GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
彼女がそれを感じ取ったのは学校内を回り、屋上へと向かおうとした時だった。
ソーから連絡を受けたリアはなるべく早く学校へと戻り、念の為校舎内に残っている人が居ないかをもう一度確認して屋上へと向かおうとしていた。
一通り校舎内を見て回ったが残っている人は誰も居なかったため、そのままソーがいるであろう屋上へと足を向けた時だった。
「これはっ!」
再び感じたのである。彼女の、ステラの気配を。
それは以前とは比べ物にならない程はっきりとしたものだった。今この状況でステラの気配が現れたとなれば考えられるのは屋上にいる者のみ。
公民館に運んだ者を考えていけば今屋上にいるのは士道と十香、折紙、ソー、そして狂三である。この中で誰が一番怪しいかと言われれば、それは当然……。
「へえ、そう。やっぱりそうだったのね」
この時、彼女の身に纏う空気が一変した。周囲に真っ赤なオーラが溢れ出し、廊下のガラスにヒビが入る。彼女はそのまま屋上への階段に足を掛け、ゆっくりとその段を上って行った。
屋上に凍り付いた空気が流れる。
狂三も、狂三達も、たった1人のその強大すぎる力の前に呆然と立ち尽くしていた。
そこへ先程下に落ちて行ったソーが戻って来る。狂三の攻撃を食らった際に怪我をしたようで額からは血が流れている。
「やっと来たか。随分と遅かったな。…………おい、聞いてるか?」
話しかけても返事が無いので変に思ったソーはリアの顔を覗き見る。
「あいつよ。やっぱりそうだった。あいつがステラを……」
「ほう、ということは……」
「「骨も残さず殺す」」
「っ!」
2人が口を揃えてそう言い、2人分の殺気を向けられた狂三は少し後ろに下がった。
「わたくしたちっ!」
その言葉と共に狂三達がリアを囲い、襲いかかる。そして狂三は士道を連れてその場から離れようと試みるがその前にソーが立ちはだかる。
「行かせると思うか?」
「くっ……この様な所で……」
「やめろ! 2人共、待ってくれ!」
士道は2人を何とか止めようとするが2人の耳には届いていない。
「鬱陶しい羽虫が沢山いるわね……目障りよ。消え去りなさい」
リアの手にかかればこの星の全てが凶器と化す。近くの山も、周囲の建物も、全てが凶器になる。
リアは山の木々を闇に還すと、それらを狂三達に向かって放つ。漆黒の槍が狂三達を一斉に貫き、無へと還していく。
狂三達も彼女に攻撃を仕掛けてはいるが彼女のエネルギーバリアの前に全てが無効化されている。
最早それは一方的な蹂躙であった。
そして本体は……。
「あなたではわたくしに勝てませんわよ」
「だろうな。だが、それも時間の問題だろう?」
「くっ……」
狂三はその力でソーを相手に優位に戦ってはいたが、リアに圧倒的な力を見せつけられ正直追い詰められていた。
士道は未だに別の狂三に拘束されており動けない。
「それに、わざわざお前を倒す必要はない」
ソーは空高く飛び上がると雷雲を発生させ、斧にその力を込めていく。そしてそれを狂三に向かって投げつけた。
狂三は当然それを避けるが彼の目的はその後ろ。雷撃と共にストームブレイカーが〈
「しまっ……」
狂三が後ろに気を取られた隙にその体に蹴りを入れる。
「うっ……ケホッ、ケホッ……」
体勢を崩した狂三はすぐに立ち上がろうと顔を上げるが、そこには狂三達の残骸を持ち、身体中血塗れのリアの姿が。
「ひっ……」
「さて、手加減は無しでいいわよね……」
背後では士道が残った狂三達の拘束を逃れようと必死にもがいていた。
屋上に轟音が響き渡り、そして静寂が訪れる。来禅高校の屋上はもう元の形を留めていない。その瓦礫の上には全身血塗れで、ある一点を見る少女、そして瓦礫の中には霊装が破け、身体中から血を流して倒れる少女の姿があった。
「さてと、そろそろかしら」
「うぐっ……うあああああっ」
強制的に体を持ち上げられた狂三は身体中の傷が開き、苦痛の叫びを上げる。
「さあ、早く返しなさい。でないと、もっと苦しむ事になるわよ。まあ、最後はどうせ死ぬんだけどね」
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
リアが手をかざしただけで狂三の指が有り得ない方向へと曲がっていく。
「……かはっ……わた、くしは……」
「何? まだ何か? 次は腕がいいかしら?」
そうしてリアが今度は狂三の腕を曲げようとした時だった。士道が狂三を庇うように、リアの前に立ちはだかった。
「ちょっと、邪魔しないでくれる?」
「もうやめてくれ! これ以上、狂三を傷つけないでくれ!」
