GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第30話 嵐は過ぎ去って

 静かな森の中に立つ3人の影。聞こえてくるのは木の葉が風に揺れる音と、遠くから響く波の音だけである。

 目が覚めた士道は自分が休憩所に寝かされている事に気が付いたが、その直後、耶倶矢と夕弦に引っ張られてこの森の中へと足を踏み入れていた。

 

「その、ありがとね」

「感謝。夕弦たちは2人で生きることを決意しました」

 

 と、突然2人が恥ずかしそうに両手を前で組んでもじもじとしはじめる。

 

「その、お礼と言ってはなんだけどさ……これでも私達はあんたに助けられたわけだし?」

「贈呈。受け取ってください」

「え、ちょ……っ⁉︎」

 

 2人は同時に士道の両手をを取るとぐいと引き寄せた。そして目を瞑りそっと口づけをする。

 

「た、足りないとかは無しだからね! 私達のファーストキスなんだから」

「羞恥。やはり恥ずかしいものですね」

 

 2人は顔を真っ赤にして上目遣いで士道を見る。

 突然の出来事に思考が停止してしまう。それによって士道は2人の行動が何をもたらすのかという事まで考えることが出来なかった。気づいた時には既に遅し。2人の霊装は溶けるように消え去って行く。

 

「きゃああああああああああああああ!」

「シドー? こんな所で何をしているのだ?」

 

 それと同時に茂みの奥から士道を探していた十香が姿を現す。

 

「と、十香⁉︎ これは、違うんだ!」

 

 十香は最初士道の言っている意味を理解出来ていなかった。しかし彼の奥で両手で肩を抱えて崩れ落ちる耶倶矢と夕弦を見つけてしまう。

 

「ななな、何をしているのだシドー!」

「だから、違うっ……ぐほっ⁉︎」

 

 抵抗する間も無く士道の視界は暗転する。

 

 

 

 

 

 

 夜の海。静かな砂浜。そして目の前には眠る一国の王様が。私はその彼にそっと唇を寄せて……。

 

「何をしてるのかなー?」

「うわぁっ⁉︎」

 

 1人で最高のシチュエーションを実現しようとしていると、後ろから不意に声を掛けられた。ちょっといけない事をしようとしていただけに、思わず変な声が出てしまう。

 

「あれあれー? ステラちゃんはもしかしてー……わお、本当に惚れ込んでるんだ」

「ちょっと! 心を読まないで!」

 

 突然現れたマイに自分の心を読まれてしまった。ステラは慌ててマイを止めようとする。

 

「くふふふ、これは面白いものを発見してしまいましたねぇ。彼を愛するステラちゃんは寝込みを襲ってあんな事を……」

「ち、違うから! 変なことなんてしてないから!」

「どこが違うのかなぁ? さっきのあれはもう完全に……」

「いやああああ! 言わないでぇ!」

「あっははははは」

 

 マイは大笑いしながら砂浜を走り、その後ろをステラが涙目で追いかける。夜だと言うのに何とも元気なことだ。だがその状況を快く思わない者もまたその場にいた。

 

「あんたらねえ……」

「あ……」

「げっ……」

「さっきからドタバタうるさいのよ!」

 

 気持ちよく砂浜で寝ていたリアは近くで2人が暴れ回ったせいで目が覚めてしまった。それでもしばらくは我慢していたのだがどちらかの飛ばした砂が降り注いだことでついに限界が。

 

「ったく、夜なんだからもっと周りの事を考えなさい」

 

 騒ぎが収まった時には2人とも綺麗に砂浜に埋められていた。何故かマイは頭から地面に埋められ、足だけが地上に姿を見せていたが。

 そしてその頃、海底に沈められ意識を失っていた彼もまた目を覚ます。

 

「…………かはっ、ゴホッ、ゴホッ……何があった?」

 

