疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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祝!お気に入り登録1000人記念!

本当にありがとうございます…正直なところここまで早く1000人超えると思ってなかったので驚きの連続です。評価も高くしてもらっていますし…本当に感謝でいっぱいです。これからも、この作品をよろしくお願いします…!

ということで、アンケートで取りましたグランドデイをお話として展開していこうかな、と思います。イブはそれほど長くやりません。このお話で終わって、グランドデイ本編に入ります。

では、どうぞ

本編はこの話の投稿後に59階層編に話が行きます。


番外
グランド・デイ『イブ』


────それは少し昔の物語。

 

 

それは、最も新しい、偉大な伝説。

 

 

────古の時代、地の底より現れし獣が、この地を滅ぼした。その体躯、夜のごとく。その叫び、嵐のごとく。大地は割れ、海は哭き、空は壊れゆく

 

漆黒の風を引き連れし、絶望よ。なんと恐ろしい、禍々しき巨獣よ。訪るはとこしえの闇。救いを求める声も、星無き夜に溺れてきえる

 

そして、約束の地よりも、二つの柱が立ち上がる。光輝の腕輪をはめし雄々しき男神。白き衣をまといし美しき女神

 

雷霆(ひかり)(とき)が満ち、女王の歌が響く。立ち向かうは、導かれし神の軍勢。見るがいい。光輝の腕輪()が闇を弾き、白き衣が夜を洗う

 

眷属の(つるぎ)が突き立った時、黒き巨獣は灰へと朽ちた。

 

漆黒は払われ、世界は光を取り戻す。

 

嗚呼、オラリオ。約束の地よ。星を育みし英雄の都よ。我らの剣が悲願のひとつを打ち砕いた。

 

 

嗚呼、神々よ。忘れまい、永久に刻もう。その二柱の名を────

 

 

 

「────動きにくい…」

 

「我慢してくれよ、ベル。面倒だろうけど、これもいずれ必ずすることになる仕事さ。今のうちになれてくれ。」

 

「…フィンが言うなら…」

 

コロシアムの控え室。ベルは、いつもの装備ではなく、堅苦しくて小綺麗な鎧を身に纏っていた。

 

今日はなんだかとてつもない大きなお祭りの前夜祭があるらしい。前日、ダンジョンに久々に行こうと思ったら、人でごったがえす道を見て回れ右。行く気を完全になくした。

 

そうしていつも通り、中庭で日向ぼっこをしていると、少し困った顔をしたフィンに声をかけられた次の日、言われるがまま着いてきたら、こんな装備までさせられて、挙句の果てに芝居まがいの戦闘劇をさせられるという。なんとも運のない展開になった。

 

しかし、悪い事ばかりではない。

 

前日にたまたまリューに遭遇。この事を伝えると、横から入ってきたシルが絶対に見に行かせると約束をしてくれた。まぁつまり、リューにいい所を見せる機会(チャンス)なのだ。

 

すると、控え室にいた全員に声がかかった。その声の主を見て、ベルはギョッとした。このオラリオに来て、恐らく初めてギョッとした。

 

「いいか!台本は厳守だからな!くれぐれも本気で戦うんじゃないぞ!大使の連中も来ている。」

 

ダプダプの顎肉とダルダルの腹の脂肪を揺らす、オークのような小さな男。耳が尖っている事で、辛うじてエルフであることが分かる。思わず、隣のアスフィに尋ねてしまった。

 

「…エルフって、あんなに太れるの…?」

 

「ぶふっ…!で、出来るみたいですね…クラネルさん、貴方は素直過ぎて辛辣なんですね。あれはギルド長のロイマンです。エルフ界隈では、とても嫌われ者らしいですが…」

 

「そこ!話を聞いているのか!?熱くなるなよ!特にベル・クラネル!貴様は前科があるんだからな!!」

 

「は〜い」なんて、間の抜けた返事をするくらいには、ベルは驚いていた。自分の周りにいるエルフは男女問わずスレンダーと言うかスリムだから、エルフはそういうものだと思いこんでいた。

