疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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第5話:正義の形

「現状、目立った外傷はありませんが、反面内側…彼の体は、ボロボロです。薬で騙し騙し戦ってきたのでしょう」

 

「そんな…では、彼はもう…」

 

「ですが、これは普通の人であれば、という条件付きです。」

 

ここはディアンケヒト・ファミリアの薬舗。倒れていたベルをリューが担ぎこんだ。今は主治医がベルのカルテを見ながら、リューとアストレアに説明をしていた。

 

「どういうことですか…?」

 

「 このレベルの崩壊が体で起これば、数時間と経たずに死に至るはずです。」

 

「…!では…薬が強力な物なのですか?」

 

「確かにそれはあります。これは、大聖樹の枝を削り特殊な薬水を作り出すマジックアイテム。この薬水自体がとても強力なもので依存性も低い万病の薬。出来れば喉から手が出るほど欲しいものです。」

 

「けれど、それでも彼の…アルクメネの病は…」

 

「治っていない…これ程の薬水を常備しなければならない大病でありながら、戦闘をしていた精神力には脱帽します。」

 

未だ眠るベルの顔を思い浮かべながら、リューは前日の会話を思い出していた。

 

(彼のあの言葉は…それなのに…私は…)

 

ベルが戦うことに迷いを感じていた理由は、きっと体がもつかどうかなのだろう。オラリオで一二を争う医療派閥のドクターが下した診断がそう告げていた。

 

彼は、既に戦える体ではないかもしれない。

 

「リュー…」

 

「……アストレア様。」

 

病室の前で暗い顔をしていたリューに、アストレアが寄り添った。

 

「なにか…あったの?」

 

「…彼に、戦えと言ってしまいました…こんな状態の彼を…」

 

「そうね…彼が貴方達に隠していたのか、言わなかっただけなのかはわからないけれど…私にも責任の一端はあるわ。彼に、話だけは聞いていたから。」

 

ここまで酷いとは思っていなかったけれど、と付け加え苦笑した。

 

ベルは、彼女たちが優しいことをこの一週間で身にしみて感じていた。正義を掲げるファミリアであるからこその、暖かさというものがあるのだ。

 

そんな彼女たちに病人であることを言えば、確実に気を使わせるだろう。

 

そう考えたベルが、この話をアストレアで止めていたのだ。

 

「…今日はもう面会の時間も終わってるわ。今は、明後日の炊き出しに備えましょう。このことは、彼が起きたら困るまで聞いてあげるといいわ。」

 

「…はい。アストレア様。」

 

少し、表情の明るくなったリューを見て、ベルはいい影響を与えてくれていると微笑んだ。

 

 

 

 

 

「さぁ!炊き出しよ!!」

 

ベルが入院して2日。今日はデメテル・ファミリアの協力のもとに市民に炊き出しを行う日になっている。各ファミリアが協力体制を敷いて警備を行う。その中に、アストレア・ファミリアも組み込まれた。

 

「なんでお前がそんな偉そうなんだよ。」

 

「さて、無視して私は調理の方に入らせてもらいます。」

 

「アタシもそうすっか…」

 

「リオンはアタシと一緒に配給よ!」

 

「あ、アリーゼ!引っ張らないでください!」

 

偉そうにふんぞり返るアリーゼを無視して、各々が散る。アリーゼに引っ張られたリューは、アリーゼの横顔に違和感を覚えた。

 

「…アリーゼ…?何かあったのですか?」

 

「…貴女って、いつも鈍いのに、こういう時だけは鋭いのね…」

 

「こ、こういうときだけは余計です!」

 

若干否定しきれないが、リューは気を取り直して聞き直す。

 

「…それで、なにかあったのですか。」

 

「…リュー、ベルが倒れてたった2日だけど…事件の被害が増えているのは、わかってるわよね。」

 

「…はい、先週までのいっときの平穏は、彼が居てこそ成り立つものだった。」

 

「そうなのよねー…ベルが強すぎるのよ!それに比較して、私達は全然追いつけない。あの子が先週解決した件数知ってる?40件よ!40件!しかも全部被害ゼロ!私達全員の倍以上だし!ほんと、自信なくすわ…」

