疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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第3話:アストレア・ファミリア

「────いいと思うわ!Lv4がいてくれるのはとても助かるもの!」

 

「…まぁ、Lv4なら使えなくねぇからなぁ。」

 

「悪い少年でない事はわかっておりますが…懸念は残りますねぇ。」

 

「わ、私は……私は…反対は、しません。」

 

賛成、懸念が残るが反対はしないが多数。特に心配することもなかったかと、アストレアはホッと溜息をこぼした。

 

すると、アリーゼが声を上げた。

 

「はいはーい!ならとりあえずは自己紹介をしましょう!私はアリーゼ・ローヴェル!2つ名は────」

 

「輝夜とアリーゼは聞いたから、平気。」

 

「ちょっとぉ!?」

 

「こうもスッパリ言われると、ムカつく物がございますねぇ。」

 

淡々と2人を切ったベルは、後ろで騒ぐアリーゼから視線を切って、早々に桃色髪の小人族に目を向けた。

 

「あん?あぁ、アタシはライラ。ただのライラだ。」

 

「そう、僕はベル…短い間かもしれないけど、少し世話になる、よろしく。」

 

「おう、新人。バンバンこき使ってやるからな!」

 

彼女の、どこか見た事のある現金な雰囲気に、ベルはリリルカを思い出して苦笑する。

 

「さて…あとは君かな、リュー。」

 

「……貴方は、なぜ、私を…」

 

その疑問は、この場にいる全員が考えただろう。しかし、ベルの前にアストレアが出た。

 

「リュー、みんな。今は言えないけれど、必ず私からあなた達に話すわ。だから、今は彼の事は、都市外から来たLv4ということにしておいて欲しいの。」

 

「……わかり、ました。」

 

アストレアの言葉を飲み込んだリュー達は、とりあえずそれで納得をしたようで、黙り込んだ。

 

「はいはーい!提案よ!」

 

そんな中、その沈黙を切り裂くアリーゼは、やはりと言うべきか空気は読まなかった。いや、ここは敢えて読まなかったのだろう。

 

本人の名誉のために、そういうことにしておく。

 

「輝夜たちに不安が残るなら、私達と1戦やりましょう!戦ってみればだいたいの人柄は掴めるはずだから!」

 

「…なんで勝手に決めているんでしょうかねえ、この団長様は。」

 

「あら、なら輝夜がやる?さっきからずぅっと刀に手をかけてたものね!」

 

「あらあら、なんのことでございましょうか?ほほほ。」

 

(白々しい…)

 

その殺気とも闘気とも呼べる物に当てられ続けていたベルは苦笑して、仕方ないと立ち上がった。

 

「2人同時でいいよ。なんなら、このファミリア全員でかかってきてもいい。」

 

その一言に、場が一気に凍りついた。

 

「おいおい、んな事言っちまっていいのか?ウチのお姫様共は猛犬だぜ?」

 

「本気でやってもらわないと、僕も退屈だからね。」

 

その一言で、負けん気の強い少女2人に火がついた。

 

「面白いわ!輝夜!私達の全力ぶつけるわよ!!」

 

「珍しく意見が合ったな団長。叩き潰してやる…!」

 

輝夜とアリーゼはベルに、着いてこいとジェスチャーをした。

 

広場に出たベルたちは、すぐに始めようと距離を取る。

 

「敗北条件は?」

 

「武器を取上げて無力化か、参ったと言わせること!」

 

「わかった。」

 

「武器はいいの?」

 

「いらないし、必要ない。」

 

「…ふふん!自信満々ね!益々燃えてきたわ!バーニングってね!」

 

「合図はなくてよろしおすな?」

 

「いいよ。先手は、あげるよ。」

 

余裕の表情で微笑んだ。その余裕から、自分を格下に見ていると、輝夜は持ち前の負けん気で、額に青筋を浮かべた。

 

「その伸びた鼻っ柱、へし折ってやる…!」

 

腰を深く落とし、構えを取った。

 

その構えは、ベルも使ったことのある居合。

 

「……それは…」

 

「ほう、知っているか。」

 

それは、輝夜の必殺。忌むべき場所で得たその技術が、彼女の力となっている。

 

重なった姿に、ベルは一瞬リューを見やった。

 

「…君は、彼女から教わったのか。」

 

そう微笑んで、ベルは1歩ずつ前に進む。アリーゼは背後に周り、挟み撃ちの形でベルを挟む。そうして、輝夜の間合いに自分から入り込んだ瞬間。

 

一閃。横凪に繰り出された輝夜の一撃と、背後から迫ったアリーゼの刺突は

 

「────うん、一個上くらいなら、正面切ってでも勝てそうだね。」

 

『────っ!?』

 

2人の剣の刀身を指で掴みその場を移動するでも、避けるでもなくベルに掴んで止められた。

 

繊細な技術に動体視力。そして自身の力に対する絶対の自信。それが無ければ、こんな事はできやしない。

 

(っ!なんて膂力…!両手と指先よ!?なんでビクともしないの!)

