シャアの(非)日常 作:原作愛が足らぬわ!
「うぬぼれるなよ、お前の力で勝ったのではない。読者の声援のおかげで勝ったのだ」
「…ぼ、僕は、僕はランキングに乗りたい」
「ふぅ……。」
束のゲームのテストプレイを終えてのコーヒーは一味違う気がするな…。特に帰り道、公園のベンチに座って赤い夕陽を眺めるシチュエーションが最高ではないだろうか。
「すいません、隣いいかな?」
「ん?構わないが…。」
一人で眺める夕陽が好きなのだが…みんなの公園だからな、ベンチの相席は仕方あるまい。
思い返してみれば法事の出席が何故か寺での修行になり、そこから剣道の試合に出させられて、ロボットのパイロットごっこに友人の家族の恋愛事情に首を突っ込みかけて、失った記憶を探すのをすっかり忘れていたな。
こんな生活で良いのだろうか、私はもしかしたら誰かに必要とされる存在だったかもしれない、それとも誰かに恨まれるような男なのかもしれない、そんな男が平凡に家で待っている者たちの為に金を稼ぎ、夕食を共にして他愛のない話に笑顔を零し、友人達と時間を過ごし…私は本当に本当に記憶を取り戻したいのだろうか…。
「いいんじゃないか?」
「え?」
「頑張りすぎだったんだよ、立ち向かうにしても逃げるにしても…ならたまには足を止めて空を眺めるような平穏を過ごしたって構わないんじゃないか?」
横に座っていた宇宙飛行士が着る宇宙服をずっと薄手にしたようなパイロットスーツを身に纏う青年がそう答える…こんな格好してたっけ…?
しかし…まさか口に出していたのか?
「ええっと…。」
「いや、すまない…貴方が何か思い悩んでいるように思えて。」
「はは、わかってしまうか。ポーカーフェイスにはそれなりに自信があるのだが。」
「…そのヘンテコなマスクをポーカーフェイスと言うのか?」
これは手厳しい…というか彼は誰だろうか…他人とは思えない、まるで終生共に競った好敵手のような…。
だが、何も思い出せない…。
しかし私が頑張りすぎ?私は…記憶を失う前の私はやはり何か使命があったというのk
「ぶっちゃけこれ以上お前に余計なことはして欲しくないから黙って隠居しろってのが本音なンだけどな。」
「おい!?どういう意味だ!まるで私が要らんことしかしなかった厄介者ではないか!」
「だいたいお前が放り出して逃げたせいであんな事になったんだろうが!!帰ってきたと思ったら今度は人類巻き込んでおいて俺と戦いたい?無視しなかっただけ感謝しろ!!」
「えぇい!あんな女に人生捧げる程私は枯れてもいなければ何でもいいわけではない!だいたい奴のせいで私は…っ!」
「だったら中途半端に放り出さずに暗殺するか手網を握るかどっちかしろと言ってるんだよ!!お前というやつは本当に…!」
「冗談ではない!私だって事情というものがあるのだ!そういう貴様こそパイロットだけやって…!」
「俺が政治なんて分かるわけないだろう!お前が人類を引っ張ってくれるなら支えてやろうと思っていたのに…!お前はいつも俺を買いかぶりすぎだという事が分からないのか!?」
「貴様こそ私が人類を導くような存在だという間違った認識を改めろ!!」
彼が私の黄色スーツに掴みかかれば私も彼のネクタイとワイシャツを掴み、互いに地面に落ちては取っ組み合いながら草原を転げ回る。
「だいたいお前!あんな大事起こして世直しするつもりが無いとかあの女をヤリ捨てするより悪質じゃないか!!」
「私はあんな奴に手など出していない!!それに人類が己の力で道を切り開かなくては革新などできはしない!私はその背中を押そうとしただけだ!!」
「どうせ彼が精神崩壊したと聞いてよく分からん理論で八つ当たりしたかっただけだろう!!ついでに言わせてもらうが最後の最期で性癖暴露ってどういうつもりだ!俺が折角いい感じのこと言えたのに結局俺の最期の言葉が性癖暴露にドン引きして終わりとか…この野郎!!」
「貴様一人いい感じに終わらせてたまるものか!」
「もういっぺん岩盤に叩きつけてやろうか!!このヤり逃げマザコンぺド野郎!」
「私はぺドフィリアではない!!」
「マザコンは否定しろよ!!」
「再来したら再来したで騒ぎ起こしやがって!!あの時『もういいのか?』とか言ったけど彼女がいなかったら普通にタコ殴りしてたからな!!お前のせいで後世に迷惑かかりまくりとか恥を痴れ!赤い彗星も地に落ちたとか紫ババアが言ってたらしいけどむしろ世に広がりすぎだよ!お前の影響ってやつは!!」
「ふははは!知名度の違いというものだ!計算したが私の方が貴様より女ウケがいい!私の頑張り過ぎだ!」
「そんな理屈!!」
その一言と共に私は巴投げをくらい投げ飛ばされる、着地地点が公園の砂場でなかったら背中を強打していたかもしれん……待て?今まで私は公園に居たはず…だが確かに今……。
「………もう、拘らなくていい…もう一度、やり直して生きてみろよ。名前も、生き方も、誰にもお前に使命を…役目も強いる事は無いんだ。」
倒れた私の頭の上で一人の男が踵を返して去っていく。
「ま、待ってくれ!君は…お前は…!」
「いつまでも戦士でいる必要は無いさ。哀しい戦士で居続ける必要はな……。まぁまた余計な事するなら今度こそ息の根を止めてやるけど。」
「待ってくれ!私はまだ話し足りないことが!言わなければならないことが!!」
起き上がり彼を追いかけようとしても思うように脚は動かず、ただ歩いている彼に追いつかない。
「まて、まってくれアム
ロっ!!!」
「じゃみとふ?!」
「あぁ!?だからやめとけって言ったのに顔に落書きしようとしてた束さんの顔に西さんのヘルメットがちょくげきした!!」
「…鼻が…束さんの鼻が……。」
目が覚めると鼻を抑えて必死にティッシュを穴に詰める束とエプロン姿の一夏くんがいた。
「西さん、すごくうなされてたけど…大丈夫?」
「え?あ、あぁ…夢を…見ていた気がする…。」
懐かしい…夢を…。
「ずっと寝言を呟いて唸っていたが…よっぽど好きなのか?」
「痛た…あ、ちーちゃん、まぁ今でも根強い人気があるし、それに西さんの年齢を逆算しても…ギリギリ…アムラー・ブー厶で性の目覚めがあったかもしれないし…。」
「いや、西さんそんな年齢でも無くないか?」
変な誤解ができた事に気付かぬ男であった。
「多すぎる作品がエタった。IS二次創作が、その犠牲に見合うものでなかったら……」
「それが何であっても、これから何が起きたとしても……約束して。必ずハーメルンに帰ってくるって」
「…あっ」
「読者のたった一つの望み…」