ふたつのホテル   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 中編(第2話)です。



ふたつのホテル 中編

 

 ヘリポートのステージ。

 

 ステージと客席は完成していた。

オオミミ 「……きっと、どんなことがあっても、あきらめたりしないから……」

 オオミミギツネが、ひとり、ステージ上で踊っていた。小声で歌を口ずさみながら。

 曲は、“わたしたちのストーリー”で、2番のサビに入っていた。

 

 ハブが歩いてきて、客席に座った。

 

オオミミ 「えがいた、夢へと 走りだせ……」

 オオミミギツネが、クルリとターンを決めた。

オオミミ 「あ!」

 そして、ハブがいることに気づき、驚いて動きを止めた。

 

ハ ブ  「つづけろよー!」

 

オオミミ 「…………」

 オオミミギツネは、少し顔を赤くして、呆然としていた。

 

 ハブが声を張り上げた。

ハ ブ  「つづけろよーっ!! って言ってんだっ!!」

 

オオミミ 「……そういつかきーみと、夢みてたそーらへ……」

 オオミミギツネは、再び踊り始めた。歌声は先ほどより大きかった。

 

ハ ブ  「そんな未来を、わたしはまーってる……」

 ハブが、つぶやくように歌い始めた。

 

ブ タ  「そして晴れわたった空は、七色に輝いてる……」

 いつのまにか、ブタが客席に座っていて、小声で歌っていた。

 

 3人の声が重なった。

 

オオミミ&ハブ&ブタ 「 わたしたちの、ストーリー 」

 

 

 PPPライブ前日の昼前。ヘリポート前の砂浜。

 

ブ タ  「ホテルにはいませんでした」

ハ ブ  「ヘリポートにもいなかったぜ」

ブ タ  「へんですねぇ……いつもならどっちかにいるんですけど……」

 ブタとハブが、オオミミギツネを探していた。

ハ ブ  「いなきゃ困る……。あしたは特別な日だってのに」

ブ タ  「ん? くんくん……こっちかも……」

ハ ブ  「ほんとかよ……」

 ふたりは、砂浜近くの林の方へ歩いて行った。

 

ハ ブ  「いたぞ! あそこだ!」

 ハブのピット器官の映像には、温度の高い部分が明るく人型に映し出されていた。*1

 オオミミギツネは、林の中の木の陰に立っていた。

オオミミ 「わ、わわ……」

 オオミミギツネは、驚いて動けない様子だった。

ハ ブ  「なんだそりゃ!?」

 オオミミギツネは帽子をかぶっていた。それはホテルのベルガールが被るような帽子だった。少し丸みのあるソフトタイプで、色はグレーで、やや大きめだった。*2

オオミミ 「こ、こういうの、ホテルっぽくていいでしょ?」

 オオミミギツネは、あせった様子で、帽子を両手でぽんぽんと叩いた。

 ハブとブタが、オオミミギツネの左右に立ち、彼女のヒトの耳に顔を近づけた。

ブ タ  「かわいいですけど、支配人は、大きな、すてきな耳があるんですから、出したほうがいいんじゃないですかー?」

 ブタは、大きめの声でしゃべった。

オオミミ 「…………」

 オオミミギツネは、ばつが悪そうだった。

 ハブが、鋭い目でオオミミギツネの帽子を見つめた。

 

ハ ブ  「……気づいてほしいんだろ? しはいにんっ!」

 突然、ハブが素早くオオミミギツネの帽子を取った。

オオミミ 「なにするのっ!!」

 オオミミギツネの声は、悲鳴のようだった。

 

ブ タ  「え……」

 ブタは、驚いて絶句した。

 

 オオミミギツネの頭には、けもの耳が無かった。ヒトの頭と同じだった。

 

 ハブが、素早くフードを脱いだ。

ハ ブ  「まわりの目なんて気にしない!」

 そして、いたずらっぽく笑いながら、自分の頭にかけていたオーバーヘッド型のヘッドホンを取って、それをオオミミギツネの頭にかけた。

 

