GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第4話 新しい生活へ

 街が夕焼けで赤く染まる頃、住宅街を歩く3人の姿があった。

 

「家事は普段、士道君がやってるの?」

 

 士道の持つ買い物袋を見てステラが聞く。

 

 空中艦〈フラクシナス〉から降ろされた3人は、士道の買い出しに行きたいという意見に従って、商店街へと寄ってきたのだった。

 

「2人で分担してるぞ。ウチの両親は基本仕事で家を空けてるからな。料理は基本俺の仕事だ」

「あの小娘は?」

「ん? 琴里か? ……ははっ、まあ、そういうことだ」

 

 つまり琴里は普段料理をしていないということである。

 

「毎日作るのって、結構大変そうだよね」

「いや、でも楽しいぞ。味付けを自分のオリジナルにしてみたり、新しいものにチャレンジしてみたりとな。ああでも、琴里の要求を聞きながら栄養のバランスも考えないといけないのは大変だな」

「士道君はいいお兄ちゃんなんだね。私も頑張ってみようかな……」

 

 ステラは士道の手で揺れている食材たちを見ながら呟く。

 

「よかったら教えようか?」

「本当⁉︎」

「ああ、全然いいぞ。ソーはどうだ?」

 

 士道は一番右を歩いていたソーにも提案する。

 

「いや、俺は遠慮しておこう」

「ええ⁉︎ せっかく教えてくれるって言ってくれてるのに?」

「性に合わん」

 

 ソーはどこか乗り気でない様子である。

 

「料理のできる男の人はモテるって聞くけど」

「ただの迷信だろう」

「誰かのために作る機会ができるかもしれないよ」

「俺が誰に作るっていうんだ?」

 

 全くやる気のないソー。

 

「ああもう! じゃあ、私のために作ってよ! 毎日お味噌汁でも何でも! 私も作るからさ──‼︎」

「ス、ステラ?」

「あ、あはは。ソー、よかったな」

 

 突然大きな声を出したステラにソーが驚き、その発言の内容に士道が苦笑している。

 

「ステラ? ええっと、非常に言いにくいんだけど……。その発言はだな……」

 

 士道はそう言うと、ちょいちょいと手招きをしてステラを呼び寄せる。

 

「な、何?」

 

 ステラは士道の側まで来ると小さな声で聞く。士道もソーに聞こえないよう小さな声でこれに答える。

 

「あのな、さっきの発言は遠回しにプロポーズしてるようなもんだぞ」

「えっ、嘘⁉︎ わ、私、そんなこと言っちゃったの? しかもあんな大きな声で?」

 

 慌てて彼女が周りを見ると、道端で世間話をしていた奥様方な微笑ましそうにこちらを見ている。

 よく聞くと、

 

「あら、あの可愛らしい子。随分とあのイケメンに惚れ込んでるみたいね」

「若いってのはいいわよねー。私もあの頃が懐かしいわー」

 

 などと聞こえてくる。

 これにステラの顔は首から一気に真っ赤に染まった。

 

「なあ、士道。さっきから周囲の視線がやたらと温かいんだが……。何かあったのか?」

 

 周りの視線に気づいたソーが2人の方へとやって来る。

 

「いや、多分俺たちは知らなくていいことだと思うぞ」

「……そうか。おいステラ? どうした、顔が赤いぞ」

「……はっ! こ、これは夕焼け! 夕焼けだから────‼︎」

「お、おい‼︎」

 

 ステラは天に向かって叫ぶと1人先に走って行ってしまった。

 

「ほら、追いかけないと迷子になるぞ」

「まったく……」

 

 士道がソーを急かし、彼は仕方ないと走り出す。

 そうして彼の背中が見えなくなる頃、士道は1つ重要な事に気が付いた。

 

「あ。あいつら家の場所知らないんだった……」

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、五河家の玄関の前に3人は到着していた。

 

「そ、その、ごめんなさい……」

 

 ステラが士道とソーに謝る。

 

「全くだ。急に走り出したと思ったらそのまま迷子だからな」

「まあまあ、ちゃんと見つかったんだし、良かったじゃないか」

 

 あの後士道が消えた2人を探し、公園にいた所を見つけてここへと連れてきたのだった。

 

「ただいまー!」

 

 玄関の鍵を開けて扉を開き、まず士道が中に入る。

 

