GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
天宮市市街地。
ソー、ステラ、リアの3人は、家で暇を持て余していても仕方がないと、街を散策していた。
天宮市は今日もいい天気である。
「見て見て、オシャレなカフェがあるよ!」
ステラが建ち並ぶ店を前に、子供のようにはしゃぐ。
「あなた、昨日もそうだったけど、はしゃぎ過ぎなのよ。周りから変な目で見られるからやめてちょうだい」
リアが疲れたように肩を落とした。
「べ、別にいいじゃない……」
「ま、こんな機会は今まで無かったからな。たまには思い切りはしゃぐのも悪くないかも知れん」
頰を赤らめて大人しくなったステラにソーがフォローを入れる。
「2人も騒ぎ出したら手が付けられないわ。騒ぐならどっちか1人にしてよね」
リアは仕方ないと、許容する。まるで、2人の保護者のような存在だ。
今日の予定はまず街の散策。それから士道の訓練の見学である。琴里から聞いた話だと、士道の訓練にはペナルティがあるらしい。
一体どんな訓練をしているのか、3人とも興味津々なのである。
「次はどこに行く?」
1番元気のあるステラが早くどこかに行きたいと、急かし始める。
「時間はたっぷりあるんだから、そんなに急かさないで。ほら、あそこの店でお昼にしましょう」
リアがステラを宥めると、3人は適当なお店へと入って行った。
放課後。
「失礼しまーす」
来禅高校の物理準備室に3人はやって来ていた。
扉をノックして中に入る。
「あ、来たわね」
「ぐっ、本当に来たのか……」
中には琴里と士道、それから〈フラクシナス〉にいた解析官の村雨令音がいた。
そして士道は沢山あるディスプレイの1つと睨めっこしていた。
「すごい部屋だな……」
ソーはまるでどこかの研究者の部屋のようなその光景に目を疑っていた。
「この世界の学校の文明レベルがここまで高かったとは……」
「いや、単純にこの部屋がおかしいだけだからな⁉︎」
画面から目を離した士道が盛大にツッコミを入れる。
「あなたはさっさとそのゲームを終わらせなさい。でないと先に進めないわよ」
「くっ…………。そうは言ってもだな……」
士道は画面に現れた選択肢を前にうんうんと唸り続けている。
画面には三択の選択肢。
「なんだ、面白そうなことをしてるな。これが世に言うゲームというやつか?」
ソーが士道のやっている『恋してマイ・リトル・シドー』を興味深そうに覗き込む。
「これが訓練というやつなのか?」
「あ、ああ。そうらしい」
「どれ、俺が一発やってやろう」
そう言ってソーが現れた選択肢を適当に選ぶ。
「ばっ、馬鹿っ! そんなに適当に選んだら…………」
『変態っ! サイテー!』
士道の叫びも虚しく、画面では主人公が少女に引っ叩かれていた。
「ああ、私よ。次のやつを」
琴里がどこかに連絡したかと思うと、士道の顔が真っ青になる。
「お、おい、嘘だろ⁉︎ 今のは俺じゃねえ!」
士道はソーの方を見て叫ぶが琴里は聞いていない。
次の瞬間、別のモニターにとある映像が映し出された。
その背景はおそらく、士道の部屋だろうか。画面の中央には上半身裸の士道が映っている。
『奥義・瞬閃轟爆破ぁぁぁぁっ!』
画面の中の士道は両手を合わせて腰元に手をやると、それを一気に前に突き出した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
士道が物理準備室の床をのたうち回る。
「何だ士道、お前は必殺技に憧れてたのか?」
「ちょっ、ソー、そんなこと言ったら、彼が可哀想、ぷふっ!」
「あっははは! 待って、お腹痛い、ふふふっ。奥義って、一体、いつ使うのよ、ふふふふっ」
ソーを止めようとしたステラも我慢出来ずに吹き出す。
リアなど士道のことも気にせず大爆笑だ。
「……もうダメだ。俺は社会的に抹殺された……」
士道はこの日、人生で最大の屈辱を味わった。
あれは過去の遺物であり、誰にも知られる筈のないことだった。彼は過去の自分を恨んだ。何に憧れてあの様な事をしたのか。
そんな彼に、聞こえてはいけない言葉が。
「なあ、このゲーム、もっと進めてもいいか?」
その後彼がどんな目に遭ったのかは、想像にお任せするとしよう。
そうして放課後の訓練を見学した3人は琴里と共に帰宅していた。ちなみに士道は精神的ダメージが大き過ぎたためか、現在は〈フラクシナス〉のベッドで目を回している。