 

世界は広いんだなぁ、なんて思ったベルは、尚も注意し続けるロイマンを驚愕の目で見ていた。

 

「…んー、僕らは台本通りで構わないけど…他の面子がねぇ…?」

 

「えぇ…問題なのは私達よりも…」

 

そんな時に、背後にいた銀狼────ベートの殺気が膨れ上がった。その殺気は、この場にいる最高戦力に向けられている。

 

「………今日こそ、ぶっ殺してやるからな…猪野郎…!」

 

「まだ…青い。」

 

立ちはだかる猪人(ボアズ)の武人。名をオッタル。あのこともあり、世俗に疎いベルでも、ただ強い男である事だけを知っている。因みに、名前なんか知らない。呼び方はあの時からずっと【決闘おじさん】だ。

 

しかし、ベートをしてさえ青いと言ってのけるこの男に、少しだけ興味があった。

 

「てめぇはそれしか言えねぇのか。前の借りは…絶対に返してやる。それとジジィ!てめぇもここで蹴り潰してやる!」

 

「あぁ?…まったく…誰彼構わず喧嘩を売りおって。仕方の無いやつじゃ。」

 

「何を笑っている!仲良くせんか!」

 

噛み付くように吠えるベートは、ガレスにすらその牙を向けるつもりらしい。ガレスは変わらず好戦的な笑みを浮かべるのみである。

 

なんてコントを見ていると、べルは異様に静かなアイズを見つけた。

 

「…アイズ…なにしてるの?」

 

「…戦闘前の…精神統一。」

 

「…ねぇ、これお芝居…だよね?精神統一なんて…いるかな?」

 

「戦う時は、いつだって真剣に…だよ?」

 

「…そっか…なら、僕もやる。」

 

「おい、ベル…真似しなくていい。真似しなくていいから…」

 

この場に存在する数少ない常識人のシャクティが呆れながらベルを引っ付かみ、ちょっとした小言を言い始める。

 

「まったく…嫌に静かだと思ったら…嵐の前の静けさ…と言うやつか。」

 

「いや、アイズはいつもあんな感じだと思うけど。」

 

「…そうだな、もうアイツらはいいから…お前は本気を出すなよ?」

 

「彼女の言うとおり…あの魔法は使わないでくれよ、ベル。下手したら演者を殺しかねない。」

 

「…わかってるよ。流石に危ないのは知ってる…」

 

自分の事をなんだと思っているんだ。と、少しむくれながら、そっぽを向いた。

 

 

 

薄緑の髪を揺らし、着慣れない女性らしい服を着て、これまたなれないヒールを履いて、エルフは運良く空いていた1番前の席に着いた。

 

「…なぜ、このような格好を…しかし、シルに言われては…ベルにも来ると言ってしまいましたし…」

 

未だにウンウンと悩むエルフは、ただその時が来るのを待っているしか無かった。

 

リューは、ベルに見に来て欲しいと言われ、最初は仕事があるからと断ろうとした。が、横から入ってきたシルに絶対に行かせる。と言われてしまい、行かない訳には行かなくなった。いや、本当は行きたいし、無理を押してでも見に行く気ではあった。ただ、シルがこんなにもノリノリに着飾らせるのが予想外と言うだけで。

 

なぜ、直接会えるでも無しの今日に、こんな着飾らなければならないのか。

 

(…これでは会える日ならば着飾る気満々のようでは無いですか…)

 

少し紅潮する頬を押さえつけて、咳払いを1つ。

 

溜まった息を吐いた時に、選手入場のアナウンスが流れ、次々と著名な冒険者が門から出てきた。

 

「あっ…ベル…」

 

入場した選手の中に、一際目立つ真っ白な影が現れる。相変わらず仏頂面だが、どこか愛嬌のある顔立ちで、周りをキョロキョロ、客席をキョロキョロと見回し、リューと目が合う。すると、ベルは無表情のまま、パッ!と雰囲気だけが明るくなり、遠慮がちに、恥ずかしそうに手を振った。

