疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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今現在のベルの詳細なステータスを貼っておきます。

スキルを1個載せ忘れてました。

ベル・クラネル
ヒューマン

Lv3

力 :S1058
耐久:SSS1300
器用:C620
俊敏:SS1280
魔力:SS1200

【狩人:A】【憤怒:EX】

《スキル》

無慈悲な復讐(グリム・リベンジ)
・能動的なダメージ・チャージorマジック・チャージ実行権
・溜め込んだダメージを魔力に転換し、身体能力を向上させる
・ダメージを倍にして任意の方向に跳ね返す

復讐者(クリフトー)
・超早熟する
・復讐心を持ち続ける限り効果持続
・復讐心を無くした時点で効果を失う
・復讐を遂げると死亡する
・復讐の対象が複数ある場合、その対象一つに復讐を遂げた場合も死亡する。

【孤軍奮闘】
・単独での戦闘時ステータス上昇
・敵の能力が自身よりも上である場合、上長値を能力差分上昇。
・スキル使用後、1人の味方の介入によりステータス上昇値を1段階解除、3人の介入により完全解除。次回使用時まで8時間のインターバル。
・人型を保つ敵性存在に対してのダメージ上昇。


《魔法》

雷霆(ケラウノス)
・雷撃魔法
・追加詠唱・強化詠唱により能力開放


現在の能力
迅雷(ブロンテ)
迅雷によるリミッター解除率:20%


【ルミノス・ウィンド】
・攻撃魔法
・風・闇属性
・通常精神状態での使用不可
・怒りの丈によって威力増大






第11話:集結

研ぎ澄まされた感覚の中、燻んだ光の轍を残す黒龍の爪撃を、怪人は避け続ける。

身体中を傷に蝕まれている。いつもならば瞬時に治る傷が、どうしてか治りが遅い。まるで、呪いでもかけられたかのように。

 

「ガルアアアァァァァァァァァァッッッ!!!!」

 

獣の如き咆哮を放ちながら、黒龍は怒りのままに攻め続ける。

 

「クッ…!?」

 

防戦一方の男は、ついには黒龍に肩を噛み砕かれる。

 

喉を鳴らし、口許から滴り落ちる血潮が、肉片が、怪物を逸らせる。

 

「⿴⿻⿸⿴⿻⿸?」

 

「くっ…訳の分からんことを…!食人花!」

 

男の指示を聞き、また花が咲きほこる。しかし、その花は美しさなど欠片も感じさせない、食人花。それが一斉に黒龍に向かって飛びかかる。

 

しかし、黒龍はその場を一切動かず、大群に飲み込まれる。ギチギチと鳴る歯軋りの音が男の耳を蝕んだ。

 

黒龍は、何事もないようにただ前進する。数多くの食人花に全身を噛まれながらも、ただ前進する。その身には傷一つ無く、食人花の歯は黒鱗に阻まれ、意味をなさない。花弁を握り潰され、斬り殺され、その数を徐々に減らされていく。

 

「…ふんっ…」

 

男は、忌々しそうに顔を歪める。

前から迫りくる、絶対強者。規格外の力を持ったオリヴァスの肉体を、いともたやすく噛み砕き、捻り潰す。しかし、それはオリヴァスとて同じ。

 

転身したベルは、ただ目の前の男に怒りをぶつける。

 

食人花を右手で握り潰し、グッと身を屈める。その構えを見て、オリヴァスは身構えた。

 

「ガアアァァァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

疾駆。

いいや、その翼で飛翔しながら、牙を剥き出し、五本の爪を光らせ、特攻する。

 

「獣がぁッ!!!」

 

ぶつかり合う、両者の拳と爪。そして、変転したベルのデタラメな殴打に剣戟。オリヴァスの強靭な肉体に、次々に傷を付けていく。デタラメ故に、駆け引きなど微塵も含まれない純粋なスピードとパワー。どれも、オリヴァスの上を行く。しかし、オリヴァスは気づいていた。自身の行動に見せる、過剰なまでの反応。それは、予想や直感からくるものではなく、目で見ているからこその反応。オリヴァスは、そこに目をつける。

 

