GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第33話 再来

「ここが、ソーの住んでいた世界なのか……」

 

 静寂に包まれたかつての街。立ち並ぶ静かな建物や荒れた公園、人の居ない通り。

 士道はそんな街の様子を見て息を飲んだ。

 

「こうなってもう4ヶ月だ。整備のされていない公園なんかはあっという間に荒れたね」

 

 先頭を歩いているのはトニー。その後ろにソー、ステラ、リア、マイと続き、最後に士道と四糸乃がいる。

 

「なんだか、薄暗くて、こわい、です……」

『四糸乃、あんまり無理しちゃダメだよー』

「四糸乃? 大丈夫か?」

「は、はい」

 

 士道が不安そうにしている四糸乃の手を取ってやると、彼女は明るい笑みを浮かべた。

 ここはニューヨーク。かつては世界でも有名な大都市だった。世界中から人が集まり、店が立ち並び、多くの人が行き交っていたこの街も、数ヶ月前のあの出来事が起こってからはその活気が嘘であったかのように静まり返っていた。

 

「本当に人が居ないんだな……」

「ここだけじゃ無いわ。この世界、この宇宙の半分の生命が消滅した。他の星でも同じようなことが起こってるはずよ」

 

 数ヶ月前までここには多くの人が居たのだろう。その痕跡はまだはっきりと残っている。だが今のこの景色は正直言ってとても不気味だ。人の気配はせず、街の明かりもない。風に吹かれた木の葉が道路の上を走っていく。

 

「他の奴らは今何を?」

「サノスを見つけたらしい。それで奴の居場所へと向かう予定だった。それがもう4日前の話だ」

「だとすると、今頃はもう帰っているか、そろそろ帰って来るのか」

 

 石を見つけるため、サノスの元へと向かったみんなは一体どうなったのだろうか。トニーは携帯を確認しながらそんなことを思った。こちらの世界に戻ってきてから一応連絡をしてみたが繋がらなかった。おそらくこの星には居ないのだろう。

 

「一旦施設に向かおう。その辺の車を拝借する」

「さらりと盗みをするんだな」

「今のこの世界じゃ、政府機関すらまともに動いちゃいない。使えるものは使っていくのさ」

 

 何とも思っていない様子のトニーに士道は苦笑するしかなかった。という訳で一行は近場にあったトラックに乗り込む。

 

「どこへ向かうの?」

「拠点だな」

 

 トニーがトラックを運転し、他のメンバーは荷台へ。しばらく揺られているとふと外の景色を眺めていたマイがそう聞いてきた。

 

「拠点? こんな外れにあったっけ」

「お前は知らないだろうな。こっちは後から出来たものだ」

「ふーん」

 

 ソーは寄りかかって眠るステラの肩を抱きながら答える。

 

「いつの間にそんな仲になったのさ?」

 

 そんな2人の様子を見たマイは交互に2人の顔を見る。ステラの顔はすっかり安心しきった子供のようである。

 

「さあな、自然とこうなった」

「おやおや、ステラちゃんも隅に置けませんなあ」

 

 ニヤニヤと笑いながら2人を囃し立てるマイ。だがソーは全く気にしていないようである。それが面白くなかったのか、マイは隣に座っていたリアの方に揶揄いの視線を向けた。

 

「何よ」

「いやあ、べっつにぃ? 私は何とも思ってませんよぉ?」

「はあ? 何が言いたいのよ」

「ステラちゃんにはこんなにイケメンな彼がいるのに、リアっちの方は音沙汰無しだなぁ、なんて思ってませんよ?」

「へぇ、それは自分がどうなるか分かってて言ってるのよね?」

「な、何の事かなぁ?」

 

 急激にリアの周囲の空気が凍り付いたことを感じ取ったマイはダラダラと額に嫌な汗をかいている。

 

「あ、でもそうやって手を出してくるあたり、自分にそういう事が向いてないって事が分かって──ぶぎゃっ⁉︎」

「ちょっとその口を縫い付ける必要がありそうね」

「いひゃい! いひゃいでふ!」

「ふんっ!」

「ぐぎゃっ⁉︎」

 

 荷台の壁に頭から叩きつけられたマイは一撃で撃沈。お尻を突き出したまま床に沈むという無様な姿を晒す事となった。

 

