疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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第二部始動


第二章
第33話:指名依頼


そよそよと風が吹き、窓から外を眺める。

ベッドに座り、儚げに外を眺める処女雪のような少年は、乾いた咳を数回して、また布団に潜り込む。隣で眠る妖精の寝顔を眺めて、二度寝を決行。

 

ベルとリューの問題が解決したあと、ベルの容態が急変。急遽、リヴェリアがリューの木刀を煎じて薬を作り出した。どうにか安定したところを見計らって、ラウルに全指揮権を投げ、首脳陣3人がディアンケヒト・ファミリアに所属する最高位の回復職であるアミッド・テアサナーレの元に急行。緊急入院となり、精密検査が行われた。

 

『…原因が分かりません。なぜ、このような症状が出ているのか…体は健康そのものなのに…呪いのような、血に刻まれたもの…そう考えなければ説明ができません。』

 

この世に存在する回復職のトップに立つアミッドですら原因すらわからなかった。しかし、最後の最後には『必ず癒します』と強い意志を持って語った。

 

とにかく、今は大聖樹の枝を集めるしかない。ということになり、首脳陣のコネや使えるもの全て使って、枝を20本確保した。

 

容態が回復したベルも枝回収に付き合い、リヴェリアと共にエルフの里を周り、リヴェリアの権力を使って恙無く回収を終えた。

 

今は、聖樹の樹皮を使った魔法薬瓶をアスフィに依頼し、それを待っている段階だ。

 

ベルとしては、3日で各地の聖樹を保有する里を廻った疲れを癒しているところだ。時間的にはベルが送迎することで数分で移動できる為、特に時間がかかった訳では無いが、やはり症状の影響で上手く魔力が出せないのだ。

 

「寒い…」

 

体温を求めるようにリューを湯たんぽ代わりにして、腕の中に収める。リューは寝心地悪そうに眉を顰めるが、段々と安らかなものに変わっていく。

 

今、この時間が最も幸せな時間だ。

 

「……ベル…寒い、のですか…?」

 

「……このまま、お昼まで寝ちゃおう…リュー、体温高いから…」

 

「……貴方がそういうのなら…付き合います…」

 

物欲がなく、装備と食事にしか金をかけなかったベルの貯蓄はそれはもうすんごい事になっていた。そのため、こんなに自堕落な生活を送っても特に問題はなかった。

 

しかし、他に問題は存在した。ベル程の戦力がずっと入院している理由にも行かず、かと言ってホームではゆっくり休めないだろう。という事で、ディアンケヒト・ファミリアに近くゆっくりとできる場所を、リューが提供した。

 

今は、元アストレア・ファミリアのホームであった家に2人で住んでいる。少し引越しが大変だったが、何とか昨日終了。今日は2人でダラダラ過ごす事に決めたのだ。

 

そうして、二人共が同じ姿勢のまま目を覚ましたのが昼前、いい加減お腹がすいた2人は、眠い目をこすりながら、キッチンまで向かった。

 

「ハムエッグでいいよね。」

 

「えぇ、楽に済むものにしましょう。」

 

サッサと朝食兼昼食を作り、2人で食べ始める。

 

「今日は何をしましょう?」

 

「んー、なんかアスフィが今週中に作り終えるから家に居てくれって言われてるからなぁ…アミッドも怖いから、ダンジョン行けないし…」

 

「なにか欲しいアイテムでも?」

 

「いや、友達に会いに行きたいんだけど…でもまずは、この症状をどうにかしないと。」

 

「そのとおりですね。幸いアンドロメダがやってくれています。彼女に任せれば大概の事は安心して平気でしょう。」

 

ベルは仕方ないとソファーに座り込んだ。その隣に座ったリューは、彼の肩に頭を預け、置いてあった手にゆっくりと重ねる。

 

「…しかし、貴方が彼の大英雄の直系の血筋とは…いえ、色々規格外な所を考えれば納得できますか…」

 

「ずっと驚いてるね。そんなに?」

 

「そんなに、です。」

 

「まぁ、そっか。御伽噺みたいだもんね。」

 

