疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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今回は長いです。

次でパントリーが完全に終わります。

そして、お気に入り1000人突破!ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!


第12話︰英雄よ、人であれ(アルケイデス)

戦闘の開始は、響く雄叫びによって開かれる。

 

「オオオオォォォォォォォォォォッッ!!!」

 

オリヴァスの前進と共に、周囲に咲き誇る食人花。一歩前に進む一番の脅威であるベルを目指し突進する。

 

「邪魔だァァァァァッッッ!!!!」

 

「『サウザンド』!」

 

「はい!」

 

雄叫びを上げる黒竜に続く一陣の風。そして紡がれる、妖精の歌。

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ】!」

 

レフィーヤが編み込む魔力に反応して、食人花がレフィーヤに標的を変える。

 

「放っておけ!目の前の男を狙え!!」

 

「っ!【同胞の声に応え、矢を番えよ。帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢】!」

 

だが、此の一言で一斉にレフィーヤに向かっていた食人花が、突進するベルとリューに向かう。警告をしようか一瞬迷うが、すぐさま詠唱に移り自身の役割に集中する。

並行詠唱が出来ない今、一人で戦うことは最早諦めた。この戦いが終わったら考えればいい。今はできることだけを、やるしか無い。

 

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払えっっ】!」

 

詠唱が完結する一瞬、ベルと瞳が交わる。それ付だけでベルは全てを察して、頷いた。

レフィーヤは、不敵に笑いながら杖を天高く掲げ、叫ぶ。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

放たれる無数の閃光。撃ち放たれる射手隊の一斉射撃。それが、ベル達の前方に咲き乱れる花に雨の如く降り注ぐ。そして、休むことなく新たな歌を唄う。

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり】!」

 

炎の雨は、花を尽く焼き尽くし、殲滅する。未だ続く爆撃の中、ベルはその爆撃地帯に突っ込む。

 

ベルが先行、上空から降り注ぎ、殲滅の限りを尽くす土砂降りの炎雨を、黒い翼を羽ばたかせヒラリヒラリと躱していく。そんな最中、ほんの一瞬だけ、リューとベルの視線が交わる。しかし、コンマ一秒も経たずに、両者の視線はすでに自身の成すべきことに向いていた。

 

「ハァァッ!!」

 

未だ残る食人花の大群に向かい、魔剣の一振りを浴びせる。背後に迫る極大の魔力を感じながら、ベルは未だ土砂降りの雨の中を飛び続け、ついにはオリヴァスの元にたどり着き、大刀でもって斬り結ぶ。

 

「ガルゥゥアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 

「ウオォォォォォォォォォォッッッッ!!!!」

 

両者一歩も譲らぬ剣戟。速度、重さ、手数。共に優れたベルと。速度や重さはベルに劣るものの、耐久という面において人外の域にあるオリヴァス。傷をつけることは叶えども、その生命までは取ること能わず。

 

浅い。

 

ベルが斬り結ぶ中で零す愚痴の一つ。まるで鉄でも斬っているかのような感触。ビリビリと衝撃を纏う左手を無視して、ただリューの教えを思い出し、只管に斬り続ける。

 

「【雷霆(ケラウノス)ッ】!!」

 

牽制の魔法からの、急離脱。ベルは、その状態で、右手に隠し持つようにヴェルフ謹製の短剣型の魔剣を逆手に持つ。

今さっき思いついたに過ぎない奇策。しかし、やって見る価値はあった。リューの教えにも確かにあったのだ。『正攻法で攻める必要はない』と。

 

そう…だって僕は…

 

 

────復讐者なのだから。

 

 

顔を振り上げ、オリヴァスに急接近。姿勢を屈めて猛スピードで駆け抜け、オリヴァスの目の前で────急降下。地を這う蛇が如く、地面スレスレを駆け抜け、大剣を引き摺り火花を散らし、右手の短剣を地面に突き刺し、支点としてぐるりと回転。一瞬の内に背後に廻る。

剣を横に振ったオリヴァスは空振り、唖然とする。遠心力を付け、スピードが更に増した状態で、隙だらけの背中に黒雷を纏った深い一撃を刻み込む。

 

「────ッ!?」

 

「オオオォォォォォォォォッッッッ!!!!」

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 

痛みに仰け反るオリヴァスの背中に、次々と刻まれていく刃の熱。その熱の軌跡が10を超えた時、ベルが叫んだ。

 

