GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
視界には迫り来る巨大な斧が写っている。先程の一撃でよく分かった。あれはただの斧ではない。それを軽々と振り回すあの少女もただ者ではない。
迫り来る斧の速度と自分が動ける速度。どう考えても向こうが上回っている。これは避けられない。トニーは自分の前に盾を展開すると衝撃に備え構えを取った。
「とりゃあああー!」
「っ⁉︎」
だが琴里の一撃はトニーに当たることはなく、空を切る。横にいたステラがトニーに体当たりを喰らわせ、そのまま空間転移。屋外へと放り出したのである。
一気に視界が開け、外の光景が視界に映り込んでくる。どうやらここは何処かの海の上のようだ。
ジェットを吹かせてバランスを取り直していると、目の前を先程体当たりして来た少女が落下していった。
「フライデー、ここはどこだ?」
『衛星との通信は確認できません。ですが大気中の成分などは地球と良く似ています』
その時、突然体に衝撃が走った。何事かと確認すると先程落下していったはずの少女が自分の腰にしがみついている。
「捕まえたー!」
「くっ……いつの間に」
ここに重力が働いていることは確認されている。そしてこの少女は確かに落ちていった筈だ。何故上から降って来たのか。
トニーは少女を振り解こうとするがこの少女、めちゃくちゃ力が強い。おまけに少女からは物凄いエネルギー反応が出ている。
トニーはこの少女がただの人間ではないことを察した。
「だったら……」
姿勢を変え、地上へと向かって一気に加速する。その速度はあっという間に音速を超え、雲を掻き分けていく。
「うわああああ⁉︎」
だがそれでも、しっかりとしがみついた彼女は離れる気配がない。そうしている内に海面が見えて来た。遠くには陸地も確認できる。
トニーは急激に減速、方向変換すると陸地へと向かって飛行した。
「フライデー、電気ショックだ」
『ボス、相手は女の子ですよ』
「その女の子に私は捕まりかけてるんだぞ。それにどう見てもただの女の子ではない。なんだこのエネルギー量は」
『はあ、仕方ないですね』
トニーのサポートAIフライデーはため息を吐くとしがみついているステラに声をかけた。
『コホン、そこの貴女。今すぐ手を離すか痺れるか、選ばせてあげます。どちらか選んでください』
「だって離したら逃げるでしょ!」
風の音がうるさすぎて、大声で叫んでもなかなか聞きづらい。
『そうですか。それでは……』
フライデーは相手が手を離さないと判断したため、掴まっているステラの腕に電流を流し込んだ。
「あいたっ! って、うわああああああ⁉︎」
バチッ、という音と共にステラの腕が離れる。そしてそれと同時に彼女の体は重力に従って真っ逆さまに落下していった。
「よし、今のうちだ」
ステラが手を離した隙にトニーは一気に加速するとそのまま陸地へと向かって飛行。街の中へと着陸した。
「ここは地球なのか?」
路地裏に着地したトニーはスーツを解除すると胸元のポケットからサングラスを取り出して装着した。
『大気の成分は地球と酷似しています。しかし一部解析不能な成分が。地球には存在しない成分です』
「おいおい、未知の世界に放り出されたってことか?」
『自分から1人になったのはボスではありませんか』
「あれは捕まったらやばいパターンだろ」
小声でフライデーと会話をしながら街を歩く。大通りには人が行き交い、喧騒が広がっている。そしてトニーは人混みの先に見つけてはいけないものを見てしまう。
視線の先には青い髪の少女。キョロキョロと見回しながら歩いている。
「くっ、何でもういるんだよ」
『面白い子ですね』
少女に見つからないように顔を隠しながら、トニーはひっそりと街の人混みを後にしようとした。だが……。
「あ、見つけた!」
「げっ……」
距離は離れていたはずの少女がこちらに気付いてしまった。顔も見せていないはずなのになぜ分かるのか。考える前にトニーはその場を走って逃げ出した。
「十香! あんまり走ると転ぶぞ!」
「私はお腹が空いたぞ! 早く帰って昼餉の時間だ!」
この暑いのに、何とも元気なことである。
士道は元気よく前を駆けていく十香を微笑ましく思いながら、その後を歩いていた。
「むふふん、本命は十香ちゃんってことかなあ?」
「うわっ⁉︎ いきなり何言い出すんだよ!」
突然耳元で囁かれた言葉に士道は肩を大きく跳ねさせ、話しかけてきた者から距離を取る。
「だってさー、どう見てもカップルじゃん? まあ、私は聞かなくてもシドー君の考えてることなんて分かっちゃうんだけどね」
慌てる士道にマイは悪びれる様子もなくさらさらと答える。
