緋弾のアリア ~優しき陽の灯火~   作:橘 柚子

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『 第二弾・Incontro il peggio 』

「・・・ぐぁ」

 

 

意識が戻った俺は、背中に車に撥ねられた時と同じ鈍い痛みを感じた。

それに頭もクラクラするし、身体が動きにくくなってきている。

どうやら、超能力(ステルス)の副作用が始まっているようだ。

まあ、この硬直も何分か待っていれば解けるんだが、その間は何もできないのが辛い。

 

俺は辛うじて動く首を回して、周囲を眺めればソフトボールにカラーコーン、マットに跳び箱と言った体育科で使うような器具が少し乱雑に並んでいた。

そして、俺の目の前――倉庫のど真ん中――には跳び箱が置かれていて、その2段目までが倉庫の奥の方に吹き飛んでいた。

中に何か入っているようだが俺は動けないから、確かめることは出来ない。

 

「・・・飛んだ厄日なこった」

 

天ならぬ天井を仰ぎながら、俺はボソッと愚痴を零す。

 

何なんだ、さっきの重武装セグウェイは。

爆弾なんて物騒な物を使いやがって。本当に木っ端微塵になったらどうすんだよ。

全く以って、何が目的なのかさっぱりだ。

 

それと、割とどうでも良いことだろうが、さっきから背中の痛みが引かない。

きっと、というか確実にさっきの二人の所為だろう。それ以外に考え付かない。

衝撃の打点は、爆風の所為で吹っ飛んできたとは思えないほどの的確さとえげつなさだった。

あの衝撃は誰でも気を失うレベルだ。あれがもし、少しでも当たり所が悪かったなら脊椎骨折、もしくは脊髄損傷は確実視だったろうな。

 

・・・本当に災難だ、今日は。厄日なのかな、嫌だよそんなのは。

 

「う……っ。痛ってぇ……」

 

自分の不運を心の裡で嘆いているとふと、若い男――と言ってもさっきの少年だろうけど――の呻きが耳に入ってきた。

俺はその声に対して、安否の質問を投げかけてみる。

 

「大丈夫か?」

 

「あ…あぁ、一応な」

 

多少息が詰まりながらも、声を返してくるあたりは、流石武偵と言えるだろう。

でも、あの息の詰まり方は、確実に胴体を強く打っている証拠だ。

 

「なら良かった。それよりも君、大丈夫か?」

 

「何がだ?」

 

今の俺が何をやっても足手まといぐらいにしかならないから意味がない。

だから軽く流して、少年にとっても最大の懸案だろう事を教えてやる。

 

「君の上に乗ってる女の子のことだが?」

 

こう考え付いたのは、いくつかの材料があったからだ。

 

まず、少年と女の子が一緒に飛んでいたこと。

次に、彼らどちらかの姿がこの体育倉庫に見られないこと。

最後に、ピンクブロンドの髪の毛が跳び箱から少しだけもれているからだ。

 

「・・・? ――ッ!!?」

 

・・・おいおい、うそだろ。適当なことを言ったつもりなんだけどなぁ。

俺の推理は、本当に当たらないことで福岡武偵高(向こう)では有名だったんだ。

いや、これは推理(・・)じゃなくて、ただの実況か。

結局、当たってないことになるかぁ、何かむなしいな。

 

「もう強猥(きょうわい)罪決定だな。武偵三倍刑でどこまで行くかね?」

 

何か面倒になってきたので、手放しに少年の事を言及する。

少しばかりアイツの運の良さに苛立った俺は、所々に皮肉を込めておく。

 

こうでもしていないと、確実に硬直が解ける前に意識を失ってしまう。

意識を失ったら最後、夜まで眠り続ける自信が俺はある。

ああ、こんな自信は必要ないか。

 

「お、お前がやったのか!?」

 

・・・何をどう勘違いしやがった。

 

頭の中が混乱で短絡したのか知らんが、そんなことは俺がしてもらいたい方だね。

ま、そんなことは過去も未来も金輪際、ないんだろうけど。

 

「なわけないだろうが、アホかお前は」

 

「じゃあ、誰がやったんだよ!」

 

「『武偵殺し』の模倣犯(仮)」

 

「なんだよその(仮)ってのは!」

 

「分からなかったからそうしたまでだ。異論と文句は受け付けないぞ」

 