「レフィーヤァァッ!!!」

 

レフィーヤは、迷う。仲間に魔法を撃つのか。しかし、数瞬だけ交わったその瞳が、何よりも雄弁に物語っていた。

 

『信じてる』と。果たして、レフィーヤは決心する。

 

「─────っ【アルクス・レイ】!」

 

ベルがオリヴァスの背中を蹴り飛ばし、吹き飛ばす。悶絶するオリヴァスだが、持ち前の耐久性を発揮。吹き飛ぶ空中で回転、ベルと横から向かってくる閃光を見て、ニヤリと笑った。

 

「馬鹿めッ!貴様の魔法なぞたかが知れている!」

 

あのエルフの魔法ならば、受け止められる。目に見える速度。ベルの魔法は発動から着弾が早すぎるために、避けようも受け止めようもなかったが、このエルフの攻撃ならば受け止められる。弾き返すことが出来る。そうして、片腕を突き出す。

 

しかし、その慢心を、その油断を、ベルは見逃さない。

 

「─────何ッ!?」

 

レフィーヤが放った閃光は、オリヴァスの手前で急上昇。いつの間にか真上に移動していた、ベルの目前に迫った。照準は、ハナからオリヴァスになど向いていない。

 

そんな中、ベルは考えていた。それは、自身のスキル【無慈悲な復讐(グリム・リベンジ)】の内容について。

それは、言わば『損傷吸収(ダメージ・ドレイン)』。しかし、ベルはステータス更新時のロキの一言が引っかかっていた。

 

『なんや、【損傷吸収】なのに変な文やな。普通、【損傷吸収】ならこう書いてあんで?受けた(・・・)ダメージを吸収する。とかな。』

 

引っかかっていた、ずっと。そして、本当にこのパントリーに来る寸前で気がついた。良く考えれば、最初からいつもそうだった。剣で受けた攻撃…所謂ただの衝撃でさえも吸収していた(・・・・・・)。そこで、ベルはある仮説を立てたのだ。

 

【無慈悲な復讐】(このスキル)は、ダメージという概念(・・・・・・・・・)そのものを指しているのではないか?その証拠に、『受けた』の様な言葉がスキルの説明欄には無い。試してみる、価値はある。

 

ベルは、一種の博打に打って出る。

 

(…リューに、怒られるな…)

 

無駄な賭けをするな、と教えられたベルにとって、この様な賭けをすれば怒られる事はわかっていた。だが、ベルはニヤリと笑いその閃光に向かって、まっすぐ大剣を振り下ろし、スキルの名(その力)を口にした

 

 

「─────【無慈悲な復讐(グリム・リベンジ)】」

 

 

閃光と大剣が接触した瞬間。閃光は、弾けるように直進する方向を真逆に変え、輝きの強さを更に強くして、オリヴァスに突進する

 

「な、なんだとッ!?」

 

「─────…まったく…帰ったら言いたいことは山程ありますよ、ベル…!」

 

オリヴァスはその顔に焦燥を貼り付け、リューは言葉とは裏腹に覆面の下に薄く笑みを浮かべた。

向かい来る極大の閃光に、オリヴァスは両手を突き出す。

 

「グゥッ、オオォォォォォォォォォォ!!!??」

 

予想外の威力、レフィーヤが放ったときの凡そ倍の出力(・・・・)。オリヴァスが着地と同時に、ギリギリの所で受け止める。蹈鞴を踏み、両手で閃光と拮抗し必死の形相で受け止める。だから、背後に迫る影に気づかなかった。

 

 

「ガラ空きだ、外道。」

 

 

膝裏に走る衝撃。それはオリヴァスにとってダメージにはならない。しかし、つっかえ棒を外された身体は、力を失う。

 

「─────貴ッ様アァァァァァァァ!!!??」

 

その叫びとともに、オリヴァスは閃光に押され、後方に弾き飛び、壁に叩きつけられる。

ベル、リューがレフィーヤの元に集まり、肩を寄せ合う。

 

「今度こそ…いいえ、そんなはずがありませんね。ベルの最大出力を食らっても生きていた男だ。」

 

「え…ベルの魔法ってあの大穴開けたやつですよね?あれで死なないなんて…本物の化け物なんじゃ…」

 

