GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
「終わったぁぁ」
異様に長く感じたテストが全て終わり、ステラは大きく伸びをして机に向かって突っ伏した。
1ヶ月の遅れを取りながらも何とか試験に間に合わせたこの数週間、家でも鬼のような家庭教師もとい姉のリアに扱かれて勉強をし続けていた。そのお陰か、今回の試験は手応えがかなりあったように思う。
周りの生徒達も試験の出来や答え合わせなどを始め、一部では既に修学旅行ムードになっている。ざわざわと騒がしいテスト終わりの教室に担任の先生が入って来た。そう言えばテスト終わりに修学旅行の部屋割りなどを決めるとか言っていたような、言っていなかったような。
そうして担任の先生が話し始めたのだが、ここで1つ問題が。
「修学旅行の行き先が変わった?」
突然の行き先変更に教室には戸惑いの声が広がる。予定では沖縄に行く筈だったのだが、それが或美島という伊豆の方の島に変更になったらしい。ステラとしては楽しい思い出が作れれば行き先は何処でもいいのだが。だが隣のリアはどうやら納得いっていないようだった。
「このタイミングで行き先が変更?」
「リア、どうかしたの?」
不思議に思ったステラが声をかける。
「なんか気になるわね。急な行き先変更の上に旅行会社が費用を全額負担、元の行き先の旅館が泊まれなくなったらしいけど、だからって行き先まで変えるかしら」
「うーん、たしかに言われてみればおかしい気も……」
ざわざわとしていた教室も担任の制止によって静かになる。それからリアは納得していなかったものの、そのままみんなと部屋決めなどに参加していた。
ざく、ざく、ざく。
土を掘る音が山の中に響く。音の根源は畑にある4つの影である。
「こんな所まで来て手伝ってもらって、すまんのう」
「ははは、気にするな。こっちもいい気分転換だ」
「疲れたろう、今お茶を淹れてくるさ」
「なぜわたくしまでこのようなことを……」
分担して残った地域の捜索を終えた2人は合流した後、たまたま見つけた老人の畑を手伝っていた。
「この作業を色々な所でやっているうちに気が付いたんだが、畑で汗を流した後に飲む茶は物凄くうまいな」
「知りませんわ、そんなこと」
「お前もその内分かる。あれはそこら辺の酒よりうまいぞ」
「生憎ですが、わたくしはお酒は飲みませんので」
「つまらん奴だな」
その時、鞄の中にある携帯が音を立てる。
「誰だ?」
『あ、繋がったわね。今いいかしら?』
どうやら電話をかけてきたのは琴里のようである。
「ああ、一応捜索は終わった。結局見つからなかったが」
『そう……。実は士道達の修学旅行について問題が出てて、同行して欲しいのだけれど。取り敢えず戻って来られるかしら?』
「ああ、問題ない。狂三も一緒だがな」
『何ですって⁉︎』
琴里が叫んだことで耳がキーンと痛くなる。
「声が大きい! 事実だ、今隣にいるぞ」
『コホン、悪かったわね。ちょっと変わって貰える?』
「ああ」
ソーは狂三の方を向くとクスクスと笑みを浮かべている彼女に電話を渡す。
「何がおかしい」
「いえ、随分と仲がよろしいのですね」
「仲がいいもんか、何かあればすぐ怒られるからな」
『聞こえてるわよ』
「げっ……」
「ほら、やっぱり仲がいいではありませんの」
『狂三、あなた今まで何してたの』
「わたくしは自分の目的のために行動していただけですわ。ですから、あなた達のお世話になる必要はなくてよ?」
『そう、こっちとしてはあなたを野放しにしておくことは出来ないけれど、縛るつもりもないしね。余程の事をやらかさない限りは自由にしててちょうだい』
「うふふ、それはどうも」
狂三はそう言って電話を切ると、ソーに端末を返してくる。
「さて、俺は帰らないといけないが、お前はどうする?」
「わたくしはまだやらなければいけない事があるので、こちらで勝手に行動させて貰いますわ」
「そうか、それじゃあ俺はもう行くぞ。ここの爺さんによろしく言っておいてくれ。ああ、それと、今回は助かった。礼を言う」
ソーはストームブレイカーを掴むと空へと飛び立って行った。
「本当に、仲のいい彼らは羨ましいですわ」
「おおい! そこで何してるんだぁ?」
家に入っていったこの畑の持ち主の声が聞こえてくる。
