疾風に想いを乗せて   作:イベリ

41 / 56
魔法の詠唱がかっこよくないなと思ったので思い切って全部変えました。

どうぞ。


NEW第38話:女神の涙

ベルを置いて全力で駆ける一行。アスフィはこの判断に戸惑っていた。

 

「いいのですか!?リオン!彼を置いていって!」

 

「ではあの場に残れと?戦いの余波で挽肉になりたいのなら話は別ですが…彼の邪魔になるだけだ。あと、私はクラネルです。」

 

「今それはいいでしょう!?」

 

アスフィが本当に良かったのかと声を上げても、遺跡からの脱出を第1に考えるリューはその意見をバッサリと斬り捨てた

 

信頼、そう言えるものなのかはわからないが、リューには絶対の自信があった。彼が負けることは無いだろうと。

 

そして、リュー達が遺跡を脱出する寸前。

 

「────ぇ」

 

リューの目の前に、剣を振り上げたベルが突如現れた。

 

その襲来は誰も予期することなく、余りにも早く訪れた。

 

剣が振り下ろされ頭から真っ二つになる未来が頭に流れ込んだと同時に、真横からとてつもない衝撃でベルの虚像が吹き飛ばされ、遺跡の奥に逆戻り。

 

稲妻を纏い降り立ったベルは、いつもよりも冷たい視線を一同に向けた。

 

「まだこんな所に…早く逃げるんだ。」

 

「────はい!」

 

「ベル……」

 

「…早く行って。話があるなら後だ、アルテミス。」

 

リュー達を見送ったベルは、遺跡の奥から高速で接近していた虚像の攻撃を受け止め、目を細めた。

 

(何故リューを狙った…?いや、そうか…こいつの原動力は…僕が1番知ってる。)

 

鍔迫り合う虚像の目は爛々と燃えている。それは、ただ憎しみを原動力にしていた過去の自分のモノ。

 

ベルの心の内にある、未だ消えないモヤが、リューを率先して狙った理由と考えていいだろう。

 

「…無い、なんて言えない。けど、僕はもうそれ以上の気持ちを知っている。だからお前は、僕じゃない。」

 

何も語ることない虚像に語りかけて、苦笑する。答えるはずがないと。

 

剣を弾き上げ、腹に思い切り蹴りを入れてリュー達から遠ざける。

 

「まだまだ本気なんて出しちゃいない。僕なんだから、僕を本気にさせるくらい、できるでしょ。」

 

冷たい眼光を向けた先には、竜の鱗を纏ったベルの虚像が黒い稲妻を奔らせた。

 

「……僕も、区切りを付けなきゃ…ね。」

 

白い甲殻を纏ったベルは、白い稲妻で相対する。それは、ベルなりの過去との決別の意思。もう憎しみに飲み込まれないように。もう、失った物ばかりを追うことを辞めるために。

 

黒い大剣と白い直剣が激突し、一気に場の空気が弾けた。

 

神速で振るわれる2つの稲妻が、幾度となく激突する。力量は五分かベルが数段上。しかしタイムリミットを考えれば、虚像のベルに分があることは確か。

 

戦いの最中、皮肉にもベルは虚像の力に自身の人外さを改めて認識した。

 

「僕って、やっぱり強いんだな…」

 

自身のレベルだけならば数秒とたたずに殺されているだろう。だが、ベルの強さはそのステイタスだけではない。彼の血に流れる竜の血が、素の身体能力を大幅に上げている。故にベルの肉体は人智を超えた強靭さと圧倒的なパワーを兼ねている。

 

しかし、ベル自身が力に振り回される戦い方をしているわけではない。

 

力任せに振るわれる大剣に、剣先を沿わせるように受け流し、次に振るわれる前に攻撃の起点を潰し、容赦ない蹴りの連撃で吹き飛ばし、一気に攻勢に出る。

 

弾ける稲妻の音を響かせながら、ベルは高速の二連撃を叩き込んだと同時に、地面を蹴り上げ頭上に飛び上がって背後に回り込み、虚像の鱗を剥がすように全身を斬り刻んでいく。

 

『グルルァァァッッ!!』

 

「ッ!」

 

しかし、やられっぱなしのはずもなく、獣の如き動きで暴れまわり、技もへったくれもない身体能力と諸々のスペックに頼りきった攻撃。全身から稲妻を放電し、至るところを突き破り遺跡を崩壊させる。稲妻はそのまま天を貫くように一直線に登っていき、雲を裂いた。

 

その光景に、ベルは冷や汗を流す。

 

(まずい…!これじゃ流れ弾でリューたちが蒸発する!)