「し、どう……さん……」
士道の顔は、苦痛で歪んでいた。痛みを受けていたのは、決して狂三だけでは無かった。
「どきなさい。今その女を……」
「狂三は、優しい子なんだ! たしかに、こいつはステラを攫った。お前が怒るのもよく分かる。俺だって琴里を攫われたりしたら、物凄く怒ると思う。でも、こいつも何か目的があって行動してる筈なんだ! それこそ、自分1人だけになろうとも成し遂げようとする何かが。その為にこいつのしてきた行動が、決して許されるものではないとは思う。でも、それ以前に、狂三だって1人の女の子なんだ! ついつい子猫に目を奪われて遊んでしまうくらいに、狂三も可愛い女の子なんだ!」
「…………ぷっ、何よそれ。この悪魔にそんな心が?」
「今の状況を見ると一番の悪魔はお前だぞ」
そこへ十香と折紙、真那の3人を担いだソーが戻って来る。彼は最初はリアと共に狂三を討伐する気満々であったが、途中からリアの攻撃が激しすぎて倒れている者達が巻き込まれかけている事に気付き、彼女達を避難させることに専念していた。
「何よ。あんたもそっち側って訳?」
「こっちはこっちで忙しかったんだぞ。誰かさんが周りを見ずに攻撃しまくったせいでな」
「私が悪いっていうの⁉︎」
狂三を放ったらかしにして喧嘩を始めた2人。その隙に士道は狂三に駆け寄る。
「狂三、頼む。ステラを解放してくれ」
「く、う……」
狂三は士道に抱えられながら、表情のない顔である一点を指差した。そこには僅かな影が広がり、青白い光が漏れ出している。
それに気付いたソーがその場所に駆け寄り、広がる影に手を突っ込む。すると、徐々に青白い光を放つステラの姿が見え始めた。
「ぐぁっ!」
今のステラの体には常時エネルギーバリアが展開されている。それに触れたソーは手に焼け付くような痛みを感じるが、それでも彼女を離すようなことはしない。
「リア、この通りだ。頼む、狂三を見逃してやってくれ」
士道はリアに向かって頭を下げる。
「…………ふんっ、好きにしなさい」
リアは拳を握りしめていたが、ソーの腕に抱えられているステラを見て、吐き捨てるようにそう言った。
「ありがとう」
こうして、屋上での戦いは幕を閉じた。来禅高校の校舎が全壊するという被害はあったものの、狂三は助かり、ステラも無事戻って来た。
ステラを抱えていたソーはいつの間にか腕の焼け付くような痛みが引いていることに気付いた。不思議に思って下を見ると、こちらを見るステラとバッチリ目が合ってしまった。
「……へへっ」
「久しぶりだな」
笑みを零すステラにソーも笑顔で応える。
「ありがとう」
「気にするな。まあ確かに、行方不明になってから見つけるまで相当苦労したがその辺は……」
だがソーの言葉は最後まで紡がれることは無かった。
彼の口は、首に腕を回して来たステラの唇によって塞がれていた。
「せいぜい士道に感謝する事ね」
「すまないリア」
リアは傷だらけになった狂三の身体を元通り綺麗に治すと瓦礫の上へと歩いて行く。
狂三の怪我を治したのは士道の想いが余りにも強かったからだ。決してこの後琴里に怒られるのが嫌だからとかそういう訳ではない。
「士道さん」
「狂三、お前は1人じゃない。お前が何を望んでいるのかは分からない。でも、俺に協力できることがあるのなら、言って欲しい」
狂三は怪我は元通りになったが、使った力は戻って来る訳ではない。しばらくは疲労で動かないだろう。
狂三は士道に身体を預けながら口を開く。
「本当に、バカな人ですわね。こんなわたくしを、身体を張ってまで守ろうとして」
「悪いかよ」
「でも、まだわたくしの力を差し上げる訳にはいきませんわ。だから今日のお礼は……」
「なっ⁉︎」
狂三は瞳を閉じると、そっと士道の頰に唇を乗せた。しばらくして顔を離すとニッコリと笑みを浮かべる。士道はそんな狂三の顔を直視するのが恥ずかしくて、頰をかいて苦笑するのだった。
そんな様子を瓦礫の上から見ていたリア。今、彼女の不機嫌度は急激に上昇中であった。
「何よ、どいつもこいつもイチャイチャして。私への当て付けのつもりかしら。全員爆発しちゃえばいいのに」
イライラが収まらずその辺に落ちている瓦礫を次々と蹴りで破壊していく。そしてそれにも飽きてしまい、今度は道端に生えている花に向かって愚痴を吐き続けるのだった。
翌日、あれだけ校舎を派手に破壊したため学校は休みとなった。久し振りの平穏な時間である。
「って事は、今度からは実験の回数についてもちゃんと考えて行かないといけないということよね」
「なんかごめんね」
ステラが話したのは力の暴走。
「やっぱり慣れない事を連続でやるのはマズかったみたい」
