疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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独自解釈、設定があるので注意。


第30話:休息

精霊ネメアとの決着後、ロキ・ファミリアは18階層にてとどまらざるを得ない状況に置かれていた。

 

「…ポイズンウェルミスの大量発生。全く、下じゃモンスターなんて出ない時間の方が多かったのに…その反動かな?」

 

「ご、ごめん。」

 

「あぁ、いや。ベルのせいじゃないさ。というか、なんの問題もないのかい?」

 

「んー…たまに咳が出るくらい?」

 

まさかのイレギュラー、そして先頭を行っていたベルが団員を庇って大量の毒液をもろに浴びてしまったこと。

 

正直、あの量は致死量を超えていたが、流石というべきなのか、ベルはケロッとした顔で体のベトベトを払っていた。現在ベートが地上に特効薬を取りに行っているのだが、ベルに関しては杞憂に終わりそうだ。

 

「うぅ…まだ臭いが……」

 

「んー、そんな感じなら平気ってことかなぁ…」

 

「それなら、男衆から先に水浴びでもして来てくれ。幸い私たちは被害にあったものが少なかったからな。」

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらうよ。行こうかベル。」

 

「うん…けほっ…」

 

「ベル…本当に大丈夫かい?」

 

「…なんだろう、急に…帰ったらアミッドに見てもらおうかな…」

 

「特効薬を飲んでも続くようなら、そうした方がいい。費用はこっちで持つから。」

 

「ありがとう。」

 

「なんてことはないさ。さぁ、皆王女様たちを待たせては事だ。早く済ませよう。」

 

そんな言葉を交わして、男衆は湖に向かった。

 

 

 

「ぬぁ〜…つかれたぁ…」

 

「しっかし、ベルもいい体になったっすねぇ…俺より全然じゃないっすか」

 

「これも精霊の力…常に全盛を維持するってやつ。」

 

「ズルくないっすか?」

 

数日前まで深層をさまよっていたとは思えない程に気が抜けた声と共に、ベルは水面にプカプカ浮かびながら、疲れを癒していた。

 

「………」

 

「ん、なんすか?ベル。」

 

「…ふっ、勝った…」

 

「え?なんの────って!こっちでも俺負けてるんすか!?14すよね!?」

 

「僕は、夜も、大英雄…」

 

「だっはっはっ!!いいぞベル言ってやれ!」

 

「ヴェルフも女神様をひーひーいわせてるって聞いた。」

 

「おまっ、誰に聞いたんだ!?」

 

「椿。割とみんなに言いふらしてた。」

 

「あんの女ァァァ!!!!」

 

「ベル下ネタとか言うんだな。」

 

「まぁ、男の子っすからねぇ。女性陣の前で絶対に辞めるべきっすけど。」

 

「クルスと僕はロングソード。ラウルはショートソード。」

 

「ラウルは引っ込み思案だからなぁ、ここにも影響でてんだよ!」

 

「クッソ、言い返せないくらい差があるっす…」

 

「コラコラ、ベル。身体的特徴で人を弄ってはダメだよ?」

 

「ガッハッハッ!男なんぞ、いくつになっても話す事は変わらんなぁ!」

 

『──────ク、クレイモア……』

 

なんて、男ならではの会話もしつつ、下で起きた事の整理も進めた。

 

「成程、50階層の入口まで地面が裂けたから何かと思ったら、ベルの攻撃だったんすね。納得っす。クルス滅茶苦茶ビビってたっすよね。」

 

「もう俺は、驚くのも疲れた。」

 

「しかし…まさか、彼の大英雄直系の血筋がこんな近くにいるとはね。」

 

「僕も知らなかったし。と言うか、予想もしてなかった。」

 

「まぁ、予想はできんじゃろ。」

 

全員ではないが、ベルの血筋やネメアとの関係は1部の団員に共有された。そしてその事実を裏づけるベルのスキルやデタラメな力で、信憑性は確実なモノとなった。というか、誰一人その言葉を疑うことがなかった。

 

そして、ベルの右眼についても確認が必要であったフィンは、意を決した。

 

