GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第25話 中二病と生意気

 大きく吹き荒れていた風は2人が降り立つと同時に収まって行く。だが周囲は草木が大きく揺れている所を見ると、風が収まっているのはここだけのようだ。

 

「なんだ此奴は。我ら颶風の巫女たる八舞の神聖たる決闘に横槍を入れるつもりか?」

「懐疑。このような島に人間がいるとは思えません。あなたは一体何者ですか」

「一番聞きたいのはこっちなんだがな」

 

 2人の間に挟まれるようにして立っているソーは突如現れた2人に警戒の視線を向ける。どう見てもこの2人は普通ではない。今までこの島には彼1人しか居なかったはずだ。いつの間にここへやって来たと言うのか。そして2人の格好。ベルトのようなものを身に纏い、手や首には拘束具が見られる。肌のほとんどを露出しており、どう見ても怪しい。

 

「我らを前にして物怖じせぬか。肝が座っているのか、はたまた我の力の前に思考も出来ぬほど緊張しているのか」

 

 ソーは2人を見て、その顔がそっくりであることに気が付いた。だが体型には歴然とした差があり、2人のうちスレンダーな方が大仰な喋り方で話し始める。

 

「疑惑。その見た目から一寸も強そうなオーラを感じません。というより耶倶矢にそんな力はあったのですか」

 

 すると今度は反対側にいた半眼の方がそれに挑発するような態度で答える。

 

「なっ! ふ、ふふふ。言っているがいい。今に我の中に秘められし暗黒の力が解き放たれ貴様を地獄の底へと引きずり込むだろう」

「嘲笑。暗黒の力(笑)。耶倶矢の何処にそんな力が? 夕弦はそんなものを一度も見た事がありません」

 

 彼を挟んで妙な言い合いが始まったが、さっきから見ててイタイ方が半眼の方に馬鹿にされているようだ。

 

「ちゃんとあるし! それはもうめちゃめちゃ怖いんだかんね!」

「憐憫。夕弦はありもしない力をあると過信してやまない耶倶矢に憐れみの視線を送り……「そうだな、確かに暗黒の力は存在する」……何ですかあなたは」

 

 突然口を挟んで来たソーに2人は視線を向ける。だが2人の視線は異なる種類のもので、耶倶矢と呼ばれたスレンダーな方はキラキラとした眩しいものを見るような視線を。夕弦と自分のことを呼んでいる半眼の方は訝しげな視線を送っていた。

 

「何、お前が暗黒の力は存在しないかのような話をしていたからな。事実を言っただけだ」

「ほ、本当にあるの⁉︎」

 

 あっという間に距離を詰め、グイグイと顔を近づけて来る耶倶矢にソーは若干引きながらも肯定する。

 

「あ、ああ。全てを闇に変える強大な力を持った奴がいる」

「ど、どうだ夕弦! 暗黒の力は存在するではないか!」

「不審。その怪しい男の言う事が本当だとは思えません。もう一度聞きます。あなたは何者ですか。そして耶倶矢に触れないでください。もし触れたらすぐさまその首を締め上げます」

 

 夕弦は鎖の付いたペンデュラムを取り出すとそれを構える。

 

「なんだ、やる気か?」

「尋問。あなたは何者かと聞いているのです」

 

 直ぐにでも武器を振るって来そうな夕弦にソーはやれやれと答える。

 

「俺はソー。オーディンの息子にして、雷を司る神、そしてアスガルドの王だった男だ」

 

 返答したソーは聞いて来た夕弦の方を見て眉をピクリと吊り上げた。視線の先、質問をして来た奴はこちらを哀れむような目で見ていた。

 

「おい、なんだその目は」

「悲嘆。ここにも耶倶矢と同じ次元の人間がいましたか」

「どう言う意味だ」

 

 目の前の少女に馬鹿にされたと感じたソーに少しずつ怒りが湧き上がって来る。だが湧き上がって来た熱は隣にいた耶倶矢を見た瞬間に吹き飛ばされる。

 