異次元との接続を短時間の間に連続して何度も行った為に肥大化したエネルギーを制御出来なくなったようである。
「今の状態だと1日に5回が限界かな。あ、でもちゃんと訓練すればもっと沢山出来るようにはなるよ」
「今は無理せずにやっていきましょう。第一、あと4人見つけないと帰り道が分かったところで帰れないのだし」
「それもそうだね」
「ここで俺の出番か」
椅子に座っていたソーが会話に割り込んでくる。
「あんた、まだ南の方は探していないって言ってたわよね」
「ああ」
ソーがこれまで探して来たのは中国地方まで。そこから南はまだ足を踏み入れていない地域である。
「あと2週間でこの島は終わりそうだな」
そう言って指さすのは九州地方。
「一体どんな速さで歩いてるのよ」
「歩いてはいないぞ。たまに農家の手伝いをしてる事はあるが……」
「本当にちゃんと探してるの?」
「今更疑うのか? 安心しろ。ちゃんとこいつを見ながら飛んでるからな。いるならすぐに分かる」
そう言って〈ラタトスク〉が用意した特殊センサーを手の上で転がすソー。
「まあまあ、ソーは頑張ってるんだし、私たちも頑張らないと」
「……そうね。ああそう、それで、来月私たちは修学旅行があるらしいのよ。行き先は沖縄みたいだし、そこに着いてくれば丁度南の方も見れるんじゃないかと思ってね」
「そういう事なら勝手に着いていこう」
そう言うと地図を開いて場所を確認し始める。
ここは〈フラクシナス〉の病室の一室。狂三の一件の後、念の為検査を受けたステラだが特に異常は認められなかった。だがもう少し休んでおきなさいという琴里の一言によってこうしてベッドの上で大人しくしているという訳である。
「修学旅行かぁ、楽しみだなあ」
「あんたはその前に勉強を何とかしないといけないでしょ」
「うっ……思い出したく無かった」
「もうすぐ期末試験もあるんだし、ちゃんと勉強しなさいよ」
「はあ、楽しみまではまだまだ遠いなあ」
修学旅行があるのは期末試験が終わった後。夏休みに入る前である。ここまで勉強で一ヶ月近くの遅れを取っているステラにとっては今度の試験は地獄だろう。
「琴里とこれからの予定を相談してくるわ」
リアは艦橋へと向かうため席を立つ。
「俺も行くか?」
「あんたが来てどうするのよ。今はここにいなさい」
「そうか」
リアは出ていき、病室にはソーとステラの2人が残される。なんとも気まずい空気だ。それもこれも、昨日突然ステラがソーにキスをしたのが原因なのだが。
「……その、昨日はごめんね。突然あんなことしちゃって」
「あー、別に気にするな」
そうして再び沈黙が流れる。
「なあ、ステラ。今度、一緒に出掛けないか?」
「え?」
「あー、いや、お前が以前言っていただろう。ファミレスに入ってみたいと。気分転換にでもどうかと思ってな」
ソーは少し恥ずかしそうに話す。これにステラは満面の笑みを浮かべた。
「行く!」
それからステラは学校生活に復帰した。一ヶ月も休んでいたため初日は周りの生徒に注目されていたが、皆彼女を快く迎え入れてくれた。遅れた分の勉強に関しては先生やリアが協力してくれたため、徐々に遅れを取り戻しつつある。
7月に入れば期末試験、そしてそれが終わればいよいよ修学旅行である。高校生活での一大イベント。楽しまなくては損であると皆心を弾ませている。それはステラ達も例外ではない。リアに至っては既に行き先の下調べを始めている程である。
そこへ新たな影が忍び寄っている事に、彼女達はまだ気付かない。
「失礼します」
ガチャリと扉が開かれ、月光の差し込む薄暗い部屋に1人の女が入ってくる。
「やあ、エレン」
それに応えるのはDEM社業務執行取締役、アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット。DEM社の実質的なトップである。
「〈プリンセス〉の件について、いかがいたしましょう」
女の言葉に、ウェストコットは、ふっと笑みを浮かべた。見たものが皆凍り付くような、静かな笑みを。
「〈プリンセス〉に関しては予定通り、計画を実行してもらおう。もちろん、君にも参加してもらうつもりさ。最近精霊と接触していなくて、腕が鈍っているんじゃないのかい?」
「ふっ、どのような状況であれ、私が最強であることを知らしめて見せましょう」
「期待しているよ。──所でエレン、最近気になることがあるんだが」
エレンと呼ばれた女は怪訝そうな表情を浮かべる。
「精霊をも凌ぐ、とてつもない力を持つ者は、存在すると思うかい?」
その事を話すウェストコットの表情に、エレンは久し振りに何かが起こる事を密かに感じ取るのであった。