 

パンディアの権能の恐ろしいところは、魂レベルで虚像を生み出すこと。そしてそれは、神時代に尖った能力。

 

彼女の権能は恐怖の具現化。それは、アンタレスが最後に見た畏怖の象徴であり、パンディアが最後まで畏れた英雄の成れ果て。

 

虚像とは言えベルの魔法だ。しかも手加減もなにもない高密度の魔力の塊、当たれば魂すら残さず消し飛ぶだろう。

 

危惧したベルは、一気に勝負をつけるように魔法を開放した。

 

「【天霆(アルクメネ)】」

 

黄昏を閉じ込めた母の雷霆をもって、この過去を捨てる。

 

『【人へと至れ(ハキュリス)】』

 

その気配に反応したのか、虚像であるベルも己の力を開放した。

 

次の瞬間に一気に爆発した遺跡は、跡形もなく吹き飛んだ。

 

「なっ、なんだ!?」

 

「遺跡が……跡形もなく…!!」

 

突如起きた爆発に、その場にいた全員の行動が止まる中。リューとアルテミスは始まりを理解した。

 

「……始まったのですね。」

 

「…すぐに撤退を始めるんだ。走ってでも、ワイバーンで逃げるでも構わない。即座にこの地域から離れろ!」

 

アルテミスの指示に全員が撤退を再開する。

その中で、リューだけはただベルの無事を祈るばかりだった。

 

『ガァァァァァッッ!!!』

 

「フッ!!」

 

激突した衝撃波は容易く周囲を砕き、森を破壊していく。周囲の状況を見ながら歯噛みするベルは、怒り狂ったように破壊を繰り返す自分自身の姿に、過去が少し重なる。

 

これほどまでに荒れていたとは思いたくないが、過去、レフィーヤの死体を見せつけられたときの自分の暴走は、こんな感じだったのだろうか。

 

ともかく、この破壊装置と化した虚像を消す為に、ベルは再度攻撃に転じる。

 

振り回す大剣に直剣をぶつけ、鍔迫り合いに入った瞬間に力を抜き、下からすくい上げるように剣を振り上げ、虚像の持つ大剣を打ち上げる。

 

「力だけじゃ、何も救えない。何も変えられない。何も得られない。僕はそれを身をもって知った。何の想いもない空っぽの力は、怪物と何も変わらない!」

 

その言葉は、まるで自分に言い聞かせているように。憎しみを、悲しみを精算しなければならない。もう、今を、未来を見るベルにとって、この虚像を打ち破ることこそが、過去を乗り越えることと同義。

 

「僕は、乗り越えなければならない。お前を…僕自身を。」

 

『アアアアアアッッ!!!』

 

虚像が吠えると同時に、ベルは直剣を鞘に収め、拳を構える。こうすることが、被害を減らすにはうってつけなのだ。

 

竜爪を腕の甲殻で防ぎ、睨み合った。

 

「お互い武器は拳だけ。僕は僕自身の手で決着をつける。」

 

剣に宿されたリュー・リオンの想いを、決別に使いたくはなかった。

 

「これは、僕が…僕の手でケリをつけたい。」

 

獰猛に犬歯を剥き出しにした、鏡写しの顔を殴りつけ、連撃を見舞う。

 

虚像はその全てを喰らいながら、スキルでチャージされた拳を放つが、力任せのフルスイングは見え見え。首を少し傾けるだけで避けて、再度拳の連打。

 

顔面、脇腹、鳩尾、首。全ての急所に叩き込んでも、しぶとく食らいついてくる様は、まさに復讐者というものだろうか。

 

(このしぶとさ…さすが僕。ダメージを身体機能に寄せて回復し続けてる。)

 

常人ならば既に数回死んでいる程攻撃を食らわせても、傷は塞がりより強固な鱗が虚像を覆った。

 

どれだけの攻撃もものともしない自分自身に嫌気がさした時、ベルの視界が一瞬狭まり、鼻の奥からブツっ、と音が響いた

 

ベルの足元に、じんわりと広がる赤い染みが、点々と出来た。

 

(────予想よりも、ずっと早い…!早く…早く決着をつけないと…!!)