「うぐっ・・・そう、だよな」

 

俺の強気な言葉に、少年が決まり悪げに言葉に詰まっていると。

 

「……ん、んぅ」

 

今まで気を失っていたらしい、あの女の子が小さく呻いた。

 

「やばっ」

 

「――なっ…なっ!」

 

それに少年が慌てた声を上げたあと、自分の状況を認識したらしい女の子が唸り声に変わりそうなほど、険悪な声を洩らす。

 

・・・ドンマイだったな。名前を知らない少年。

お前は今、確実に罪を犯した。それが意に介さないものであってもだ。

罪を償え、一生かけてな。

 

「このヘンタイッ~~~~~~!!」

 

女の子は鼻に付くような甲高い声――いわゆるアニメ声で叫ぶと、少年に拳を振り下ろし始めたようだ。だが、それには力が籠もっていないらしい。「痛っ」という少年の声が時々聞こえてくるからな。

人間、本当に痛いときは言葉自体が出す事が出来ないようにできてるからな。

 

「・・・・・・」

 

目の前――跳び箱の中、のほうが適切か――で寸劇のコントみたいな喧嘩をしている二人。

俺はそれを何とも理解できずに、ただただ傍観に徹していた。

 

なんだろう、もうやってらんねぇな。これ。

 

「・・・なあ、俺は帰っても良いかな?」

 

硬直がやや解けて来て、足の方も歩く分には何とかなりそうになっていた俺は溜め息というには重すぎる吐息を洩らした。

 

「おい、待てよ! コイツを落ち着かせてからにしてくれ!!」

 

「断る!」

 

「ふざけんな!」

 

それを言いたいのはこっちだ!

俺を巻き込むな! お前らで勝手にやっておいてくれ!!

 

だが、そう思っても口には出せないことがある。

それは、言うこと自体が憚れる言葉の時と、発言の直前に他のものに注意を引かれた時だ。

今回は後者だった。

 

一体なぜか。その理由は簡単だ。

 

 

――ズガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!

 

 

突然、唯一の出入り口である倉庫の扉から、幾つもの銃声に重なって銃弾が中に入ってきたからだ。

それに伴って、倉庫内の至る所に弾痕が20、30と瞬く間に出来上がっていく。

 

「な、なんだ!?」

 

「うおっ!?」

 

「きゃっ!」

 

俺たちは同時に声を上げて、各々が何とか回避行動に入る。

俺は足を丸めて、扉から出ないようにする。

二人は知らん。何も見えなかった、跳び箱にかがみこんだ後にどうなったかなんて。

 

「一体なんだよ! あれは!?」

 

一番状況を把握できていないであろう少年が緊迫した声をあげる。

 

「『武偵殺し』のオモチャのあのヘンな二輪車よ!」

 

そう少年に返しながら、女の子は跳び箱の隙間から応射している。

だが、奴らには牽制にすらなっていないようで、相も変わらず銃弾を放っている。

 

「それと、そこにいるアンタ! 死にたくないなら手伝いなさい!!」

 

・・・おいおい、同業者に脅迫かよ。それじゃ、銃弾(タマ)の補給支援すらも交渉できないぞ。

 

飛び箱の中から上半身を出して銃撃をする――完全にキレたらしい、額に青筋が立っている――彼女に、俺は今日何度目か分からないため息と一緒に小さく心の中で愚痴を溢す。

だが、彼女が言っていることが正しいのは考えなくても分かる。

 

――武偵憲章第一条 仲間を信じ、仲間を助けよ。

 

――同憲章第六条 自ら考え、自ら行動せよ。

 

自分に言い聞かせるように、心の中で武偵憲章の二節を唱えた。

そして、拍動を落ち着かせるために、ゆっくりと深呼吸をする。

右手にエキスパートを、左手にナイフを逆手で握る。

 

だが、俺が突撃を仕掛けようとした時、不意に外からの銃撃が止まった。

その突然なことに面喰った俺は、扉まで中腰で歩いて行き、外を覗こうと首を伸ばす。

 

(一体どうしたんだ・・・?)

