疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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お久しぶりです。世間ではゴタゴタしてて大変ですね。自分も生活費を稼ぐためにせっせか働いていたので遅れました。ちょこちょこ書いてたんですけど正直きついものがありました。

どうぞ


第16話:言いたい事

たった一瞬の瞬きの後。三本の光の轍を、リューは目撃した。その三本の轍が、一斉に戦車を叩き斬る。

 

待って、と声をあげようとしたリューの真上に、小さな影が4つ落ちた。

 

「【炎金の四戦士(ブリンガル)】!?」

 

上空の存在に気づき、リューが迎撃しようと小太刀を抜く間もなく戦鎚に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。

 

「グッ…!」

 

「大人しくしていろ。餌が暴れるな。」

 

「っ…餌…?」

 

自身を踏みつける小人に、苦しげに聞き返すが、すぐにその意味に思い至った。

 

「お前達…何、してんだ…!」

 

振り上げていた剣を、ベルは握り締めた。

 

瀕死の銀猫を踏みつける少年に向かって、見せつけるようにリューの頭を踏み付け、小人はニヤリと笑みを浮かべた。

 

ベルの額に、青筋が走る。

 

「…離せよ…リューを離せッ!!」

 

纏う稲妻が、徐々に強く、激しくなっていく。

 

「待ってっ!…ベルッ!」

 

「黙れ。」

 

「───あああああああああっ!?」

 

焦った声で叫んだリューだったが、槍を肩と太腿に突き刺され、苦痛の絶叫が響く。圧倒的な力に抵抗することも出来ず、叫びを残して朦朧とした意識のまま、痛みから逃れるように体を捩るが、無情にも頭を踏みつけられ、意識を飛ばす。

 

 

「このクズ野郎ッッ!!!!」

 

 

ベルの瞳が怒りに燃え上がり、絶叫する。

一気に放出された稲妻が、ガリガリと石造りの壁を削り、蛇が這ったような跡を残して、ベルの姿を掻き消した。

 

「「「「なにっ!?」」」」

 

まず初めに、リューを突き刺した小人────【炎金の四戦士(ブリンガル)】ガリバー兄弟長兄、アルフリッグを蹴り飛ばし、リューを確保。不意を突かれた他三人がそれぞれの武器を振り上げた頃には、もうすでにベルはリューを抱きかかえ、離脱。着ていたコートを丸め、枕のようにして血を流すリューを寝かし、慰め程度のポーションをかける。血の勢いが止まった事を確認して、ポーチから包帯を取り出し、傷口をぎゅっと縛り止血する。

 

「……ベ、ル…」

 

「……」

 

リューの譫言のような呼びかけにもただ視線を返すだけで、立ち上がる。

 

そして、漸く。目の前の敵と対峙する。

 

「…なんで、リューに手を出した。」

 

爛々と殺意が燃える真っ赤な瞳が、小人達を射貫く。意味のない問答、この後に起こる事は決まっている。ただ、最後の理性が無意識に出させたものだった。少年は、この男たちを殺す理由が欲しかった。

 

「…その女はただ貴様を本気にさせる為の起爆剤に過ぎん。俺がそうした方が効果的だと判断しただけだ。」

 

吹き飛ばされたアルフリッグが、なんでもないように首を鳴らしながら、淡々と答える。ベルの蹴りを喰らう寸前、ギリギリでガードが間に合ったらしい。リューに余波が向かぬようにと慣れない足技を使った事が裏目に出た。

 

激昂しているはずなのに、どうにも冷静であった。

スゥッと息を吸って、ゆっくりと吐き出す。煮えたぎる怒りの矛先は、ただ目の前の小さな巨人達。心の奥深く、眠る竜は怒りの鎖を引き千切り、ただ構える。

 

「……僕は、ただ……もう、いい…いなくなれ…僕の…僕達の前からッ!!」

 

冷静に、静かに、滾る殺意を深い息と共に吐き出した。瞬間、大気が焼け焦げる。小さな巨人達は、敏感にその空気を察した。

 

「来るか」

 

「来るな」

 

「なるほど強い」

 

「ならばどうする?」

 

「「「「決まっている、全力だ。」」」」

 

同時に構えた彼等は、猛進する暴竜と激突した。

真横から来る片手で振るわれる薙ぎ払いに、四人同時に武器を振り下ろす。ぶち当たった瞬間、両雄が衝撃に仰け反った。しかし、ベルだけが地面を粉砕する程の踏み込みをもって、真正面から4人の防御を突破。大剣の一撃をもってして4人全員を吹き飛ばす。

 

小さな巨人4人が同時に攻撃を加えたにも関わらず、弾き飛ばされ、追撃まで加えられた。初めて、この4人の小さな巨人は『崩せない』と言われる連携を崩された。

 

「ガルアアアァァァァァッッッ!!!!!」

 

吹き飛ばされ空中で身動きが取れない所を、ベルが近場の小人の足を掴み、そのまま振り回して残り三人へと棍棒の様に振り回す。そして投げ飛ばしたあと、目標の人物の頭を正確に鷲掴み、地面に叩きつける。

 

「ゴァッ!?」

 

アルフリッグだ。

地面に叩きつけられたアルフリッグは、拳の雨が降り注ぐ中、ただ身を丸めて防御に徹するしか無かった。Lv5の彼が、防御に徹しなければ死を予感する程の力で振るう拳打で、ベルは我武者羅に叩きつけた。彼女に教わった通り、一撃一撃に、ありったけの殺意を込めて。

 

(な、んだっ…この威力…っ!?)

