エヴァンゲリオン外伝 〜とある部分のウラのお話〜   作:Dangan

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復帰作と言うつもり。短いのと文章力がないのとでつまらないとは思いますが、それでも良ければ是非。

エヴァのssを読み漁った人なら多分知ってる人も居ると思いますけど、本作はMoon Phaseと言うssをオマージュしています。かなり影響を受けまして、所々言い回しとか似通った部分はあると思いますけど、その中でオリジナリティを頑張って出してみました。

実はこのお話、構想では全く違うテイストの作品だったんですけど…どんなのにするつもりだったのか気になった方はコメントして貰えればお答えしますね。

長くなりましたが、私の拙作を読んでやってください。


ふたりぼっち

ここは、私の住居となっているマンション。と言うよりは廃墟と言った方がしっくり来るような、他の誰も居ない建物。十数年ほど前にネルフの職員が住む為に建てられたらしいのだけれど、人々がここに居を構えなくなった今はこのマンションは必要がなくなり、徐々に朽ち果てていくだけである。

私はこの廃屋の様な住処が気に入ってはいるのだけれど、近々ここは別のマンションに建て直されるらしく、新しい住処を探さなければならない。はっきり言って面倒な事ではあるのだが、まぁそれは後々考えれば良いことだろう。

 

 

 

 

まだ太陽が東の方から出るより前に、私は目覚める。枕元に置いてある時計に目をやると、そろそろ5時と言う辺りなのが分かった。

別段意識しているわけでは無いのだけど、どう言うわけか私はこの時間に起きてしまう。

規則正しい生活とやらを送っているつもりは無い。やるべき事をこなしていたら自然とそうなっただけの事だ。早起きは三文の徳などと世間の方では言うらしいけれど、私はいまいちそれを実感出来ていない気がする。

隣で眠っている碇君の寝顔を眺める。安らかな表情というのがこれ以上無いほどしっくりくる寝顔をたたえて静かに寝息を立てている。体構造の問題なのか或いは体力的な問題なのか、彼が私より先に目覚めた事は一度もない。私も人並みに疲れや眠気を自覚する事はあるけれど、それでも起床時間が彼より遅かった事は記憶にない。

とは言え彼の寝顔をこうして見つめると言う幸福を享受出来るのだから、有難い事だと前向きに捉えよう。

 

 

数分ほど経ち、ベッドから起き上がり背筋を伸ばすと洗面所に向かい冷水で顔を何度か洗う。ヒトが言うところの低血圧である私の場合、冷たい水で洗顔しないと脳が覚醒しないのだ。

洗い終え水が滴る顔をタオルで拭き取り、櫛で髪を梳かす。眼前の鏡に映る私の髪は酷い有様だ。台風が通過したと評しても良いかもしれない。そのクセのついた髪を無心に梳かす事5分、それなりに髪が整ったのを確認すると櫛を戻して化粧水を手に取り肌に塗っていく。

少し前、碇くんに「年頃の女の子は、身だしなみに気を使うらしいよ」と教わり、最近はこう言うのが流行ってるみたいと彼から贈ってもらったのがこの化粧水だった。何故そう言う方面に彼が詳しいのかはよく分からないが、まぁ別段不思議がる事でも無いのかもしれない。

 

 

一通り終え自分の顔を鏡で見る。特に何時もと変わらない私の顔だ。お手入れ云々が果たして本当に意味があるのか疑問に思うところではあるのだけど、世間一般ではこれが普通らしいのであまり気にしない事にする。

洗面所から出るとタンスの中から白無地のTシャツに淡いブルーのスカートを取り出しそれを着込む。以前服屋に出掛けた時に似合うからと碇くんに買ってもらったそれは思いのほか動きやすく気に入っていて、最近はこうして家の中でも好んで着るようになった。

ケトルに水を入れ沸かし始め、今日は買い物にでも行こうか。そろそろ足りなくなるものもあるはずだなどと考えているとベッドの方から足音が聞こえた。碇くんが起きてこちらに向かって来るところだった。

 

「おはよう綾波」

 

「おはよう、碇くん」

 

私の顔を見て嬉しそうに言う彼に、私も微笑みながら応える。そしてそのまま抱きしめ合い触れるだけの口づけを交わすと、彼は赤くなりながら顔を洗ってくるねと言い少し足早に洗面所へと向かった。それを見送るのと同時にケトルから電子音が鳴る。お湯が沸いたようである。

そのお湯を紅茶のティーバッグをセットしておいたマグカップに注いで、テーブルの上にカップを置く。どちらから言い出したわけでも無いのだけど、朝はこうして紅茶を飲むのが私たちの慣例となっている。

一通り準備を終えて椅子に座って待っていると、顔を洗い終わった碇くんがニコッと笑いながら私の向かいに座った。

 