 

そこからは既に、あの重武装セグウェイたちは消えていた。

理由は分からない。さっきから続けていた少女の牽制が効いたのか、ただ俺たちが出てくるまで待つことにしたのかは俺の知るところじゃない。が、少なくない準備期間(インターバル)が出来たのは僥倖だ。

はぁー、と俺は安堵のため息を吐き、扉に背を預けてアイツらの処分する算段を立てていると。

 

「――やったのか?」

 

ふと、体育倉庫に響いた、低く怜悧な男の声に既視感(デジャヴ)を抱いた。この場合は既聴感か。・・・いや、そんなことを言いたいんじゃなくて、とにかくその声に聞き覚えがあったんだ。

 

「射程圏外に追い出しただけよ。ヤツら、向こうの並木の影に隠れてるけど……すぐに戻って来るわ」

 

「本当に強い子だ。それだけでも十分だよ」

 

そして、次の瞬間、跳び箱から女の子をお姫様抱っこした状態で少年が立ち上がった。

 

「きゃっ?!」

 

ピンクの女の子が軽く悲鳴を上げて頬を朱くしたが、少年は全くも意に介さなかった。それどころか。

 

「ご褒美に、ちょっとの間だけ――お姫様にしてあげよう」

 

どっかの白馬の王子様のような、キザったらしい台詞を迷いも恥ずかしがる素振りもなく、さらっと息をするように言い放った。

そんな少年の姿を見て、俺は一つの確証を持った。

 

・・・ああ、やはりアイツ(・・・)だったのか、と。

 

あの少年――遠山キンジは、俺の古い友人だ。

厳密に言えば、俺とキンジの父親同士が仕事の相棒だったので、その縁で知り合った。

まあ、お互い顔を合わせたのは俺の父さんの葬式の時で、中学生になってからだったけどな。

それからは、一月に一回はメールのやり取りをするぐらい、だったか。

 

そして、半年前にキンジの兄さんが死んだと聞いた時は、中々にショックを受けたよ。

何せ、俺と本当の兄弟のように接してくれていたから、歳の離れた兄さんだと俺も思えた。

あんなに、優しくて自分の決めたことに一途な人は俺の知る限りいないし、出会わないだろう。

 

 

――閑話休題

 

 

キンジはピンクの女の子を抱えながら、跳び箱から体育倉庫の壁際まで跳んだ。それも一息に。そうして、もう一つあった跳び箱に女の子を座らせた後、持っていた拳銃をホルスターに収めた。

 

「姫はそこでごゆっくり? 銃なんて物騒なもの、俺たちだけが振り回せばいいだろ?」

 

「アンタ一体どうしたのよ!? 急に変になっちゃったの?」

 

キザったらしいあの言動、一介の騎士然としたあの所作。

 

――やっぱりか。

 

ここに来て、やっと確信が出来た。

 

キンジの野郎、やっぱりなって(・・・)やがるな、『ヒステリア・サヴァン・シンドローム』に。

通称を『HSS』や『ヒステリアモード』と呼ばれるそれは、キンジの家族――正しく言えば、遠山金四郎景元の家系、それも男子にしか遺伝しない特異体質だ。

 

HSSは、恋愛時脳内分泌物質βエンドルフィンが一定量以上分泌されると神経伝達物質を媒介し大脳・小脳・精髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進させる。その結果、HSS時には思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上するらしいが、その代わりに女性の事を最優先で考えることで物事の優先順位付けが正しく出来なくなったり、女性にキザな言動を取ってしまうなどの反作用があるようだ。そして、その発動条件(キートリガー)は、”性的興奮”と言われる。

ま、どんな特異能力――俺の超能力を含めて――も一長一短って訳だ。

 

「――アリアを守る」

 

HSSにあの女の子でなったのなら、俺は遠山キンジ(あの野郎)との友好を考え直さないといけないかな?

いや、何かの間違いであってくれればいいが。そう願いたいね。

 

「……ぁ」

 

キンジの言葉に女の子――アリアというらしい――は、見る間もなく顔全体を紅く染めていた。

第一順位の案件が終わったんだ、次は共闘者になる俺の方に来るだろうな。

 

「何時までそこで寝ているつもりなんだ、燎士?」

 

ほら、案外単純な奴だ、コイツも。

それに呆れながらも、俺は疲れた笑顔を浮かべた。

 

「やっぱし、気付いてたかキンジ」

 

「普通ならまだしも、今の(・・)俺ならな」

 

「そんなことは目を見れば分かる。・・・んで、キンジ。ヤツらの数は?」

 

「多くても15台だろうとは思う」

 

「そんなにいるのかぁ。大変だなぁ、おい」

 

「そうでもないだろう、俺とお前ならなんとかなるだろ?」

 

淡々と情報交換を行う中で――既に雑談と化していたが――顔を見合わせた俺たちが不敵に笑いあった瞬間。

 

――ズガガガガガガンッ!!

