緋弾のアリア ~優しき陽の灯火~   作:橘 柚子

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第一章・武偵殺しと虹色の光明
『 第一弾・La ragazza venne cade dal cielo 』


――『武偵』。

 

 

 

 

 

正式名称を『武装探偵』と呼ばれる、国際資格の一つ。

 

 

武偵とは、凶悪化の一途を辿る犯罪の対抗策として現代の日本でも導入された比較的新しい――無論警察や弁護士に比べてだが――職業資格だ。

その武偵免許を持つ者は、銃器や刀剣類の所持及び装備を許可される。また、捜査権や逮捕権など、警察のような司法組織に準ずる活動が認可されている。

 

ただ一つだけ、警察とは違うことがある。

それは、武偵は『依頼の報酬』で動くことだ。その報酬は主に金銭なので、抽象的に『武偵は金で動く』と言われている。しかし、その報酬さえキッチリ貰えれば、武偵法(日本国内で武偵活動の範囲を記した法律)の許される範囲内でなら、どんな荒っぽい仕事だろうが、どんなに下らない仕事だろうが懸命に対処する。

 

 

とどのつまり、”武偵”という職業は荒事対応の『よろず屋』なのだ。

 

 

――まあ、それはそれとして。

 

 

今年度から俺が通うことになった東京武偵高校(略称、武偵高)。

 

日本の中高の武偵学校の中で、訓練のカリキュラムや任務(クエスト)完遂率(ゲットレ-ト)などが最高クラスとされている武偵校(ただ、偏差値は五十を下回っているので、中学時代に多少なりともヤンチャをしたことがある生徒が多いことでも有名)だ。この東京武偵高校はレインボーブリッジの南方に浮かぶ、南北約二キロ東西に約五百メートルの長方形をした人工浮島(メガフロート)に存在している。学園島とあだ名されているこの浮島には武偵高の施設のほかに、飲食店や娯楽施設が軒を連ねていて、それらが小さな商店街を形成している。

強襲科(アサルト)のような戦闘系の学科や一年の模擬戦慣れのために市街戦の訓練場として利用しているようで、島にあるほとんどのものが防弾仕様になっていた。

 

そして、武偵高(ここ)の生徒は、数学や国語などの一般教科に加え、七学部十四学科の中から自分に合った学科を選択し、自身の武偵に必要不可欠な技能を高めるために学んでいる。

例えば、今年俺が選択した、『狙撃科(スナイプ)』。

この学科は、分類としては戦闘系なため、強襲科と同じように強襲学部に入っている。

そして、その狙撃科の履修内容は主に狙撃や観測などの遠距離からの戦闘支援の方法を学ぶ。その中には、二キロ以上の距離から狙撃を成功させた生徒もいるそうだ。

流石は東京武偵高と言ったところだ。元来に持っている素質が高い生徒が多く集まっているのだろう。

・・・どうしよう。そいつがムカつく奴だったら鼻っぱし、へし折ってやろうかね。

 

――閑話休題。

 

 

そんな東京武偵高の中――全国の、もしかしたら全世界の武偵養成学校共通かもしれないが――でも、極めて危険な場所が三つある。先ほど言った戦闘系の学科『強襲科』、別名”火薬庫(バルカン)”と言われる『地下倉庫(ジャンクション)』、そして『教務科(マスターズ)』だ。強襲科や地下倉庫の危険さを語るのはまた今度にして。

この武偵高の教務科が危険地帯と称される理由は、教員たちの経歴に由縁する。

警察官や自衛官OB、傭兵、殺し屋(ヒットマン)、海外マフィアetc...。

この学校に在校している旧知の友人に聞いただけで色々と裏世界のヤバい名称が出て来ていた。

 

 

まあ、こんなどうでも良さげな話は置いといて、何故俺がこんなことを話しているかというと。

 

 

コンコンッ。

 

 

「おはようございます。本日付けで転入させて頂きます、三条燎士です。・・・高天原先生はいらっしゃいますでしょうか?」

 

