GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
「うっ、……うーん」
目を閉じているはずなのに光を感じる。
士道は誰かに体を触られている感触に、目を覚ました。
「えーっと、……どちら様でしょうか」
目を開くと目の前にはライトを持った、非常に眠そうな女性がいる。一体どれくらいの間休息を取っていないのだろうか。
「ん、目が覚めたようだね。どうやら体にも異常は無さそうだ」
その女性は抑揚のない声でそういうと、ライトを切って士道から離れた。
士道は体を起こし辺りを見るが、とても心当たりのある場所ではない。
まるで映画に出て来るような近未来風の壁や扉に、自分の寝ていた台。どれもがとんでもない機能でも着いていそうだ。
「あ、あの! ここは一体どこなんですか? ……俺はどうしてここに? 一体何が……」
脳が起動するにつれ、次々と疑問が士道の頭の中で膨れ上がってくる。
「落ち着きたまえ。君の疑問ももっともだが、私は説明が苦手でね。君の質問に答えてくれる人がいる。こっちへ来たまえ」
女性は部屋の扉の方へと歩く。彼女が扉に近づくと、プシューという音を立てて扉が自動で開いた。
「おおー」
扉の期待通りの開き方に士道は少し感動する。
と、女性が扉を超えたところで自分を待っていることに気づき、士道は慌てて後を追った。
「あの、あなたは一体……」
「私は村雨令音。ここで解析官をやっている。気軽に令音とでも呼んでくれ」
と眠そうな女性、令音は言うが、突然ふらりとバランスを崩したかと思うとそのまま壁にグデンと寄りかかる。
「あ、ちょっと! 大丈夫ですか!」
士道が慌てて駆け寄り体を支えてやる。
「ん、すまんね。どうも体に疲労が溜まっているようだ。少し休息を取らねば」
そう言って令音は懐から睡眠導入剤と思しき箱を取り出す。そして次の瞬間、箱から大量の錠剤を手の平に出すと、それらを一気に飲み込んだ。
「ちょっ、ちょっと! 何やってるんですか⁉︎そんなに飲んだら危ないですよ‼︎」
士道は目の前の光景に目を疑う。
「いや、これでも効かないんだが……」
「どんだけ寝てねぇんだよ‼︎」
士道は堪らず叫び声を上げた。
そうしてとんでもない解析官、令音と共に随分と広い廊下を歩く。先程から同じような景色が続くばかりだ。
「あ、そういえば、俺と一緒にいた2人を知りませんか?」
士道は自分が気を失う直前まで、2人の男女と一緒にいたことを思い出す。
今思えば2人とも不思議な人達だった。2人とも奇妙な力を使うのだ。男の方は電気を発していたし、少女の方は空間に穴を開けていた。
「ああ、彼らもこの先にいるはずだ」
そう言って令音が立ち止まったのは、1つの扉の前。彼女が扉に近づくと、先程と同じように扉が音を立てて開く。
士道は令音に続き、中へと足を踏み入れた。
「………………」
時間は少し遡る。
フラクシナスの艦橋に3つの姿が現れた。1人は巨大な斧を片手に持ち、のびている少年を抱えている男。もう1人は綺麗な澄んだ青い髪の少女。
「………………」
「………………」
「………………」
3人とも沈黙しており、誰も喋ろうとしない。1人は気絶しているため、喋ることは出来ないのだが。
そんな3人の前に、1人の少女が現れる。
「〈フラクシナス〉へようこそ。怪しいお二人さん。ああ、それと悪いけど、その男は返してもらえるかしら」
黒いリボンで燃えるような赤い髪を結んだ少女、五河琴里はまだ呆然としたままの2人の前に立つとそう言った。
すると琴里の背後からゴツい体つきの男が2人現れ、ソーの腕から士道を回収する。
男達はそのまま何処かへと士道を運んで行った。
「俺達をここに連れてきたのはお前か?」
男達を横目に、ソーは琴里を警戒しながら聞く。
「ええ、そうよ。正直、あなた達をここへ連れてくるべきか悩んだけどね」
琴里はやれやれと言いながら艦橋の中央にある座席に腰掛ける。
するとすぐに、脇に控えていた長髪の男が箱のようなものを琴里の前に広げた。
中に入っていたのは棒付きキャンディ。琴里はその内の一本を手に取ると、ラッピングを解いてそれを口に咥えた。
「今から2時間前、天宮市の数カ所で高エネルギー反応が確認された。あまりにも急なことだったから、精霊でも現れたのかと思ったわよ。すぐにその映像を確認したけど、何も異常は無かったわ」
琴里は手元のタッチパネルを操作すると、艦橋のメインモニターにその時の映像を表示させる。
「でもその5分後、再び高エネルギー反応が高台の公園で確認された。そして、その映像に映っていたのは得体の知れない能力を持った者たちだった」
