久方振りにダンジョンに潜るリュー。しかし、その力に衰えは無くせいぜいが魔法を使えなくなった程度だ。
「ここまで潜るのは、久方振りですが問題ありませんね。」
「そりゃこの辺で問題あったらそれこそイレギュラーでしょう。」
リリルカとリューはコンビでグングン下に降りていく。その速度は流石と言うべきか、未だにリリルカのレベルを聞かされていないリューとしては、リリルカの実力は自身と同じか、ステイタスによっては上だと考えている。
「ゴライアスもベルが行きがけに蹴り一発で殺したそうですし、楽に行けそうですね。」
「……一撃ですか。やはり、彼は強過ぎる。」
「まぁ、私じゃ無理ですからねぇ…」
「Lv4に出来る芸当では無い事だけは確かです。」
「彼の強さは、天性のものでしょう。努力や経験もあるでしょうけど、それだけじゃ説明がつきませんしね。」
ベルの強さに対する考察を口にしながら、雑談をまじえる。
「そういえば、聞きました?オラリオの外、セオロの森付近で雷が地を割いたって話。」
「あぁ、買い物途中で噂程度ですが…」
なんでもセオロの森を超えた先、アルル山脈付近。オラリオから数百キロ離れた場所で、突如稲妻が地を切り裂くように飛び出たと言う。地域住民によると、下を覗けば遥か下まで続いていたらしく、現地調査に乗り出したギルドの見解では、砲竜の変異種、または強化種が放った攻撃だろう。と言う結論が出た。
しかし、2人の見解は全く違う。
『絶対ベルです』
2人の意見が一致する。
「…そもそも、モンスターが自発的にダンジョンを破壊するなんて聞いたことありません。」
「えぇ、それに…ベルならやりかねないと考えられてしまう所も…あれです。」
「ベルって本気で戦ったらどれくらいなんですかね…?」
「ぼんやりとしか覚えてませんが、以前フレイヤ・ファミリアに襲われたときに、女神の戦車とガリバー兄弟を1人で半殺しにしていました。ほぼ無傷だったはずなのでLv7は硬いでしょう。」
「どこかの英雄の末裔とか言われれば納得できるんですけどねぇ〜。」
「純粋な前衛職に、一声でリヴェリア様の魔法に匹敵する稲妻…過去にLv7の才禍の怪物と呼ばれる人物と戦いましたが…感覚ですが彼女よりも上手でしょう。」
「あ、それって【静寂】のアルフィアですか?アストレア・ファミリア全員で倒したって言う。」
「小細工を弄し、彼女の弱点をつき、運が味方をしなければ…勝てなかった。正直なんで勝てたのか未だに…」
「どんな人だったんです?」
「美しい白に近い銀髪、翡翠と灰のオッドアイ。魔法を打ち消し、広範囲まで押し潰す魔法を超短文詠唱で放っていました。」
「はえ〜…なんか、ベルみたいですね。髪色も似てますし。」
「………言われてみれば…顔も似てる気が…」
「……やめましょう、薮蛇です。」
「…そ、そうですね。彼女に関しては、倒さなければならなかった。」
昔話を混じえる、2人は気がつけば17階層に到達。思ったよりも順調だったこの旅も、もう終わりだ。
「そろそろ稼いでこなきゃなーとは思ってるんですけどね。」
「ならば、下のパントリーで大暴れするといいでしょう。貴方の魔法を使えば一網打尽にできます。」
「あー…ベルに会えたら、私は1人でそっちに行きます。」
「分かりました。」
そうして、17階層を通り過ぎた時。背後から轟音が響いた。
「…え、ゴライアス?」
「そんな…まだインターバルまで時間は十分にあるはずです!」
壁を突き破るように出現したゴライアスをのんきに眺めていると、不意にリリルカが考え込んだ。
「ゴライアスっていくらですかね?」
「普通一人で倒すものではないので、なんとも言えませんが…一千万と言ったところでしょう。」
「よし、狩ります。で、ベルに持ってかせます。」
「…強かですね。あなたは。」
「やってけませんからね、このくらいがめつくして漸くもとが取れるってもんです。」