「学校に通ってみたい?」
琴里がステラの方を見て言う。
「いや、ただの希望だから、気にしないで……」
ステラは誤魔化すように言葉を濁す。
下校していく生徒達を見ていたステラがポソリと呟いた一言が、事の始まりであった。
「あなたが通いたいと言うのなら、こっちでいろいろ調整出来ないこともないわよ」
「さ、流石に悪いよ。今もお家に住ませてもらってる訳だしさ」
ステラはぶんぶんと手を振りながら否定する。
「何をそんなに遠慮してるのよ。力を使うなと言ったのはこっちなんだし、他の仲間を探せないのなら時間も余っちゃうでしょ」
「そうだぞ。他のストーンについては俺に任せろ。進展があり次第報告してやる」
ソーも琴里の言葉に頷き、肯定する。
ステラやリアが力を使うとASTの観測機に引っかかる可能性がある。リアが士道の家で力を使ってから、琴里は2人になるべく力を使わないよう注意をしていた。
「でも…………」
「でももへったくれもないの。あなたが通いたいんでしょ?」
「……はい」
「じゃあ決まりね。明日手続きするから、来週には通えると思うわ」
「ご迷惑をお掛けします」
ステラはペコリと頭を下げた。
「で、あなたはどうするの?」
次いで琴里はリアの方にも視線を向ける。リアは自分の方に話が回ってくると思っていなかったのか、少し慌てる。
「何で私? 私は別に……」
「リア……」
「ちょっと、そんな目で見ないでよ。断りづらくなるでしょ」
リアはステラの懇願するような視線に目をそらす。が、やがて観念したのか両手を挙げた。
「はあ、分かったわよ。私も行けばいいんでしょ」
「2人の方が何かあった時に行動しやすいしね。助かるわ。じゃ、リアも手続きしておくわね」
「お願い……」
こうしてステラとリアの2人が学校に通うことが決定した。
こうして10日が過ぎ、士道は訓練の第1段階をクリア、ソーはストーンを探しに国内を捜索に、ステラとリアは来禅高校へと通い始めた。
ちなみにステラとリアは士道の隣のクラスへと転入。初日から美人の双子姉妹としてクラスの人気者である。
そして今日、士道は訓練の第2段階に臨んでいた。
「クソッ、あいつら適当なこと言いやがって。先生が本気になっちまったじゃねえか」
士道は廊下を走っていた。
訓練の第2段階として、実際に女性を口説き落とすという訳の分からないことをやらされているのだが、最初のターゲットになった士道の担任の先生が本気になってしまったのだ。
「のわっ⁉︎」
走りながら廊下の角を曲がろうとしたところ、急に出てきた誰かとぶつかってしまった。
「す、すまん! 大丈夫か? ……っ⁉︎」
士道はぶつかった相手の方を見ようとして、目を逸らした。何しろ、その相手がこちらに向かってばっちりと股を開いて倒れていたのだから。
「問題ない」
ぶつかった相手、鳶一折紙は士道の手を取るとさっと立ち上がった。
ここで士道の耳に付いているインカムに琴里から指示が入る。そこにいる鳶一折紙で訓練しなさいと。
何を言ったらいいか分からない士道は令音の指示に従って折紙を口説く事に。
「なぁ、鳶一。実は俺、放課後に鳶一の体操着の匂いを嗅いでるんだ」
だが、だんだんと方向性が怪しくなっている。
「私も」
「へっ?」
士道は額にダラダラと汗をかきながら会話を続けるが、先程から会話の内容がおかしい。
「そ、そうか、なんだか俺たち、すごい気が合うみたいだな」
「合う」
「じゃあもし良かったら、俺と付き合ってくれないか? って、いくらなんでも急展開過ぎんだろ!」
士道は1人で盛大にツッコミを入れており、周りから見たらただの変人である。
「すまん、鳶一。今のは忘れて──」
「構わない」
「へっ?」
それからというもの、何とか折紙にさっきのことを忘れてもらおうとした士道だが、彼女の目はどこかウットリとしており彼の話は通じていなかったのだと思われる。
そして──
ウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──
甲高いサイレンが校舎の中に響き渡る。
「っ──」
折紙はサイレンを聞いた瞬間、どこかへと物凄い速さで消えて行った。恐らくはASTの仕事へと向かったのだろう。
そして、士道の耳のインカムにも指示が入る。
『士道、一旦回収するわ』
彼は浮遊感とともに、〈フラクシナス〉へと回収された。
その頃、天宮市の外にて。
ソーは国内にいるという残りのストーンを探して市外を捜索していた。
