GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
陽は水平線の向こう側へと沈み、辺りは暗闇に包まれている。観光地として人気のこの島も、夜になればひっそりと静かな空間へと変貌する。
「──さてと、行くか」
旅館の玄関前には軽く準備運動をする1人の影がある。ソーは温泉から上がると部屋に戻ってカバンの中にあったセンサーを確認した。結果は当たり。姉妹達の感覚は侮れないようである。
インフィニティ・ストーン。個別の存在でも厄介。6つ集まっても厄介。その3つ目がこの島にいる。リアが彼らの前に姿を現してから既に3ヶ月が経っている。その間この国の半分以上を探していたが全く見つかる気配は無かった。これはまたと無いチャンスである。
この島はそんなに広い訳でもない。運が良ければ朝までには見つかるだろう。そんな感じで彼の捜索が始まった。
「ええっ? ソーと会ったの?」
夕食を終えて自由にしていたリアはそういえば、と先程の事をステラに話す。先にお風呂に入っていた彼女は当然その事を知らない。もう少し待てば良かった、と嘆いていた。
「ま、今は捜索にでも出てるんじゃない?」
「私も行こうかな……」
「やめておきなさい。みんなに見つかったら面倒な事になるわよ」
そう。これは修学旅行だ。個人の旅行ではない。彼女達は他のクラスメイトと同じ部屋に泊まっている。もし誰かに見つかったら多くの人に迷惑をかけてしまうのだ。
「はあ、分かったよ」
ガクッと肩を落としながら窓の方へと歩いていくステラ。そんな彼女にリアは一応のフォローを入れておく。
「同じ島にいるんだし、どこかで会えるかもしれないでしょ? あ、でもみんなの前で、とかはやめてよね」
「そ、それくらい分かってるよ!」
以前彼と2人で出掛けた時は後をつけてきた亜衣、麻衣、美衣の3人に写真を撮られ、散々囃し立てられた。あれほど恥ずかしい状況は無い。流石にみんなの前で彼と接触する勇気はステラには無かった。
「明日は自由にして良いみたいだし、こっそり会いに行けば大丈夫だよね……」
よし、そうしよう。と1人で納得するステラを横目にリアは明日の予定を見直す。
明日は自由行動。この島を好きに散策するも良し、砂浜で海を楽しむのも良し、何をするかは自由である。みんなはせっかくだから海を楽しもうと海に行く予定を立てていた。
彼女も一緒に楽しみたいところなのだが、この島に姉妹の誰かが居るとなればそれを放ったらかして遊んでいる訳にもいかない。どうやら明日は隣にいるこの子と一緒に過ごすしか無さそうだ。
隣を見れば方針が決まったのか先程から惚気た笑みを浮かべているステラがいる。
「まったく、事態の大きさを分かってるのか分かってないのか……」
リアは彼女の呑気さにため息を零すのだった。
その頃森の中では……。
「おかしい。反応は出ているのに姿が見えないだと?」
ソーの捜索は難航していた。
この島に3人目が居ると分かり、早速島の捜索を始めたソー。この島の広さからして、運が良ければすぐにでも見つかるだろうと思っていた彼は、中々姿の見えないその影を追い続けていた。
センサーを見る限り、確かにこの島にいる。それは分かっているのだが、反応の強い場所に行ってもどこにもその姿が無いのだ。
そうして島を彷徨い続けること3時間。すっかり深夜になってしまい、これ以上はラチがあかないと続きは明日にすることに決めるのだった。
そうして彼が去っていった森の中。ガサガサと草が揺れたかと思うと、1人の小柄な少女が姿を現した。肩まで伸びる明るい金色の髪に輝く黄金の瞳。何故かギリースーツを着ている彼女はソーが旅館へと戻って行くのを確認すると勝ち誇ったような表情になった。
「ふっふっふっ、この勝負、私の勝ちである! ま、当然だよね。この私を見つけようだなんて1億年早いもん!」
誰もいない森の中で1人勝利宣言をする少女。当然彼女に返事を返す者などありはしない。それでも彼女は1人で喋り続ける。
「さてと、今日はもう疲れたしここで寝ようかなあ。あ、明日の予定考えないと。クフフ、ステラ達にはどんなイタズラを仕掛けようかなあ」
そう、彼女こそは六姉妹の中でも生粋の問題児。マインドストーンことマイである。
翌日。
他の生徒達から引き離した方が耶倶矢と夕弦の攻略をしやすいと、士道と令音は或美島のプライベートビーチへと来ていた。
「それじゃあシン、こちらから2人には指示を出すから、対応は任せるよ」
令音はそう言って何処かへと立ち去って行く。影から2人に行動の指示を出すのだろう。2人同時に封印しなければゲームオーバーという糞ゲーに挑戦しなければならない士道は現実の厳しさを思い知った。