 

そのアリーゼの弱音とも言える言葉に、リューは驚きつつも静かに同じ気持ちを持ってしまっていた。

 

ベルの力は敵から畏怖の対象にもなっているようで、彼という存在そのものが大きな抑止力になっているのだ。

 

「それに、あんな重い病気を患ってる状態であの強さよ?病気じゃなかったら…そう考えると、本当に恐ろしい。何よりも敵に回したくないわ。」

 

敵に勇者がいるより厄介よ!と吐き捨てるようにブー垂れた。

 

確かに、フィンの知略は敵からすれば厄介だろう。だが、その策すら意味を成さないレベルの圧倒的な力は、知恵なんかよりも余程恐ろしいものだ。

 

そんな事実を、アストレア・ファミリアの面々は残酷に叩きつけられた。彼が居なければ、守れないものが多すぎる。

 

「…強く、なりましょう…アリーゼ。彼だけに背負わせるのでは無く、私達も…一緒に背負えるように。」

 

「リュー…」

 

そう語ったリューの真面目な雰囲気をぶっ壊すように、アリーゼは頬を突っつく。

 

「はぁ〜!あのリオンが、たった1週間と少しの男の子にそこまで言うなんてね!流石はベルって感じね!」

 

「茶化さないでください…!」

 

一気に華やいだ雰囲気に、周りも微笑ましげにその様子を見ていた。

 

「相変わらず騒がしいな。」

 

「ああー!ガレスのおじ様!」

 

「お、おじさま…?!」

 

その騒がしい声を聞き付けたのか、重装備を纏ったドワーフの戦士、ガレス・ランドロックが豪快に笑った。

 

「し、知り合いだったのですか?」

 

「え?全然?私が会う度にはしゃいでるだけ。そして、私が騒がしくし過ぎておじさまも無視できなくなってるの!」

 

「だいたいその通りじゃが、わかっとるなら慎みを覚えんか馬鹿娘め。」

 

「…アリーゼ…貴方のその胆力はいったいどこから出てくるのです…」

 

第1級の冒険者にすら臆することなくフレンドリーに接するアリーゼに呆れていると、そうじゃ、とガレスが顎髭を撫でた。

 

「お前達のところに活きのいい新人が入ったそうじゃな。確か…アルクメネだったか?」

 

「あぁ、彼ね!とんでもなく強いわよ!」

 

「噂は聞いとる。何でも雷の様に現れ、嵐のように敵を殲滅し去っていく。この一週間で都市最速がどちらか議論が持ち上がる程じゃ。」

 

「そんなになってるのね彼。、いつも全く力出してない状態でアレだし、自分でもこの都市で1番速いって言ってたから、間違いないと思うわよ。」

 

「ほう……天の審判者(アルクメネ)を冠する実力はあるということか。」

 

あの子に会ってもフレイヤ・ファミリアの話だけはしないでね?やけに不機嫌になるから。

 

そう付け加えると、ガレスは少し考え込むように訪ねる。

 

「白髪に赤眼…顔も話題になるくらい整っとるようじゃし、性格にそれ程難がある訳でもなさそうか…しかし、聞いたこともないのう…」

 

「やっぱり、ガレスのおじ様も知らない?」

 

「知らんなぁ、そのアルクメネ…少しきな臭いが、お主らの所にいるのなら、敵の線は消えたか。」

 

「えぇ…でも、もう彼は───なにッ!?」

 

そうした井戸端会議もそこそこに別れようとしたとき、すぐ近くで爆発が起きた。オラリオの日常は、平穏とはいかない。

 

 

 

 

 

(────…ここ…ディアンケヒト・ファミリアの…)

 

時を同じくして、見覚えがありすぎる病室で目を覚ましたベルは、薄っすらと残っていた記憶を思い出し、あの人を探さなければとベッドから降りようと体を起き上がらせる。すると、小さな銀色の少女が忙しそうに掃除をしているのが見えた。

 

「……きみ、は…?」

 

「ッ!?」

 