そう言って、襲いかかるゴライアスの豪腕を弾き返す。何度も見たことがあるリューとしては、このスキルはやはり反則だと思う。
【
ベルのスキルと同じ名を冠するこのスキルは、ともすればベルの物よりも使い勝手はいい。
「ハッハー!いいざまですねぇ!そのままミンチにしてやります!」
戦闘時、リリルカはとにかく口が悪い。普段の反動なのか何なのか、冒険者に対するそれと同じような感じもある。きっと、溜まりに溜まった鬱憤をここで吐き出しているのだろう。
「馬鹿ですねぇほんと!何度攻撃したって───同じなんですよッ!」
豪腕を弾かれたゴライアスは、仰け反り大きな隙を見せた。リリルカはそのまま飛び上がり、黒い直剣でその豪腕を切り飛ばす。
ベルのものと違い、チャージの効果は無いが、攻撃を制限なくそのまま返すことができる彼女のこのスキルは、ちょっとムキになったベルの攻撃すら弾く。
ベルに「これじゃ決着つかない」と言わせたのは、世界広しと言えどリリルカただ一人だろう。
リリのスキルには更に効果があるため、使い勝手で言えばリリルカに軍配が上がるのだ。
「さっさと終わらせましょう。」
もはや、リリルカの独壇場。そのままリリルカは必殺の一撃を叩き込まんと目の前に手を翳した。
テントにてぼーっとしていたベルをフィンが引っ張り出し、現在は本営の中で寛いでいた。
「ふあ~…んん…」
「まだ眠いのかい?」
「眠いかな…話があるなら、なるべく早くお願い。」
やれやれと首を振って、フィン、リヴェリア、ガレスは仕方ないと切り出した。
「まず、ベル。君の咳は毒によるものじゃない。わかっているだろうが、血筋のものだ。」
その言葉に、あちゃーと言わんばかりに頭を掻いて、居心地悪そうに呟いた。
「…フィンたちには、ばれたか…」
「他にもアキは薄々気づいているぞ。」
「儂らは他の要因で気がついたがな。」
「他の要因?」
「僕ら古株…ほかのファミリアを含めて、その症状に思い当たる節がある。」
「お母さんを…知ってるってこと…?」
「正確に知ってる訳では無いが、彼女の症状を治そうと、主神は躍起になっていたらしい。」
「そう、そのため情報はこちらまで共有されていたのさ。」
「…そう、なんだ…」
彼女メーテリアの主神は躍起になっていた。その情報も共有されていて、もちろん緩和法も隠すこと無く公開していた。どんな奴に恩を作ろうとも、彼女を救いたかったと言う意思が、最強の女神からは伝わった。
「大聖樹の枝を煎じた聖水は、その症状を僅かだが緩和させることが出来たそうだ。これが特効薬だった。」
「大聖樹の枝……リューの木刀?」
「あぁ…そういえば、あの同胞は幾らか枝を保有していたはず…今はわからんが、交渉してみよう。神ガネーシャのところにも幾つかあったはずだが…」
「上に帰ってからは、この枝集めに精を出さなきゃならない。ブラックマーケットや現地に行っての調達…違法・合法に関わらず、扱っている所は数多く存在する。そこから、押収や報酬として受け取るなど、流通しているものから、聖樹の里を巡りあらゆる手段で回収する。」
「………え?」
これからの方針を淡々と話すフィンは、どこか当たり前のことのように言っているが、そんなことは無い。
「ま、待って!そんな迷惑…!」
「今更だ馬鹿者。お前にかけられる迷惑なんぞ、アイズに比べたらなんてことは無い。」
「儂も構うものか。カジノにも裏の景品として出しとる噂じゃ。ロキにでも聞いておいてやるわい。」
「と、言うわけで…僕達は君を見捨てる選択肢もないし、君一人だけに押し付けることもない。勿論、君にも動いてもらう。君の速度でリヴェリアを運べば一日で数個の聖樹の村を巡れるだろう。」
「…う、うん…わかった…」
3人のなんとも言えない圧に気圧されたと言うか、自分よりもよっぽど自分のことを考えていたことに情けなさと言うか。そういうものをひしひしと感じる事になった。
「ひぃん……」
「…どうした、その情けない声は。」
「…本当に、僕情けなく感じて…」