ピクリと、肩の筋肉を揺らすと、ベルはそれに気づき、攻撃を停止。即座に離脱。殆どない理性の間に、危険だと察知したベルが、逃げ出す。しかし、オリヴァスはベルの次の行動を読んでいた。

 

「!」

 

「死ね、獣め…!」

 

その拳は、タイミング、スピード。すべてが完璧な拳打。

しかしその瞬間、ベルが感情のない瞳に喜色を映し、醜悪に笑ってみせる。

 

その翼で飛び上がり、一瞬でオリヴァスの背後に移動。彼は失念していた。人間には決して不可能なその動き。自身の真上を通り抜けて、容易くオリヴァスの隙きをついた。

 

「なっ────ブっ!?」

 

瞬時に反転したオリヴァスを襲ったのは、頬に走る強烈な衝撃と、鋭い痛み。

そのまま吐血しながら、吹き飛ぶ。それで離脱を考えたオリヴァスだったが、ベルは逃さなかった。

 

長く禍々しい尻尾を腰に巻きつけ、吹き飛ぶはずだったオリヴァスの体を、その場に固定。

その後は、嵐のような殴打。確実にオリヴァスの体を壊していく。必死の抵抗を見せるオリヴァスだが、反撃も抵抗も虚しく、ただ竜の爪を受け入れるしかない。

 

「グブッ、ゴァッ!?喰らえェェェ!!!ヴィオラスゥゥゥゥゥ!!!」

 

ベルの真下から出現した食人花に飲まれ、そのままオリヴァスを離す。離脱したオリヴァスはすぐさま回復に専念するが、そんな時間を与えるはずもない。

 

ベルを飲み込んだ食人花が、ボコボコと膨れ上がり、遂には中から喰い破られたように炸裂する。

 

「ガルアァァァァァッ!!!」

 

黒竜は頭から食い破ってその姿を現す。鋭い牙を光らせる口元には、極彩色の魔石。それを、噛み砕く。ただ怒りを、憎しみを、殺気を叩きつけ、瞳を燃やす。

 

「化け物め…!」

 

奥歯を噛み締めたオリヴァスを嘲笑うように、ベルはゆっくりと向かっていく。

 

確かに、オリヴァスの強さは果てしないものになった。しかし、スピードに関しては、ベル、リューのコンビのほうが上。ましてや、この状態のベルのスピードは第一級冒険者にも引けを取らない。故に、当たらなければどうということはないのだ。

 

しかし、此の二人には決定的に違うところが一つあった。

 

「ヴィオラス!喰らえ!!」

 

ベルに殺到する花と同時に、オリヴァスは動いた。

異形の大剣を振るい、ベルに肉薄する。鍔迫合う二人、しかし食人花はベルに殺到することはなかった。

 

「!?」

 

「今更気づいたか!?だがもう遅いッ!!」

 

食人花が殺到するその直線上に存在する、今のベルにある、唯一の弱点。

 

リューだ。

 

「喰らえッ、ヴィオラス!!」

 

鍔迫合うベルに、それを守る手段はない。

未だ眠るリューを瞳に写し、初めて瞳に焦りを移す。その隙きを、格好のタイミングを、敵は見逃さない。

 

 

「隙を見せたな!貰ったぞ!!」

 

 

異形の剣が、ベルの胴体を袈裟懸けに切り裂く。しかし、今のベルには、リューしか映らない。その痛みさえも、苦しみさえも、熱さえも、怒りも、全てすべて

 

理性に変わる。

 

「────リューッッッ!!!』

 

ナニカの声と、ベルの声が混ざりあった。

 

瞬間、ベルは無意識の内に【迅雷】を発動、通常時以上の電流を脳に流し、脳にかかっているリミッター(安全装置)を完全に吹き飛ばす。地面を蹴り飛ばし、普段気を使っている体への損傷なんて度外視に、彼女を守るためだけに、電流をマックスで流し続ける。それと同時に、ベルの脳が爆発する。

 

一瞬、ほんの瞬き程度の刹那でリューのもとにたどり着く。リューを抱きかかえ、その場を退避。ゴロゴロと転がりながらも、ベルはリューを離すことなく、抱きかかえ続ける。なんとか、最悪の結末だけは回避した。