たった今、俺自身がその場に来ているからに、他ならない。

なぜならば、理由は簡単。俺は今日が転入初日なので、挨拶のために来ている。

まあ、最初は来なくても良いと思ったのだが、これからお世話になるのに何もしないのは不義理だと思ったので来た。

 

俺が教務科棟二階の集会室の様な部屋に顔を出すとそこには酒の芳醇な香りが充満していた。

それだけで――というかそれぐらいしかないが――誰がここにいるのか見当がついた。

俺の考え通り、扉の近くの椅子には酒の一升は軽く入りそうな大きな瓢箪を持ったポニーテールの女性が椅子に座っていた。

 

「あー? なんや三条か。おい、ゆとりぃ、元福岡武偵高(フッコー)の三条がきおったでぇー?」

 

何とも嫌味たらしく関西弁を話した女性は強襲科担当の、蘭豹先生。

装備は象殺しの異名を持つ『S&W M500』。それを訓練などの号砲(ホイッスル)のごとく扱っているそうだから、俺には銃が泣いている気がしてならない。

転入試験の時に、俺は蘭豹と模擬戦の形を取ったルール無用(何でもあり)の実戦闘――要するに、ガチの殺し合い――をさせられた上に、俺と引き分けたもんだから無理矢理でも強襲科に入れようとことあるごとに誘ってくる。

・・・まあ、俺はそんなに強襲科は好きじゃないから断ってるが。

 

「あ、はい。ありがとうございますね、蘭豹先生。・・・おはようございます、三条君。どうですか、こっちの生活にはもう慣れましたか?」

 

そう言って、俺のほうに近寄ってきたのは、蘭豹に”ゆとり”と呼ばれた柔和そうな雰囲気の事務服姿の女性、高天原ゆとり先生だった。

この、あまりにも武偵高に不相応そうな女性(ひと)は、探偵科(インケスタ)の担当教諭で2-A組――俺がお世話になるクラスだ――のクラス担任も持っている。

顔合わせはとうに済んでいるんだが、会う度に武偵高でしっかりやれているのかを考えてしまう。・・・いらぬお節介だが。

 

「はい、一応は。でもまだ通学路とかで迷うことがあります」

 

そんな失礼なことはおくびにも出さないようにして――出したらどんな折檻、もといお叱りが待っているか分からない――普通の応対をする。

すると、高天原女史は優しい笑顔に表情を変えた。

 

「ふふっ、そうですか。でも、そのうちに慣れてくるとは思いますからそれまでの辛抱ですよ」

 

「はぁ・・、そういうものなんでしょうか?」

 

「そういうものですよ」

 

俺と高天原女史が話していると、不意に右肩に手が置かれた。

まあ、この部屋には俺が来てから今まで誰も出入りしていないので、いるはずなのはあと一人だけだ。それも酒好きとなると、ただただ面倒なだけに思える。てか、朝っぱらから飲んでるし。

 

「何ですか、蘭豹先生。自分に何か?」

 

振り返ってノータイムで最後まで言う。さっきとは違い冷めきった態度で、だ。

すると、蘭豹は少しうなだれるように顔に手を当てた。

 

「・・・何や三条、ゆとりとウチに対する態度の違いは何なん? 悲しくなってくるんやけど」

 

「それは、当然と言えると思いますよ? 考えてもみてください、初対面で『死ね』や『殺す』なんて言って好意的な感情を持つ人間がいるとお思いですか?」

 

俺が転入試験が終わった時に言われた言葉を皮肉と一緒に言ってやると、蘭豹は「うっ」と苦虫を潰したような顔をした。原因については自覚があるようだから、まあいいか。

尤も、今度言ってきたら本気でぶっ潰そうか迷う所だが。

 

「・・・まぁ、それについての言及はまた今度にします。それで、蘭豹先生、何か御用があったのではないですか?」

 

「そ、そうやった。

 ・・・そんで三条。オマエが早よ来たんはエエんやけど、ウチらには始業式の準備で時間がないんや。ちょっと、校内探索でもして来いや」

 

