疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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第5話:目覚めよ【前】

現在、7人は18階層に存在する冒険者の無法街。リヴィラの街に居た。しかし、いつもと違い冒険者の喧騒が少ない。フィンが感じた異質さは、決して気の迷いなどではなかった。

 

「…殺人事件か…」

 

街の中で(・・・・)は珍しいな。」

 

リヴェリアは、チラリとベルを見る。

いつも通り無表情のまま、ティオナの隣でウトウトしながら欠伸を1つしていた。

 

大した胆力だ。純粋にそう思ったが、ベルの挙動にリヴェリアは目を見張った。

 

(…この状況下で、どんなときも油断はしていない…常に防御の考えを頭に置いている…)

 

歴戦の戦士ですら、仲間がいれば油断も少しするというのに、ベルは油断の欠片もなかった。

 

関心と共に、リヴェリアはため息をつく。

 

(アイズと違って、手がかからないのはいいが…まったく、可愛げが無い…)

 

ほんの少しだけ苦笑してから、リヴェリアは進言する。

 

「フィン、あの子達も現場に連れていこう。」

 

「珍しいね?少なくともベルは遠ざけると思っていたけれど?」

 

いつもならばそうしただろう。しかし、リヴェリアはこの先を見ていた。

 

「…確かに、そうだな。いつもの私なら参加すらさせなかった。もしかしたら、常に傍に置いて守っていたかもしれない。だが、変わる時なのかもな…」

 

「…なるほど、君なりに考えがあるわけだ。よし、ベルは今後の幹部候補だ。経験をさせておくに越したことはない。」

 

そうして、2人は5人を連れて現場へと向かった。

 

 

 

 

 

「ベル…平気?」

 

「血の匂いには慣れてる。それに、新しい装備もあるから、油断はしてない。」

 

左手をグッと握り、新しい篭手を2人に見せつける。

 

「そうじゃなくてさ、ベル?今日隈酷いよ?」

 

「…寝れなかった。夢見て。」

 

本当に、今日のベルの目の下には、濃い隈が出来上がっていた。

 

そっかー、と軽く流すティオナだったが、ベルが一瞬黙る仕草を見せたことで、聞いて欲しくないことだと悟り、それ以上の追求を止める。

 

確かに、今日のベルは酷い隈をしていた。アイズが心配したのは、現場が平気かではなく、体調のことを気にしていたのだ。

 

「…ベル、余り無理はするな。」

 

「…問題ない。逆に調子いい方。」

 

「それならいいんだが…」

 

心配するリヴェリアをよそに、ベルはヅカヅカと現場に進んでいく。

 

「────なるほど、中々に酷い具合だ。」

 

「……ッ」

 

ベルは、室内に飛び散る血を見て、頭を押さえる。フラッシュバックの様に、思い出すのだ。

 

(まただ…また…!)

 

金髪と碧眼。その瞳からは涙を流し、ただ吠えていた。見た事が無いくらい、瞳が怒りに染っていた。

そして、ベルを見た瞬間に、その女は顔を青ざめさせて────逃げ出した。

 

許せなかった。間違いだったと気づいたのに、皆を殺した事を悔いもせず、ただ逃げ出したあの女を見ていた、あの時を。

 

どうしても、思い出してしまった。

 

「────ベル、ベル!」

 

「……リヴェリア…?」

 

リヴェリアが、目の前にいた。いや、肩を掴んで揺さぶっていたのだ。暫くの間、ベルは思考が纏まらなくなって、混乱していたが、漸く状況が掴めた。

 

「…大丈夫か?無理はするな。」

 

「…いや、昔を思い出しただけ。平気。」

 

ベルは、そっとリヴェリアから離れて、部屋を探索する。リヴェリアは、自身の手を悲しそうに見てから、死体に目を移す。

 

「…頭を潰されて即死か…」

 

「いや、ここの首。へし折られてる。圧迫痕もかなりの強さ…これは、難しい。」

 

男の死体は、無残の一言に尽きた。

 

フィンとリヴェリアが検死していると、後方からドスドスと足音が響く。

 

