疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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第9話:真意

作戦当日。都市全体が、ピリついた空気を纏っている。それもそうだろう。今日この暗黒期と呼ばれる時代を終わらそうとしてるのだ。

 

「アリーゼ、全員配置についた」

 

「輝夜、敵に動きは?」

 

「全くといっていいほどない。静か過ぎて、何かあると勘ぐってしまう。」

 

「……そう、でもいくしかないわ。今日何としても…闇派閥の拠点を落とす。それと…リオンは?」

 

「…まだ、整理出来ていないらしい。青二才…と、今回ばかりは余り責められん。」

 

目の前でベルが消えた事実。止められなかった己の無力さ。殊更に彼と接触していたリューには、酷なことだった。

 

リューの顔色は、いつもの雰囲気よりもずっと暗い。傍目から見てもあからさまな変化で、アーディは気を使うように声をかけた。

 

「ねぇ輝夜…何かあったの?これから作戦だし…大丈夫?」

 

「アーディか…あぁ、問題ない。ただ少しな…あの男が行方をくらました。」

 

「あの男……もしかして、アルクメネ君?なんで?」

 

「さぁな…ただ、あのポンコツとは夜中に会っていたらしいが…クソっ…やはりあちら側だったと考えるべきか…」

 

唯一普通そうに振舞っていた輝夜に声をかけたのだが、相当の動揺がみてとれる。彼の存在、いや、彼の力はそれ程までに強かったということだろう。

 

アーディがリューを見遣れば、ほかのメンバーよりも酷い顔色をしていた。

 

(リオンにとっては…多分それだけじゃなかったんだろうけど…)

 

初めて特別な感情を向けてくる人間。初めて自分の手を取れる異性。彼は、リューに残せるだけの爪痕を残してしまった。

 

「んー…どう転んでも、敵になる…は無いと思うんだけどなぁ……」

 

「ふん、どうだかな……いや…そんなことはわかっている。わかりきっている…あの男は天然の英雄だ。見たことも無い程に純粋な英雄だ。救いたいものを全て救い、手を差し伸べたいと思ったものに手を差し出す権利と力がある。アレはどうあったとしても、悪に堕ちることは無い。」

 

「ならどうして…?」

 

「最後に言ったらしい奴の言葉だ。『これから君たちを絶望が覆うだろう。だが決して折れるな』…まるで、自分でその絶望を齎すように聞こえる。」

 

「…確かに…そう聞こえなくはないかも…」

 

「奴が残した置き手紙にも…まるで己の屍を乗り越えろ、のような言葉もあった…十中八九、敵方に回ったと考えるべきだろう…!」

 

「……じゃあ、彼は…何を思って向こうにつくんだろう。」

 

「それが全くわからんからこうなっている…」

 

そうなれば、彼が敵に回ったと考える事が妥当だろう。ならばなぜ?先日話しただけだが、彼は英雄と呼ばれる部類だろう。そんな彼がリューたちを見限るとは思えなかったし、彼の中にある心情は限りなく善に寄ったものだ。名のとおりに、彼の中にはある英雄が息づいている。

 

それを感じ取ったのは、アーディだけだったのかもしれない。

 

「リオン!」

 

「……ぁぁ…アーディ…」

 

この落ち込みようは、予想外にキているようだ。これを正すのは、きっとアーディ(道化)にしか出来ない。

 

彼女の正義は、笑顔なのだから。

 

「リオン、彼は何て言ってた?」

 

「……友を救いたいと願うなら…強く、なれと…」

 

「ならさ、強くなろう!彼が驚くくらいに強くなろう。それで、彼をまたここに連れてこよう!」

 

「でも…彼は…もう……」

 

「リオン?不透明な未来に絶望しないで。正義を掲げる私達が、希望を忘れてはいけない。折れてはならない。君の覚悟は、その程度のものだったの?彼はそれを望んだ?」

 

「……違う…違う、はずです。」

 

「なら、君は彼の望むようにならなくちゃ。力が必要って言うのは、間違いないんだから。」

 

そう告げれば、彼女の目にほんの少しの力が宿る。正義の翼を幻視するほどの憧れに近い背中が、リューにほんの少し力を分け与えた。

 

「…アーディ。私たちは…彼の正義はいったい何が違うのでしょうか…」

 

