疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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第7話:終点へ

ベルが依頼を受けた次の日。

 

レフィーヤは、リヴェリアの魔法で腐敗しない様に氷に包まれていた。

 

ベルは、今日こうして安置されている事をリヴェリアに教わった。

 

そっと氷に触れる。

 

「ごめん…レフィーヤ…もっと君と話したかった…だから…必ずアイツを殺して…君に謝らせて欲しい…」

 

 

それだけ言って、ベルは部屋を出て行く。

 

ベルが出ていったその部屋で、ユラリ

 

黒い影が揺れた。

 

 

 

 

「────さて、始めるとするか。」

 

 

 

 

 

 

「相変わらず…どうやったらここまで劣化させられんだ?」

 

「…ごめん。」

 

「いいや、それを治すのが俺の仕事だからよ。どんなに劣化させても、俺が治してやるさ。お前の専属鍛冶師としてなっ!」

 

ベルは、ある場所に来ていた。そこは、ベルの装備を作っている鍛冶師の作業場。

 

「それで…ヴェルフ、ついてきてくれる?」

 

ベルと話している人物は、ヴェルフ・クロッゾ。17歳のヒューマン。Lv4の戦う鍛冶師、称号を【赤匠】。

赤髪を持つ兄貴分という言葉がピッタリの基質をした快活な青年。ベルがこのオラリオに来たとき…まだファミリアすら見つけられていない時に、いろいろと世話を焼いてくれた、オラリオのお兄ちゃんのような存在だ。

 

「…いいぜ、お前だけだと色々と無茶しそうだからな。それに、こいつの使いっぷりも見てみたいしな?」

 

そう言って、ベルの大剣を傾けながら、ニヤリと笑った。ベル以外に、唯一この剣を持てるのが、作者であるヴェルフだった。

 

「ありがとう。…でも、多分ヴェルフだけだと、相当きついと思うから…」

 

少し不本意ではあったが、何があったのか聞いたヴェルフは、身震いをした。

 

あの剣姫、アイズ・ヴァレンシュタインですら遊ばれていた節があったと、ベルが語っていた。それだけで、自分一人では明らかに力不足だ。

 

「なんだ?アテでもあるのか?」

 

「…一人だけ…僕の戦闘の師匠が…多分手伝ってくれる…ハズ。」

 

「何だよ、頼りねぇな…てかよ?なんでファミリアの連中に頼まねぇんだ?」

 

「………」

 

ベルは、押し黙る。しかし、ヴェルフには理解出来た。拒絶と優しさ。ベルの心には、そのふたつが同時に存在している。

 

ヴェルフは、酷く歪だと思った。しかし、それと同時に美しさを感じた。ヴェルフ自身どうかしていると思うが、美しいと思わずにはいられなかった。こんなにも仲間の為に怒り、憎しみを爆発させられる。その純粋さが、ヴェルフには愛しく、美しく見えた。

 

「────そうかよ…おしっ、んじゃ、そのアテとやらの所に行くか!」

 

「うん。」

 

ヴェルフは念の為の保険として、自身の傑作の短剣を3本程カバンに詰め込み、ベルの横に並んだ。

 

 

 

 

「ごめん、リュー。こんな事に巻き込んで…」

 

「いいえ、構いません。私も…無関係という訳では無い。」

 

ベルが頼った人物は、リューだった。

レフィーヤを失って傷心中のファミリアの女性陣や、上位レベルの人間には頼めない。あれは、自分が弱かったが故に起きてしまった事だ。だから、ベルは自身の手でケリをつけたかった。

 

対して、リューは他の上位者では無く、自分を頼ってくれたことを、ほんの少し嬉しく思っていた。そして、あの名前を聞いた瞬間に、断ると言う道が無くなった。

 

「しかし…オリヴァス・アクト…まさか生きていたなんて…27階層で死んだものとばかり思っていました…いいえ、それよりも、彼の者はそれ程に強くは無いはずです。レベルは4。恐らく上がってもいないでしょう。直接会ったことは有りませんが…傷を癒すというのも不自然です。」