「…ベル、ここに来るまでほぼ片目で移動していたわけだけど、そっちの目は見えないのかい?」

 

「見えるよ。すごくよく見えるようになった…けど、お母さんと同じ色になってから、疲れるって言うか…けほっ…もしかしたら、なにか変化があるのかも。」

 

「…見せてもらっても?」

 

「いいよ。」

 

そう言って開けられたベルベットの瞳だった右眼は、やはりエメラルドに変わっている。母の面影であると本人は喜んでいるからいいのだろうか。

 

「…君の両親の名前を聞いてもいいかな?」

 

「お母さんは、メーテリア・アルクメネ。僕と同じ白い髪で、オッドアイだけど左目は灰色。お父さんは…ごめん、お母さんもあの人の事は残念過ぎて知らない方がいい事が多すぎて言えないって言われて…でも、この赤い眼はお父さんと同じなんだって。」

 

「ふむ、そうか……ありがとう。」

 

そうして考え込んで、やはりそうかと1人納得した。この中で彼女を知るのは恐らくガレスだけ。オラリオ単位で言えばリヴェリアとロキ、あとはフレイヤとオッタルだけだろう。

 

大鐘楼の音色に、エメラルドとグレーのオッドアイに戦闘の才能。

 

そして、この瞳の色も彼女たちとの血縁を確信させるものであった。

 

「おい、フィン…」

 

「…やめておこう。彼には関係ないし、知らなくていい…だが、彼女の才能も、病も…そういうことだったか…」

 

「ああ…じゃが、ベルは発症しとらんのう。」

 

「病ではなく、呪い…それを克服できたのがベルだった…最後のネメアの言葉からして、ベルとアルケイデスは瓜二つだったのかもね。それが原因だったり?」

 

「…お主らしくないことを言うな。勘か?」

 

「勘だ。この話はもういい。もう、終わったことだ。」

 

おそらく、この話はもう二度としないだろうと、会話を切って男衆の会話にまた混ざる。聞くにも明かすにも、今ではない。今彼に告げる必要など、どこにもないのだ。

 

それから、数分。

 

「僕達は出るけど、ベルはまだ入ってるかい?」

 

「はいってる〜…まだヌメヌメの感触もあるし、服も乾いてないし〜…」

 

「まぁそうだね。でも少ししたら別の場所に移動するといい。女性陣が耐えかねて入ってくるよ?」

 

「僕いるからそれはないと思うけど〜」

 

「君だから別に見られて構わない人達はいるんだけどね?」

 

「んー、そんな人いなくない?」

 

こいつ、ファミリアでの立ち位置を未だに理解してやがらねぇのか。と男性陣は呆れ顔を見せたが、ベルはそんな事は気にしないとばかりに、竜の尻尾を出して泳ぎ始めた。

 

そんなベルに仕方ないと笑ったフィン達は、あと少ししたら上がるように言って、その場を去った。

 

そうして、足音が無くなったのを確認した。

 

「……みんな、行ったかな────けホッ、ごホッ……」

 

水に浮かび、手を天井に翳す。その手には、赤黒い血がこびりついていた。

 

この吐血は、毒なんかじゃない。メーテリアの言っていた症状によく似ている。

 

乾いた咳、赤黒い吐血。母が命を落とした原因である病。血がこびりついた手を洗い流して、ベルはまた水面を覗き込んだ。

 

(僕だからこれ程に弱く発症している…?お母さんは、もっと苦しかったのかな…)

 

だが、原因はハッキリとしている。この眼の変化。この眼、仮に精霊の瞳と呼ぶが、電気の流れを見る事が出来る。生物は、脳からの電気信号で動いているため、それを見ることが出来るのは、とてつもないアドバンテージとなる。しかし、この能力は酷く疲労が溜まる。常に目を開けていると目眩がして、立って居られなくなるほどだ。

 

この眼が、ベルを人の道から大きく外れさせている。今、ベルの属性は人から精霊に大きく傾いている。もし、次本気で魔法を行使すれば、人に戻れるかは分からない。

 

「……お母さん…」

 

