GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
砂浜で熱い決戦が繰り広げられる。
「はあっ!」
高く飛び上がった十香の強烈な一撃が地面に深く突き刺さる。
「夕弦、今のは我のボールだ。邪魔をするでない!」
「否定。今のは夕弦のテリトリーでした。邪魔をして来たのは耶倶矢の方です」
泳いでプライベートビーチへとやって来た十香、折紙を加えて始まったビーチバレー。チーム分けは令音、十香、折紙。そして士道、耶倶矢、夕弦となったのだが、先ほどからいがみ合ってばかりで全く連携が取れていない。
「十香、折紙。ちょっといいかな」
向こう側が騒がしい間に令音が2人を招き寄せる。
「このままでは試合にならない。少し相手を焚き付けてくれるかな」
「なるほど」
「焚き付ける? どうすれば良いのだ?」
「あの2人は恐らく自分に絶対の自信を持っている。だからそのプライドを利用してやれば直ぐにやる気になる筈だ。だから2人には相手を挑発してほしい」
「よし、分かったぞ!」
早速2人はネットの方へと近寄って行くと、言い争う耶倶矢と夕弦に聞こえるように、わざと大きな声で話す。
「所詮はこの程度。相手にならない」
「貴様と意見が一致するのは不本意だが、その通りだな。耶倶矢も夕弦もへっぽこだ」
すると令音の言っていた通りに、今まで言い争っていた2人の表情が変化した。
「颶風の巫女たるこの八舞に向かってへっぽことは、眷属の身分で随分と大きな口を叩いたな。十香」
「同調。夕弦たちの力を甘く見てると大怪我をしますよ」
「だったら証明して」
揃ってやる気になった2人に折紙が最後の一押しをかける。
「良かろう。この我に逆らった事、地獄の果てまで後悔するがいい!」
ビーチバレーの後半戦が始まった。
暑い日差しが砂浜に照り付ける。クラスのみんなが騒いでいる所から少し離れた場所でソー、ステラ、リアの3人は夏の海を楽しんでいた。
海でサーフィンをしたり、砂で作ったスイカでスイカ割りをしたり、ビーチでサッカーをしたりと、それなりに沢山遊んでいた。そして現在はソーとは別れ、浮き輪を使って海の上に寝転がっている。
ぷかぷかと波に揺られ、遠くに聞こえるカモメの鳴き声を聞き流していると、だんだんと眠たくなってきた。
「ちょっと、こんな所で寝ないでよ」
「すぴー……」
「起きなさいバカ!」
完全に寝ていたステラの浮き輪をひっくり返すリア。
既に意識は夢の向こうへと旅立っていたステラは見事に海へと転落し、盛大な水しぶきを上げる。
「ケホッ、ケホッ、ひどいよ!」
何とか浮き輪の上に這い上がったステラは猛抗議する。
「あっちを見なさい。そろそろ集合がかかりそうよ」
寝ぼけ眼で向こうの方を見ると、たしかに遊んでいたクラスメイト達に一度集合がかけられていた。
「おーい、2人ともー! そろそろ集合だってさー!」
近くに来ていた友達がこちらに向かって大きな声で叫んでいる。
「今行くよー!」
それにステラが両手を振って答える。2日目ももうすぐ終了だ。
その後旅館に戻るよう指示が出され、生徒達は片付けをして各自ゾロゾロと旅館への道を歩いていた。
「そう言えば十香と折紙はまだ戻って来てないのかしら」
「たしかに、何処かへ向かって泳いで行ったね」
旅館へと向かう生徒達を一通り見てまだ2人の姿を見ていないことに気づく。
「ま、あの2人のことだし、また下らない争いでもしてるんでしょ」
「あの2人なら士道君が何とかしてくれるよ」
今朝会ったきりの士道は何をしているのだろうか。大方また十香と折紙の2人に振り回されているのだろう。それに昨日突然現れた双子の姉妹も一緒に居たはずだ。彼女達は何なのだろうか。やけに士道に引っ付いていた様な気もする。
夕日が水平線に輝き、美しい光景を生み出す。生徒の間からは歓声が上がり、写真を撮る者もいる。皆が夕日を楽しんでいる中、これから起きるであろう何かにリアは1人不安を抱えるのであった。
「はぁ……」
海岸にて士道は大きなため息を吐いた。
今日1日で色々な出来事を体験した士道は少し1人になりたくて、海岸で打ち寄せる波を眺めていた。
