「おい!誰だこの白兎!?誰が入れやがった!?」
「名はベル・クラネル。この少年なんでか分からんが家の鍵をもっていた。」
「なんでなんも情報ないやつ入れたんだよ!?しかもこの時期に!!」
「不味いわ!リオンが失神してる!全く動かないままブツブツ言ってるわ!」
「てかなんでお前今回はぶっ飛ばさなかったんだよ!?マジでこいつ恋人なのか!?」
「いや、だからそう言ってるんだけど…リューの項と左膝の裏に、縦に2つ並んだホクロがあるはずだ。深い関係じゃなきゃ知らないだろう?」
「……ホントだ、あるわ。私も初めて知ったわ!貴方鉄壁のリオンを射抜いたのね!凄いわ!」
「でしょ?」
『でしょ?じゃねぇぇぇ!!!!』
場は大混乱。なんなら武器を向けられて拘束までされた。見た感じLv3が最高と言った感じだったので、いつでも逃げられるなと思いながら取り敢えず捕まるベル。
荒れに荒れる現場の中、パンっと音が響き全員が其方を見やる。
「落ち着きなさいみんな。とりあえず、その子を離してあげなさい。」
「アストレア様!?だけど…」
「大丈夫よ。この子は多分…そんなことはしないわ。」
その言葉で、団員(と思われる人物達)はベルを離し取り敢えず話ができる体制になった。
「……とりあえず、初めまして。私はアストレア。この派閥の主神をしているわ。」
栗色の髪を持った麗人は、アストレアと名乗った。
その名前に聞き覚えがあったが、ベルはとりあえず自己紹介をする。
「…僕はベル・クラネル、Lv4。」
「…聞いた事がないわ。」
「そんなはずない。僕3ヶ月しないでLv4になったから、割と有名…な、はず。」
「────嘘、じゃない…?」
そのアストレアの声で、またその場がザワつく。
「アストレア・ファミリア…逆に僕は君たちのことを聞いたことがない。」
「…私達を聞いた事がないのは、別におかしなことではないわ。とても力のある派閥ではないから。」
目の前の少年、ベル・クラネルを眺めるアストレアはその人となりを、瞬時に見抜く。
嘘はなく、純朴で勇敢。こんな子、しかもLv4ならば誰かが自慢していてもおかしくは無い。なのに、そんなことは聞いた事がない。
(…見るだけでわかる。悪い子じゃない…どこかの隠し玉?3ヶ月と無くLv4に上り詰めた逸材…ダメね、本人に聞いてみるしかない…わね…)
ため息を吐き出したアストレアは、目の前の少年に視線をやる。すると、いつの間にか固まったリューの目の前で、顔をのぞきこんでいた。
「……リュー?」
「………は、はい…?」
「…うん…髪は少し長いけど…やっぱりリューだ。」
「ふぉっ、へ?は、はいぃ……」
耳まで赤くした妖精が、少年に頬を撫でられ、嘘偽りのない愛の眼差しで愛でられている。
その光景に、団員はまた黄色い歓声を上げた。
いつもなら、異性同性問わずリューに触れられる者は数少ない。しかし、この少年は当たり前のように触れている。
そして、どうもこの少年とは会話が噛み合わない。3ヶ月はいると言っていたのに、まるで
そして、次のつぶやきでアストレアは確信を得た。
「…そういえば、アリーゼとか、輝夜ってリューの仲間だった人に、そんな名前の人がいたような…?」
「……!」
(仲間だった…?嘘、まさか…そんな…でも、それなら説明が…!)
