疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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遅くなりました


第15話:運命証明

「───────アーディがいなくなった!?」

 

「あぁ……『今を私の目で見てくる』という書き置きを残して…装備と共に部屋から消えていた…!出来れば、その…警邏のついでで構わない…だから…」

 

「当たり前です…!私達も捜索を手伝いますシャクティ。」

 

輝夜達がアルケイデスと遭遇した2日後。焦った様子でアストレア・ファミリアの元に来たシャクティが、頭を下げていた。

 

「お前たちも、大変な事は重々承知している…!だが、どうか頼む…!」

 

「いいのよ、私達もアーディとは友達だもの。力を貸すわ!」

 

「恩に着る…!!」

 

そうして、足早に去っていったシャクティを見送り、リューとアリーゼはホームのリビングに戻る。

 

「平気かしら、アーディは……」

 

「そう、ですね……装備も持たないと言うのが心配ですが……」

 

「あの子、心がやられてたんでしょう?ならどうしてこんな行動に…なーんか、唆された様な気がするのよねぇ……」

 

「……そんなのだれが、何のために………あっ」

 

「多分私、あなたと同じこと考えたわ。」

 

呆れたように笑った2人の会話に割り込むように扉が開き、静寂が流れ込んだ。

 

「─────十中八九、アルケイデスだろうな」

 

それはアルフィア。ここに来てまだ2日なのに既に実家の様に我が物顔でホームを闊歩している。

 

「アルフィア!どうかしら、たのしいの?妖精イジメ。」

 

「人聞きの悪いことを言うな。向こうから頭を下げてきたんだ。それに、もう終わった。」

 

まったく、自分たちがいなくなった数年で随分とサボっていた物だと、溜息を吐き出して、ソファーに涅槃仏のようにどっかりと寝転がった。

 

「……態度でっかいわね、寝てるのに聳え立ってるわ!バベルのように!!」

 

「一応ほぼ初対面のホームでよくもそこまで……」

 

「もはや私も貴様ら派閥の一員だ。現に、主神には自由に使えと言われている。」

 

そう、アルフィアは猫の手も借りたいギルドの計らいで事実上移籍という扱いになった。

 

本来は追放されている扱いなのだが、今この状況下で敵を増やすのは愚行にすぎると、フィンが見なかったことにすると静観を決め込んだ。

 

そして、唯一アルフィアが「お前なら仕えてもいい」と言ったアストレアの元に半移籍という形になった。

 

「だからといって、それほどまでくつろげるのは……」

 

呆れに近い諦めの言葉に、アルフィアはさして反応することも無く寛ぐ。

 

少し脱線した話を元に戻すように、リューがアルフィアに訊ねる。

 

「────しかし、なぜ彼女を……」

 

「さぁな。なにか思うところがあるのか……はたまた、その小娘の正義を完全に否定してやる魂胆かもしれんな。」

 

そうアルフィアが言っても、アリーゼはやはり首を捻った。

 

「……んー、というか無理があるのよね〜。」

 

「……無理がある?」

 

よく考えてみて?と、アリーゼは思い返すように指を立てた。

 

「いや、あなたの事を知ってる感じに語ってたし……もしあれが全部演技と仮定したって、リオンの事を知りすぎだと思わない?」

 

「だから無理があると…確かにそう、ですね……調べていたにしても、おかしいほど知っていた。わ、私の…ほ、ホクロの位置まで……」

 

「おい、待て。なんだその話は。寝たのか貴様。」

 

「寝っ!?寝てませんッ!!」

 

怒気を発するアルフィアに、首をブンブン左右に振るリューを無視して、アリーゼは続ける。

 

「だから彼…本当はこんなことになるはずじゃなかったんじゃない?あの夜…彼が消えた夜に、何らかの理由で私たちと敵対する事になったと考えるのが自然じゃないかしら。」

 

二人の会話を聞いていたアルフィアは全部当たってるな。と心の中で呟く。

 

とはいえ、ベル自身こんなめちゃくちゃな筋書きを辿るつもりはなかった。裏切り者アルクメネとして行動するつもりだったものを、エレボスが直前になって

 

『どうせだからさ、お前の正体アルケイデスってことにしない?絶対その方が面白……いいと、俺は思う』

 

『…………え……いや……いくら僕が頭良くないとはいえ、それが滅茶苦茶な事だけはわかる。』

 

