疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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これは、もしものお話。

決して交わることの無い人間が。

何かの間違いで、次元を超えて出会ったら。

罪、思い出、全てを殺し、1人の少女の未来を救った英雄と。

少女の今までの軌跡を全てを拾い上げ、過去を救った、英雄の邂逅。

そんな、お話。



NEW番外:違う世界

 

「ねぇ、リュー…気づいてる?」

 

「はい…なんだか、見られている…?」

 

2人仲良く手を繋ぎ、買い出しに出かけた今日。いつも散歩がてらこの道は通る。

 

いつもの町並み、知らぬはずは無いこの風景。けれどどこか、見慣れない。

 

いや、そう言うよりも自分たちが浮いているという方が正しいかもしれない。

 

向けられる好奇の視線は、信じられないものを見るようなそれで、いつも食材を買っている商店では「いつの間に…」なんて言葉も聞こえてきた。

 

「ねぇ、おじさん…なにか、あったの?」

 

「な、何かあったって…そりゃ、お前さんがよぉ…」

 

「…僕が、何?」

 

どこか言い淀むいつもの商店の親父さんは、本当に困惑したような顔でベルを見ていた。更に疑問符が浮かぶ中、ベルの鼻が見知った匂いを嗅ぎ分けた。

 

「…ベル、君?」

 

後ろから声をかけられれば、お節介なギルドの受付嬢。エイナ・チュールがそこにいた。彼女も、なんだか混乱した様子で、ベルに話しかけていた。

 

「エイナ…!久しぶり⋯元気だった?」

 

「ひ、久しぶり…?昨日もあった気がするけど…と、というか…そ、その、と、隣のエルフの方、は…?」

 

その言葉に、ベルはああ、と納得がいった。困惑した視線も、彼女にとってはそうだろう。なにせ、遠征以来ギルドには行っていないし、彼女にリューを紹介する機会なんてなかったのだから。

 

リューの手を握ったまま、ベルは微笑みながら紹介する。

 

「…紹介してなかったね。彼女は僕の妻、リューだ。リュー、彼女は…冒険者になった時から気にかけてくれてた人。」

 

「なるほど…私はリュー・クラネル。当時の彼は御しにくかったでしょう。貴方はとても根気のある方だ。」

 

そう付け加えて、リューは微笑む。エイナは、リューの左薬指に輝く指輪を見て、目眩がした。

 

「ちょっと、リュー…どういう事?」

 

「そのままの意味です。少し前まで貴方は擦れまくっていましたから。」

 

「…否定はしないけどさ。」

 

2人のやり取りに目をぱちくりさせたあとに、エイナは無意識に自己紹介をしていた。

 

「あ、これはご、御丁寧に…エイナ・チュールですクラネルさん……え?クラネル…つま?ツマ?妻!?け、けけけ、結婚してるってこと!?」

 

急に発狂したエイナに、ベルは少し後退りながら答える。

 

「な、なに?確かに少し早いかもしれないけど…」

 

「は、早いとかそれどころじゃないよ!?この間深層から担ぎ込まれてたから心配したと思ったらお嫁さんを見つけたって!?急すぎるでしょ!?」

 

「担ぎ込まれた…?」

 

「どういう事でしょうか…?」

 

「昨日まで…あんなに初心で女の人と目が合っただけでも顔を赤くするようなベル君が…嘘だ…嘘よぉ…」

 

昨日まで、少し手を触れただけで顔を真っ赤にするようなウブで可愛かったあの白兎が、知らぬ間に大人の階段を三段跳びで飛んで行った。しかも、妻まで連れて白昼堂々のショッピングときた。

 

ガックシ、という単語が似合う感じのエイナに、ベルとリューは再び首を傾げた。

 

「ベル…彼女の言葉…どこかおかしい。目が合った程度で貴方が照れますか?」

 

「なんでそれだけで照れるの?」

 

「…そうですね、貴方が照れているところは、とても珍しいだろう。私も、数回しか記憶にない。」

 

「…知らない…」

 

「ふふっ、許してください。普段貴方を揶揄う事などありませんから、興が乗ってしまいました。」

 

微笑むリューと、少し頬を染めるベル。このふたりが愛し合っていること。夫婦である事実を思い知らされたエイナ。

 

しかし、そこではたと気づいた。

 

「……あれ?いつものナイフは?その剣も…新しい武装?」

 

目に付いたベルの装備。それは、いつもの服ではなく、どこか大人びたカジュアルな服に、使い古されたような年季を感じる革のコート、腰に提げた見慣れない素人目でも分かる出来のいい剣。

どこか野性的な中に、男らしさを感じる。いつもの地味目なコーデとは、全く違った。

 

「ナイフ?武装にナイフなんて…使った事はあるけど…エイナが知ってるのは、大剣だと思うけど…?」

 

「た、大剣…ベル君が…?いっつも大事そうに持ってた黒いナイフだよ?」

 

「…いや、知らない。黒い大剣ではあったけど、ナイフは持ったことないよ。」

 

そこで、エイナは何かがおかしいと気づいた。

 

(今日のベル君…なんだか無気力?)