今日は買い出しに十香とマイが付いてきた。最初は十香と2人で行く予定だったが、暇だからという理由でマイが付いてきたのだ。
「勝手に心を読むなよ。というか、そうやって力を使ってても良いのか?」
「ま、まあ、良くはないんだよね。バレたらコトリンに締め上げられるんだけど……」
「全然駄目じゃねえか……」
「あっはっは、細かいことは気にしない!」
「シドー! マイ! 遅いぞー!」
「今行く!」
2人で駄弁っていると前方から声が響いてきた。いつのまにか十香との距離が開いてしまったようである。
「やれやれ……ほんと、十香ちゃんは元気だよね」
2人は歩くペースを少し上げると、前でこちらを向いて立ち止まっている十香の元へと歩いていった。
たがその途中、路地から飛び出してきた人と衝突してしまう。
「うおっ⁉︎」
「おっと! 悪い!」
飛び出してきた人はサングラスをかけており、顔はよく窺えない。その人はぶつかった士道に軽く謝るとそのまま走って行ってしまう。
「うーん? なんだろ、あの人。ものすごく焦ってるけど」
「焦ってる?」
「こらー、待ちなさーい!」
その時、同じ路地から今度はステラが飛び出してきた。
「ステラ、何でここにいるんだ?」
彼女は今、〈フラクシナス〉にてリアと共に実験を行なっている筈である。
「あ、士道君! マイ! ちょうど良かった。あの人捕まえて!」
「何でまたそんな急に……」
「いいから!」
ステラに急かされて、めんどくさそうな表情をしながらもマイは遠ざかって行く影を追って後ろを走り出した。
「あの人が何だって言うんだ⁉︎」
走りながらステラに問いかける士道。
現在士道とマイ、そして十香を加えてトニーの後を追っているステラ。彼女は真っ直ぐに前を見ながら先程起こったことを3人に話した。
「はあ、はあ、つまり、あの人はお前らと同じ世界から来た奴ってことか⁉︎」
「多分そう!」
住宅街をくねくねと曲がり、鬼ごっこが繰り広げられる。
「2人はあっちへ回ってくれ! 十香! こっちだ!」
「ああ!」
ここで二手に分かれ、対象を挟み撃ちにする。ステラとマイは先回りをし、士道と十香はこのまま直進だ。
『ボス、挟まれましたよ』
「まだ空という手があるけどな」
「待って!」
「はあ、はあ、と、十香、速すぎるぞ」
「昼餉のためだ! さあ、観念しろ! 逃走者!」
十香がビシッとトニーの方を指差す。
「あっれえ? この人って確か……」
どうやらマイもトニーのことに気が付いたようだ。彼女も彼に会ったことがある。
「スタークさん!」
「何のつもりだ? 何故私を知っている?」
トニーは警戒の眼差しで両側を挟んでいる4人を睨む。
「まずは突然転移させたことを謝るね。驚いたよね、あれは私のせいなの」
「空間転移? 何処かで聞いたことがあるような……」
空間転移、ニューヨーク、青白い光、宇宙を繋ぐ穴、4次元キューブ。
トニーの頭の中にはその言葉に関連する事象が次々と浮かび上がった。だがあの石はサノスの手に渡りその後行方不明になっている筈。こんなわけの分からない所にあるはずがない。いや、決めつけるのは早計といったところか。もっと柔軟な思考をしなければ。あり得ない所から新しい発見はあったりするものだ。
『現在彼女の発している微弱なエネルギーはスペースストーンのものと非常によく似ています。ついでに言うと、その隣の子もです』
「どういうことだ? 石が意思を持ってるってのか?」
『夏なのにこんなに寒いのは一体何故でしょう?』
「そんなつもりはなかった」
『まあそれは置いておき、聞きたいのなら本人に聞くのが一番でしょう』
聞きたいことは山ほどあるが、まずは彼女に確認しておきたいことがある。
「私は君を知っているのか?」
「ええ、あなたのビルの上でお世話になったからね」
こう言われてはもう認めざるを得ない。
「スペースストーン……何故こんな所に?」
「詳しく話すと長くなるから、話せる場所に行きたいのだけど……」
彼女が顔も見せていないのに自分を追ってこれたのは向こうが自分のことを既に知っていたからであった。では残りの3人は一体誰なのだろうか。青い髪の子の隣に立つ子も微弱ではあるが同じようなエネルギーが観測されている。
そして向こうは自分たちについて来いという。まだはっきりとした確証がある訳でもない。ついて行って捕われました、では笑えない。
「ちなみに隣の子は?」
「彼女はマイ、あなたも会ってるはず」
「……マインドストーンか」
ロキの杖、ヒドラ、双子、ヴィジョン、あの石には悪夢しか見せられていない。トニーはこれまでのことを思い出して思わず頭を抱えてしまった。