 直近の記憶が曖昧だ。ステラ達と分かれて3人目を探していたのは覚えているのだが、その後の記憶が無い。自分は今まで何をしていたのだろうか。

 

 辺りを見ると自分は砂浜に寝ていたことがわかる。何故か全身水浸しで、息苦しくもあるが。

 まだはっきりとしない意識の中周囲の状況を確認すると、砂浜から顔と足が生えているという奇妙な光景が広がっていた。

 

「あら、起きたのね」

「何だこれは。何があった」

「安心さなさい。マイはちゃんと捕まえたから」

 

 そう言って砂浜から生える足を指差すリア。彼女の言うことが本当ならそこに生えている足はこの島にいた3人目なのだろう。ソーはその足を引っ掴むと上に引っ張り上げた。

 収穫されるじゃがいものように砂の中からその体が現れる。

 

「げっほ、げっほ、うえっ……ぺっ、なんで私だけ頭からなの⁉︎」

 

 口の中に入り込んだ砂を吐き出しながらマイは叫ぶ。そしてリアに仕返しをしようとして、自分を持ち上げている者と目があった。

 

「あ…………」

「お前が3人目か?」

「…………うわああああ! ごめんなさい、悪気は無かったんですう」

 

 突然謝り出した彼女だが、直前までの記憶が無いソーは彼女が何に謝っているのかすら理解していない。

 ソーは掴んでいた足を離してマイを立たせるとついでに顔だけ地面から突き出ているステラも掘り起こす。

 

「一体何があった? 俺はコイツを探して森の中を歩いていたはずだが」

「まあ、簡単に言うとあんたがその子に操られて私たちに襲い掛かって来たのよ」

「何だと?」

 

 ソーは咄嗟にマイの方を見る。すると彼女は肩を大きく跳ねさせて後退した。

 

「それであんたを正気に戻す為に一回海に沈めたのよ」

「…………それでこんなに頭が痛いのか」

「もう、本当に心配したんだからね」

 

 ようやく砂の中から這い上がったステラも彼の隣に立つ。ソーはビクビクと怯えているマイの方へと向かうとその前に立った。

 

「な、何をするつもり? まさか、私の体であんなことやこんなことを……ぎゃうん!」

 

 1人でよく分からないことを想像し始めた彼女にソーは強烈なデコピンを一発くらわせた。余りの痛さに彼女はその場に蹲って頭を押さえている。

 

「散々手間をかけさせた罰だ」

「ああうぅ、痛いよお」

「さて、これにて一件落着ね。私は寝たいから戻るわね」

 

 リアは欠伸をしながら先に宿へと戻って行く。この2時間ほどで本当に色々な事があった。まさか3人目を見つけるのにこんなに苦労するとは、この修学旅行が始まる時には誰も想像していなかっただろう。かくれんぼの末に操られて海に沈められる始末である。おまけに頭が痛い。本当に最悪な1日だ。

 そしてソーはこの島にいた精霊の事を思い出す。いつのまにか荒れていた空は鎮まり、島の上空には星空が輝いているが、向こうは上手く収まったのだろうか。

 

「そう言えば、士道の方はどうなったんだ?」

「何とかなったみたいだね。この綺麗な星空がその証拠だよ」

 

 この星空を見上げていると、先ほどまでのどたばたがまるで嘘であったかのようである。ステラは空に輝く星を見ながら、そっと彼の手を取った。

 

「結局2人は付き合ってるの?」

「うひゃあ!」

 

 その様子を後ろから見ていたマイがふと思い出したように言い、彼女の存在を完全に忘れていたステラは不意を突かれ変な声を上げる。

 

「マ、マイ、これはね、その、……」

「あ、言わなくても分かるから」

 

 さらりと全てを知られたステラは羞恥のあまりその場に崩れ落ちる。

 

「そうだ! こっちに聞けばいいんだ! えーっと、ソー? だっけ? 君はステラちゃんのこと、どう思ってるのかな?」

 