そう言われて、俺は腕時計――アナログ式の12方向にローマ数字が置かれたもので、これも父さんの遺品――に視線を変える。

文字盤上を回る針は短針が『Ⅶ』を、長針が『Ⅵ』を指している。どうやらまだ7時30分のようだ、来るのが早すぎたな。

時計から目を離した俺は、頭の後ろをポリポリと掻きながら軽く頭を下げる。

 

「すいませんでした。家の時計が結構狂っていたみたいです。

 ・・・要件については分かりましたけど、回っていいのは校内だけですか?」

 

「そうやな。校外に出てみぃや、ウチらが直々に捕縛しに行ってやろうやないか」

 

「捕縛って・・・。俺は犯罪者か何かですか」

 

「冗談や冗談。物の例えや、安心せぇ」

 

・・・ははっ。冗談がキツいですよ、本当に。

いきなりの爆弾に顔が引きつらないか、内心恐々としていたが、蘭豹たちは何も咎めなかったので大丈夫だったのだろう、多少安心した。

それでも、そろそろ表情を保つのは限界に差し掛かっていたので、俺は顔を隠すように頭を下げる。

 

「これ以上、先生方のお手を遅らせてしまうのは、自分としても申し訳ないので、これで失礼します」

 

「そうですね。……それだったら、8時30分に教務科棟にに戻って来て下さいね?」

 

「分かりました。失礼します」

 

扉のすぐそばまで行って立礼をして、俺は退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~・・・」

 

教務科棟から一般校区に移動している俺は深い欠伸を一つ噛み殺す。

時刻は、もうすぐ八時と言ったところだったと思う。

 

さっき蘭豹に言われた通り、校内探索に精を出してはいるが、いかんせん面倒臭い。

校内のだいたいの教室配置は転入試験の時に憶えてきたし、今更分からない場所はほとんどないと言っていい。だからと言って校外に出たら、本当に蘭豹たちが縄や鎖を持って俺を追いかけてくる気がするから、止めておこう。

 

「本当に暇だなぁー・・・」

 

俺は歩いていた足を止めて、呟いた。

福岡武偵高にいた時は朝から忙しかったから、こんなに時間が空くことが無かった。任務や教師の手伝い、同級の相談相手やら色々と頼まれていた。それも今となっては良い思い出だ。

だからこそ、この何もしていない時間が精神的に辛い。もうこの際諦めて、先生に言われた時間までボーっとするのも良いかもしれない。

そう思って、どこか仰向けになれる場所を探そうと振り返った瞬間――。

 

 

――ズガガガガンッ!!

 

 

突然、何発かの銃声が続けて響いた。

その音に俺は足を踏み外してしまい、転んでしまった。

何とか受け身を取って、銃声のした方向を見ると。

 

「なんやっち!?」

 

そこには、搭乗者の重心の移動によって加速や減速、方向転換が可能な電動二輪車――『セグウェイ』がいたからだ。

しかし、セグウェイには人は乗っておらず、搭乗する部分には代わりにスピーカーと――何故か1基の自動銃座が搭載されている。

そして、銃座から俺に照準を合わせている銃口。

 

UZI(ウージー)

 

秒間10発の9ミリパラベラム弾を撃ち出す、イスラエルにあるIMI社の傑作と言われる短機関銃(サブマシンガン)だ。

それが微動だにせず、俺へ銃口を向けている。

俺は背筋に冷や汗が流れるのを自覚した。名状しがたい恐怖を唾と一緒に嚥下し、重武装セグウェイ(命名、俺)に話しかける。

 

「アンタ一体、何者だ?」

 

『ワタシですか。ワタシは通りすがりの 『武偵殺し』デヤガリマスが なにか』

 

スピーカーから流れてきたのは生身の人間の声じゃなく、変に加工されたみたいに奇妙な音声だった。言うなれば、新聞やチラシの文字を切り貼りして作った脅迫文のようなカタコトなものだ。

 

