歌詞引用個所 後編 まえがき
歌詞引用個所が赤くなっている(ネタばらし版)後編(第7話)です。
緑の字は、曲中のセリフを引用した所です。
“曲名”を引用した個所は色を変えていません。
PPPライブ当日の午後。ヘリポートを改修したライブ会場。
観客は満員だった。その中には、以前多数のフレンズ型セルリアンと戦ったメンバーもいた。
オオミミ 「直接、聞きたかったわ……」
オオミミギツネのヘッドホンから、ケーブルがのびていた。
客席の最前列、客席から見て左側、スピーカーのそばに、オオミミギツネとハブとブタがいた。
ハ ブ 「いーじゃねーか。特別待遇だぜ!」
夕方近く。PPPが登場し、歓声と共にライブが始まった。
光り輝*1くステージで、歌い踊るPPP。
最高の盛り上がりを見せる観客。
オオミミギツネが、片手を上げ、笑顔でジャンプした。
ライブは中盤を過ぎ、日が沈み、周囲は暗くなっていった。暗い分、照明が輝いて*2見えた。
ライトと水しぶき*3を使った演出が始まった。観客から歓声があがった。曲とシンクロして、光の線、光のカーテンが複雑な動きを見せた。観客は、興奮で倒れてしまいそうなほど盛り上がった。
曲が終わってMCへ。
プリンセス「……この最高のライブを企画してくれた方がそこにいるわ!」
コウテイ 「このホテルの支配人、オオミミギツネさんだ」
PPPのメンバーが、客席の最前列、ステージから見て右側を見た。
オオミミ 「え?」
ジェーン 「ホテル、残念なことになっちゃいましたけど……」
イワビー 「新しいホテル作ってるらしいぜ!」
マーゲイ 「オオミミギツネさん! 舞台へ! ほんとうの特別待遇ですよ!」
ステージのわきからマーゲイが現れた。
オオミミ 「え? え?」
オオミミギツネは、状況が理解できていない様子だった。
フルル 「またホテルでディナーショーやりたいよねー」
イワビー 「やったことないだろ!」
ハ ブ 「ほら! 飛び込め*4!」
オオミミ 「そ、そんな……あなたたちは?」
オオミミギツネが、ハブとブタを見た。
ハ ブ 「あんたが主役だぜ!」
ブ タ 「夢を掴まえて*5ください!」
オオミミ 「……起きちゃうも*6のなのね、こんなこと……」*7
オオミミギツネがステージへ上がった。そしてゆっくりとステージの中央へ歩いて行った。
彼女はみんなの視線を集め*8、観客から歓声があがった。
プリンセス「あなた、歌も踊りも完璧*9なんですって?」
プリンセスが、オオミミギツネにマイクを向けた。
オオミミ 「ええ!? だれがそんなことを!」
オオミミギツネは、客席の最前列、ステージから見て右側を見た。そこにはハブとブタいた。
オオミミギツネとハブの目が合った。
ハ ブ 「へっへー」
ハブが、オオミミギツネを見て笑った。
オオミミ 「ぁぃっぅ……」
フルル 「いっしょに踊ってみなーい?」
プリンセス「ええ! なに言いだすのこの子!」
ジェーン 「ステキですね!*10 でも……」
コウテイ 「そんなことして大丈夫なのか?」
マーゲイ 「だめです! MCだけですよ!」
マーゲイがステージのわきから、両腕で×を作りながら声をかけた。
イワビー 「いーじゃねーか! 楽しまなきゃ損*11だせ!」
フルル 「つぎは、わたしたちのストーリーだっけー」
ジェーン 「ちがいますよフルルさん」
コウテイ 「それは次の次だぞ」
プリンセス「セットリストばらさないで!」
プリンセスが、オオミミギツネの手を引*12き、アイコンタクトで、一緒に*13踊るように促した。
イントロが始まった。アラウンドラウンドだった。
オオミミギツネが駆け足で、PPPの後方の“ポジション”についた。
踊り出そう*14とした次の瞬間、糸が切れたように、ぷっつりと音が消えた。
世界の色が鮮やかさを失い、視野が狭くなった。
オオミミ 「……え……」
オオミミギツネは、目をぎゅっと閉じて、悔しさをにじ*15ませた。