「か、カッコイイ……」

 

 彼女の目は夢が叶った子供のように無邪気で希望に満ち溢れていた。

 

「ぜ、ぜひ師匠と呼ばせてほしい!」

「ちゅ、忠告。耶倶矢、いけません。そのような男に誑かされてはどんな目に合うか……」

 

 夕弦は慌ててソーの腕を取ってブンブンと握手をしている耶倶矢を止めようとする。だが目が輝いている耶倶矢にはその言葉が届いていない。夕弦は何とかしてソーから耶倶矢を引き離すと鋭い目付きで彼の方を睨んで来た。

 

「わっ、ちょっ、夕弦!」

「要求。あなたが雷神だと言う証拠を見せてください」

「証拠……こうか?」

 

 ソーは右手を広げるとそこに電気を発生させる。どうだ? と夕弦の方を見るが彼女は未だに不満そうだ。その一方で耶倶矢の方は感心して声を上げている。

 

「おお……」

「不満。何だか納得出来ません」

「もういいか? もういいなら俺は行くぞ」

 

 ソーは2人に背を向けると最初に降り立った場所へと歩いて戻っていく。

 

「あ、待って! 師匠、また会えるかな」

「さあな」

 

 耶倶矢が背中に声をかけるがソーは歩きながら適当に返事を返す。もう会うことなどないだろうと彼は思っていた。だが彼は何を思ったのかふと歩みを止めた。

 

「にしても、お前たちは仲がいいな。姉妹か何かか? 俺は兄弟仲があまり良くなかったから、お前たちを見ていると少し過去に戻ってやり直したくなる。まあ、そんな事は出来ないんだがな」

 

 今ではもう会えない義理の弟や父、母の姿。彼らと過ごせなかった日常を頭の中で思い浮かべながら彼はそう呟いた。

 だがこの言葉に2人は過剰に反応する。

 

「「はっ⁉︎」」

 

 2人同時に同じ反応をすると一瞬にして距離をとった。先程までの仲の良さは何処へやら。まるで宿敵を見るような目である。

 

「ははっ、危うく決闘の途中であることを忘れるところであったぞ」

「不覚。目的を見失う所でした」

「では師匠、また会おうぞ」

 

 2人が同時に構えを取ったかと思うと、一瞬にして2人の姿が掻き消えた。

 

「うおっ!」

 

 それと同時に巻き起こる突風にソーは危うく飛ばされかける。たまらず覆った腕をどかすとそこにはもう2人の姿は無く、残ったのは嵐の後の風と曇天の空だけであった。

 

 ソーは携帯を取り出すと通信を始める。

 

「あ、琴里か?」

『なーにー? どうしたのー?』

 

 電話の向こうから聞こえて来たのはいつもの司令官の声ではなく何処かの中学生の声。

 

「おい、気持ち悪いから今すぐ変われ」

『コホン、ええ、そうね。その言葉よく覚えておきなさいよ。後で締め上げるわ』

「げっ、やっぱり今のは無しだ。すごく良いと思うぞ」

『あからさまに態度を変えたわね。まあいいわ。何かあったの?』

 

 ソーは先程あった出来事を琴里に報告した。間違えて降り立った島で変な2人組に遭遇したこと、片方に物凄く慕われ、もう片方には敵意を向けられたこと、嵐のように過ぎ去って行ったこと。

 

『まさか、〈ベルセルク〉⁉︎』

「なんだそのよく分からん呼び方は」

『双子の精霊よ。嵐のように現れ、そして消えていく。引き止めるのは至難の業よ。ああ、もう。せっかくのチャンスだっていうのに……』

 

 電話の向こうからは琴里の悔しそうな声が聞こえて来る。先程会った2人がそんなに珍しいのだろうか。

 