そうしているうちに耶倶矢と夕弦の2人が姿を見せる。
「クククッ、待たせたな審判者よ」
「宣言。今日でこの勝負にも決着を付けてみせます」
2人とも令音に貰った水着を身に付けている。2人とも誰が見ても認めるほどの美人なので士道は2人を直視するのが恥ずかしくなってしまうが、昨日の夜にされたあれやこれやを思い出して何とか意識を保っていた。
「おう、耶倶矢、夕弦。昨日ぶりだな」
何気なく挨拶をし、2人に近寄る。この2人、顔は瓜二つだが体型には見事な格差がある。だがそこに触れた瞬間士道の首は飛ばされるだろう。特にスレンダーな方。
「誘導。こちらへどうぞ」
夕弦が士道の手を引いて砂浜に立つパラソルの下へと向かう。
「あっ、ちょっとズルイ!」
「無視。トロい耶倶矢を待つ道理はありません」
「と、トロくないし! そんな塊ぶら下げてる夕弦の方がトロいに決まってるし!」
「ま、まあまあ、こんな所まで喧嘩なんてするなよ。せっかくのビーチだぜ。もっと楽しまないとな!」
昨日から何度目か分からないいがみ合いを始める2人を何とか制する士道。今日一日この調子だとだいぶ疲れそうだ。
士道をパラソルに連れて来た2人はあるものを差し出す。
「え、ええっと……」
「お主に邪悪なる天の焔を打ち滅ぼす秘薬で我が身を清めることを命ずる」
「はい?」
耶倶矢が彼女特有の大仰な喋り方で話してくるが士道に耶倶矢語は通じない。
「翻訳。日焼け止めを塗って欲しいと言っています」
「な、なるほど…………へ?」
「請願。夕弦もお願いします」
そう言って夕弦は耶倶矢の横にうつ伏せになる。2人は水着の紐を解くとその美しい背中を士道に見せつける。日焼け止めクリームを渡された士道はいきなりのこの状況に、平常心を保つために素数を数え始める。2、3、5、7、11、13……。
「ねえ、まだー?」
「催促。早くお願いします」
2人が少し頰を羞恥に染めてこちらを向いてくる。その少し潤んだ瞳に士道は覚悟を決めた。
「それ、行くよー」
「ぶわっ、ちょっ、ストップ!」
快晴の空の下、少女達が海を駆ける。その光景を遠くから眺める男子達は揃って皆鼻の下を伸ばしていた。その集団の筆頭、殿町宏人は声高に叫ぶ。
「お前ら、遂にこの時が来た! 輝く海、弾ける女子達の笑顔! さあ、夢の舞台へ飛び込むぞー!」
わー、とそれに続いて一部の集団が動き出す。それに気付いた女子達が逃げる。
この後しばらく砂浜で鬼ごっこが繰り広げられていたそうだ。ちなみに首謀者は最後砂浜に埋められていた。旅行会社のカメラマンと共に。
その光景を少し離れた森の中から観察していたソー。ステラ達の様子を見守ると共に怪しい人物が居ないかを探しているが、今の所学校関係者以外で見たのはカメラマンの女だけである。
その女は先程生徒達にカメラを奪われ、抵抗する間もなく砂の中に埋められていった。特に問題は無さそうだ。
ところで十香の姿が見えない。士道は別のビーチに連れて行くと今朝令音が言っていたが、確か十香はこちらに居るはずだ。そう言えば鳶一折紙とか言う奴の姿も見えない。2人は何処へ行ったのだろうか。
疑問に思った彼は令音に聞いてみる事にした。この島での通信には問題は無い。〈フラクシナス〉との連絡が取れないままではあるが。
「あ、俺だぞ」
『その言い方だと詐欺を疑われるからね、そろそろ考えた方がいいと思うよ』
電話の向こうから眠そうな声が聞こえてくる。
『それで、用件はなんだい? こっちも忙しくてね、あまり長話は出来そうにない』
「話はすぐ終わる。十香と鳶一の姿が見えないんだが?」
『ああ、彼女達か。心配することはない。2人ならたった今こちらに到着したようだ』
「それはつまり……」
『どうやらここまで泳いで来たようだね』
あの2人のやりそうな事だ。どうせ士道の姿が見えなかったからと言って探し回った結果なのだろう。それにしても、どうやってその場所が分かったのか。この世界の精霊は不思議な存在だな、と勝手に感心するソーであった。
「居るならそれでいい」
『そっちも特に問題は無いかい?』
「ああ。カメラマンの女が1人埋められているだけだ」
『それは困ったね。生徒の行動を制するのも教師の仕事。あまりひどいイタズラをするようなら彼らに注意を入れて置いてくれたまえ』
「俺は教師じゃない」
『ん? ああ、そうだったね。失念していた』
眠すぎて思考回路がおかしくなっていないか? と電話の向こうにいる人物が少し心配になるがあの鬼妹の親友だというし大丈夫だろうと結論づける。