琴里から手渡された高性能センサーを持ち、あちこちを歩き続ける。
このセンサーはステラとリアの力を解析して作られたものである。2人に共通するエネルギーを発見し、それに反応するように作られている。
今日は一日、これを持って歩き続けているが、未だに反応はない。
「地道に探すしかないか……」
彼はセンサーをポケットにしまうと、再び山道を歩き始める。
その時、遠くから甲高いサイレンの音が聞こえた。
「この音は…………」
彼も一度耳にしたことのある音。
ソーは捜索を中止すると、ストームブレイカーを呼び寄せる。そしてその柄を握ると同時に、空へと飛び立った。
来禅高校校舎の外。
ASTの隊員たちは、校舎内に侵入した精霊が外に出て来るまで待機していた。
この状態になって数分が経つが、未だに動きはない。
折紙は巨大な機関銃を手にいつでも動けるよう、準備を整えている。
一方校舎の中では、士道が精霊〈プリンセス〉と接触していた。
不用意に近づけば首が飛びかねないので、会話をしながら徐々に距離を縮める。最初はどうなることかと思ったが、今の所順調である。
「…………」
「…………」
その様子を眺める2つの影があった。
「大丈夫なのかしら……」
「士道君はやる時はやるからね。きっと大丈夫だよ」
琴里から士道が何をするのかを聞いていたステラとリアは、皆と一緒に避難せずにこっそりと隠れていたのであった。
2人は空間震警報が鳴ってから、ステラの作った空間の狭間に入り、外の様子を伺っていた。
ここなら外の影響を受けずに観察をすることが出来る。士道にもし何かあった時は真っ先に動けるよう2人は待機しているのだった。
そこへ警報を聞いて戻って来たのか、ソーがやって来る。
「見て、彼が戻って来たわ」
「本当だ! ちょっと待ってね……」
空中に浮かぶASTの背後、校門の影にソーの姿が見える。
ステラは手をかざすと空間に穴を開け、ソーの肩をトントンと叩く。
「……っ!」
それに驚いたソーがストームブレイカーを振りかざそうとするが、リアが慌ててそれを止める。
「ちょっと! 何やってるのよ、あなた達」
「わ、悪い……」
「ごめん、私も不注意だった……」
ステラはソーを空間の狭間に入れると穴を閉じる。
「それで、士道の調子はどうだ?」
「何度か危ない場面はあったけど、今は特に問題ないわ」
リアが士道と〈プリンセス〉のいる教室を見ながら言う。
丁度そこでは士道が黒板に名前を書いているところだった。
黒板には十香の文字。
すると〈プリンセス〉がその跡を指でなぞる。なぞられた所が綺麗に削り取られていた。
「しかし、あの大剣の女を士道が救うだとな。よく分からんことをやっている。琴里は一体何を考えてるんだ?」
ソーはストームブレイカーを置くと腕を組んで考える。
「うーん、でも、あの子が起こす大爆発がそれで無くなるって言ってたから……どうなんだろう?」
ステラも首をかしげる。
「単純にあの子の為だけに行動してるのだとしたら、相当なお人好しね。あの子の持つ力を考えると、他に目的もありそうだけど」
リアは琴里、というよりもその背後にいる組織のことを考えていた。
「それに、あれだけの力を持った者がいるのならその力を狙う別の組織がいてもおかしくは無いわね」
言ってリアは教室で士道と話す少女を見る。士道はいい感じに彼女と会話できているようだ。
「まだ他にも組織がいるのか? 関わると面倒なことになりそうだ……」
「だったらさっさと他の子達を見つけて帰らないとね。何か収穫はあった?」
リアはソーの方を見て聞く。
「いや。この周辺には居なさそうだ。この街の外側付近は全て調べたが反応はなかった」
「近くにはいないか……」
「これから少し遠出になりそうだ」
「ごめんね。これは私の問題だし、何か協力出来たらいいんだけど……」
ステラが申し訳なさそうにしている。
「こんな事でも起きない限り、お前達は力を使えないんだ。気にするな。お前達は学校を楽しんで来い」
「でも…………」
そんなステラの様子を見てリアはやれやれと両の手の平を上げる。
「さて、それじゃ、とりあえず今は…………」
「うん」
リアが話を切り出し、ステラがそれに頷く。3人とも今やるべきことは一致しているようだった。琴里には何も言っていないため、後からどうなるかが怖いのだが。
「あのASTとやらを引き剥がすぞ」
ソーはストームブレイカーを握りしめると、校舎の前に浮かぶ機械を纏った人間達を見た。