GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
来禅高校の校舎の外には、機械のようなものを身に纏った人たちが10人ほど浮いていた。
──AST、対精霊部隊と呼ばれるこの部隊は、空間震をもたらし人間の生活に危害を加える精霊を排除するために結成されたものである。
そして現在、ASTの隊員達は校舎の中に侵入した精霊が外に出て来るのを待っている状態だった。
その時部隊の中の1人、おそらくはリーダーであろうその人が全体に指示を出す。
「攻撃の許可が出たわ。校舎を崩しちゃって」
中にいる精霊をおびき出すため、校舎を破壊する許可が出たのだ。
巨大な機関銃を構えた折紙は、その指示を聞くや否やすぐさまその引き金を引こうとした。
ところが……
突如自分達の周囲が青白く光ったかと思うと、目の前の景色が一瞬で変わってしまったのである。
「……っ⁉︎ 一体何が……」
折紙は周囲を見回す。
どうやら他の隊員達も一斉に同じ目にあったようである。
そして隊長がこちらへと通信を入れて来た。
『折紙! 無事?』
「問題ない」
折紙は自分の無事を伝える。
そして、ついにその犯人が姿を現した。
「っ……、あなたは」
折紙は地上付近に現れた穴から出てきた人物を見て目を見開く。
「ん? お前は…………、どっかで見たな」
ソーは折紙を見て自分の記憶を探る。
自分が初めてこの世界に来た日、あの〈プリンセス〉とかいう精霊と戦った時に見かけた銀髪の少女。
「ああ、あの時の……お前もASTとやらか」
ソーは1人納得したように頷き、折紙の方を見る。
「あなたも、精霊なの?」
折紙はソーを睨みつけると静かに聞く。
「さあな。好きに考えろ。ただ、俺は今その精霊とやらに協力するためにここに立っている」
「ならば、あなたは敵。排除する」
折紙はCR-ユニットのスラスターを駆動させると、一気に彼へと詰め寄る。
ソーはストームブレイカーを天にかざした。
一気に距離を縮め、レイザー・ブレイド〈ノーペイン〉で斬りつけようとした折紙は、危険を感じてすぐさま切り返し、ソーから距離を取る。
直後、彼の真上に巨大な雷が落ちた。
強烈な光が収まると、そこにはバトルアーマーに身を包み、巨大な斧を手に持ったソーが立っていた。
「さて、お前達が先に手を引いてくれた方が楽なんだが……」
ソーは折紙の方を見てニヤリと笑う。
『折紙! あれは何?』
「…………敵。攻撃を開始する」
『待ちなさい! 折紙っ!』
折紙は隊長の言葉を無視すると〈ノーペイン〉を手に、ソーへと肉薄した。
その頃学校では、士道が〈プリンセス〉こと十香とデートの約束を取り付けていた。
だが、やけに外が静かなことに気付く。
士道は教室の窓の方へ歩いて行くと、カーテンの影から外の様子を伺った。
だが、外には誰もいない。おかしい。先程まで外にはASTの隊員達が居たはずなのだ。それがまるで初めから何も居なかったかの様に静まり返っているのである。
「──なあ、十香」
士道は後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
『士道、精霊が
耳のインカムに琴里の声が響く。
「……そうか」
『一旦回収するわ。少し待っててちょうだい』
「ああ……」
士道は誰も居なくなった校舎の外を、もう一度眺めるのだった。
「ま、初回にしては中々上出来ね。よくやったわ」
「そりゃ、どうも」
士道を〈フラクシナス〉へと回収した琴里は先ほどの映像を振り返っていた。
今回士道は精霊〈プリンセス〉と接触。会話に成功した。
士道がそこで感じたのは、彼女の人間に対する悲しみと絶望。この世界に現界する度に命を狙われる彼女は人間というものが全て自分を殺しに来るものだと、そう思っていた。
そんな彼女を士道は否定しなかった。それが大きなポイントとなったのだろう。彼女は士道の会話に応じてくれた。
そして彼女は士道に名前を付けろ、と言った。あまりにも重すぎる要求に士道は困惑したが、その日が四月十日だったということから、彼女に「十香」という名前をつけた。
