疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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アストレアレコードとのクロス書くかぁ…。


第28話:君に会いたい

迸る魔力を纏い、空気を爆発させたベルはネメアに肉薄。それに反応したネメアがその爪をもって拳を受ける。

 

殴り、受けて、躱し、また殴る。

 

超高速の攻防は、フィンの瞳にしか捉えることは出来ず、フィンの処理能力を越えて目眩がするほどの戦いであった。

 

魔法【アルケイデス】を発現してから、恐らく2度目の全身全霊全開の出力。その出力すらもネメアは軽く受け止めて、ベルとの攻防を続ける。

 

(…悲しい…この感覚…アルケイデスの気持ちなのかな…)

 

戦いの中で生じるはずのない悲しみ。それは、この精霊の逸話に関係するものなのだろうか。

 

その感情を振り払い、グッと握った拳をネメアの腹に、瞬時に飛び上がり脳天に鉄槌をたたき落とす。その衝撃は凄まじく、ネメアの首は地面にめり込んでしまう程。

 

しかし、その攻撃すら意に介さない。我武者羅に暴れ抜け出し、危険を感じたベルはその場を飛び退き、火花が迸る拳を二度三度と開いた。

 

「硬いな…埒が明かないか。」

 

ビキッと異音が響けば、硬く白い甲殻がベルの両腕を覆った。その白い甲殻は、ベルの心を表すように真っ白で、透き通るような白だった。

 

「ルノアも言ってた……真っすぐ行って、ぶっ飛ばす!」

 

拳を打ち鳴らしたベルは、更にスピードを一段回引き上げ、ネメアに迫った。

 

そこからは、ベルの独壇場の出来上がり。速度に物を言わせたラッシュは、ベルの残像が空中に残り、着実にネメアに竜の拳を叩き込む。

 

「───ッオオオォォォォォォッッ!!」

 

しかし、ネメアも黙って攻撃を受ける訳では無い。

咆哮と同時に、ネメアの制空権に爪の軌跡が刻まれる。

その軌跡の隙間をベルは飛んで避け、大きく距離をとる。頬に走った紅い線を拭えば、既にそこに傷はなかった。

 

「…ダメ。まだ、母さん程扱えてない…まだ、あれは使えない…」

 

拳だけで互角の戦いをしているベルだが、未だに母メーテリアの雷には遠く及ばない。扱うにしても慣れが必要だ。権能をすべて受けっとたベルは十全にその力を引き出せるはずなのだが、未だ残る不安に一歩を踏み出すことが出来なかった。

 

「まだ、慣れが必要…かな。」

 

そう呟いて、ベルは掌を天に掲げる。

 

「来て────メーテリア。」

 

その掲げられた掌に優しく、苛烈に一条の雷が舞い降りる。

 

母の名を冠したその剣は、優しく道を指し示した。

 

精遺物【霊雷・メーテリア】

母であるメーテリアが、ベルに最後に送ったこの雷は彼女の権能とも言えるその力そのもの。形なき稲妻そのものであり、形を自在に変える。

 

それは正に【枷無き神の力(アルカナム)】と形容しても過言ではない。

 

その剣が帯びる母の温もりもまた、ベルの力となるのだ。

 

母の温もりを背に、ベルは幽谷の獅子に立ち向かう。

 

 

 

 

響く稲妻が、疲労で失神したように寝ていたティオナを叩き起こした。

 

「なっ、なになに!?雷!?」

 

そうして飛び起きれば、状況を思い出す。

 

「精霊…戦わなきゃ────」

 

「待つんだティオナ。」

 

「あっ…フィン!」

 

おはよう。と呑気に手を振るフィンを見て、戦いが終わってしまったのかと思ったティオナだが、全身を叩きつける爆風と、もう聞き慣れた雷が響き現状を理解した。

 

「ベル…?ベルが戦ってるの!?」

 

「あぁ。」

 

フィンの指さす方向に視線を向ければ、ほぼ見えない程の速さで大剣を軽々と振り回し、巨大な獅子と戦うベルがいた。

 

その瞬間、反射の域で武器を掴んだティオナだったが、それをフィンに止められる。

 

「あの中に飛び込めば、足でまといになる。」

 

「でも!」

 

「わかってくれ。あの戦いは、僕らの力を大きく超えている。」

 

その言葉に黙り込む。確かに、あの戦いは高度に過ぎる。技術とか、小細工とか駆け引きなんてなまっちょろいものでは無く、器としての格が違う。

 

フィンや都市最強なんて足元にも及ばないだろうその速さと膂力。オラリオに来てたった2ヶ月の少年とは思えない力。技や駆け引きはフィンに及ばないが、そんな物は関係ないと言わんばかりの速さと力で捩じ伏せる、それがベルの戦い方だった。