と巫山戯半分で口にした事から始まってしまった。しかし、ベルを置いてシナリオは順調に作られた。確かに、演じることが出来れば性格や口調は隠せるし、この時代のベルに迷惑をかけることなく終わらせることが出来る。とか、なんとか言っていたが茶番でしかない。

 

まぁ、この場で真相をアルフィア以外知る由はなく、様々な憶測が飛び交った。

 

しかし、あれはベルもベルだ。口が上手くないのか、あれよあれよと丸め込まれこんな演技をする羽目になったのだ。

 

よくあれで今まで無事でいられたものだと過保護になりかけた。どうやら、腕っ節に振り切った分言語能力に重大な問題があるようだ。周りの保護者、先達が苦労するさまが目に浮かぶようだった。

 

だからほんの少し、ほんの少しだけ、指導を優しくしてやった。丁寧に、手とり足とり教えてやったのだ。

 

「──────煩い。貴様らもだべっていないで強くなる意欲位は見せてみろ。」

 

『ギャンっ!?』

 

盛り上がる議論をBGMにしていたアルフィアも、いい加減やかましい、とゴスペルパンチ(ゲンコツ)を落とし、小娘共を纏めて外の演習場に放り投げる。

 

「いったいわね!?私、一応あなたの団長になるのよ?!」

 

「あっ、頭がっ…!!アリーゼっ、頭が無くなりましたっ!!」

 

「落ち着きなさいリオン!ちゃんと頭はついてるわ!!」

 

コントを披露する2人に、呆れることもせず、アルフィアは続ける。

 

「もう時間は残されていないだろう。あと数日であの大英雄と最低限渡り合えるだけの戦力にならなくてはならん───────それも乗り越えられなくば、友など救えまい。」

 

事実上の死刑宣告に、2人は顔面を蒼白にしながら、けれど武器を構える。友を救わんとするその覚悟だけは一端だと、アルフィアは冷たい表情に、若干の柔らかさを見せた。

 

木製の水筒を煽り、アルフィアは不遜に鼻を鳴らす。

 

「さぁ、覚悟しろ。地獄開始(修行開始)だ。」

 

 

 

「っくぅ……アルフィアめ、手加減してこれか…っ…」

 

「……………死んだと、思った。」

 

黄昏の館、そのホームの会議室で既に死に体のリヴェリアとアイズを眺め、フィンとガレスは大いに同情の眼差しを向けた。

 

「ははは……おつかれ、2人とも。」

 

「良くぞあの地獄を乗り越えたもんじゃ…まだ、一日だけじゃがな!」

 

「それは、言わないでくれ……もう、魔力を練れんのだ…自分で頼んでおいて情けないがな…」

 

ぐったりとソファーに倒れるリヴェリアは、アルフィアとの訓練でボロボロ、アイズに至っては普段よりも無気力そうにだらけている。

 

「……だが、足りないところはわかった。やはり…実りはある。」

 

「前よりも、ずっと強くなってる…」

 

しかし、確かなステイタスと実力の向上に、二人の目は死んではいなかった。

 

「小競り合いのことは気にせず、君達は特訓に専念してくれ。」

 

「……しかし、本当にいいのか?私達主力がそこまで自由にしていて。」

 

「ワシのレベルアップを忘れたか?この身一つで都市中を駆け回ろうと汗ひとつかかんわ。」

 

「それほどまでに、アルケイデスの戦いは意味のあるものだったということだね。僕も……チャンスがあれば、また彼に挑む。」

 

グッと握り拳を作ったフィンに、リヴェリアは、以前から感じていた印象を吐露する。

 

「……やはり、彼は……敵、なのだろうか。」

 

「……アルケイデスのことか。」

 

赤毛の英雄。未だ目的がハッキリとしない彼は自由に動き回り、気ままに冒険者を叩きのめして去っていくを繰り返している。

 

しかし、リヴェリアにはそれが余計に不自然に思えた。

 

「彼の眼差しに、闇派閥にある悪意や殺意といった感情はない。言葉こそ鋭いが、全てが我々の糧になる助言だった。」

 

リヴェリアの言葉に無言を貫くガレスは、その意見にどこか理解を示すように顔を伏せた。

 

「……彼の目的は未だ不明だ。僕たちを強くして、その先に破滅をもたらす企みも否定はできない……その逆もまた然りね。」

 

あくまで、あの少年は敵であり悪の一員である。この事実は変わらない。

 

しかし、フィンとしても判断に迷っていた。

 

未だ、彼が直接的に殺した人間はほぼ居ない。区画ひとつが吹き飛ぶなど、街への被害は半端ではないが、人命は未だに取られていない。確認できていないだけかもしれないが、多分いない(・・・・・)