水面に映るエメラルドの瞳は、母を思い出させるには十分で、この瞳の変化が嫌だなんてことはなかった。だから、その事に嫌悪も何も無い。

 

「…上がろう。」

 

ヒタヒタと滴る水を、雷で一気に蒸発させ、ヴェルフに借りた着流しを纏い、懐に隠し持っていた肉果実に齧り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

「────ってわけで、精霊について少し教えて欲しいの。」

 

「…まぁ、気になるよね、そりゃ…」

 

立て続けに精霊との戦闘を経験し、様々な情報が飛び込んできたティオナやティオネ、アリシアなどあの場にいた者は色々と気になることも多いだろう。

 

アリアに、アルケイデス。精霊の口から出た名は、どちらも伝説の登場人物。その真偽については気になるところなのだろう。

 

「それで、何が聞きたいの?」

 

「…アリアについて。」

 

「それなら、ティオナだって知ってると思うよ。ダンジョンオラトリアに登場する、風の大精霊。英雄アルバートに最後まで寄り添った精霊。」

 

「聞き方を変えるわ。ベルから見て、アイズはどう見える?」

 

「……」

 

その言葉に、ベルは数秒黙りこくって、虚空に手を翳す。そうすれば、雷の短刀が弾ける音と共にベルの手に握られていた。

 

「それは…」

 

「これは、精霊の権能と呼ばれるもので、名のある精霊が行使する自然属性的な力…精遺物とか、呼び方は色々。例えば、ネメアなら【月】の権能…重力とか、必中の弓をも行使できるって認識でいい。」

 

「アタシは見てないけど…アリシアとアキは見たんでしょ?」

 

「…一応、ね……」

 

「えぇ…アレは、たったの1射にリヴェリア様の魔法一撃分程の魔力が込められていました…アレが本当に月精霊ネメアなら…納得ではありますが。」

 

自身を抱くように、あの光景を思い出したアリシアとアキはすっかりと萎縮してしまっていたが、それ程まで心の傷は無さそうだ。それも、ネメアがベル以外に本気ではなかったからなのだろう。

 

もし、彼が最初から本気であったなら。考えたくもない想像を振り払って、ベルは続けた。

 

「この権能は…精霊1人に対して1つの権能が決められる。決して同じ権能を持った精霊が生まれることは無い。力の弱い精霊の【魔法】は別としてね。」

 

「へぇ…どうしてそれを知ることが出来たの?」

 

「お母さんが教えてくれた。」

 

「お母さんは?」

 

「もう居ない。」

 

「そう…悪かったわ。」

 

「いいよアキ、気にしないで。最後は、安らかだったから。」

 

そうして、微笑むベルにアキは撫でりとベルの真っ白な頭を撫でた。やはり、なんだか弟やなんかと思われていることに少し不服顔をしたベルだが、その顔が余計にアキの庇護欲を刺激したらしく、撫でる力は強くなるだけだった。

 

諦めたように、ベルは大人しく撫でられながら続けた。

 

「けホッ…それで、僕は知ってる様にアルクメネの権能を受け継いだ。なんだと思う?」

 

「え?雷じゃないの〜?バリバリ〜ってやつ!」

 

「そう。僕の権能は雷、正確には【天】らしい。」

 

「【天】…ですか?」

 

「うん、天。アルカナムに最も近い精霊の権能なんだって。」

 

「ん〜…滅茶苦茶凄いってこと?」

 

「うん、その認識でいいよ。」

 

ティオナはふわっと理解したようだが、アリシアやアキ、ナルヴィやティオネはその力の恐ろしさをティオナよりも理解したらしい。

 

「…で、これがアイズの話とどう関係あるのよ?」

 

「天、それは空が起こす現象全てを言う。雷に雨、嵐…そして────風も。」

 

全員の思考が固まり、先のベルの言葉が反芻された。

 

 

同じ権能を持つ精霊は存在しない。

 

 

「風っていうのは、全ての大元。つまりは…天は風であり、風は天である。その中で、天の権能を持つ僕がいる。けど、彼女は風の魔法を使う…アレは使いこなせていないのか使えないのかはわからないけど、権能に近い物だよ。」

