料理を注文後、相変わらず太った中年男性はうるさかった。
「がははははは!今日は俺の奢りだからな!!!好きなものを沢山食べてくれ!!!がははははは!」
でっぷりと太った中年男性は、いつまで経っても笑い方が下品だった。
(・・・早く帰りたいですね・・・うるさいとお店の雰囲気も楽しめないですし)
セバスは料理が出てきたら、さっさと食べて帰ろうと決めた。
「・・・さて、セバス様!貴方はお酒は嗜まれるのかな??がははは!」
お腹を大きく揺らした男性はセバスに尋ねる。
「いえ、私はお酒は飲まないので、お茶で結構です。お気遣い頂きありがとうございます」
セバスは、お酒を自分も飲んだら、絶対に違うお店にも誘われると思ったのでキッパリと断った。
「がはははは!そうか、そうか!セバス様は真面目だねえ〜奢りなんだから飲めば良いのに〜」
男性はニヤニヤして、セバスの背中を軽く何回か叩きながら話した。
「ありがたいお言葉ですが、私は貴族の方にお仕えする身なので、普段からお断りをしております。ご期待に添えず申し訳ございません」
(私の背中を叩く人間なんて初めてですね・・戦いでしたら既に抹殺しているのですが)
セバスは顔には出さないが、心の中でそう思った。
「お待たせしました。当店自慢の赤ワインと白ワインでございます」
店員が茶色いカゴにワインの瓶を2種類入れた状態で持ってきた。
「おお!!来たか!!これが私のおすすめのワインですぞ!!がはははは!!美味いぞ~!!」
料理店の静かな雰囲気を壊すように大きな声で、男性は喜んだ。
「おお、そちらがおすすめのワインですね。選ぶセンスが素敵ですね。さすがです」
セバスはワインだけは褒めた。
男性は先に飲んでるからな!と言って、まず赤ワインを飲み始めた。
そして、ワインに対してのうんちくを話し始めたが、セバスは聞いているふりをして、話を流した。
(ワインについての情報なんて、あなたよりも私のほうが詳しいですね。あやふやな情報が多い事・・。これも聞く価値もありません)
そして、男性は大きな声で近くにいた店員を呼びつけた。
「おーい!!私のおススメの金の肉が来るのが遅いな!おい!店員!料理はまだか!!」
男は注文してすぐだったのだが、そんなものお構いもせずに急かした。
「・・・現在、ローストビーフはオーブンで焼いておりますので、20分以上はお時間が掛かります。出来上がり次第すぐにお持ち致しますので、もう少々お待ちいただけますか?」
店員はぺこぺこして、この場を去っていった。
「本当遅いな~!この店!!使えね~。がはははは!!!なあ!セバス殿!」
男性は待ちきれないのか、足を上下に貧乏ゆすりをしていた。
「・・美味しいものを頂く前の時間が、一番のスパイスだと言いますし、ゆっくり待ちませんか?旦那様?」
セバスは、面倒くさいと思ったが男性をご機嫌にするために、言った。
「まあ、そうだな!私はまだまだ待てる!!がはははは!!!」
男性は下品に笑った。
「おい!!!誰か!!オーナーの俺様の話をきけ~、がはははは!!」
男性は赤ワイン一瓶をすぐに飲み干し、白ワインを一瓶また開けてすでに出来上がっていた。
そして、セバスの近くのお客も、男性の大声が迷惑そうだった。
「待つのが暇だしぃ、お客様に声でも掛けてこようかな〜!!俺様、オーナーだしぃ!!がはははは!!」
男性が酔った勢いで立ち上がり、他のお客に絡もうとしたときに、セバス以外の誰かが後ろからやってきた。
そして、スッと静止の手が入り、男性の肩を掴んだ。
「誰だ~???俺様の肩をさわりゅやつら~???俺はオーナー様だぁ~、訴えるぞぉ~?」
酒が回ってきたせいか、急にろれつが回らない男性は、後ろを振り返る。
ベロベロに酔った男性が振り返るとそこには、30代程の男性がいた。