「ふふっ、貴方が御伽噺のようなものなのですが。」

 

どこ吹く風と他人事の様に語るベルに、リューはクスクスと笑った。

 

ココ最近、リューはよく笑うようになった。

 

ベルがリヴェリアとの里巡りを終えて帰ってくると、玄関までパタパタ走ってきて

 

「おかえりなさい、ベル。」

 

と、笑顔で出迎えてくれる。

新妻が板に付いてきたようなリューの仕草に、ベルは笑顔でハグを返すのが1番いいらしい。

 

「それにしても、ロキ・ファミリアは大躍進ですね。」

 

「うん、3人がLv7になって、きっかけがなかったみんなもLv6に上がったしね。ついでにラウルも。」

 

「今回の遠征で確実にフレイヤ派閥を越えましたね。まぁ、ベルが1人いるだけで勝負になるかどうか…」

 

「あの程度なら今でも余裕かな。」

 

「あの大派閥の主戦力5人を相手にしてそう言えるのは恐らくベルだけです……」

 

あの時も、今もLv4のベルだが、実力は詐欺そのもの。下ではLv8上位に相当する精霊を1人で討伐したそうだ。その証拠もクローゼットに収納されているため、嘘とも思えないし、思わなかった。

 

「…ベル、やはりレベルをあげる気にはなりませんか?」

 

地上に帰ってきて、さあ恩恵を更新しようとした時、ベルが直前で待ったをかけた。

 

恩恵を更新すれば確実にこの症状は抑えられる。だが、ベルには確信めいたものがあった。

 

「…そう、だね…なにか、人として大切な物が無くなる気がする…そんな、予感がある。」

 

「…無理に上げる必要はありません。ゆっくりと、歩んでいきましょう。私は、隣にいますから。」

 

「……あぁ、リュー…」

 

そっと両の手を重ねたリューは、微笑みのままベルを急かすことは無かった。

 

その時、玄関に設置されていた鐘が鳴り響いた。

 

 

 

 

「────と、遠征の報告は終了…枝集めも、存外早く終わった。」

 

「ガネーシャ・ファミリアはやけに協力的じゃったが、特に恩を売っている様子もなかったからのう。あそこから10程枝を確保出来たのは幸運だったわい。」

 

「おう、帰還早々お疲れやったなぁ。んで、ベルはどうなん?」

 

「今は、安定している。薬が効いているらしく、今朝も様子を見に行ったのだが、疲れて寝ているらしくて、彼女が出てきた。」

 

「おぉ、なんやアツアツやなぁ!フィン達も負けてられんへんで!」

 

その言葉に乾いた笑みを浮かべるフィンは、そんな相手がいれば苦労はしないと雑に流した。

 

フィン達幹部は、全員がLv7に至った。それもそのはずで、精霊の幼体との戦闘に加え、ネメアとの戦闘でその器を昇華させるに至ったのだ。ギルドは一気に3人もLv7に至ったことで大混乱。そして、ついでと言わんばかりにLv6が3人、Lv5が1人とランクアップし、今ギルドはてんやわんやだ。

 

小人族の希望であるフィンはことある事に同族に握手を求められ誇らしい思いをしている。

 

ガレスもガレスで酒を浴びるように飲み、ファミリアを大いに沸かせ、気が良く屈強なドワーフの英雄の誕生に冒険者は刺激を受けた。

 

1番大変だったのはリヴェリアだろう。ただでさえ王族と言うだけで畏まらせてしまうのに、Lv7に至ったと報告がオラリオに流れた時は、町中のエルフがお祭り騒ぎ、セルディア様の生まれ変わりだの、新たなる英雄の誕生だと、4日経った今でも騒がれている。

 

しかし、3人の気持ちは真逆。今までの明確なLv7という目標を達成した事によって、新たに生まれた目指すべき場所。それが、ベルのいる場所だった。

 

そのため、3人は嬉しい気持ちよりも、強くならなければと、より強く決意するようになった。

 

「ベルとは、ただでさえ差があるのに、こんな所でも差がつくとは思わなかった。ねぇ、リヴェリア?」

 