 

「……っ…私、は……────べ、ル…?」

 

衝撃で目を覚ましたリューは、漸く目を覚まし状況を理解する。

 

「───ベルッッ!!!起きなさい!!!」

 

少年は、すでに死に体。全身から血を吹き出し、血管という血管が鬱血。目からは血の涙を流して放心状態。ベルの体は、その電圧に耐えることは出来なかった。

 

「エリクサーを…!────クソッッ!!!」

 

バックを探るが、全て使えない。戦闘の衝撃に負けて、すべての瓶が割れている。エルフの矜持も忘れ、乱暴な言葉を吐き散らす。

 

「【今は遠き森の歌ッ、懐かしき生命(いのち)の調べっ。汝を求めし者に、どうか癒しの慈悲をっ!】」

 

自分は何をやっていた。

 

「【ノア・ヒール】!!」

 

彼がこんなになってまで守ってくれている間、自分は油断した末にのんきに寝ていたのだ。

 

自分が嫌になる。ただでさえ、彼には隠し事をしている負い目があるというのに。

 

嗚呼…なんて間抜けなんだろう。

 

「…ついに、貴様独り…過去の亡霊、アストレアの生き残り…直接相見えるのは初だったな。」

 

「貴様ッ!!」

 

どうしようもない罪悪感と、負の感情が入り交じる中、リューは忌々しい男の声に眦を釣り上げた。

 

「吠えるな。貴様程度、私が相手にするまでもない。ヴィオラス、辱めて殺してやれ。」

 

リューは、ゾッとした。その男の冷酷な言葉にとか、その内容ではなく。その数に(・・)

壁一面から、花が咲く。遠目で見れば、一面の花畑。しかし、現実は広がる地獄。もうすでに退路はない。

 

(此処が…墓場…)

 

膝から、崩れ落ちた。無理だ、此の数はたとえ魔剣を使ったとしても、意味はない。

脱力したリューは、向かい来る花を無視して床にペタリと座り、膝にベルの頭を乗せてその血に染まった頭を撫でる。

 

「嗚呼…こんなところにまで傷が…貴方は、無茶がすぎる。貴方の目的は…果たさせてあげられなくなってしまった。」

 

鱗に包まれた手を、頬を、慈しみ、労るように撫でる。変わり果てたこの姿には驚いたが、ベルだとわかれば、愛おしくも感じる。

 

それはまるで、最後の逢瀬。

 

「貴方を騙していた事を謝罪させてほしい。私が、貴方の探す、仇なのです。ごめんなさい…こんな言葉で片付けてはならないのはわかっています。でも、私には、これ以外にやれることがわからなかった。許してなど言いません。何も、私には言う権利などないのです。」

 

涙をこらえたリューの告白に、ベルは反応することもない。

 

「貴方が、エルフを毛嫌いしている理由は、真っ当なものだ。私が貴方の立場なら、エルフなど滅んでしまえと想っていただろう。でも、貴方は違った。こうして私の同胞のために、仇を取りに来た。そんな、優しい貴方は…ベルは────」

 

最後の微笑みをたたえながら、儚げに、満足げに呟いた

 

 

 

 

 

「────本当に、尊敬に値するヒューマンだ。」

 

 

 

 

 

ベルの額に、影が落ちた。

 

せめて…そんな貴方を、先に死なせるわけには行かない。

 

リューは、ゆっくりとベルの体を壁にもたれ掛けさせ、魔剣と木刀を構え、ベルの前に立つ。

最後に、誇りあるエルフの姿を、ベルに見せたかった。

 

「…神アストレアが眷属。リュー・リオン…参る。」

 

その言葉を皮切りに、リューがいた地面が爆ぜる。迫りくる大量の食人花に向かい、魔剣を振るう。

 

「【雷入道】!!」

 

目の前に殺到した花を、暴風が薙ぎ払うが、花は次々に襲いくる。それはリューの体を、徐々に徐々に傷つけていく。しかし、諦めない。リューは足掻く。無様でも良い、格好悪くたって構わない。ただ、リューは戦う。今度は、私の番だと。叫ぶように。