 改めて考えると自分とステラの関係は他人から見てどう写っているのだろうか。彼女にこの世界へと引きずり込まれてから早3ヶ月。共に生活して行く中で自然と彼女がいることが当たり前になっていた。

 彼女は魅力的だ。その明るい笑顔で周囲をいつも和ませてくれる。たまに抜けている所もあるがやる気になった時の表情は真剣でかっこいい。そして彼女と一緒にいると、何とも言えない気持ちになる。

 

「やはり気に入っているということなのか……」

「たっははー、ゲロ甘だね。甘い空気は苦手だから、私は退散しなくちゃね」

 

 マイは面白いものを見るような目2人を見ると、スタコラサッサとその場を離れて行った。

 

「何なんだあいつは」

「あの子は面白いものが好きだからね」

 

 砂浜を走って行くマイの後ろ姿を見送りながらステラの隣に座る。自然と2人の手は繋がれていた。

 

「ようやく3人だ」

「まだ3人だけどね。これからまた忙しくなるよ」

「俺はもうアレで充分だがな」

 

 チラリと今しがた走って行った奴に視線を送る。たった1人見つけるのに随分と時間がかかってしまった。まだこの世界の何処かに3人もいるというのに、この調子ではいつになったら全員揃うのか全く予想がつかない。

 

「みんな自由奔放だからね。見つけても素直について来てくれるか分からないんだよ」

「迷惑な話だ」

 

 この世界に全知全能の存在がいるのなら、そいつに今すぐ他の奴らの居場所を聞きたい。まあ、そう都合の良い存在などいるはずもないのだが。

 学校はこれから夏休みに入るため、ステラ達は毎日登校することが無くなる。今回のことで大分苦労したのだし、少しくらいは休息を挟んでもいいだろう。

 そう考えていると、先にステラの方が口を開いた。

 

「私たちはこれから夏休みだけど、ソーは毎日捜索に行くの? 宿題もあるけど、出来るだけ手伝うよ」

「まあ、大体は捜索になるだろうな。お前は帰り道を見つける方を優先すればいい。幸いな事に暇そうな奴が今日増えたからな。どうこき使ってやろうか、これからが楽しみだ」

 

 あれだけこちらを振り回してくれたんだ。まずは労働で償って貰わなければならない。

 

「むう、私じゃなくてマイの方に行くんだ」

「おいおい、何でそうなる。お互いやるべき事があるだろう? ……ああ、分かったからそんな目で見るな」

 

 こちらの世界に来てから毎日働いていたせいか、働き癖でも付いてしまったのだろうか。もしそうだとしたら〈ラタトスク〉に抗議しなければならない。自分の自由な時間はどこにあるんだと。まあそんな事を言えば琴里に蹴り飛ばされそうなのであまり言う勇気は無いのだが。

 ステラの悲しそうな目に彼はついつい押し負けてしまう。

 

「私は2人で何処かに出かけたりしたいけどなー」

「時間があったらな」

「言ったね? 約束だよ!」

 

 そう言うとステラは小指をすっと前に出してきた。ソーもその指に自分の指をかける。

 

「さっ、私たちも戻ろっか」

「そうだな。早く戻ってゆっくり寝たい」

 

 今日はもう何もやる気にはならない。さっさと休んで残りのことは明日にでもやればいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 修学旅行の一行は天宮市へと戻る準備をし、午前の最後の自由時間を楽しんでいた。

 

「それじゃあ、また後でね」

「ああ、お前たちも気を付けろよ」

「ふふん、この僅かな時間に私とこの人が良い仲になっちゃうかもよ? あいたっ!」

 

 ごつんとマイの頭に拳骨が落ち、彼女の頭には2つ目のタンコブか作られた。

 実は昨日の夜、ソーの部屋にマイが忍び込み、勝手に布団に潜り込んで一晩を過ごしていた。今朝それに気づいたソーは彼女の襟首を掴んで部屋の外に放り出したのが、タイミングの悪いことに丁度扉の前をリアが通過するところだった。その結果2人仲良く頭の上にタンコブを作る羽目に。