「まぁ仕方が無いさ。これは知識の差、君も知っていたらこの考えに至るさ。」
「う、うーん…?そう、かな?」
「まぁ、それよりも…これから君はどうするつもりだい?さしあたって…君の大きな目的も解決の兆しを見せている。君の目的は復讐だった。それがなくなろうとしている今…君は、未来に何を見る?」
「…未来…に?」
「簡単にでいい 。この先君は、何がしたい?僕達に英雄とは何たるかを見せた君にこそ、未来を見てほしい。君は上に帰って何がしたい?思ったことでいい、僕らに教えて欲しい。」
考えたこともなかった、目的を果たした後の未来。復讐しかなかったベルにとって、目的の達成は死であったから。けれど、何がしたいか、という明確な目的はない。
けれど、たった一つ交わした約束が頭を掠めた。
「…彼女と…話をしたい。僕の気持ちも、彼女の気持ちも…僕達が辿ってきた今までの悲しみも…吐き出して、支えて、抱き締めたい。」
ただ、彼女の気持ちを知りたかった。彼女の苦しみを知りたかった。シルがいつか言った、相手の事情や悲しみを知る事。それが、今更大事だってことに気がついた。
「…この憎しみは、消えない。復讐は何も生まないなんて嘘だ。けど、けど…もう僕は…復讐よりも、彼女との未来が欲しい…!」
「…ベル……」
「僕は、愚かな人だ。誓った想いも貫けなかった!誠実なんて嘘だ…!僕は…僕は、大馬鹿者だ…今更になって、当たり前の欲求が出てくる…!お爺ちゃんの、おばさんの、おじさんの、お兄ちゃんの無念を晴らせない僕が…!」
ずぅっと隠していた。どこかで死んでもいいと思っていた。けれど、数多の戦いを経て、ベルの心境はゆっくりと変化していく。
「…それでも…彼女と生きたい…!共に在りたい!」
母との決別も。
愛する人と交わした約束も。
友の感謝も。
全て、彼が生きたいと思うには十分なものだったのだ。
この短い期間であらゆることが起きたベルの心は限界だった。母を殺した負い目。血による因縁の決着。目的の喪失。そして、死の恐怖。
あらゆることが、彼の負担になっていた。それを見抜いたフィンが、無理にでもここでガス抜きをすべきだと判断し、このような機会を儲けたのだ。
思いの外吐き出してくれたことに喜ぶべきか、仕方ないとため息を吐いたフィンは、切り出した。
「そうか…君のやりたいことを聞けてよかった。ところでベル、君が眠っている間にお客さんが来てね。」
「…僕に?一体────」
クンッ、と鼻を鳴らせばとても嗅ぎなれた香りが鼻腔を刺激した。
「今は外に────やれやれ、よく効く鼻だ。」
フィンの言葉も置いてけぼりに、ベルは走っていた。胸の辺りに込上げる息苦しさも忘れて、ただその香りの元まで。
湖のほとり。その人は、その場所で彼を待つように木に背中を預けていた。
目の前まで行くと、彼女はゆっくりとベルに視線をくれて、ベルに向かって歩き出した。
ああ、何を言えばいい?会いたかった?好きだ?
いいや、違う。違うとも。
その言葉は、妖精の抱擁と共に、自然に発していた。
「──────ただいま、リュー…」
「おかえりなさい、ベル。」
ギュッと強いハグに答えるように、ベルも強く抱き返す。壊さないように、優しく包むように。されども強く、熱く。愛の抱擁とは、正しくこのことを指すのだろう。
どうしてここにとか、君に言いたいことがあるとか。色々と言いたいことがあったが、口が上手く喋ってくれなかった。
それを察したのか、リューは優しく微笑んでベルの手を握った。
「場所を変えましょう。貴方に、伝えなければならないことがあります。貴方も、そうでしょう?」
「…うん。」
リューの瞳からは、真っ直ぐな意思だけが読み取れた。
さぁ、ここに決着をつけよう。
僕らの物語に、終止符を打とう。
きっとこれが、最後だから。
次回、疾風に想いを乗せて第1部、残り2話続きますが次回が最終回です。
残り2話が終わりましたら、番外編を更新開始します。
よろしくお願いします。