「お邪魔します」

「失礼するぞ」

 

 続いてステラとソーが中に入る。

 

「そこで靴を脱いで上がってくれ」

 

 士道はそう言い残すと、買い物袋を手に奥へと入って行った。

 残された2人は言われた通りに靴を脱ぐと、士道が入って行った部屋に入る。

 

 そこは家庭のリビングだった。奥にキッチンがあり、士道はそこで食材の整理をしている。

 

「ちょっとその辺に腰掛けていてくれ。今お茶を用意するから」

 

 士道は2人分のお茶を用意すると、テーブルの方へと運ぶ。

 

「ごめんね。急にお邪魔しちゃって。何か手伝える事とかあったら遠慮なく言ってね」

「ははっ、お客さんに何かをさせるわけにはいかないからな。今日はゆっくりして行ってくれ」

「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらおう」

「ソーはもっと遠慮しなさいよ」

 

 どっかりとソファに座り込んだソーにステラが呆れたような視線を送る。

 

「お前達はこれからどうするんだ? 今日はここで泊まれるからいいけど」

「その辺はあの小娘に聞いてくれ。俺たちの身柄はあの小娘に保護された事になってるらしい」

「まあ、琴里なら何とかしてくれるだろう」

 

 士道はキッチンで手を洗うと夕食の支度を始める。

 

「で、士道。お前は明日から訓練とやらがあるんだろ?」

「そうなんだよな。明日から学校なんだけどな」

「あの怪しい組織の考える事だ。きっとろくでもない内容に決まってる」

「あら、随分と酷い言われようね。失礼しちゃうわ」

「………………」

 

 背後から聞こえる聞き覚えのある声にソーの動きが止まる。

 ゆっくりと後ろを振り返ると、いつの間に帰ってきたのか、琴里が腕を組んでこちらを見ていた。

 

「それで、一体何の話をしていたのかしら? 私も混ぜてほしいわね」

「い、いや、大した事じゃあない」

「へえ、そう。さて、明日からのあなたの寝床はどこにしようかしら?」

 

 琴里がわざとらしくソーの方を見ながら言う。

 

「分かった! 俺が悪かった! 悪口を言ったことは謝る。だからここで生活させてください」

 

 ソーは必死に頼み込む。

 

「さて、どうしようかしら」

「琴里、あんまりいじめるなよ」

 

 ソーのことを可哀想に思った士道が琴里を諌める。

 

「ふふん、まあ、やり過ぎも良くないわね。いいわ、こっちの段取りが確定するまでここで暮らしなさい。ただし、騒ぎを起こさないこと。いいわね?」

「おお、ありがとう。ステラ、やったぞ。これで野宿せずに生活できる」

「琴里ちゃん、本当にありがとね」

「気にしなくていいのよ。あなた達は早くお仲間を見つけて帰る手段を見つけなさい」

「うん、頑張る!」

 

 ステラはぐっと拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 それから夕食の時間となり、テーブルを囲んで4人は士道の作った料理を食べていた。

 

「う、うまい……。士道、お前はどこかのシェフなのか? こんな美味い飯は食べたことがないぞ」

「喜んで貰えたようなら何よりだ」

「私たち、こんな人から料理を教えてもらえるんだよね。正直信じられない」

 

 ソーは士道の料理を絶賛し、あっという間に完食してしまった。

 

「ふう、美味かったぞ」

「お粗末様。ただ、もっとゆっくり噛んで食べないと体に悪いぞ」

「こんな美味い飯を食って体に悪いことがあるか」

「そういうことじゃないんだけどな……」

 

 士道はグデン、と椅子の背もたれに寄りかかるソーを見て苦笑する。

 その後も食事は滞りなく進み、やがて全員が食べ終えたところで琴里が口を開いた。

 

「それで、2人の仲間についてなんだけど……」

「そうだ。何か知っているのか?」

 

 ソーが体を起こし、机に腕を置く。

 

「ええ、最初に天宮市で確認された高エネルギー反応は5つ。でも精霊が消失(ロスト)した時、再びその反応があったの。正確には、エネルギーが発生した痕跡があったんだけどね」

「つまり、どういうことなんだ?」

 

 士道がさっぱり、といった様子で聞く。

 