「とにかく、俺はこの後士道たちの近くにいれば良いんだろう?」

『ええ、そうね。生徒達に危険がないかだけ監視しててちょうだい』

「分かった。……結局お前は来ないのか?」

『私は明日本部に召集が掛けられてるの。今日の学校が終わったら出発しなきゃいけないのよ』

「そうか。じゃあこっちの方は任せておけ」

『ええ、よろしく』

 

 電話をしまうと少しずつ雲が薄れ始めた空を見上げる。先程の嵐はやはりあの2人が起こしたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから目的地の或美島へとやってきたソー。旅館があると聞いて島を歩いているとそれらしき建物が見えてくる。ここに士道達も泊まるらしいが、鉢合わせしても大丈夫なのだろうか。と、初めはそんな心配をしていた彼だが細かいことは〈ラタトスク〉に任せておけばいいと半分リゾート気分になっていた。

 

 〈ラタトスク〉が部屋の予約をしてくれたようなので旅館に着くなり早速部屋へと向かう。館内には修学旅行と思われる生徒たちの姿が沢山あり、士道たちもあの人混みの中にいるのだろう。

 サングラス越しに人混みを観察したがその姿は見えなかった。というわけで部屋に到着である。鍵を開けて中に入るといい感じの和室が目の前に広がっていた。

 

「こういう雰囲気の場所は初めてだな」

 

 五河家の和室とはまた違った感じの印象を受ける。障子を開けば窓の外には広大な伊豆の海が広がっていた。

 

「ふう」

 

 とりあえず荷物を置いて座椅子に座ってみる。

 

「で、何をすればいいんだ?」

 

 監視と言っても旅館の中で動き回る訳にはいかない。あまり変なことをして琴里に怒られるのも嫌なので、取り敢えず部屋で大人しくしていることにした。

 だがそれにしても妙だ。出発前に確認した予定では時々〈フラクシナス〉と連絡を取ることになっていた。だが向こうと連絡を取ろうとしたのだが何故か通信が出来ない。まるで何者かに妨害されているかのようだ。

 ぼーっとしていても暇なのでテレビをつける。夕方のニュース番組ももう終盤だろうか。最後のまとめのようなものに入っている。地方で作られた新しいお酒が紹介されているのを見て美味そうだな、などと考えていると、コンコンと部屋のドアがノックされる音が聞こえた。一体誰だろうか。

 

「ちゃんと来ていたみたいだね。少し失礼するよ」

 

 ドアを開けると立っていたのは解析官の村雨令音であった。突然の訪問を不審に思いながらも部屋の中へと招き入れる。

 

「何の用だ。まだ何も起こっていないぞ」

「君は〈フラクシナス〉と通信を取ったかい?」

「確かに……向こうから連絡があると聞いていたが一度も繋がっていない」

「やはりか……」

 

 令音が少し深刻そうな顔をしているのを見てソーは事件の匂いを嗅ぎ取った。

 

「例のやつらがこれを?」

「ああ、あらゆる手段を用いて回復を試みてみたが全て失敗している。通常の故障や不具合ならこのような事にはならないだろう。そうなると考えられるのはDEMによる妨害だな」

 

 やはり出てきた名前はDEM。ソーはその組織がどういったものなのか詳しくは知らない。だがこういった妨害をしてくるのだ。どうせロクな組織ではない。

 

「士道たちの修学旅行の中にそいつらが混ざっている可能性は?」

「十分に考えられる。だが私は教師としての仕事もしなければならない。先程急に転入生が入ってきてね。少し忙しいのだよ。シンのサポートもしなければならないし、あまり敵の情報は集められそうにない。監視の方は君に頼めるだろうか」

「ああ。どうせ暇なんだ。ストーンを探すついでに怪しいやつも探しておこう。見つけたらどうすればいい?」

「取り敢えず私に報告してくれ。あまり勝手な行動をされると私も琴里に怒られるんだ。君なら分かるだろう」

 

 これまで好き勝手な行動をして散々締め上げられた彼である。今更自分から琴里の犠牲になるような行動をするつもりはない。

 