 

そんな珍しい様子に、リューはクスッと笑ってから、微笑みと共に少しぎこちなく手を振った。

 

数秒手を振り合っていると、ベートがドスドスと歩いてきてベルの首根っこを掴み、ズルズルと引き摺って行った。

しょぼんとした顔が遠ざかって、最後には少し微笑んだ。

 

そして、芝居が始まった。

 

実際の力を知っている身としては、やはり手を抜いている────いや、手を抜かされている印象が強かった。しかし、やはり恩恵も持たない、また、恩恵を持ったばかりや、下級の冒険者にとっては凄いものなのだろう。

 

そうして、退屈そうにアスフィと斬り結ぶベルを見て、クスリと笑いを零した。しかし、笑っていたのも本当に最初だけだった。

 

「…やはり、貴方は戦闘に特化していますね、24階層を思い出します。同じレベルでは、もう勝ち目がありません。この間の件もあって…巷では『オラリオ最速』とまで言われていますが…実際のところはどうなのですか?」

 

「んー…魔法使えば…かな?魔法使ったアイズより速かったから。」

 

ベルと軽く組手をするアスフィは、手加減されている事実に、ホッと安心した。真っ先にベルに相手を頼んでよかったと。優しいベルは、自分よりも弱いものに手を上げることは無いのだ。プライドなんかは傷つかない。アスフィにとっては、疲れ無いということが最優先であるから。

 

「…でも、そっちはいっぱい武器あって面白そう。何があるの?」

 

「興味がおありですか?では────すこし見せてあげます!」

 

アスフィは懐から、赤い液体が入った瓶を取り出し、ベルに投げつける。ベルは、それを避けることもせずに斬りつける。すると、大爆発が巻き起こり、爆煙がベルを取り巻いた。

 

「────どうです?奇襲にはもってこいでしょう。」

 

爆煙に向かって声をかけると、立ち上っていた爆煙が切り裂かれ、一気に晴れる。中からは傷一つないベルが驚いた様子で立っていた。

 

「本当、おどろいた。リューが言う『万能者(ペルセウス)』っていう意味がわかった気がする。」

 

「そうでしょう。もっと褒めてください。最近純粋に褒められることなんてなかったので結構嬉しいですよ。」

 

「本当に凄い…僕なんて、斬る、撃つ、纏うしか出来ないし…それ欲しい。」

 

「それが強すぎるから貴方には必要ないでしょうに…」

 

「芸術は、爆発なんだって。」

 

「恐らくそれは間違っています…」

 

目を輝かせるベルに、少し呆れながら、アスフィは今までにないくらい楽な仕事をこなし、この行事が初めて楽しいと思えた。

 

 

 

が、その楽しさはすぐに崩れることになった。

 

 

 

「────ッ!アスフィ、これ…本当にお芝居なんだよね?」

 

「へっ?……ま、まさか!!」

 

アスフィが背後を振り返る。

 

「うおぉぉぉぉっ!!!」

 

「…甘い」

 

ベートとオッタルが全力で戦っていた。アスフィはその様子を見て一気に沸騰。フィンにズカズカと近づいて文句を言いに行った。

 

「『勇者(ブレイバー)』…これはどういうことですか…!」

 

「ベートが煽ってオッタルがそれを買って、そこにアイズが乱入…結局、いつも通りというわけだ。」

 

「それを止めるために貴方が居るのでしょう…!あぁ…猛者が本気になっています…誰が止めるのですか…!」

 

なんだか少し苛つき気味のアスフィをよそに、ベルはその隣でその戦いを見ていた。

 

「うーん…ベル。」

 

「なに?僕たちであれ止めるの?」

 

「あぁ、だがオッタルは君単独で(・・・・)止めてくれ。」

 

「流石にそれはキツすぎやせんか?」

 

「逆に、単騎戦闘で本気のオッタルと張れるのはこの場にはベルしかいないんだよねぇ…」

 

