ふたつのホテル   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 歌詞引用個所が赤くなっている(ネタばらし版)中編(第6話)です。
 “曲名”を引用した個所は色を変えていません。






ふたつのホテル 歌詞引用個所 中編

 

 

 

 

 ヘリポートのステージ。

 

 ステージと客席は完成していた。

オオミミ 「……きっと、どんなことがあっても、あきらめたりしないから*1……」

 オオミミギツネが、ひとり、ステージ上で踊っていた。小声で歌を口ずさみながら。

 曲は、“わたしたちのストーリー”で、2番のサビに入っていた。

 

 ハブが歩いてきて、客席に座った。

 

オオミミ 「えがいた、夢へと 走りだせ……」

 オオミミギツネが、クルリとターンを決め*2た。

オオミミ 「あ!」

 そして、ハブがいることに気づき、驚いて動きを止めた。

 

ハ ブ  「つづけろよー!」

 

オオミミ 「…………」

 オオミミギツネは、少し顔を赤くして、呆然としていた。

 

 ハブが声を張り上げた。

ハ ブ  「つづけろよーっ!! って言ってんだっ!!」

 

オオミミ 「……そういつかきーみと、夢みてたそーらへ……」

 オオミミギツネは、再び踊り始めた。歌声は先ほどより大きかった。

 

ハ ブ  「そんな未来を、わたしはまーってる……」

 ハブが、つぶやくように歌い始めた。

 

ブ タ  「そして晴れわたった空は、七色に輝いてる……」

 いつのまにか、ブタが客席に座っていて、小声で歌っていた。

 

 3人の声が重なった。

 

オオミミ&ハブ&ブタ 「 わたしたちの、ストーリー

 

 

 PPPライブ前日の昼前。ヘリポート前の砂浜。

 

ブ タ  「ホテルにはいませんでした」

ハ ブ  「ヘリポートにもいなかったぜ」

ブ タ  「へんですねぇ……いつもならどっちかにいるんですけど……」

 ブタとハブが、オオミミギツネを探していた。

ハ ブ  「いなきゃ困る……。あしたは特別な日*3だってのに」

ブ タ  「ん? くんくん……こっちかも……」

ハ ブ  「ほんとかよ……」

 ふたりは、砂浜近くの林の方へ歩いて行った。

 

ハ ブ  「いたぞ! あそこだ!」

 ハブのピット器官の映像には、温度の高い部分が明るく人型に映し出されていた。

 オオミミギツネは、林の中の木の陰に立っていた。

オオミミ 「わ、わわ……」

 オオミミギツネは、驚いて動けない様子だった。

ハ ブ  「なんだそりゃ!?」

 オオミミギツネは帽子をかぶっていた。それはホテルのベルガールが被るような帽子だった。少し丸みのあるソフトタイプで、色はグレーで、やや大きめだった。

オオミミ 「こ、こういうの、ホテルっぽくていいでしょ?」

 オオミミギツネは、あせった様子で、帽子を両手でぽんぽんと叩いた。

 ハブとブタが、オオミミギツネの左右に立ち、彼女のヒトの耳に顔を近づけた。

ブ タ  「かわいいですけど、支配人は、大きな、すてきな耳があるんですから、出したほうがいいんじゃないですかー?」

 ブタは、大きめの声でしゃべった。

オオミミ 「…………」

 オオミミギツネは、ばつが悪そうだった。

 ハブが、鋭い目でオオミミギツネの帽子を見つめた。

 

ハ ブ  「……気づいてほしい*4んだろ? しはいにんっ!」

 突然、ハブが素早くオオミミギツネの帽子を取った。

オオミミ 「なにするのっ!!」

 オオミミギツネの声は、悲鳴のようだった。

 

ブ タ  「え……」

 ブタは、驚いて絶句した。

 

 オオミミギツネの頭には、けもの耳が無かった。ヒトの頭と同じだった。

 

 ハブが、素早くフードを脱いだ。

ハ ブ  「まわりの目なんて気にしない*5!」

 そして、いたずらっぽく笑いながら、自分の頭にかけていたオーバーヘッド型のヘッドホンを取って、それをオオミミギツネの頭にかけた。

 

 オオミミギツネが、両手でヘッドホンを触った。呆然としていた。

オオミミ 「……なにこれ……」

 ヘッドホンはグレーで、耳を覆うタイプだった。

ハ ブ  「“ほちょうき”っていうんだってさ。はかせたちに作ってもらったんだ」

オオミミ 「……聞こえる*6……ハブさんの声……」

ハ ブ  「ペパプみたいだぜ! おそろいだ!」

オオミミ 「う……」

 オオミミギツネがうつむいた。

ブ タ  「もー! 乱暴ですよハブさん!」

オオミミ 「……う……ぐす……」

ブ タ  「ほらぁ! 泣いちゃったじゃないですか!」

ハ ブ  「すまねぇ! それはプレゼント*7で……」

オオミミ 「……受け取りのしるしはハグがいい*8?」

 オオミミギツネは少し涙声だったが、その声は明るかった。

ハ ブ  「うええ! へんなこと言うな!」

オオミミ 「なんてね*9……ぐす……」

 オオミミギツネは、ハブを見て少し笑って、目元をぬぐった。

ハ ブ  「……なんか、かわいくなったな、あんた」

 ハブは、少し困惑したような、でも明るい感じで言った。

オオミミ 「……か、かわいくなんかない!