 

数秒で繰り返される数百発の爆撃の雨に、防御を破られ 意識を刈り取られる寸前。へし折れた血塗れの銀槍がベルに向けられる。

 

完全な不意打ちだった。興奮状態の怪物の不意を突いた一撃だった。

 

しかし

 

特攻した戦車(アレン)の矛を、文字通りベルは噛み砕く。技とも言えない、本能から来る反射的な行動。

赤い瞳が戦車を射抜いたと同時、ベルの拳が戦車の顎を砕き、錐揉みに回転しながら吹き飛んでいく。

 

「「「調子にのるなっ!」」」

 

後方から来る3つの強襲。しかし、ベルは流れる様に大剣の一撃で一つ、腰から抜いた短剣で攻撃を流し蹴り潰し一つ、鋭い拳打で一つをそれぞれ叩き潰した。

 

一瞬だった。百戦錬磨の戦士達が、竜に噛み砕かれた。

 

そして、踏みつけていた小人の腹に拳を振り下ろす。

 

深く突き刺さった拳を引き戻して、また振り下ろす。それを、2度、3度と繰り返す。肉を叩き、骨が砕ける音が響き、一撃が地面にも伝わり石畳が崩壊する。

 

ベルが内に秘める、狂気的な怒り。色彩を得たばかりの少年の感情は、それを抑える術を知らない。ただ、怒りのままに振り下ろす。

 

そして、6度目の殴打の時。

 

 

 

「────そこまでにしてもらおう。」

 

 

 

背後に立つ巨漢に気づいた。

 

「────ッ!」

 

瞬時に反転、魔法を駆使しその場を離れリューの元に降り立った。気をやっていたとは言え、自分が背後に立たれて気がつけなかった。この男の事は知らない。しかし、目の前の巨漢が如何に脅威になるのかを直感的に理解した。

 

男はボロボロの戦士たちを見ても、大して顔色を変えなかった。傍に倒れるアレン達を見下ろす。

 

「己が力を過信し、挙げ句歯牙にも掛けられず斬り捨てられたか…意識がなかったのがせめてもの救いか。」

 

それから、男は興味を失ったようにアレンから視線を移し、ベルを真っ直ぐに見据えた。深紅の瞳と錆色の視線が交わった。

 

男をも無視して、ベルはリューの脅威となり得る不穏分子を消す為に、ただ前に進む。しかし、巨漢は目の前に立ち塞がった。

 

「…それ以上進むのならば、派閥同士の抗争になると知れ。」

 

立ちはだかる偉丈夫。しかしてベルは、全力の殺気を解き放つ。

 

「…なら…お前もこの場で喰い殺す…ッ!!!」

 

「獣…いや、感情の手綱を握る術さえ知らぬ子供か…」

 

両者が見据え、先ずベルが動く。

 

高速で男に肉薄したベルは、短剣を振るう。しかし、男はガントレットで弾き返し、平然と仁王立ちをしている。その姿を確認する間もなく、眼前に迫る拳を体を捻りすれすれで回避し、空中で蹴りを見舞う。しかし、やはりそれも防がれた。

 

距離を取ったベルは、確信する。この男の動き一つ一つの練度の高さ、そして自身の教師(リュー)よりも完成された圧倒的な技。転がっている木っ端など足元にも及ばない。

 

この男の隔絶された『武』に、ベルはフィンを幻視した。大剣の柄を握り、雷を迸らせる。この男は、危険であると本能が訴えかけた。

 

対して男は、未だ蹴りを弾いた左手を見つめていた。そこに残る確かな衝撃と痺れ、目に焼き付いたベルの技と駆け引きに、一人納得したように呟いた。

 

「…既に、届くか。」

 

痺れを潰すように拳を握り締め、口元に薄く笑みを浮かべた。自身に届き得るその牙に、男の血が騒ぐ。名誉ある事とはいえ、側仕えとして過ごす日々は幸せで退屈だった。男が眺める灰色の世界を、ベルが色付けた。

 

強者との邂逅に、両者の肌が泡立つ。

 

「死合え、ベル・クラネル。抗って見せろ。でなければその女諸共斬り殺すまでだ。」

 

初めて男が構える。押し潰す様な威圧を、ベルは睨み返すだけで跳ね除ける。

しかし、その戦いの火蓋が切られることはなかった。

 

 

 

 

 

「───それは、流石に困るかな?遠征前の大事な時期なんだ。ちょっかいを出さないで欲しいね。」

 

 

 

 

 

突如背後から投げられる言葉に、2人が一様に路地の奥を見た。

 

 

「フィンっ!?」

 

「貴様が来るとはな…フィン。」

 

「やぁ、ベル。そして…久々だね、オッタル。」

 

軽く手を振りながら現れたフィンは、余裕のある微笑みを浮かべながら、どこか油断なく構える。構えを解いた男───オッタルは表情を変えずに、ただフィンを見据えた。

 