「その通り。胸に魔石は埋まってるし、勝手に回復するし…決め手が今ひとつ無い…」

 

「ま、魔石?…人ですか、それ?」

 

「…僕も、微妙なラインだけど…」

 

「ベル、怒りますよ。」

 

「ゲンコツが欲しいなら早く言いなさい。」

 

「……ご、ごめんなさい…」

 

全く感情の籠もっていない目をリューとレフィーヤに向けられ、ふいっ、と顔を背けたベルだが、すぐさま吹き飛ばされたオリヴァスに目を向けた。

 

「…まさか…ここまでとは…考えも及ばなかった…」

 

ガラガラと崩れ落ちる壁面から、声が響く。その声は、確かな称賛と、敬意が込められた言葉だった。その言葉に、ベルはただ構えて、返答する。

 

「…隠していたものが…功を奏するとはな…ヴィスクム。」

 

男の声の後に、響く地鳴り。徐々に近づいてくるそれは、姿を表す。リュー達は驚愕に目を見開いた。

 

「……もう一体…いたのか…!?」

 

驚愕する全員を無視して、オリヴァスは叫ぶ。

 

「ヴィスクム!生み続けろ(・・・・・)ッッ!!」

 

その瞬間、ベル、リュー、レフィーヤ。そして、シャクティ、アスフィ、ヴェルフ。全員の肌を、鳥肌が覆った。

 

見上げる天井。そこに垂れ下がる、動かなかった食人花の群れが、一斉に落ちてくる。

 

まず、ひとつ。

 

ドシャっ

 

伝播する様に、音は増えて、増えて、増えて、増える。

 

鳴り続ける落下音。止まらない、止まらない、止まらない。

 

「おいおい…此の数は拙くねぇか!?」

 

「なんとかしてください!その魔剣で焼き払えるでしょう!?」

 

「やったとしても!此の数だ!俺の魔力だって無尽蔵じゃねぇんだぞ!?」

 

圧倒的な数の暴力。それは、いくら上級冒険者が揃っていようと、全員に絶望を与えるには充分に過ぎた。

言い合いになっているヴェルフとアスフィ。

ベルは、いち早くこの状況の突破口を見出す。

 

「────殺るしか無い…!」

 

早急なオリヴァスの討伐。最悪、自分が死んだとしても、リューがいてくれる。レフィーヤも居る。此の男さえ殺せば、この状況はどうとでもなる。

 

その思考の直後、ベルが弾けるように飛び出した。それと同時に、爆音と共にダンジョンの壁が砕ける。

全員が、その方向を見た。立ち上る爆煙、そこから一つの影が飛び出す。

 

「……あの女は……!!」

 

それは、大切な人(レフィーヤ)を失った時に、此の男の隣に立っていた、燃えるような髪をした女。

 

レヴィスだった

 

「レヴィス!?」

 

突然の乱入に驚愕するオリヴァスだったが、すぐに顔色を変える。その姿が、あまりにもボロボロで、惨めな姿であったから。

何故、壁を突き破ってきたのか?疑問が湧き上がった瞬間に、その回答が現れた。

 

 

 

 

 

「────ベル!!!」

 

 

 

 

 

その声に、ベルは言葉を失った。その声が、あまりにも、大切な姉(ティオナ)に聞こえて。幻聴かと疑った。しかし、自分に向かってくる姿を見て、現実なのだと認識した。尚も、固まったままではあるが。

 

「……ティオ、ナ…?」

 

駆け寄ってきたティオナは、一もなくベルに抱きついて言いたいことを一気に吐き出した。

 

「バカァァァァ!!なんで勝手に居なくなるの!?なんで勝手に行っちゃうの!?なんで私に一言言ってくれないの!?う、ぅっ────ば、バァァァカァァァァ!!?」

 

言いたいことがありすぎて、元々無い語彙力が決壊。泣き叫ぶティオナに、ベルは戦闘中ということも忘れ、困惑した。

 

「ど、どうしてここに…?」

 

「追ってきたに決まってるじゃん!!私だけじゃない!ティオネも、アイズも、リヴェリアも!皆カンカンに怒ってるんだから!!!」

 

「あの、わがったか、ちょ、やめ」

 

「ティオナさん!ベルが死にます!」

 

ブンブンとゆすりまくるティオナをレフィーヤが止める。

 