「つまり、移動した可能性があるということか」

「そういうこと。こっちも、精霊とあなた達の観測に焦点を合わせてたせいで気付かなかったわ。とんだ失態ね」

「まあまあ、いろいろあったんだしね。ちなみにどこに行ったのかは分かるの?」

 

 ステラが琴里に尋ねる。

 

「これはあくまでデータを元に解析した結果なんだけど、3つは日本国内に。残りの2つは海外、もしくは宇宙空間にあるわ」

「何ていうか、すごい自由な奴らなんだな」

「ま、まあね……」

 

 ステラがはあ、と溜め息を吐く。

 

「ちなみに1つはここ、天宮市に残ったままよ。それで、2人はどうするの?」

「もちろん探しに行くさ」

「皆んな個性的な子達ばかりだから、放っておくと何しでかすか分からないし、早めに見つけるに越したことはないよ」

「それじゃあ、さっさと見つけてちょうだい。変に騒ぎを起こされても迷惑だわ」

「こっちは任せろ。それより、お前達は明日から訓練があるのだろう?」

 

 ソーは琴里と士道を交互に見ながら言う。

 

「ええ、そうよ」

「でも、訓練って言っても、一体何をするんだ?」

「それは明日になったのお楽しみ。ま、せいぜい頑張りなさい」

 

 琴里はひらひらと手の平を振って詳しいことは話そうとしない。

 

「まあ、明日は頑張れ」

 

 ソーは椅子から立ち上がると士道の肩をポンと叩いて、自分は庭へと出るガラス戸の方へと歩いていく。

 

「あーっと、小娘」

「私には五河琴里って言う名前があるの」

「はぁ……、琴里、俺の斧があの船に、置きっ放しになっていなかったか?」

「斧?」

 

 琴里は少し記憶を辿ってから、艦橋の壁に立て掛けてあった大きな斧を思い出した。

 

「ああ、あれね。そう言えば置きっ放しになっていたわね」

「やはりそうか。では、あの船の扉をどこか一つ開けておいてくれ」

「?」

 

 琴里は彼の言っていることが理解できていないようである。

 

「えーっとね、彼の斧、ストームブレイカーなんだけど。あの斧は彼の意思に従って飛んでくるっていうもので、どこか通れるところを作ってあげないと、全てを壊して突き進んでくるの」

 

 ソーがベランダの扉を開けようとしている。

 琴里はステラの補足説明を聞いて事の重大さをようやく理解した。すぐさま携帯を手に取るとどこかに電話をする。

 

『おや、司令の方から連絡をしてくれるとは、こんなに嬉しいことは……』

「神無月! 今すぐ〈フラクシナス〉のハッチを開けなさい!」

 

 ベランダではソーが腕を上げる。

 

『無視というのもこれまた素晴らしい対応で……』

「いいから早くしなさい‼︎」

『分かってますって、今開けましたよ。でもまたなんで急に……グボァ‼︎……ツー、ツー』

 

 何か鈍い音がしたかと思うと、電話はそこで途切れてしまった。

 

「はあ、何とか間に合った……」

 

 琴里は椅子に崩れるように座ると安堵の息を吐く。

 

「ソー?」

 

 ベランダで腕を伸ばしているソーを見て士道が立ち上がり、怪訝そうに聞く。

 

「もうすぐ来るよ」

 

 そんな士道に、ステラがベランダの扉の先をじっと見つめながら言う。

 

 そして5秒後、ドン‼︎ という大きな音と共に何かがやって来た。

 部屋の中には大きな風が入ってくる。

 

「うわっ!」

 

 風が収まり、士道が目を開けると、そこには大きな斧を持ったソーがいた。

 

「悪いな琴里、手間を掛けさせた」

 

 ソーはドアを閉め、テーブルの所へ戻ってくると、ストームブレイカーをそこに立て掛けた。

 

「まったくよ……」

 

 琴里は疲れた表情でそう答える。

 

「すげえ……、これ、持ってみてもいいか?」

「ああ、構わんぞ」

 

 士道がソーのストームブレイカーをペタペタと触り、持ち上げようとする。

 

「ぐぬぬ、これ、物凄い重さ、だぞ……。お前、こんな物軽々と振り回してたのか?」

 

 士道は力一杯斧を持ち上げようとするが、せいぜい床から少し浮き上がる程度だ。

 