こんな感じの音声を俺はこれを聞いたことがある気がする。

あぁ、そうだ。これは今、ネット上で噂になっているボーカロイドの人工音声、きっとそれだ。

そして、音声の中にあった名称に俺は思うフシがあった。

 

『武偵殺し』。

それは、武偵を狙って武偵が持っている車輌などに爆弾を付けて、その車輌に乗った武偵を追いかけ回す――いわゆる車輌鹵獲(ハイジャッキング)をした上に、その武偵の命を奪う、武偵制度が始まって以来、史上最悪の犯罪者だ。だが、その犯人も最近、逮捕されたって一昨日辺りからずっと報道されている。どうせ、犯人が捕まったからって模倣してやろうって不埒な輩が出てきたんだろう。

そう思った俺は何故だか、無性にイラついて殺気を放っていた。

 

「あぁ、イタズラか。・・・それなら今すぐ消え去れ、真似事は不愉快だ」

 

『そう思うのだったら どうぞ 死んでクダサイ』

 

その音声を皮切りにセグウェイがまた銃撃をしてくるかと思って俺は身構えたが、少し違った。

何故なら――。

 

――ガッ! ドガアアアアアァァァァンッ!!

 

突然、セグウェイは制御が利かなくなったように俺の方に突っ込んできて、壁に衝突すると同時に轟音を立てて爆発したからだ。

車体との接触は寸でのところでどうにか避けられたのだが、10メートル近く爆炎と衝撃波に吹っ飛ばされた。

 

「イテテ・・・」

 

落ちる際に受け身を取って吹き飛ばされた時のけがはないが、爆炎の所為で指先に火傷を負ってしまった。加えて、右の脇腹に防弾制服を貫いたセグウェイの小さい破片と思われるプラスチックが浅く刺さっている。

俺はそれを引っこ抜いて、今できる範囲の応急処置を施す。分かりやすく言えば、指にはテーピングを、右脇腹には止血用ガーゼを貼っておく。

軽く手を握ったり開いたりして感触を確かめたあと、さっきまで俺の身体と重武装セグウェイの車体があった場所を見やる。

 

「なんだったんだろうな、一体」

 

さっきのあれが、ただの興味本位での模倣行為なら、人を殺すほどの威力を持ったものは使わない。それに、犯行の手口に多少なりオリジナリティを出してくる。

これは、俺の経験則から言えることだ。

 

だが、さっきのヤツは思いっきり俺を殺すつもりだったし、爆弾と言う凶器すら使った。俺は武偵殺しの犯行を見たことが無いからハッキリとは言えないが、セグウェイという新たな手口も使っていた。そのセグウェイは日本円で一台40万円以上はかかったはずだし、爆弾も最低でもキロ換算で2万円はする。

この点から見ても犯人はある程度、経済的に裕福な可能性がある。

 

まあ、それよりも今、確実に考えておかなければならないことがある。

 

「・・・またかよ。面倒だな」

 

シャァ、という小さなタイヤのブレーキ音が俺の後方から聴こえた。

その次には、先ほどと同様にボーカロイドの音声がスピーカーから流れてくる。

 

『やはり 死なないで ヤガリマスか。しぶといでヤガリマスね』

 

俺はそれを軽く聞き流して、右腰のホルスターから愛用しているマットブラックの拳銃――ドイツ・H&K社製USPエキスパートを抜いて、撃鉄を起こしておく。

弾薬はUZIと同じ、9ミリパラベラム弾。これが一番弾数が入るから、消耗戦の時は重宝する。

 

「そりゃ光栄だね。だが、今度は俺の番だ、よな・・・?」

 

啖呵を切りながら後ろに振り返り、俺は絶句した。

何故なら。

 

『さっきと同じ 使い方をすると 思いましたか。案外武偵も バカでヤガリマスね』

 

おいおい、これは多すぎやしないか、模倣犯(仮)さんよ?