「おいコラ!誰だ、勝手に入りやがって…ゲッ!?ろ、ロキ・ファミリア!?なんでこんなとこに…」

 

左眼に眼帯をした筋骨隆々のいかにもな体躯をした男────ボールス────はこの街を仕切るLv3の上位冒険者。

 

ボールスは忌々しそうにファミリアのメンバーを見た後に、ベルを視界に収めてニヤリと笑う。

 

「なんだぁ?天下のロキ・ファミリアはいつから本職を子守りしやがった?」

 

「ボールス、その子に近寄るな。」

 

「そーだそーだー。あんたみたいに粗暴な冒険者になったらどうしてくれんの?ねー、アイズー?」

 

「…それは、嫌、かな…」

 

「私も…そんなベルは見たくありませんね…」

 

「…ボールスみたいになられるのはごめんね。」

 

「んだとテメェら!」

 

「「「なに?」」」

 

「なんでもありませーん!」

 

3人にひと睨みされるだけで、ボールスは萎縮する。それもそのはず、Lv差が圧倒的なのだ。

ベルは、そんな様子を見て、ボールスが自分よりも下なのではないかと思い始めた。

 

「清々しい迄の小物。」

 

「んだとガキィ!?────いや、まて、テメェは…レコードホルダーか?」

 

ベルは、その言葉に聞き覚えがなく、首を傾げてリヴェリアを見る。すると、全く仕方がない…と言う目を向けられ、リヴェリアが代わりに答える。

 

「そうだ。ボールス、この子はベル。本物のレコードホルダーだ。」

 

「おー、嫌だ嫌だ…ロキ・ファミリアには化け物しかいねぇ…おい、餓鬼。気をつけろよ?お前の所の女所帯は化け物揃いだ。とって食われねぇようにな。」

 

「…皆はそんな事しない…」

 

ベルは、ムッとした顔でボールスを睨む。ボールスは、おー怖、と肩を竦めて死体に目を写した。

 

「…そいつは、昨日の夜に女と入ってきたらしい。貸切だとよ。」

 

「あぁ…そういう事か。」

 

「…なるほど。」

 

リヴェリアとフィン、そしてアマゾネス2人と妖精、ベルは察したが、アイズだけピンと来ていない。

 

「どういうこと…?」

 

「…この2人はセッ「ちょっとベル!何言おうとしてるんですか!?」…うるさい…耳元で叫ぶな…」

 

これだからエルフは潔癖で困る。そんな事を愚痴りながら、ベルはあることに気づいた。いや、思い出したということの方が正しいだろうか。

 

「…ボールス、男の特徴は?」

 

「あぁ?なんでも、全身鎧姿だったらしいぜ?」

 

「それは銀鎧(シルバープレート)?」

 

「あぁ。それがなんだよ?」

 

ベルは、予想が当たってしまった事に、唇を噛み締めた。

 

「心当たりがあるのかい?」

 

「…1人だけ。つい一週間前も街で会った。」

 

思い出すのは、ほんの少し前の事。ベルがオラリオに来た日のこと。検問にて、彼と出会った。

ベルは、死体の手を握る。そうして、確信に至った。この節くれだった…漢の手を。

 

「手の甲にある傷…それに、この手の大きさ…この男の身元がわかった…」

 

「ベルと親交があった人物か…それで、誰なんだ?」

 

ベルは唇を噛み締めて、溜めながら口を開いた。

 

「…ハシャーナ────ハシャーナ・ドルリア。ガネーシャ・ファミリアの団員。」

 

ベルは、死体の手を見ていた時に、既に頭に嫌な予想が過っていた。しかし、いつも会う度に自分の頭を撫でていた、大きな掌を見て確信に変わった。

 

「待て!Lv4じゃねぇか!?巫山戯んな!そんな奴がこのフロアにいるってのか!?ステイタスシーフで確認する!……最悪だ、クソっ!」

 

ベルの予想は当たっていた。この死体はハシャーナその人だった。

 

「少なくとも、それだけの力は持ってると考えていいね。…ベルの予想が当たっていなかったとしても、この階層までこれる冒険者を殺すのは、なかなかに骨が折れる。僕ら程でなければ…ね?」