「おー!久しぶりだなー!弟!!どこ行ってたんだぁぁぁー!」
酔っている男性は、その肩を掴んだ男性を見るとすぐに笑顔になった。
「兄さん、言ったじゃないか、お酒を飲んで店で暴れるのはやめろって」
弟と言われた男性は悲しそうに話した。
「俺は暴れてなんかにゃい!!ただオーナーとしてお客様に話しかけようとしてただけだじょ!!」
兄と呼ばれた酔った男性は、先ほどの笑顔から怒りの表情になる。
「兄さん、気付いているかい?・・・兄さんがこの店で、無茶なコースを急に頼むようになってから、お客様へ料理の提供が遅くなって店の評判が悪くなっていることを・・・・」
弟は悲しみのあまり、握りこぶしがプルプルと震えていた。
「そんな訳あるか!!!お前が料理の修行したいと言ったから、俺がオーナーになったんだぞ!!!それから三ツ星評価からは落ちていないはずだ!!!」
兄は手をぶんぶん縦に振りながら、怒りを表現していた。
「その事については、兄さんに感謝してる。おかげで自分のお店をオープンすることもできたし、料理人の知り合いも増えた。だけど父さんから受け継いだこの店が、評判が悪くなって、このまま閉店するなんて許せないんだ!!!!だから!!!」
ずっと冷静に悲しさを表現しようと努力していた弟は、我慢できずについに、語気を強くした。
・・・・・・その時セバスは静かに二人のやり取りを見ていた。
(ご飯のお誘いがまさかこんなことになるとは・・・本日は何も食べられない可能性が高そうですね・・・頃合いを見て帰りますか、ツアレを待たせていますし・・・)
弟は大きく深呼吸をしてから、また話し始めたのだった。
「この前、料理人の知り合いから聞いたんだ・・・もうこの店も閉店かもなって・・・このまま常連客が離れていくのは悲しい・・俺は自分の店もあるし、ここの店を手伝える余裕もないから、ここの店の味を受け継いでくれる人に譲ろうと考えているんだ・・・」
それを聞いた兄は、激高してテーブルを強くこぶしで叩いた。
「・・・オーナーの俺に黙ってそんなことをしていたのか!!!許さん!!絶対にお前にこの店は渡さない!!!!」
兄は怒りが抑えられず、グラスに入った白ワインを弟に浴びせかけた。
そして弟は黙って濡れたところを拭いていた。
_____________兄弟の長い言い争いがやっと落ち着いてきた頃・・・・
「もういい!!!俺はもう知らん!!!帰る!!!」
兄は弟に怒鳴り、ナプキンをテーブルに叩きつけて帰っていった。
「ええ!!帰ってください!!これからディナーの時間なんでね!!!静かになって結構!!!」
弟も強く言い返した。
そして、兄が料理店から出るところを見届けた弟は、ふう~とため息を吐くとセバスに話しかけた。
「お客様、お見苦しい所をお見せしまして申し訳ありませんでした。兄は昔は、ああじゃなかったんですが・・・」
弟は申し訳なさそうに話した。
「いえいえ、お気になさらないでください。貴方のおかげで静かな雰囲気がこの場に戻ってきましたよ。そして、濡れたお洋服は大丈夫でしょうか?ハンカチお使いになりますか?」
セバスは優しい笑顔を見せた。
「お客様、優しいお言葉ありがとうございます。本日はまだ料理も出ていないことですし、ご迷惑もお掛けしましたので代金は頂きません。このまま酔っ払いの兄がいたら、貴方にも危害を与えていたかもしれません・・・そして兄はこんな素敵な執事の方とお知り合いだとは驚きました」
弟はセバスの言葉にほっとしたのか安堵の表情を浮かべていた。
「いやいや、私はある貴族の一執事でしかありません。そして自己紹介がまだでしたね。私の名前はセバスチャンと申します。どうぞセバスとお呼びください」
セバスは深々とお辞儀をした。