「あっ、ごめんベル!ありがとう、レフィー………えええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」

 

「あー…ですよねぇ…」

 

落ち着いたと想ったら、今度はレフィーヤの生存に驚く。もう、ティオナは何がなんだかわからなかった。結果

 

「リヴェリアーーー!ティオネーーー!!アイズーーー!!!ベルいたーー!!!」

 

「やっと追いついたぞ此の馬鹿者め!!…なっ!?レフィーヤ!?」

 

「手間かけさせんじゃないわよベル!…って、レフィーヤ!?」

 

「ベル!その格好…れ、レフィーヤ…?」

 

三人に丸投げした。三人も勿論、レフィーヤの生存に驚き、今度はベルの格好に驚くが、流石は歴戦の冒険者と言ったところか。状況の飲み込みだけは速かった。

 

「えぇい…!ベルのその姿に…レフィーヤ!お前のことも後でタップリと話してもらうぞ!わかったな!?」

 

「「は、はい!」」

 

ベルは初めて見るリヴェリアの迫力に圧され、思わず普段使わない敬語を口にする。

しかし、ベルには譲れない思いがあった。

 

「リヴェリア…あの男は、僕が殺る。」

 

「…この期に及んでわがままを言うな、あれは私達が殺る。お前は下がれ。」

 

「嫌だ。あれは、僕の獲物だ。」

 

リヴェリアは、その発言に堪忍袋の緒が切れた。ベルの胸ぐらを掴み、怒鳴る。

 

「いい加減にしろッ!!お前が死ぬのを黙って見ていろとでも言うのか!?お前のスキルを知って、放っておくとでも思っていたのか!?巫山戯るな!!」

 

(スキル…?死ぬとは…一体…?)

 

「……どうして、それを…いや、ロキか…」

 

ベルは、リヴェリアの口から出た自身のスキルの内容に、ばらした人物を察した。リューがその発言を不審に思う中、リヴェリアはそのまま続ける。悲しみを吐き出すように、至らなかった自分を叱りつけるように。

 

ロキ・ファミリア(私たち)は、見捨てない、見捨ててなんぞやるものかッ!簡単に死ねると思うなよ…!死の淵に立っても、絶望が覆っていたとしても、何もかもをひっくり返して、お前を救う!!何度だって!何時だって!!」

 

「リヴェリア…」

 

「不甲斐ないことに、ここに来る途中で気がついた!お前の口癖の意味に!」

 

リヴェリアは、気づいていた。他人に迷惑はかけない。つまりは、ベルはリヴェリアたちを他人としてみていた。それが、悔しかった、腹立たしかった。

 

「いいか、覚えておけッ!私たちに血の繋がりはない、種族だって違う!思想や価値観の違いなどゴロゴロころがっている!だがな!お前がどう思っていようが、私達は家族(・・)だ!!これだけは変わらない、どんな時でも、絶対に変わらない…!」

 

家族。この言葉が、妙にベルの頭に響く。

 

それは、今までずっと避けてきたもの、欲しかったはずなのに、諦めていたものが、本当はすぐ目の前にあったのに、気づかなかった。

 

ベルは漸く理解した。彼女たちが来た意味を。今、自分がここに立っている意味を。自分が、何者であるのかを。

 

「リヴェリア…ありがとう。」

 

「…ベル?」

 

「もう…大丈夫。」

 

リヴェリアが見詰めるベルの瞳には、いつもの復讐に燃える色はなかった。その瞳に映る色はまるで────

 

「僕は、冒険をするよ…生まれて始めて…僕自身の、冒険を。」

 

「────」

 

嗚呼それは、在りし日の自分を想起させるような。それは、冒険者の尊き瞳。

リヴェリアはグッと拳を握り、ベルに顔を寄せた。

 

「…信じて、良いんだな。」

 

「うん。」

 

「帰って、くるんだな?」

 

「必ず。」

 

間を置かずに答えたベルの瞳をジッと見詰める。そうして、わかった。此の少年は、意外にも頑固であることが。リヴェリアは、漏れ出るため息を最早隠そうともしなかった。ベルに向けていた視線を、リューとレフィーヤに向ける。

 

「…済まない、我が同胞達よ。この頑固者に、力を貸してやってはくれないだろうか。」

 

自分たちの女王の願いを断るエルフなど、ここには居ない。

 