 

「そ、そうだ!お前達も容疑者に「それは無い」

 

ベルが、ボールスの言葉をかき消す様に呟く。

 

「このメンバーは僕と身長は同じか少し高いか。でも、証言にあった女の背格好はもう少し高いと聞いた。それだけでも充分。当てはまるとするならば、リヴェリア位。」

 

「じ、じゃあ!お前か!?」

 

リヴェリアを指さしたボールスに、ベルが素早く反論する。

 

「それもない。忘れているのかは知らないが、リヴェリアはエルフだ。潔癖なコイツら(エルフ)…しかも、その女王が、娼婦まがいのことをすると思うか?例え犯人がリヴェリアだったとしたら、もっと上手い。証拠も死体も残す筈がない。たぶん、その女は正体がバレても問題ないような、無名の強者だろう。」

 

リヴェリアは、少し複雑な気持ちになったが、なるほどその通りだと頷いた。

 

「じ、じゃあ!ほかの連中はどうなんだ!?」

 

「ティオネは特徴にあってはいるけれど、フィン大好き人間だからありえない。レフィーヤもリヴェリア同様。アイズはさっきの会話もわかってすらいないお子ちゃまだから除外。…ティオナは…その、違う。」

 

「…まぁ、そうだな」

 

ある1部を見て、ベルは目を伏せた。その行動に、せめてもの気遣いが見えたが、それが余計にティオナは辛かった。

 

「…ベル、その気遣いが痛いよ…」

 

「ご、ごめん…」

 

珍しくオロオロしながら、ティオナに擦り寄るベル。まぁ、可愛いから許そうかな。そんな気持ちにはなったティオナだったが。

 

「大丈夫。胸なんてただの脂肪の塊。たとえ貧乳でも、ティオナは魅力的だから。」

 

「ベル、後でちょっとお話しようか!」

 

「……うん…」

 

フォローしたつもりが、逆に怒らせてしまったらしい事を、ティオナの目を見て知ったベル。

 

そんな二人を見て苦笑するフィンは、真剣な表情に変えて、ボールスに告げる。

 

「…まぁ、概ね彼の言う通り…彼女達に男を惑わすスキルはないかな。」

 

「…あ、あぁ…取り敢えずこの街にいる冒険者を集めるか。」

 

「了解だ。」

 

そう言って、ベル以外の人間が出ていった。ベルは、ハシャーナの死体に寄り添い、そっと告げる。

 

「…貴方の亡骸は必ず、僕が神ガネーシャの元に送り届ける。そして、貴方の無念も…僕が晴らそう。だから、どうか…安らかに…叶うのなら、もう一度貴方の大きな手で、頭を撫でて欲しかった。」

 

手を優しく握り、ベルは最後の別れを告げる。

 

壁に立てかけていた大剣を背中にかけて、ハシャーナに背を向ける。

 

その瞳に、確かな復讐の炎を宿らせて────

 

 

 

 

「────なにこれ。」

 

もう一度言おう

 

「なにこれ」

 

目の前には女体の酒池肉林に囲まれた我らが団長フィン。そして、その女体を殲滅していくティオネ。

 

カオスだ。

外に出たら既にこの状況だ。

 

「…ひとえに、フィンの人気が高すぎるんだろう…」

 

「…有名なのも、大変なんだね。」

 

「そういうことだ。」

 

「…リヴェリアも、街でドナドナされかけたの、知ってる。」

 

「どなど…?まぁ、あんな状況になったことは…あるな。」

 

まるで、全てに諦観した様な眼差しで、遠くの方を眺めるリヴェリアに、少しだけ同情した。

そうこうしていると、突然。本当に、突然だった。

 

ベルが、詠唱を始めた。

 

 

「【轟け、雷鳴(我が名)雷鳴(我が怒り)】」

 

 

リヴェリアは、その行動に呆気に取られ、声をかけることに数秒遅れる。しかし、ベルは周囲の注目を無視して、スキルのマジック・チャージで自身の魔力を肩に担いだ大剣に込める。リィン、リィン、と鈴がなり、白い光が大剣に纏われる。

