GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第8話 日常と非日常

 来禅高校2年3組教室。

 

 昨日空間震によって校舎の一部が削り取られた来禅高校だったが、次の日には元通りに復旧していた。

 

 ステラとリアの2人は昼休みを新しく出来た友達と過ごしていた。

 一緒に弁当を食べ、他愛のない会話をする。

 だがそれは、彼女達にとっての大切な時間。かつて自分が憧れたひと時をこうして過ごすことが出来ているのだ。

 

 リアは会話をしながらふと窓の外を見る。

 青空が広がり、遠くには道を走る車が見える。だがリアは、その景色にふと違和感を抱いた。

 

 何か、この世界とは異なるものがあるような、そんな気がする。

 

 彼女は違和感の正体にすぐさま気づいた。

 それは、来禅高校の校門。その前に立つ、1人の少女。

 

 腰まであるかという長い夜色の髪に、身に纏う鎧のようなドレス。

 

 士道が昨日話した十香という少女が、そこに立っていた。

 

「な、なんであの子がここに?」

「リアちゃん、どうしたの?」

 

 隣にいた友達が動揺するリアを見て心配そうに声を掛けてくる。

 

「いや、何でもない。……ちょっとトイレに行ってくるわ」

「あ、うん」

 

 リアはそう言うと教室を抜け出し、廊下へと出る。

 そのままトイレへは向かわずに、隣の教室へと入った。中を見ると、早速目的の人物が目に入る。

 

「……士道、ちょっといいかしら?」

「ん、リアか?」

 

 彼は窓側から2番目の席で突っ伏していた。

 彼女が声を掛けると周りの視線が一気に集まる。

 

「あれって隣のクラスのリアさんだよな」

「五河とどういう関係?」

「五河のやつ、鳶一さんだけでなくリアさんまで⁉︎ くぅーっ、この裏切り者!」

 

 何やらあちこちからヒソヒソ話が聞こえてくる。最後は最早隠す気もないようだが。

 

 リアはそんな周囲を無視して士道を立たせると教室から連れ出す。

 彼を連れ出そうとした時の折紙の視線がやたらとリアに突き刺さっていた。

 

「お、おい、リア! 一体どうしたってんだ?」

 

 廊下を進み、階段まで来たところでリアは足を止めた。

 そして、窓の外を指差す。

 

「あそこ、何が見える?」

「えーっと……、なっ⁉︎」

 

 士道も気が付いたらしい。つい昨日話した精霊の少女、十香が校門の前に立っているのを。

 

「で、どうするの?」

「どうするって言われても……、行くしかねえだろ」

 

 士道は走って教室へと戻ると、荷物を引っ掴んで飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 士道が走って学校から飛び出して行くのを見届けたリアは教室へと戻る。

 

「一応琴里にも連絡しておこうかしら……」

 

 彼女は〈ラタトスク〉から支給された携帯電話を取り出すと琴里に連絡を入れておく。前回は何も言わずに行動して怒られたリア。同じ轍は踏まない。

 

 もうすぐ昼休みは終わる。

 彼女は何事も無かったかのように、教室へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 校門にたどり着いた士道はそこに立つ明らかに格好のおかしな少女に声を掛ける。

 

「と、十香! 何でこんな所に?」

「む、シドーか。ようやく見つけたぞ。お前の方からデェトというものに呼んでおいて私を放置とは、いい度胸だな」

 

 そう言って十香は士道を睨みつける。

 

「よもや私との約束を忘れていたわけでは無いだろうな?」

「そんな、忘れる訳がないだろ。でも、どうやってここに? 空間震は起きてないぞ?」

「そっ、それは……」

 

 十香は視線を逸らして誤魔化そうとする。

 

「教えてくれ。十香は今日、自分の意思でこっちの世界にきたのか?」

「むぅ、教えてやらん! ばーか、ばーか!」

 

 十香はそっぽを向くと腕を組んで歩き出してしまった。

 

「お、おい! どこへ行くんだ?」

「知らん!」

「ああ、もう……」

 

 士道は十香の後を追い、街の方へと歩いて行った。

 

「なあ、十香」

「早く私をデェトとやらに連れて行け! デェトだ! デェトデェトデェトデェト‼︎」

 