「さて…困るね、さっきも言ったが大事な時期なんだ。」

 

「フィン…っ!こいつらが!」

 

「わかっているよベル…それよりも、君は他に気にすべきことがあるんじゃないかい?」

 

「────っありがとう…」

 

「だけど、後で部屋に来ること。いいね?」

 

「…うん」

 

そうして、脇目も振らずリューに駆け寄ったベルは、リューを横抱きにして、走り去っていく。その後ろ姿を見届けたフィンは、「さて…」とオッタルに向き直った。

 

「なぜ、彼に構う?」

 

「あの御方の目に止まり、あの御方が欲しがっている。それだけだ。」

 

「彼はただの子供だ。確かに強すぎる程に力をつけているが、それだけだ。」

 

「英雄の素質はあるということだ。その者に試練を与え、育てるのがあの方の生き甲斐なのだ。」

 

ふぅ、と息を吐き出したフィンは、相変わらず話の通じないこのファミリアが苦手であることを再認識する。遥か過去に己の信ずる神が唯一絶対として殺し合いをしていたという時代もあったと聞くが、まさにこれの事なのだろうと、呆れ半分、そして怒り半分のフィンは、笑わなかった。

 

「ふざけるなよ…オッタル。君たち程度に与えられた試練が、英雄への壁だって?君は…君達は彼を過小評価している。そこに倒れている君たちの団員が何よりの証拠だ。」

 

ベルを、団員を舐め腐っている上からの態度。家族を知り、色彩を得て、幸せをつかもうとしていたベルを利己的な理由で邪魔する女神とその眷属達に、心底腹が立っていた。

 

数秒続いた睨み合いの後、それだけを残し、フィンは踵を返し吐き捨てる様に言った。

 

「彼は、確かに英雄の資格ある黄金の卵だ。強敵を打倒し、神に認められる偉業を3度成した。これは己に打ち勝った数でもある。だが、それと同時に悩み、苦悶し、悲しみ、今日の彼はいる。試練を与えるのは神々でも君たちでも無い。彼自身だ。」

 

そう、フィンは理解している。自分では成り得ない形の英雄の影、それをベルに見ているのだ。

まるで自分のことのように体の温度が上がっていく。それを冷ますように、夜風を浴びて空を仰ぐ。

 

「…英雄、か。」

 

 

 

「いらっしゃいま───リュー!?」

 

「…シル、リューの部屋は?」

 

「こ、こっちです!」

 

【豊穣の女主人】に到着したベルは、包帯だらけのリューを部屋に連れて行く。傷はすでに塞がっているが、未だに目は覚めない。レベル一つ上の化け物に頭を踏みつけられれば、すぐに目を覚ますことはないのは道理だ。ベルは、頭を優しく撫で手を握って部屋を出る。

 

部屋を出ると、目の前を大きな影が覆った。

ベルの体が硬直する。ミアだ。

 

「で?なんで買い物に行くだけでこんなに遅くなって、リューが怪我までしてんだい?」

 

「襲われた、変な男たちに…それで…リューがやられて…」

 

「…どんな連中だい?」

 

「…小人族4人と猫人族が一人…全員半殺しにしたから…しばらく来ないと、思う…かも…」

 

「…はぁ…あの女神(おんな)…」

 

どこか呆れと怒りが混じったような声音に、ベルは背筋を伸ばすが、ミアはベルの頭を乱暴に撫でて気にするなと笑った。

 

「あの五人を半殺しで、ほぼ無傷。リューもあの程度の怪我だ…たいしたもんだよ、誇りな。あと、このことはうちの娘たちに言うんじゃないよ。」

 

「うん…」

 

「なに湿気た面してんだい…あんたはしっかりあの子を守ったよ。」

 

尚も暗い顔をするベルに、許すように告げた。

 

少しの気まずさと、心残りを抱えながら下に降りていく。すると、従業員であるルノアとクロエがちょうど片付けが終わり、休んでいた。

 

「おっ、冒険者君。リューはどう?」

 

「お疲れニャ、少年。肩でも揉むかニャ?」

 

「あ、二人共…」

 

実は、この二人とは結構親しい。ベルに拳での戦い方を教えたルノアに、短剣の扱いを教えたクロエ。どうしてもリューの手が離せない時に白羽の矢がたっただけだったので、二人との模擬戦の時間はリューほど長くないが、それなりに親しい部類に入る。面白いように技術を吸収するベルに、つい調子こいて色々教えたのは内緒だ。

 

「…二人共お疲れ様…今日はごめん…迷惑かけて…」

 

「あー、いいよいいよ。襲われたんでしょ?君は悪くないって。」

 

「あんまり気負わなくていいニャ。それにしても…リューを張っ倒せるなんて、どんなやつだったんだニャ?」

 

「えっと…ミアに言うなって言われて…全員半殺しにしたけど…みんな気をつけて。後…今日は、2人のおかげで何とかなった…ありがとう。」

 

それじゃ。と淡白に別れを告げたベルを見て、彼らしいと2人は笑った。

 

 

 

 

 