 

 

「【曇天に雷霆を宿し、吹き荒べ】」

 

 

鈴の音が、ゴーン、ゴーン、と大鐘の音に変わった時、純白の光は、稲妻を帯び黒く燻む。

 

チャージ完了

 

ベルの全身から、黒い稲妻が迸った。

 

群衆の間を縫うように駆けて、一直線にある者の目前まで辿り着き、詠唱を完結させる。

 

 

 

迅雷(ブロンテ)

 

 

 

ベルの魔法、それは純粋な付与(エンチャント)

 

Lv2と侮るなかれ、彼のエンチャントはLv5相当の敵に不意打ちをすることだって可能とする程に強力。

 

『勝てない相手と真正面からやり合うなど愚の骨頂。意表を狙い、不意をつきなさい。それが、確実な勝利に繋がる。それに、貴方は戦士や騎士ではない、復讐者(・・・)だ』

 

師の言葉を思い出し、ベルは自嘲するように笑った。

 

(────あぁ、その通りだ…!)

 

音もなく、無音で、ただ全身銀鎧(フルシルバー)の男に、全力の一撃を叩き込む。

 

大剣が、黒い稲妻を帯びた鉄槌に変わる。

 

その衝撃に、地面が陥没し、稲妻がその場に落ちたような音が轟く。

 

しかし、全身銀鎧(フルシルバー)の男は、ベルの接近に寸でのところで気づき、回避行動を取り、全力の一撃を逃れる。が、その衝撃は凄まじく、まるでボールを蹴飛ばしたように吹き飛んだ。

 

そこに、ベルは追撃をかける

 

ベルの魔法は付与。しかし、これは正解であり、間違いでもある。

ベルが先程使った効果は、ベルの魔法の副産物に過ぎない。

 

ベル本来の魔法ならば、名を叫ぶだけで効果を発揮する。しかし、ダメ押しとばかりにベルは紡ぐ

 

【其は、(カラ)の境界を穿つ断罪の雷霆(ヒカリ)。鳴り響く雷鳴の賛歌、天の勝鬨、即ち王の証明。霊王たる我が名は【天雷霊(アルクメネ)】、 我が制裁こそ天の意思!─────墜ちろッ!】

 

強化詠唱

 

それは、ベルの魔法威力を強化する特殊詠唱。

 

速攻魔法にして電光石火の如く敵に舞い降りる災害。

 

その名は────

 

 

 

雷霆(ケラウノス)ッ!!!】

 

 

 

ベルが天に向けた指先を、男に向けて振り下ろす。その瞬間。男の頭上から突如、一筋の極光が舞い落ちる。バチバチッと雷電が迸る男に、ベルは間髪入れず胴のど真ん中にチャージした拳を叩きつければ、男はそのまま壁にぶち当たり瓦礫に埋もれ、土煙が舞いあがる。

 

「─────ッ!!」

 

目を見開いたベルは、左腕に意識を向ける。

 

瞬間、男が土煙から飛び出し、剣を振りかざしてベルに襲いかかる。

 

ベルは左腕を前に出し、篭手に魔力を流す。

すると、一瞬で篭手から赤と黄金の円盾が展開され、攻撃を防ぐ。

 

ベルの新武装《運命の車輪(イクシオン)》。ベルの専属鍛冶師がもたらした、ベル専用の武装だ。

 

「アァァァッ!!」

 

空いた右手の大剣を薙ぎ払い、もう一度距離をあける。

男はさっきの攻撃など効いていないと、余裕を持った動きでそれを躱し、距離をとると、口を開いた。

 

「────なぜ、わかった?」

 

女の声が響く。

 

「…その鎧を見間違えるはずがない。何よりも────お前の被っている皮(・・・・・・)の持ち主を忘れるわけがない…ッ!」

 

確かな怒りを燃やすベルに、女は心底興味無さそうに口を開く。見た目はボロボロなはずなのに、余裕のある声音で続ける。

 

「…誤算だ。知人が居たとはな。まぁ、私の知ったことではない。お前も殺すだけだ。」

 