自分はこれからどうすれば良いのか。どの選択が正しい道筋なのか。士道は明日の審判に関して悩み続けていた。
『明日はさ、夕弦を選んでよ』
『請願。明日は耶倶矢を選んで下さい』
争い続ける2人の意外な本心。そして……。
『もし違う選択をしたら、あんたの周りを滅茶苦茶にしてやるから』
『もし選択を違えた場合は、あなたの周りに不幸が訪れるでしょう』
どちらを選んでも周囲に危険が及ぶ可能性がある。自分はどの選択をすべきなのか。
「楽しみにしていた修学旅行で命に関わる選択を迫られる。運命はそう甘くは無かったか?」
突然背後から聞こえた声に士道はハッと顔を上げる。後ろを振り返ると、少し離れたところにソーがいた。
「聞いてたのか?」
「まあな。それで、お前はどうするつもりだ? このままだとどちらを選んでも周囲に被害が出るぞ」
「……分からない。俺はどうすればいいんだ?」
士道は水面に映る自分の情けない顔に反吐が出そうになる。ただ悔しかった。精霊を救うと豪語しておきながら、何も出来ない自分の無力さが嫌で嫌で仕方が無かった。
「やれやれ、あの妹の兄がこのザマじゃ世話ないな。何をそんなに悩む必要がある」
「簡単に言ってくれるな」
「簡単な話だろ? 片方を選べば破滅なら両方選ぶか両方捨てるかだ」
「そんな事できる訳が……」
いつまでも消極的な士道に向かってソーは歩いて行くと、その胸ぐらを掴みいとも簡単にその体を宙に浮かせる。
「うぐっ……」
「いい加減にしろよ若造。今この島にいる奴らの命はお前に掛かっている。そいつらを生かすも殺すもお前の選択次第だ。選択権はお前にしかない。だがその選択権を持った奴はどうだ? メソメソと海に向かって情けない言葉を吐くだけ。そんな覚悟で精霊を相手にしようとしていたのかお前は」
「ぐっ、そんな、訳ねぇだろ」
「ふっ、覚悟の程度が見て笑える。お前の選択で命を失う奴らは哀れだな。精霊を救う? 笑わせてくれる。それで周りの奴らが命を落とすのなら、俺はお前達の目標を喜んで無視する。お前の役目は精霊と対話をする事で人類への脅威を無くす事だったか? だったらお前はその任務を全うしろ。出来ないなら俺があの2人を殺す」
そう言うとソーは士道を砂浜に投げ捨てた。
「明日の審判。俺は影から見ているとしよう。お前の選択肢は1つだけ。あいつら2人を選ぶ事だ」
ソーはそのまま踵を返すと何処かへと立ち去って行く。海岸には士道1人が残された。未だに思考が追いつかない。明日の裁定で耶倶矢と夕弦の両方を選ぶ事。そんな簡単に上手くいくとは思えない。だが士道の選択肢はそれしかない。失敗すれば2人がソーに殺されてしまう。
渦巻く思考を整理したくて、士道はしばらく砂浜に背を預けて空を見上げるのだった。
日はすっかり沈み、旅館の灯りだけが浮かび上がっている。
そんな中、旅館から少し離れた森の前で、ステラとリアは着替えて集合していた。そこへ遅れてソーがやって来る。
「遅かったわね」
「時間ピッタリだ」
「さあて、さっさと見つけないとね」
これから始まるのはマインドストーンの捕獲。この時のために今日は1日捜索を中断していた。この島の何処かにいる姉妹の1人を見つけるため、これから捜索を始める。
「今回のあの子の行動も恐らく下らないイタズラ。軽い調子に聞こえて結果がいつも悲惨だからタチが悪いのよね。とにかく、各自周囲に警戒すること。いいわね」
「了解」
ここからは二手に分かれて行動する。島を2つに分割し、東側をソーが、西側をステラとリアの2人が捜索する。見つけ次第連絡するという手筈になっている。
「それじゃ、また後で」
「ああ、気を付けろよ」
「そっちこそ」
そして3人は捕獲作戦へと動き出した。
陸に波が打ち付ける音が周期的に繰り返される。あれから1度旅館に戻った士道だったが、十香に2人きりになりたいとせがまれ、再びこの場所へとやって来ていた。
「シドー、何かあったのか? なんだか元気がないぞ」
「はは、やっぱりバレちまうか」
「私はシドーの事は良く見ているからな!」
「ありがとな、十香」
十香の頭を軽く撫でてやると嬉しそうに目を細める。
