スキルを1個載せ忘れてました。
ベル・クラネル
ヒューマン
Lv3
力 :S1058
耐久:SSS1300
器用:C620
俊敏:SS1280
魔力:SS1200
【狩人:A】【憤怒:EX】
《スキル》
【
・能動的なダメージ・チャージorマジック・チャージ実行権
・溜め込んだダメージを魔力に転換し、身体能力を向上させる
・ダメージを倍にして任意の方向に跳ね返す
【
・超早熟する
・復讐心を持ち続ける限り効果持続
・復讐心を無くした時点で効果を失う
・復讐を遂げると死亡する
・復讐の対象が複数ある場合、その対象一つに復讐を遂げた場合も死亡する。
【孤軍奮闘】
・単独での戦闘時ステータス上昇
・敵の能力が自身よりも上である場合、上長値を能力差分上昇。
・スキル使用後、1人の味方の介入によりステータス上昇値を1段階解除、3人の介入により完全解除。次回使用時まで8時間のインターバル。
・人型を保つ敵性存在に対してのダメージ上昇。
《魔法》
【
・雷撃魔法
・追加詠唱・強化詠唱により能力開放
現在の能力
『
迅雷によるリミッター解除率:20%
【ルミノス・ウィンド】
・攻撃魔法
・風・闇属性
・通常精神状態での使用不可
・怒りの丈によって威力増大
研ぎ澄まされた感覚の中、燻んだ光の轍を残す黒龍の爪撃を、怪人は避け続ける。
身体中を傷に蝕まれている。いつもならば瞬時に治る傷が、どうしてか治りが遅い。まるで、呪いでもかけられたかのように。
「ガルアアアァァァァァァァァァッッッ!!!!」
獣の如き咆哮を放ちながら、黒龍は怒りのままに攻め続ける。
「クッ…!?」
防戦一方の男は、ついには黒龍に肩を噛み砕かれる。
喉を鳴らし、口許から滴り落ちる血潮が、肉片が、怪物を逸らせる。
「⿴⿻⿸⿴⿻⿸?」
「くっ…訳の分からんことを…!食人花!」
男の指示を聞き、また花が咲きほこる。しかし、その花は美しさなど欠片も感じさせない、食人花。それが一斉に黒龍に向かって飛びかかる。
しかし、黒龍はその場を一切動かず、大群に飲み込まれる。ギチギチと鳴る歯軋りの音が男の耳を蝕んだ。
黒龍は、何事もないようにただ前進する。数多くの食人花に全身を噛まれながらも、ただ前進する。その身には傷一つ無く、食人花の歯は黒鱗に阻まれ、意味をなさない。花弁を握り潰され、斬り殺され、その数を徐々に減らされていく。
「…ふんっ…」
男は、忌々しそうに顔を歪める。
前から迫りくる、絶対強者。規格外の力を持ったオリヴァスの肉体を、いともたやすく噛み砕き、捻り潰す。しかし、それはオリヴァスとて同じ。
転身したベルは、ただ目の前の男に怒りをぶつける。
食人花を右手で握り潰し、グッと身を屈める。その構えを見て、オリヴァスは身構えた。
「ガアアァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
疾駆。
いいや、その翼で飛翔しながら、牙を剥き出し、五本の爪を光らせ、特攻する。
「獣がぁッ!!!」
ぶつかり合う、両者の拳と爪。そして、変転したベルのデタラメな殴打に剣戟。オリヴァスの強靭な肉体に、次々に傷を付けていく。デタラメ故に、駆け引きなど微塵も含まれない純粋なスピードとパワー。どれも、オリヴァスの上を行く。しかし、オリヴァスは気づいていた。自身の行動に見せる、過剰なまでの反応。それは、予想や直感からくるものではなく、目で見ているからこその反応。オリヴァスは、そこに目をつける。
ピクリと、肩の筋肉を揺らすと、ベルはそれに気づき、攻撃を停止。即座に離脱。殆どない理性の間に、危険だと察知したベルが、逃げ出す。しかし、オリヴァスはベルの次の行動を読んでいた。
「!」
「死ね、獣め…!」
その拳は、タイミング、スピード。すべてが完璧な拳打。
しかしその瞬間、ベルが感情のない瞳に喜色を映し、醜悪に笑ってみせる。
その翼で飛び上がり、一瞬でオリヴァスの背後に移動。彼は失念していた。人間には決して不可能なその動き。自身の真上を通り抜けて、容易くオリヴァスの隙きをついた。