フィンはがその指令はガレスでさえも顔をしかめるもので、ベルも非常に嫌そうな顔をする。

 

「…流石に全力じゃなきゃ無理だけど。会場壊れるよ、確実に。」

 

「構わない、君の全力を他の派閥に見せるいい機会だ。僕が責任を持とう。」

 

それを聞いて、一拍置いたベルは溜まった息を吐き出して背中の黒刀の柄を掴んだ。

 

「…了解、アイズとベートはそっちに任せる。」

 

「任せてくれ。」

 

「…手は、出さないほうが良いと思う。アスフィ、近寄らないでね。」

 

「わかっています。好き好んであんな激戦区に行きたくはありませんし。」

 

「ん」

 

その言葉を置き去りに、ベルの姿が掻き消える。

直後。中心で戦っていた三人がバラバラの位置に吹き飛ばされ、オッタルのみが大剣を地面に突き立てその衝撃を逃し、体勢を立て直す。壁に激突したベートとアイズも、すぐに体勢を整え、ベルの元に向かった。

 

「…ベル・クラネルか…」

 

「不意打ちたァいい度胸じゃねぇか…!これだから辞められねぇ…!なぁ!!ベルッッ!」

 

「…速いね…やっぱり私よりも速い…でも、負けない…!」

 

3人に囲まれたベルは、しかして視線をオッタルに釘付けた。その様に気づき、ベートは激昴。襲いかかるもそれは金色の槍撃によって遮られた。

 

「…てめぇが相手になってくれんのか?フィンよォ!?」

 

「その通りさ。君たちは少し頭を冷やしてもらうよっ!」

 

槍で高速の蹴りを捌き続ける金色の貴公子。堕ちた種族の希望になるべく立ち上がった、たった1人の『勇者』。

 

フィン・ディムナ

 

甘いマスクにいつもの余裕を浮かべて、親指をペロリと舐める。

 

「…ガレス…」

 

「ガッハッハッ!まぁ今の所は儂で我慢せい。その代わり、儂も────大人は捨てるとするかのぉ。」

 

「…っ!」

 

アイズに対峙するのは、ロキ・ファミリア幹部。ドワーフの男。無精髭を蓄えた、無骨、しかして陽気に、戦闘を愛する男が憧れる漢。筋骨隆々な体に力を込めて、更に隆起させる。

 

ガレス・ランドロック。

 

ゾクゾクっと背筋に走る鳥肌。震える体。しかしてそれは、恐怖から来るものでは無い。

 

強者との逢瀬(戦闘)に期待する『武者震い』。

 

ヤレヤレと首を振ったガレスは、自身の戦斧を肩にかついだ。

 

 

「…貴様も、力を試したくなったか。」

 

「僕をあんな戦闘狂達と一緒にしないで。やりたきゃ勝手にやってればいい。ただ、見に来てる人にも被害を出すのはダメだ。一般の人もいる。大人なら、わかると思うけど。おじさん。」

 

この2人を囲む空間だけが、死んでいた。

 

ただ2人は向き合っているだけ。それだけなのに、異常な緊張を孕んだ雰囲気に、観客は呼吸すら忘れるほどに押さえつけられていた。

 

「くだらん詭弁だ。」

 

「子供みたいな我儘言わないで。」

 

同時に、激突した。両者の大剣が激しい悲鳴を嘶かせ、突風を巻き起こす。

 

「フッ!」

 

「フンッ!」

 

黒刀から火花が弾け、剣が放つ鈍い光が交わされる。

 

「貴様は、戦いに高揚することは無いのか。」

 

鍔迫り合いのさなかに掛けられる言葉は、武人としての純粋な疑問。冒険者としての、素朴な疑問。

 

「…僕にとって、戦いはただの作業だ。目的を達成するための過程でしかない。」

 

「……」

 