 

戦闘を開始してまだたった数十分。しかし、この持久力の差は、戦士として致命的だ。

 

想定以上の早さで悪化する症状。既にベルに残された時間は少ない。

 

流れ続ける血を拭って、早々の決着に打って出た。

 

一気に接近するベルの体には、今までの比ではない強力な稲妻が嘶き、虚像に襲いかかった。

 

再び激突する両雄は、先程とは違い苛烈なもの。特大の嵐と嵐が激突するような衝撃が辺り一帯を吹き飛ばし、森林地帯を更地に変える。

 

もはや、ベルも周囲に気を使う余裕がなかった。

 

「ハァァァァァァッッ!!!」

 

怒涛の連撃、稲妻のような拳が虚像に突き刺さる。しかしそれに対してダメージすら厭わず、痛みを無視するような自身の虚像は憎しみを拳に乗せて、一撃一撃に殺意を宿していた。

 

その気が抜けない戦闘のさなか、徐々に徐々にベルが劣勢に陥っていく。

 

掠りもしなかった攻撃が、肌を裂くようになった。

 

焦りだすベルに好機と判断したのか、はたまた本能なのかはわからないが、虚像の攻勢が爆発する。

 

「────づッッ!?」

 

『ガアァァァァァァッ!!!』

 

頬に突き刺さった竜の拳は、止まることなく振り抜かれベルを容赦なく吹き飛ばす。咆哮を上げた虚像は、お返しだとばかりに攻撃に転じて、ベルに爪を、拳を叩きつける。

 

「くぅっ…こんのッ…!」

 

振るわれる両拳を掴み、膝を顎に叩きつける。跳ね上がった首を掴み、そのまま2度、3度と顔面に膝を叩きつける。

 

『────ガ、アァァァァァァッ!!!!』

 

白目を向きながら、虚像は尚も食らいつく。

 

感情の赴くままに力を解放し、全身から放電。掴み合うベルにも黒い雷が襲うが、それから守るように黄昏色の稲妻が全身に奔る。

 

「僕はひとりじゃない…っひとりじゃなかった…!」

 

青筋が浮き出る程に力むベルに押し潰されるように、虚像は体を地に沈めていく。

 

それに抗い、ベルの顔面に再び虚像の拳が叩きつけられる。

 

「ッ…憎しみはなくなりなんかしなかった…!それでも、憎しみしか詰まっていない拳にッ…重さは伴わない!」

 

叩きつけられた拳を押し返し、自分自身に言葉を投げる。

 

「今だから…ッ、リューと出会ったから!母さんがそばにいてくれるから!僕はもう、過去は見ない!」

 

荒々しいラッシュを防ぎ、カウンターのボディーブローから肘を胸に叩き込み、その場で横回転の捻りを加えた蹴りで吹き飛ばし、追撃に走った。

 

「────フッ!!!」

 

吹き飛んだ方向に先回りし、飛んできた虚像を容赦なく上空に蹴り上げれば、雲を裂くまで飛んでいく。

 

それを追うように、稲妻が蒼空に軌跡を刻み、天に駆けた。

 

「【雷霆(ケラウノス)】」

 

膨れ上がる魔力の奔流が、虚像と共に地に叩き落とされる。

 

母さん(メーテリア)!!」

 

顕現した母の雷霆がベルの指先に従うように狙いを定めれば、空気が焼ける音を響かせながら魔力が臨界を超える。

 

「【轟け、雷鳴(我が名)雷鳴(我が怒り)。其は、(カラ)の境界を穿つ断罪の雷霆(ヒカリ)

 

九頭竜(ヒュドラ)を討ったアルケイデスの必殺。それが今、再現される。

 

「【天空の賛歌、雷霆の勝鬨、即ち王の証明!霊王たる我が名は【天雷霊(アルクメネ)】、天の裁定者の名において、判決を下す───堕ちろ(吹き飛べ)っ!!】!!」

 

完結した詠唱は、空気を震わせ地に叩き落される。

 

「【雷霆(ケラウノス)】!!」

 

自然界の雷の出力を大きく超えているベルの魔法は、落ちるだけでその森の半分を吹き飛ばした。

 

それは、ベルの魔法のでたらめさを示すと共に、ベルの余裕のなさを顕著に表してしまっている。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

