現れたのは狂三。その狂三は嘲るような笑みを浮かべながら十香の方に近づいて来る。

 

「狂三、なぜこのようなことをする」

「これは『わたくし』の悲願のため、仕方のない犠牲ですわ」

「どけ、狂三。私はシドーの所へ向かわねばならん」

「わたくしの相手にはなってくれませんの?」

 

 狂三が十香に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 また同じくして、教室にいたリアも異変を感じ取っていた。殆どの生徒はまだ学校に残っている。リアの教室にも放課後のお喋りを楽しんでいる生徒達がたくさん残っていた。

 だがその時、突如周囲が黒い影に覆われたかと思うと、生徒達が倒れ始めた。

 

「何がどうなってるの?」

 

 倒れた生徒達の容体を確認するも、全員気を失っているだけのようだ。その時、リアの携帯が振動する。恐らくソーだろう。

 

「もしもし」

『校舎全体を影のようなものが覆っている。これは何だ?』

「狂三の仕業ね。士道はさっき屋上へ向かったわ。先に行って援護してちょうだい。まずはこの生徒達を安全な場所へ移動させないと」

『分かった。俺は先に屋上へ向かう』

「ええ、よろしく」

 

 リアは電話を切ると床に転がる生徒達を見て溜め息を吐いた。

 

「はあ、少し大変だけどやるしか無いわよね」

 

 そしてパンと手を叩くと床を変形させ、生徒達をまとめて移動させ始めた。

 

 

 

 

 

 校舎では立ちはだかる者を倒し、屋上へと向かう者。倒れた者を避難させようと1人で行動する者。校門では影に包まれた校内へとゆっくり足を踏み入れる者。

 そして屋上で対峙するこの事件の当事者2人。最悪の精霊と、精霊を救うことを決意した男が立ち向かい、己の目的のために動き始めようとしていた。


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