GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
新たに転入して来たクラスメイトの耶倶矢と夕弦は精霊であった。その事実に驚くあまり、現在自分の置かれている状況を忘れる所であった。何気ないマイの質問で正気に戻ったステラ。慌てて自分が飛んできた方向を見る。
3人が通ったことで掻き分けられた森の草木。その奥にきらりと一瞬だけ煌く影を見つける。高速で回転する斧は一直線に3人の元へと向かっていた。荒れ狂う風を堪えながら右手をかざし、自分たちの前に青い穴を開ける。
飛んできた斧は真っ直ぐに穴へと吸い込まれ、別の穴から飛び出し砂浜に突き刺さる。
「ちょっと、どうなってるのよ」
マイと2人で飛ばされないよう体を支え合いながら立っているリアが聞いてくる。丁度彼が暴走している原因もここにいることだし確認しておいた方が良いだろう。
「マイ! あなた、ソーに何かした?」
「うえっ⁉︎ そ、それは……」
心当たりがあるのか口ごもるマイ。その間に砂浜に突き刺さっていた斧が1人でに浮き上がり、森の方へと飛んで行く。
「いいから答えて!」
「う、うう、……突然声を掛けられたからびっくりしてこけた拍子に力を使いました。ちゃんと探したよ! でも起き上がったら居なくなってたんだよ。嘘じゃないからね!」
「分かった。信じる……でも後でお説教だから」
「はい……」
森の中から斧を振りかぶったソーが姿を現す。
「あいつ操られてるってこと?」
リアは砂浜に手を当てると砂を動かし、凝縮して壁を作り出す。だがソーの攻撃が当たった瞬間に衝撃で崩れ落ちていく。辺りの砂浜も酷い有様だ。
「マイが直接ソーに接触するか、私たちが意識を揺さぶるかしなきゃいけない」
「この子にやらせる?」
「え? ちょっ、私そんな戦闘向きじゃないから! あんな狂った奴の相手とか無理だからあ!」
「原因はあんたでしょうが!」
「それはそうだけどさ……」
次々と襲い来る攻撃をステラとリアの2人で受け流していく。
「わ、私はサポートでお願いします!」
「サポートなら士道君の方に行ってあげて!」
「えっ、うわあ!」
間抜けな声と共に士道と十香の前に落とされるマイ。砂塗れになった顔を上げると2人が目を見開いていた。
「ど、どうも。マイでーす」
「ええっと、君は……」
「はい、サポートします!」
「ええ⁉︎」
「あんたはいっつもそうだよね。何もかも1人で抱え込もうとしてさ!」
「不服。耶倶矢に言われたくはありません」
空を舞う2人は何度もぶつかり、辺りにその衝撃を撒き散らしていく。だが何度ぶつかろうとも、双方共に一撃も入れることが出来ていなかった。百戦目の勝負。これで八舞を決める戦いにも決着をつけられると思っていた。だが結局はいつもの殺し合い。倒れた方が負け。今までの勝負など、この一戦の前では無意味なもの。
2人ともそう考えていた。だが何故だろうか。ぶつかる度に出てくる隠して来たそれぞれの思い。互いに相手を生かそうと、生きてほしいと願う気持ち。そんな事実を知ってしまって、この戦いに意味などあるのだろうか。
「「次で決める!」」
2人が同時に構えを取る。次の一撃で確実に相手を仕留める。自分の出せる最強の一撃をここで。その思いで2人は最後の衝突をしようとした。
「この〈
「え……」
十香の呟きに士道は言葉に詰まる。十香の力をその身に封印したとは言え、〈
「つまりー、お兄さんの気持ち次第ってこと?」
「うむ。〈
士道は自分の手に収まっている光輝く剣を見る。剣は何も語りはしない。
「じゃあ、一体どうすれば……」
「大切なのはシドーの願いだ」
「ほらほら、お兄さんの剣なんでしょ? ちょっと願ってみなよ。今の気持ちをさ。その心の中にある強い思いをだよ」
2人に言われるまま、士道は視線の先でそれぞれの武器を構える耶倶矢と夕弦を睨んだ。
相手を生かすために戦う2人。何故生きるために、幸せを願う相手を殺さなければならないのか。こんな無意味な争いは、ここで終わらせる。
「そこまでだあああああああ‼︎」