そこに映っていたのは、ステラに掴みかかろうとするソーと、地面に空間の穴を開けてソーを落下させるステラの姿だった。
「どうせなら本人に直接見てもらった方が話は早いと思ってね。それであなた達をここに連れてきたの。単刀直入に言うわ、これはあなた達ね」
琴里は2人の方を見て、キッパリと言い切る。
映像を見せられた2人の方では、ステラがソーの腕をちょんちょんと指で突いていた。
「ねぇ、私たちのこと、完全にバレてると思うんだけど」
「立派な証拠まで揃えてな。見てみろ、お前が現れたところから映ってるぞ」
「私が他の子達を転送した時のエネルギーを観測されたみたい」
「それで見つかったのが俺達だけとは、不運だな」
「どうしよう。この人に私たちのこと、話しても大丈夫かな……」
ステラは琴里の方をチラチラと見ながらソーに聞く。
「ちょっとあなた達、私の話を聞いているのかしら」
完全に無視されていた琴里がこめかみに青筋を浮かべながら言う。
「だが、話した途端に捕らえられるかもしれんぞ」
「それなら最初からそうするでしょ。それにいざとなったら逃げればいいんだし」
それでもなお、2人だけで話を進めるソーとステラ。
「人の話を聞けって言ってんでしょうがぁ──────!!」
ついに琴里の怒りが爆発した。
「うおっ! ああ、そうだな。そこに映ってるのは、俺達だ……多分。変な力を使ったのはこいつだがな」
琴里の叫びに驚いたソーが慌てて返事をし、ステラの方を指差した。
するとソーを睨んでいた琴里の視線がステラの方へと移る。
「ちょっと! 私のせいにするつもり⁉︎」
「いや、事実だろう」
「喧嘩はいいから、あなた達が何なのか教えてちょうだい」
目の前で言い争いを始める2人を琴里が遮る。
「あー、なんだ、俺達はただの旅人だ。……善良な。そうだろう?」
「う、うん、そうだね! 私達はただの旅人だよ」
ソーが嘘くさい笑みを浮かべて答え、ステラがうんうんとそれに頷く。
「へー、そう。あなた達はただの旅人なのね」
琴里は2人の返事にさも興味なさげに返すと、手元のタッチパネルを操作し始めた。
「ああ、そうだぞ。俺はいたって普通の人間だ」
「ちょっと、それじゃ私だけ変な人みたいじゃない」
「お前は変な力を使った証拠があるだろう」
また言い争いを始めた2人を他所に、琴里はタッチパネルを操作し次の映像を映し出す。
「じゃあこれは何かしら?」
映像が流れる。
そこに映っていたのは少女の振り下ろす大剣を受け止めるソーだった。映像に映っている彼はそれを弾き返すと少女を斧で吹き飛ばす。
琴里はそこで映像を止めた。
「彼女は精霊と呼ばれる存在。その戦闘能力は非常に高く、ただの人間が太刀打ち出来る相手じゃない。それをあなたは簡単に吹き飛ばしているようだけど」
「い、いや、別の誰かだろう。宇宙は広い。自分とそっくりな奴が居てもおかしくはない」
ソーは明らかに動揺しながら否定する。
そんなソーを見て琴里は更に追撃を仕掛ける。
「あら、そう? 確かにそういう事もあるかもしれないわね」
「ああ、そうだ。きっとそうだ」
「じゃあ、あなたが今手に持っている物は何かしら?」
「ぐっ…………」
ソーは自分の手元を見て言葉に詰まった。
自分が持っているのは巨大な斧。
どんなに言い訳しようとも、一般人がこんな物騒な物を持ち歩いているはずが無いのだ。
それにこの斧はさっきの映像にも映っている。
「それに、あなた達が話してくれるのなら、今日確認された他のエネルギー反応について教えてあげないこともないけど」
「えっ、本当⁉︎ ……あっ‼︎」
琴里の餌に釣られたステラが思い切り反応してしまった。2人の虚しい抵抗はこれにて終了。
それからしばらく、嘘をついたことを説教された2人は自分達の状況を正直に琴里に話した。
「最初から正直に話せばいいのに……。はぁ、にしても、また面倒な問題が舞い込んだわね……。これから忙しくなるっていうのに」
琴里が2人の話を聞いて溜め息を吐いていると、艦橋室の扉が開き、令音と先程運ばれていった士道が戻ってきた。どうやら意識が戻ったようだ。
「琴里、彼を連れてきたよ」
令音は琴里にそう告げると自分の席へと戻って行く。
「ん、ご苦労様」
そして令音の後ろから現れた士道が、琴里の姿に気付いた。
「琴、里……?」
「あら、ついに自分の妹が誰だかも分からなくなってしまったのかしら?」
琴里は椅子から立ち上がると、士道の前に立つ。
「まずは、ようこそ〈ラタトスク〉へ」
唖然とする士道に、そう言い放った。
艦橋室の中央、艦長席の周辺に集まる人影があった。