 

「またかよぉ・・・はぁぁあああ」

 

「流石に飽きたな、こうもワンパターンだと」

 

「ハハッ、全く以てそうだな」

 

タイミングを合わせたように舞い込んできた銃弾たちに肩を竦めながら、俺はキンジの手を借りて立ち上がった。

 

「俺が前で良いか?」

 

「ああ、そうだな。親父たちもそうだったみたいだし」

 

さっきも言った通り、俺の父さんとキンジの親父さんは組織的に犬猿の仲と言われる『武装弁護士』と『武装検事』――両方とも”殺しのライセンス”を持った公職――でありながら、『静鬼刃雷(オルゴ・ライトニング)』というコンビを組んでいて、裁判所では弁論で火花を散らすが、プライベートでは暇があれば朝まで呑み明かすこともしばしばあったらしい。

 

これは父さんの同僚の武装弁護士が教えてくれたのだが、コンビで任務をしていたときの完遂率は限りなく100%に近かったようだ。

その数多くの偉業と功績を含めて『伝説の相棒』と今でも言われているんだ。

 

だが、その『静鬼刃雷』は、十三年ほど前に金叉さんの殉職で事実上の解散を迎えた。

そして、四年前に俺の父さんも爆破テロに巻き込まれて、死んだ。

その話は、また追々話そうと思うが、今はそれどころじゃあないな。

 

「なぁ、キンジ。お前、どっかで疫病神を口説いてないだろうな?」

 

「何を言っているんだ、燎士? 俺は人間だから、神様なんて口説けないだろう?」

 

「なら、何でお前と居るとこうも俺に厄が回って来るんだ?」

 

「そんなこと、俺は知らないな。俺よりも燎士の方が可能性としては大きいと思うが」

 

「あ~、有り得るかも知れない。……止んだな、そろそろ出るか?」

 

軽口を叩き合っている内に、外からの銃撃が止んだので、キンジに目線で合図を投げる。

すると、キンジも扉の方向を一瞬眺めて、身体の向きを変えた。

 

「そうだな、征くか」

 

「・・・・ニュアンス的には間違ってないんだろうけど。なんか違う気がしてならないのは俺だけか?」

 

「そうだな、お前だけだ」

 

「・・・んじゃ、お先に」

 

胸の中に何か釈然としないものを抱えながらも、俺は扉から躍り出た。

 

「へぇ」

 

俺の視界に写ったのは、キンジが言った通りの数のセグウェイが扉を中心にした半円型の包囲陣形を組んでいた。それも、二段の互い違いになるような形で。

普通なら、誰もが体育倉庫内に逃げ帰る危機的状況だが、俺とキンジならそうはいかない。

ここで戻れば、俺たち両方が御先祖さんたちに殴り飛ばされそうだからな。

 

「18、19、20 ……これはこれは良く揃えられたもんだ」

 

ズガガガガガガンッ!!

 

「当たらないさ、貴様らが機械である限り!」

 

重武装セグウェイの弾幕を躱して、左方の一塊に近付きながら。

 

バババッババッバババッ!!

 

エキスパートをフルオートで撃って反対方向の重武装セグウェイたちを黙らせる。

そして、ナイフを逆手に構えて目の前にある二輪たちを半分に切り刻む。

 

「燎士だけだと思うな!」

 

俺が扉の左右にいた重武装セグウェイたちを粗方沈黙させたとき、キンジは扉の前に出てきて愛銃――ベレッタM92Fのマズルフラッシュを7回、煌めかせた。

それらの照準は正確で、その全てが一様にUZIたちの銃口に吸い込まれていった。

 

――ドガァァァアアンッ!!