 

「待って…じゃあ、アリアって…」

 

「あぁ、本来存在しないはずなんだ。」

 

「じゃあ、アルバートの英雄譚は…創作物って事?」

 

「それは、違う。彼はアルケイデスの末裔だ。彼がいた痕跡も存在するから、間違いない。」

 

「え!?そんな話聞いたことないんだけど!?」

 

「え?…あーごめん、勘違いかなーって……」

 

白々し過ぎる嘘。全員が彼の嘘のつけなさに微笑んだ。

 

しかし、ベルの衝撃発言。誰もが読んだことがあるであろう英雄譚の、知られざる真実。そしてまさかの血縁がここにいた。

 

ティオナはその発言から思い当たる節があった。

 

「確かに……アルバートが成した偉業とか、行動って少しアルケイデスに似てるかも…?ベルの本って原典だったのかな?」

 

「その本は今は?」

 

「もう燃えたと思う。僕が住んでた村はもう無いし。」

 

「そう……」

 

「ていうか!ベルの御先祖ってアルバートもそうだったの!?」

 

「…わかんない。正直それが本当かも分からないし…」

 

「そっか〜…」

 

うーむと考え込んだティオナを無視して各々が考察を重ねる。ベルの知識に間違いはほぼ無いとみて、アリアが本来は存在しない精霊であると仮定した場合。アイズとは、どんな存在なのか。

 

「…アルバートの子孫とか、アリアが血を分け与えた存在とか、知ってる?」

 

「アリアが血を分け与えたって話は聞かなかったけど、アルバートには子供がいたって聞いてる。その子供も、最後の戦いで行方不明…」

 

「…結局、ベルでもわかんないのね。」

 

「うん、精霊の血が流れてるってことくらいならわかるけど…血の気配が弱すぎて分からないんだ。」

 

またうーむと皆が悩む。その中で、ベルだけが気がついた事。アイズの姓についても言及すべきかと考えたが、根拠も薄く、英雄の名をつけるのは割と験担ぎ的な意味合いもあるために、言葉を避けた。

 

(それに…もし彼女が本当にアルバートの子孫だとして…それを彼女たちに語っていないとしたら、余計な情報を与えてアイズの望まない方向に話が進むかもしれない。それだけは、やめておこう。)

 

ヒントは与えた。もうこれ以上は、自分が語ることではないと判断したベルは、口を噤んだ。

 

「じゃあ、僕ヴェルフの所にいるから。何かあったら呼んで。じゃ、おやすみ。」

 

乾いた咳をひとつして、テントを出る。天井の水晶を眺めて大きく欠伸をひとつ。

 

「────ベル。」

 

「…リヴェリア。」

 

初めの方からテントの外に待機していたリヴェリアは、呆れ顔を見せていた。

 

「全く、冒険者の好奇心には困った物だな。」

 

「世界を見たくて地位を捨てたリヴェリアが言う?」

 

「ははは、それもそうか…それと────ありがとう、ベル。」

 

「……」

 

「お前は気がついているんだろう?アイズのためにその口を噤んだ。」

 

「…別に、僕は彼女と血が繋がってたら、今よりも構ってきそうで困るから言わなかっただけ。それ以外に理由はないよ。お姉ちゃんの言うことを聞きなさいとか言ってきそう。」

 

「ふふっ、それくらい許してやってくれ。」

 

「…少し位なら、許してあげなくもないかな。」

 

さて、と話を切ったベルの頭をリヴェリアは優しく撫でた。

 

「ありがとう、それだけだ。おやすみ、ベル。」

 

「…おやすみ、リヴェリア。」

 

「ああそれと、人肌が恋しくなったら私のテントに来るといい。抱き枕にして添い寝してやろう。」

 

「…………やめとく、アリシアたちに袋叩きにされそう。」

 

そうか、といつもよりも悪戯っぽく笑ったリヴェリアに、ベルは呆れながらヴェルフがイビキをかくテントにのそのそ入っていった。




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