「なっ────ブっ!?」
瞬時に反転したオリヴァスを襲ったのは、頬に走る強烈な衝撃と、鋭い痛み。
そのまま吐血しながら、吹き飛ぶ。それで離脱を考えたオリヴァスだったが、ベルは逃さなかった。
長く禍々しい尻尾を腰に巻きつけ、吹き飛ぶはずだったオリヴァスの体を、その場に固定。
その後は、嵐のような殴打。確実にオリヴァスの体を壊していく。必死の抵抗を見せるオリヴァスだが、反撃も抵抗も虚しく、ただ竜の爪を受け入れるしかない。
「グブッ、ゴァッ!?喰らえェェェ!!!ヴィオラスゥゥゥゥゥ!!!」
ベルの真下から出現した食人花に飲まれ、そのままオリヴァスを離す。離脱したオリヴァスはすぐさま回復に専念するが、そんな時間を与えるはずもない。
ベルを飲み込んだ食人花が、ボコボコと膨れ上がり、遂には中から喰い破られたように炸裂する。
「ガルアァァァァァッ!!!」
黒竜は頭から食い破ってその姿を現す。鋭い牙を光らせる口元には、極彩色の魔石。それを、噛み砕く。ただ怒りを、憎しみを、殺気を叩きつけ、瞳を燃やす。
「化け物め…!」
奥歯を噛み締めたオリヴァスを嘲笑うように、ベルはゆっくりと向かっていく。
確かに、オリヴァスの強さは果てしないものになった。しかし、スピードに関しては、ベル、リューのコンビのほうが上。ましてや、この状態のベルのスピードは第一級冒険者にも引けを取らない。故に、当たらなければどうということはないのだ。
しかし、此の二人には決定的に違うところが一つあった。
「ヴィオラス!喰らえ!!」
ベルに殺到する花と同時に、オリヴァスは動いた。
異形の大剣を振るい、ベルに肉薄する。鍔迫合う二人、しかし食人花はベルに殺到することはなかった。
「!?」
「今更気づいたか!?だがもう遅いッ!!」
食人花が殺到するその直線上に存在する、今のベルにある、唯一の弱点。
リューだ。
「喰らえッ、ヴィオラス!!」
鍔迫合うベルに、それを守る手段はない。
未だ眠るリューを瞳に写し、初めて瞳に焦りを移す。その隙きを、格好のタイミングを、敵は見逃さない。
「隙を見せたな!貰ったぞ!!」
異形の剣が、ベルの胴体を袈裟懸けに切り裂く。しかし、今のベルには、リューしか映らない。その痛みさえも、苦しみさえも、熱さえも、怒りも、全てすべて
理性に変わる。
「────リューッッッ!!!』
ナニカの声と、ベルの声が混ざりあった。
瞬間、ベルは無意識の内に【迅雷】を発動、通常時以上の電流を脳に流し、脳にかかっている
一瞬、ほんの瞬き程度の刹那でリューのもとにたどり着く。リューを抱きかかえ、その場を退避。ゴロゴロと転がりながらも、ベルはリューを離すことなく、抱きかかえ続ける。なんとか、最悪の結末だけは回避した。
「……っ…私、は……────べ、ル…?」
衝撃で目を覚ましたリューは、漸く目を覚まし状況を理解する。
「───ベルッッ!!!起きなさい!!!」
少年は、すでに死に体。全身から血を吹き出し、血管という血管が鬱血。目からは血の涙を流して放心状態。ベルの体は、その電圧に耐えることは出来なかった。
「エリクサーを…!────クソッッ!!!」
バックを探るが、全て使えない。戦闘の衝撃に負けて、すべての瓶が割れている。エルフの矜持も忘れ、乱暴な言葉を吐き散らす。
「【今は遠き森の歌ッ、懐かしき
自分は何をやっていた。
「【ノア・ヒール】!!」
彼がこんなになってまで守ってくれている間、自分は油断した末にのんきに寝ていたのだ。
自分が嫌になる。ただでさえ、彼には隠し事をしている負い目があるというのに。
嗚呼…なんて間抜けなんだろう。
「…ついに、貴様独り…過去の亡霊、アストレアの生き残り…直接相見えるのは初だったな。」
「貴様ッ!!」
どうしようもない罪悪感と、負の感情が入り交じる中、リューは忌々しい男の声に眦を釣り上げた。
「吠えるな。貴様程度、私が相手にするまでもない。ヴィオラス、辱めて殺してやれ。」