「あわわわわ」

『四糸乃、これが本当のNGワードってやつだね』

「しっ、よしのん。そういうことは言っちゃダメだよ」

 

 狂気の顔をしているリアと床に沈んだマイを見て四糸乃はすっかり縮こまってしまった。ここは立ち入ってはいけない領域だと、直感がそう告げている。余計なことを口走りそうなよしのんの口を塞ぎ隣の士道を見ると、士道は優しく頭を撫でてくれた。

 

「リア、あまり乱暴なことは控えてくれよ。四糸乃が怖がってる」

「わ、悪かったわよ。……私だっていつかは」

 

 ポツリとつぶやいた言葉は誰にも気づかれることなく、風と共に流れて行く。

 それからトラックは道を進み続け、やがてある場所で停止した。

 

「ここが……」

「ああ、私達の拠点だ」

 

 運転席から降りてきたトニーは入り口の扉の前へと進んでいく。そして扉の所で何やら認証のようなものを済ませると、入り口の扉が自動で開き始めた。

 

「ようこそ、アベンジャーズへ」

「アベンジャーズ?」

「あー、チーム名みたいなものだな」

 

 トニーを先頭に一行は中へと進む。一名トラックの中で気絶している者がいたがリアが叩き起こしていた。

 

「誰も居ないのか?」

「その可能性が高いな」

 

 ソーは久しぶりに帰って来た施設の中を確認するが人が居る様子がない。通常なら何人かは居るはずなのだが。

 

「適当にその辺に座っててくれ」

 

 後から来た士道たちにそう言うとトニーは奥の方へと姿を消していった。

 士道はソファに座り、部屋の中をぐるりと見てみる。落ち着いた雰囲気の家具が置かれており、何やらディスプレイのような物がいくつか設置されている。

 ソーがそのディスプレイの1つを起動させると宇宙のようなものが映し出された。

 

「これは……」

「どうやら宇宙旅行でここには居ないようだ」

 

 映し出された画像を見ていると奥に行っていたトニーが戻ってきた。どうやら人は居なかったようである。

 

「ここに向かったみたいだね」

 

 同じくディスプレイを見ていたステラが1つの星を指差す。その星はチェックがつけられどういった場所なのかという情報が簡潔に書かれていた。

 

「ここに行けばサノスが?」

「待て待て。今私達がここから離れたら彼らはどうするんだ?」

 

 直ぐにでも出発しそうな勢いのソーの肩を掴んで何とか止める。ここにはこの世界のことを何も知らない士道と四糸乃がいる。彼らを置いて自分たちだけで行動することは出来ない。そう伝えるとソーは渋々とソファに座り込んだ。

 

「今は皆が帰ってくるのを待つしかないか」

「そんなに遠くもないし、その内帰ってくるでしょ」

「帰って来たらこんなに人が増えてて驚くだろうけどね」

 

 今画面に写っているこの星に行っているメンバーはソーやトニーが帰って来たことを知らない。行方不明になっていた2人が帰って来た上に知らない人が増えていれば、驚かずにはいられないだろう。

 

「今は待つしかないな」

 

 トニーはそう言うとコーヒーを淹れるためにキッチンの方へと歩いて行くが、ふと携帯に着信が来ていることに気が付いた。

 

「……やばいな」

 

 その画面に表示されていた名前を見て彼の顔は硬直する。そこに書かれていたのはペッパーという名前。彼の妻であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはどういうこと?」

「ああ、なんだ……複雑な事象があったんだ」

「まだあれから半年も経ってないって言うのに、一体どれだけ心配を掛けさせれば気が済むの⁉︎」

「悪かった、本当に反省してるんだ」

 

 先程から1人の女性に一方的にお説教を食らっているトニー。その姿を遠巻きに眺めていた士道は女の人って怖いな、と少なからずそう思っていた。

 

「あれが、本物の夫婦喧嘩、でしょうか」

「四糸乃? そんなに感動する場面じゃ無いぞ?」

「す、すみません」

 

 テレビの向こう側だけの話だとそう思っていた四糸乃にとって、昼のドラマでよくやっているシーンと同じことが目の前で繰り広げられているというのは何とも新鮮な出来事であった。現にトニーがペッパーにお説教をくらっているのを見てキラキラと目を輝かせている。

 