出された答えはNO。

ベルの中にある戦いとは、ただ目的を達成するための過程でしかない。そこで得た経験や心構えは勿論の事、強くなろうと言う意欲も、遠征前に再び燃え上がった。しかし、そこにあった強者、所謂敵との衝突自体に高揚を感じた事など微塵もない。戦いなど、無い方がいいのだ。

 

繰り返される剣戟。ベルの瞳が紅く輝く。

 

「────でも、何かを守るためなら…何も失わないためなら、僕は戦いを厭わない。」

 

「…」

 

「僕は…もう、何も手離したくない…誰も、失いたくないから。」

 

振り下ろしからの横回転斬りを、オッタルは当たり前のように交し、この男には珍しく口元を歪め、笑った。

 

「面白い…ならば、貴様の闘志に理由()をつけてやろう。」

 

「…なに…?」

 

大剣を地面に突き刺したオッタルは、ベルの目を射抜く。

 

 

 

 

 

「貴様が強くなるきっかけを…ここで本気を出さねば、あそこのエルフを吹き飛ばす。」

 

 

オッタルが剣を向けた先には、リューがいた。

 

 

「────」

 

 

瞬間、空気が沸騰した。否、大気が燃えた。

 

「ッ!」

 

先程迄の雰囲気は焼け焦げ、目の前からかき消えたベルが放った一撃が、オッタルを後退させる。

 

「…安い挑発だ…けど、乗ってやる────ぶっ飛ばす。」

 

会場全体を震わせるほどの闘気。ベルの攻撃を防いだオッタルは、未だ少し痺れる両の手を握りしめ、好戦的な笑みを小さく零した。

 

「ククッ…あの時以来だ…貴様の痺れるような闘気…内に秘められた潜在的な本能…不完全燃焼で終わった戦いの再演だ…!」

 

「【迅雷(ブロンテ)】」

 

黒い雷が迸り、響く歌。それを耳にして、フィンが頭を抱えた。

 

「…オッタルめ、やってくれたな…」

 

「ハッ!おいフィン!てめぇはいつまで仮面なんざ被ってやがる!」

 

今も尚続く蹴りの土砂降りの中に、ベートは諭すように叫ぶ。それは、強さを最も重んじるベートだからこその言葉。

 

「ここはもう戦場だ、ベル達(アイツら)の方が遥かに正しいぜ!俺もてめぇも────『冒険者』だろうが!」

 

訪れる沈黙を皮切りに、フィンは大きな溜息を零す。

 

「…やれやれ。好き勝手言ってくれるね。同じ派閥幹部として、失望してしまうよ。…でも、最もに失望するのは、君に乗せられてしまう僕自身にかな?」

 

「────ハッ!」

 

全力の突きがベートを襲い、尽くを破壊せんと空気を突き破る。

そして、左手の親指を額に突きつける。

 

「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て────】」

 

「本気で来やがれッッ!フィン!!!」

 

「【ヘル・フィネガス】!!!」

 

大人を捨て、冒険者として、荒れ狂う激情を発露する。

フィンの切札。その効果は戦闘意欲の高揚。そして、能力の大幅アップ。その代償として、正常な思考を失う。しかし、この場に理性など必要は無い。ただ、力と技を駆使し、敵を殲滅するのみだ。

 

「ウオォォォォォォォッッ!!!」

 

「オォォォラァァァァア!!!!」

 

「………」

 

激突する銀狼と狂戦士を他所に、未だに難しい顔をした少女が1人。アイズは、ガレス相手に全力を出せずにいた。

 

「…アイズ。お主、儂を舐めとるのか。」

 

「っ!?」

 

巨大な戦斧がアイズを襲い、数メートル吹き飛ばされる。壁に激突するギリギリのところで体勢を整え、再び突撃。しかし、ガレスはその刃にすら怒りで返した。

 

「何を迷っとるか小娘風情が!!」

 

「ぐうっ!?」

 

「お主程度の攻撃で、儂が傷つくとでも思っておるのか!?だったらそれ以上の侮辱はないわッ!────アイズ・ヴァレンシュタイン!!お前の(想い)はその程度かッッッ!!」

 

その怒りが、その叫びが、アイズの闘志に火を灯した。

 

 

 

 

 

「────ッ【目覚めよ(テンペスト)】ッッ!!」

 

 

 

 

 

ガレスなりの叱咤激励は、アイズの心を動かした。

 

傷つけるから全力を出さない?