肩で息をしながら、落ちるように着地したベルは、胸を押さえながら、苦虫を嚙み潰したように表情を歪めた。

 

「まさか…自分自身の強さを呪う日が来るなんて…」

 

出来上がった巨大なクレーターの中心には、ぼろ雑巾のように虚像が転がっていた。

 

ベル自身、今の一撃でこの戦いを終わらせるつもりであった。しかし、自分の耐久力は自身の予想も覆したらしい。

 

感じる、ゆっくりと回復し、立ち上がる虚像は未だに憎しみの炎をその瞳に燃やしているだろう。しかし、先のそれとは何かが違う。乱れる魔力が、リューへの憎しみではなく、もっと別のものに対するものに見えた。

 

だが、そんなものは関係ない。

 

「……初めて、本気を出せる相手が…自分か…皮肉だな。」

 

もはや力を出したくないベルであったが、その顔は言葉とは正反対に、笑っていた。

 

そう、ベルはここに来て初めて、己の本当の全力を出せる相手を見つけたのだ。

 

ベルにとって戦いは手段でしかない。戦いは決して目的になり得ない物だった。

 

しかし、今。真の意味で対等の者を手に入れたベルは、自分の力を試したくてうずうずしていた。

 

今まで、感じることのなかった、戦いの愉悦。

 

ベルの体に流れる、戦士の血がそうさせたのか。はたまた、冒険者としての自覚の芽生えなのか。

 

(どっちだっていい───。)

 

今はただ、この戦いに没頭したい。

 

自然と上がる口角、剝き出しの犬歯をギラつかせながら、獰猛に嗤った。

 

呪いの苦しさも、周囲への被害も、今だけは愛すらも───

 

 

 

 

 

『───ベル!』

 

 

そんな時に、リューの声が頭に響く。

 

頭が一気に冴えたベルは、頭を抱えながら一歩、ふらついた。

 

(今…何を考えた……?)

 

そこまで考えて、ベルは己の思考に青ざめた。

 

生きてきた中で、最も失いたくないと思ったモノを、忘れようとしていた。

 

血と剣の循環に吞まれ、ベルは狂戦士に成り下がろうとしていた。

 

違う、あの感情を忘れるのだけは、絶対に違う。

 

ぐらりとふらついた体を何とか気力で支えながら、未だ消えない憎しみと殺意の気配を敏感に感じ、拳を構えた。

 

ゆらりと爆炎が揺れ、怪物と睨み合った。

 

その姿は、酷く醜悪なものだった。

 

右肩を突き破るようにして生えるサソリの大鋏。

 

顔の左半分がサソリの物に変わり、ギチギチと不気味な音を奏でている。

 

そこで、ベルは漸く理解した。

 

(…そうか、取り込んだ能力を上手く使えていないから、形が保てないのか…!パンディアの、最後の抵抗!)

 

勝機があるとすれば、ここしかない。あと数分戦えば限界を迎えるであろう肉体は、お互いにフェアだった。

 

次の激突で、すべてが決まる。

 

両者が魔力を高めた次の瞬間。

 

 

「───これも、月の導きか。」

 

 

そんな二人の間に、女神が降り立った。

 

「…アルテミス…?」

 

両者が予想外の人物の乱入に困惑していると、アルテミスは前触れなく神威を開放する。

 

ベルが初めて経験する、神威。それは、下界の住人には耐えがたいものだった。

 

アルテミスに近づくことができない。本能、あるいはそう設計されているのかもしれないと思えるほどに、逆らうことができない。

 

その事実が、どうしようもなくベルを(神の子)であると認識させる。

 

「っ…!?アルテミス、何のつもりだ!!」

 

ベルが圧倒されるほどの神威、それは下界のルールを逸脱している。

 

「これはお前の戦いではないんだ、ベル(・・)。父が始め、神々(私たち)が終わらせるべきものなんだ。」

 

儚く、崩れる去るように光に包まれ、笑ったアルテミス。

 

二年と少し、彼女と生活してきたベルだったが、こんなことは初めてだった。

 

ベルは、初めて、アルテミスの涙を見た気がした。

 

 

 




感想、高評価、お気に入り登録、励みになります。いいな、と思ったらぜひお願いします。次回次々回はアストレアレコードです。

NEWの記載が番外にもありますが、本編と番外で分けていますのでお気になさらず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。