2人がぶつかろうとしたその間に、一筋の奔流が通り過ぎて行った。それは2人が生み出していた強力な嵐の壁をも打ち破り、分厚い雲を引き裂く。割れた雲の隙間から月明かりが差し込んだ。
「何っ⁉︎」
「驚愕。……何事ですか」
突然の妨害に2人の動きが止まる。そして先程の攻撃の出処に1人の少年が立っていることを確認した。
「何のつもりだ士道」
「不満。邪魔をしないでください。これ以上夕弦達の邪魔をしようというのなら、あなたを傷付けることになりますよ」
「黙れ。俺はまだお前らの勝負の審判を降りたつもりはねえ」
士道の言葉に2人は懐疑的な表情を見せる。
「俺はお前たちに今ここで、百戦目ののジャッジを下す」
これまで2人が行って来た勝負は九十九戦。その結果は二十五勝二十五敗四十九分け。この百戦目にてどちらが真の八舞に相応しいのかが決まると、そう2人は言っていた。
そして今、百戦目の結果が言い渡される。士道は大きく息を吸うと、夜空に向かって大きな声で叫んだ。
「俺が選ぶのは、お前たち2人だあああああ!」
バチバチと、電撃が迸りリアの持つ石の棒切れを押しやっていく。
「くっ、こんの馬鹿力め。ちょっと、やばい……」
ソーのパワーに押しやられそうになりながらも何とか堪えていたリアはふと先程まで吹き荒れていた風がすっかり止んでいることに気付く。
「この……、ステラ! 行ける⁉︎」
「これなら、行ける!」
あの風のせいで立ちながらバランスを取るのもやっとであったが、それが収まった今なら自由に動くことが出来る。2人は合図を交わすと行動に出た。
まずリアはソーの足元の地面を動かしバランスを崩す。そして相手が体制を崩して地面に仰向けに転んだところでその手から武器を奪い取った。その間にステラは海の方へと駆けていくと海面に向かって足を踏み込む。
彼女が踏み込んだ場所から海が2つに割れた。海底に向かって壁のようにそそり立つ海水の塊。底は真っ暗で何も見えはしない。
ソーが起き上がる前にリアは再び地面を操作。勢い良く隆起させることで彼の体を宙に吹き飛ばす。そして相手から奪ったストームブレイカーを両手で振りかぶるとソーの方へと飛び立った。
「ちょっと海の底で、頭冷やして来なさああい!」
鈍い音と共にソーの体が投げ出される。野球ボールのように吹き飛んだ体は作り出された海の谷底へと落ちてゆく。彼の体が壁と壁の間に入ったことを確認したステラが力を掛けるのを止めた瞬間に、海の壁は崩れ落ち、大きな音と波をたてながら元の景色へと戻って行った。
「はあ、はあ、やっと終わった」
「何でこんなに疲れてるのかしら、私。これ修学旅行よね⁉︎」
「ま、まあまあ、いい思い出が出来たと思えば良いんじゃない?」
「あんたの超ポジティブ思考には毎度驚かされるわね。はぁ、何だか気が抜けたら眠くなって来たわ」
力が抜けたのかヘタリと陥没した砂浜に座り込むリア。そしてそのまま寝っ転がってしまった。
「え、ここで寝るの?」
「何だか眠いのよ。後で起こ、して……」
「ちょっと? もしもーし、……本当に寝ちゃった」
1人になってしまったステラは海岸に打ち寄せる波をただぼんやりと眺める。そう言えば、ソーを海の底に沈めたけれど、いつ回収すれば良いのだろうか。あれだけの衝撃を頭に加えれば流石に暗示は解けるだろうが、もし死んでいたらどうしようか。意識が残っていれば自力で浮かび上がってくるだろうが、無ければそのまま溺死である。
「……やっぱ回収しないとまずいよね」
海水に手を付けエネルギーを送り込み、返ってくる波で海に沈んだ彼の位置を探っていく。通常海での捜索と言えば大分大掛かりなものであるが、彼女のスタイルは池の鯉に餌をやるようで側から見れば余りにもシュールであった。
「そんなふざけた答えが通用するとでも思ってるの?」
「憤慨。夕弦達を馬鹿にしているのですか?」
士道の答えを聞いた2人は見るからに怒っている。これまで命を掛けた決闘をして来たのだ。そんな簡単に問題を解決出来るのだったら最初から苦労はしない。2人にとって士道の答えは余りにも理想を述べたに過ぎないものであった。
「俺にはお前たちのどちらかが消えなきゃならないなんて受け入れられねえ。だから両方選ぶ」
士道は〈
「それが出来ないから戦って来たんだよ! あんたに何が分かるの!」