そして、彼女にデートしようと、そう持ち掛ける。
十香がデェトとはなんだとそう問いかけるが、恥ずかしくなった士道が誤魔化すように目線を逸らす。その時外がやけに静かなことに気付き、その確認をしに行った所で十香が
士道は途中からASTが居なくなっていたことを思い出す。
「……そうだっ! 琴里、途中からASTが居なくなってたんだが……」
「それについては、この映像を見てちょうだい」
琴里は手元のタッチパネルを操作すると、メインモニタに映像を映し出す。
「これは……」
「リアルタイムよ」
そこには空中に浮かび、ミサイルを発射するASTの姿が。そしてそのミサイルが飛んでいく先、そこには赤いマントをなびかせ、斧を振りかざすソーの姿が映っていた。
「あいつ、何やって……」
「どうやらASTを引き剥がしたのは彼らみたいね。感謝しなさい、おかげで邪魔が入らなかったんだから。ま、でもアイツらは後で説教ね」
琴里は肘掛けに肘を付き、顎を支えるとやれやれといった感じで溜め息を吐く。
「誰かアイツに連絡出来ないの?」
琴里は画面の向こうで今もなお戦闘を続けているソーを指差しながら言った。
「恐らく彼に連絡を取る手段は無いかと……。ですが、ステラちゃんとリアちゃんには可能です」
琴里の質問に〈フラクシナス〉のクルーの1人、
「そう。じゃあ、そっちに繋いで」
「了解しました」
そう言うと椎崎は通信を始める。
しばらくして、スピーカーからステラの声が聞こえてきた。
『はい、なんでしょうか?』
「なんでしょうか、じゃないでしょ。あなた達今どこにいるの?」
緊張感のない声で答えるステラに琴里が声を低くする。
『こ、琴里ちゃん⁉︎ いや、これはね……』
『だから、言ったでしょ。何も言わずにこんな事したら絶対怒られるって』
後ろからリアの声も聞こえて来る。
「いいから、2人とも、一旦こっちへ来てちょうだい。いい、分かったわね?」
『はい……』
ステラの沈んだ声と共に通信は切れた。
「はあ、ほんと、自由気ままなんだから……」
琴里はチュッパチャプスを口に咥えると艦長席に座り直す。
しばらくすると艦橋に空間の穴が開き、ステラとリアの2人がそこから出て来た。
「さて、あなた達。まずは何か言うことがあるんじゃないかしら」
「うう……ごめんなさい」
「勝手なことをしたのは悪かったと思ってるわ」
2人は艦長席の前で正座させられている。
「結果的にあなた達の行動のおかげで、士道は精霊との接触に成功した。そこは感謝するわ。でもね、あなた達の行動でこっちの計画が狂うこともあるということを覚えておいて。それと、あなた達の身が危険に晒されるということも」
「……はい」
「とりあえず、今回の事は大目に見ましょう。アイツを呼び戻してくれるかしら」
琴里はモニターの方を見て言う。
「あっ、うん、分かった」
ステラは痺れる足に言うことを聞かせながら立ち上がると、前方に手をかざす。
画面では丁度ソーが折紙に向かって走っていく所だった。
すると空間に穴が開き、ソーの姿が消える。同時に〈フラクシナス〉の艦橋に彼が飛び込んで来た。
「おわっ‼︎」
そのまま勢い余って壁に激突する。若干照明がチラついた気がした。
「はぁっ、はぁっ、……何が起きた?」
彼は立ち上がると艦橋を見回す。そして、艦長席に座る琴里の姿に気が付いた。
「おかえり、ソー」
琴里がソーの方を一瞥する。
「いや、あのだな、琴里、これには訳があってだな……」
「ああ、いいわよ。詳しい話はそこの2人に聞いたから」
「そうなのか?」
ソーは琴里のそばにいる2人を交互に見る。
「う、うん。怒られちゃったけどね」
「そうか。それは悪いことをした。すまん、俺たちも何か士道に協力できることはないかと思ってだな」
ソーは琴里の所まで歩いて行くと、ペコリと頭を下げた。
「気持ちだけ受け取っておくから、頭を上げて。そっちのやるべき事を優先すればいいわ。もし助けが必要な時は改めてお願いするから」
琴里は手の平を振ってそう言う。