 昨日今日でマイの身勝手な行動による被害を受けている彼は正直彼女にあまり関わりたくは無いのだが、彼女を一緒に連れて帰らなければならない以上共に行動するしかない。

 

「覚えてろよ。今度たっぷりこき使ってやるからな」

「うう、悪かったからさー。朝ステラに殺されかけたんだよ私」

「そりゃそうでしょ」

「本当だよ。次やったら承知しないからね」

 

 マイの恐怖体験は置いておき、そろそろここを出た方がいいだろう。他の生徒たちに目撃されるのはあまりよろしくない。

 

「俺たちは一足先に帰るぞ」

「まったねー」

 

 ソーとマイを見送った2人はぼちぼちと集まり始めた生徒の集団に合流する。しばらくすると周りがざわざわとし始め、皆がある方向を見ていることに気がついた。

 

「あっちもあっちで大変そうね」

「うーん、でもその方が士道君らしいというか……」

 

 生徒たちの視線の先では、両腕を双子の姉妹に挟まれ、背中に十香を乗せた士道が男子からのブーイングを受けていた。

 

「ソーがああならないといいけど」

「私がそうはさせないから大丈夫だよ」

 

 そう言うステラの笑顔にリアは軽い戦慄を覚えた。一言で言えば、いい笑顔である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして3日間の修学旅行は幕を閉じた。

 これに参加するために、遅れを取った勉強を頑張りテストに挑んだステラ。なんだかんだで行き先変更となったが、それなりに楽しいものであった。途中マイのせいで大分振り回されたが、今朝きっちり絞ってきたので暫くは大人しくしているだろう。

 これからは夏休み。ソーと出かけたい気持ちが今にも溢れ出してしまいそうだが、まずは宿題を終わらせなければならない。そして帰り道を見つけるための研究。

 そう考えるとまだまだやるべき事は山積みだ。彼と出掛けるためにも、早めに宿題は終わらせておこう。

 

「夏休みも忙しくなりそうだね」

 

 ステラはそう呟き、帰りの飛行機へと乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、やってしまった。このままではいけないと分かってはいるのに。

 

(「手がかり? そんなものは無い。気力も、サノスの情報も、戦う術も無い。全くの、空っぽ。そして、君への信頼もだ」)

 

 そうやって分裂したからまともに戦うことすら出来なかった。ただの、一方的な蹂躙。そして大切なものを失った。手からこぼれ落ちる砂のように、それらは彼の前から姿を消して行った。

 ふと棚の上に置かれた写真立てが目に入る。親愛なる隣人として活躍する筈だった、1人の少年がそこには写っていた。

 

(「息子はあんたに殺されたの」)

 

 嫌な記憶が蘇る。かつて息子を亡くした母親に言われた一言。それが未だに胸に深く突き刺さっている。

 

『ボス、そろそろお休みになっては?』

「まだ72時間だ」

 

 スピーカーから助手の声が聞こえてくるが適当に返事をする。

 

「はぁ……」

 

 結局同じことを繰り返している。自分は何も成長出来ていないではないか。

 作業台の上に置かれた光輝く動力源。本当はあと3つ程作りたかったが、そんなやる気も起きない。何より彼女を心配させてしまう。

 そう、ここに戻って来た時の唯一救いは、彼女が生きていてくれたことだろうか。彼女だけは、失う訳にはいかない。

 だから、自分は何をすれば良いのだろうか。何をすべきなのだろうか。答えを見つけられないまま、毎日をただ暗い気持ちのまま過ごしている。

 

「やっぱり寝るか……」

『片付けはやっておきますので、今はゆっくり休んで下さい』

 

 耳に入る機械音声を最後に、彼はソファの上で眠りに付いた。

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