 

いつもは表情がコロコロ変わる彼の顔色は、今は凪いだ水面のように変化が少ない。それに、身長もなんだかいつもより高く感じるし、体格も知っているベルよりも随分とガッシリしている。それに目は片方閉じていて、この間の遠征での怪我かと思ったが、あまりにも自然だ。

 

「…ねぇ、ベル君。その右目はどうしたの?」

 

「ん…こっちは、開くと疲れるんだ。」

 

そう言って数秒開いて見せた翡翠の瞳。エイナのそれよりも鮮やかで、どこか神秘的な光を感じた。産まれ持った祝福(ギフト)であり、何かを証明するような鮮やかさを持っていた。

そこで漸く気づいた。

 

(この子…ベル君じゃない。)

 

ベルであるのに、知っているベルではない。直感的に感じ取ったエイナは、すぐさま現状を理解するために行動に移す。

 

「ごめんなさい。お2人とも、私についてきていただけますか?」

 

どうにも噛み合わない現状を、2人も気にしていたところだ。彼女について行けば、何かわかるかもしれない。

 

了承した2人は、エイナの後を辿った。

 

 

 

「────ここは…?」

 

しばらく歩いた後、ベル達は豪邸の前に立っていた。

 

「ここは、ヘスティア・ファミリアの拠点がある場所です。」

 

「ヘスティア様の…?いや、違うよ。ヘスティア様はもっと西の孤児院に居て…」

 

「直ぐに、わかると思います。」

 

玄関のチャイムを鳴らすと、パタパタと足音を鳴らし、金色の影が顔を出した。

 

「どちら様でしょうか?」

 

「突然すみません。私、クラネル氏のアドバイザーを務めています、エイナ・チュールです。」

 

「貴方がエイナ様ですか、私サンジョウノ・春姫と申します。」

 

「これはご丁寧に…それで、本題なのですが…クラネル氏はご在宅ですか?」

 

「いえ…そろそろ帰ってくると思うのですが…あぁ、ベル様!お客様が来ておりますよ。あっ、リュー様もいらっしゃったのですね。」

 

いたってフレンドリーに、知り合いであるように話しかけてくる狐人の少女。名を春姫というらしいが、ベルにもリューにも覚えはなかった。

 

「……確かに僕はベル・クラネルだ。けど……ごめん、君に見覚えが無いんだ。」

 

「私も…いや、確か…リリルカの戦争遊戯が終わってしばらくした後に…孤児院で何度か見かけたような…」

 

「────」

 

さっきのエイナのように絶句した少女は、うっすらと涙を浮かべながらプルプルと震え出した。まるで小動物のような挙動は、ベルの周囲に存在する誰にも当てはまらず、ベルもその場で困惑し始めた。

 

「ど、どうしようリュー…!ぼ、僕どうすれば…!」

 

「………私が言えたことではありませんが…他人とのコミュニケーションをもう少し、取らせるべきでしょうか。リヴェリア様と叔母様に少し相談しましょう…」

 

「クラネルさん、冷静に分析してないで助けてあげてください。」

 

ベルの周りにいる女子は、殆どが強者と分類される女傑ばかり。戦い続ける(アイズ)恋に狂ってる(ティオネ)全く関心がない(ティオナ)かもう自分に女としての価値は無いとやさぐれている(レフィーヤ)か、鉄の女(リヴェリア)のどれか。強いてあげるならエルフィやアリシア、リーネがまとも部門だが、幹部たちよりも関わりは薄い。逆にこれでまともなコミュニケーションを取れと言うのが無理な相談だ。

 

どこかのピンク髪のアドバイザーは、あれはあれでおかしいから割愛する。

 

「おいおい、なんだ玄関先で!客なら早くあげちまえ⋯あん?」

 

「ヴェルフ!」

 

「おぉ、ベル。帰ってきたか…っと、お前さん達もいたのか。まぁいい、茶でも飲んでけよ。」

 

入れるのは俺じゃねぇけどな、と快活に笑った後、少し固まってからヴェルフが口を開いた。

 

「……お前、ベル…だよな?」

 

「え、うん…そうだよ。」

 

そういったベルを無視するように、ヴェルフはベルの体にぺたぺたと触れてから、確信を持ったように尋ねた。

 

「……いや、違ぇ。お前…誰だ…?」

 

ヴェルフはベルの専属鍛冶師として、防具から武器全ての装備を整備している。そのため、ベルの足の大きさ、身長、肩幅など全ての数値を頭に入れている。

 

しかし、目の前のベルは知っているものよりも目測りでも身長が3センチは高い。それに、筋肉の付き方も大きく違う。しなやかで発展途上の印象だった彼の体は、無駄な筋肉を全て削ぎ落とした完璧な体をしている。

 

まるで、戦う為だけの体だ。

 

ヴェルフの言葉に、エイナはやはりと口を開く。

 

「やっぱり……彼は…別人という事ですか…?」

 

「いや、ベルだ。ベルってことは間違いねぇ。ただ…俺達が知ってるベルじゃねぇ…偽物…にしちゃ、変だ…だからいつまでも泣いてんじゃねぇぞ春姫。」

 

「うぅ…ベル様が…べるさまがぁ…」

 

「全然状況が飲み込めない…」

 

状況が未だに混沌とする中、運命は示し合わせたように邂逅の時をもたらした。

 

「ただいまー!リューさんを連れてきたんだ、お茶を────え?僕が、目の前に…え?」

 

「……どう、言うことですか…これは…!?」

 

目の前にいるベルよりも幾分か未熟な印象を受けるベルは、心底訳が分からないという具合にポカンとしている。それはリューも同様だった。

 

「……うそ、でしょ…僕が…!」

 

「ぼ、ぼぼぼ、僕が!?」

 

「わ、私が……」

 

「もう1人…!?」

 

 

ここに、違う道を進んだ4人が出会う。

 

 

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