 

勘と言われればそれまでだが、それでもフィンには確信めいたものがあった。

 

「とにかく、今君たちは強くなってもらわなきゃならない。特に、アイズ。」

 

「えっ……私…?」

 

「あぁ、明日から深層へのアタックも許可する。そろそろ、君も時期だろう。明日、ランクアップしろ。」

 

「なっ、フィン!!?」

 

フィンからの無茶な要求に声を上げるが、フィンは冷たく制した。

 

「リヴェリア、今後重要なのは突出した戦力だ。加えて僕ら以外の、という条件付きでね。それにもう、アイズは守られるほど弱くは無い。」

 

「だとしても────!」

 

「リヴェリア、いいの。」

 

「それに、アイズを温存したとして……アルケイデスには当てるつもりは無い。」

 

フィンに強く反発するリヴェリアを、アイズが抑える。そして、フィンをじっと見つめた。

 

「……明日、アンフィスバエナを倒す。まだ、誰も狩っていないはず。」

 

「わかった。」

 

「ランクアップ……してくる。」

 

当然だと言わんばかりの強い瞳に、フィンはアイズの成長を感じた。

 

「アイズにはノアール達をつける。余程のことが無ければ大事には至らない。」

 

「…………わかった。」

 

渋々、といった様子で受け入れたリヴェリアからひとまず視線を外し、意識を思考に集中させる。

 

「……ところで、リヴェリア。先日のアルケイデスとの遭遇戦、何故あの場所にいたんだい?君の管轄は確かに近かったが…よくわかったね?」

 

「先日…あぁ、アレか。確かラウルがロキからの指令であの場所に行った筈だ。」

 

リヴェリアの言葉に少し考え込んだフィンは、より目を細める。

 

「ふむ…そうか…。」

 

「…?どうした、フィン。」

 

「いいや……少し、ね。」

 

思えば不自然だ。アルケイデスは、フィン達の前とあの少女達(アストレア・ファミリア)の前以外には、不自然なほど現れない。

 

思えば初遭遇時もそうだ。彼は、自分達の前にしか現れていない。他に遭遇したファミリアは報告されていない。

 

彼との問答の時も、初めから彼はそこで何かを待っていた(・・・・・)

 

それが仮に自分達であったとしたら────情報が漏れている?このファミリアに、信者が紛れ込んでいるのか?

 

(ありえない……僕やロキを騙しながら情報を流すなんて……いや…だが、まさか………)

 

自然であり、的確な指示。それが、逆に不自然さを形作る。まるで引き合わせているような意図が、フィンをより思考の海に引きずり込んでいく。

 

遠ざかる軽い足音が、道化のように笑った気がした。

 

 

 

 

 

アルケイデスと行動を始めてから3日。アーディは、今のこの都市を、人を眺めてきた。

 

けれどその光景は、彼女の望む巡る正義などありはしない、酷く独善的な世界だった。

 

助けられたはずの民衆は、いつしか冒険者を責めるようになり、一部は石を投げた。

 

いつ、この波が伝播して、大きな濁流となるのか。もはや時間の問題だろう。

 

これが、本当に守るべき自分の正義なのだろうか。

 

けれど、一番に失望したのは何も出来ない自分自身。

 

そう俯いていたアーディに、確認したいことがある。そう告げられ、アルケイデスに街の端にある廃工場まで連れられたアーディは今、生きた心地がしなかった。

 

そこは、ある闇派閥の巣。特に危険視されていた二大ファミリアの拠点のひとつだったのだ。

 

そんな場所のど真ん中で、彼は突然近くにいた団員を殴り飛ばした。

 

『少し付き合え、ゴミ共。』

 

そう言って始まったのは数による蹂躙─────ではなく、圧倒的な強者による鏖殺だった。

 

文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げ。と言うよりもぶん殴ってぶっ飛ばし、ぶん殴ってぶっ飛ばし、という表現が正しいだろう。

 

すっかりと静まってしまったその場で、アルケイデスの靴音だけが響く。

 

血塗れた拳を振り払って、転がる人の上に立つ赤い影は、己の拳を見つめながらやはりかと呟く。

 

その後ろで、戦々恐々と震えるアーディは、目の前の少年の強さに震えた。

 

「が…っ………ぁ……─────」

 

「な………ぁっ………っ!?」

 

「…………ころ…して、や………っ…」

 

「……ここまでやっても、生きてるんだ…やっぱり。」

 