「…元より、此の戦いが始まった時に、この命…彼に預けたも同然です。しかし、その勅命…しかと聞き届けました。必ずや、彼の力になってご覧に入れましょう。」

 

「お任せください、リヴェリア様。必ず、ベルの力になってみせます!」

 

同胞の頷きに、軽い微笑みを浮かべ、二人を称えた。

 

「頼んだぞ、誇り高き我が同胞たちよ!」

 

リヴェリアは、それ以上語ることなく、今も苦戦する後続部隊に向かい走っていく。その後ろで、オロオロと不安そうな表情でベルを見つめていたティオナに、ベルは微笑む。それだけで、通じ合えた気がした。

ティオナは決心したように、ティオネを連れて戦場に駆けた。

 

「君も…冒険するんだね…」

 

「…うん…」

 

「帰ったら、お説教…だね…」

 

「…うん…!」

 

微笑んだアイズは、レヴィスと相対した。

 

ベルは、アイズの後ろ姿を見送ってから、オリヴァスに視線を向けた。傷は、完全に塞がっている。体力も、恐らく回復したのだろう。

 

 

だが、それで良い。

 

 

瀕死の男を嬲り殺しにした所で、意味はない。冒険に、ならない。

 

そうだ…僕は、冒険者だ。なら─────

 

 

冒険を、しよう。

 

 

竜は吠えることも無く、ただ短剣を逆手に、大剣を突き出し、騎士の如き構えを見せる。

 

「…背中は、任せなさい。貴方は、ただあの男に。『サウザンド』耳を貸しなさい。」

 

竜に寄り添う妖精は、木刀と魔剣を携え、二刀の構えを。

 

「…わかりました。やってやります…!」

 

未熟な妖精は、杖を掲げる。

 

「…行こう」

 

三人の瞳が、順に交わる。

まず、ベルとレフィーヤが、ベルとリューが、レフィーヤとリューが。

 

その視線が交わった刹那で、何よりも速く、ベルが飛び出した。その直後に、リューが叫ぶ。

 

「『サウザンド』!タイミングは任せます!詠唱は私に続きなさい!!」

 

「っ────【ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ】!」

 

レフィーヤは、返事を歌で返し、自身の魔法を紡ぐ。

ベルとオリヴァスが一騎打ち。斬り、斬られ、殴り、殴られ。僅かにベルが優勢を保つ中、レフィーヤはその戦闘を見て、感情が爆発しそうになるのを、必死で抑えていた。

 

こうしている間も、ベルが、同胞(リュー)が戦っている。傷ついている。しかし、自分ができるのは、歌うことだけ。ならば、一刻も早く、この歌を紡いでみせよう。

 

斬り結ぶ剣戟の音を確かに聞きながら、レフィーヤは紡ぐ。

 

「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。】」

 

「ハァァァァァッッッ!!!!」

 

魔力に反応してレフィーヤに殺到する食人花を切り払いながら、魔剣を振るい、応戦するリュー。そして、隙きあらば、ベルと共に共闘し、まるで互いが次に何をするのかわかっているような、まさに阿吽の呼吸で共闘する。

 

「【至れ、妖精の輪。どうか────力を貸し与えてほしい】」

 

レフィーヤは高らかに歌う。

 

「【エルフ・リング】!!」

 

その魔法は、未熟である自身が誇る。唯一無二の武器。

 

召喚魔法(サモン・バースト)

効果、詠唱の2つを知ることで、エルフの魔法であるならば、あらゆる魔法を行使出来る、彼女が千の妖精(サウザンド・エルフ)と呼ばれる所以。

 

「っ…この動き…まさか…!」

 

オリヴァスもその動きに気づくが、三人は同時に歌う。

 

『【今は遠き森の空、無窮の夜天に鏤む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。】』

 

「【今は遠き朱の空、無窮の夜天に鏤む数多の生命(いのち)。愚かな我が声に応じ、今一度生命(いのち)の加護を。】」

 

リューとレフィーヤの詠唱に続く、似通った詠唱。しかし、ベルの魔力は極限までに黒く燻み、淀んでいる。

 

『【汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人。】』

 

「【我を虐げし者に闇の抱擁を。来れ、終末の嵐、滅びの使徒。】」

 