リューは、ゾッとした。その男の冷酷な言葉にとか、その内容ではなく。その
壁一面から、花が咲く。遠目で見れば、一面の花畑。しかし、現実は広がる地獄。もうすでに退路はない。
(此処が…墓場…)
膝から、崩れ落ちた。無理だ、此の数はたとえ魔剣を使ったとしても、意味はない。
脱力したリューは、向かい来る花を無視して床にペタリと座り、膝にベルの頭を乗せてその血に染まった頭を撫でる。
「嗚呼…こんなところにまで傷が…貴方は、無茶がすぎる。貴方の目的は…果たさせてあげられなくなってしまった。」
鱗に包まれた手を、頬を、慈しみ、労るように撫でる。変わり果てたこの姿には驚いたが、ベルだとわかれば、愛おしくも感じる。
それはまるで、最後の逢瀬。
「貴方を騙していた事を謝罪させてほしい。私が、貴方の探す、仇なのです。ごめんなさい…こんな言葉で片付けてはならないのはわかっています。でも、私には、これ以外にやれることがわからなかった。許してなど言いません。何も、私には言う権利などないのです。」
涙をこらえたリューの告白に、ベルは反応することもない。
「貴方が、エルフを毛嫌いしている理由は、真っ当なものだ。私が貴方の立場なら、エルフなど滅んでしまえと想っていただろう。でも、貴方は違った。こうして私の同胞のために、仇を取りに来た。そんな、優しい貴方は…ベルは────」
最後の微笑みをたたえながら、儚げに、満足げに呟いた
「────本当に、尊敬に値するヒューマンだ。」
ベルの額に、影が落ちた。
せめて…そんな貴方を、先に死なせるわけには行かない。
リューは、ゆっくりとベルの体を壁にもたれ掛けさせ、魔剣と木刀を構え、ベルの前に立つ。
最後に、誇りあるエルフの姿を、ベルに見せたかった。
「…神アストレアが眷属。リュー・リオン…参る。」
その言葉を皮切りに、リューがいた地面が爆ぜる。迫りくる大量の食人花に向かい、魔剣を振るう。
「【雷入道】!!」
目の前に殺到した花を、暴風が薙ぎ払うが、花は次々に襲いくる。それはリューの体を、徐々に徐々に傷つけていく。しかし、諦めない。リューは足掻く。無様でも良い、格好悪くたって構わない。ただ、リューは戦う。今度は、私の番だと。叫ぶように。
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々、愚かな我が声に応じ、今一度聖火の加護をっ】!!」
精一杯、力いっぱいに歌う。生き汚く足掻き続ける、誇り高きその魂から、妖精の賛歌を。
横薙に払われる触手を、避ける。槍の様に突き出される触手が、肩を貫く。撓る触手が、リューの胴を払い抜く。
「【汝を見捨てし者に光の慈悲を。来たれ、さすらう風、流浪の旅人っ】!アァっ…!?」
三本の触手が、リューの胴体を貫いた。途絶える詠唱。編み上げた魔力が霧散する寸前。リューは腰から小太刀を引き抜き、自身に突き刺さっている触手を切断。更に詠唱を重ねる。速度を上げて、疾走する。
「【空を渡り、荒野を駆け、何物よりもっ…疾く走れっ】!────ヵ、ァ…」
しかし、接近を許すことはなかった。リューは迫りくる刺突を避けきれず、弾かれるように吹き飛び、ベルの眠るその真隣に激突する。
その衝撃で消えかけた意識を、たたらを踏んで保ち、最後の一節を紡ぎ出す。
「【────星、屑の…光を宿しっ…敵をっ、討てぇぇぇッッッ】!!!」
妖精が叫んだ。それは、誰かに捧ぐ星屑の奇蹟。妖精が紡ぐ、決死の讃歌。
この讃歌を…貴方に…捧げます…
最後に想ったものは、自身が想像していた人物達ではなく。ただ一人の少年の姿だった。
「───【ルミノス・ウィンドッッ】!!」
放たれる爆撃。風を巻き込む大光弾。それが47。なんの前触れもなく、風を生み、巻き込み、炸裂する。
生み出される爆風。殲滅される食人花。しかし、その風の輝きは瞬く間に消えゆき、その光を切り裂くように、畝る触手が肉薄する。