音の無い世界で、歌が始まった。
オオミミギツネが目を開けて、ヘッドホンを外した。ばさっと髪が揺れた。
客席のハブとブタが驚いた。
ブ タ 「ええ!」
ハ ブ 「なんで取った!?」
オオミミギツネが、軽やかに踊り出*17した。
ヘッドホンが床に落ちた。
オオミミギツネは、たどたどしいながらも、まわりに合わせて歌い踊った。少し遅れて、少し間違った振り付けだった。だが歌詞は完璧だった。
ハブとブタは、目を見開いて、オオミミギツネを見ていた。
ハ ブ 「すげぇ……」
ブ タ 「聞こえないはずなのに……」
マーゲイが、ヘッドホンのケーブルを引っ張って、ステージからヘッドホンを回収した。
音が無かった。自分と一緒に歌い踊るPPPの映像を、オオミミギツネは見ていた。音が無い分、映像が色あせて見え、左右や後方から来る情報が無い分、視野も狭く感じられた。
もうすぐ、歌は2番のサビのはずだった。
オオミミギツネが、目を閉じて、息を深く吸い込ん*18だ。
そして、パッと顔を上げた。髪からサンドスターが飛び散り、キラキラ*19と輝い*20た。
オオミミギツネの頭に、大きなけもの耳が戻った。
オオミミギツネが目を開けた。
一気に視野が広がり、世界に色が戻った。
オオミミギツネの脳に、四つの耳から膨大な音の情報が流れ込んできた。
音圧、周波数、波形、方向、距離、反響、残響……。音の洪水だった。
オオミミギツネの脳は、大量の音の情報を飲み込んだ。
そして、誰にも届かぬ速さ*21で、音を、分解、解析、合成、認識、記憶していった。
リズム、メロディ、ハーモニー、歌詞……。
ドッドッドッドッ……と、速くて大きい、自分の心臓の音が聞こえた。
観客のざわつきや、PPPのメンバーの足音や、息づかい、彼女たちの心臓の音まで聞こえた。
音の形、音の色、音の感触、音のにおい、音の味まで感じられた。
オオミミギツネの脳では処理しきれない音が、あふれた。
オオミミ 「……う……うああっ……」
オオミミギツネが、目を見開いて、一瞬苦しげな顔になり、ふらついた。
音は音量を増し、立体感を増し、空気の振動や、はじける音の粒が、キラキラ、チカチカ*22と、七色に輝いて*23見えるようだった。
オオミミギツネは、音で、自分のまわりの全てが見えた。
やがて音は“見える”を超えた。
オオミミギツネは、誰も未体験の景色*24を、聞いた。
オオミミギツネは、ふらつきながらも歌い踊り続けた。先ほどより大きな声で、まぶしい太陽みたいな笑顔で歌*25った。そして、息つく暇もな*26く押し寄せるしあわせ*27に身を任せて、踊った。
やがて、ふらつきもなくなり、振り付けも歌も、完コピ*28以上の出来になった。
ハブとブタは、放心したように、オオミミギツネを見ていた。
曲が終わった。
オオミミギツネが、ふらりと倒れた。
それを、コウテイが抱きとめた。
コウテイ 「大丈夫か!」
ブ タ 「しはいにん!!」
ハ ブ 「どうした!!」
観客からどよめきが起きた。
イワビー 「なんだっ!」
プリンセス「救護を! 早く!」
イワビー 「ここは照明があつい!」
フルル 「あっちへ運んであげて」
マーゲイ 「貧血ですか!? 舞台わきへ!」
ジェーン 「手伝います! 顔色が……震えてますよ!」
マーゲイが観客にアナウンスした。
マーゲイ 「申し訳ございません。ライブは中断させていただきます。しばらくお待ちください」
ステージの照明が落ちた。観客はざわついていた。
コウテイがオオミミギツネのわきを、ジェーンが足をつかんで、舞台わきへ運んで行った。
観客からは見えない舞台わき。
マーゲイ 「わたし、はかせたちを呼んできます!」
マーゲイが走り去って行った。
オオミミ 「ごめんなさい……ライブ、止めちゃって……」
あおむけに倒れたオオミミギツネは、涙を流しながら力なく言った。目は焦点が合っておらず、泳いでいた。かすかに体が震えていた。そのまわりに、ハブとブタ、そしてPPPのメンバーがいた。