 

「やっぱり…そっか…」

 

「………」

 

2人が話す中、ヴェルフは黙っていた。それは、話の邪魔をしないように、では無く。ヴェルフも、エルフが苦手なのだ。

 

「おい、お前さん。リュー・リオンだったよな?」

 

「えぇ、それがどうした?クロッゾの末裔よ。」

 

相変わらず陰湿な種族だ。そんな感想を漏らしながら、ヴェルフはつくづく嫌な顔をする。それは、ヴェルフの血に関係しているのだ。ヴェルフはエルフに嫌われている。人柄や在り方では無く、存在を(・・・)嫌われている。ベルとは別のベクトルでエルフが嫌いなのだ。

このエルフも面倒なタイプか、そんな憂鬱な気分になりかけた。

 

しかし、これは勘違いに終わる。

 

「…あぁ、気分を害したなら謝りましょう【赤匠】。私は貴方自身を恨んでもいなければ、クロッゾの血も恨んではいない。」

 

「…意外だな?エルフらしくもねぇ。」

 

「私は元々、エルフの高慢な態度が気に食わなくなり故郷を飛び出してきました。何百年も前の事…それを知らぬ子孫に当り散らすのは、無駄な行為だ。それに、直接の被害に遭ったわけでもない。」

 

そう言って、リューはサラッと言い切った。

ヴェルフは、感心した様に息を漏らしてから、納得したように唸った。

 

「なるほど?エルフ嫌いのベルが懐いたのもわかったぜ。」

 

「…ペットみたいに言わないで、ヴェルフ。」

 

「悪かった、機嫌直せ。だが、それにしてもアンタは変わったエルフだ。気に入ったぜ。」

 

快活に笑ったヴェルフは、その雰囲気を柔らかくさせた。

 

「ヴェルフ・クロッゾ。急ごしらえのパーティー限りだろうが、よろしくな。あぁ、ヴェルフで構わねぇよ?」

 

「リュー・リオンです。こちらこそ、頼みました。ヴェルフ。」

 

ヴェルフは、手を差し出す。しかし、リューはそれを間が悪そうに見つめるだけで、握り返そうとしない。

 

「おい、握手だ。」

 

「…すみません、それはちょっと。」

 

「おし、1発ぶん殴らせろ。」

 

「お断りします」

 

「……仲良いね。」

 

「「良くない」」

 

息ピッタリな二人を見て、仲良しじゃないか。と、そんな風に少しだけ苛立ちが湧いた。

その不思議な苛立ちに、疑問を覚えたが、胸がざわつく程度のこと。と、ベルはそのざわつきを放置する。

 

「そろそろ…目的の場所。」

 

「そうですね。協力者とやらは…誰なのでしょうか?」

 

「わからない…でも、強いんだと思う。」

 

それすらも言われなかった。ただ、ベルは誰でもよかった。

場所は《黄金の穴蔵亭》。18階層のアンダーリゾートに存在する酒場。その店主に、ベルは手筈道理に合言葉を言う。

 

「…注文は?」

 

「えっと…じゃが丸くん、抹茶クリーム味。」

 

「…あの扉の奥に行きな。」

 

そう言われて指さされた方向にある扉を目指し、開ける。そこには────

 

「貴女は…!」

 

 

 

 

 

「…やっぱり、ベルのステータスにはそんなもんは無い…諸事情で3人には見せられんけど、変身するスキルも魔法も無いわ。」

 

「そう…」

 

「アイズの気のせい…とか?」

 

「そんな…」

 

「あんたじゃないんだから、それは無いわよ。」

 

「は?なにその言い方。もっと言い方があるんじゃないの?」

 

「あぁもう、やめや…ティオナ。最近荒れすぎやで?今のベルじゃ怖がってまうわ。」

 

「………」

 

普段快活なティオナが睨みを効かせる。しかし、イラつくのも当然だろう。仲間が1人殺され、1人は心が折れてしまったのだ。それも、ティオナの弟的な存在が。だから、余計に苛立ちが先行している。