ベルの思考に、何かが混じりこんでくる。それは純粋な怒り。狂気にも似た、ナニカへの怒り。

呑まれそうになる意識。

だが、自分の背を守り、舞い踊る妖精の言葉が、存在が、ベルの意識を縛り付ける楔となる。

 

『【空を渡り、荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。】』

 

「【空を渡り、死地を駆け、何物よりも疾く走れ。】」

 

「させるかッ!!」

 

リューに背後から襲いかかるオリヴァスの斬撃を、ベルが防ぎ、共に歌う。

 

攻撃・回避・詠唱・防御。状況に応じてこれ以上の行動を求められる高等技術である、並行詠唱。

涼しげに歌うリューとは裏腹に、ベルは玉のような汗を掻きながら、必死に歌う。

 

ベルが受け止め、隙きをついてリューがオリヴァスを吹き飛ばす。

 

そして、詠唱は完結する。

 

『【星屑の光を宿し────敵を討てっっっ】!!!』

 

「【雷霆の光を宿し────怨敵()を討てッッッ】!!!」

 

三人が集結し、肩を寄せ、叫ぶ。必殺の一撃を。荒れ狂う、嵐の名を。

 

 

『【ルミノス・ウィンドッッッ】!!!!』

 

 

二人のありったけの魔力をつぎ込んだ、緑風を纏う、大量の大光弾。そして、闇を纏った、燻みを孕んだ大嵐。それを凝縮した、僅か12発の風弾。しかしてその魔力量は、リューの魔力を軽く凌ぐ。

それが、一斉に放たれる。

 

「ヴィオラスゥゥゥゥゥゥ!!!私を守れぇぇぇぇぇぇぇぇえッッッッ!!!!」

 

大量に生み出された食人花が、一斉にオリヴァスの目の前に集合。壁のように重なり合って、オリヴァスを守る。

 

しかし、爆風と衝撃波は容赦なく壁を貫通。オリヴァスに直撃する。

 

「グゥォォォォォォォッッッッ!!??」

 

その階層に居る、誰もが見入った。

 

瞬間的に階層中が閃光に飲み込まれ、耳を劈く様な大爆音を伴い、オリヴァスを飲み込んだ。

其の光弾が爆裂する中も、見えている。ボロボロの食人花の壁が。あの奥に、奴がいる。

ベルは、レフィーヤに視線を送る。その視線が交わったとき、二人は頷いた。

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)っ。汝、弓の名手なりっ】!」

 

「【轟け、雷鳴(我が名)雷鳴(我が怒り)。其は、(カラ)の境界を穿つ断罪の雷霆(ヒカリ)。】」

 

重なる詠唱、繋がる心。二人が願うのは、ここからの全員での生還。そして、抑えきれない、此の胸に滾る、熱き想い(憧憬)

 

「【鳴り響く雷鳴の賛歌、天の勝鬨、即ち王の証明!霊王たる我が名は【天雷霊(アルクメネ)】、 我が制裁こそ天の意思!────墜ちろッッ】!」

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢っ】!」

 

肩を合わせ、ベルが左手を突き出し、レフィーヤが杖を握りしめた右手を突き出す。

 

「【アルクス・レイ】!!!」

「【雷霆(ケラウノス)】!!!」

 

2人の魔法が同時に放たれ、食人花の壁に激突する。拮抗する壁と極光。ベルとレフィーヤが眦を吊り上げ、叫ぶ。

 

 

 

『─────行っけぇぇぇぇぇぇ!!!!』

 

 

 

2人が魔力を絞り出し、雷と閃光にありったけを送り出す。螺旋を描く極光が、容赦なくボロボロになった食人花の壁に、穴を開ける。

 

 

「なっ!?─────あぁっああああああああぁぁぁ!!!??!?」

 

 

極太の熱戦と、災害級の稲妻が、オリヴァスの身体を貫いた。

 

殺った。確実に殺った。

 

レフィーヤは、そう思った途端に、フッと力が抜けた。

 

魔力を絞り出し、倒れ込むレフィーヤとリュー。辛うじて膝を着いて剣に縋るベルだが、息も絶え絶え。今にも意識を失いそうだ。しかし、倒れない。万が一、奴が生きていた場合、自分が戦わねばならない。

 

黒竜の翼が、崩れ落ちる。連鎖的に身体中に蔓延っていた鱗が崩れ落ち、瞳も元の朱に戻り、いつものベルに戻る。

崩れ落ちた翼が、灰に還った時。同時に爆煙が晴れる。

 