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々、愚かな我が声に応じ、今一度聖火の加護をっ】!!」

 

精一杯、力いっぱいに歌う。生き汚く足掻き続ける、誇り高きその魂から、妖精の賛歌を。

 

横薙に払われる触手を、避ける。槍の様に突き出される触手が、肩を貫く。撓る触手が、リューの胴を払い抜く。

 

「【汝を見捨てし者に光の慈悲を。来たれ、さすらう風、流浪の旅人っ】!アァっ…!?」

 

三本の触手が、リューの胴体を貫いた。途絶える詠唱。編み上げた魔力が霧散する寸前。リューは腰から小太刀を引き抜き、自身に突き刺さっている触手を切断。更に詠唱を重ねる。速度を上げて、疾走する。

 

「【空を渡り、荒野を駆け、何物よりもっ…疾く走れっ】!────ヵ、ァ…」

 

しかし、接近を許すことはなかった。リューは迫りくる刺突を避けきれず、弾かれるように吹き飛び、ベルの眠るその真隣に激突する。

その衝撃で消えかけた意識を、たたらを踏んで保ち、最後の一節を紡ぎ出す。

 

「【────星、屑の…光を宿しっ…敵をっ、討てぇぇぇッッッ】!!!」

 

妖精が叫んだ。それは、誰かに捧ぐ星屑の奇蹟。妖精が紡ぐ、決死の讃歌。

 

この讃歌を…貴方に…捧げます…

 

最後に想ったものは、自身が想像していた人物達ではなく。ただ一人の少年の姿だった。

 

「───【ルミノス・ウィンドッッ】!!」

 

放たれる爆撃。風を巻き込む大光弾。それが47。なんの前触れもなく、風を生み、巻き込み、炸裂する。

生み出される爆風。殲滅される食人花。しかし、その風の輝きは瞬く間に消えゆき、その光を切り裂くように、畝る触手が肉薄する。

 

リューの体は、リューは悟った。

 

(此処が…私の…私達の…)

 

薄れる意識。保たれていた戦意が、粉々に砕け散った。かつて無いほどの強敵だった男を前に、あの災厄以外に湧き出ることはなかった諦観。それが、ゴポリと湧き出た。

 

最後に、少年の顔を見る。その横顔が、余りにも安らかで、拍子抜けしてしまった。

 

「────ふふっ…貴方のそんな顔を…最後に見ることになるなんて…」

 

思えば、彼の顔はいつも仏頂面で、笑顔なんて…本当に数える程しか見たことがなかった。偶に街で出会っても、いつだって戦士の気迫を纏っていた。でも…本当に最近は笑顔をみせてくれるようになった。

 

私に、彼の笑顔を穏やかに見る権利など無いだろう。しかし、せめて…せめて最後くらいは、彼の穏やかな顔を、年相応な彼の顔を見たかったのかもしれない。

 

「ありがとう、ベル…私は、貴方に…会えて…漸く、生きる…意味を────」

 

途絶えたリューの声を最後に、花の唸りが酷く大きく聞こえる。

目を閉じたリューは、微笑む。彼と死ねるのならば、それでいいか、と。

 

(来世という物に…興味はなかったが…どうか…次は、こんな出会い方は…)

 

願わくば、彼の来世が幸せでありますように。さようなら、私の触れられる人。

 

完全に目を閉じて、安らかな顔を浮かべる。無意識に浮かんだベルの笑顔を思い出して、釣られて笑顔になった。

 

しかし、彼は許さない。そんな最後を、許さない。

 

 

 

 

「────────【雷霆(ケラウノス)】」 

 

 

 

 

 

次の瞬間、リューは信じられない声を聞いた。

 

「……やっぱり…君は、笑っている方が良い。」

 

いつかの言葉を、繰り返すように語った。閉じかけた意識を強制的に引き戻された。

まさかそんな。言葉が喉をつきそうになるが、嗚咽が先に回った。

 

「…ごめん、遅くなって。流石に、電流を流しすぎた。スキルが発動しなかったら…やばかったかな。」

 

その背中は、ボロボロだった。なのに、自分を守ろうと、必死にいつもの通りを装っているようで。頼りないのに、尽きたリューの心に、再び希望の火が灯らされた。

 