「…それはわからないけれど…彼にはなにか目的があった。それも明確で、私達よりずっと具体的な。」

 

「目的…私達には平和をもたらす目的がある。それは、不透明だというのでしょうか。」

 

「それは違うと思うんだけど…彼の手段が私達の手段と重ならなかっただけ…そう考えるしかないかな。直接彼に聞いたわけじゃないから。」

 

この問答には明確な答えがない。正義の形がそれぞれであるように、目的を成しとげるためには相応しい手段があり、それは枝分かれするように多岐に存在する。

 

だから、ベルの手段とリュー達の手段が合わないことは不思議なことではないということだ。

 

しかし、アーディはそれにしても不満げに頬をふくらませた。

 

「まったく…アレだけの事を公衆の面前で言っておいて、リオンを放ったらかしにするなんて!酷い男だ!」

 

「え?なになに?あの子リオンに何言ったの?」

 

「あ、アーディ!!それはアリーゼ達には絶対言わないでください!よ、夜だって、彼は、私を…………」

 

「…え?なに?なんでそこで止めるの?凄く気になるんだけど!?彼何してったの!?」

 

頑なに夜のことを語らないリューに、更にベルが何をしたのかを気にして質問攻めにされるも、リューは無言を貫いた。

 

(い、言える訳ありません…!だ、だだっ、抱かれたなどと…!見えます…言った途端にからかい始めるみんなの姿が…!だっ、ダメです!動揺してはいけません…作戦直前…落ち着かなければ…!)

 

今更になって夜の出来事を思い返して、耳の先まで赤くするリューだったが、今は気を張るべきと頭を振って夜の出来事を吹っ飛ばした。

 

「…アーディ。」

 

「なに、リオン?」

 

「勝ちましょう、生き残りましょう。」

 

「うん!」

 

そう誓った少女達は正義を掲げ、巨悪に立ち向かう。

 

絶望の気配がゆっくりと、その手を伸ばす。

 

そして、時は来る。

 

 

さぁ、開幕だ、オラリオ。

 

 

「突入ッ!!各自標的を無力化し捕縛しろ!!!」

 

シャクティの合図と共に、敵施設に雪崩込む。

 

「本体は速攻で奥まで行く!みんなは露払いをお願い!!」

 

『了解!』

 

「通路奥!あと上!来るぞ!」

 

「任せて!」

 

「青二才!右をやれ!逆は私が仕留める!」

 

「言われなくとも…!」

 

アリーゼが、輝夜が、ライラが、アーディが、そしてリューが八面六臂の大暴れをしながら、敵を無力化する。

 

「────【ルミノス・ウィンド】ッ!!」

 

敵の断末魔を掻き消す風の爆弾が、敵を殲滅する。

 

「ったく、本職でもねぇのに、ホント馬鹿げた砲撃!こりゃ楽勝だな───と、言いてぇとこだが…」

 

「あぁ…うまく行きすぎている。」

 

「何かある…そう考えて動くべきだろう。」

 

各ファミリアの頭脳とも言える三人が、この進み具合に疑問を持ち始めていた。あまりにも順調すぎる、現状とは裏腹に、あまりにも胸騒ぎがする。どうしようもないほどの、不安と焦燥に駆られながらも、本体は最深部へと到達した。

 

そこには、一人の女が立っていた。

 

「フィンがいねぇ…ハズレか…にしても、ここまで来んのが速すぎんだろうが。電光石火どこじゃねぇだろ。」

 

そこにいたのは、先日の早朝に逃げ出したヴァレッタだった。

 

「表情と顔が一致してねぇぞ。せめてその気味の悪い笑みくらい消せよな…何を企んでいやがる。」

 

「さぁなぁ?お前たちをぶち殺すための算段じゃねぇか?」

 

下卑た笑みを浮かべながら、到着を心待ちにしていたとでも言うような、そんな余裕の含まれた笑みに、ライラがきな臭い何かを感じ取る。

 

「出ろぉ、テメェ達!!」

 

「っ、伏兵!」

 

その声を合図にして、伏兵が続々と出てくる。その数は、一気に部隊の人数を超えるほど。しかし、誰の思考でもここまでは予想ができる。あの余裕なら、伏兵くらいはあるだろうと踏んでいた。だが、それを加味しても余裕にすぎる。

 

そこからは乱戦に持ち込まれた。しかし、質はこちらが圧倒的に上。よく観察すれば恩恵を持たない信者も混じっている。

 

(臭ぇ。超臭ぇ…!あたしはフィンじゃねぇが…どうしようもなく臭う!)