『四糸乃も、士道くんのお嫁さんになったらああいう風に士道くんにお説教する日が来るんだよ?』

「ふえ⁉︎お、お嫁、さん……」

「よ、よしのん⁉︎ 急に何言い出すんだ⁉︎」

『士道くんも、四糸乃にお説教されて喜んじゃうような特殊な人間に……』

「俺は神無月さんとは違うからな⁉︎」

 

 中学生に踏みつけられて喜んでいるあの金髪の変態とは違うと士道はたまらず叫びを上げた。

 

「賑やかよね。あんた達さっさとくっついちゃったらどうなの?」

 

 仲良さげな士道と四糸乃の様子を見ていたリアがそこに横槍を入れる。

 

「ダメだよ。ヨッシーは天使なんだからさ」

「私が言ってるのはね、ここにいない他の子たちともさっさとくっ付いたらってことよ」

 

 マイが四糸乃を背後から抱きしめる。

 

「ただのだらしない男じゃえねえか」

「違ったかしら?」

「う……」

「さっさと全員貰っちゃいなさいよ」

 

 自分がきちんとした人間かと問われるとはっきり答えられない。言い淀んでいるとリアがさらに追い討ちをかけて来た。

 

「大体だな、結婚っていうのは1人としかできないんだぞ」

「そんなのあんたの星だけでしょ?」

「え?」

 

 思わぬ言葉に思考がフリーズする。もしそんなことがあるとしたら、俺は一体どうなってしまうんだ。

 琴里は精霊が1人では無いと言った。現にこれまで十香、四糸乃、狂三、耶倶矢、夕弦と5人もの精霊と出会って来た。もし、自分が彼女たちと未来を歩むことを選ぶのだとしたら、一体どうすればいいんだ? 

 

「こらこら、リアっち。自分が結ばれないからってシドー君をいじめちゃダメでしょ。困ってるじゃない」

「また沈められたいのかしら?」

「い、いや、別にそういう訳じゃ無いよ?」

 

 彼の心情を察したマイが咄嗟にフォローを入れてくれた。普段はふざけているが彼女はこういう所に敏感に反応する。感情に敏感なのだろう。

 リアは減らず口を変わらず叩き続けるマイと取っ組み合っている。だが士道は先程の問いに対する答えを見つけられずにいた。いずれは直面する問題。その時までに、自分なりの答えが出せるのだろうか。

 

 その時、外で空気が揺れる音がした。まるで飛行機が着陸した時のような、ものすごい音が鳴っている。

 音を聞いたトニーは立ち上がるとモニターの方を確認する。そこには一隻の大きな船が写っていた。

 

 

 

 

 

 

「トニー、どこに行ってたんだ? 突然消えるから逃げたのかと思ってたぞ」

 

 船から降りて来たメンバーの中で真っ先にトニーの所にやって来たのは何やらメカメカしいスーツを着た黒人の男性。彼の名はジェームズ・ローズ。トニーの親友である。

 

「こっちも面倒なことに巻き込まれたんだ。決して逃げた訳じゃ無いぞ?」

「ははっ、分かってる」

 

 続いてやって来たのはスティーブだ。

 

「スティーブ、すまない」

「事情があったんだろう?」

「ああ」

 

 スティーブはトニーの肩を叩くとそのまま屋内へと向かうが、そこで自分の目を疑う。

 

「ソー?」

 

 その言葉に船から降りて来たメンバーも視線を集めた。何しろ4ヶ月もの間行方不明になっていたのだ。突然姿を現した彼に皆は驚いていた。

 

「私は先に帰る準備を整えておくね」

 

 ステラは状況を察したのかソーに一言残すと中へと戻って行った。

 

「ソー、今までどこに?」

「その事について話しておきたいことがある」

 

 スティーブは彼の真剣な目を見て頷くと皆に集まるよう指示を出した。

 

 

「こいつが五河士道。隣が四糸乃だ。俺はこの4ヶ月、こいつらの所で世話になっていた」

「彼らは一体どこの人なの? 見た感じ、東洋系の人でしょう?」

 

 最初に質問して来たのはナターシャ・ロマノフ。スティーブと共にこのアベンジャーズを引っ張るエージェントである。

 

「1つ言っておくが、こいつらはこの世界の人間ではない」

 

 この世界の人間ではない。その事実に一同はざわざわと会話を始める。トニーがパンパンと手を叩いて場を静かにさせた。

 