ひぃ、ふぅ、みぃ――目に入っているものをざっと数えただけだが、ここにいるのは十台以上の重武装セグウェイ。それら全てが俺に銃口を向けている。

・・・うわー、逃げないと死ぬな、こりゃ。

 

客観的に――身もふたもない言い方をすれば現実逃避――自分の置かれている状況を把握した俺は。

 

ダッ!!

 

重武装セグウェイたちに撃たれる可能性すらも考えずに、速攻で回れ右をしてアスファルトを蹴り出した。

エキスパートはホルスターに収め直して、ただ無言でランニングを開始する。

走って、走って、そりゃもう走るのに無我夢中になるぐらいに全速力で走る。

それなのに。

 

『逃げても無駄で ヤガリマス。大人しく死ぬで ヤガリマス』

 

俺の右には、重武装セグウェイが並走していた。これだったら、殆どのセグウェイが後ろを走っているんだろうな。

りゃあ、最高速度が時速20キロの機械と人間の足じゃ、追いつかれるのは当然と言えば当然なのだが、何か釈然としない。

 

『そこを右でヤガリマス』

 

――ズガガンッ!!

 

いくらか走って、交差点に差し掛かろうとしたとき、不意に後ろから銃声が響く。

UZIから放たれた銃弾は俺の左足の数センチを掠めてアスファルトに埋まった。

その際、俺は銃弾を避けるために無理矢理、足を右に方向転換した。

俺は左に逃げようとしていたので、銃弾の所為でまんまと逃げ道を失われたってわけだ。

 

チクショウめ・・・。

ここから先にはもう、車道には曲がり角はない。

その先には第二グラウンドと隣接している体育倉庫がある。

一先ず体育倉庫に逃げ遂せるか。

 

そう考えた俺は、今までの全力疾走で疲労が溜まりはじめた両脚に鞭を打って速度を落とさないように走る。

 

だが、第二グラウンドには、先客がいた。

 

「バ、バカ! 来るな! このチャリには爆弾が――」

 

シルバーの車体の自転車を漕ぐ、黒髪の少年と。

 

「ほらそこのバカ! さっさと頭を下げなさいよ!」

 

白いパラグライダーで空を舞う、ピンクブロンドの少女という異色の二人が。

 

見るからに俺と同類じゃないか、自転車こいでいる方は。爆弾って言ってたし。

 

「いやいやいや! アンタやりすぎじゃないか!?」

 

『何を言うで ヤガリマスか。アナタがさっさと死ねば ワタシの仕事は終わりなのでヤガリマス』

 

「いや、そっちじゃなくて! アイツら完全に無関係じゃないのか!?」

 

『さぁ 答えはワタシの心の中でヤガリマス』

 

「テメェ、頭ん中に蛆でも沸いてんじゃねえのかよぉぉ!!」

 

重武装セグウェイを大声で問い詰めたらば、俺が予想した答えの斜め六十度辺りにぶっ飛んだ極論を持ち出した模倣犯(仮)に、俺は怒鳴り散らす。

 

「誰かそこにいるのか!」

 

あ~ぁ、ばれちった。けど無視だ。まずは自分の方を片づけるのが先だ。

 

『失礼でヤガリマスね』

 

――ズガガガガガガガガガガガガガガンッ!!

 

自転車の少年の声と被ってスピーカーから憤慨したような口振りの音声が一言流れると、一斉にUZIから銃弾が吐き出される。

 

 

俺はそれらを、避けもせずに、ただ目を閉じる。

 

 

「はぁ、面倒くさ・・・。”解放鍵(ディコンツェナーレ)第一段(アッソ)”」

 

そう一言で嘯き、目を開けた俺には全てが見えていた(・・・・・)

亜音速で飛ぶ銃弾全てがスローモーションのように、1/100秒くらいまでゆっくりと動いているように見えている。

錯覚じゃなく、実際に動体視力と空間把握能力が格段に上がっている。

 

これは『解放鍵(ディコンツエナーレ)』と言う超能力(ステルス)だ。

脳の臨界装置(リミッター)を何段階かに分けて外すことで、身体能力や五大感覚、第六感を超人的にまで向上させる。今の俺には六段階目までの鍵が付けられている。これだとまだ、限界の66%くらいの感じだ。