ハ ブ 「その耳、自分で作り出したのか……後先考えない*30で……」
ハブは、憐れむような表情になった。
オオミミ 「きこえた……聞こえたわ……まぶしい音……あたま、こわれちゃう、くらい……」
オオミミギツネは、涙を流しながら、ほんの少し笑ったように見えた。
オオミミ 「あれ? あれ? こえぇ、でない……」
ハ ブ 「聞こえてるぞ! 声は出てるだろ!」
オオミミ 「音のシャワー……受け止め*31きれなかった……こわれちゃった……」
ハ ブ 「おい! なにを言って!」
オオミミ 「まだ……夢の途中*32……けど……ペパプの歌で……死ねるなら……」
ブ タ 「ええ!?」
オオミミ 「なにも、いらない*33……」
ハ ブ 「ダメだっ!! 死ぬな!! ホテルはどうなる!!」
ブ タ 「いやです!! こんなの!!」
オオミミ 「たのしかった*34わ……」
オオミミギツネが、目を閉じて、無理やり微笑んだ。涙があふれた。
ハ ブ 「聞こえるか*35!! 聞こえてるのか!!」
オオミミギツネが、薄く目を開けた。
オオミミ 「もう……だらしないわね……しっかり、しなさい*36……」
オオミミギツネが目を閉じた。全身の力が抜け、震えが止まった。
ブ タ 「しはいにん!」
ハ ブ 「おい!! おきろ!! 悪い冗談*37だろ!」
待ってるのはどんな未来?*38。
ライブから2年ほどが経った、ある日の午後。完成した新ホテルの最上階。その一室。
ハブが、ベランダの柵にもたれかかって、海に半分沈んだ旧ホテル跡を見ていた。部屋はきれいに掃除されており、きれいに整えられたベッドが客を待っていた。
ハ ブ 「何十回、否定しても、何百回、肯定するよ*43……」
ハブが、つぶやくように歌っていた。
ブ タ 「いい歌ですよねぇ」
ハ ブ 「うおっ!」
ブタが、ハブの後ろから現れた。
ハ ブ 「掃除終わったのか?」
ブ タ 「全室完了です!」
ブタは、明るい感じで言った。
ブ タ 「それより、ハブさんの持ち場はここじゃないですよ!」
ブタは、ちょっと叱るような口調になった。
ハ ブ 「あのひとのマネか?」
ブ タ 「そんなつもりじゃないんですけど……」
ブタが苦笑いした。
ハ ブ 「いっつも、突然現れたんだよなー」
ブ タ 「これも……突然現れたんですよ!」
ブタが、後ろ手に隠していたものを、ハブの前に笑顔で掲げた。
ハブの顔が、驚愕に変わった。
ハ ブ 「……うそだろ……」
それは、アナログレコードだった。その盤面には、「Japari Park」と書かれており、ディスクの3分の1ほどが大きく折れ曲がっていた。
ハ ブ 「音が出るやつだ!どこにあった!?」
ブ タ 「それが……」
回想。新ホテルのエントランス。
ブ タ 「下で、掃除をしていたら……」
ブタが、カウンター前の木の床をモップがけしていた。
ブタが何かの気配を感じて、ちらりと、出入り口のドアの窓を見ると、ビュン! という音とともに、オレンジ色のなにかが去って行った。それは他の窓からもちらりと見えた。
ブ タ 「なにかが玄関の前にいたんです。でもものすごい速さでいなくなってしまって」
ブタが、ドアを開けて外へ出た。そして足元に落ちているものに気づき、拾い上げた。
ブ タ 「それで、外を見たら、これが落ちていたんです」
ブタが拾い上げたものは、折れ曲がったレコードだった。
回想おわり。
ハブが、レコードを受け取った。
ハ ブ 「わけわかんねーな。これがあったのは下の階だ。深すぎて掘りだせねえだろ? それに、玄関にいたのはなんだ? フレンズか?」
ブ タ 「たぶん、フレンズです」
ハ ブ 「親切なやつがいたもんだ……ふんふん……」
ハブが、レコードのにおいをかいだ。
ハ ブ 「……わかんねぇ。あんた鼻がきくだろ? においしなかったか?」