「ありがとう、頂くね」

 

彼は嬉しげにそう言うと、つい先ほど淹れた紅茶を大事そうに味わう。それを見てから私も飲んでみる。

…美味しい。どうやら今日も上手に淹れられたようだ。

 

「綾波の淹れる紅茶、美味しいや」

 

「そう、良かったわ」

 

本当に美味しそうに飲みながら言う彼にそれだけ返すと、それっきりそれらしい会話などはしないまま朝のひと時を過ごす。彼は話術に長けているわけでは無いし、私も別に会話を好む方では無いので自ずと静寂が訪れると言うだけの事だ。

とは言え私たちの間にいざこざだとかそう言う類の物があるわけではなく、世の恋愛で言う『口に出さないと伝わらない』とは真逆の所にあると思ってもらって良い。つまるところ、会話は彼と私にとってそれほど重要なコミュニケーションの手段では無いだけの事である。

 

飲み終えたカップをテーブルに置いて外を眺めると、空が徐々に明るみ始めていた。もうそろそろ6時を迎えようとしている頃だ。

 

「朝食の準備をしようか」

 

そう言って碇くんが椅子から立ち上がると、キッチンの方へ向かった。後を追うように私もそれに続く。

 

「今日はどっちにしようか?」

 

畳んであったエプロンを身につけながら碇くんは私に聞く。ご飯が良いのかパンが良いのか、と言う意味だ。私は拘りと言うものが無いのでどちらでも構わないのだけど、彼は毎日同じ事を聞いてくれる。律儀な彼らしい一面とも言えるかもしれない。

 

「何でも良い」

 

私も何時もと同じ答えを返す。そうとしか言えない自分が嫌で仕方ないけど、今の私にはその言葉しか無いのだ。

食事など必要な栄養が取れればそれで良いと思っていて、今もその考えは変わらない。私にとって重要なのは彼が私に作ってくれて、それを彼と一緒に食べるという事。正直に言うと、食事の内容についてはどうでも良いことなのだ。

 

「じゃあトーストにしようか。そろそろ期限が近いから」

 

そう言いながら彼はパンをトースターにセットしていく。私は2人分のサラダやスープを用意しておく。スープは俗に言うインスタントの物だけど、手軽に作れるので結構重宝している。味に関しては彼の手製のそれよりは幾分劣る印象だが、まぁ飲めないほど悪いわけでは無い。

焼きあがったトーストを皿に乗せてテーブルに置き、サラダやスクランブルエッグに焼いたベーコンなども空いた場所に並べていく。一通り用意を終え、お互い椅子に腰掛ける。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

お互いそれだけ言うと、目の前の食事を食べ始める。美味しいねと言う彼の言葉に私は静かに頷く。その後はお互い何か言うことも無いので静かなまま食事が進んでいくのだけど、私はこの静寂が好きで気に入っている。一緒に暮らし始めた時はお互い気を遣って話をしたりした事もあったが、自然と会話らしい会話をしなくなっていった。お互い話す事が無くなったと言えばその通りなのだが。

 

「碇くん。今日は買い物に行きたいのだけど、予定はどう?」

 

私がそう聞いたのは、食事を粗方食べ終えた頃だった。調味料を幾つかと日用品も補充しておきたいからと言うと、分かった。今日は何も無いから付き合うよと言ってくれた。買い物だけなら私が1人で行っても間に合う量なのだけど、碇くんに用事がある場合か私1人だけの用件の時以外はこうして2人で出掛けることにしている。

 

私は少し、いやかなり彼に依存しているのだろう。

同じベッドで寝ないと不安だし、お風呂も一緒じゃないと落ち着かないし、食事を一人で済ませることなど先ず有り得ない。何ならトイレにだってついてきてほしいくらいだけど、それだけは絶対に了承はしてくれなかった。代わりに時々声を掛けて存在を確認すると言う事は了承してくれたけれど。

世の人が私を見れば幼稚だと嘲る事だろうが勝手にそうすれば良い。他の誰が何を言おうが知ったことか。私の何もかもが碇君によって作り彩られている。

私は彼無しでは生きていけないほど全てにおいて溺れている。そう、もう二度と元には戻れないほど。

 

 

支度を済ませた私たちは、街の中心部にある大型のデパートに来ていた。買い物の予定がある時は、ここに来れば大抵の物が揃うから取り敢えずこのデパートに最初に来ることにしているのだけど、どうにも私はこの場所が好きではない。

ヒトが多いのだ。街で一番大きいと言っても差し支えないこのデパートには曜日を問わず様々な目的の人間が集まる。他者との交流を好まない私にとってここははっきり言って憂鬱以外の何物でもない。そんな私を見た碇くんに、この先もずっとこの世界で生きていくんだから、少しずつ慣れていこうよ、と何度目かの買い物の後にそう言われたこともある。