 

開ける段階を増やすほど、持続時間は減り、体力を悉く消費する。

その上、副作用として脳は頭痛や酩酊の症状になり、最悪の場合、何日間か自己忘失になってしまう。

身体には筋肉痛や倦怠感の症状が現れる。こっちは最悪の場合でも筋肉断裂の状態になるだけだから、ある程度無理は利く。

 

まあ、使いどころを間違えたら本当に死に直結しかねない超能力だけど、使わないと死ぬ状況に陥ることが多かったから使わざるを得なかった。

で、今の俺は脳と全身の筋肉のリミッターを一段階解放して、空間認識、動体視力、身体能力を引き上げた。数字にすれば16%くらいだ。

 

 

――閑話休題。

 

 

超能力を使用している俺は、ゆっくりと進むように見える9ミリパラベラムの群に合わせて、狭い隙間をすり抜ける。

そして、腰の後ろに差してあるサバイバルナイフを抜いて、セグウェイの柄と銃座を4、5セット連続して切り落とす。

 

「顔が見えねぇんだ。失礼だとか、んなもんあるはずねぇだろが」

 

そう言って、サバイバルナイフを空高く投げ、残りの重武装セグウェイに向かってエキスパートをフルオートモードで乱射して沈める。

ガインッ、と弾切れによってスライドが開いたまま固定された。

その時に俺の周りにあったのは、重武装セグウェイの残骸だけとなった。

どうやら何台かに逃げられたらしい。

 

「・・・ふぅ、終わった。施錠(セッラッジョ)

 

西部のガンマンのように拳銃を回してホルスターに収めた俺は、また目を閉じて超能力を解く。

今沈めたのは、5台。残った2、3台は逃げていく。

 

いやー、それにしても大漁だな。

 

俺の左手には、UZIの弾倉(マグ)が手に握られている。

なぜなら、UZIを斬りつけた時に一通り、弾倉を抜き取っておいた。

ま、俺を殺そうとしたんだ、何をされても文句は言えないだろうし、銃弾なんて使い捨てだからな。

 

そういや、さっきの二人は大丈夫だっただろうか。

 

その時だった。

 

――ドガアアアアアアアァァアアアァァァァンッ!!

 

「なんだ!?」

 

爆発音のした方に目を向けた俺に見えたのは、巨大な爆炎とさっきの少年と少女が吹っ飛んでいった。

彼らの飛ぶ軌道を先読みして、当たりそうな障害物がないか、見る。

 

・・・ヤバいッ!!

 

彼ら二人の落下の予想地点には、体育倉庫があった。

だけども、倉庫の扉は閉まったままで、このまま突っ込めば軽傷じゃ済まないのは確実だ。

せめて、扉が開いていれば、何とかなりそうだが。

 

「不幸だぁーー!!」

 

疲労感たっぷりの足に再度鞭を打つために叫び声を上げた俺は走る。

 

・・・この距離で間に合うか? いや、間に合わせる。

 

「――解放鍵・第二段(セコンド)

 

俺は解放鍵の段階を二段階目まで引き上げる。

身体は冷却期間中だったから、段階をすっ飛ばす暴挙も出来る。

まあ、副作用が大変なことになるんだが、背に腹は代えられない。

 

俺は体育倉庫の扉の前に着くと、鍵が閉まっていた。

サバイバルナイフの背面に付いている金切刃で錠前を斬って、力一杯に扉を横に引く。

 

これで大丈夫か、そう思って身体から力を抜いた瞬間。

 

――ドカッ!

 

突然、背中から強い衝撃を受けて、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 




どうもこんにちは、橘 柚子です。

今回から、『第一章・武偵殺しと虹色の光明』を書き始めてまいります。
そして、批評や感想、誤字脱字などのご指摘があれば、メッセージをお願いします。

このような拙い文章ではありますが、楽しんで読んで頂ければ幸いです。
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