「…なぜ、私に振る。喧嘩か?喧嘩なのか?」

 

「やめんかフィン、ホームが消し飛ぶわい。」

 

一瞬魔力が迸り、その場が凍り付くように冷えたが、それをさらりと流してフィンは続けた。

 

「さてロキ、本題に戻ろう。さしあたっての僕らのやるべき事は2つ。もう1つの出入口の発見と、闇派閥の壊滅だ。ダンジョン攻略は後回しだ。」

 

「兎にも角にも、前者が見つからねばどうしようもできんからのう。」

 

「前者が片付けば後は秒読みだろう。なんと言っても、ベルがいる。闇派閥の生死に関わらないと言うなら、その拠点ごとベルに吹き飛ばしてもらう方法もある。」

 

「リヴェリアえっぐぅ…楽かもしれへんけど…」

 

そうして話を進める中で、フィンが1つ提言した。

 

「うん、これから闇派閥の作戦にベルは参加させる気は無い。それだけは共有しておきたい。」

 

「ほう…何故だ?」

 

「理由は2つ。これは、彼の病について。薬で調子がいいとはいえ、酷く不安定だ。戦闘中に発作が起きて彼が再起不能にでもなれば、ファミリア全体の士気が落ちる。それに、なにより彼女に申し訳が立たない。」

 

「…それもそうか。ベルの病がどうにかならない限りは不安要素があるのは確かだ。」

 

「そして、2つ目。安定するようになった…と言うよりも確固たるものになったと言うべきだが、アルフィアの事はまだ知らない方がいい。未だベルの心は不安定だ、そこに闇派閥との邂逅で余計な知識でも与えられたら…過保護かもしれないが、Lv7が3人にLv8~10がいるのは、過剰戦力だ。」

 

「なるほどなぁ…よし、わかったわ。これはウチから話しといたる。集中して治せ!っちゅう主神命令にしとくわ!」

 

「頼むよ。」

 

フィンのこの提案には、他に思惑があった。心配なのはもちろんではあるのだが、もし自分たちが死んだ場合。誰がオラリオを守るのか。

 

フレイヤの派閥には期待できないし、自分たちが勝てない相手ならばオッタルでも不可能。ならば、保険としてベルを残しておきたかったのだ。

 

「くれぐれも、頼むよロキ。あと、メレンの件もね。」

 

「おう!任せときぃ!」

 

 

 

 

「────アンドロメダ!」

 

「久しぶり…でもないですね、リオン…あぁ……今は、クラネルでしたね。お邪魔します、クラネル。」

 

「ふふっ…えぇ、どうぞアンドロメダ。流石は耳が早い。私が名を変えたのも既に知っていましたか。」

 

「…あ、貴女そんな風に笑う人でした?」

 

「こちらにベルがいます、着いてきてください。」

 

呆然とした様子でリューの後をついて行くアスフィだが、その変わりように驚きを隠せなかった。

 

女性としての魅力がなかった訳では無い。寧ろ綺麗どころの中でもトップレベルだったリュー。しかし、それにしても少女らしくなっている。と言うよりも、『女』になったというのだろうか。

 

もしやコイツら…と邪推したアスフィだが、いやいやと考えを振った。

 

「ベル、アンドロメダが来ました。」

 

「ん、アスフィだったか。タイミングバッチリだね。ありがと、リュー。」

 

「いいえ、気にしないでください」

 

「…クラネル、貴女本当に笑うようになりましたね…」

 

愛とは、凄いのです。と残したリューに、どこかもう異常な物を見る目をしているアスフィ。まぁ、それも仕方あるまい。異性は愚か、同性ですら肌を許すことのなかったリューが、ベルの手を握りフワフワの笑顔でこちらを見ているのだ。

 

異常だ。なんなら怖い。

 

しかし、そこは流石はアスフィと言うべきか。すぐさま頭を切り替えて話を再開する。

 

「先日ぶりですね、ベル・クラネル……いえ、こう呼んだ方がよろしいですか────【黎明(アルクメネ)】?」

 