「各々信じられないという気持ちはあるだろうが、これは事実だ」

「そんな映画のような話があるのか?」

 

 ローディがまるで信じられないとトニーに訴えかけて来る。

 

「証拠はある。フライデー」

『かしこまりました』

 

 モニターに映像が流れる。そこにはマーク51に記録されていた映像が残っていた。〈フラクシナス〉の艦内での戦闘から上空15000メートルに放り出されたところまで。その映像を見て皆はようやくこれが本当のことであると認識してくれた。

 

「ここで問題がある。スティーブ、君たちはサノスの所へ行ったんだよな。そこに石はあったか?」

 

 トニーはピッとスティーブの方を指差して問いかける。

 

「なぜそれを?」

「いいから答えてくれ」

「……奴は石を持っていなかった。無くなったと言っていた。そしてそれを再び集めようとしていることも」

「奴はどうなった?」

 

 ソーが宿敵の存在を気にしている。彼としては自分の手で仕留めたかったのだろう。

 

「ダンヴァースがボコしやがったよ」

 

 彼の質問に答えたのはロケット。アライグマのような見た目をした生物でかつてソーと共に戦った戦友である。

 

「そうか……、士道? どうした?」

 

 ソーはサノスが既に手を下されたと知り落胆するが、ふと視界に入った士道の様子がおかしい事に気づく。

 

「い、いや、何でもない」

「先に休んでても構わんぞ」

「ああ、大丈夫だ。心配かけて悪い。それで、みんなの紹介はしなくていいのか?」

 

 士道はなんでもないと言うとソーの方に話を託した。だがその表情は未だに晴れてはいない。

 

「そうだったな。ストーンについてだが、ここにある」

 

 ソーは向かいに座っているリアとマイを指差した。

 

「この少女がそうだって言うのか? それこそ信じられない」

 

 ローディが証拠を見せろと言わんばかりに疑いの眼差しを向けている。

 

「マイ」

「了解〜」

 

 リアが一言マイに声をかけるとマイはローディの前まで歩いて行き、軽くお辞儀をする。

 

「どうも、はじめまして。今からあなたの考えてることを当ててあげるから、何か思い浮かべてみて?」

 

 突然の事にしばし硬直したローディだが、言われたとおりに自分が今食べたいものを思い浮かべた。

 

「んーとね、今君が食べたいものはピザだね。それもチーズたっぷりのやつ」

「こりゃ凄い、完璧だ」

 

 ローディはたまげたとばかりにマイと握手をした。

 

「これで分かったか? ちなみにそいつらはマインドストーンとリアリティストーンの力を持つ」

「一体ストーンに何が起こったんだ?」

「その辺は追々話していく。バナー、協力して欲しいことがあるんだが、大丈夫か?」

 

 トニーは科学者仲間のバナー博士に声をかけると彼にヒソヒソと話しかけた。

 

「実は向こうの世界で面白い技術を見つけたんだ」

「今度は何をする気だ?」

「なに、ちょっとした解析だよ。向こうでは顕現装置(リアライザ)と呼ばれているものだ」

「僕にどうしろと?」

「解析に協力してほしい。恐らく未知の技術だ。頭脳は多いに越したことはない」

 

 バナー博士は考えさせてくれとだけ残すとその場を去って行った。そしてその様子を見ていたナターシャがトニーの所へとやって来る。

 

「今度は何を企んでいるの?」

「企むとは人聞きの悪い。ちょっとした趣味だよ」

「あなたの趣味は悪趣味だからあまり関わりたくは無いけれど、あまり面倒なことはしないでよ。これから大変な時期になるんだから」

「分かってるさ。ちょっとした戦力の増強だ」

 

 トニーはそう言いながら早速頭の中でこれからの予定を考えていた。〈フラクシナス〉で見かけたあの技術。あれをアイアンマン スーツに取り込むことが出来れば大幅な戦力の足しになる。まずはあの仕組みを解析して扱えるようにしなければ。そうなるとあの士道という少年の妹に交渉しなければならない。

 

 1人で考え始めたトニーを目にしたナターシャは、これはダメだと肩を竦めると皆の元へと戻って行った。

 

 

 

 

 帰る準備をしに行っていたステラが戻って来る。彼女が戻って来た時には皆が夜食と言って料理を準備していた。

 

「ソー、いつでも戻れるようにしておいたよ」

「ああ、悪いな。何やら晩餐が始まったようでな」

「賑やかでいいじゃん」

 