「はあ、嫌なことを思い出した。それで、こっちの2人は誰なんだ?」
今度は反対側にいる2人の方を見る。こっちの2人はどうやらただの人間のようだ。1人は中性的な顔立ちの若い少年。もう1人は豊かな表情を見せている美しい少女だ。
「この2人はこの世界の人だよ。その辺も帰ってから話すよ」
「私は誰を信用すればいい?」
「それは君が思ったものを信じればいいんじゃない?」
この短時間で信じられない体験をし、衝撃の事実を目の当たりにしたトニーは頭が若干混乱しており、一体何が本当で何が嘘なのかも分からない。迷子の子供のような精神状態になっていた。
だがマイはキッパリと言い切った。その人の信じたものがその人の心であると。
「…………」
『ボス、どうされますか?』
「分かった。君たちについて行く。案内してくれ」
「つまり、サノスから逃げるためにこの世界に来たのはいいが、帰り道が分からなくなってここにしばらく滞在していたと?」
「まあ、そういうことだね」
その晩、五河家に案内されたトニーはリビングでこちらの世界について教えてもらっていた。
「いやーしかし、スタークがこちらに来ることになるとはな」
ソファにどっかりと座るソーがビールを片手に喜んでいる。
「突然の異空間とは、とんでもない招待状が届いたもんだよ。というより君は何でここにいるんだ? 行方不明だからみんな探してたんだぞ」
「ああ、悪い。俺も突然この世界に引っ張り込まれてな」
「私がこっちの世界に来るときに一緒にね」
それから今までどのような事があったのか、この世界にいる精霊という存在などについて多くの話を聞いた。中々信じられないような話が沢山あったが、トニーにはまだ一番気になっていることがあった。
「何故ストーンが肉体を持っているんだ?」
少なくとも5ヶ月くらい前ではまだストーンはあくまで石であり、このように自分で喋って動いたりはしていなかったはずだ。一体何があったというのか。
「この話も、そろそろしておいた方がいいかもね」
壁に寄りかかっていたリアが前に進み出る。
「あの日、宇宙の半分の生命が姿を消したあの日、私たちはあの男と共にある星へと移動したわ。目的を達成したあいつは体もボロボロ、それから何日かは大人しくしていた」
「でもある日、ある程度回復してきた彼は次の行動に出ようとしたの」
リアの言葉を受け継いだステラは暗い表情を見せる。宇宙の半分の生命が消え去ったのだ。あまり気分の良い話ではない。
「あいつの計画にまだ先が?」
実際に戦ったソーはあの時のあの男の顔を思い出す。斧で胸を抉ったがそれでも止められなかったあの日のことを。
ぐしゃりと手に持っていた缶が潰れる。
「ソー?」
その様子を見て異変に気付いた士道が声を掛けた。それを何でもないと簡単に誤魔化す。本当は今すぐにでもあの男を殺しに行きたいという衝動に駆られているというのに。
「私たちは基本的に不干渉。手にすることが出来るのはそれにふさわしい力を持つ者だけ。これまではそれだけで所有者を選別していた」
「ところがどっこい、それじゃあ全然ダメだってことに気付いちゃった訳」
「あの男は使い終わった私たちをどうしようとしたと思う?」
宇宙の特異点から生まれた6つの石。それらは強大すぎる力を持ち、これまでも歴史の中に何度かその姿を見せてきた。単体でも厄介、6つ集まっても厄介。目的を達成したサノスが不要となった石にその後何をするのか。
「まさか……」
士道は彼女たちの雰囲気とこれまでの話からそれを察してしまった。彼自身、この戦いに参加したという訳ではないのに。
「あいつは私たちを無に還そうとした。破壊しようとしたのよ。でも、それが何を呼ぶか分かる?」
インフィニティ・ストーンはそれ1つで歴史の流れを生み出す。それほどまでに強大な力を持ったものなのである。それらが6つ、一気に消滅したとしたら、宇宙のバランスはどうなってしまうのか。
「ただでさえ、半分の生命が消滅してバランスが一気に傾いたこの宇宙から私たちが一斉に消え去ったら宇宙はそれこそ崩壊してしまう。だから私たちに防衛反応が出たの」
「それがこの結果というわけか」
真相を知らされたソーは考える。
サノスはあれだけ必死になって集めたストーンを、使い終わったらさっさと破壊しようとした。それは石を残しておくと彼にとって不都合なことがあるからだ。石は6つ揃えれば宇宙をやりたい放題にすることが出来る。ということは、失った半分の生命も戻すことが出来るのではないだろうか。
だがその前に、あの男にはきっちりと復讐をしておかなければならない。親友や弟はもう2度と帰っては来ないのだ。
「奴だけはこの手できっちり殺す」
彼はそう呟くと、先にリビングを後にするのだった。