 

否、それは侮辱。それは傲慢。

目の前に立つ(おとこ)は、都市最強の一角。己よりも精錬された武を持っているのだ。なればこそ、全力で行かずしてどうするのだ。

 

風を纏ったアイズは、剣を構える。向き合う2人は、いつかの対峙を思い出した。

 

「…行くよ、ガレス。」

 

「童が…一丁前になったもんじゃ…これだから熱き戦いは止められん!!」

 

 

激しい戦いが巻き起こる中、一際激しく、観客が盛り上がっているのが、やはりベルとオッタルの戦いであった。

 

恩恵を持たない一般人や、下級の冒険者では至る所で衝撃波が巻き起こるだけで、何が何だか分からない状況になっている。

 

身の丈程もある大剣を自在に扱い、観客にはほとんど見えていないであろう高速移動で無尽に動き回るベル。しかし、それはオッタルに尽く届かない。素の脚力だけで【都市最速】と謳われるようになったベルでも、越えられない壁は存在する。

 

「…おかしな奴だ。迷いが強くなればなる程に、貴様は強くなる。普通の人間とは真逆の男だ。初めに見た時の激しい炎は未だに燃え上がっているというのに…どこか静謐さを秘めている。つくづく、貴様という男は面白い。」

 

「…わかった風に言うな…!」

 

「わかった風に言っているつもりは無いが、刃を交えれば自ずと感情やその者の起源は読み取れる。────悲しみ…いや、これは『復讐』か。」

 

「…… 」

 

黙ったまま、ベルは更にスピードを上げ、大剣を衝突させる。

 

「しかし、やはり迷いが大き過ぎる。」

 

「…まだ分からない…自分がどうしたいのか…どうすべきなのか。でも…僕は、一緒がいい…そう、思った。」

 

オッタルの縦振りを最低限の動きで躱し、小さい体でオッタルの懐に潜り込み、蹴りの連打を放つ。しかし、それもオッタルの空いた手で足を捕まれ、そのまま投げ飛ばされる。が、瞬時に雷の翼を具現化させ飛翔。そのまま空中からオッタルに斬りかかり、魔法を連射しながら果敢に攻める。

 

「若いな。────だが、それでいい。」

 

「え…?」

 

意外な言葉に、ベルは向き合ったままポカンとする。

 

「お前は些か考えすぎだ。冒険者ならば…人であるなら(・・・・・・)ば、心のままに、自由に選べ。お前にはその資格がある。」

 

その言葉は、重かった。現時点での【最強】はこの男で間違いはない。自分も、その領域に片足を突っ込んでいることは理解しているが、まだ届かない。しかし、だからこそこの男の言葉はベルに響いた。現時点でのアルケイデス(英雄)には、間違いなくこの男の方が近い。そんな男が、【人ならば自由であれ】と言った。ならば、少しだけ自由にしたって構わない筈だ。

 

ベルは、心配そうに観客席から眺めているリューを視界に収めて、静かに笑みを浮かべた。

 

「…そう言うなら、その言葉に甘えるとするよ。」

 

「…来い。」

 

 

 

 

 

「──────【英雄よ(テンペスト)】」

 

 

 

 

 

ベルの纏っていた黒雷に、純白の稲妻が混じり、ベルの毛髪が電気によって逆立つ。

 

「【人へと至れ(ハキュリス)】」

 

その雷、雷霆の如く。その雷霆(ひかり)、雷神が如く。空気を焼き、大気を揺らす程の轟音が響き、闘技場を、地を揺らし、観客の耳朶を叩く。

 

「────リュー!!」

 

「…ベル…?」

 

叫び、また再び視線が交わる。

 

それだけで良かった。

 