確かな殺気が、ベルを襲った。それは、まるでフィンを前にした時のような圧迫感。初めて手合わせをしてもらった時の事を思い出した。

 

「────来いっ…!」

 

ハシャーナの皮を被った女は、消えた。

いや、ベルの目には見えないスピードで動いただけ。しかし、ベルにとってそんな事は日常茶飯事だ。

 

一瞬のうちに、背後に気配を感じたベルは、瞬時に転身、盾を展開して防御に徹する。

 

瞬間、ガギンッ!と激しい激鉄の音を響かせながら、ベルが吹き飛んだ。咄嗟に地面に大剣を刺して威力を殺し、体勢を立て直す。そこに、女の追撃が加えられるが、ベルは盾を素早く構えてどっしりと防ぐ。

 

「────クッ…!」

 

「Lv3…それも上位と言ったところか。」

 

女はさらにベルに追撃を加える。

再度ベルは【迅雷】を唱え、身体強化を施し、更に女に与えられるダメージをチャージ、全て身体強化に注いでいた。これで、漸くまともに殺り合える。

 

女の上段斬りが、ベルに迫る。しかし、ベルは焦ること無く、盾を女の剣に叩き付けるように振り抜く。

 

この盾の本来の利用法。攻撃を受け流し、弾く(パリィ)

 

剣は勢いに耐えきれず、パリィによって弾かれ、女の上体が仰け反る。

 

「ッ!?」

 

「───────ォォォッ!!!」

 

右手の大剣を、全力で振るう。【迅雷】の付与もあり、黒い稲妻が付与された大剣が、女に襲いかかる。

 

「舐めるなッ!」

 

仰け反った状態から無理やり踏み込み、大剣に拳を叩き込む。

 

 

「グゥっ…!」

 

「化け物め…!」

 

 

ベルの大剣を迸る稲妻は、災害のそれと変わりない。しかし、女はそれに拳を叩き込んだ。しかも、刃と激突したというのに、拳が傷つかずとんでもない衝撃がベルの手を伝わってくる。

 

「────ベルっ!」

 

「アイズ…!」

 

「雷が落ちたのが見えて…分からなかったけど急いで来て良かった。」

 

肩を揺らしながら、ベルはアイズを見上げる。

 

「…手伝って…」

 

「…わかった。」

 

「チッ、面倒な…仲間か。」

 

女は面倒くさそうに指笛を吹く。そうすると、18階層の至る所から食人花がせり上がり、冒険者を襲っていく。

 

「これって…!」

 

アイズが驚くと同時に、女が鎧をガシャりと外した。

 

「あぁっ…動きにくくてかなわん…!」

 

兜のみを残し、その恵体を露にした女は、忌々しげにこちらに歩みよる。

 

アイズは、すぐ様剣を抜き構える。

 

もうその瞬間には、激戦が始まっていた。

剣をなぎ、蹴りを見舞い、見切り、躱し。それが猛スピードで繰り広げられる。

 

しかしその中で、アイズは焦っていた。

 

(…強い…Lv4じゃ勝てないのも、頷ける…いや、もしかすると、私よりも強い…!)

 

ハシャーナが抵抗もできずに殺された。納得の強さだった。何よりも、膂力だろうか。それともこれは、慣れから来るものなのかはわからないが、確実にLv5以上。

 

修羅場をくぐりぬけて得た経験。それが、アイズの中で弾ける。人に使うまいとした己の魔法を、ベルの危機に反応してほぼ条件反射で行使した。

 

目覚めよ(テンペスト)!】

 

「────この風はっ…!?」

 

アイズを風の鎧が包み込む。その風が起爆剤となり、アイズの神速の刺突を、災害に変えて突き抜けた。

 

女がクリスタルを割りながら吹き飛び、壁にまた激突。

ハシャーナの兜が、女の頭からポロリと落ちた。

 

現れるのは、ハシャーナの顔の皮を被った女。しかし、もう隠す必要も無いと感じたのか、女はビリビリと被っていた皮を破き、その顔を露わにする。

 

翡翠色よりも濁った瞳、燃えるような赤髪。

そんな女が、唐突に無表情のまま口を開く。

 

「…探し物が、2つも見つかるとは…そうか、お前が

 

 

 

 

 

『アリア』か

 

 

 

 

その言葉は、ベルではなくアイズに向けられた物。

 

アイズの時間が、止まった。

 

「な、なん、で…その名前を…」

 

「…アイズ…?」

 

動揺するアイズに、ベルも動揺しながら、あることを思い出す。

 

(『アリア』…どこかで…おじいちゃんが書いていた本…?いや、今は…!)