ホームに戻ったベルは、団長室に直行する。そこでは説教とまでは行かないが、注意をされた。

 

「ベル、君は強くなった。それ故に、ファミリアに与える影響は大きい。それはわかるね?」

 

「…うん。」

 

「確かに、一般人に手を上げた彼らが悪い。それも、君の大切な友人に。しかし、君もやり過ぎた。それは自覚してくれるね?」

 

「…うん」

 

「それがわかれば、もう充分だ。」

 

しょんぼりとした空気を流すベルに、フィンは少し呆れ気味に笑う。本当に、器用じゃないと。

 

「…ベル、彼女は大切かい?」

 

「えっと…リュー…の、事?」

 

「あぁ、随分と彼女に入れ込んでると思ってね。あそこまで激怒する君は、レフィーヤの時以来だからね。」

 

「えっと…リューが傷つけられたと思ったら、抑え、られなくて…」

 

「…まぁ、大切な人が傷つけられたと考えれば…これから直していけばいい。」

 

感情のコントロール。それがベルの今後の課題だろう。それは大人になるにつれて上手くなるものだが、ベルの場合まだ子供。それに関してはいくらでも矯正できる。アイズ程聞き分けが悪くないことに、少し安堵してもいるのだ。

 

「…ベル、君は────」

 

「なに?」

 

尋ねようとして、止めた。これ以上は野暮だろうと。詰まらせたフィンは話題を変える。

 

「────いや、そう言えば、君宛てに手紙が届いていたと思ってね。」

 

「あっ、叔母さんかな…?」

 

「叔母さん?」

 

「うん。僕を引き取ってくれた人。優しいけど、怒ると、怖い。」

 

「そうかい…君の家族ってわけだ。」

 

「そう、かな…うん…僕の、家族。」

 

そう言ったベルは、手紙を受け取ると丁寧に封筒を剥がして手紙をまじまじと読み始める。嬉しそうにしたり、驚いたり。雰囲気がコロコロと微妙に変わる。

 

改めてフィンは実感する。彼はまだ子供なのだと。ここまで雰囲気を変えて、何かをするベルを見ることがまず新鮮だった。

 

(本当に変わった…少し前からじゃ考えられない変化だ。いや、僕達が知らないだけで、彼は元々こういう子だったのかもしれない。)

 

この短期間で強者を無傷で薙ぎ倒すほどに成長したベルだが、心は年相応か、それ以下。しかし、彼に対する疑問は未だに残っている。

 

(ステータスに見合わない強さ、スキルである竜の因子…そして、アイズと同じ詠唱式の魔法、その威力…彼は孤児…まさか、血族に精霊種と何か関連があると見て間違いない…)

 

フィンは、ベルの異常な戦闘力について、一つの仮説を立てた。幹部3名、そして主神であるロキのみが知っているファミリアの秘め事。

 

アイズ・ヴァレンシュタインの出生。

大精霊の血族、その魔法の継承。

 

その大精霊の魔法すら意に介さない、圧倒的な威力、効果の魔法。

 

ベルが遠征に行く決意をした当日。アイズがベルと調整の為にと手合わせをする事になった。最初こそ抜き気味だったアイズの力は、徐々に上がっていき、とうとう魔法を使用。自身の必殺技まで出し、あわや大惨事────と、なる筈だった。

 

その時、魔法を解放したベルが、片手でその攻撃を阻止。大惨事は免れたが、アイズを吹き飛ばし結局建物は半壊。止めたはずなのに理不尽に一緒に怒られたベルだった。

 

その後、ベルはこう言葉を残していた。

 

『この魔法、まだ加減に慣れてないから仕方ないじゃないか…』

 

いじけ気味に発したこの言葉には、リヴェリアも呆れた。

 

しかし、しかしだ。この言葉が本当ならば彼は慣れていない魔法で出来得る限りに手を抜いていたのだ。

 

あのアイズと魔法で勝負し、圧勝し、あまつさえ手加減をしていた(・・・・・・・・)という事になる。

 

(アイズの魔法は強力だ。それこそ、接近戦ならば恐らくファミリア最強…それが、ベルによって覆った。未熟なところはまだあるが、パワーとスピードなら間違いなくこのファミリア最強はベルに渡った。)

 

しかもそれが、まだレベル4と言うのがフィンの疑問を深めていた。そんな事を考えていた時

 

「あっ」

 

「ん?どうしたんだい、ベル。」

 

「叔母さんが、オラリオに来たらフィン達と会ってみたいって。いい?」

 

この提案は願ったりだ。若しかすると、ベルのことをよく知れる機会かもしれない。ベルと過ごした期間は明らかにそちらの方が長いのだから。打算あり、興味ありで断る理由はなかった。

 

「へぇ、それはいい。君の家族同然の人だ。手厚くもてなそう、僕も楽しみだ。」

 

「うん…!」

 

「おっと、聞き忘れていた。君の叔母さんの名前を聞いておかないとね。尋ねて来た時に門前払いになってしまうかもだ。」

 

「そっか…名前はユノ。ユノおばさん」

 

「ユノ…ね。分かった、守衛に伝えておこう。」

 

この出会いが、何かの切っ掛けを、何かを呼び起こすのか。思考に耽るフィンの親指が、僅かに疼いた。

 