「どっちでもいいよ。出来れば、2つ名で呼んで欲しいかな。」

 

数日前の神会でつけられたベルの新たな2つ名。

 

母メーテリアと最後に見た夜明けを忘れたくないと願ったベルが、この母の名を名乗りたいとロキと考えて強請った名。

 

ロキの提案であったことと、理由により誰も反対できなかった。ただ1人フレイヤのみが不満顔をしていたが、特に何かを言う事は無かったらしい。

 

「…良い2つ名だと思います。」

 

「ありがとう、アスフィ。」

 

ビジネスライク、という訳では無いが、ベルには幾許か恩があるアスフィとしては、この無害な少年に嫌悪の念などありはしない。

 

「さて、早速要件を済ましてしまいましょう。こちらが、頼まれていたマジックアイテムです。」

 

差し出されたものは、木製の水筒だった。

 

「【世界樹の涙(ティアー・オブ・ユグドラシル)】。注文通り、この中に清潔な水を入れてもらえれば、自動的に薬ができるようにしています。」

 

「凄い…流石です、アンドロメダ。」

 

「いえ、これも打算ありということをお忘れなく。」

 

「────それは、アスフィの後ろにいる神様に関係あるの?」

 

翡翠の右眼で睨みを利かせ、アスフィの後ろに威圧を飛ばすベル。それを見て、アスフィはだから言ったのにと頭を抱えた。リューはベルの指す方向を見つめるが、特に何かが見えるわけではなかった。

 

「────いやぁ、まさかコレが見破られるとはなぁ…流石、と言ったところかな?」

 

「随分と礼儀がなってないね、人の家に無断で入るなんて。」

 

「そこは謝らせてくれ。決して君たちに害意があるわけじゃないんだ。」

 

「だから言ったのです、余計なことは不信を買うだけだと。」

 

何も無かった空間が突如歪み、神が現れる。

 

軽薄な声音に、橙黄色の髪にハットを着こなした旅人風の神は、2人に頭を下げながら笑みを浮かべた。

 

「ここは、敢えて初めましてと言っておこう。ベル君に、クラネル夫人。オレはヘルメス、アスフィの主神をやってる。試す様な真似をして済まない。君の力を少し見て見たくてね?」

 

「……なんなら今少し見せてあげようか?」

 

「おっと、やめておくよ。」

 

手を挙げて降参の意を示したヘルメスを見て、ベルも張合いが無くなったのか、敵意らしい反応を示すことはなくなった。

 

「神ヘルメス。用があるなら、手短にしてください。ベルは少し疲れている。アンドロメダは別ですが、貴方は以前から面倒事を持ち込む神だ。」

 

「おいおい、酷いぜリューちゃん!まぁ、今日は手短にするつもりだった。用件は、これだ。」

 

差し出されたのは、1枚の依頼書であった。

 

2人して覗き込めば、内容は至極単純であった。

 

「…オラリオ外の遺跡調査の補助と、都市外モンスターの駆除…?」

 

「そうだ。これは、君への指名依頼ということになる。」

 

「……とは言っても、都市外のモンスターなら僕が出る必要ないんじゃ?アスフィとか、ファミリアでどうにかなると思うけど。」

 

「それが、そうもいかない。君じゃなきゃダメなんだ。」

 

どこか、確信めいたその言葉に、ベルは少しだけ目を細めた。

 

「…どこのモンスターだ。遠方にあるっていう竜の谷の飛龍とか?」

 

「いいや、そんなものならどれほど良かったか。俺たちが調査している遺跡に封印されていたモンスターなんだが…数ヶ月前に、何者かがその封印の一角を破った。今は、別のファミリアが監視しているが、時間が無い。共に来て欲しい。」

 

「だいたい、場所も書いてない。それもなきゃ、どうしようもない。」

 

少し溜めたヘルメスは、ベルに手を差し出した。

 

 

「力を貸してくれ英雄よ。約束の地の名は────エルソス。かつて、月精霊ネメアがあるモンスターを封じた場所だ。」

 

 

 




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