 

「こちらに来てもらうぞ。」

 

ベルは決心を決めた。

女から、震えるアイズを守るように立ち塞がる。

 

そして、アイズを叱咤する様に語りかける。

 

「…しっかりしてくれ、アイズ。『アリア』…精霊の名前が君とどう関わっているかなんて…興味はない。誰にも言わない。だから、どうか今だけでいいから、立ってくれ。君が頼りなんだ。僕だけじゃ、アレは殺せない。」

 

「……ベル…」

 

ベルは、状況を理解している訳では無い。しかし、今倒すべき敵は分かっていた。

アイズは、ベルの言葉に、少しだけ落ち着きを取り戻し武器を手に取り、構える。

 

「…貴女がどうして私をそう呼ぶのか、知らない…でも、私は《アリア》じゃない…!」

 

「そんな事は些細なことだ。貴様がその風を使っていると言う事実だけでいい。」

 

女は淡々とアイズだけを視界に収めた。ベルは眼中に無いようだ。

 

そして、戦闘が始まると言った矢先。3人を囲む岩壁地帯の上から、声がひとつ落とされた。

 

「────何を遊んでいる、レヴィス。」

 

「っ!」

 

ベルがその方向を見ると、男が立っていた。

 

白い腰巻き、白い髪、モンスターの頭蓋の面を被った、如何にもと言った男が、そこにいた。いつからか見慣れた、山吹色の何かを引き摺ったままに。

 

「…貴様こそ、何をしている?種は手に入れたんだろうな?」

 

「あぁ、勿論。ここにあるとも。」

 

男は、革鞄から何かを取り出す。

アイズが、それを見た瞬間に、顔を再び…いや、先程よりも青ざめさせた。

 

「あ…、そ、れ…うそっ…だって、それ…!」

 

「…アイズ、どうし────」

 

ベルの頭に、口喧しいエルフの少女の顔が過った。

 

 

 

────彼女は、どこに行った?

 

 

 

「────剣姫…ほぉ?ならば、これはとてもいいプレゼントになる!サプライズプレゼントだ、剣姫。有難く受け取るがいい!!」

 

男は、自身の足元に手を伸ばし、何かを掴み、放り投げた。

 

天井の逆光で、ベルは正確にその物体を見ることは叶わなくて、気づいたのはそれが落ちてからだった。

 

どちゃっ

 

そんな音が2人の鼓膜を叩いた。

 

美しい山吹色が所々赤く染まり、美しい肌色は生気を失い、青白く変色している。

両手はひしゃげ、片方の手は千切れかけている。

ベルを見つめていた青い瞳は、今は虚ろに天を向き、首があらぬ方向へと向いている。

 

ベルは、自身の予想が、これ程までにハズレていろと思ったことはないだろう。

 

「いや…!待って…どう、してっ…!あ、あぁ、あぁ…!!」

 

アイズが、崩れ落ちる。

 

「────レフィー、ヤ…?」

 

ベルの頭は、真っ白になった。

この光景を、ベルは見た事がある。それは、嗚呼、なんだったか。

 

レフィーヤに、フラフラとした足取りで近寄る。

バックパックから、リヴェリアに持たされていたエリクサーを取り出し、レフィーヤの首を戻し、急いで振りかける。

 

「こ、これで…!」

 

レフィーヤの、傷が癒えていく。千切れかけた腕は元に戻り、血が出ていた箇所も止血され、いつものレフィーヤに戻る。しかし、左腕はそのまま雑に切られたような跡が残っていた。ベルは、レフィーヤを抱き寄せながら、呼びかける。

 

「レフィーヤ…レフィーヤ…!ほら、僕、君の名前を呼んだよ…?だから、目を覚まして…っ?」

 