「はあ、何だか押し付けられたような気もしますけど、流石に放って行くわけにはいきませんものね……」
狂三はため息をつきながらも老人の元へと戻って行くのだった。
「それで、俺はどうすればいい?」
九州での捜索を終え、〈フラクシナス〉へと戻って来たソーは艦橋で琴里とこの先の予定を決めていた。
「取り敢えず士道達にはそのまま修学旅行に行ってもらうことになってるわ。一応令音も付いていくしね」
「問題というのは?」
「急に行き先が変更になったこと。それも、DEMの傘下組織の旅行会社の仕業でね」
「DEM?」
琴里はタッチパネルを操作するとモニターに情報を表示していく。
「一応あなたにも相手の情報を伝えておくわ。理解できるかどうかはさて置いてね」
「馬鹿にしてるのか?」
「さあ、どうでしょうね。まあいいわ、デウス・エクス・マキナ・インダストリー。表は〈
「つまり、そいつらには何かがあるということか」
「ええ。あそこには世界最強と謳われる
「そいつも強いのか?」
「いえ、彼はただの人間の筈。物理的に強いということは無いわ。ただし、その頭の中はとても恐ろしいものよ。目的の為なら手段を問わない。そういう点では人間じゃないと思った方がいいわね」
「ふん、そうか」
ソーは手頃な椅子に腰掛けると一息つく。
「そんなDEMがついに精霊に接触をして来た。目的が何かは分からないけれど、絶対にロクなことじゃないわ。そこであなたに警戒に当たって貰いたいの。ステラ達を狙われても困るしね」
「……いいだろう。ついでにそっちの方の捜索もしたいしな」
「助かるわ。……それにしても、あなたの方は全然見つからないわね。もう大分広い範囲で探したんじゃないの?」
琴里の問いにソーは手を組んで頭を乗せる。琴里には彼が少し疲れているようにも見えた。
「そうだな……、この国の範囲で言えば大分探しただろうな。だがまるで音沙汰なしだ。だから今度の修学旅行とやらには少し期待したいのだがな」
「困ったものね。私たちも出来るだけ協力したいのだけれど」
琴里も釣られて暗い表情になる。
「まあ、今は嘆いても仕方がない。まだ帰り道も見つかって無いんだ。地道に探すしかない」
ソーはパンと手を叩くと椅子から立ち上がって歩き出す。
「お前たちも、敵が近づいているのなら気を付けろよ」
彼はそう言って艦橋を出て行った。
「えへへー、修学旅行だ」
学校からの帰り道をステラが浮かれた表情で歩いている。そんな彼女の様子を見たリアは不注意でステラが何かやらかさないか常に不安であった。
「テストが終わって嬉しいのは分かるけど、そんなに浮かれてると今に事故にでも遭うわよ」
「ちょっと、そんなこと言うと本当に何か起こりそうじゃない」
「不安だわ」
こういうふとした時に感じた不安というのはよく現実になるものである。長い間生きてきたリアはその感覚というのがよく分かる。間違いない。これは何かが起こる前兆である。これまでロクな目にしか遭っていない彼女はこの先の修学旅行が余計に不安になるのであった。
「ただいまー」
家に帰ると玄関には既に士道のものと思しき靴があった。どうやら先に帰って来ていたようだ。隣に女物の靴もあるので十香もいるのだろう。
リビングに入ると2人の姿が見えた。
「おう、お帰り」
「お帰りなのだ!」
士道はソファでテレビを見ており、十香はいつものようにおやつを手に取って食べていた。
「十香も部屋割りは決めたのよね」
リアが今日あった修学旅行での様々なグループ決めについて十香に話を振る。すると何故か十香は少し不機嫌な顔になった。
「聞いてくれ。私はシドーと同じ部屋になりたかったのだが、鳶一折紙が邪魔をするのだ」
「一緒な部屋?」
ステラがその言葉を受けて士道の方を見ると彼は苦笑いである。
「そうだ! だから私が男になってシドーと同じ部屋に行こうとしたら鳶一折紙がシドーを女にしてしまったのだ!」
「は?」
いまいち話についていけないステラとリア。
「シドーが女になってしまっては私がシドーと同じ部屋になれないではないか! 最後にはタマちゃん先生まで……おのれ鳶一折紙」
「というか普通男子と女子は同じ部屋にはなれないんじゃないの?」
「大変だったんだね」
「ま、まあ、色々とな。部屋を同じにするのは無理だから、自由時間に一緒に遊ぶということで何とか納得してもらった」