「とにかく、ありがとう…ここからは…僕が君を守るよ。」

 

感謝するよ、白髪のお姉さん。そう呟いたベルは、剣を構えた。

 

その言葉が妙に嬉しかった。しかし、現実的に見て状況は絶望的。最悪の状況だ。リューは腹に穴が空き、すでに立てる状態ではない。ベルはベルで、傷は塞がっているが、魔力を使いすぎたために、マインドが空っぽ。

 

「まだ立つか…ベル・クラネル…」

 

「あぁ…何度だって、立ち上がってやるさ。お前を、殺すまで…!」

 

精一杯の威嚇も、最早虚勢。膝は笑っている。

 

「…よく吠えるものだ…すでに、立っているのがやっとだろうに…しかし、貴様は油断ならん…私が手を下しに行けば、また殺られかねん。ヴィオラス、殺れ。」

 

淡々と、その言葉を命じた。ベルは、柄を握り締めて、構える。せめて…リューだけでも逃がせる時間を稼ぐ。決心とともに、駆け出そうとした、

その時だった。

 

ベルの目の前を覆っていた食人花の群れを、二人の絶望を、一条の光が掻き消した。そして、その光と共に聞こえた声に、ベルは聞き覚えがありすぎた。

 

「────まったく…本当に貴方は手がかかりますね…リヴェリア様が目を離さなかった理由がよくわかりました。」

 

「………あ、え…?」

 

ベルが困惑する中、外套を脱ぎ去った少女は、山吹色を咲かせて華やかに笑ってみせた。ベルは、わなわなと視線を泳がせ、目尻に涙を溜めてその少女の名を零した。

 

「ど、どう、して?…レフィー、ヤ…?」

 

ベルがここに立つ原因にして、守れなかったはずの、大切な人。

 

今まではなかった銀腕を輝かせ、高火力の魔法を放つその姿、妖精に愛された妖精。千の魔法を操る様から、誰かが呼んだ。【千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤ・ウィリディス。

 

レフィーヤは、嬉しそうに微笑んだ。

 

「でも…私のためにここにいてくれることは…正直言って嬉しいです。それに…やっと、名前を読んでくれましたね…ベル?」

 

「き、貴様…!?何故生きている!?確かに、こ、この手で殺したはずだ!?」

 

オリヴァスは、幽霊でも見たかの様に狼狽えて、指を指した。

 

「…えぇ…確かに私は、貴方に殺されました。でも…私は蘇りました。貴方に、復讐するために。それに…可愛い後輩だけに任せるわけには行かないんです。」

 

ベルの隣に降り立ったレフィーヤは、不敵に笑ってみせた。

ベルは、レフィーヤに言いたいことが山ほどあった。でも、それが喉に支えた様に出ない。

 

「レフィーヤ…!ぼ、僕は…その…」

 

「ベル。わかってます。貴方が、どれほど私の死を悲しんでくれたか…色々な人に聞きました。言いたいことがあるのもわかってます…でも、今は…私と一緒に戦ってください。」

 

「で、でも…僕は君を…僕の、せいで…」

 

「貴方のせいなんかじゃありません。…負い目があるなら…今度は、私を守ってください(・・・・・・・・・)!」

 

ベルは、その言葉に目を見開いた後に、涙を拭って大きく頷いた。

 

「────うんっ!!」

 

素直なベルに微笑んだレフィーヤは、リューに目を向けた。

 

「同胞の方…ベルがお世話になりました。」

 

「…いいえ、我が同胞。彼には…何度も救われました。私の助力など、微々たるものです。」

 

「…違う。」

 

ベルが、しっかりと言葉にした。

 

「リューがいたから、僕は立ち上がれた。…僕は、独りじゃないと君が言ってくれたから…僕は狂気の手綱を握れた。」

 

その言葉一つ一つが、リューの胸を締め付ける。 真剣な表情が、リューの頬を紅潮させた。

 

「…おっほん…とにかく、これを。マジックポーションとエリクサーです。」

 

二人は、渡された薬を一気に煽り、傷と魔力を回復させる。

再び、二人に闘志の炎が灯る。

 