「それじゃ、俺はこの後も好きにさせてもらうぞ。正直見てるだけだと暇だ」
『ああ、ただ目立つようなことはしないように』
「それはもう15回程聞いたぞ」
『分かってくれているならそれでいい』
「はあ……」
どれだけ自分は信用されていないのだろうか。電話を切り、森の中を見渡す。
昨日はあれだけ探したのに結局見つけることが出来なかった。反応はあれ程出ていたというのに何故だろうか。森を出るまで一応周囲を探しながら歩き続ける。だが誰かがいるような気配は無く、そのまま森の端まで出てきてしまった。
「こうなると本当に居るのかすら疑わしいな」
リアもこの島に3人目が居ると言っていたのだからそこは間違いないのだろう。だがこの広さのこの島でここまで見つからないとそれすらも疑わしく思えて来てしまうのだ。
しばらく森の端に沿って道路を歩き続けると、人影が見えてきた。
「あら、昨日ぶりね」
「あ、やっと会えたー!」
自動販売機の前に立っていたのはステラとリアの2人である。
「ステラは久し振りだな。それと、その格好も中々決まってるぞ」
と水着の彼女を褒め称える。すると彼女は照れ臭そうに顔を隠した。
「昨日は深夜まで探したが、結局見つからずだ。まだこの島にいるのか?」
ソーは昨日の報告をリアにしておく。
「いえ、まだこの島に居るはずよ。ステラも感じるでしょ?」
「うーん、そうだね。まだこの島にいるよ。でもこの島はそこまで広い訳じゃないよね? 見つからないということは……」
「何か知ってるのか?」
居るということは分かっているが見つからない3人目について心当たりがありそうな彼女に聞いてみる。
「認識操作ね。実際はあるのにあたかも存在しないかのように対象を錯覚させる。それが出来るのは私かあの子だけよ」
「俺が嵌められたと言うのか?」
「あんたは単純だから直ぐに引っかかりそうよね」
「なんだと?」
「あーもう、こんな所で喧嘩腰にならないの。リアも挑発するようなこと言わない!」
ステラはこんな所で口喧嘩を始めようとする2人の間に割って入る。こうやって話は重要な部分から逸れていくのだ。
「悪かったから怒らないでよ」
「ちゃんと反省してる? いつもこんな調子なんだから。それで、この島に居る子の事なんだけど……」
「恐らくはマイの仕業ね」
言われてソーは以前6石について3人で情報を共有した時の事を思い出す。
「お前がアホだとか何とか言っていた奴か?」
「そう、アホよ」
「もう少し別の言い方をしようよ……」
人の事を随分と失礼な呼び方をしている2人。だがリアに至っては全くもって当然のような素振りを見せている。
「何故この状況でわざわざお前たちからも隠れるような真似をする」
6石がこの世界に来て散ってから3ヶ月。普通なら自分の姉妹と久し振りに会ったのなら自分から会いに来る筈だ。彼女たちにとっての3ヶ月がどれほどの感覚なのかは普通の人間には全く想像も出来ない事なのだが。
「どうせまた下らないイタズラでしょ。次見つけたら少しお灸を据えてやればいいのよ」
「まあ、少しお説教は必要かな?」
「相当手を焼きそうだな。だがこのままではいつまで経っても見つからないぞ。相手がそう仕向けてるなら尚更だ」
自分が見つけようと思っていても相手が逃げ回っているのではいつまで経っても見つからない。それに修学旅行は明日で終わりだ。
「昼間の間は放置しておきなさい。暫く間隔をあけて隙を突くのよ。捕まえたら私が何とかするわ」
そう言うリアの顔は非常に楽しそうである。
「何をする気だ?」
「リア、性格悪くなってない?」
「それは最初からだろう?」
「あんたも潰すわよ」
とにかく、方針は決まった。後は夜まで今も何処かに潜んでいるであろうマイの事を気に掛けていないフリをするだけである。
「そうなると、暇だな」
ソーには修学旅行の生徒達の中に怪しい人物が居ないかを監視するという役割があるが、それも遠くから見ているだけなので実際暇なのである。
「じゃ、じゃあ一緒に遊ばない?」
「お、それいいわね」
ステラの提案にリアが賛同する。
「だが、お前たちもクラスメイトがいるだろう? そっちはいいのか?」
「みんなはカメラマンと遊んでるから大丈夫よ」
「カメラマンで遊んでるの間違いじゃ……」
「細かいことは良いのよ」
そうと決まれば早速行動とリアは先に歩き出す。ソーも自販機で適当にジュースを買うと後に続いた。その後ろをステラが追いかけて行く。
士道は八舞姉妹の攻略へ、十香と折紙は自分の方が士道の隣に相応しいと証明するために睨み合う。そしてストーン捜索組は夜の計画へ向けて。
修学旅行は続く。