士道の顔に疲労が見えるあたり、相当揉めたのであろう。移動の際の席決めなどで揉めるのはどの学校でもよくある事だろうし、今回もそうなのであろう。内容が少しあれではあるが。
「さて、私たちも準備しないとね」
「そうね、前日になって慌てるのも嫌だし、今日中には終わらせて置こうかしら」
2人は修学旅行の準備をしに部屋へ。士道は夕飯の食材を買いに商店街へと十香と共に出かけて行った。
そして修学旅行当日。
〈フラクシナス〉はDEMを警戒し、士道たちを守るために或美島の近海へと向かう予定だった。
琴里は学校へ行かないといけないため、同行することは出来ない。令音が士道たちと共に島へと降り立つが、司令が居ないということはその間のトップはというと……。
「さあ、司令! 士道君のことは私に任せて、ぜひ学校生活の方を楽しんできてくださいませ」
片膝をついて大仰に語る神無月を見て琴里は肩を落とす。
「あなたのせいで楽しむものも楽しめないのよ」
「私の心配をして下さるとは、やはり司令! 私はどこまでもあなたに付いていきます! ですからその綺麗な脚で私のことを……」
「うるさい!」
「フガッ! ……ありがとうございます」
ペラペラと喋り出した神無月の指を折ると、彼は歓喜の表情で崩れ落ちて行った。
「まったく……」
「司令、彼の方はいかがでしょうか」
クルーからの声で琴里は思い出したように携帯を取り出した。
「そうね、一応連絡を取ろうと思っていたのよ」
数コールの後、彼は電話に出た。もう着いているのだろうか。カモメの声が聞こえる。
「もしもし、私だけど」
『おい琴里、士道の修学旅行はこんな所でやるのか?』
どうやらこちらも問題発生のようである。
「どういうこと? 普通の観光地よ。空港もあるし、ホテルだってあるはずだけど」
一方でソーはよく分からない島の上に立っていた。
「ホテル? そんなものがどこにある。あるのは海と岩と草だけだぞ」
『ちょっと、あなた行く島を間違えてるじゃない! もう2つ前の島よ。もう、地図も読めないほど馬鹿だったの⁉︎ それでよく今日までやって来れたわね』
「なんだと?」
『はいはい、もう分かったから2つ前の島よ。ちゃんと戻りなさいよ!』
「分かった分かった。戻ればいいんだろう」
苛立たしげに電話を切るソー。元はといえば彼が島を間違えたのが原因なので琴里に当たるのも見当違いなのだが。
ストームブレイカーをその辺の木に立てかけ、島の上を歩いていく。上から見た限りではそこそこの広さがあった。海岸は全て崖になっており、島の上は草原で所々に木が生えている。どうやらこの島に人は住んでいないようである。
空は快晴、崖の上からは周辺の海を一望でき、最高の景色を目にすることが出来る。今日は修学旅行としては最高の日であろう。試しに草原の上に寝っ転がって見れば、頰を撫でるそよ風がとても気持ち良い。
「ふあぁー……」
そんな最高の環境の中でしばらく寝っ転がっていると、だんだんと体が暖かくなり、瞼が自然と閉じ始めた。
そのまま深い眠りにつこうとし──突然何かが太陽を遮った。
「んあ?」
少し目を開けると先程まで眩しく輝いていた太陽の姿は既にない。慌てて起き上がってみると、その景色が一変していた。
先程まで快晴だった空は分厚い雲に覆われ、海は静かに音を立てている。まるで嵐の前の静けさのような、不気味な空気である。
「これは琴里の言っていた敵の仕業か?」
ソーは立ち上がって崖の方へと歩いて行くと、そこから遠くの海を見る。目を凝らして海の方を観察していると突如強い風が吹き始めた。それも日常の強風とは異なり、少しでも気を抜けば自分が飛ばされそうなくらい強い風である。
「ぐっ」
彼は腕で顔を覆って飛んでくる砂や枝から顔を守る。別に枝が当たった所で大した怪我にはならないが砂が目に入るととても痛い。そうやって風をこらえながら島の外周を回っていると急に何かが上空に現れた。見えた影は2つ。何やら空中で何度も衝突しているようである。
そして何度目かの衝突の後、その影のうちの1つが地面の方へと落下して来た。その後を追うようにもう1つの影も島へと降下し、ソーを挟むようにして反対側に降り立つ。
「なんだコレは……」
徐々に風が弱まり、砂埃が地面に落ちて行く。そしてその中からついに2つの影がその姿を現わした。
「哬哬っ、この我を地面に落とすとは、中々にやるではないか」
「挑発、耶倶矢が弱いだけです」
「なんだとぉ⁉︎」
何か、変な奴らが落ちて来た。