苦々しそうに眺めるオリヴァス。手を、振りかざし、花たちに特攻を命じる。

 

「くっ…!小賢しい奴らめ…!ヴィオラ────」

 

その瞬間、オリヴァスの真横に、緋色の軌跡が迸った。

 

「させるかよ…!」

 

「何ぃ!?」

 

予想外の真横からの斬撃。リューと同等のレベルだが、力の面においては遥かに桁違いの能力で振り抜かれる緋色の直剣。それが、オリヴァスの腕を切り裂く。

 

不可視の状態から、兜を豪快に脱ぎ去り姿を顕す、ベルの自慢の兄貴分。剛力の魔剣鍛冶師、ヴェルフ・クロッゾ。

 

「ヴェルフ!」

 

「おうベル!イメチェンか?中々イカすじゃねぇか!俺も、弟分にばっかり良いとこ持ってかれるのは癪なんでな。兄貴分の威厳てやつを、見せてやらねぇとなぁ!!!」

 

「グゥッ!?」

 

豪快な直剣の片手の振り下ろし。それだけで、オリヴァスに膝をつかせる程の衝撃を与える。その剣の重さは、今のベルにも匹敵するほどの重さを孕んでいた。

 

「まだまだぁ!!」

 

背中から抜き放った大剣型の魔剣を瞬時に振り下ろし、それを繰り返す。

 

「オラァっ!!」

 

「…っ!図に乗るなっ!人間風情が!!」

 

「その人間風情に追い詰められているのだがな、貴様は。」

 

ヴェルフの連撃を弾き、追撃せんと立ち上がったオリヴァスを、横から強烈な掌打の一撃をもって吹き飛ばすさらなる強者。シャクティ・ヴァルマ。

 

「アンドロメダ!今だ!!」

 

「まったく…!シャクティ、貴女は意外に人使いが荒いですね!!」

 

吹き飛んだオリヴァスを襲う、大爆撃。空を舞う、水色の美姫が放り投げる、集中砲火。

稀代の魔道具製作者。アスフィ・アル・アンドロメダ。

 

「リオン!無事か!」

 

「えぇ…彼のおかげでなんとか…しかしこれで…」

 

「あぁ…形勢逆転だ。」

 

完全な形勢逆転。集結した傑物達が、揃って構える。

もう、オリヴァスに勝ち目は無い。崩れる断崖から、弾けるように飛び出したオリヴァスは、傷を治しながら、こちらを一瞥した。

 

「これで、終わりだ…」

 

ベルの宣言に、オリヴァスが浮かべたものは────醜悪なまでの笑みだった。

 

「貴様らは、未だに勝利を夢見るか…愚かな…!実に愚か!見せてやろう、『彼女』の力を!」

 

片腕を上げて、勅命を下すように振り下ろす。

 

「嬲り殺せ、ヴィスクム!!」

 

大主柱に巻き付いていたもう一体の巨大な宿り木が、蠢いた。

 

「あれが…動くのか…!?」

 

「おいおい…ありゃ、デカすぎて俺のでもどうなるかわかんねぇぞ!」

 

「僕が、殺るよ。」

 

全員が動揺する中、ベルが前に出た。

 

「待て、ベル!いくらお前でも────リオン…?」

 

シャクティが止めようとした時に、リューが手を前に出してシャクティを止めた。リューの耳は、確かに鈴の音を捉えていた。

 

「できるのですね…ベル。」

 

「できる。」

 

「────わかりました。全員、ベルの攻撃の直後に注意しなさい。」

 

「なっ!?リオン!彼にすべてを委ねるのですか!?何を考えて…!」

 

「わかりました。」

 

「頼んだぜ、ベル。」

 

「ふ、二人も何をっ…あぁ~もう!わかりました、信じれば良いんでしょうっ!全員、聞きましたね!?」

 

なんだかんだと苦労しているアスフィは、嫌々ながらも仕事をこなす。

 

「【轟け、雷鳴(我が名)雷鳴(我が怒り)。其は、(カラ)の境界を穿つ断罪の雷霆(ヒカリ)。】」

 