      “耳がないオオミミギツネ”、なんて、冗談*10にもならないわ……」

 オオミミギツネは、ハブから顔をそらして、再びうつむいた。

ハ ブ  「…………」

 ハブは、少し顔をしかめただけで、何も言えなかった。*11

 

 たったっ、と、ブタがハブの背後へまわった。

ブ タ  「ハブさん! ほら! こっちです!」

 ブタが、ハブの肩をつかんで、横に引っ張った。

ハ ブ  「お、おい……」

ブ タ  「よそ見はしないで*12!」

 

 少しの間。

 

ブ タ  「もうちょっと顔上げて*13ください! 支配人!」

 ブタの声は明るかった。

オオミミ 「え?」

 オオミミギツネが顔を上げた。

 すぐ目の前には、フードを脱いだハブがいた。

 ふたりの顔はとても近く、すぐに目と目*14が合った。オオミミギツネは驚いて、頬を赤くしていった。ハブはすでに顔が赤かった。

オオミミ 「…………っ!」

 オオミミギツネが、ハブから顔をそらして、がしっ! とハブに抱き着いた。

ハ ブ  「うおっ!」

 オオミミギツネは、ハブの肩にあごを乗せる格好になった。

オオミミ 「もう、迷わない*15……」

 オオミミギツネは、目をぎゅっと閉じて、ハブを抱きしめた。

オオミミ 「何が起きても、あなたとなら*16……」

ブ タ  「うーん……聞いてたのと違いますねぇ……。ちゅーってするんじゃないんですか?」

ハ ブ  「だれに聞いたんだそれ!」

ブ タ  「ひみつですぅー」

 

 

 PPPライブ前日の夜。新ホテルの工事現場。

 

 新ホテルの骨組みはほぼ完成していた。骨組みは全体的に太くがっちりとしていた。

オオミミ 「わたし高いところ苦手なのよ!」

 ハブが、オオミミギツネの手を引いて、仮設の階段を上っていった。

ハ ブ  「ビビってちゃダメダメ*17!」

 ふたりは、手と手をつない*18だまま、最上階の骨組みに立った。そこには、仮の床が一部だけしかなく、壁も無かった。上も下もまる見えだった。

 オオミミギツネは、ハブに抱き着いた。少し震えていた。

ハ ブ  「目を凝らせ!*19 あんたも夜行性だろ!」

 ふたりは海を見た。海の上には、少し欠けた月があり、その光が海に反射して、波がキラキラ*20と光っていた。

オオミミ 「あれ、ヘリポート?」

 月の下には、旧ホテル跡があった。

ハ ブ  「下よりよく見えるだろー!」

オオミミ 「きれい……」

ハ ブ  「満月じゃないのがおしいけどな」

 ふたりは、最上階からさらにはしごを登った。そして新ホテルの屋根の骨組み(梁)にとなり*21合って座り、一緒に星空*22を眺めた。オオミミギツネが左側、ハブが右側だった。

オオミミ 「なんでブタさんは呼ばなかったの?」

ハ ブ  「あいつ、怖いから嫌だとか、夜目が効かないとか言ってたぜ」

オオミミ 「ふーん……残念ね」

 オオミミギツネが、ハブから顔をそらした。

オオミミ 「あ……」

 キラリ、と星が流れた。*23

 

 

 少し経って。

 

オオミミ 「もういいでしょ……さむいし……少し怖い*24……」

ハ ブ  「もうちょっとだ。月が沈む」

 月が水平線へ沈んでいった。海面のキラキラ*25が長くのびた。その先にはヘリポートがあった。

ハ ブ  「まばたきなんてする暇ない*26ぜ?」

 

 月が沈み切った。次の瞬間、ヘリポートが天に向かって強い光を放った。数秒遅れて、ホテル跡のまわりを一周するように、光の点が円形に並んだ。

 

 オオミミギツネが目を見開いた。

 

 水しぶき*27が、ステージの両端から吹き出し、光を受けて、サーチライトのような光の線になった。水しぶきはホテルのまわりからも噴き出し、光を受けて、ホテル跡のまわりを一周する巨大な光のカーテンになった。サーチライトのような光の線は三本に増えて、別々の方向に動いた。光のカーテンは波のようにゆらぎを見せた。その後、ライトが点滅したことで、光のカーテンがぐるぐるとホテル跡のまわりを回っているように見えた。その後も、光は複雑な動きを見せた。