 

一挙手一投足を見逃さないように、ライラは気を張らせていた。

 

そんな中、運命の刻。

 

次々と湧いてくる闇派閥を、リューは荒々しく切り払い、変わらない状況に歯噛みした。

 

「ハァっ!!これではキリが───アーディ…?」

 

リューが見つめる先には、アーディと信者の子供が写った。

 

「ぁ、あぁぁぁぁっ!!」

 

「こ、子供…!?こんな幼い子まで巻き込んで…っ!」

 

ナイフを振り回す子供に、アーディが声をかける。優しく、落ち着かせるように。その姿を見て、彼女らしいと苦笑して、リューは再び敵に目を向けようとした瞬間。

 

『仲間を救いたいのなら…戸惑うな。迷うな。』

 

昨夜のベルの言葉がフラッシュバックした。

 

(なぜ…今、あの言葉を…?)

 

そう考えた時、呻きながら身を捩らせた信者のローブの隙間から、あるものが見えた。

 

(……導線でつながった火炎石…?─────まさか……ッ!?)

 

リューの中で、全てがつながった。

 

今まで闇派閥が襲っていた場所、被害時の爆発の原因。そして、この異様な数の信者の存在。

 

すべて繋がったリューの頭の中で、また彼の言葉が流れた。

 

『運命に抗い、友を救いたいと、その傲慢な迄の願いを抱くのなら…強くなれ。』

 

彼は、この結末を暗に教えてくれていたのだ。彼は、最後にリューに残してくれていた。この絶望的な未来を覆す覚悟を。

 

「ッッ!!!」

 

迷うことなく、駆けた。アーディのもとに。

 

「私は、君を傷つけたりしない…だから、武器を置こう?君のような幼い子に、武器を持たせる大人の言いなりになっちゃダメだ!」

 

「…………か……かみ、さま…」

 

「ほら、おいで?」

 

アーディの言葉に従うように、武器を捨てた少女に、アーディは微笑みながら、わかってくれたと近寄った。

 

その少女の瞳が、虚ろに濁った事も知らずに。

 

「アーディッッ!!」

 

「リオン?────ぇ……?」

 

背後から飛ばされる叫びに振り返れば、鬼気迫った表情で、こちらに向かっていた。

 

そんな中でも、アーディの傍に立ち尽くす少女は、ただ指示通りに撃鉄装置に指を掛ける。

 

家族を失った少女の世界は、灰色に染っていた。闇派閥の神とも知らず、悪とも知らず、ソレに従うしか無かった。

 

「ぉ、とう、さんと…おかぁ、さんに…会わせて、ください……」

 

「────ひゃはっ…!」

 

その光景を眺めていた女は、嗤った。

 

彼女の心はただ、家族だけを求めていたのだから。

 

撃鉄装置が、火花を散らす寸前。

 

リューの思考が加速した。間に合わない、運命は彼女という、未来の英雄を逃さないのか。

 

咄嗟だった。もう、これ以外に手が存在しなかった。

 

リューは、剣の鞘を槍のようにして、少女目掛けて投げつけた。

 

アーディの目の前で、少女の体に高速でぶつかる鉄の鞘は、恩恵も何も無い身からすれば馬車と正面衝突した事と何ら変わりはない。

 

そのまま吹き飛んだ少女に手を伸ばし、アーディから少し離れた瞬間に、爆ぜた。

 

「────ッ!?」

 

「ッ!?なんの音だ!!?」

 

「ぐぅっ!?アーディ、無事で……!」

 

真横で起きた爆発に吹き飛ばされ、アーディはリューを目掛けて吹き飛んできた。それを受け止めて、アーディの状態を確認して、言葉を失った。

 

左半身の火傷が酷く、皮膚は黒く炭化し、それ以外にも身体中に瓦礫が突き刺さっていたが、幸いと言えばいいのか、爆発の熱風によって傷口が溶けて塞がっていた。

 