「だから、少しは自分たちの心配をしなさい」
「ああ、分かった。もし必要な時はいつでも言ってくれ。たとえこの星の外にいようとすぐに駆けつける」
「そ、そこまでしなくても……」
ソーの言葉を聞いて士道は頰を掻く。
「いや、士道にはいつも世話になってるからな。これくらい当然だ」
ソーは腰に手を当てるとフン、と威張った。
天宮市郊外にて。
先程まで戦闘を繰り広げていたASTの隊員達は呆然としていた。
何しろ、そのターゲットが突如消え去ってしまったからである。
ソーと対峙していた折紙も武器を下ろし立ち尽くす。
「…………」
そこへ隊長から通信が入る。
『総員、撤退よ』
その言葉に折紙は拳を強く握りしめる。
また、倒せなかった。
精霊も、あの男も。
たしかにあの男は初めて会った時、精霊とも渡り合う程の戦闘をしていた。そう簡単に倒せる相手でないことは分かっている筈だった。
それでも、無力な自分に嫌悪感が増す。
折紙は先程までその男がいた場所を睨みつけると、他の隊員達の元へと飛び立って行った。
その日の夜、士道、琴里、ソー、ステラ、リアの5人はローテーブルを囲んで今後の行動について確認していた。
「俺は明日も捜索を続けるが、この付近にはいないことが分かった。だからこれからは少し遠くへと探しに行くことになる。何日か帰れなくなることもあるだろうが、気にしないでくれ」
「そう、分かったわ。その間の食料などについてはこちらで支援するから」
琴里が紙に必要事項を書き込んでいく。
「士道はまた〈プリンセス〉と遭遇した時のため、引き続き訓練は続行よ」
「あ、ああ。分かった」
士道は訓練中の嫌な思い出を頭の中で思い返しながら答える。
「それで、2人なんだけど……」
琴里はステラとリアの方を見る。
「私たちは取り敢えず普通に学校に通うわ。何かあったら呼んで」
リアがさっさと答えるが、ステラはどこか不満そうだ。
「まあ、そうね。あなた達はそれが今一番いいかもしれないわ」
こうしてそれぞれのやるべきことが明らかになり、明日からの行動は決まった。
皆が就寝の態勢に入り、夜も深くなった頃、五河家のリビングにはまだ灯りがともっていた。
リビングには2つの影。
ステラとリアはソファーに座ったまま、ぼうっとローテーブルに置かれたままのムジョルニアを眺めていた。
「はあ……、私、本当にこのままでいいのかな…………」
ステラが肩を落とす。
彼女はソーや士道が行動を起こしている中、何も出来ずにただ日常を過ごすことしかできない自分が嫌になっていた。
「とは言っても、何も出来ないんだから仕方ないじゃない。私たちが動けば迷惑をかけることになるんだからさ」
「でも…………」
リアは現実を突きつけるが、ステラは納得がいかない様子である。
「これからはソーもしばらく帰らなくなるだろうし、私たちは普通に過ごすしかないのよ」
「うーん……」
「何? もしかして、彼が居なくなるのが寂しいの?」
リアが冗談めいた調子でからかう。
「…………うん」
「え?」
「……ふぇっ⁉︎ ち、ちち、違うから! 今のはその、ちょっと疲れてて!」
冗談で言ったつもりの言葉に真面目な答えが返ってきたため、リアがフリーズする。
ステラは真っ赤になって慌てて弁解しようとするが、もう遅い。
「へ、へぇ、ステラが、そう……」
「だ、だから!」
「あなたも大人になったのね……。何だか負けた気分だわ」
リアの周囲に負のオーラが広がっていく。
「そうよね、私の方がよっぽど子供よね。ごめんなさい、あなたのことを子供だなんて言って」
ステラの言葉など耳に届かず、負のオーラがどんどん広がっていく。
「せいぜい頑張りなさい……。応援してるから……」
そう言って負のオーラを撒き散らしながら、リアはリビングから出て行く。
「は、話を聞いてってばぁ──────‼︎」
深夜の五河家にステラの叫び声が響き渡った。
翌朝、リアの負のオーラは収まっていたが、ステラを見る視線がどこか羨ましそうだったのは覚えている。
また、ステラは顔を真っ赤にしてソーの顔を見る事が出来なかった。