 十香は人が行き交う道の真ん中で、「デェト」と大きな声で連呼する。

 

「ちょっ⁉︎ 十香! そんな大きな声で言ったら……」

 

 十香は言われて周囲の人間たちを見る。皆温かい目で2人を見ていた。

 

「なっ、シドー! 貴様、実は私に言うのもおぞましい恥辱の言葉を並べさせたのか⁉︎」

 

 十香は顔を赤くすると指先に光球を出現させ士道の方に向ける。

 

「ちょちょちょっ、違う! 違うから!」

 

 士道はなんとか十香を落ち着かせ、ふうと深呼吸をする。

 にしても、さっきから周囲の視線がすごい。

 

 単純に十香の美貌に目を奪われている者や十香の服装に目を引かれている者。そういった人たちの視線が2人に集中していた。

 

「十香」

「なんだ?」

「その格好はまずい」

「貴様、霊装は私の領域にして城。侮辱は許さんぞ」

「そ、そんなんじゃねえってば! その格好だと目立ち過ぎるんだよ!」

 

 十香は言われて自分の格好を見る。

 

「むぅ、ではどんな格好ならはよいのだ?」

 

 士道は周囲を行き交う人を見ると、そこに見慣れた人物がいることに気付く。

 

「ステラ? リア? なんでここに……」

「ぬ? どうかしたか?」

「ああ、いや。ほら、あそこに俺とよく似た服の生徒がいるだろ? あんな格好だったら大丈夫だ」

 

 士道は何故かここにいるステラとリアの方を指差して言う。

 

「そうか、あれならばよいのだな」

 

 十香はそう言うと、指先に光球を出現させそれを2人の方へと向けた。

 

「ちょっ⁉︎」

 

 士道は慌ててそれを叩く。光球は地面に当たり、アスファルトに穴を空けていた。

 

「何をするのだ!」

「それはこっちのセリフだ! 何するつもりだったんだよ!」

「あの娘を気絶させて服を剥ぎ取ろうとしただけだが」

「ダメだ! いいか、十香。人にされて嫌なことはしちゃダメなんだ」

「むぅ……」

 

 十香は不服そうに口をへの字に曲げるが、どうやら分かってくれたようで、霊力で来禅高校の制服を編み出すとそれを身に纏った。

 

「……そんな便利な力があるなら最初からそうしろよ」

 

 士道は溜め息をつきながら呟く。

 

「何か言ったか?」

「いや、何も……」

 

 2人のデートは前途多難である。

 

 

 

 

 

 

 そんな2人の背後。

 危なっかしいデートをする士道と十香を見守るステラとリアの姿があった。

 

「さっき、絶対ばれたよね?」

「そうね……というか、私たち、狙われてなかったかしら……」

 

 そう言ってリアはさっきの光景を思い出す。あの時の十香は確実にこっちを狙っていた。一体何をするつもりだったのだろうか。

 

 2人は先程街のパン屋さんへと入って行った。

 士道がエスコートするというよりは、十香が士道を振り回しているような気がするが。

 

「琴里から返事はあった?」

「うん、さっき」

「何て?」

「2人にバレないように着いて行けって言ってたよ」

「もうバレてるわよね……」

「あ、あはは……」

 

 リアはやれやれと言うと、建物の陰に隠れて2人が入ったパン屋さんの様子を伺う。

 

「とりあえず、あの2人に危害が及ばないように注意しましょう」

「分かった」

 

 それから〈ラタトスク〉の機関員がサポートをしながら、士道と十香のデートは進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 その様子を見ていたのはステラとリアだけでは無かった。

 

 鳶一折紙。

 彼女もまた、士道が急に荷物を持って教室から出て行ったのを怪しみ、その後をつけて来たのだった。

 

 そしてそこで、士道が女と一緒に歩いているのを見つける。

 彼女は正妻として、その様子を観察しない訳にはいかなかった。

 

「あれは……精霊」

 

 折紙は士道と一緒にいる女が精霊〈プリンセス〉であることに気付く。だが空間震は起きていない。

 

「──AST、鳶一折紙一曹。A-0613。観測機を一つ回して」

 