その時の私は、八つ当たりじみた怒りを彼にぶつけていたと思う。勿論彼の言い分は常識的に考えて当たり前だし生きていく上で他人との触れ合いはある程度必要なのだから慣れておくのは当たり前なのだけど、それでも出来るだけ人との接触は避けたいものだ。

 

私は何件かの店に立ち寄って必要なものを調達して、足早にこのデパートから立ち去った。横を歩く碇くんの表情は少し困ったような顔をしている。少し悪いことをしてしまったと感じたけど、嫌なものは嫌なのだ。

…やはりここは好きになれそうもないと私は改めて痛感した。

 

 

 

 

帰りの途中、碇くんが寄りたい所がある、綾波も付き合ってくれるかな?と訊いてきた。私としてはサッサと帰宅して彼と2人で過ごしたい所だけど、今日は私の予定に付き合わせてしまったからそうと言わずに彼の行きたい場所に着いて行くことにした。

 

「綾波は何か飲みたいのある?」

 

暫く歩いた先の自動販売機で、彼が炭酸飲料を買いながら私に尋ねた。私が黙ったままミネラルウォーターを指差すと、優しげに微笑みながら分かったと言い硬貨を入れスイッチを押した。出てきたミネラルウォーターを彼から受け取るとまた目的の場所へと歩き始める。

20分くらい歩いただろうか?辿り着いた目的地は、碇くんが昔葛城ミサトさんに連れられて来た街全体が見渡せる場所だった。

 

「ここは夕陽が綺麗でね。そろそろ良い頃合いだと思うんだ」

 

荷物をベンチの上に置くと、彼は手摺の方へ近寄るとしみじみと口にした。私もそれに続いて彼の横に並んでみる。

夕陽が地平の彼方に消え始めているようで、その様は何というか儚い雰囲気を醸し出しているのだけど、心が浄化されていくような、嫌な出来事を忘れさせてくれるような不思議な力を感じさせてくれる。

彼がここはお気に入りの場所なんだと途中教えてくれたけど、それも分かる気がした。

今日のように綺麗な景色を眺めれば感動する。心のこもった食事を大切な人と楽しむ。悲しい出来事を経験してしまった時は悲しみ涙を流す。

いつだってそれを私に教えてくれたのは、後にも先にも碇くんだけだった。人が当たり前のように持っている物を何も持っていなくて、知りもしなかった私に与えてくれたのも碇くんだった。

それは心だったり、感情だったり、愛情だったり様々な物があるけれど、どれもかけがえのない大切な物。失うことなど出来ないし、あってはならないことだ。

 

 

 

 

「暗くなって来たから、帰ろうか?」

 

日も暮れて辺りが闇に包まれた頃、思い出したように碇くんが言った。

それなりに長い時間をここで過ごしたようで、腕時計を見ると19時をちょっと過ぎた辺りを示していた。都合一時間と半分ほど滞在していた事になる。

 

「そうね、帰ってゆっくりしましょう」

 

それだけ彼に返すと、ベンチの上に置いてある荷物を手に取ると、どちらからともなく手を繋ぎながら歩き出す。

少しして、彼が私の持っている荷物を貰うよと言って引き受けた。

 

「綾波は明日早いし、テストがあるだろう?これくらいしか出来なくて悪いけど」

 

照れながらそう言う彼の横顔を見て、嬉しさとも愛しさとも形容しがたい気持ちが強くなるのが分かった。碇くんの何気ない優しさもそうだけど、私が以前に何気なく言ったつもりの明日のテストの事も、忘れずに覚えててくれた。普通の人なら何とも無いような些細な事だろうけど、私にとっては心が満たされるほどの嬉しい事だった。

大好きな彼に、この私の精一杯の愛情を捧げたい。大切なこの人に、感謝の気持ちを伝えたい。居ても立っても居られなくなった私は、側に着き歩いてくれる最愛の人の名前を呼んだ。

 

「碇くん……」

 

彼はゆっくり立ち止まると、私の方を見ながら微笑みを浮かべどうしたの?とだけ答えた。

 

 

 

私はその微笑に吸い込まれるように彼の顔に近づいて…そっと、触れるような優しい口づけをした。

 

「あ、えっ、とあの…綾波…?」

 

思わぬ出来事に狼狽えている碇くんを、ちょっと可愛いと思いながら…私に出来るとびきりの笑顔を彼だけに見せて…

 

 

 

 

 

 

 

 

「大好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕もだよ、綾波」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いの温もりを感じるように抱きしめ合う私たちを、月が優しく照らし出している。

 

 

 

 

とても綺麗な、真円の満月が見つめていた。




次回からは倍くらいのボリュームを目指して書きます。頑張るぞ〜

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