 

しかし、今彼の戦い方は変化しつつある。この階層までその駆け引きや技を考えずとも問題はなかったが、この精霊には必要だと考えたのだろう。視線、僅かな筋肉の動き、殺気やフェイント、そして攻防の駆け引き。全てが発展途上であった物が、今この瞬間も上達している。

 

ベルのそれは、最早進歩や成長という言葉では表せない。しかし、進化というのも違う。ぎこちなかったものが、ズレを修正されている。まるで思い出すように(・・・・・・・)、彼は動いていた。

 

「凄い…」

 

自然と口に出たそれは、偽らざる本心だ。ここまでベルが強くなっていくのが、どうにも嬉しい。胸が熱く、体が闘争を求め疼く。けれどそれと同時に、 この現状に悔しさを覚えるのも必定だった。

 

「……悔しいね…こうも差をまざまざと見せ付けるれるのは。」

 

「…っ…うん。」

 

ティオナとて、ベルよりも遥かに長い時間を戦いに投じてきた。ベルのように明確な目的があった訳じゃないが、生きるためには必要だった術だった。

 

けれど、時間や経験だけでは説明できない、自身を凌駕する才能を持った者が、全てを懸けて手に入れた力とでは、決定的な差があった。

 

けれど、ティオナが悔しいのはそんなことでは無い。そんなことはどうでもいいのだ。

 

今、彼の隣に立っていない自分に腹が立つ。

 

「気持ちは痛いほどわかる…悔しい、本当に。彼に任せるしかない自分に落胆している。」

 

しかし、フィンは折れなかった。あの頂きが見えたのだから、目標が定まっただけだ。

 

「でも、必ず追い付こう。彼が孤独の英雄と呼ばれてはいけない。彼と共に、道化の英雄達と呼ばれなければならない。」

 

「────うん…私、もっともっと強くなる。」

 

ぐっと拳を握ったティオナを見て、フィンはただ柔らかく微笑んだ。

 

今は、この戦いを見守るしかない。

 

そうしていると、不意にティオナが呟いた。感慨深そうに、過去を思い出すように。

 

「なんだか、アルケイデスの英雄譚に、こんなシーンがあったなぁ…」

 

「────ふふっ、そうだね。」

 

英雄神話【アルケイデス】に綴られている物語。その中にある【12の章】には、彼が成し遂げた12の偉業が物語として描かれていた。

 

その中の第1の偉業である精霊ネメアとの戦い。土地を荒らした賊に怒り狂って天変地異を起こしていたネメアを鎮めるため、英雄アルケイデスは真っ向からネメアに勝負を挑んだ。

 

正に今、その直系の子孫が目の前で神話の戦いを繰り広げているのだが。

 

勘が鋭いんだか、鈍いんだかわからないティオナに、こういうところも皆から好感を持たれる所以なのだろうと、フィンは苦笑し戦いの行方を見守る事にした。

 

 

 

「ガアァァァァァ────ッ!!!」

 

1歩、ただ1歩地を踏み抜けば、重力に逆らうように大岩が宙に浮き上がる。ネメアはそれを鷲掴み、砲弾代わりにベルに投げつける。その速度は本物の大砲が裸足で逃げ出す程に速く、鋭く迫った。

 

「────シャァッ!!」

 

この短い距離で断熱圧縮を起こし発火する。その砲撃を前に、ただベルは一刀、続く砲弾を稲妻で砕き、ボールのように蹴り飛ばす。

 

最後、一際大きな岩山をグッとかがみ込んでから大剣を振り上げれば、賽の目状に粉々に砕け落ちる。それを影に迫っていたネメアは、崩れ落ちる瓦礫を切り裂き、鋭い爪を叩き込む。

 

その爪に霊剣を滑らせて攻撃を横に逸らすが、その斬撃の威力は衝撃波となって、ベルの背後にいたティオナ達に迫る。

 

「ヤバっ!?」

 

咄嗟に剣を構えたティオナだったが、それは杞憂に終わる。

 

目の前に舞い降りたベルが大剣を横に薙ぐ。それだけで衝撃波は消え失せ、静寂をもたらした。

 

「ベル!」

 

その嬉しそうな声に、笑顔で振り返る。そうして何も言わず、獅子に目を向けた。

 

「場所を変えよう。」

 

そう言ったベルはその場から一気に肉薄。獅子を押し、階層を砕いてその場を離れる。

 

「ベル!」

 

この戦いを見届けたい。心の底からそう思った。その時、目の前にワイバーンが降り立つ。

 