 

 

 

ギルドの奥深くに存在する、祈祷の間。ダンジョンに祈祷を捧げる神が鎮座する、神であろうとも踏み入ることができない、絶対不可侵領域。

 

ボボッと揺れるロウソクの火が、暗闇を照らして影を浮き彫りにした。

 

「────ロキ・ファミリアはやはり仕掛けるか。」

 

ゆらりと動く漆黒のローブが、大理石の神座に座す男神を向いた。

 

「ああ、ロキも1連の騒動の情報を欲している。」

 

暗がりから語りかけるフェルズに一瞥もせず、大神ウラノスは淡々と語った。

 

「ダンジョン深層…59階層に事件の鍵があると思うか?」

 

「確証はない。だが確信はある。」

 

「神の勘と言うやつか?」

 

「ああ。」

 

老神のあまりにも簡潔な返答に「わかった」と頷いた。

 

「ロキ・ファミリアには既に目をつけているよ。『千の妖精』は契約上私と協力関係にある。我々が深層の状況を知るには、格好の人物だ。心苦しいが、彼女にはファミリアの情報を横流ししてもらう。」

 

「頼む。」

 

「1度情報を整理しよう。」

 

そうして、1つずつ現在でわかっている情報を列挙していく。

24階層での真実、怪人の存在、極彩色の魔石を移植することで死者の蘇生を可能にすること。そして、『彼女』なる存在。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインが強く反応を示したらしい『宝玉の胎児』関係も不明なまま…エニュオと言う謎の人物…神なのか人なのか…それすらも分からない。」

 

「……」

 

18階層での接触の際、アイズは過剰なまでの拒絶反応を見せたと報告が上がっている。胎児自身もアイズの魔法に反応していることも確認済みである。フェルズの言葉に、ウラノスは僅かに目を伏せ、なにか心当たりを探るようにしばし口を噤んだ。

 

「エニュオ…少なくとも神の名ではない」

 

だが、と告げて言葉を続けた。

 

「神々の言葉でエニュオが意味するところは────」

 

ウラノスは蒼色の瞳を見開いたまま口を動かす。

 

「────都市の破壊者」

 

静寂が訪れ、ただあかりの松明が燃え盛る音だけが耳にあった。

黙りこくるウラノスの反応を待たずに、フェルズは話を進めた。

 

「…闇派閥の残党。こちらについてもさっぱりだ。過去の亡霊であるのかも、組織の統率者もわからない。24階層から食人花を運搬しようとしていた姿が確認されている。」

 

過去、ギルド、ガネーシャ、ロキ、そして正義のファミリアが結託して壊滅させたはずの過激派組織。

過去には『邪神』を自称する神が人々を唆し、オラリオの秩序崩壊を目論んでいた。

 

「地上の勢力と、そして『彼女』からなる地下の勢力とが手を組み、オラリオの転覆を図っている…か…さて、本格的に参ってきた。」

 

結局の帰結がお手上げ。ロキ・ファミリアの遠征が終わらなければ何も情報はないのだ。

ため息を吐いて柱に背を預けたフェルズに、ウラノスが手紙を差し出した。

 

「…これは…?」

 

「ヘルメスに渡せ。」

 

「…神ヘルメスに…まさか、例の約定か…!」

 

驚くように声を上げたフェルズに、ウラノスは表情を変えることなく告げた。

 

「敵が不明な以上、最優先は彼の大神との約定。あれを反故にする訳には行かない…どちらにしろ、最下層に眠るアレを抑えるには、あの兵器は必須だ。」

 

「大神の派閥が残した兵器…しかし、本当に兵器なのか?私から見れば、ただ内気な子供だ。とても、あるべくして生み出された物には…」

 

「アレで間違いはない。お前も『宝玉』()を通して見たはずだ、『想い』が生み出す、あの力を。」

 

「…承った。」

 

少し間をおいて手紙を受け取ったフェルズは、また闇に溶けるように消えた。それを見届けたウラノスは、瞼を下ろし祈祷を続ける。秒針が動き、約束の時計が動き出すその時まで。

 

 

 

 

「────ここは…私の部屋…?」

 

顔に当たる陽の光が煩わしくて、目が覚めた。ぼうっと天井を眺め、起き上がろうと力を入れると、肩と腿に鈍い痛みが走り、脂汗が吹き出して、全てを思い出した。

 

「ベルっ!!────あぐっ… !?」

 

「リュー、大丈夫!?」

 

ベッドから飛び起きようとして、痛みに悶て床に倒れ込む。音を聞きつけて駆け寄ったシルが肩を貸し、漸く立ち上がる。自分の体を見下ろすと、清潔な包帯が丁寧に巻かれている。どこか既視感を覚えるあたり、これをやったのはシルであろうことが伺えた。

リューは痛みに悶える中で、譫言のようにベルの名を呟いた。

 

「ベル……べ、ルは?」

 

「お、落ち着いて!動いちゃだめだよ!」

 

ベッドに押し込まれたリューは、押し返すように立ち上がり、足を引きずりながら外に出る。

 

「ミア母、さん…」

 

「ようやく起きたかい、3日も起きやしないでこの寝坊助。」

 

