疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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第2話:ハロー、ストレンジャー②

「おい!誰だこの白兎!?誰が入れやがった!?」

 

「名はベル・クラネル。この少年なんでか分からんが家の鍵をもっていた。」

 

「なんでなんも情報ないやつ入れたんだよ!?しかもこの時期に!!」

 

「不味いわ!リオンが失神してる!全く動かないままブツブツ言ってるわ!」

 

「てかなんでお前今回はぶっ飛ばさなかったんだよ!?マジでこいつ恋人なのか!?」

 

「いや、だからそう言ってるんだけど…リューの項と左膝の裏に、縦に2つ並んだホクロがあるはずだ。深い関係じゃなきゃ知らないだろう?」

 

「……ホントだ、あるわ。私も初めて知ったわ!貴方鉄壁のリオンを射抜いたのね!凄いわ!」

 

「でしょ?」

 

『でしょ?じゃねぇぇぇ!!!!』

 

場は大混乱。なんなら武器を向けられて拘束までされた。見た感じLv3が最高と言った感じだったので、いつでも逃げられるなと思いながら取り敢えず捕まるベル。

 

荒れに荒れる現場の中、パンっと音が響き全員が其方を見やる。

 

「落ち着きなさいみんな。とりあえず、その子を離してあげなさい。」

 

「アストレア様!?だけど…」

 

「大丈夫よ。この子は多分…そんなことはしないわ。」

 

その言葉で、団員(と思われる人物達)はベルを離し取り敢えず話ができる体制になった。

 

「……とりあえず、初めまして。私はアストレア。この派閥の主神をしているわ。」

 

栗色の髪を持った麗人は、アストレアと名乗った。

 

その名前に聞き覚えがあったが、ベルはとりあえず自己紹介をする。

 

「…僕はベル・クラネル、Lv4。」

 

「…聞いた事がないわ。」

 

「そんなはずない。僕3ヶ月しないでLv4になったから、割と有名…な、はず。」

 

「────嘘、じゃない…?」

 

そのアストレアの声で、またその場がザワつく。

 

「アストレア・ファミリア…逆に僕は君たちのことを聞いたことがない。」

 

「…私達を聞いた事がないのは、別におかしなことではないわ。とても力のある派閥ではないから。」

 

目の前の少年、ベル・クラネルを眺めるアストレアはその人となりを、瞬時に見抜く。

 

嘘はなく、純朴で勇敢。こんな子、しかもLv4ならば誰かが自慢していてもおかしくは無い。なのに、そんなことは聞いた事がない。

 

(…見るだけでわかる。悪い子じゃない…どこかの隠し玉?3ヶ月と無くLv4に上り詰めた逸材…ダメね、本人に聞いてみるしかない…わね…)

 

ため息を吐き出したアストレアは、目の前の少年に視線をやる。すると、いつの間にか固まったリューの目の前で、顔をのぞきこんでいた。

 

「……リュー?」

 

「………は、はい…?」

 

「…うん…髪は少し長いけど…やっぱりリューだ。」

 

「ふぉっ、へ?は、はいぃ……」

 

耳まで赤くした妖精が、少年に頬を撫でられ、嘘偽りのない愛の眼差しで愛でられている。

 

その光景に、団員はまた黄色い歓声を上げた。

 

いつもなら、異性同性問わずリューに触れられる者は数少ない。しかし、この少年は当たり前のように触れている。

 

そして、どうもこの少年とは会話が噛み合わない。3ヶ月はいると言っていたのに、まるでこの暗黒期を知らないような(・・・・・・・・・・・・・)言い方をする。

 

そして、次のつぶやきでアストレアは確信を得た。

 

「…そういえば、アリーゼとか、輝夜ってリューの仲間だった人に、そんな名前の人がいたような…?」

 

「……!」

 

(仲間だった…?嘘、まさか…そんな…でも、それなら説明が…!)

 

ベルの言葉にあった、知っていた人が、いきなり知らない素振りをした。見知らぬ街並みも変な事が起きてるに違いないと。

 

あぁ、それもそうだろう。この少年は────

 

 

「みんな…すこし、この子と2人きりで話したいの。」

 

「アストレア様!?」

 

「危険です!リオンに触れられるとは言え!得体がしれません!」

 

「大丈夫。彼は、本気でリューを愛している。こんな深い愛を注げる人が、私をどうこうする事はないわ。」

 

「あっ、アストレア様!?」

 

リューが叫ぶが、軽く「だから、ね?」とウインクをして、全員を退出させた。外からは、一気にリューに詰め寄る声が聞こえた。

 

『リオン!いつの間にかあんな可愛い彼氏引っ掛けたの!?』

 

『てめぇ!なにあたしより先にゴールインしようと来てんだ!?』

 

『ごごご、誤解ですっ!!?私は彼と初めて会いましたし肌を許したことも今日が初めてです!?』

 

『り、リオン!?いつの間に純潔まで捧げちゃったの!?』

 

『ネーゼ!?違う!?』

 

なんて叫び声が聞こえてきた。

 