 

 

 

 

 

 その後も士道と十香のデートは滞りなく進んだ。何だかんだで士道も上手くやっているようである。

 

 そして時刻は18:00。

 陽は傾き、天宮市は紅い夕日に照らされている。

 

 士道と十香は高台の公園へと来ていた。

 半日ではあったが、十香は楽しんでくれたようである。

 

「私は、こんなにも素晴らしいものを壊していたのだな」

 

 十香は悲しそうに目を伏せてそう呟く。

 

「それはお前の意思じゃねえんだろ!」

「ああ。でも、これはどうにもならない──」

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 宅地開発のため、平らに整備された地面に這いつくばって、折紙は対精霊ライフル〈C C C(クライ・クライ・クライ)〉を構えていた。

 

 街で確認された精霊への攻撃許可が出たのだ。

 しかし民間人への被害を考え、一撃で精霊を仕留めなければならない。

 そして現在、その精霊〈プリンセス〉は霊装を纏っていない。これはまたとない好機であった。

 

「一撃で──仕留める」

 

 折紙は静かに呟くと、呼吸を整え、狙いを定める。

 

 

 

 

 

 

「──まずいわね」

 

 高台の公園から少し離れた山中、リアはライフルを構える折紙を見て渋面を作った。

 

「どうしよう……。このままだと2人が……」

「……んー、やるしかないか」

 

 リアはその場で深呼吸をすると、自分がこれからやろうとしていることを考え、溜め息を吐いた。

 

 失敗すれば自分はもう学校に通うことは出来なくなる。だが今は、もっと優先すべきことがあった。

 

「ステラ、あなたは隠れてて」

「リ、リア、何するつもり?」

「ちょっとお芝居をしてくるだけよ。家と繋いでくれる?」

 

 リアはステラに家と繋ぐ穴を開けさせると、そこに手を突っ込み、巨大な斧を取り出す。

 

 この斧の持ち主は現在首都圏を捜索している筈。だからストームブレイカーが家にあるとリアは知っていたのだった。

 

「もう一度確認するけど、ステラ、あなたは隠れていること。もし私がヤバくなったら逃げるのを手伝って」

「わ、分かった。でも危なそうだったら手を出すからね」

「ええ。さて、それじゃあ少し、借りさせて貰うわよ、ソー」

 

 リアがそう言うと、彼女の体を真っ赤な液体が包んでいく。

 それが消えた時、そこにはソーとそっくりな姿の、というより全く同じ姿のリアが立っていた。

 

 リアはステラの方を見る。ステラはこくりと頷くと、リアの前方に空間の穴を開けた。

 

 

 

 

 

 

「一撃で──仕留める」

 

 折紙は対精霊ライフル〈C C C(クライ・クライ・クライ)〉を構えると、標的をじっと見据え、呼吸を整える。

 相手は憎き精霊、そして精霊は今霊装を纏っていない。これはまたとない好機。ついに念願の精霊を倒すことが出来る。

 

 彼女は顕現装置(リアライザ)を起動させると照準を定め、トリガーに指を掛けた。

 

 だがその時、自分の首に冷たい感触があることに気付く。

 

「そこまでにしてもらおうか」

「──っ⁉︎」

「お前はっ!」

 

 その声は、昨日逃した男の声だった。

 また、邪魔をするのか。折紙は心の中で憤怒が渦巻くのを感じた。

 

 首には冷たい斧が当てられている。彼は簡単に折紙の首を飛ばすことが出来るだろう。

 だがそれでも、視線の先にいる精霊を倒すチャンスはここしかない。たとえ自分の命が果てようとも、折紙の選択は一つしか無かった。

 

 折紙は迷わず指を引く。

 

「っ⁉︎」

 

 リアは目を疑う。まさかこの状況で迷わず撃つとは思わなかったのだ。

 ライフルとは考えられない音と共に弾道が発射される。

 

 

 

 

 

 

「握れ! 今は──それだけでいい…………ッ」

 

 士道が手を伸ばし、十香も一瞬迷った後、そろそろと手を伸ばす。

 そして、2人の手が触れ用とした時。

 

「──っ! 十香っ!」

 