声を出したことに驚いたのか、こちらを振り返った少女は、ほうきも雑巾も放り出して、部屋から出ていく。そうしてすぐに医者らしい人とアストレアを引っ張って来た。

 

「アルクメネ!目が覚めたのね…」

 

「アストレア…迷惑掛けた、すぐに出る。」

 

「何を言っているの、迷惑なんて事ないわ。」

 

ベルが着替えようとすると、アストレアが優しく止める。

 

少しの検査後、医者の反対を押し切りベルは退院。着替えを済ませ、アストレアと向き合う。

 

ややあって、気を取り直したベルは続けた。

 

「やる事ができた。」

 

「どういうこと?」

 

「やることが…いや、やらなきゃいけないことが出来た。」

 

「…それは、なに?あなたの体は平気なの?」

 

「確信がないから言えないけど…これくらいなら平気。けど、今後君たちに常に協力できる確約ができない。こんな状態だしね。」

 

その言葉を聞いて、アストレアは一安心といった表情を浮かべる。

 

「どうしても、今の貴方がやらなきゃならないの?」

 

止めあぐねたアストレアが声をかけるが、ベルはそれを肯定する。

 

「どうしてもやらなきゃいけない事。」

 

「命を賭ける価値があると?」

 

その言葉に、思い浮かぶ母の最後の言葉。

 

 

『お姉ちゃんを…どうかお願い。』

 

 

嗚呼、こういう事だったのか。

 

(お母さん…約束は、必ず果たすから。)

 

彼の目に宿った光は、決して揺るがない。

 

「あるさ。僕自身が決めた事だから。」

 

その真っ直ぐな眼差しに、アストレアはゆっくりと微笑んだ。

 

「…なら、何としても成し遂げなさい。」

 

「当然。」

 

そのまま窓を開けると、遠い場所で爆発音が響いてきた。

 

「!この方角…もしかしてあの子達の…!ベル!」

 

「わかった!こっちは任せて、アストレアはこのままディアンケヒト・ファミリアを引っ張って来て!血の匂いがする!!」

 

「わかったわ!」

 

そのまま窓から身を乗り出したベルは、一気に飛び上がり屋根の上を駆ける。

 

道中で敵を屠りながら、約5キロの道のりを数秒で走破したベルは、見慣れた赤と金の後ろ姿を捉える。その目前で剣を交える桃髪の女───ヴァレッタを、敵と判断する。

 

「ばーかがぁ!Lv3のテメェらが、Lv5のアタシに、敵うと思ってんのかぁ!」

 

「ぐぅッ!?」

 

「やっぱり、私たちじゃ…!!」

 

「そぉら!!死ねぇッ!!」

 

苦戦する2人の目の前に、影が舞い降りた。

 

一撃でグチャグチャに、挽き肉になってもおかしくないその斬撃を、割って入った白い影が受け止めた。

 

「───テメェ…なにもんだ?」

 

「べ…アルクメネ!!」

 

ヴァレッタの言葉に耳を貸すことはなく、ベルは素手でヴァレッタを弾き返した。

 

「ってぇなぁッ…テメェか。こっちの勢力をぶっ潰しまくってるってガキは…!」

 

「立って、リュー。」

 

「あ、貴方…病気っ、体は…!」

 

「問題ない。あの程度なら、割とよくある。」

 

「なんてタイミングで現れるの貴方は!!流石私たちの騎士ね!」

 

「アリーゼ、耳元で叫ばないでうるさい。」

 

バシバシ背中を叩くアリーゼを無視しながら、目の前の敵に目を向けた。

 

「あれ、敵でいいんだよね。」

 

「えぇ…油断しないで。腐ってもLv5よ。」

 

「そう。アリーゼ、リュー。君たちはすぐに民間人の救護に回るんだ。」

 

「わかったわ!行くわよ!リュー!」

 

「っ…くれぐれも!気をつけてください!」

 

「ありがとう、リュー。」

 

遠のくリューに、軽く微笑んで手を振る。

 

そのベルの歯牙にもかけない態度に、ヴァレッタは声を荒げ───

 

「随分と舐めてくれるじゃ───」

 

ようとして。気づけば、顔面を思い切り地面に叩きつけられていた。

 