「───この戦いを見届けたいやつは、乗れ!」

 

「ティオナさん!団長!」

 

「【赤匠】にレフィーヤ!?」

 

ニッと快活に笑うヴェルフと、笑顔で手招きをするレフィーヤに、フィンは苦笑しながら立ち上がった。

 

「全く…行くに決まってるじゃないか!」

 

「行くよ!もちろん!」

 

そうしてワイバーンに飛び乗った事を見届けたヴェルフは、ワイバーンを一気に加速させる。片方の手に握りしめた直剣を見つめて、ベルと精霊が消えた51階層の入り口に飛び込む。

 

「これは…お前に、今のお前に渡さなきゃなんねぇ…!待ってろ、ベル!!」

 

 

 

 

 

激しい地鳴りを起こしながら、52階層にネメアを叩き付けてその場から飛び退いてメーテリアを構え直す。そうすれば、土煙を切り裂きネメアがユラリと現れる。

 

現状、優勢は変わらずベルが握っている。しかし、変転をしてからというもの、ネメアに手傷らしいものを与えられていないことも事実。この拮抗状態がいつまで続くのか、それを考えたがすぐさま目の前のことだけに集中する。ロキ・ファミリアが命がけで討伐した精霊の幼体。あの程度(・・・・)ならば、手を抜いたって問題はなかった。しかし、このネメア相手にそれは悪手にすぎる。しかし、全力の一撃だとしても今のままでは届かない。だから、全力で叩き続けるだけだ。

 

数秒の沈黙。互いが睨み合い相手の出方を伺いながら、一挙手一投足にまで神経を研ぎ澄ませる。

 

動いたのは、ネメアだった。

 

「───なッ!?」

 

ベルに手を翳せば、ベルは強大な引力に引き寄せられ、爪撃を叩き付けられる。なんとか防ぐベルだが、その直後にまた体が引き寄せられる。

 

(抜け出せない…!この引力っ…権能!)

 

神から精霊に授けられる、仮の権能。しかしてそれは戦況を一気に傾けるだけの力を持つ。月の力を持つネメアの権能。この星の海の満ち引き、重力に関わるまで月の最も重要である引力。その権能の力は、ベルの膂力を持ってしても逆らえぬ程のもの。

 

それは、星に直接引っ張られるイメージを強制的に引き出させた。

 

「クッ…!───ハアァァァァァッッッ!!!」

 

英雄譚でアルケイデスが苦しめられたネメアが持つ複数の権能。それを間近で見れた嬉しさと、アルケイデスが如何にこの戦いに苦労したのかを理解した。

 

魔力を迸らせ、ダメージをそのまま叩き返したことで攻撃を相殺。なんとか引力から抜け出し、間髪入れずにネメアに攻撃を叩き込む。その後急上昇、天の一撃を叩き込む。

 

「【雷霆(ケラウノス)】!!」

 

その一撃は階層を容易く破壊し、59階層までの竜の滝壺を再現した。大穴に落とされたネメアは、瓦礫降る空中でも、その轍を見逃さなかった。

 

「ハアァァッッ!!」

 

「ガルアァァァッッッ!!」

 

獅子の爪と、天の剣が激突。しかし、空を飛ぶことができるベルがこの状況では有利。そのまま速度を上げ、瓦礫の上を滑るように鍔迫り合い、斬り結ぶ。

 

瓦礫を都度移動しながら続く戦闘。ケラウノスを連射するが、空中の瓦礫を移動することで回避され、時折ネメアの引力で操作された礫を砕き、また切り結ぶ。基本的なヒットアンドアウェイを取るベルに苛ついたのか、ネメアは一気にベルに接近。

 

無数に繰り出される攻撃を、すべて剣で受け隙きを見つけ真上に飛び、大きく振りかぶって下に見えていた59階層に叩きつけるように振り抜いた。

 

そして、叩き付けた勢いのまま、今までのダメージをすべてチャージ。辺りには鐘の音が響く。この音は、レフィーヤもヴェルフもティオナも聞いたことがあるだろう。

 

「こいつは…!」

 

「これって…!」

 

「ベルの【英雄よ人であれ(アルケイデス)】!!」

 

ベルが勝負を決めに行っている事を予感した三人は、歓喜に盛り上がる。しかし、ただ一人フィンだけは過去の記憶を強制的に引っ張り出された。

 

「…まさか…この鐘の音は…!」

 

そして、その思考すらも真っ白にする程の閃光が迸り、収束する魔力が臨界を越え、一気に解放される。

 

「【英雄よ人であれ(アルケイデス)】ッッッ!!!!」

 