 士道はなんとも言えない気持ち悪さを覚えた。全身を包む嫌な感覚。次の瞬間には、彼は十香を突き飛ばしていた。

 

 突き飛ばされた十香は地面に尻餅をつく。

 

「っ! いきなり何をするのだ!」

 

 だが、十香は突き飛ばした士道の方を見て言葉を失う。

 

 お腹の辺りに大きな穴の空いた士道が、ドサリと地面に倒れた。そこから血だまりが広がっていく。

 

「シ、ドー?」

 

 十香は広がる血だまりなど気にせずに士道の肩を揺すってみる。だが反応はない。

 

 

 

 

 

 

「あ、あっ……」

 

 折紙は崩れ落ちる士道を見て放心状態に陥っていた。

 

「折紙! 折紙っ!」

 

 放心する折紙にASTの隊長、日下部燎子が声を掛ける。

 

「貴様っ、何をした!」

「何も……」

 

 リアはそう答えるが、視線は公園の方を向いたままである。

 

「折紙! 悔いるのは後にしなさい! 今は、生き残ることだけを」

 

 燎子がそう言った直後だった。

 公園から凄まじい光の柱が立ったのは。

 

 

 

 

 

 

「〈神威霊装・十番(アドナイ・メレク)〉…………ッ!」

 

 やはりダメだった。もしかしたらと、期待した自分がいた。彼ならば、信じても良いのだと。だが、世界はそれを否定した。

 

「ああああああああああああああああああああああああああっ」

 

 十香は真っ直ぐに彼を撃った者の方を睨むと、一瞬でその前に現れる。

 

「──っ」

「なっ⁉︎」

 

 そこにいた折紙、リア、燎子の3人が驚愕に目を見開く。

 

「〈鏖殺公(サンダルフォン)〉──【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】‼︎」

 

 十香の言葉に呼応するように、彼女の乗っていた玉座に亀裂が入ったかと思うと、バラバラに砕け散る。

 そしてそれらが十香の持つ剣に纏わり付き、十メートルを超える長大な剣へと姿を変えた。

 

 十香はそれを軽々と振り上げる。

 

「っ!」

「嘘でしょ⁉︎」

「ちょっと、ヤバイかも……」

 

 狙われた3人は一斉にその場を飛びのく。

 直後、剣が振り下ろされ、凄まじい爆発が巻き起こる。

 

「くっ……なんて力」

 

 先程まで3人がいた台地は今の一撃で真っ二つになっていた。

 

「ああ、貴様だな」

 

 十香は折紙の方だけを見て、剣を振りかざす。

 どうやっても防ぎようのない一撃。

 

「逃げなさい!」

 

 その前に立つ、1人の少女。

 

「あなたは……」

 

 折紙はその姿に目を疑った。

 なんせそれは、隣のクラスの──。

 

 リアは真っ赤な髪をなびかせ、十香の前に立ちはだかった。

 足に力を込め、力を使う。

 彼女を中心に周囲に闇が広がり、渦を巻く。

 

「はあああああああああっ!」

 

 十香の【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】が振り下ろされる。

 リアは自分の前にその闇を収束させるとそれを盾のようにして十香の一撃を受け止めた。

 

「っ! くぅぅぅぅ、早くっ! 行きなさい!」

 

 だか、その重さは尋常ではない。

 折紙は意識を取り戻すと、素早くその場を離れた。

 

「邪魔をするなああああ‼︎」

「くっ……」

 

 何とか一撃を凌いだリア。だかすぐさま次の一撃がやってくる。

 流石に危険を感じたリアは横に飛び退いた。

 だが巻き起こった大爆発に吹き飛ばされ、完全に無防備に。

 

「しまっ……」

 

 そこへ横薙ぎに剣が振られる。

 リアは目を瞑った。

 

「リアっ!」

 

 彼女の視界に映る景色が一瞬で変わる。

 次の瞬間には、彼女は地面に立っていた。

 隣には青い髪の少女が立つ。

 

「ステラ……」

「無事⁉︎」

「え、ええ。ありがとう」

 

 2人は並んで上に浮かぶ十香を見る。

 

「よし、やるよっ!」

「分かってる」

 

 2人の瞳が、光を放った。

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