 

振りほどこうともがいても、ピクリとも動かない。笑ったベルが手を離せば、2人はベルから距離をとって冷や汗を流した。

 

「僕の想像以上には、強いね。2人とも。」

 

「……言ってくれる…!本当にLv4か!?」

 

「少なくとも、私たちのレベルが上がってあれができるようになるとは思えないけど…とにかく!挑むのみよ!」

 

「────いいね、その眼。そういう人は、割と好きだよ。」

 

「あら!リューから乗り換えちゃう?」

 

「それはないかな。」

 

「即答!?ちょっとくらい悩んでも良くない!?」

 

「いや、無いかな────せっかちだね、輝夜。」

 

「────はっ?」

 

輝夜は、ベルから目を離したつもりはなかった。ほんの一瞬も目を離さなかった。けれど気が付けば、地面が目の前にあった。ベルは目の前まで来ていた攻撃を躱し、輝夜の背後に周り、腕を捻りながら倒れた輝夜に座っていた。

 

それが、目にも止まらぬ速さで起こった。

 

予想外の速さ。いや、もはや人智を超えた速さは、ファミリアの誰も認識することすら出来なかった。もがこうにも、完全に固められ指先すら動かせない。

 

「……降参、する。」

 

「ん、少しこのままでね。」

 

「あんな、一瞬で…輝夜が…?」

 

驚愕するアリーゼに、ベルが目を向ける。

 

「来るかい、アリーゼ?」

 

「────!」

 

放たれるベルの威圧は、正に巨竜のような威圧を孕み、アリーゼの足をその場に縫いつけた。

 

戦わずして判らされた、絶対の強者。格が違いすぎる。

 

「……こ、降参…降参よ…」

 

カランっ、と武器を落とし腰から崩れ落ちたアリーゼは、震える声で降参を宣言した。

 

「…僕の勝ちだね。」

 

そんな2人に手を差し出して、彼女達を立ち上がらせる。なんだか安心したアリーゼと輝夜は、泣きそうなのを堪えて、ベルの強さを実感した。

 

「…まったく、何をどうやっても敵う気がしないわ。」

 

「これでも……手加減されている…そう考えると、恐ろしい。最後の気迫は…やばかった。」

 

輝夜の言う通り、最後にアリーゼに向けた気迫は、周囲でその様子を見ていた団員すら腰を抜かすほどのもので、輝夜の普段の態度すらなりを潜めていた。

 

「格下と手合わせすることなんて無かったから、僕もいい刺激になった。」

 

そうして、両者とも今の手合わせを振り返る中、アストレアが2人にタオルを投げた。

 

「お疲れ様。どうかしら、ベルは。」

 

「見ていた通り…Lv4にして、強すぎる。だからこそ、この派閥に入れるのは不安になってきた。私達では、1秒も抵抗できずにやられる。」

 

男子禁制という訳では無いが、女所帯のファミリアである。ベルも一応男だし、溜まるものもあるだろう。そんな輝夜の懸念を、ベルは

 

「…あぁ、それか。安心していいよ、君たちに興味はないから。」

 

グッと親指を立てて、安心して!と微笑むベルに、アストレアは目を伏せながら呟く。

 

「……嘘は、ついてないわ。」

 

「……それはそれでむかつきますねぇ?」

 

ベルには、悪意はない。ただ本心を語っているだけだ。

 

「問題はリューだけど…無理矢理はダメよ?」

 

「無理矢理は趣味じゃない。」

 

「まぁ、そんなことが出来る子では無さそうだし…」

 

取り敢えずという感じで、全員をリビングに集め、ベルが取り敢えずここに厄介になることを告げた。

 

「少しの間、彼をここに置くことになったから。みんな宜しくね?」

 

「宜しく、アルクメネって呼んで欲しい。本名は、少し隠したい。」

 

「アルクメネって、大英雄の傍に寄り添った精霊よね。好きなわけ?」

 

「母さんの姓なんだ。」

 

「へぇ〜。お前の親御さんも英雄好きだったのか?」

 

「先祖代々の名前だから。」

 

「ほう、代々続いてる名か。」

 

「アルケイデスの話が確か…6000年前だから、そこから続いてるみたい。」

 

「6000年!?………ん?なんか今のおかしくね?」

 

ライラのみ、なんか今のおかしくない?と1人気がついたが、他は別に気付くことなくそのまま続ける。

 

ひとしきり話が終わり、ベルはこの派閥に居るに当たって必要なことを確認する。

 

「そういえば、この派閥の方針は?ダンジョン探索と…さっきみたいに憲兵みたいなことしてるの?」

 

「そういえば話してなかったわね。その通り、私達は秩序維持を目的に警邏をしてるわ。後は、探索系のファミリアと変わらないわね。」

 

「そう…とりあえず、現状を確認したいから外に出てくる。」

 

「わかったわ!リュー!ついて行ってあげて!」

 

「わ、私がですか!?」

 

「他に誰がいるのよ!ほら、行ってらっしゃい2人とも!」

 

「────ベル。」

 

出ていく寸前。追いかけてきたアストレアがベルを呼び止める。

 

「なに?」

 

「……皆を……いいえ…リューを、お願い。」

 

その言葉には、ある種の重みがあった。ベルはその中に含まれていた想いを受け取り、微笑んだ。

 

外に放り出された2人は、仕方ないとばかりに互いに目を合わせる。

 

「…行こうか、リュー。」

 

「あ…は、はい…」

 

何となく先導される形で、ベルの後ろを歩くリューは、この形がどうにもしっくり来ていた。彼の背中を、少し後ろを歩くだけで、どこか温もりがあった。

 

(私は…前もこうして…彼と……?)

 

不思議な、あるはずのない既視感を抱いたリューは、その幻想を振り払った。

 

だって、そこにはリューとベル。たった2人しか、いなかったのだから。

 

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