答えない、ただ目を瞑ったまま、呼吸すらしていない。

 

「ふ、ふざけてないでよ…!らしくないよ!レフィーヤ…わかった…!僕の負けだよ!いい子にする…っ、ちゃんと、レフィーヤ、の名前呼ぶから…っ、お願いっ…目を、覚ましてっ…!」

 

「残念だったなぁ、小僧!その娘はなぁ、最後まで助けを求めていたぞぉ?ハハハハハハハハハハハハハ!!!!いい死に様(・・・)だったよ!クハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

ボロボロと涙をレフィーヤに垂らしながら、ベルは懇願する。

 

 

男がベルに現実を突きつけた。

 

 

ピシッ

 

 

何かが、割れる音が聞こえた。

 

 

 

「────────あああああああああああああああああああああアアアアアアァァァァァァァアアァアアァァァ⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸!!!!!!!」

 

 

 

叫びが、咆哮に変わった。

 

いつも、いつもそうだ。大切な物を、いつも失ってしまう。レフィーヤは自分に歩み寄ってくれていたのに、頑なに拒んで、自分は何をしていた?

 

叫ぶ、ひたすらに叫んだ。この悲しみ(怒り)が、消えないように、心に刻みつけるために。

 

ベルの目の前に、男が立っていた。

 

「…うるさい小僧だ…この小娘、千の妖精(サンザントエルフ)か…恋慕の情でもあったか?────安心しろ、貴様も直ぐに送ってやる。」

 

そして、ベルは現実を知ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

レフィーヤ・ウィリディスは、死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

ベルは、無気力なまま、首を掴まれ、そのまま持ち上げられるが、抵抗する気力すらない。

徐々に、徐々に首に力を入れられる。

 

「さぁ─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────逝け」

 

 

 

アイズが、手を伸ばしている。時間が、一瞬が、無限に感じられる。

 

(あぁ…ティオナ、アイズ…リヴェリア、リュー…ロキごめん…────────レフィーヤ、おじいちゃん────今、そっちに…)

 

「ベルっっっっっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「………アイズ────逃げ」

 

 

 

 

 

 

ボギャッ

 

 

 

湿った何かが、へし折れる音がアイズに届いた。ベルの体から、力が抜けて、ブランっ、と手足が垂さがる。

 

ベルの体を、男が投げ捨てる。ドシャっ、レフィーヤと同じように、地面にたたきつけられる音がした。

 

「…そん、な…ベル……レフィーヤ……」

 

アイズの心が、完璧にへし折れた。

 

「…丁度いい、《アリア》も回収するとしよう。」

 

男が、アイズに手を伸ばした。

 

 

 

 

「────ぁ──ぃ────」

 

ベルは、その様子を倒れたまま見ていた。視界が暗くなる。最後の力で、手を伸ばすのは、自身の半身でもある大剣。

 

 

剣から、熱を感じた

 

 

嗚呼────なんて呆気ないのか。

 

これ程までに、悲しい(憎い)のか。

 

ベルは、失いかけた意識の中。思うのは走馬灯でもなんでもなく、純粋な憎しみだった。

 

 

嗚呼、レフィーヤを殺したあの男が憎い。アイツさえいなければ、レフィーヤは生きていて、きっと楽しく過ごしていたに違いない。

 

嗚呼、憎い。レフィーヤ(みんな)を奪った───

 

 

────────お前が憎い

 

 

 

 

 

 

────────許さない

 

 

 

 

 

 

バチッ、何かが弾ける音がする

 

 

────許さない

 

 

バチッ、悲しみが弾けた

 

 

────ゆるさない…

 

 

バチッ、憎しみが弾けた

 

 

────許さない…!

 

 

バチッ、怒りが弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

────ユルサナイッ!!!!!!!!

 

 

 

大剣が、ベルの心に共鳴する様に震えた。

ベルの白目が黒く染まり、瞳孔が縦に伸び、黄金の色に染った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────殺してやるッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、18階層のどこからでも見える程に大きな稲妻が、爆心地に降り注いだ。

 

 




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