最後まで食らいついていたこの中では割ともった方のエルフの少女2人と男を蹴り飛ばして、その3人が気絶するまで、呆然と立ち尽くしていた。

 

転がっているのは闇派閥、しかもその中でも上位のアパテー・アレクトーの構成員なはずだ。倒れている中には、首に懸賞金がかけられている者も見える。

 

全員が第1級並の実力者。それが10枚以上に、アーディを守りながらと言う制限付きの中で、本人申告ではあるが、利き腕では無い右腕1本での鏖殺。

 

「貴様っ!なんのつもりだアルケイデス!!裏切るつもりか!?」

 

「……裏切り?もとより貴様らの軍門に下ったつもりは無い。契約上あくまでオラリオと敵対しているだけ……手を組んだ覚えも無い。利用できるから利用する、お前たちもそうだろう。」

 

吠える残っていた下っ端を冷たく一瞥し、いくよ、とアーディの手を引いて歩く。

 

「貴様…っ!団長達に手を出しておいて、タダで済むとでも…っ」

 

「力の差も、理解できなかった?」

 

「───────っクソッ!」

 

一瞬でアルケイデスの殺気に気圧され、尻もちを着いた男をつまらなそうに眺めた後、アルケイデスはズンズンと進む。

 

「あ、アルケイデス…!君は、何がしたかったの!敵だったとしても、あんなになるまでやらなくても…!」

 

そんな彼を非難するように声を上げるアーディになんでもなさそうに視線を向けて、アルケイデスは尋ねた。

 

「……君から見て、Lv5の冒険者が僕の攻撃を食らって…生きていられると思う?あの中にはLv3もいた。」

 

「…そんなの、生きていられるわけが無い!君の攻撃なんて、ほとんど一撃で…───────あ、れ?」

 

そんなもの、見ていればわかる。と口にしようとして、違和感に気付く。あの中の1人でも、死んでいた人間がいただろうか?

 

「そうなんだ。今、このオラリオにいる冒険者なんて。僕が少しその気になれば一撃で殺せる。さっき、僕はその気だった。」

 

「……でも、誰も死んでなかったはず……」

 

そう、先程の戦闘。ベルは闇派閥を殺す気でいた。一撃一撃しっかりと。

 

「それでも、死ななかった。これで確信した……僕は、この時代の人間(・・・・・・・)を殺せない。間違いなくどこかで、正しい流れに戻されてる。」

 

ヴァレッタに魔法を使った時、既に予感はあったのだが、まさかここまで強力な修正力だとは思いもしなかった。

 

「……この、時代の人間……正しい流れ…?君は、一体…」

 

アルケイデスの頭の中で流れるのは、大抗争の最中、救ったはずの住人たちの亡骸。きっと、ずっと前に死ぬはずだった運命を、幸運が遠回しにしたに過ぎなかったのだ。

 

虚しいものだ。救える筈なのに、どうやっても救えないと言うのは。

 

そう考えて、アルケイデス─────ベルはいいやと頭を振った。

 

もとより、あの契約を結んだ時から人を手にかける覚悟はできていた筈だ。なるべく避けようとはしたが、自分が動いた反動により手痛いしわ寄せが来るよりは、ずっとマシだったのだろう。

 

けれど、いくらかセンチな気持ちになってしまう事は、避けられなかった。

 

そんな彼を導くように、自然と足が向かっていた場所は、(メーテリア)が大切にした教会だった。

 

「ここ……初めて会った時、君が倒れてた…」

 

「…その時僕は寝てたけどね………っ!…ふふっ…お見通し、か。」

 

教会に入って暫く、ベルは祭壇に置かれた紙切れを手に取って、年相応に笑った。彼がそうまで優しく笑うところを見たのは、リューと一緒にいたところを見た時以来だ。

 

紙を雷で燃やして、アルケイデスはボロボロの長椅子に腰掛けた。それに倣うように、アーディも端に腰掛ける。

 

「………この3日間。僕たちはこの都市を見て回った。」

 

「………うん。」

 

正直、成果は無いに等しい。けれど、最後の段階まではもう時間が無い。

 

賭けるなら今日。

 

闇派閥の一部は我慢の限界、騒ぎがあるだろうと報告も受けている。けれどどれも不確定の物だ、しかしベルには予感があるのだ。間違いなく、今日が彼女の分岐点になると。

 

「───────さぁ、君の答えを聞こう。」

 

きっと、彼女の決断で、運命が動き出す。

 

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