 

ハ ブ  「すっげーだろ? あしたの予行だ!」

 

オオミミ 「……また、勝手なことして…………」

 オオミミギツネが、ふらりと倒れかけ*28て、ハブにもたれかかった。

ハ ブ  「おい! どうした!」

 ハブが、前のめりに落ちそうになったオオミミギツネを支え*29た。

ハ ブ  「落ちるぞ!」

オオミミ 「……もっと! もっと大きな声で言って*30!」

 オオミミギツネは、ハブを強く抱き返した。

ハ ブ  「落ちるぞ!!」

 オオミミギツネは、呆然として、ヘッドホンを外し、自分の左耳をつんつんと触った。

ハ ブ  「おい! おーい!! 聞こえるか*31ー!!」

 オオミミギツネは、涙を浮かべた*32

オオミミ 「……左耳、聞こえない……」

 オオミミギツネは、左耳に手をあてて、目をぎゅっと閉じてうなだれた。涙が流れた。

ハ ブ  「なにい! うそだろ……」

オオミミ 「まだ、夢の途中*33なのに……」

 オオミミギツネが旧ホテル跡を見た。ピカピカ*34瞬き動く光が、にじんで見えた。

 ハブは、オオミミギツネの右耳に顔を近づけた。

ハ ブ  「まだ右がある! あしたが待ってる*35!」

 

 少しの間。

 

 オオミミギツネが顔を上げた。

オオミミ 「わたしをなぐさめ*36ようなんて、100日*37早いわ……」

ハ ブ  「みじかっ!」

オオミミ 「ふふっ」

 オオミミギツネは、心から笑える*38、とまではいかないものの、たしかに笑った。

 

 

 

 後編へ続く

 

 

 

 

 

 

*1
『わたしたちのストーリー』

*2
『Hello! アイドル』

*3
『大陸メッセンジャー』

*4
『大空ドリーマー』

*5
『アラウンドラウンド』

*6
『人にやさしく』(カバー曲)

*7
『大陸メッセンジャー』

*8
『大陸メッセンジャー』

*9
『大陸メッセンジャー』

*10
『夢みるプリンセス』

*11
『人にやさしく』(なぐさめてあげられない

*12
『大空ドリーマー』

*13
『アラウンドラウンド』

*14
『純情フリッパー』『ドレミファロンド(フレンズ Ver.)』

*15
『夢みるプリンセス』『やくそくのうた』

*16
『大陸メッセンジャー』

*17
『Rockin' Hoppin' Jumpin'』

*18
『純情フリッパー』『ドレミファロンド(フレンズ Ver.)』

*19
『アラウンドラウンド』

*20
『けものパレード ~ジャパリパークメモリアル~』『夢みるプリンセス』『純情フリッパー』

*21
『200キロの旅』『大陸メッセンジャー』

*22
『わたしたちのストーリー』(一緒に見てた星空

*23
『わたしたちのストーリー』

*24
『ファーストペンギン』

*25
『けものパレード ~ジャパリパークメモリアル~』『夢みるプリンセス』『純情フリッパー』

*26
『THE WANTED CRIMINAL』

*27
『純情フリッパー』

*28
『200キロの旅』

*29
『200キロの旅』(倒れかけたら きみを支える

*30
『人にやさしく』(でっかい声で言ってやる

*31
『人にやさしく』(カバー曲)

*32
『ドレミファロンド(フレンズ Ver.)』(星空の下に 浮かべた涙

*33
『やくそくのうた』

*34
『けものパレード ~ジャパリパークメモリアル~』『純情フリッパー』

*35
『わたしたちのストーリー』

*36
『人にやさしく』(カバー曲)

*37
『200キロの旅』

*38
『夢みるプリンセス』




 歌詞引用個所 中編 あとがき

 中編は、前編よりも大幅に引用個所が増えました。「聞こえる」「プレゼント」「冗談」などは、“引用”とは呼べない気もしますが、歌詞から借りた言葉なのは間違いないです。一旦「霧状の水」と書いたものを「水しぶき」に置き換えるような、細かいこともやっています。
 3人が「わたしたちのストーリー」を歌うシーンは、「ふたつのホテル」で最も多く(長く)歌詞を引用したシーンです。セリフや地の文に歌詞を挟むのではなく、キャラに歌わせているので、これも“引用”とは微妙に違う気がします。
 補聴器をプレゼントするシーンとか、かなり無理をしているのが分かります。

 

使用楽曲コード:07298021,22493352,23304049,23687789,23687801,23687819,23687827,24318892,71772073,72140411,72140968,72142669,N00040679

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