――空から女の子が降ってくると、思ったりするか?
そんなこと微塵も起こりはしない、と俺――
だけども、そんなことが起こっても良いと思ったりも、している。
客観的に矛盾だらけの主張だが、これだけは言わせてもらいたい。
――理想が生まれない現実なんて、生き続けるにはつらいだけだろう?
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「ふぁぁああ・・・あぁ~」
とある朝、日差しを顔に受けて、俺は目を覚ました。
今日は四月だったか。この時期になるとだんだんと空気が暖かく感じられるようになり、桜も咲き始めて、今日には満開となっているらしい。
そして、新入生や新社会人の多くはこれからの生活に想いを馳せる時期だろう。また、卒業式や入学式はこういった時期に多いから、出会いや別れの季節、とも言われている。
余談だが、俺は四季の中ではこの春という時期が一番好きだ。
なぜなら、春は新しいことが始まる、抽象的な季節だからだ。さっきも言ったが、入学式や入社式など今までとは違う環境に身を置く人もいる。
桜やタンポポなど、冬を耐え忍んだ草木が一斉に花を咲かせるところを見ると、とても和やかな気持ちになる。
寝たまま身体を伸ばした俺は、今まで寝ていたベッドから上半身だけを起こして、遮光カーテンを開ける。そのおかげで、暗かった部屋の中が照らされる。八畳間の真新しい洋室だ。
俺の部屋が新しい理由は、この家自体が新築物件ということと、俺が引っ越してきたのが二週間ほど前の最近だったということだ。
そして、その引っ越しの理由は、大きく分けて二つ。
一つは俺が元々通っていた武偵高(福岡武偵高校、通称『フッコー』)から東京武偵高への転校を余儀なくされたこと。もう一つは家庭というか、俺の親戚の面倒臭い事情だ。
まあたぶん、これは聞いてもあまり面白くはないだろうから、この話は割愛する。
これから帰ってくる場所だから土地勘もないのは、流石に拙い。
だから、少しでもそれを養おうと日中はずっと近場の食料品店とかに出かけていた。
そのおかげで、多少なりとも人との繋がりは出来たし、結果的には良かった。
でも、外に行っていた分、疎かになっていた部屋の中の方の片付いてなさが半端じゃあない。
そして、その原因となっている部屋の隅に鎮座しているダンボール箱の砦を一瞥して、心の奥から嘆息すると。
「・・・燎士ー? 朝御飯出来てるわよー、早く降りてきなさいよー」
「分かったー、あと少しだから先に食べといてー」
一階からかけられた母さんの問いかけに答えて、俺はベッドから降りる。
ひんやりとした床の感触に少し身震いをした俺は、クローゼットを開けて一着の制服が掛かったハンガーを手に取った。
それは、臙脂色の東京武偵高校の”防弾”制服。
ブレザーは真っ赤で、左肩には武偵養成学校統一の紋章が描かれたワッペンが付けられている。ズボンとワイシャツの側面にはこれまた赤くて細い線が一本入っている。
それでも、シャツから何まで青っぽくて気に入らなかった福岡武偵高の詰襟が懐かしく思えてくるから、不思議の一言だ。
そう思いながらも、寝間着から東京武偵高の制服に着替えていく。
腰に巻いたガンベルトの左右両腰に付いた秘匿ホルスターに二丁の拳銃と、後ろに備え付けられた鞘にナイフ――死んだ父さんの遺品の、サバイバル・ナイフだ――を収める。
これらは、国内外問わず武偵を育成する学校の全校で適用されているれっきとした校則の一つだ。
こういう所が普通科高校とは勝手が違うので、マスコミやら教育委員会で良く問題視される。
ハンガーからはずしたブレザーを羽織って、自分の名前の黒い名札を付ける。
『三条 C 燎士』
四月には、武偵校全校で名札を付けるルールがある。
だが、各校で名札のデザインがそれぞれ変わっている。
東京武偵高と福岡武偵高でも、また然りだ。
だから、制服だけでなく名札までも、俺は買い替える羽目になった。
おかげで諭吉さんが家計から二、三十人ほど羽ばたいて消えてしまった。
――閑話休題。
机の上に置いてある通学鞄(もちろんこれも防弾製)の中身を確認して、ふたを閉める。
それと、脇に掛けてある黒いアタッシュケース――これまた、狙撃銃バレットM82A2の入った秘匿用防弾ケース――を手に持って、一階のリビングに降りて行くと。
「あら、おはよう燎士。朝御飯、出来てるわよ」
母さんが、テーブルに朝御飯の献立と思われる料理を並べていた。
三条愛美という名前で、四十代後半と言うのに外見上は二十代後半にしか見えない。
『黒髪黒目で純和風の妙齢の美魔女』
福岡の自宅界隈では、そう母さんは呼ばれていた。
ご近所さんに挨拶をしに回った時は、「年の離れたお姉さん?」とか聞かれた。
――これまた閑話休題。
「・・・おはよう、母さん。手伝うことって何かある?」
「大丈夫よ。それよりも燎士、学校の準備はもう終わったの?」
たった今、テーブルに置いたのが最後らしく、母さんは椅子に座った。
そして、母さんが座っている椅子の向かい側――俺の方の椅子を指している。
座れ、ということだろうか。
椅子の足にケースと鞄を立てかけて、促されるままに座る。
「もうとっくに終ってるよ、あとはバイクのエンジンを温めるだけ」
「そう、なら良かったわ。・・・さ、早めに食べちゃいましょうか」
パチンッという軽い音を鳴らして、母さんは両手を合わせた。
母さんの動きに合わせて俺も手を合わせる。
「「いただきます」」
二人で声を合わせて、箸を取る。
今日が始業式と言っても、食べる物はいつもとあまり変わらない。
トーストとサラダ、目玉焼きと言った一般的な朝食だ。
俺はそれらを黙々と食べる。食事中にはあまり話をしないのが家のルールだ。
自分の分が半分くらい食べ終ったところで、俺は話しかけた。
「それで、母さんは仕事ってどうするつもりなの?」
「どうしましょうか、本当にね。何時までも燎士に頼ってるわけにはいかないものねぇ」
「そう思うんだったら、何でも良いから仕事を見つけてくれよ。・・・俺も
「わ、分かってるわよ」
「そう? なら心配しないんだけど。ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
苦笑いを浮かべる母さんに釘を刺して、俺は椅子から立ち上がる。
そのまま俺と母さんが使っていた分の食器を食洗機に入れて、電源を付ける。
手を布巾で拭き、台所に置いてある時計にふと目を向けると、針は六時半を指していた。
東京武偵高までは、バイクを使えば二十分もかからない。
まだ大丈夫、と安心した俺は鞄とケースを持つと、ソファでテレビを見ていた母さんに声をかける。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、先生方によろしく言っておいてね」
「はいはい」
「はい、は一回で良いのよ~」
「了解、気を付けるよ」
軽くあいさつを交わして、俺は家を出た。
―――生涯。
生涯、いや、今後の人生において、俺は今日という日を忘れないだろう。
そして、今日のことを誇りと共に話しているのではないかと俺は思っている。
なぜならこのあと、空から女の子――神崎・H・アリアが降ってきてしまったのだから。それも、昔馴染みの少年――遠山キンジを共に連れて。
どうも、こんにちは。橘 柚子です。
今回はプロローグで文自体も短いですが、精進して次からは四千文字を超えるよう努力いたします。
このような文章で楽しんで頂けたらこちらとしても幸いです。
ありがとうございました。
・・・魔法科、書かなきゃ不味いよぉ。
※2015/1/24 題名訂正