「首肯。両方生き残る方法などある筈がありません」
「方法ならある。だが、やってみなけりゃ、分からねえ。だから、争うのは、もう、やめ……」
「シドー!」
遂に耐え切れなくなった体はグラリと地面に崩れ落ちる。慌てて十香が士道の体を支え、宙に浮く2人の方を見た。
2人は未だに思案している表情だった。彼女たちが何を思っているのかは十香には分からない。だが、彼女たちにも、士道の救いが届いて欲しいと、そう願っていた。
その肩をポンポンと側にいたマイが叩く。彼女はどこか自信ありげな表情でこう言った。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。この子の想いはちゃんとあの2人に届いてる」
彼女はそのまま向こうへと歩いて行く。十香は士道の努力を信じようと腹を括る。選ぶのはあの2人だ。
士道を砂浜にある休憩所まで運ぶと膝枕をしてやった。その髪にそっと触れ、眠る顔に話しかける。
「いつもありがとうだ」
2人はひたすら思考を巡らせる。もし、もしだ。この男の言うことが本当だとして、2人ともこの世界に生き残ることができるのなら、自分たちはどうするのだろうか。
「ねえ、夕弦。もしだよ、2人で生き残れたとしたら、あんたはどうする?」
「回答。夕弦はこの世界についてもっと知りたいです。夕弦の知らないこの世界の美しい所を、この目で見てみたいのです。耶倶矢はどうですか?」
「私はね、きな粉パンっていうのを食べてみたい。なんでも戦争が起きる程の美味らしいんだ」
「驚愕。きな粉パンを巡って戦争ですか……」
「でもね、それ以上に私は…………夕弦と一緒にいたい、だがら、2人で、うくっ、生き残りだいよお」
「っ……同調。夕弦もです。夕弦も、耶倶矢と、一緒に生きたい、です……」
いつの間にか内側から零れ出した自分の思い。一度溢れ出したそれは、今までの辛さを吐き出させるように、止まることなく次から次へと零れていく。2人は宙で手を取り合い、互いの思いを全て吐き出した。
しばらくしてようやく落ち着いた2人は改めて互いを見つめ合うとふっと同時に微笑んだ。
「夕弦、2人で生きよう」
「返答。2人で新たな人生を」
その時だった。何処からか飛んできた砲撃が2人の脇を掠めて海岸に着弾した。盛大な音と共に砂が舞い上がる。
砲撃が飛んできた方向を見ると、後部から煙を上げ、今にもぶつかって来そうな勢いで一隻の船がこちらに向かって接近していた。
「艦長! これ以上は危険です! 一般人に見つかる可能性も……」
「うるさい! いいからやれ!」
無断で敵空中艦と交戦し、一方的に撤退させられた〈アルバデル〉の艦長、パディントンは目の前にある餌にしか目が向いていなかった。〈ベルセルク〉を討ち取ればこれまでの失態を帳消しにする事が出来る。彼の頭の中には最早それしか無かった。だからこそ気付かない。その〈ベルセルク〉の機嫌が、とてつもなく悪くなっている事に。
「……何あれ、せっかくいい雰囲気だったのに」
「肯定。空気を読めって感じです」
「ねえ夕弦」
「応答。なんでしょうか」
耶倶矢はニッと口角を上げると夕弦に視線を送った。
「……やっちゃう?」
それに夕弦も笑みを浮かべて答える。
「返答。やっちゃいましょう」
〈アルバデル〉から次々と砲撃が飛んでくるが、神速の八舞には一切当たる気配は無い。耶倶矢と夕弦はそれぞれの天使を構え、攻撃の態勢に入った。
漆黒の槍は強靭な矢へ。長い鎖はしなやかな弦へ。2人の手がその矢に添えられる。2人の視線の先には目障りな鉄の塊。
「「〈
澄み渡る夜空に一筋の奔流が駆け抜ける。
八舞の一体となった攻撃を受けた対象は、元の形を失ってバラバラと夜の伊豆の海に消えて行った。
「修学旅行も終わりか……」
大きな飛行船のようなものが海に消えて行くのを見届けながら、ステラはポツリと呟く。彼女の腕には意識を失っているソーが抱えられていた。
「どうしよう、これ。や、やっぱり人工呼吸とかかな?」
真っ暗な海岸で1人顔を赤くしながら救助活動をするべきか悩む彼女。その側では仰向けになって眠っているリア。
修学旅行は間も無く終わりを迎える。