リューの体は、リューは悟った。
(此処が…私の…私達の…)
薄れる意識。保たれていた戦意が、粉々に砕け散った。かつて無いほどの強敵だった男を前に、あの災厄以外に湧き出ることはなかった諦観。それが、ゴポリと湧き出た。
最後に、少年の顔を見る。その横顔が、余りにも安らかで、拍子抜けしてしまった。
「────ふふっ…貴方のそんな顔を…最後に見ることになるなんて…」
思えば、彼の顔はいつも仏頂面で、笑顔なんて…本当に数える程しか見たことがなかった。偶に街で出会っても、いつだって戦士の気迫を纏っていた。でも…本当に最近は笑顔をみせてくれるようになった。
私に、彼の笑顔を穏やかに見る権利など無いだろう。しかし、せめて…せめて最後くらいは、彼の穏やかな顔を、年相応な彼の顔を見たかったのかもしれない。
「ありがとう、ベル…私は、貴方に…会えて…漸く、生きる…意味を────」
途絶えたリューの声を最後に、花の唸りが酷く大きく聞こえる。
目を閉じたリューは、微笑む。彼と死ねるのならば、それでいいか、と。
(来世という物に…興味はなかったが…どうか…次は、こんな出会い方は…)
願わくば、彼の来世が幸せでありますように。さようなら、私の触れられる人。
完全に目を閉じて、安らかな顔を浮かべる。無意識に浮かんだベルの笑顔を思い出して、釣られて笑顔になった。
しかし、彼は許さない。そんな最後を、許さない。
「────────【
次の瞬間、リューは信じられない声を聞いた。
「……やっぱり…君は、笑っている方が良い。」
いつかの言葉を、繰り返すように語った。閉じかけた意識を強制的に引き戻された。
まさかそんな。言葉が喉をつきそうになるが、嗚咽が先に回った。
「…ごめん、遅くなって。流石に、電流を流しすぎた。スキルが発動しなかったら…やばかったかな。」
その背中は、ボロボロだった。なのに、自分を守ろうと、必死にいつもの通りを装っているようで。頼りないのに、尽きたリューの心に、再び希望の火が灯らされた。
「とにかく、ありがとう…ここからは…僕が君を守るよ。」
感謝するよ、白髪のお姉さん。そう呟いたベルは、剣を構えた。
その言葉が妙に嬉しかった。しかし、現実的に見て状況は絶望的。最悪の状況だ。リューは腹に穴が空き、すでに立てる状態ではない。ベルはベルで、傷は塞がっているが、魔力を使いすぎたために、マインドが空っぽ。
「まだ立つか…ベル・クラネル…」
「あぁ…何度だって、立ち上がってやるさ。お前を、殺すまで…!」
精一杯の威嚇も、最早虚勢。膝は笑っている。
「…よく吠えるものだ…すでに、立っているのがやっとだろうに…しかし、貴様は油断ならん…私が手を下しに行けば、また殺られかねん。ヴィオラス、殺れ。」
淡々と、その言葉を命じた。ベルは、柄を握り締めて、構える。せめて…リューだけでも逃がせる時間を稼ぐ。決心とともに、駆け出そうとした、
その時だった。
ベルの目の前を覆っていた食人花の群れを、二人の絶望を、一条の光が掻き消した。そして、その光と共に聞こえた声に、ベルは聞き覚えがありすぎた。
「────まったく…本当に貴方は手がかかりますね…リヴェリア様が目を離さなかった理由がよくわかりました。」
「………あ、え…?」
ベルが困惑する中、外套を脱ぎ去った少女は、山吹色を咲かせて華やかに笑ってみせた。ベルは、わなわなと視線を泳がせ、目尻に涙を溜めてその少女の名を零した。
「ど、どう、して?…レフィー、ヤ…?」
ベルがここに立つ原因にして、守れなかったはずの、大切な人。
今まではなかった銀腕を輝かせ、高火力の魔法を放つその姿、妖精に愛された妖精。千の魔法を操る様から、誰かが呼んだ。【
レフィーヤは、嬉しそうに微笑んだ。
「でも…私のためにここにいてくれることは…正直言って嬉しいです。それに…やっと、名前を読んでくれましたね…ベル?」
「き、貴様…!?何故生きている!?確かに、こ、この手で殺したはずだ!?」