真上から突撃したベルの一振は、確実にネメアを捉えた。

 

閃光が駆け抜けた階層は、ベルの一撃を爆心地として広大な面積の半分程を瓦礫の山へと変えていた。爆心地は爆煙が立ち込め、そのすぐ側で剣に寄り掛かるように、肩で息をするベルがいた。

 

誰が見ても、ベルの勝利が決まった瞬間。そう思ったであろう。

 

しかし、玉のような汗を流すベルだけは、苦い顔をしていた。

 

 

「────相変わらず、君は硬いね…」

 

 

その呟きだけが、傍観者たちの耳にやけに響いた。

 

その瞬間、爆煙から血塗れの獅子がベルに爪を振り下ろす。

 

ベルの左肩から腰辺りまでを大きく斬り裂いた勢いのまま、固く握った拳をベルに見舞った。

 

弾丸の様に後方に吹き飛び、数百メートルはあろうかという距離を吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ瓦礫に埋もれる。

 

そこから数秒もせずに瓦礫の山から飛び出し、逆流してきた血をベッと吐き出す。

 

ネメアも似たように血を吐き出し、爆煙に隠れていたその全貌を見せた。

血塗れた左半身はほとんど機能を残さずに、吹き飛んでいた。しかし、アレだけの威力の攻撃をまともに喰らって、この程度で済んでいる。それはひとえに彼のもうひとつの権能である、【打撃、斬撃を無効化する】と言う巫山戯た反則レベルの権能のせいでもあった。

 

さて、次はどうするかと考えながら、やる事は決まっていた。

 

「体が……いや…心が(・・)もつかな。」

 

本来精霊を由来とする魔法は、人の身で扱えるものでは無い。逆に、人が扱う魔法を精霊は使うことが出来ない。それは、性質によっているために過ぎないが、この法則は絶対の物だ。

 

ベルのこの魔法は、出力をあげていくにつれて人の身でありながら精霊の性質に無理やり近づけているのだ。精霊に近づくという事は、人から離れる事でもあり、精霊としての性質も強くなる。力を得る代わりに、今ある人として大切な物を失う(・・・・・・・・・・・)かもしれない。

 

そんな疑問を零したが、ベルは躊躇なく魔法の引鉄に手をかけた。

 

 

その寸前

 

 

「ベルッ!!受け取れぇぇぇッ!!!」

 

「────ヴェルフ!?」

 

空から降り注ぐ兄御の声に顔を上げれば、白い光がベルの手に吸い込まれるように投げられた。

 

「…これは…!」

 

それは、純白の直剣。簡素な作りでありながら、凝った意匠が彫り込まれてもいる。

 

この剣は、ヴェルフが遠征前に請け負った特級の魔剣。鍛冶師人生の中で最も力を注ぎ、最も出来のいい剣。しかし、ただヴェルフが打った魔剣では無い。

 

『彼に…残せる物を残したい。私ではもう、彼に残せる物は、これくらいしかありませんから。』

 

不器用で真面目で、潔癖で曲がった事が嫌いで。ベルを心から想っている女が、彼に最後に(・・・)残せる物だった。

 

「わかるはずだっ…!お前なら、お前だからッ!」

 

清々しい程に笑顔で、綺麗に笑って頭を下げた。

 

そんな女の願いと、このまま変わらぬ未来を願ったヴェルフは、ただ打ち込んだ。その想いと共に、鉄を打ち、鍛え、鍛え、ひたすらに鍛えた。

 

「────やっちまえ、ベル!今が!今こそが!ここぞって時だっ!」

 

それは、男同士の約束。この遠征、ここぞと言う時に渡すと約束した、ベル専用の特殊武装(スペリオルズ)

 

その言葉を思い出し、ベルは苦笑する。嗚呼、彼らしいと。

 

そうして、剣を抜けば彼の言わんとしていることがハッキリとわかった。

 

「────本当に…君は、僕を1人にしないんだね…」

 

この魔剣が放つ魔力が、いったい誰の物なのか。誰が、どんな願いでこの剣の製作を申し出たのか、ハッキリと理解出来た。

 

刀身に額を当てて、よりハッキリと感じる、彼女の気配。

 

剣から溢れ出る風の魔力は、どこまでも清廉で潔癖。そして、どこまでも愛に満ちていた。

 

「あぁ……君に、会いたい。」

 

そうしてベルは、二刀を握り前を見据えた。

 

「君のお陰で、僕は、僕でいれる。」

 

体を巡る魔力を加速。魔法の枷を完全に外しチャージ無しで先の必殺を超える魔力量を溢れさせた。

 

 

 

 

「…僕は………人だ。」

 

 

 

 

 




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