ブ タ 「外ににおいは残ってたんですけど、かいだことがあるような、ないような……」
ハ ブ 「なんだよそれ……」
ブ タ 「たぶん、ネコ科の子だと思うんです。でもそれ以上はわかりません」
ハブが、レコードを見つめて、少し考え込んだあと、つぶやいた。
ハ ブ 「…………遅すぎだぜ……」
ハブがレコードの盤面を指でなでた。かすかに、キュッと音がした。
ブ タ 「あの箱がないのが残念ですねぇ……音が出ればいいのに……」
忍び寄ってくる、ちいさな影*44。
「聞こえてるわよ」
ふたりが振り返った。
少し開いたドアから入ってきたのは、大きな耳がある、茶色がかった灰色の、やや小柄なキツネだった。
ブ タ 「きつね?」
ハ ブ 「どうやって登ったんだ?」
ブ タ 「まさか!」
キツネは、トテトテ……と歩き、タタタッと速足になって、ふたりに近づいてきた。
そしてふたりを見上げ、ハッハッ、と荒い息をした。
ハブとブタがしゃがんだ。
ハ ブ 「……これが、ほしいのか?」
ハブが、床にレコードを置いた。
キツネは、レコードのにおいをかいだ。だが、すぐにかぐのをやめて、今度はハブの膝に鼻先をくっつけるようにしてにおいを嗅いだ。
ブ タ 「ハブさんの方が好きみたいですね」
キツネが、においをかぐのをやめて、ブタの方を見上げた。
ブタが、キツネの頭をなでた。
ブ タ 「なつかしい、においですぅ……」
ハ ブ 「このぬいぐるみはしゃべらねーのかー?」
ハブがキツネのあごをくすぐった。その声はやさしかった。
ガブっ! と突然、キツネがハブの手にかみつこうとした。
ハ ブ 「ひっ!」 ブ タ 「わっ!」
ハブはすぐに手を引いて逃れ、しりもちをついた。
ハ ブ 「何がダメなんだ*45よっ!」
キツネは、タタタッとハブから数歩離れ、振り返った。
ハ ブ 「はっ……」
一瞬、ハブとキツネが止まった。
そして、キツネは前を向き、ドアの方へ、トテトテと歩いて行った。
ブ タ 「ハブさん! 行っちゃいますよ!」
ハ ブ 「まてっ!」
キツネが速足になり、少し開いたドアから部屋の外へ出て行った。
ハブが立ち上がり、ドアに駆け寄った。そして部屋のドアを開けた。
ハ ブ 「…………う……」
ハブの表情が崩れた。
ブ タ 「ハブさんどうしたんですか!?」
ハブは、ふらりと廊下へ出た。
ハ ブ 「……どうした、って……」
ハブは声を詰まらせた。
ブタも廊下へ出た。
ブ タ 「え……」
廊下に、キツネの姿は無かった。
ブ タ 「きえちゃった……」
ハブが、肩を震わせた。
ハ ブ 「やめようぜ……こんな*46、いたずら*47……うう……ぐす……」
ハブは、立ったままうなだれて、涙をぬぐった。
ブ タ 「追いかけましょう! まだ近くに……」
ハ ブ 「いや、いいんだ。……ぐす……ここは、帰る場所*48じゃねえんだよ……」
ブ タ 「そんなことないです! ……これ、音が鳴らせれば、また来てくれますよ」
ブタが、折れ曲がったレコードを掲げた。
ハ ブ 「……無理だ! 鳴らす箱がないし、こんなに曲がってたら……」
ブ タ 「じゃあ、叫んでください」
ブタは笑顔で、明るい声だった。
ハ ブ 「は?」
ハブは、気が抜けた様子だった。
ブ タ 「気合を入れて*49、海に向かって『支配人がいなきゃダメ*50だー!』って」
ハ ブ 「なんだよそれ……。そんなんで来るなら、いくらでも、何度だって*51叫んでやるよ! 声が、枯れ*52ても……」
ブ タ 「だいじょうぶですよぅ。支配人は、遠くにいても、近くにいても*53、ちゃーんと聞いていますから」
おわり
ライブから数日後の夕方。未完成の新ホテルの最上階。
日が傾き、空がオレンジ色に変わり始めていた。
ハブが、ベランダの柵にもたれかかって、海に半分沈んだ旧ホテル跡を見ていた。最上階には床板が張られていた。天井もあったが、壁は一部が欠けていた。
ハ ブ 「ロッキン、ホッピン、ジャンピン*55……」