オリヴァスは、幽霊でも見たかの様に狼狽えて、指を指した。
「…えぇ…確かに私は、貴方に殺されました。でも…私は蘇りました。貴方に、復讐するために。それに…可愛い後輩だけに任せるわけには行かないんです。」
ベルの隣に降り立ったレフィーヤは、不敵に笑ってみせた。
ベルは、レフィーヤに言いたいことが山ほどあった。でも、それが喉に支えた様に出ない。
「レフィーヤ…!ぼ、僕は…その…」
「ベル。わかってます。貴方が、どれほど私の死を悲しんでくれたか…色々な人に聞きました。言いたいことがあるのもわかってます…でも、今は…私と一緒に戦ってください。」
「で、でも…僕は君を…僕の、せいで…」
「貴方のせいなんかじゃありません。…負い目があるなら…今度は、
ベルは、その言葉に目を見開いた後に、涙を拭って大きく頷いた。
「────うんっ!!」
素直なベルに微笑んだレフィーヤは、リューに目を向けた。
「同胞の方…ベルがお世話になりました。」
「…いいえ、我が同胞。彼には…何度も救われました。私の助力など、微々たるものです。」
「…違う。」
ベルが、しっかりと言葉にした。
「リューがいたから、僕は立ち上がれた。…僕は、独りじゃないと君が言ってくれたから…僕は狂気の手綱を握れた。」
その言葉一つ一つが、リューの胸を締め付ける。 真剣な表情が、リューの頬を紅潮させた。
「…おっほん…とにかく、これを。マジックポーションとエリクサーです。」
二人は、渡された薬を一気に煽り、傷と魔力を回復させる。
再び、二人に闘志の炎が灯る。
苦々しそうに眺めるオリヴァス。手を、振りかざし、花たちに特攻を命じる。
「くっ…!小賢しい奴らめ…!ヴィオラ────」
その瞬間、オリヴァスの真横に、緋色の軌跡が迸った。
「させるかよ…!」
「何ぃ!?」
予想外の真横からの斬撃。リューと同等のレベルだが、力の面においては遥かに桁違いの能力で振り抜かれる緋色の直剣。それが、オリヴァスの腕を切り裂く。
不可視の状態から、兜を豪快に脱ぎ去り姿を顕す、ベルの自慢の兄貴分。剛力の魔剣鍛冶師、ヴェルフ・クロッゾ。
「ヴェルフ!」
「おうベル!イメチェンか?中々イカすじゃねぇか!俺も、弟分にばっかり良いとこ持ってかれるのは癪なんでな。兄貴分の威厳てやつを、見せてやらねぇとなぁ!!!」
「グゥッ!?」
豪快な直剣の片手の振り下ろし。それだけで、オリヴァスに膝をつかせる程の衝撃を与える。その剣の重さは、今のベルにも匹敵するほどの重さを孕んでいた。
「まだまだぁ!!」
背中から抜き放った大剣型の魔剣を瞬時に振り下ろし、それを繰り返す。
「オラァっ!!」
「…っ!図に乗るなっ!人間風情が!!」
「その人間風情に追い詰められているのだがな、貴様は。」
ヴェルフの連撃を弾き、追撃せんと立ち上がったオリヴァスを、横から強烈な掌打の一撃をもって吹き飛ばすさらなる強者。シャクティ・ヴァルマ。
「アンドロメダ!今だ!!」
「まったく…!シャクティ、貴女は意外に人使いが荒いですね!!」
吹き飛んだオリヴァスを襲う、大爆撃。空を舞う、水色の美姫が放り投げる、集中砲火。
稀代の魔道具製作者。アスフィ・アル・アンドロメダ。
「リオン!無事か!」
「えぇ…彼のおかげでなんとか…しかしこれで…」
「あぁ…形勢逆転だ。」
完全な形勢逆転。集結した傑物達が、揃って構える。
もう、オリヴァスに勝ち目は無い。崩れる断崖から、弾けるように飛び出したオリヴァスは、傷を治しながら、こちらを一瞥した。
「これで、終わりだ…」
ベルの宣言に、オリヴァスが浮かべたものは────醜悪なまでの笑みだった。
「貴様らは、未だに勝利を夢見るか…愚かな…!実に愚か!見せてやろう、『彼女』の力を!」
片腕を上げて、勅命を下すように振り下ろす。
「嬲り殺せ、ヴィスクム!!」
大主柱に巻き付いていたもう一体の巨大な宿り木が、蠢いた。
「あれが…動くのか…!?」
「おいおい…ありゃ、デカすぎて俺のでもどうなるかわかんねぇぞ!」