「─────ッ…グッ…!」

 

片腕が炭化。回復する気配を見せない、ボロボロの姿で膝をつく、オリヴァスの姿。ベルはそれを視界に収め、口元に薄く笑みを浮かべる。笑う膝に喝を入れ、立ち上がる。

 

「…………」

 

「…………」

 

なにも語らず、2人は立ち上がる。最後の、決戦の為に、武器を取り。

 

どちらからともなく、歩み出す。

 

コツ、コツ、コツ、コツ

 

混じり合う視線。目の前に立ち、睨み合う両者。

 

 

「────勝負だ…オリヴァス・アクト…!」

 

「────受けて立つ…ベル・クラネル…!」

 

 

棒立ちのまま、固まる2人。睨み合う視線。突き刺さる殺気。どちらかが死ぬ。

明確なまでに示されたその未来が、ベルの瞳に炎を宿させた。

 

 

 

 

瞬間

 

 

 

 

どちらからともなく、大剣を振るった。

 

『─────ッ!?』

 

大剣の激突した衝撃波が、辺りを揺らす。

衝撃によって、お互いが仰け反る。

 

言葉に出来ぬ咆哮を上げながら、斬りかかる。

 

しかし、黒竜の鱗を纏わぬベルはオリヴァスと漸く互角。

 

斬られ、斬り。殴られ、殴る。しかし、喰らいつく。

 

至近距離で繰り広げられる剣戟の最中。斬り刻まれ、殴られる間も、ずっと思い起こされる過去の思い出。祖父の言葉。いつも語っていた、自慢の息子の話。

 

『ベルよ、英雄って…なにかわかるか?』

 

もう、思い出せない返答。だけど、きっとこう答えただろう。

 

かっこよく誰かを救う、完璧な人。

 

当たり前だ。誰もが思う、英雄の像。それは、きっと陳腐な言い方だが、こんなものだろう。

 

祖父は、笑ってこう答えた。

 

『そうじゃろうそうじゃろう。そう見えるじゃろうな。確かに、彼奴らはカッコイイ。人を救い、戦いにおいては完璧じゃ。』

 

だがな、と祖父は続けた。

 

『やはり、どこまで行っても奴らは人じゃ。くっだらない事で、悩んで、挫折して、落ち込むんじゃ。普段は化け物を相手にして大立ち回りしとるってのに…変なとこで弱いんじゃ…─────なぁ、ベルよ。お前は、人であり続けるんじゃ。』

 

当時のベルは齢8歳。当然、こんな言葉の意味なんかわからなかった。しかし、今ならばわかる。

あっ、でも女は救えよ?と茶化したように語った祖父を、よく覚えていた。

 

『ベル、お前は儂の息子によく似ておる。お主もきっと、いつかはアイツのように、英雄と呼ばれる日が来るはずじゃ。じゃから、よーく覚えておけ。』

 

それは、先に逝ってしまった息子が、最後に残した言葉だという。

 

 

 

 

 

『─────英雄よ、人であれ』

 

 

 

 

 

その祖父の横顔を、今でも覚えている。

 

『大いに羨め、嫉妬しろ。憎しみを持つのも良い。だが、その中にある人らしさまで、失っちゃ行かん。大丈夫じゃ!お前は、充分英雄()の器じゃ!』

その幻視する背中が、懐かしく、大きく感じた。

 

 

 

バチッ、と弾ける白雷が、剣を覆った。

 

 

───嗚呼、お爺ちゃん…僕は…

 

 

ベルは思考をそのままに、剣戟のスピードを更に上げる。

 

 

憧れは、復讐で燃やした

 

 

───また、輝かせればいい

 

 

過去は、消え去った

大切な人は、みんな死んだ

 

 

───今を見て。僕には、大切な人がいる

 

 

意味の無い様な自問自答。しかしそれは、確かな意味を持つ。

 

「───オオォォォォッッッッッ!!!!!」

 

力が、湧いてくる。

 

─────さぁ、立ち上がれ。

 

身体に、白雷が迸る。

 

─────さぁ、勇気を振り絞れ。

 

さらに速度が上がる。捨て身ではない、リューとの修行によって培われた、確かな技と駆け引きで、果敢に攻めかかる。

 

「なぁッ!?」

 