そして、紡がれる英雄の格言。人である故に、何にも縛られない。彼のように、英雄の様に。身勝手に、自分勝手に、傲慢に。戦いに没頭するのも、悪くは無い。そう思えた。

 

 

 

 

 

何故なら────

 

 

 

 

 

 

「────僕は、冒険者だ。」

 

 

 

 

 

 

白雷と黒雷を握ったベルは、笑っていた。

 

 

 

「リュー…!」

 

「ベル、お疲れ様です。」

 

闘技場の外にスラリと立っていたリューを見て、ベルはあたふたとしながら謝罪する。

 

「ご、ごめんね…こんな時間まで…その…つい夢中になって…」

 

「いえ、構いません。貴方が楽しそうで、私も嬉しかった。」

 

そう微笑んだリューを見て、ベルは顔を赤くして俯いた。

 

彼女は、たまにこういう顔をするから狡い。

 

「しかし…貴方の魔法はやはり出鱈目だ。強力すぎます。」

 

「…そうかな…?」

 

「最後の猛者への一撃だけで会場の至ることろにヒビ入れておいてよく言えますね…」

 

「あのおじさんの方が強かったけど…」

 

「お、おじ…貴方はやはり、大物になるのでしょうね…」

 

「…そうかな?」

 

そんな他愛ない会話を終えて、ベルはリューを送る為に隣に立ち並んで歩く。その間も、ずっとチラチラとリューを見ながら。

 

「どうしたました、ベル?…あぁ、この服ですか。」

 

「えっ…あ、うん…珍しいなって…お化粧も…してる?」

 

「シルに着ていけと無理やり…それもまた無理やり施されたものです。まったく、私のような女には似合わないというのに…」

 

「そ、そんなこと…ない…」

 

「…お世辞だとしても…嬉しいです…」

 

「お世辞じゃない…!ホントに…女の子らしくて…か、可愛いと思う…服も、似合ってる。」

 

「あ、貴方は何を…!?……あ、ありがとう…ございます…」

 

「……うん…」

 

2人の間にあった、ぎこちない距離が、ゆっくり、ゆっくりと縮まっていく。

最後には、二人の間に見えた夕焼けが消えた。その距離が、肩から伝う温もりが、どうにもくすぐったかった。

 

そして、豊饒の女主人に到着する直前の噴水前で、縁に腰を掛けながらほんの少し、名残惜しそうに雑談を交わしていた。

 

「…名残惜しいですが、そろそろ戻らないと…ミア母さんにドヤされてしまう。」

 

「あっ…うん、そうだよね…」

 

「それと…祭りの間は店に近寄らない方がいい…シルの提案でベヒーモス料理をしているのですが…その…じ、滋養強壮に良いだけの料理を無理やり食べさせられるかもしれない。」

 

「…滋養強壮にいいのは…いい事だよね?」

 

「あ…いえ、その…お腹の滋養強壮が良くなるといいますか…逆流すると言いますか…」

 

「…それ、本当にお店で売ってるもの…?と言うか、食べていいもの?」

 

「少なくとも、私は貴方に食べて欲しくはありません。」

 

珍しく顔を引き攣らせるリューを見て、余計に訳が分からなくなったベルは、そのまま豊饒の女主人の目の前に到着した。リューはベルに笑顔をみせて、ベルに別れを告げた。店の中に入ると何やらミアとアーニャ達が何やら言い争っていた。

 

「なんでニャ!なんでリューだけが明日もお休みなんだニャ!?ずるいニャ!えこひいきニャ!!」

 

「そーにゃそーにゃ!なんであのポンコツだけ休みなんだニャ!」

 

「クロエ、何がポンコツですか。」

 

「ニョワァァ!?リ、リュー!?いつ帰って来たニャ!?」

 

「今しがた帰った来ました…そんなことよりも…どういうことですか、ミア母さん…?」

 

なぜ自分に休みが連続で与えられたのか理解ができなかった。普通の飲食店であれば理解できる範囲の休みだが、なにせこの豊穣の女主人では、こんなことは許されたことが無い。しかしミアは、いつもの通りに暴君が如くその事実のみを伝える。