「が、ぇ、ぁ…?」

 

「あれ、まだ意識あるんだ。丁度いい、聞きたいことがある。」

 

初めてベルがヴァレッタに掛けた声は、なんの感情もない冷たい一言。バキッ、と頭蓋がひび割れる音が頭で響き、徐々にその力が強まっていく。

 

そして、人間を見ている目ではないその絶対零度の瞳が、ヴァレッタを射抜いた。

 

「銀の髪をした女を探してる。お前らと繋がってることはわかってるんだ。言えば、命だけは助けてやる。」

 

「が、ぁ…だず、げ、たす…け…」

 

「クズが。泣き叫ぶ民衆に、お前は耳を貸さなかった。だから、僕もお前の命乞いには耳を貸さない。」

 

その言葉の後、バチンッ!と稲妻が弾け、ヴァレッタを焼いた。

 

そのまま失神したヴァレッタを放り投げたベルが聞きつけたのは、愛しい女の声だった。

 

『────取り消してくださいっ!!』

 

「…リュー?」

 

瞬時に方向を割り出し、リューの後を辿れば怒鳴り声が聞こえる。

 

「たった今貴方が吐いた侮辱を!私たちは自尊心のために【正義】を利用しているのではない!」

 

ただならないような声を聞き駆けつければ、どうやら男神──エレンと口論になっているようだ。

 

「リュー!何してるの!」

 

「アルクメネ…!止めないでください!この神は!私たちの【正義】を侮辱した!!」

 

「アルクメネ…?へぇ…君が、そうなんだ。」

 

どこか含みのある言い方と、見定めるような視線。値踏みされるような感覚は、ベルが最も嫌うものだ。

 

故に、嫌悪感を隠すこと無く吐き捨てた。

 

「…何の用。こんな状況で呑気に散歩?頭イカれてんじゃないの。」

 

「おっと、初対面で随分な物言いだ。気をつけた方がいいとお兄さん思うなぁ。」

 

軽い物言いに、言われたことをなんとも思ってないような言葉。どこかヘルメスを思わせる雰囲気は胡散臭さは満点。言葉を聞くだけ無駄な類の神だ。

 

もはや名前を聞く気すら起きない。

 

「話してる暇はない。リュー、こういう手合いは相手にしちゃダメだ。逆撫でされようと無視するのが賢明だよ。」

 

「しかし!」

 

「待って待ってぇ〜!そういうことは見えないところで言うもんだぞ~?あと、さいご!最後だから!ねっ、2人とも。」

 

うざったく弱々しく絡んでくるこの名も知らぬ神をぶん殴ってやろうかと思ったが、今後絡まれても面倒だと考え、振り返った。

 

「自尊心の為に戦ってないんだとしたら、君たちはなんのために戦ってるの?」

 

「くどい!都市の平和のため!目の前のこの光景を撲滅せんが為だ!」

 

「それが、独り善がりなんじゃないの?君たちお金も貰えない、パンもスープだって。何がもらえるの?」

 

「黙りなさい…!」

 

「富と名誉だけじゃなくて、一時の感謝さえ求めていないなら、君たちの言う正義…真実、ただの孤独じゃないか?」

 

「黙れ!!」

 

「怒らないでくれよ、エルフの子供。ただの神の酔狂さ。だから、心して問うて、答えてくれよ。」

 

リューを追い詰めるエレンは、面白そうに、おもちゃを見つけた子供のように、無邪気にリューを追い詰める。

 

「君たちの正義とは、一体何だ?もし答えられないのなら…君たちが正義と呼んでいるものは…とても歪で…醜悪なものだ。」

 

その一言に、リューの堪忍袋の緒が切れた。

 

「貴方はあぁァァァァァァ!!!!」

 

「リュー!!」

 

掴みかかるリューを止めて、ベルが神に割と本気の殺気を飛ばす。

 

「見たかったものは見れたか、悪趣味な変態め。」

 

しかしベルの殺気すらも、飄々と躱してエレンは嗤った。

 

「ククク…神は往々にして変態なものだ少年。では、君にも問おう。」

 