「アーディッ、アーディ…っ!」

 

だが、生きていた。

 

彼は知っていたのだ、この未来を。ともすれば救えなかった彼女の命。スキルだったのか、それともまた別の理由なのか。それは分からなかったが、彼はリューにこの事を教えてくれていたのだ。

 

「リオンっ、無事か?!アー、ディ……全員ッ、信者たちから離れろ!!自爆するぞッ!!」

 

「チッ…運がいい女だ…だが、花火は…上がったぜ?」

 

だが、地獄はここからだ。絶望はまだ序章に過ぎない。

 

その少女の爆発を合図に、空気が変わった。

 

「この身をもって…罪の、清算をっ…!!」

 

「何をするつもりだ!?」

 

まず、ひとりが爆発。

 

ひとつ、2つ、3つと爆発が重なる。

 

(全敵兵一斉起爆!?建物ごと私たちを押し潰すつもり!?)

 

「一発目が合図だ。もう、止まらねぇ!!じゃあな、冒険者共……くたばりやがれ。」

 

増えて、それが倍になった。

 

「リオン!輝夜!脱出っっ!」

 

「くっ…!!シャクティ!アーディを!!」

 

「わかった!総員撤退!!撤退!!」

 

シャクティの言葉で、ガネーシャ・ファミリアが撤退を始め、全ての人員が爆発に巻き込まれかけがらも、施設から逃れる。

 

撤退するしか無かった状況でも、輝夜は悔しさに奥歯を噛み締めた。

 

未だ爆発音が鳴り止まぬ中、全員が周囲を警戒しつつ生存者の確認を急いだ。

 

「くそっ!逃がした!あの女……!」

 

「悔いても仕方ないわ。今は、生きている事を喜びましょう。被害は?」

 

「ウチの被害はほぼねぇよ。ちょっと火傷したくらいだ。ガネーシャの方は、割と食らっちまった。」

 

「……ぁ、あぁ…6名の死者…7名の重傷者…あ、アーディも…リオンがいなければ…」

 

声が震えているシャクティだが、何とか普段通りに振舞っている。それもそうだろう、唯一と言っていい肉親が死にかけたのだ、こうもなるだろう。

 

「…シャクティ…それにしても、リオン。よく気づいたわね。お手柄よ!」

 

「…いえ……私では…ありません…」

 

「え?」

 

「彼、です…彼が、この危機を教えてくれていた…」

 

「彼……もしかして、アルクメネ…?爆弾のことを知ってたってこと?」

 

その言葉に、リューは首を横に振った。

 

「どういう意味だ…やはり、奴は向こう側と繋がっていたということか?」

 

「…本人に、聞かなければ…問いたださねば…!彼を、探しましょう…!」

 

「そうね────待って…どうして、まだ爆発音が聞こえるの?」

 

リューの言葉に頷いたアリーゼは、おかしな感覚を覚えた。

 

アリーゼの言葉に全員が耳を澄まして、音の発生源を辿った。初めは、まだ施設内の爆弾が爆発しているのだろうと考えていた。

 

しかし、違う。

 

四方八方から響く爆発音が、微かに聞こえる悲鳴が、その予想を否定する。

 

「この…爆発音…どうして、町中から…!?」

 

「メインストリートに急げ!至急本隊と合流する!道中市民を保護しながら進め!敵の生死は問わん!遠距離から石でも瓦礫でもいい、投げて無力化しろ!」

 

『了解!』

 

(嫌な…予感がする。)

 

本調子を無理やり取り繕ったシャクティは、檄を飛ばして志気を上げる。

 

しかし、絶望は雪崩込む。

 

「────伝令っ、伝令ですッ!!」

 

「次から次へと!!今度は何だ!?」

 

煩わしげに聞き返した輝夜。アリーゼは、その伝令の顔を見て嫌な予感が過った。

 

奇しくも彼女の勘は、フィン程とは言わない迄も、よく当ってしまう。

 

 

 

 

「ロキ・ファミリアがっ……アルケイデスを名乗る赤髪の少年にっ、殲滅されました…!!」

 

 

 

 

 




最近、ダンまち2次の方で凄い方が現れた影響か、そのお零れで私まで少し伸びてて嬉しい。

感想、高評価良ければしてやってください。
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