 テーブルを囲んで会話を楽しむ面々を見ていると穏やかな気持ちになる。こんな平和な時間がいつまでも続けばいいのに。だがそのためにも消えてしまった半分の生命を元に戻さなければならない。サノスは既にダンヴァースによって断罪されたため、これ以上奴の計画が進むことは無くなった。早く残りの姉妹たちを見つけなければいけない。

 そう考えていると隣に誰かが腰掛けた。顔を上げるとそこには金色の長髪を持った女性が座っている。

 

「あなたは……」

「キャロルよ。よろしく」

 

 彼女の名前はキャロル・ダンヴァース。キャプテン・マーベルの名を持つ女性のヒーローだ。サノスをボコしたのもこの女性である。そして彼女に力を与えた根源はステラ自身なのである。

 

「君はソーのガールフレンドかな? 親しそうにしていたから……」

「うん、まあね。……その、ありがとう」

 

 突然お礼を言われたキャロルは何のことかと首を傾げる。

 

「この宇宙をあちこちで守ってくれてるみたいだしさ。私たちは何も出来ていないから」

「ふふっ、やっぱりあなたがそうなのね」

「?」

「私のこの力はあなたのものなの。色々事情があってこうなったんだけど」

 

 確かに、キャロルからは自分と良く似た力を感じられる。そういえばそんなことがあったかもしれない。

 

「この世界に平和は訪れるのかな」

「それは私たちが自分で掴み取るものよ。だからこそ、何度でも立ち上がってみせる」

 

 そう言い切る彼女の表情はとても輝いて見えた。既に意思は決まっているという顔だ。皆が頑張っているというのに、こんな所で悩んでいる暇は無い。ステラも彼女のことを見習わなければ、と気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからのことについて話しておきたい」

 

 スティーブの一言で騒ついていた皆が静かになる。

 

「ソー、説明を頼む」

 

 話のバトンは事の真相を知っているソーへと渡る。それからソーはこの4ヶ月の間に何があったのかを話した。この世界とは別の世界が存在しているということ。そこで出会った士道を始めとする人々。そしてストーンが同時にそちらの世界へと転移していたこと。

 

「残りの3つのストーンがあちらの世界のどこかに存在している。それを俺は探しているというわけだ」

「こちらからも人員を派遣した方がいい?」

 

 探し物をするのなら探す人は多い方がいい。ただ問題なのはその探し物をする場所が自分たちの知っている世界では無いということだ。向こうで既に何ヶ月か過ごしているソーはまだしも他のメンバーは全員初見だ。

 

「全員が行くわけにはいかない。万一こちらで何かが起こった時に対処できる人員は残しておかないと。それに向こうで生活するための手段も確立しなければいけない」

「そこは私が何とかしよう」

 

 スティーブの懸念にトニーが手を上げる。そこからはどのメンバーが捜索に加わり、仮に参加するとしてどのように行動するのかを具体的に話し合った。

 そして今日は解散ということで各々が自由な行動を取り始める。士道は外に出てみたいという四糸乃と一緒に夜の散歩に出掛けることにした。

 

「涼しいですね」

「あっちとは一月ほど時間がずれてるみたいだからな」

 

 太陽は既に水平線の向こう側へと姿を消し、空には星が散りばめられている。ここの皆の話を聞く限りこの空のどこかにも自分たちと同じように生活をしている種族がいるのだろう。

 

『それはそうと、士道くんさー。さっきは大丈夫だった? 何だか調子が悪そうだったけど』

「そうです。何かあったんですか?」

 

 やはり彼女達は気に掛かっていたようだ。黙っていても不安を募らせるだけなので大人しく白状する。

 

「何か、体から何かが抜けていくような感じがしてだな」

「それは……」

「ああ。まるで霊力が抜け落ちていくような、不思議な感覚だった」

「なにか、あったのでしょうか……」

 

 突然起きた霊力が吸い取られるような感覚。確証は無いが精霊の封印を行った際の感覚と良く似ていた。だが何故今それが起こるのか分からない。向こうの世界で何かあったというのだろうか。

 

「悪い四糸乃、ちょっとステラの所へ行ってくる!」

「わ、私も行きます!」

 