予想外の流れ弾に、ベルは目を見開いた。

 

「……正義がなにか、ってやつ?」

 

「そう、君も正義の派閥。なら、君はなぜ戦う?君達が掲げる正義って、何?」

 

標的が自分に変わったのだと気づき、未だ興奮状態のリューを抑えながら、ベルは口を開いた。

 

「自分が住む場所の治安は良いほうが良いに決まってるし、その地域で泣いてる人が多いのも、不幸な人が多いのも、なんか気分が悪いだろう。でも、僕にはそれを解決する力がある。目の前で死なれれば気分も悪くなる。」

 

「うんうん…それで?」

 

「だから戦う。」

 

ベルのあまりにも単純な言葉に、エレンは目を丸くした。

 

「…え、それだけ?」

 

「それだけじゃ、駄目なの?」

 

随分と単純な理由に、エレンはやはり目を丸くしていた。

 

「戦う理由なんて、それで十分だ。そもそも…正義…いや、主義主張や思想の行き場は理想。やりたいからやる、助けたいから助ける。こうしたい、こうなって欲しい、だからやる。誰かにその在り方を否定されるものじゃないし、その想いを否定する権利なんて誰もが持ち合わせていない。その理想(想い)を、ほんとうの意味で貫けるのなら、それはなんだって『正義』と呼ばれるだろう。」

 

「……それが殺戮であったとしても、お前は正義と呼ぶのか?」

 

「殺戮をもって正義を成した偉人は多くいる。僕は肯定しよう。けれど、理想が数多くあるように、それと相対する形の理想は存在する。」

 

「闇派閥とオラリオのように…か。」

 

「闇派閥がどんな思想を掲げてるか知らないけど、死にかけたくらいで惨めったらしく命乞いをする女が幹部な時点で、たかが知れてる。」

 

「貴方、ヴァレッタを仕留めたのですか!?」

 

「うん、その辺に捨ててきちゃったけど。」

 

「す、捨ててきちゃった!?」

 

ま、悪に【正義】がないとは言わないけどね。そう言葉を切るベルに、エレンはニンマリと嗤った。

 

「なるほど、ありがとう…君達は面白いね。」

 

「別に、お前を楽しませる気はない。あと僕はお前が嫌いだ。」

 

「残念、声が似てるから仲良くなれると思ったのに。」

 

「ふん…行くよ、リュー。時間を無駄にした。早く救助に入ろう、アストレアが治療派閥を呼んでおいてるはずだから。」

 

「ッ!……わかり、ました…」

 

「全く…趣味の悪い神もいたもんだ。しかもこんな時に…」

 

浮かない顔をするリューを引っ張って、吐き捨てるように呟いたベルに、リューは力なく尋ねた。彼を偽名で呼ぶ事すらも忘れて。

 

「クラネルさん…私たちは…間違っているのですか…?私たちの掲げる正義は、醜いものなのですか…?」

 

「さぁ?視点の違いでしかない物だし、僕が正解を出せるものじゃない。君が、見つけるしかないんだ。君達の、君だけの正義(想い)を。」

 

「私…自身の…」

 

「……迷うんだリュー、悩むんだ、大いに葛藤するといい…それが、人というものだ。先はまだ長い、思う存分悩むといい。それで、自分の答えを見つければいい。」

 

消え入りそうな声で問いかけると、ベルは優しく微笑んだ。今の君には、それが必要だろう。そう呟いた。

 

 

 

『殺戮』をも正義だと言える彼の言葉は、リューには酷く冷酷に、酷く強いものに聞こえた。

 

彼は間違いなく善人だし、彼の思想には1本筋の通ったものがある。弱者を守る意志も力もある彼が、正義の体現者だと言われても疑わないのに。彼は己が正義ではないと語った。

 

それは、その醜さを理解していたから?

 

掲げてきたはずの崇高な正義は、視点を変えれば酷く醜いものに見える。リューはその言葉を否定しながら、同時に理解してしまっていた。

 

だからこそリューには、己の考えが正解と言えるのか、わからなかった。

 

縋るように握り返した手を、ベルは強く、確かに握った。

 




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