 

「ベルは…?」

 

「三日前くらいから部屋から出て来てへん。部屋の前に置いといた食事も食べられてなかったわ…」

 

現在、ベルが外からフラフラと帰ってくるのを見てから、3日が経っていた。

 

「……ベル…」

 

「あの子…そんなにレフィーヤの事…」

 

3人は知っていた。目覚めたベルが、どんな顔と目で世界を見ていたのか。まるで、色を失ったまま全てをただ眺めているだけの様な。言ってしまえば、人形のようだった。それに反して、夜部屋に行くと、泣きながら誰かにしがみつく様にして、漸く眠る。そんな生活を2週間も繰り返していた。大体がティオナかリヴェリア、ロキ、アイズがベルと寝ていたのだが、ここ数日。そんなことも無くなり、ベルを見ていないし、4人は声すら聞いていなかった。

 

「…まさか…自殺とかないわよね?」

 

「縁起でもないこと言わないでよティオネ!!」

 

「悪かったわよ!でも…もう、あの子の声何日も聞いてないわよ?」

 

また、暗い雰囲気が漂ってしまった。

 

「ベル…」

 

ティオナは、静かに呟く。確かにレフィーヤが殺されたことは、悲しい。だが、ティオナは泣かなかった。ベルが泣き叫ぶ中、姉の立場にある自分までもが泣いてしまっては、彼が頼れなくなると思った。

 

ティオナは、彼の姉であろうとしたのだ。

 

 

ちょうど同刻。

リヴェリアは、ベルの部屋の前まで来ていた。

流石に3日も音沙汰どころか、身動ぎする音すら聞こえないとなれば、心配も限界を迎えた。

 

扉を、コンコンっとノックする。

 

「…ベル?少し、いいか?」

 

返事はない。それどころか、音が全く聞こえない。不審に思ったリヴェリアは、ドアノブに手を掛ける。すると、なんの抵抗もなく、ガチャりとドアが開いた。

 

「────っ!」

 

嫌な予感が、リヴェリアの頭を過ぎった。

バッ、と扉を開ける。

 

そこは、もぬけの殻。リヴェリアが考えた最悪は存在しなかった。しかし、ベルの部屋は酷く片付けられていた。嫌なほどに、物がない。今までは、本棚や何やらで埋まっていた部屋が、スッカラカンと言ってもよかった。

 

「なんだ…なぜ、ベルがいない…?」

 

部屋を見廻す。あるのは、備え付けのベッド、机と椅子のみ。その机に、一枚の紙とペンが文鎮代わりに置かれていた。

 

リヴェリアは、恐る恐るその紙を手に取る。

 

その内容を見たリヴェリアは、全身から血を抜かれたような気分だった。

 

『みんなへ

 

レフィーヤの仇を取ってきます。そして、最後の我儘を言わせてください。僕の体は、レフィーヤの近くに埋めて欲しい。まだ、彼女に謝れていないから。みんなはきっと、僕の事を嫌いだっただろうけど、僕は────────』

 

それから先が、ぐしゃぐしゃになり読めなかった。リヴェリアは、狂ったように部屋中を探し回った。

 

「どこか…!何処かに手掛かりは…!!」

 

部屋をひっくり返す様に、手掛かりを探した。

 

しかし、何も無い。ベルが整理していた本を1冊1冊隙間にもないか探す。本をバラバラと捲っていると、ハラリと、一枚の紙が落ちた。

 

「…?────────なんだ、これは?」

 

落ちたのは、ベルのステイタスシート。

リヴェリアは、よく良く考えればベルのステイタスを初めて見る。そのステータスは、圧倒的に高い数値を誇り、既にLv4間近と言ったところだった。しかし、しかしだ。

 

 

あるスキルに目が止まった瞬間、リヴェリアはロキの部屋に向かって、ベルの置き手紙とそのシートを持って、全力で駆け出した。

 

 

復讐者(クリフトー)

 

・パッシブスキル

 

・超早熟する

 

・復讐心を持ち続ける限り効果持続

 