「ごめんなさいね、騒がしくしちゃって。」

 

「……いや、今は僕の方が…勝手に上がり込んだ形になるのかな。」

 

「いいえ、鍵まで持ってるんだもの。それも、リューから?」

 

「うん、そう。」

 

どこまでも、やはり嘘がない。鍵も、リューを恋人だと言うことも、全てに嘘がなかった。

 

あの慈愛に嘘は、絶対に無い。

 

「……質問があるのだけど。いいかしら?」

 

「いいよ、こっちもあるけど…先に答える。」

 

「ありがとう。そうね…貴方は、今の現状を知ってる?」

 

「現状?…それは、この…寂れたオラリオのこと?もっと活気があったはずなのに…」

 

「そう。この【暗黒期】の事よ。」

 

「【暗黒期】…確かラウルが言ってた、僕が来るずっと前にあったて言ってたやつ…?7年前だっけ……ん、待って…今、それなの?」

 

「……やっぱり、貴方は…」

 

ベルは、ここで理解した。

 

なぜ、誰も自分のことを知らないのか。なぜ、見知らぬ街並みなのか。それも当然。

 

「……ここは、7年前のオラリオ……?」

 

そこから、すぐに思いついたのは亡き祖父達、家族の事だった。

 

会いに行きたい。会いたい。

 

自然と体が動いて、ふっと、思い至りピタリと止まる。

 

もし、今が本当に7年前であったなら、そこには、幼き日の自分がいる。もしその場に行って、全てを変えてしまった時。

 

 

今の自分はどうなる?

 

 

無かったことになるのか、今までの日々が?彼女との語らいも、思い出も、背を預けた記憶も、全てを受け入れた日も?

 

それは、それだけはできない。

 

あったはずのことを変えることで、要らぬ歪を生み出し、それがどれだけの障害になるのか。ベルには、わからなかった。

 

それに、もう自分には無くなった物だ。今更、手に入れたところで何が変わる?有るのは、ただ虚しさだけだろう。

 

「……失った物は、戻らない…」

 

数分考え込んで、整理して。やはり、辞めた。

レフィーヤのケースが稀だっただけ。普通は、戻らないのだ。

 

迷いを振り払ったベルの瞳は、ただ前を見つめていた。その瞳に映る感情を読み取り、アストレアは微笑んだ。

 

「……強い子ね貴方は。絶望があったのに、貴方はしっかりと前を向けている。」

 

「始まりは絶望だった。けど、悲劇ではなくなった。それでいい…それくらいが丁度良かった。」

 

ベルは、この先に起こるリュー・リオンの末路を語らない。運命が己の道を辿るなら、それもまた避けられないものなのだろう。いずれどこかで、祖父は自分の前から姿を消していたのだろう。それが、ずっと早いか遅いだけ。

 

ベルの様子を見て、察したアストレアは神妙な顔つきで問いかける。

 

「……貴方の質問は…良さそうね…」

 

「うん……アストレアの質問で答えが得られた。だからかぁ…ロキ・ファミリアで追い出されたの…」

 

「…貴方、ロキの眷属()なのね……1週間後、ロキに会うのだけれど、来る?」

 

「……いい。家族であるはずの人に、本当に知らないって言われるのは…意外と来るんだ。なるべく会いたくない…」

 

「…そう。それまでは、どうするの?」

 

「……18階層にでも宿をとってしばらくそこにいる。」

 

「ここにいてもいいのよ?」

 

「……いや、アストレアが良くても、他の人達は嫌でしょう?それに…どれくらいの敵がいるのか分からないけど、役立たずを入れるほど余裕があるようには見えない。」

 

「あら、随分な言い草ね?」

 

ごめん、違うんだ。と苦笑するベルと笑いあったアストレアは、ベルの言葉にどこか引っかかった。Lv4は消して低いレベルでは無い。それはきっと7年後も変わらない事実だろう。けれど、己を役立たずと語った。

 

わからないが、とにかく手を差し出す。

 

「別にいいわ。1人増えたところで、彼女たちも貴方なら構わないでしょうし。」

 

「…見知らぬ僕(ストレンジャー)を?未来から来たとか言ってる異常者かもしれないのに?」

 

「それにしては、貴方はリューを知りすぎているし、ロキ・ファミリアのことも知りすぎている。ここまで出されれば信じるに値するわ。貴方予知系のスキルもないのでしょう?」

 

「ない。」

 

「なら、私はあなたを信じるわ。会ってすぐに分かるもの。貴方、嘘下手だから、それだけいい子なのね。」

 

「……アストレア、意外とカジノとか好き?」

 

「あら、これは賭けじゃなくて、確信よ?」

 

そんなことを笑顔で言ってのけるアストレアに呆れ、ベルはとりあえず投げた。

 

「説得はそっちでやって。それが出来なきゃ勝手にする。割と強いから、宿代くらいの足しには出来ると思う。」

 

「Lv4で割とって…あなた贅沢ね?」

 

とにかく、みんなに紹介してからだな、と思いながらアストレアは思案した。

 

 

 

 

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