 オオミミギツネが、両手でヘッドホンを触った。呆然としていた。

オオミミ 「……なにこれ……」

 ヘッドホンはグレーで、耳を覆うタイプだった。

ハ ブ  「“ほちょうき”っていうんだってさ。はかせたちに作ってもらったんだ」*3

オオミミ 「……聞こえる……ハブさんの声……」

ハ ブ  「ペパプみたいだぜ! おそろいだ!」

オオミミ 「う……」

 オオミミギツネがうつむいた。

ブ タ  「もー! 乱暴ですよハブさん!」

オオミミ 「……う……ぐす……」

ブ タ  「ほらぁ! 泣いちゃったじゃないですか!」

ハ ブ  「すまねぇ! それはプレゼントで……」

オオミミ 「……受け取りのしるしはハグがいい?」

 オオミミギツネは少し涙声だったが、その声は明るかった。

ハ ブ  「うええ! へんなこと言うな!」

オオミミ 「なんてね……ぐす……」

 オオミミギツネは、ハブを見て少し笑って、目元をぬぐった。

ハ ブ  「……なんか、かわいくなったな、あんた」

 ハブは、少し困惑したような、でも明るい感じで言った。

オオミミ 「……か、かわいくなんかない!

      “耳がないオオミミギツネ”、なんて、冗談にもならないわ……」

 オオミミギツネは、ハブから顔をそらして、再びうつむいた。

ハ ブ  「…………」

 ハブは、少し顔をしかめただけで、何も言えなかった。

 

 たったっ、と、ブタがハブの背後へまわった。

ブ タ  「ハブさん! ほら! こっちです!」

 ブタが、ハブの肩をつかんで、横に引っ張った。

ハ ブ  「お、おい……」

ブ タ  「よそ見はしないで!」

 

 少しの間。

 

ブ タ  「もうちょっと顔上げてください! 支配人!」

 ブタの声は明るかった。

オオミミ 「え?」

 オオミミギツネが顔を上げた。

 すぐ目の前には、フードを脱いだハブがいた。

 ふたりの顔はとても近く、すぐに目と目が合った。オオミミギツネは驚いて、頬を赤くしていった。ハブはすでに顔が赤かった。

オオミミ 「…………っ!」

 オオミミギツネが、ハブから顔をそらして、がしっ! とハブに抱き着いた。

ハ ブ  「うおっ!」

 オオミミギツネは、ハブの肩にあごを乗せる格好になった。

オオミミ 「もう、迷わない……」

 オオミミギツネは、目をぎゅっと閉じて、ハブを抱きしめた。

オオミミ 「何が起きても、あなたとなら……」

ブ タ  「うーん……聞いてたのと違いますねぇ……。ちゅーってするんじゃないんですか?」

ハ ブ  「だれに聞いたんだそれ!」

ブ タ  「ひみつですぅー」

 

 

 PPPライブ前日の夜。新ホテルの工事現場。

 

 新ホテルの骨組みはほぼ完成していた。骨組みは全体的に太くがっちりとしていた。*4

オオミミ 「わたし高いところ苦手なのよ!」*5

 ハブが、オオミミギツネの手を引いて、仮設の階段を上っていった。

ハ ブ  「ビビってちゃダメダメ!」

 ふたりは、手と手をつないだまま、最上階の骨組みに立った。そこには、仮の床が一部だけしかなく、壁も無かった。上も下もまる見えだった。

 オオミミギツネは、ハブに抱き着いた。少し震えていた。

ハ ブ  「目を凝らせ! あんたも夜行性だろ!」

 ふたりは海を見た。海の上には、少し欠けた月があり、その光が海に反射して、波がキラキラと光っていた。

オオミミ 「あれ、ヘリポート?」

 月の下には、旧ホテル跡があった。

ハ ブ  「下よりよく見えるだろー!」

オオミミ 「きれい……」

ハ ブ  「満月じゃないのがおしいけどな」

 ふたりは、最上階からさらにはしごを登った。そして新ホテルの屋根の骨組み(梁)にとなり合って座り、一緒に星空を眺めた。オオミミギツネが左側、ハブが右側だった。

オオミミ 「なんでブタさんは呼ばなかったの?」

ハ ブ  「あいつ、怖いから嫌だとか、夜目が効かないとか言ってたぜ」

オオミミ 「ふーん……残念ね」

 オオミミギツネが、ハブから顔をそらした。

オオミミ 「あ……」

 キラリ、と星が流れた。

 

 

 少し経って。

 

オオミミ 「もういいでしょ……さむいし……少し怖い……」

ハ ブ  「もうちょっとだ。月が沈む」

 月が水平線へ沈んでいった。海面のキラキラが長くのびた。その先にはヘリポートがあった。

ハ ブ  「まばたきなんてする暇ないぜ?」

 

 月が沈み切った。次の瞬間、ヘリポートが天に向かって強い光を放った。数秒遅れて、ホテル跡のまわりを一周するように、光の点が円形に並んだ。

 

 オオミミギツネが目を見開いた。

 