「そ、そんなに寝ていたのですか私は…」

 

扉横に寄りかかっていたミアに呆気に取られたが、すぐさまリューは佇まいをただし、真剣な顔つきに変える。

 

「ミア母さん…お願いします、私は───」

 

「坊主を見送りに行くんだろう?早く行きな。今頃中央広場にいるよ。」

 

願いだそうとしたことを、あっさりと許されキョトンとする。そうしていると、痺れを切らしたミアが怒鳴った。

 

「いいからとっとと行っちまいな!拳骨が欲しいのかい!?」

 

「いっ、行ってきます!!!」

 

相変わらず怖いその怒鳴り声に、リューはぶるりと体を震わせて、びっこを引きながら急ぎ中央広場へと向かった。

 

 

 

 

革靴の靴紐をギュッと締めて、サイドポーチに入るポーション類を確認する。新調してもらった鞘のベルトをきつく締める。

 

「…よし」

 

深く息を吸って、頷いて。傍らに寄り掛かる黒刀を掴み、勢いよく立ち上がる

 

「……」

 

心にあったモヤは未だ晴れない。心残りだってある。しかし、それを振り払うように、背に剣を固定する。

 

玄関には赤髪の主神であるロキが団員を見送り、手を振っている。階段から降りる途中で、目が合った。ロキはいつもの調子で笑う。ベルも微笑み、ただ横切る。

 

「ベル。みんなを頼むわ。」

 

横切った時、耳打ちされる様に言われた一言に、ベルは言葉は返さない。

後ろを向いたままにグッ、と親指を立てて見せる。そうして、ロキはカラカラと笑って、ベルを見送った。

 

外に出て、集合場所に向かう。今日は快晴、暖かな日差しが街を行き交う人を等しく照す。見慣れた光景が、ただ過ぎていく。見覚えのある屋台に、世話になった花屋。昔は大した感慨もなく眺めていたその光景が、やけに鮮明に見えた。

 

「あっ!ベルー!こっちこっちー!」

 

「おはよう、ティオナ。」

 

集合場所である中央広場(セントラルパーク)には既に道化師の意匠が施された旗が掲げられ、多くの団員が集結していた。団員たちの顔色は緊張に強ばった様な顔をうかべるものから、自然体である者等様々だ。

 

「ティオナ、気合い入ってるね。」

 

「うん!今回の遠征で、アイズに追いつかないと!頑張ろうね!」

 

「うん、僕もレベル5目指して頑張るよ。」

 

手をパチンと打ち合わせた2人は、健やかに笑う。

 

「よっ、ベル!俺も混ぜてくれよ!」

 

「おっとと…ヴェルフ、おはよう。」

 

「あーっ!『赤匠』!」

 

「おう、『大切断(アマゾン)』も元気そうだな。」

 

後ろからベルの肩に飛びつくように、ヴェルフが快活に声をかけた。その背には、大量の武器と思われる荷物が籠と一緒に背負われていた。今回の遠征に、彼も着いてくるようだ。

 

「ヴェルフも来てくれるんだよね?」

 

「あぁ!お前の活躍を直接見てやろうと思ってな?他にもウチのファミリアの上級鍛冶師も行くぜ?」

 

「そんなに来てくれるの?」

 

「ああ!なんでも武器を溶かすモンスターが居るとかなんとか…」

 

「ちょっとー!なんでベルとは専属契約結んだのに私とは結ばなかったのさ!えこひいきだ!」

 

「おまっ、自覚してねぇのか!?あんだけ装備をポンポコ壊されて専属結ぶやつがいるか!?」

 

「ベルだって壊したじゃん!」

 

「ベルはお前と違ってダンジョン終わりに毎回整備に来んだよ!それにこの間は敵が敵だ!アレは特殊!」

 

「うぐ…!」

 

「それにお前、覚えてないとは言わせねぇぞ!1年前、仮契約期間の一ヶ月間!剣姫と一緒になって渡した装備を一人ずつ丁寧に毎回木端微塵にしやがって!対してベルが壊したのは防具だけだ!文句あるか!?」

 

「うぐぅ…!」

 

なんて、ティオナが詰め寄られる場面が、新鮮で面白かった。そうしていると、ヴェルフが思い出したように背中の籠を弄り始めた。

 

「そうだベル、遠征前に新装備だ。今回は材料にも拘ったし、時間もかけた。前回のものよりも動きを阻害しない分重くなっちまったが、今のお前なら問題ないだろう。上手くできたぜ。」

 

そう説明しながら手渡されたのは、ベルの防具一式。黒と金色の腰鎧と左の肩当に臙脂色のロングコート。

 

「ヴァルガングドラゴンの甲殻を加工して作ったもんだ。重くなったのはこいつのせいだな。だが防御力はピカイチだ。椿…あぁ、うちの団長の一撃も跳ね返した。それとコートの方はカドモスの皮膜を重ねて加工した。耐衝撃、耐熱が精霊の護符並に高い!最高の逸品に仕上がった、役立ててくれ。今のコートは…誰かにやるでもいいし、そのままとっとくでもいい。」

 

「ありがとうヴェルフ、大切に使う。」

 