 士道は四糸乃の手を取ると駆け出した。嫌な予感がする。もし向こうの世界で何かが起こっていたとしたら……。そんな不安を持ちながら、士道は屋内へと飛び込んだ。

 ラウンジには談笑しているローディとロケット、そしてテーブルで今後の予定を話し合っているスティーブとナターシャがいる。

 

「やあ、異世界少年少女。そんなに慌ててどうしたんだ?」

 

 ローディが気さくに声を掛けてくる。

 

「ステラを知りませんか⁉︎」

「ステラ? ……ああ、ソーのガールフレンドか。それなら確かラボの方にいたな。案内してやるよ」

 

 二足歩行をするアライグマのロケットが台から飛び降りると、付いて来な、と言って前を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎に包まれる街。既にこの街の半分は破壊されてしまっただろうか。余りにも突然の出来事であったために、こうするしか市民を守る方法が無かった。

 

「く……、頭が、……」

 

 自分の精神を乗っ取ろうと襲い掛かってくる破壊衝動と戦いながら視線の先に立つ1人の影を鋭く睨みつける。

 

「大分苦しそうだな」

「何のつもり、よ……」

 

 このままではそう長くは持たない。そうなったらこの街は自分の手によって破壊されてしまう。そうなったらもう何もかもがお終いだ。

 

「愚かな地球人共に簡単な挨拶でもしておこうかと思ったが、不在のようだ。これだけ待っても出てこないのだからな」

 

 後ろには耶倶矢と夕弦がいるが、2人は今十全の力を発揮できない上に既に大怪我を負っている。ASTも一瞬で壊滅状態に追い込まれた。ここまでか。

 

「この惨状は置き土産としよう。奴らに伝えておけ。運命は変えられない、とな」

 

 最後に男は左手をこちらに向け、その手を閉じた。

 その瞬間に、何とか抑え込んでいたもう1人の自分が急激にその意思を広げ始める。

 

「うああああああああああっっ‼︎」

 

 その痛みにたまらず悲鳴を上げ、琴里はその場に倒れた。意識がどんどんと遠ざかって行く。

 

「貴様ああああああああああああ‼︎」

「十、香……だめ……」

 

 閉じ行く視界の中で、十香が紫色の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステラ!」

「士道君? どうしたの! 何かあった⁉︎」

 

 ラボに飛び込んできた士道があまりにも焦った表情をしていたため何かあったのかと緊張が走る。

 

「帰り道はどうなってる⁉︎」

「士道? どうした?」

 

 そこへトニーとバナーの研究の様子を見ていたソーがやって来る。

 

「嫌な予感がするんだ。先に戻ってもいいか」

「ふむ……」

 

 士道の焦り具合を見てソーはただ事ではないと判断した。

 

「分かった。俺も戻ろう。ここの奴らにはスタークから伝えておかせる」

「すまない」

「ステラ、リアとマイはどうする?」

「2人は多分今お風呂だから、悪いけど置いてくしか無いよ。2人には後から説明するしかないかな」

「そうか」

 

 ステラは3人を連れて先程準備した通路の場所へと向かう。これからはここに空間の穴を維持し続けることでいつでも行き来することができるようになる。どちらかの環境が破壊されると閉じざるを得なくなってしまうが、そうなることは現時点では無いだろう。

 

「さあ、ここに」

「みんな……」

 

 士道は収まらない不安と嫌な汗が背を伝うのを感じながら、青白い光の輪を潜った。

 

 視界が移り変わり、トンネルを抜けるといつもの〈フラクシナス〉のラボに辿り着いた。部屋はシンと静かで特に普段と違いは感じられない。士道は恐る恐る部屋の扉へと近づいた。機械音と共に扉が自動で開かれる。

 外の音が一気に室内へと入り込んできた。廊下に飛び出すと目の前を機関員達が忙しなく走って行く。

 

「本当に、何かあったのか?」

「わたしも、嫌な感じがします」

『四糸乃、大丈夫?』

「う、うん!」

 

 4人は慌ただしい艦内の雰囲気から何かを感じ取った。走って艦橋へと向かうが、何度か通った道のりがとても長く感じる。ようやく辿り着いた扉を開いて艦橋に駆け込むと、正面のメインモニターが目に入って来た。その映像に4人は言葉を失う。

 

「何だよ……これ……」

 

 それは、ここを発つ前とは一変して地獄絵図と化した、天宮市の光景だった。

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