ベルの詠唱とともに、チャイムの音が徐々に、徐々に大きく響く。

 

「【鳴り響く雷鳴の賛歌、天の勝鬨、即ち王の証明。霊王たる我が名は【天雷霊(アルクメネ)】、 我が制裁こそ天の意思】────借りるよ、ヴェルフ。」

 

「おう、存分に使え!」

 

腰にあるナイフ形の魔剣を引き抜き、順手で構え、巨大樹に向ける自身の手のひらに沿わせるように、切っ先を向ける。

 

「【墜ちろ】」

 

詠唱を締めくくった瞬間、鐘の音が、大鐘楼の音に変化する。カラァン、カラァン、と響く音が、全員の肌を泡立たせた。

 

背中に宿る恩恵が熱を持ち、在りし日の祖父の言葉を思い出す。

 

『仲間を守れ、女を救え、己を賭けろ。英雄とは、己を賭した者である。』

 

もう、ずっと前に思い描いていた憧憬が、顔を出した。

 

(…英雄…か…)

 

直線的に、突進してくるような形で、巨大樹が猛威を振るう。

 

その中で、ただ一人。リューだけがベルの手を支え、ベルを見つめた。

ベルは、ただ頷く。此の二人に、最早言葉はいらない。

 

微笑み、見つめ、そして─────撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────【雷霆(ケラウノス)炎雷(ファイア・ボルト)】」

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、ベルの左手から放たれる雷撃が、右手に持つ短剣からは爆炎が巻き起こる。

それは螺旋を描き、混ざり合い、一直線に巨大樹に向かう炎を帯びた光の柱へと変わる。

 

それは誰もが目を瞑るほどの眩い極光。神が天に送還されるその時にも似た、極大の稲妻。光のうちに飲み込んだ巨大樹を、紅蓮を以て瞬く間に焼き尽くし、とてつもない爆発音とともに、ダンジョンに大穴を空ける。

 

「─────うそぉ…」

 

アスフィの情けない声と共に、ダンジョンの天井に空く大穴を、全員が眺め、全員が思った。

 

(ベル)の魔法は、異常であると。

 

「ちょっと…やり過ぎたかな。」

 

自身が尊敬する人物の口癖を真似て、ベルが涼しい顔でのたまった。

その呆然と見上げる中には、オリヴァスも含まれていた。

 

「ば、馬鹿な…なんだそれは…!なんなんだ貴様はぁ!?」

 

ベルは、オリヴァスを睨みつけ、剣を構える。

 

「これが…お前が散々バカにした、人間の力だ。」

 

「人間…人間だと?貴様が人間だと!?その醜悪な姿が見えていないのか!?貴様は既に、人を超えている!お前は、私と同じだ!!」

 

「それは違う。」

 

リューはベルの隣に立ち、キッパリと否定する。

 

「彼は…1度は狂気に飲まれたのだろう。この異形の姿も…だけど…」

 

ベルの頬に手を当てて、確かな温度をリューは掌で感じる。

 

「─────ほら、こんなにも暖かい。」

 

「…リュー…」

 

ベルは、恐る恐る、自身の異形の手をリューの頬にそっと、触れさせる。感じるはずがない、感じる訳が無い。なのに、その手には確かな温もりを感じた。

 

ベルは、果たして決意する。

 

「…もう誰も、失わない…もう誰も、傷つけさせはしない。もう誰も…涙を流さないように…お前をここで殺す…!」

 

「来い、人間共…決着を付けてやる…ッ!」

 

周囲に、大量の食人花が出現する。しかし、誰も狼狽えない。やる事はもう、決まっているのだから。

 

「シャクティ!『赤匠』!アンドロメダ!雑魚は任せます!」

 

「あぁ、承った。」

 

シャクティの言葉に、リューは頷き隣の2人に視線を移す。

 

「ベル、『サウザンド』…行けますね?」

 

「うん…行けるよ。」

 

「勿論…!」

 

「…良い返事です。…では、行きます!」

 

彼らは聲高に謳う。人間の讃歌を。生き汚い、冒険者の讃歌を。

 

 

 

 

 

 

三人は、偉業に挑む。

 

 

 

 

 

 




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