「ああ。じゃあ決まりだな。俺は明日遠くから士道たちの周囲を監視する。何か見つけたらお前に報告、これでいいだろう?」

「頼んだよ」

 

 令音は最後にもう一度目立つような行動はしないように、とソーに念を押してから部屋を出て行った。

 

「……そんなに俺は目立っているつもりは無いんだがな」

 

 自覚の無い彼にはどうやら無駄だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 それから彼はここの名物である温泉へと向かう。この旅館には大浴場があるらしい。今日は序盤から色々あって少し疲れたので、温泉で体を癒そう。

 大浴場がある場所へと到着。入り口は男湯と女湯がそれぞれ赤と青の暖簾で仕切られている。中が騒がしいのは修学旅行の生徒たちが沢山いるからだろう。

 

「あら、ソーじゃない」

 

 暖簾の前でそんな事を考えていると声を掛けられた。横を見ると浴衣に着替えたリアが立っている。

 

「なんだお前か」

「お前かって……、あんたも入りに来たの?」

「ああ、そうだ。島を間違えるわ、変な2人組に遭遇するわで、今日は少し疲れたぞ」

「島を間違えたのはあんたの自業自得でしょ。にしても、変な2人組ねえ。それって顔がそっくりな2人のこと?」

 

 リアがあの2人の事を言い当てるのでソーは少し驚く。

 

「知ってるのか? こんな感じで、髪がクルクルの2人だぞ?」

「今日突然現れたのよ。しかも私たちと同じクラス」

 

 そう言えば眠そうな女もそのような事を言っていた。となればリアのクラスに入って来たのはあの2人なのだろうか。

 

「あいつらはただの人間じゃないぞ」

「でしょうね。何せ、現れた時士道に引っ付いてたもの」

「ん? ちょっと待て。そいつらがお前たちと一緒に行動してるのなら、ここにいるということか?」

 

 赤い暖簾の方を指差してコクリと頷いたリア。つまり、例の2人は今この中にいるということである。

 

「ま、そっちは士道に任せておきなさい。それより、確認しておきたい事があるんだけど……」

「何だ?」

「今日は捜索はしたの?」

「いや、ずっと部屋で寛いでいたが?」

「だったら後からでいいわ。あんた、琴里から貰ったセンサー持ってたわよね。それを確認してみて」

「おいおい、まさか、いるのか?」

「私たちはこの島に入った瞬間に気づいたわ」

 

 リアは確信めいた表情で言う。もし彼女の言う事が本当なのだとしたら、ようやく3人目の発見である。

 

 2人はそのまま別々の暖簾をくぐって大浴場へ。そこで服を脱ぎながらソーはこの島にいるであろう3人目の事を考える。

 

「一体誰が来るか。面倒な奴で無ければいいが……」

 

 出来れば大人しく付いてきてほしい。そう切に願いながら扉を開けると、そこにはここに泊まっているであろう生徒たちが沢山いた。

 

「おい、お前ら! 準備はいいかぁ?」

「「「おおぉぉ‼︎」」」

 

 1人の呼びかけに応じるように気合のこもった返事が浴場内に響き渡る。そして先に声を掛けた1人を先頭に一部の集団が露天風呂の方へと威勢良く飛び込んで行った。

 

「全く、ガキどもは騒がしい」

 

 せめて風呂くらいは1人で静かに入りたかった。そんな願望を心の隅に置いて、彼はお湯に浸かる。

 取り敢えず部屋に戻ったら一度外へ出よう。この島自体はそれほど大きく無い。探せば今日中には見つかるかもしれない。彼はこの後の予定を考えていく。

 この修学旅行は二泊三日。その間に島の捜索は元々行うつもりだったがいると分かれば早いうちから行動した方が良いだろう。

 

 最初はそんな感じで甘い考えを持っていた。だがこの後思い知らされる。自分が3人目にどれだけ振り回されるのかを。

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