「おう!まぁ、とっておきもあるが…それはまた後でだな。」

 

豪快にウィンクをしたヴェルフに、ふふっと笑いかけて、早速装備する。腰鎧のベルトを締めて、コートを羽織る。軽くステップを踏んで、異常がない事を確認する。

 

「…うん、重量は変わったけどこれなら問題ないかな。コートも可動域が増えてる。これなら複数戦も前より行ける。」

 

「おう!そりゃよかったぜ。」

 

そうして3人で談笑していると、 ベルの後頭部に何か柔らかいものが押し付けられ、後ろに引っ張られる。

 

「ほぉ!こやつがベル・クラネルか!随分とまぁ、兎のような見た目をしている…が、作り込まれたいい体をしている。」

 

「は、離して…!」

 

「か、形が…変形してる…!?」

 

「おぉ、すまんすまん!」とこぼした後に、快活に女は笑う。火に焼けた浅黒い肌はアマゾネスを連想させるが、アマゾネスにしては露出が無い。極東の装束のような服を纏った眼帯の女も、ヴェルフと同じように大籠を背負っていて、中から鉄臭い匂いが漂ってくる事から、鍛冶師であることは理解出来た。

 

「…アマゾネス?」

 

「ハズレだ。まぁたしかに、見た目はアマゾネスなのは否定せんがな。手前はハーフドワーフ…あいや、すまぬ。あの堅物副団長が初めて専属の契約を結んだと聞いて興味が湧いてな!手前は椿・コルブランド。こやつのファミリア…つまり、ヘファイストス・ファミリアの団長だ。」

 

「ヴェルフ、副団長だったの…?」

 

「今更かよ!?…あぁ、不本意ながらこいつが団長だ。」

 

「そうなんだ…えっと…椿…さん?」

 

「椿で十分だぞベル。」

 

ヴェルフが心底嫌そうに椿を見ると、椿は鼻で笑った。

 

「な~にが不本意だヴェル吉!少し前まで手前がいなければダンジョンに行くパーティーもいなくて困り果てていたくせに…」

 

「そ、それには感謝してる…」

 

「何だ、やけに素直だな…気持ち悪いぞ。」

 

「お前…構えろ、叩き切ってやる…!!」

 

ベルの兄貴分を自称するだけあって、世間を知らないベルの見本になろうと努力するヴェルフだったが、そのあんまりにもな態度に溜め込んだものが爆発した。

 

そんなヴェルフを無視して、椿はベルの顔を覗き込んだ。

 

「…復讐に取り憑かれた小僧と聞いていたが…どうやら、良い人に出会ったようだな。」

 

瞳を覗き込まれ、聞き伝えられていたベルの情報とは違うことに椿は興味を示したのだろう。少し驚いたベルだったが、素直に返した。

 

「…わからない。今も…僕は───」

 

「…良い良い。悩み、それだけを考えていれば良い。お主はまだ若い、他のことを考えるのは周りに任せろ。それこそフィンにでも投げておけ。あの男なら勝手に考えて最適の答えを勝手に導き出す。」

 

頭をワシワシと撫でられ、彼女は嵐のように去っていった。彼女の言葉が、やけに印象深く感じたのは何だったのか。ベルは彼女の言葉に引きずられながら、何かに打ちひしがれているティオナを起こして皆が集まり始めている場所に向かった。

 

フィンが白亜の巨塔の前に立つ。集まった全員がそこに注視し静寂が訪れる。

 

「総員、これより遠征を開始する!」

 

まもなく、部隊の正面でフィンが声を張り上げた。幹部の二人を左右に伴い、威厳あるその風格を周囲に見せつける。

 

「今回の遠征も二部隊構成で攻略。僕とリヴェリアが率いる第一部隊と、ガレスが指揮する第二部隊。18階層で合流後そこから一気に50層へ移動、僕らの目標は他でもない、未到達領域───59階層だ!!」

 

団長の宣言がこの場にいる団員全ての耳朶を震わせた。誰もが未知の領域に手を伸ばす偉業に、思いを馳せる

 

「君達は『古代』の英雄たちにも劣らない勇敢な戦士であり、冒険者だ!大いなる『未知』に挑戦し、富と名声を持ち帰る!!」

 

熱がこもる演説に、それを見守る観衆すらも固唾を飲んだ。静寂を切り裂く一人の英雄の雄叫びが、戦士たちを鼓舞する。

 

「犠牲の上に成り立つ偽りの栄誉は要らない!全員、この地上の光に誓ってもらう───必ず生きて帰ると!!」

 

団員が拳を作る中、ベルは初めて見るフィンの『勇者』たる一面に瞠目しながら、物語の英雄を想起した。

 

「遠征隊、出発だ!!」

 

その号令を合図に、戦士の雄叫び(ウォークライ)が蒼空に響いた。

 

ベルは、第一部隊。先に出発する。頭に浮かぶ顔は決まっていた。

 

(会えなかったけど…帰ってきたら…必ず…)

 

握り締めた拳から顔を上げると、なぜかフィンが微笑みながら後ろを指差していた。振り返るベルが見留たのは、頭に浮かんだばかりの人物だった。

 

 

 

「───ベル!!」

 