「アスガルド最強の武器、ストームブレイカーだ。以前は違う武器だったんだが……あれはもう今の俺には相応しくない。きっと俺はもう、あれを持つことはできないだろう」

「何だそれ?」

「彼が言ってるのはね、王の武器、ムジョルニアのことだよ」

 

 ステラが少し悲しそうな顔をしながら言う。

 

「かつて俺が持っていた武器だ。姉に破壊され、今はもう存在しない」

 

 ソーはどこか上の空で呟く。

 

「あなた、何か思い詰めてるようね」

 

 その様子に気付いた琴里が腕を組んでソーの方を見る。

 

「なに、自分のあるべき姿を探しているだけだ……」

 

 彼はそう言うとリビングの出口へと歩いていく。

 

「どこに行くんだ?」

「少し散歩に行ってくる」

 

 リビングには沈黙が流れる。玄関の扉が閉じる音がやたら大きく聞こえるのだった。

 

 

 

 

 

 

 真っ暗な公園。

 そのベンチに1人腰掛ける男がいた。

 季節はまだ春。夜になると気温は下がり、肌寒くなってくる。

 

 ソーは1人、自分の過去を振り返っていた。だがどれだけ振り返っても、出てくるのは消えていった者達ばかり。

 

 彼に国とは、王とは何かを教えてくれた父。

 彼に溢れんばかりの愛情を注いでくれた母。

 常に反抗しながらも、彼のために戦ってくれた弟。

 アスガルドの民達。

 地球で自分に居場所をくれた人達。

 

 そして最後には必ず、あの男の姿が出て来る。

 目の前で弟を、親友を殺し、宇宙の半分の生命を消し去った男の姿が。

 

 彼の強く握りしめた拳が小刻みに震え、涙が一筋こぼれ落ちる。

 

 そんな彼の背後に近づく気配があった。

 

「随分と情けない様ね」

 

 その声は今日会った者の、誰のものでもない。

 ソーは後ろを振り向く。

 すると、闇の中から1人の少女が姿を現した。

 

「……何者だ?」

 

 ソーは立ち上がり、近づいて来る少女を警戒する。

 燃えるような、そしてどこか暗さを持った赤い髪に瞳。その見た目とは反対に、彼女の雰囲気は落ち着いている。

 

「この世界を無に還す者、とでも言えば分かるかしら?」

 

 ソーは自分の記憶を探る。

 現実を操り、触れたものを闇へと変える真っ赤な流体。

 

「…………エーテル」

「あら、よく分かったわね」

「お前の方から来てくれるとはな。探す手間が省けた」

 

 ソーは再びベンチに座ると溜め息を吐く。

 

「見てたのか?」

「ええ、まあ」

「情けないことだ。国の一つも守れない奴が、王になる資格があると思うか?」

 

 ソーは赤い少女に向かって聞く。

 

「そんなこと知らないわ。私は王になんてなったこと無いもの。でも、あなたの他に王になれる人がいたの?」

 

 彼は思い出す。自分をリーダーとして支えてくれたアスガルドの民達を。

 

「私の勘だけど、おそらく元の世界ではこれから大きな戦争が起こる。その時彼らを守るのは一体誰? あなたの役目は何? よく考えてみたら?」

「………………」

「私の力に打ち勝った男が、こんな所でメソメソしてるんじゃないの」

 

 彼女はそう言うと、ソーの隣へと腰を下ろす。

 

「ところで、話は変わるんだけどさ。あなた、これからどうするとか予定は決まってるの?」

「俺は家に帰るぞ」

「家?」

「ああ、俺達を保護してくれる親切な小娘がいてだな……」

「えっ? 小さい子に保護してもらってるの?」

「見た目はガキだがよく頭が回る奴だ。怒らせると怖いぞ。そいつの兄貴にも世話になってる」

「そ、そうなんだ。あの、その、……私が付いて行っても大丈夫かしら……?」

 

 少女は不安そうにしながら聞いてくる。

 

「あいつらに聞いてみないと分からんが、来るだけ来てみればいいだろ」

 

 ソーはそう言うと、よっこらせ、とベンチから立ち上がった。

 

 彼は新しい家へと帰る。その顔からは、何を思っているのかは分からない。だが少しだけ、何かを決意したように見えた。

 

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