・復讐心を無くした時点で効果を失う

 

 

ここはいい。ある程度は予想出来ていた。ベルの目的や成長速度を考えると、促進スキルがあるのは明らかだったから。だが、リヴェリアはこの超がつくほどのデメリットを予想できなかった。

 

 

 

 

 

 

・復讐を遂げると死亡する

 

・復讐の対象が複数ある場合、その対象の1つに復讐を遂げた場合も死亡する

 

 

リヴェリアは、漸く理解した。ベルが、寂しい筈なのに、誰も寄せつけない理由を。

 

 

リヴェリアは、駆けた。普段彼女は落ち着き払い、常に冷静に戦局や状況を見る。しかし、この時ばかりは焦っていた。

 

(このままだとベルは確実に死ぬっ…!)

 

こんな別れがあってたまるか。レフィーヤだって浮かばれない。全力疾走のリヴェリアが辿り着いたロキの部屋を、蹴破るように荒々しく開ける。中には驚いた顔をしたアイズ、ティオナ、ティオネ、ロキがいる。

 

「り、リヴェリア!?どうしちゃっ────」

 

ティオナの言葉も無視して、リヴェリアはロキに一直線に向かい詰め寄り、肩を揺さぶり激昴する。

 

「どういう了見だロキッ!!なぜ私に、いいや!私達にベルのスキルを伝えなかった!?」

 

珍しく頭に血が上ったリヴェリアを見て、呆然とする3人。リヴェリアが、手紙とステイタスシートを3人に投げて、叫ぶ様に指示を出した。

 

「ティオナ、ティオネ、アイズ!!ステイタスシートと手紙を見たら、すぐにダンジョンに行ける準備をしろ!今すぐだッ!」

 

言われるがまま、手紙とステイタスシートを見た3人は、顔を青くした後に、飛び出す様に部屋を出ていった。

 

ロキは、諦めたように口を開いた。

 

「…見てもうたんやな。」

 

「あぁ、バッチリとな…ッ!何故隠した!何故言わなかったッ!」

 

「あの子の願いや。」

 

「それでもッ…いいや、この事は帰ってからだ。ベルも交えてじっくりと話してもらうぞ…!」

 

それだけ吐き捨てて、リヴェリアは急ぎダンジョンに向かう。しかし、手がかりがなかった。

 

合流した4人は、すぐ様バベルに向かう。

 

「ベルを探さないと…!」

 

「でも、どこに行ったかがわからないよ!?」

 

「アンタがパニクってどうするの!落ち着きなさい!」

 

(…どこに行った…?仇を取る…ダンジョンなのは間違いがない…なにか、何かないか!?)

 

手掛かりはほぼ皆無。ただダンジョンに行くという確信だけはあった。リヴェリアは、決心する。

 

「────急げ!途中にある18階層で情報を収集してから直ちに向かうぞ!」

 

「わ、わかった!すぐ行こう!」

 

ティオナの返事だけを聞いて、リヴェリアは走り出した。戦力は十分。昇華したアイズもいる。問題は無い。あとは────

 

 

(ベル…!早まらないでくれっ…!)

 

 

リヴェリアは、見たくもない終わりを、この先に見てしまった。

 

 

 

 

 

アイズたちが出発する数時間前。

 

フェルズは通信魔具で、通信をとっていた。

 

「────あぁ何とか左腕は用意できてよかった。…何、左腕だけで助かったさ。…そう、18階層に後発隊がいる。先発隊に合流してくれ。…そうだ、合流したら即座に24階層のパントリーに…なに?……それは、純粋にすまないと思っている。────あぁ。いるはずだ。では、頼むぞ。」

 

スゥっと切れる通信。フェルズはため息をつく。

 

「こんなに仕事をしたのはいつぶりだろうか…いや…これからだな…」

 

フェルズは、あらゆる手を尽くしてでも知るつもりだった。

 

「…怪人(クリーチャー)…必ず、奴らの目的を暴いてやる…」

 

 

 

フェルズが見据える先には、闇だけが広がっていた。

 

 

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