「僕が、殺るよ。」
全員が動揺する中、ベルが前に出た。
「待て、ベル!いくらお前でも────リオン…?」
シャクティが止めようとした時に、リューが手を前に出してシャクティを止めた。リューの耳は、確かに鈴の音を捉えていた。
「できるのですね…ベル。」
「できる。」
「────わかりました。全員、ベルの攻撃の直後に注意しなさい。」
「なっ!?リオン!彼にすべてを委ねるのですか!?何を考えて…!」
「わかりました。」
「頼んだぜ、ベル。」
「ふ、二人も何をっ…あぁ~もう!わかりました、信じれば良いんでしょうっ!全員、聞きましたね!?」
なんだかんだと苦労しているアスフィは、嫌々ながらも仕事をこなす。
「【轟け、
ベルの詠唱とともに、チャイムの音が徐々に、徐々に大きく響く。
「【鳴り響く雷鳴の賛歌、天の勝鬨、即ち王の証明。霊王たる我が名は【
「おう、存分に使え!」
腰にあるナイフ形の魔剣を引き抜き、順手で構え、巨大樹に向ける自身の手のひらに沿わせるように、切っ先を向ける。
「【墜ちろ】」
詠唱を締めくくった瞬間、鐘の音が、大鐘楼の音に変化する。カラァン、カラァン、と響く音が、全員の肌を泡立たせた。
背中に宿る恩恵が熱を持ち、在りし日の祖父の言葉を思い出す。
『仲間を守れ、女を救え、己を賭けろ。英雄とは、己を賭した者である。』
もう、ずっと前に思い描いていた憧憬が、顔を出した。
(…英雄…か…)
直線的に、突進してくるような形で、巨大樹が猛威を振るう。
その中で、ただ一人。リューだけがベルの手を支え、ベルを見つめた。
ベルは、ただ頷く。此の二人に、最早言葉はいらない。
微笑み、見つめ、そして─────撃つ。
「────【
瞬間、ベルの左手から放たれる雷撃が、右手に持つ短剣からは爆炎が巻き起こる。
それは螺旋を描き、混ざり合い、一直線に巨大樹に向かう炎を帯びた光の柱へと変わる。
それは誰もが目を瞑るほどの眩い極光。神が天に送還されるその時にも似た、極大の稲妻。光のうちに飲み込んだ巨大樹を、紅蓮を以て瞬く間に焼き尽くし、とてつもない爆発音とともに、ダンジョンに大穴を空ける。
「─────うそぉ…」
アスフィの情けない声と共に、ダンジョンの天井に空く大穴を、全員が眺め、全員が思った。
「ちょっと…やり過ぎたかな。」
自身が尊敬する人物の口癖を真似て、ベルが涼しい顔でのたまった。
その呆然と見上げる中には、オリヴァスも含まれていた。
「ば、馬鹿な…なんだそれは…!なんなんだ貴様はぁ!?」
ベルは、オリヴァスを睨みつけ、剣を構える。
「これが…お前が散々バカにした、人間の力だ。」
「人間…人間だと?貴様が人間だと!?その醜悪な姿が見えていないのか!?貴様は既に、人を超えている!お前は、私と同じだ!!」
「それは違う。」
リューはベルの隣に立ち、キッパリと否定する。
「彼は…1度は狂気に飲まれたのだろう。この異形の姿も…だけど…」
ベルの頬に手を当てて、確かな温度をリューは掌で感じる。
「─────ほら、こんなにも暖かい。」
「…リュー…」
ベルは、恐る恐る、自身の異形の手をリューの頬にそっと、触れさせる。感じるはずがない、感じる訳が無い。なのに、その手には確かな温もりを感じた。
ベルは、果たして決意する。
「…もう誰も、失わない…もう誰も、傷つけさせはしない。もう誰も…涙を流さないように…お前をここで殺す…!」
「来い、人間共…決着を付けてやる…ッ!」
周囲に、大量の食人花が出現する。しかし、誰も狼狽えない。やる事はもう、決まっているのだから。
「シャクティ!『赤匠』!アンドロメダ!雑魚は任せます!」
「あぁ、承った。」
シャクティの言葉に、リューは頷き隣の2人に視線を移す。
「ベル、『サウザンド』…行けますね?」
「うん…行けるよ。」
「勿論…!」
「…良い返事です。…では、行きます!」
彼らは聲高に謳う。人間の讃歌を。生き汚い、冒険者の讃歌を。
三人は、偉業に挑む。
感想よろしくおねがいします