メインモニターには先程の戦闘が映し出されている。
「こっちがAST。対精霊の専門部隊よ」
琴里が映像を見せながら解説をしていく。
「専門部隊って、何をするんだ?」
「精霊が現れた時の処理、簡単に言うと……」
そう言って琴里は自分の手を首の前まで持って行き、スパッと首を切るジェスチャーをする。
「なっ⁉︎」
「なるほど、それであの女は訳の分からんことを言っていたのか」
ソーが1人、納得したように頷いていた。
「でもっ、そんな、殺すだなんて……」
「あら、彼女は現れるだけで世界を壊す災厄。普通に考えて消えてくれた方が世のためよ」
琴里は精霊になど興味も無いといった様子で話し続ける。
「でも、これじゃあダメだ。殺しちゃダメなんだ!」
士道は胸を締め付けられるような思いに駆られる。
「じゃあ聞くけど、他にどんな方法があるの?」
「それは…………」
細かい計画など考えられない士道は髪をくしゃくしゃと掻きむしり、自分の思いを叫んだ。
「ああ、もう! まずは話してみないと分からないだろ!」
その言葉に琴里はニヤリと口角を上げた。
「それで、お前達は何を始めようとしてる?」
ずっと会話に取り残されていたソーとステラは、いまいち話の内容が理解できていない。
「彼女、精霊と対話を試みるのよ」
琴里がそんな2人に補足するように説明をする。
「精霊? あの女がか? 随分と物騒な精霊だな」
ソーは画面に映る少女を見ながら言う。
「それはあくまで私たちがそう呼んでるからよ。ま、物騒なのが彼女の本性なのかはまだ分からないけどね。それを対話で明らかにしようって訳」
「それがコイツの役目か」
ソーは隣に立つ士道の方を見る。
「ええ、そうよ。元はと言えば、私達〈ラタトスク〉は、士道のために作られた組織だからね」
「は? …………はあぁぁぁぁ────⁉︎」
士道は驚きの叫びを上げた。
「どういう事だ⁉︎ここにいるこの人達は、みんな俺の為に集められたっていうのか⁉︎」
「落ち着きなさい。詳しい事はその内分かるわ。それと、明日から早速訓練を始めるから」
「は? 訓練?」
「当然よ。丸腰で彼女の前にでも立ってみなさい。1つ間違えたらあなたの首が飛ぶわよ」
士道はその光景がいとも簡単に想像できてしまい、しばらくその場に立ち尽くすのだった。
その後、琴里が士道に精霊とデートしなさいと言ったことにより、更にもう一騒ぎ起こる事となったが、琴里が士道を説き伏せ、彼は大人しくなった。
そうして残されたのはソーとステラの2人である。
「さてと、残るはあなた達ね」
琴里がチラリと2人の方を見て言う。
「わ、私たち、どうなるのかな……」
ステラが無意識のうちにソーの腕を掴み、ソーは表情を険しくする。
「落ち着け、こっちはちゃんと話をしたんだ。向こうが何かしてくるようならここを破壊して逃げればいい」
そんな2人の会話を耳にした琴里は呆れた表情をする。
「あなた、まだ私が何かすると思ってるの? こっちはこれからあなた達の生活について話そうとしてるのよ。そろそろ理解してちょうだい」
「組織というものは信用できないとどこかの機械好きが言っていたからな」
どうにも琴里達を信用していないソーが疑ってかかり、それをステラが心配そうな表情で見つめている。
「ま、あながち間違いではないわね。今度その人に会ってみたいわ」
「ふん、それで、お前達は何が望みだ?」
「別に、何も望まないわよ」
ソーの質問に琴里はあっさりと答えた。
「何も望まないだと? そんな戯言が信じられる訳がないだろう」
「信じるかどうかはあなた次第よ。ま、信じないのだったらこれから頑張って毎日野宿をしてもらうだけだけど」
「ぐっ……」
琴里はそうやってソーを追い込んでいく。
それから5分後、ステラと話し合い、悩みに悩んだ末、彼は答えを出した。
「……くっ、その、よろしく頼む」
「ふう、やっと決まったのね。それじゃ、あなた達は一応こちらで保護という形にしておくわ」
「お世話になります」
ステラが琴里にお辞儀をする。
「任せておきなさい」
「あの、私達は今日からどうしたらいいかな……」
一応保護という形で決まったとはいえ、まだ2人の生活をどうするかは伝えていない。
「そうね、2人は取り敢えず私達の家で暮らしてもらうわ。というわけで士道、先に帰って2人を世話してちょうだい」
「えっ⁉︎ 急すぎるだろ‼︎」
「いいからやりなさい。それとも、明日からの訓練を倍にされたい?」
「くっ……、内容が分からないだけに迂闊に行動できねぇ」
こうして士道の案内の元、2人は五河家へと向かうことになるのだった。