 

スライド内の銃弾に引火したUZIが爆発し、その余波で残りの重武装セグウェイも一緒に吹き飛んだ。セグウェイ全てを斬り終わった俺は、後続の部隊が来ないことを心の中で願いながら、ナイフを仕舞った。

 

今の陣形は昔、父さんたちが組んでいた『剣銃三角(トライアングル)』という本来三人一組(スリーマンセル)で構成される陣形を二人版(・・・)に俺たちで改良したものである上に、この陣形がまだ不完全でキンジがHSSでないとこうやって相手を無力化できない。

いやはや、鍛錬が足りないな、俺も。

 

「後続はなし、と・・・良し、終わったぞ燎士」

 

「ああ、そうだと良いな」

 

キンジのいる所まで歩いていった俺は、周囲に気を回しながら答えた。

 

「どうした? まだ来るのか?」

 

「いや、そう言うわけじゃないけど。……怒り狂った猛獣みたいな気配がするからなぁ」

 

「は? 猛獣? そんな訳ないだろう?」

 

「まあ、それもそうか。んじゃ戻るか?」

 

「いや、俺はあっちに行っておく」

 

キンジは親指で体育倉庫のある方を指しながら言った。

 

「ああ、さっきの女の子のトコか。早めに言いくるめておけよ? 今のお前は泣く子も”惚れる”状態なんだからよ」

 

「分かってる、出来るだけ早く戻ってくるさ」

 

そう残して、体育倉庫の中にとんぼ返りするキンジ。

さっきは言わなかったが、猛獣のような気配はあそこから出ていたんだよな。

言った方が良かったか? ま、いいや。キンジの野郎にも人間関係(・・・・)でそろそろ痛い目見て貰わないとな。武偵としての自覚が足りん、アイツには。

 

「はぁー・・・」

 

そう心の中で嫌味に似た愚痴を嘆息として表に出していると。

 

――ダンッ! ダダンダンダダンッ!!

 

武偵になってから妙に聞きなれた銃声がまた聞こえた。

またアイツらが襲ってきたのかと並木の方を見やるが、いない。ということは、敵襲ではないみたいだ。

 

「のわっ!」

 

短い叫び声に体育倉庫へ視線を戻すと、キンジが転がって来ていた。

それに続くような形で、あのピンク色の女の子が扉から外に出てきた。

女の子は扉の前でしゃがみ込むとスカートの内側をわしゃわしゃと両手でまさぐった。

拳銃のスライドが空いているから、予備の弾倉(マガジン)でも探しているのだろう。

だが、

 

「探し物はこれかな? お嬢さん」

 

女の子のものと思われる弾倉をキンジが掲げていた。

 

「なんで!? いつの間に!」

 

「ごめんね」

 

そして、投げた。

よくもまぁ、相手を怒らせるようなことを平然とやるよ、キンジは。

案の定、その姫君はカンカンに怒りのボルテージを上げられた。

そして。

 

「「・・・」」

 

弾倉が投げられた方向が運悪く俺の方で、目があった。

 

「アンタもソイツの仲間だったね! 強猥の現行犯よ!」

 

「はぁ!? 何で俺でそうなる!」

 

何で俺はそんな冤罪で勘違いされなきゃならないんだよ!?

 

「問答無用よ!」

 

「何だその理不尽は!?」

 

女の子は背中に手を伸ばし、小太刀を二本引き抜いた。

 

「剣術までできるのか!?」

 

キンジは驚いているが、俺は左程そうは思わなかった。

実際、さっきの二挺拳銃よりは扱いにくくはないと、俺は思う。

拳銃の銃撃の反動に比べれば、日本刀の振り始めの重量感なぞ、軽い軽い。

 

二本の小太刀を順手に持ち、女の子は距離の近いキンジに切りかかろうとするが。

 

「みきゃ?!」

 

何かに滑るような身体の崩し方をして、転んだ。そしてそのまま、立てずに転がっている。

足元には、弾薬のようなものが散らばっていた。あれで転んだのか、どんくさい奴。

 

「少し撒かせて貰ったよ」

 

キンジはすまなそうな顔を作っているが、いかんせん嘘くさい。

 

「・・・・」

 

それを見ていた俺としてはあっけない、という気持ちが半端じゃなかった。

久しぶりにキンジがHSSとなっているというのに、アイツは搦め手を選んだ。

流石、女尊男卑主義者(ヒス持ち)、といったところだな。

どれだけ女性を大切にしたいんだあの体質は。

 

「何だってんだ、これ・・・」

 

「まあ、落ち着けって」

 

「黙れ、このたらし野郎」

 

肩に手が置かれた感触があった瞬間に、俺は拳を握って自己最速のスピードで振る。

パシッと軽い音を立てて、俺の拳を受け止めるキンジ。その顔には、引きつり気味の苦笑が張り付いていた。

てか、女の子転がしたままでいいのかよ?