ベルの言葉にあった、知っていた人が、いきなり知らない素振りをした。見知らぬ街並みも変な事が起きてるに違いないと。
あぁ、それもそうだろう。この少年は────
「みんな…すこし、この子と2人きりで話したいの。」
「アストレア様!?」
「危険です!リオンに触れられるとは言え!得体がしれません!」
「大丈夫。彼は、本気でリューを愛している。こんな深い愛を注げる人が、私をどうこうする事はないわ。」
「あっ、アストレア様!?」
リューが叫ぶが、軽く「だから、ね?」とウインクをして、全員を退出させた。外からは、一気にリューに詰め寄る声が聞こえた。
『リオン!いつの間にかあんな可愛い彼氏引っ掛けたの!?』
『てめぇ!なにあたしより先にゴールインしようと来てんだ!?』
『ごごご、誤解ですっ!!?私は彼と初めて会いましたし肌を許したことも今日が初めてです!?』
『り、リオン!?いつの間に純潔まで捧げちゃったの!?』
『ネーゼ!?違う!?』
なんて叫び声が聞こえてきた。
「ごめんなさいね、騒がしくしちゃって。」
「……いや、今は僕の方が…勝手に上がり込んだ形になるのかな。」
「いいえ、鍵まで持ってるんだもの。それも、リューから?」
「うん、そう。」
どこまでも、やはり嘘がない。鍵も、リューを恋人だと言うことも、全てに嘘がなかった。
あの慈愛に嘘は、絶対に無い。
「……質問があるのだけど。いいかしら?」
「いいよ、こっちもあるけど…先に答える。」
「ありがとう。そうね…貴方は、今の現状を知ってる?」
「現状?…それは、この…寂れたオラリオのこと?もっと活気があったはずなのに…」
「そう。この【暗黒期】の事よ。」
「【暗黒期】…確かラウルが言ってた、僕が来るずっと前にあったて言ってたやつ…?7年前だっけ……ん、待って…今、それなの?」
「……やっぱり、貴方は…」
ベルは、ここで理解した。
なぜ、誰も自分のことを知らないのか。なぜ、見知らぬ街並みなのか。それも当然。
「……ここは、7年前のオラリオ……?」
そこから、すぐに思いついたのは亡き祖父達、家族の事だった。
会いに行きたい。会いたい。
自然と体が動いて、ふっと、思い至りピタリと止まる。
もし、今が本当に7年前であったなら、そこには、幼き日の自分がいる。もしその場に行って、全てを変えてしまった時。
今の自分はどうなる?
無かったことになるのか、今までの日々が?彼女との語らいも、思い出も、背を預けた記憶も、全てを受け入れた日も?
それは、それだけはできない。
あったはずのことを変えることで、要らぬ歪を生み出し、それがどれだけの障害になるのか。ベルには、わからなかった。
それに、もう自分には無くなった物だ。今更、手に入れたところで何が変わる?有るのは、ただ虚しさだけだろう。
「……失った物は、戻らない…」
数分考え込んで、整理して。やはり、辞めた。
レフィーヤのケースが稀だっただけ。普通は、戻らないのだ。
迷いを振り払ったベルの瞳は、ただ前を見つめていた。その瞳に映る感情を読み取り、アストレアは微笑んだ。
「……強い子ね貴方は。絶望があったのに、貴方はしっかりと前を向けている。」
「始まりは絶望だった。けど、悲劇ではなくなった。それでいい…それくらいが丁度良かった。」
ベルは、この先に起こるリュー・リオンの末路を語らない。運命が己の道を辿るなら、それもまた避けられないものなのだろう。いずれどこかで、祖父は自分の前から姿を消していたのだろう。それが、ずっと早いか遅いだけ。
ベルの様子を見て、察したアストレアは神妙な顔つきで問いかける。
「……貴方の質問は…良さそうね…」
「うん……アストレアの質問で答えが得られた。だからかぁ…ロキ・ファミリアで追い出されたの…」
「…貴方、ロキの
「……いい。家族であるはずの人に、本当に知らないって言われるのは…意外と来るんだ。なるべく会いたくない…」
「…そう。それまでは、どうするの?」
「……18階層にでも宿をとってしばらくそこにいる。」
「ここにいてもいいのよ?」
「……いや、アストレアが良くても、他の人達は嫌でしょう?それに…どれくらいの敵がいるのか分からないけど、役立たずを入れるほど余裕があるようには見えない。」
「あら、随分な言い草ね?」
ごめん、違うんだ。と苦笑するベルと笑いあったアストレアは、ベルの言葉にどこか引っかかった。Lv4は消して低いレベルでは無い。それはきっと7年後も変わらない事実だろう。けれど、己を役立たずと語った。
わからないが、とにかく手を差し出す。
「別にいいわ。1人増えたところで、彼女たちも貴方なら構わないでしょうし。」
「…
「それにしては、貴方はリューを知りすぎているし、ロキ・ファミリアのことも知りすぎている。ここまで出されれば信じるに値するわ。貴方予知系のスキルもないのでしょう?」
「ない。」
「なら、私はあなたを信じるわ。会ってすぐに分かるもの。貴方、嘘下手だから、それだけいい子なのね。」
「……アストレア、意外とカジノとか好き?」
「あら、これは賭けじゃなくて、確信よ?」
そんなことを笑顔で言ってのけるアストレアに呆れ、ベルはとりあえず投げた。
「説得はそっちでやって。それが出来なきゃ勝手にする。割と強いから、宿代くらいの足しには出来ると思う。」
「Lv4で割とって…あなた贅沢ね?」
とにかく、みんなに紹介してからだな、と思いながらアストレアは思案した。