 

「どうしたもこうしたも、明日、あんたに休みを与えてやるだけさ。」

 

「それは…しかし…なぜ…?」

 

「何だい、アタシの決定に文句でもあんのかい?」

 

「い、いえ…ありません…」

 

この一言だけで、店員の全員が黙らされた。

リューは突如渡された休日の使いみちに悩んでいると、シルとルノアが後ろから耳元で囁いてきた。

 

「どうせだから…明日のお祭りはベルさんを誘ってみたらどう…?」

 

「そーそー…冒険者くんだってリューと一緒に居たいって言ってたじゃない?」

 

「シル、ルノア!?一体何を…」

 

否定しようとしたリューだったが、ベルと過ごす時間は好ましいものだし、いや逆に好きではあるし、さっき別れた時も、どこか寂しさを感じたのは確かだった。

 

…そう、これはベルが望んだことであり、自分自身も望んでいることだ。

 

そう言い聞かせたリューは、ミアに一礼してから、別れたベルを追った。

 

「手のかかるエルフだねぇ…」

 

「そんなこと言って、嬉しそうじゃないですか?ミアお母さん?」

 

ボヤくミアの横から、シルが誂うように口を出すが、いつも通りにミアは鼻で笑って一蹴した。

 

「ふん…坊主の母親に恩があるだけさ。さぁ、何ぼさっとしてんだい!明日が本番さ、さっさと準備をおし!」

 

そう零したミアは、店員の仕事を急かすように話をそらした。

 

「…貴女に似て…随分と不器用な子になっちまったようだよ…」

 

 

 

「ベルっ…!」

 

「…え、リュー?どうしたの…?」

 

カツカツとなれないヒールでベルの後を追いかけてきたリューに、少し嬉しそうな雰囲気を出したベル。

 

さぁ、彼を誘わなければ。

 

「あ、あの…私は…明日、休みを貰いました。貴方は、明日…その…何をしていますか…?」

 

「…そうなの?良かったね…えっと…なんもしてないかな…別に明日はフィンに呼び出されたりしてる訳でもないし…」

 

「で、では…あ、明日も…私と会って、くれませんか…?」

 

そう遠慮がちに言って、やはり恥ずかしかったから、ベルから目を逸らした。チラッとベルを見やると、ポカンとしている。

 

やはり、自分のような女が誘うのは烏滸がましかったか…そう思った時に、ベルが再起動した。

 

「────ハッ…!え、あ、えっと…ほんと…?」

 

「え?あ、はい…?」

 

ベルは事態を次第に飲み込み始めたのか、徐々に顔をだらしなく緩めた。

 

「…うん、うん…!絶対に行く!僕も、君に会いたい…」

 

ベルの返答にホッとしたリューは、待ち合わせ場所を決めながら、明日は何があるのかを思い出していた。

 

「えっと…じゃあ、明日は中央広場の噴水前に…10時…だね。」

 

「はい…そ、それでは私はこれで…」

 

そう言って踵を返した時

 

また明日(・・・・)…バイバイ…」

 

そのベルの言葉は、何だかずっと聞きたかった言葉だった気がして、リューは振り返って、いつもの様に…いや、いつも以上の笑顔をベルに送った。

 

 

 

 

「────はい…また明日(・・)

 

 

 

これは、2人が初めて交わした、明日の約束だった。

 

 

 

 

 

その夜、店では…

 

「────彼が『君に会いたい』と言ってくれたのです…ですから、その…明日もシルに…服や、化粧をお願いしたく…」

 

「うんうん、わかってるよー?でもさリュー。このお話もう6回目なんだけど?」

 

シルが、いつもとは違うリューの態度に、少し戸惑っていた。

 




ちょっとぶった切った感強かったですけど終わりです。

あと、気になっていた事なのでアンケートとりますね。それによって進行具合を変えていこうかなと思います。

では、また…
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