オリヴァスの大剣が、宙を舞う。青白い顔に驚愕を貼り付けた。

 

祖父が語った、大英雄。数多の逸話を残す1人の英雄(おとこ)の名前。

決して神意に従わず、名を轟かせても尚、異端と呼ばれ続けたその英雄。

 

────あぁ、そうだ…僕は…貴方に憧れた。尊敬する祖父が、どこか哀愁を漂わせ、悲しみを孕んだ瞳をする。でも、それ以上に、誇らしそうに語られる貴方に、僕は憧れた。

 

柔らかく微笑んだベルは、そっと呟いた。

 

 

 

 

 

「─────【英雄よ(テンペスト)】」

 

 

 

 

 

無意識下で呟いたその言葉をスイッチに、ベルの大剣に雷が宿った。それは、今までの憎しみに身を焦がす様な黒い雷ではなく。ベルの過去を、憧憬を象徴する、純白の稲妻。

 

誰かが自分の頭を撫でてくれている。そんな錯覚に陥る程に、その稲妻に既視感があった。温もりがあった。それは、まるで────

 

 

 

「─────うん…僕は、もう…大丈夫だから…」

 

 

 

─────そうか。

 

 

 

返事が、聞こえた気がした。

 

─────お前が、憧れた物はなんだ!

 

ベルは、その白雷の柄を握りしめる。

 

「─────ッ!!」

 

一息で飛び上がったベルは、稲妻の残像を残したまま飛翔。さらに、白雷に食らったダメージ分のチャージを上乗せ。体全身から放電される大量の電気が、ベルの髪を逆立たせる。

 

 

「やっと…やっとわかった…っ!」

 

 

ベルは超特大の雷撃を纏った剣を、振り上げる

 

「─────これで、勝負を決めるッ!!!」

 

自身の体を一筋の稲妻に変え、蜿蜒(えんえん)たる軌跡を描き、超高速移動による強襲を仕掛けた。

 

─────さぁ、叫べ!お前の憧憬(英雄)の名を!!

 

祖父が語った"真の英雄"の名は、女神の栄光を無視した、彼だけの名前。

 

僕は貴方に憧れた、貴方の言葉に。だから、借りよう。

 

 

この一撃に、貴方の言葉を乗せて!!!

 

 

 

 

 

 

 

「─────【英雄よ、人であれ(アルケイデス)】!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ベルの斬撃は、音を置き去りにした。

 

ベルの突撃(ペネトレイション)がオリヴァスを穿(つらぬ)いたと同時。雷鳴はベルに漸く追いつき、轟いた。

 

「──────────ッッ!!!!」

 

ベルの咆哮を雷鳴がかき消して、そのまま地面に衝突。その威力は留まるところを知らず、床を突き破り、3階層下の27階層までの床を貫いた。

 

 

着地と同時に、威力を殺しきれず吹き飛ばされ、ゴロゴロと床を転がるベルとオリヴァス。

 

ベルはマインドを消費しきった、ボロボロの状態のまま、地面に伏していた。

 

オリヴァスは異形の下半身を失い、指先から徐々に灰に還っていく。

 

「─────っ、あぁ…っ…こんな、はず、では…!?」

 

貫いた雷撃の痛みに震え、無い下半身を見て、漸く己の敗北を悟った。しかし、血走った瞳をベルに向け、呪詛を吐き続ける。

 

「ベル…クラネル……!!彼女の、寵愛を、授け、られた、私が…!せめて、貴様だけでも道、連れに…─────」

 

その言葉を最後に、オリヴァスは体を灰に変えて、完全に消滅した。

 

 

 

「──────────勝った…」

 

 

 

その様を見届けたベルは、暗い洞窟の天井を眺めて、呟いた。

傍らに横たわる大剣を撫で、手のひらを眺めて、グッと拳を作る。

 

ベルは、思い出した。全部、全部。

 

「…そうだ、僕は─────」

 

 

 

 

 

 

英雄に、なりたかったんだ。

 

 

 

 

 

 

目頭に涙を溜めて、勝利の咆哮を上げるベル

 

しかし、次にベルが聞いたものは

 

 

 

 

ダンジョンの悲鳴だった




1000人突破ということで、なにかコラボかダンメモの話を書こうかなと思っています。

アンケート載せるのでよろしくお願いします。

感想、よろしくお願いします。
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