 

「・・・良し、逃げるぞ燎士」

 

「ハハハ、お前の所為だ、後で土下座しろ?」

 

もう全てがどうでもよくなっていた俺は、薄ら笑いを浮かべながらキンジに答えた。

これが明鏡止水の境地だろうか、すごく晴れやかな気持ちだ。

 

「悪いが断る」

 

「ふざけるな、これが証拠(ネタ)で俺まで逮捕(パク)られたらどうしてくれるんだ?」

 

「その時はその時、だろ?」

 

「・・・」

 

ダメだコイツ、早く何とかしないと。

 

なんて思っても武偵として考えると、コイツの言う通りなのが否めない。

なぜなら武偵は、どっかしらでクロい。それは主に暴行罪や傷害罪に分類されるモノが多いが、キンジ、オメェはダメだ。強制猥褻罪はアカン。

後で、拷も――もとい尋問だ。

 

「この卑怯者ども! 絶対でっかい風穴開けてやるんだからーッ!!」

 

未だ立ち上がれずに座り込んでいる女の子の怨嗟と憤怒の感情を背中に受けながら、俺とキンジは体育倉庫から早急に駆けて行った。

 

『武偵憲章第5条、行動に疾くあれ。先手必勝を旨とすべし。』

 

俺は武偵憲章を順守するだけだ。それだけだから俺にその怖い気配を向けないで下さいよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これが俺、三条・C・燎士と。

 

旧友である遠山キンジ、並びに神崎・H・アリアとの硝煙と悪運に紛れた最低最悪の再会であったと、記憶している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
物語をひねり出して見たものの、付け足しや削っていたので時間が掛かってしまいました。

誤字脱字の指摘、感想などありましたらお願いします。


各種装備名称及び詳細


名称:H&K USPエキスパート
開発・製造:ドイツ、ヘッケラー&コッホ社


口径:9mm×19/40S&W/45ACP
使用弾薬:9ミリパラベラム弾/40S&W弾/45ACP弾
初期装弾数:18+1発/16+1発/12+1発


燎士が強襲に愛用するUSPエキスパートは、ドイツ、ヘッケラー&コッホ社がアメリカ市場を狙い.45ACP弾の使用を前提として作成したH&K USP(Universal Self―loading Pistol:汎用自動拳銃)のバリエーションモデルの一つである。

競技用のUSPで、新しいデザインのスライドを装備し、銃身長を伸ばしている。
他には、マッチ仕様のトリガー、アジャスタブル・リアサイトなどを備え、射撃時における能力向上に努めている。それ以外は、派生元のUSPタクティカルの装備とほぼ同じである。

コントロールレバーパターンは位置や機能、シングルアクションの有無、コントロールレバー自体の有無によって10通りのパターンがある。燎士のエキスパートは、コントロールレバー後方から見て左側に設置され、セーフティと撃発作動方式の切り替えの役割を果たす、ヴァリアント9を採用している。

燎士の物は彼自身の手で違法改造が施されており、45口径モデルをベースに他モデルの改造弾倉や銃身組み込みのスライドの交換で口径・使用弾薬の変更が可能になっている。
改造に伴い、装弾数が20+1発/18+1発/12+1発と増加している。
他にも、セミオート以外に3段バースト機能と、フルオート機能を搭載した、通称「USP エキスパート燎士カスタムモデル」と呼ばれている。






名称:CRK サバイバルナイフ Ver.Gai
製造:アメリカ、クリス・リーヴ ナイフ社

刀身長:23センチ
全長:34センチ

燎士の父、ガイオ・ユリウスが近接戦闘用に武装していたCRKのフルオーダーメイドの戦闘用サバイバルナイフ。よって、世界に一本しかなく、ガイオの為だけに作成された。
刃の背に金属を切断する鋸刃も設けられた。
被覆鋼弾を斬ろうが傷一つ付かない特殊な金属製である。
ベルト通しが鞘に平行に付いていて抜刀方向は横。

ガイオの遺品として燎士が受け継いだ物の一つ。




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