 水しぶきが、ステージの両端から吹き出し、光を受けて、サーチライトのような光の線になった。水しぶきはホテルのまわりからも噴き出し、光を受けて、ホテル跡のまわりを一周する巨大な光のカーテンになった。サーチライトのような光の線は三本に増えて、別々の方向に動いた。光のカーテンは波のようにゆらぎを見せた。その後、ライトが点滅したことで、光のカーテンがぐるぐるとホテル跡のまわりを回っているように見えた。その後も、光は複雑な動きを見せた。*6

 

ハ ブ  「すっげーだろ? あしたの予行だ!」

 

オオミミ 「……また、勝手なことして…………」

 オオミミギツネが、ふらりと倒れかけて、ハブにもたれかかった。

ハ ブ  「おい! どうした!」

 ハブが、前のめりに落ちそうになったオオミミギツネを支えた。

ハ ブ  「落ちるぞ!」

オオミミ 「……もっと! もっと大きな声で言って!」

 オオミミギツネは、ハブを強く抱き返した。

ハ ブ  「落ちるぞ!!」

 オオミミギツネは、呆然として、ヘッドホンを外し、自分の左耳をつんつんと触った。

ハ ブ  「おい! おーい!! 聞こえるかー!!」

 オオミミギツネは、涙を浮かべた。

オオミミ 「……左耳、聞こえない……」

 オオミミギツネは、左耳に手をあてて、目をぎゅっと閉じてうなだれた。涙が流れた。

ハ ブ  「なにい! うそだろ……」

オオミミ 「まだ、夢の途中なのに……」

 オオミミギツネが旧ホテル跡を見た。ピカピカ瞬き動く光が、にじんで見えた。

 ハブは、オオミミギツネの右耳に顔を近づけた。

ハ ブ  「まだ右がある! あしたが待ってる!」

 

 少しの間。

 

 オオミミギツネが顔を上げた。

オオミミ 「わたしをなぐさめようなんて、100日早いわ……」

ハ ブ  「みじかっ!」

オオミミ 「ふふっ」

 オオミミギツネは、心から笑える、とまではいかないものの、たしかに笑った。

 

 

 

 後編へ続く

 

 

 

 

 

 

*1
 アニメでは、ハブがこんな能力を発揮する場面は無いですが、ハブ(元の動物)にはピット器官があるので、1期のツチノコのようなことができるのではないかと思います。

*2
 オオミミギツネが、どこからこの帽子を入手したのかは謎です。旧ホテルにあったものかもしれませんし、サンドスターをどうにかして、自分で作り出したものかもしれません。

*3
 これは、厳密には補聴器ではありません。はかせ、助手、かばんが、ノイズキャンセリングヘッドホンを改造して作ったものです。マイクで拾った音を内蔵アンプで増幅して、振動板を鳴らすものです。

*4
 新ホテルの建物の設定(仮)

 このホテルは木造3階建て。見晴らしを重視して、高めの案を採用した。屋根裏部屋があるため、4階建てに近い。1階は眺めが悪い(木に遮られてしまう)ので、ロビーと事務室、土産物店だけがある。客室は2階と3階にあり、3部屋ずつ計6部屋ある。部屋は狭めで、ビジネスホテルよりは広い程度。全室から海が見える。

 筆者がこの設定を作った時には、強度、防火、耐震などはあまり考えませんでした。フレンズが作ったものですから。ただ、ビーバーが設計したので、十分な強度があるはずです。フレンズは基本火を使わないので、火災の心配はあまり無いです。電気は引くかもしれませんが……。

*5
 オオミミギツネは高い所が苦手、という設定は多分ありませんが、高い所に登る動物ではないようなので、本能的に高い所への恐怖心があるのではないかと思います。3階建てで、下が丸見えだったらオオミミギツネじゃなくてもかなり怖いです。ハブ(元の動物)は木に登るので、高い所や細い足場でも平気です。

*6
 ものすごく大掛かりな演出ですが、結構力業でやっています。ライトの電源は、旧ホテルへ電源供給していた電線をつなぎ直したものです。水しぶきは、海獣(イルカ・クジラなど)のフレンズが、竹水鉄砲を大きくしたような装置で噴射しています。




 中編あとがき

 3人が歌うシーンは、歌詞引用の許諾(歌詞使用に関するガイドライン)があったから書けたものです。関係者の方々、感謝しています。ありがとうございます。

 

使用楽曲コード:07298021,22493352,23303778,23304006,23304049,23687789,23687801,23687819,23687827,24318892,72140968,72142669,N00040679

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