 

 

もう来ないのではないかと思っていた人物が現れ、呆然とする。しかし、脚を引きずるリューが痛みに顔を歪め、倒れる瞬間。反射の域でベルの体が動き、リューを抱き支える。

 

「リュー、大丈夫!?」

 

「っ…!へ、平気です…」

 

寝癖が跳ねている様子を見ると、今日目が覚めてすぐに来たことがわかり、少し嬉しさを感じるが、頭を振って浮ついた思考を飛ばして、薄着のリューにコートを羽織らせる。

 

「これは…ベルのでは…」

 

「新しいの貰ったの。作った人もあげていいって言ってたから。そ、それに…そんな薄着でいると、風邪引いちゃう…」

 

「!!?」

 

今更自分の格好に気づいたのか、コートで隠すように体を抱きしめ、少し顔を赤くするベルから目を反らした。

 

「も、もう大丈夫です…ありがとうございます、ベル…っ!」

 

「リュー!…ごめん…僕が、もっと速く気づいてれば…」

 

離れようとして、痛みに悶てベルの腕に支えられる。肩の包帯に恐る恐る触れるベルに、リューは首を振った。

 

「あなたのせいではありません。だから、どうか自分を責めないでください。」

 

「でも…」

 

「大丈夫です、最悪の事態にはならなかった。」

 

「……」

 

リューの言葉を飲み込むが、複雑な気持ちでしかない。ベルは、少し考えてからポーチを開き、ポーションを取り出した。

 

「飲んで」

 

「え…でもこれは…」

 

「飲んで…!」

 

渡されたポーションとベルを交互に見て、意志の硬さを感じ取り諦めてポーションを口に含んだ。

喉を通った瞬間に、体中の痛みが引き、体が自由に動く。そして、リューはこのポーションが万能薬であることを察した。

 

「べっ、ベル…こ、これはえ、エリ…」

 

「うん、エリクサー。」

 

「な、何をしているのですか!?これはもっと大事な場面で…!」

 

「だから、今使った。」

 

「っ…あ、あなたは…!」

 

真顔だ。本気でこれを言っているのだ。痛くなる頭と上がる体温を確認して、ベルはこういう子なのだと再認識する。

 

「…ありがとうございます、ベル。貴方にはいつも助けられてしまう。」

 

「ううん、気にしないで。僕も、君に支えられてる。」

 

少し見つめ合った二人は、周りが自分たちを注目していることに気づいた。いつもなら離れるところだろうが、今回のベルは離れなかった。ただあのときに言いそびれた言葉を伝えるために。

 

「リュー、帰ってきたら…キミに伝えたいことがある。この前は邪魔が入って言えなかったけど…」

 

「…」

 

「だから…待っていて欲しい。」

 

リューも鈍感ではあるが、馬鹿ではない。ベルが言わんとしていたことはわかっている。そして理解した。彼が帰ってきたときが、年貢の納め時であるのだと。この幸せに、彼の復讐劇(リベンジプレイ)を終わらせて、彼を自分という幻から解き放つ時なのだと。

 

「はい…ベル…私からも、伝えなければならないことがあります。だから、生きて帰ってください。」

 

終着点が、決まった。

 

覚悟の色を宿すリューの瞳に、ベルはただ悲しげな感情を宿した笑顔を向けて、頷いた。

そして、リューを強く抱きしめる。その抱擁に、リューも応えるようにベルの首に手を回した。

 

「行ってきます。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

命がけの遠征であることには変わらない。しかし、これを最後の触れ合いにするつもりはない。

踵を返したベルの背中を見つめるリューは、ただ胸に手を当てて、走馬灯のようにベルとの日々を思い出して、苦笑した。

 

「…ほとんど鍛錬のことばかり思い浮かびますね…ですが、私らしい…」

 

色気の欠片もない思い出に、諦めたように苦笑した。

 

「ごめん、待たせた。」

 

フィンのもとに戻ったベルは、温かい視線にどこかむず痒そうに先頭を歩く。

 

「もういいのかい?」

 

「うん。」

 

「顔つきが変わったね…いい顔だ。」

 

後ろにいるフィンに、ファミリアの仲間に、誓うように告げる。

 

「僕は、これから…もう誰も、死なせない。全部、全部守る。」

 

「そうかい。これは頼もしいね。」

 

「考えるのは任せる。ただ、敵を指差して。僕は、それを滅ぼす雷霆になろう。」

 

「これは責任重大だ…いや、君が所属するファミリアの団長だ。それくらい、任せてもらわなきゃね。」

 

差し出された黄金の槍に、黒刀を打ち付ける。

雷霆の誓に、勇者が応える。

 

握った拳に雷を走らせ、確かにそこにある想いを握る。

フィン、リヴェリア、ガレス、レフィーヤ、ティオナにティオネ、アイズにベート。皆の想いを、確かに感じて、落とさないように、しっかりと抱きしめる。

 

「───行こう。」

 

勇者に続く戦士の一団を、疾風が見送った。

 

 




この作品のベル君が怒り狂ってトんじゃうのは、史実のヘラクレスを元にしているからです。無理やり詰め込みすぎたかな…まぁ、久々の投稿なので許してください。
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