「それで、何があったのだ? 私で良かったら話して欲しい」
「実はな……」
士道はこの修学旅行の裏で起こっていた耶倶矢と夕弦の話を十香にした。それを聞いた十香は驚きで目を見開く。
「なんと、耶倶矢と夕弦は精霊だったのか⁉︎」
「ああ。そして俺は明日、2人の勝負に決着をつけなきゃならない」
「それで悩んでいたのか」
緩やかな風が2人の間を流れて行く。十香は輝く星空を眺めながら口を開いた。
「2人が思い合っているのか。素敵ではないか。それなら話は簡単だ。私は──」
その時、2人の背後で砂を踏み締める足音が響いた。
「こちら、コールサイン〈アデプタス2〉。応答を願います」
『こちら〈アルバデル〉、いかがいたしましょう』
「ターゲット夜刀神十香及びステラとリアが旅館から外に出たのを確認しました。そちらで確認してください」
『了解。……確認しました。対象は砂浜と島の西側に分かれていますが』
「優先は夜刀神十香です。後の2人はその後でもいいでしょう」
『分かりました。ターゲットを夜刀神十香に絞ります』
「旅館にはASTの鳶一一曹がいます。不審な動きを見せた場合は対応できるよう〈バンダースナッチ〉を配備しておいてください」
通信を終えたエレンは乱れた呼吸を何とか整える。この修学旅行は確認されている精霊及びアイクに指示された対象の捕獲の為に参加したが、ここまでの内容は悲惨なものだった。
初日の夜はターゲットに接近しようとしたものの突然の妨害に遭い枕を顔面にぶつけられた。そして今日は消えたターゲットを探しに行こうとしたがまたしても捕まり、砂の中に埋められて散々笑い者にされた。これもあの3人組の女子生徒のせいだ。先程も危うく捕まりかけた。だが今夜は失敗する訳にはいかない。エレンは自分は最強なのだと改めて気を引き締めると夜の島へと姿を眩ませた。
「なんだか静かだね」
「本当、嫌な予感しかしないわ」
森の中。2人で歩くステラとリア。先程からこの島にいる3人目の気配を強く感じ取っているが、中々その姿を見せない。一切の油断も許されない状況であった。
その様子を遠くから眺める影が1つ。
「さてさて、見つけちゃったよ。可愛いお顔がどうなっちゃうかなー。今日は1日無視してくれたんだから、それなりに強烈なのいっちゃうよ」
金色の影は不穏な動きを見せる。
「ねえ、士道。それ、本当? 夕弦が、私を選べって言ったこと」
砂の上に佇む耶倶矢の表情は暗くてよく見えない。だがその雰囲気が、彼女の心中が穏やかでは無いことを表していた。
「聞いてくれ耶倶矢。これは──」
だがその時反対側からまた足音が。咄嗟にその方向を振り返るとそこには暗いオーラを纏った夕弦の姿があった。
「確認。耶倶矢は本当にそのような事を言ったのですか? 明日の審判で私を選べと」
2人はゆっくりと歩き出し、その距離を徐々に詰めて行く。
「2人とも、待ってくれ!」
だが彼の声は2人を止められない。
「「ふざけるな!」」
2つの嵐が衝突した。
それに伴い海岸では猛烈な風が吹き荒れ、先ほどまで静かだった場所が一気に嵐に包まれる。
「〈
耶倶矢がそう叫ぶと漆黒の巨大な槍が現れる。
「呼応。〈
続いて夕弦の手にも長く伸びる鎖のペンデュラムが握られる。
2人はそれぞれの天使を構えて距離を取ると、互いを睨み合った。
「この期に及んで私を選べですって? あんたのバカさ加減にはウンザリさせられたわ」
「心外。それはこちらのセリフです。今更私を選ばせようとするなど、考えが甘いのではないでしょうか」
「あんたがそんなんだから、結局この手で決着をつけるしかないのよ」
「同意。やはりこうなりましたか」
2人は同時に溜めを作ると、一気に地を蹴った。
「「地に伏せた方の負け!」」
2つの天使が衝突する。その衝撃は凄まじく、近くにいた士道と十香はいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。
「2人とも、待ってくれ! 待って……」
飛ばされても尚2人を止めようとする士道。
だが士道の声は2人に届くことは無く、ただ吹き荒れる風の中に掻き消されて行くだけであった。