ハブが、つぶやくように歌っていた。
ブ タ 「みみに残りますよねぇ」
ハ ブ 「おわあっ!」
ブタが、ハブの後ろから現れた。
ハ ブ 「高いところ怖いんじゃなかったのか?」
ブ タ「床があるからだいじょうぶです。それより、ハブさんの持ち場はここじゃないですよ?」
ハ ブ 「支配人のマネか?」
ブ タ 「そんなつもりじゃないんですけど……」
ブタが苦笑いした。
ハ ブ 「いっつも、突然現れんだよなー」
ブ タ 「やっぱり、あのひとがいないと、ダメ*56ですね……」
ハ ブ 「聞こえるか*57ー!! あんたがいないとダメ*58だってさー!!」
ハブは、海に向かって叫んだ。
近づいてくる、誰かの足音*59。
オオミミ 「聞こえてるわよ」
オオミミギツネが、階段を上ってきた。
その頭には、けもの耳が無かった。ヘッドホンは付けていなかった。
回想、ライブの日。
プリンセス「……わたしたちのせいで……」
ハ ブ 「あんたらのせいじゃねえ!」
ハ ブ 「つづけてくれ!」
プリンセス「え?」
ハ ブ 「お願いだ! ライブを続けてくれ! 支配人ならだいじょうぶだ!」
ハブが、オオミミギツネを両腕で抱き上げた。
ブ タ 「ハブさん、なにを……」
ハ ブ 「ちょっと離れて見てる」
ハブは、オオミミギツネを抱いて、走り去って行った。
ブ タ 「待ってください! どこへ!」
ハブは、オオミミギツネを抱いて、暗い中、新ホテルの階段を上っていった。
回想おわり。
新ホテルの最上階のベランダ。
3人はベランダの柵にもたれて、夕焼け*60を眺めていた。
ブ タ 「あこがれちゃいますぅ。キラキラの絵本*61みたいで」
オオミミ 「なに? なんのはなし?」
ブ タ 「おひめさまは、おうじさまのキ……」
ハ ブ 「やめろ!」
ハブが顔をそらした。顔が赤かった。
オオミミ 「だからなんのはなしよ!」
ハ ブ 「あんたの地獄耳がなくなって助かったぜ……」
オオミミ 「…………」
オオミミギツネは、ちょっと驚いた顔をした。
ハ ブ 「わりい! 言い過ぎた!」
オオミミ 「いいのよ。ちゃんと聞こえるから。……あなたの毒舌には助けられたわ」
オオミミ 「はあ!? なんだよ気持ちわりい」
ブ タ 「ふふっ。ふたり、ぴったり相性抜群*62です」
オオミミ 「……なに勘違いしてるのよ……」
オオミミギツネがうつむいて、顔をそらした。
ハ ブ 「やっぱかわいくなったな!」
ハブが、オオミミギツネの頭をくしゃくしゃとなでた。
オオミミギツネが立ち上がり、近くに置いてあった小さな角材を拾って、木刀のようにハブに向けた。
ハ ブ 「ひいっ!」
オオミミ 「わたしをなぐさめ*63ようなんて、200キロ*64早いわ!」
ハ ブ 「単位がおかしいだろ! なぐさめてねーし!」
オオミミギツネの後ろから、ブタが素早く何かをオオミミギツネの頭に付けた。
ハ ブ 「ぷっ! ふはは! 似合ってる! 超かわいい*65ぜ!」
オオミミ 「え? なにこれ?」
オオミミギツネが、片手で自分の頭をさわった。そこには大きな耳のようなものがあった。
オオミミ 「みみ?」
それは、暗いグレーの、大きな蝶結びが付いたヘアバンド*66で、頭の高い位置で結ばれていた。
ブ タ 「これ、ハブさんが……」
ハ ブ 「言うな!」
オオミミギツネが、持っていた角材を落とし、うつむいた。角材がカランと音を立てた。
オオミミ 「やめなさいよぅ…… またこんな*67のー……」
ハ ブ 「もう、泣くなよー*68!」
ハブが笑った。
オオミミ 「まいったわねえ……」
オオミミギツネが涙をぬぐった。
ブ タ 「ほら、笑って*69ください!」
ブタが、オオミミギツネの前に立った。オオミミギツネが顔を上げ、笑顔を作った。
オオミミ 「……ありがとう。これからも、よろしく*70ね」
3人が眺めていた夕焼けに、スラリ、とあかね雲が伸びた*71。
おわり
歌詞引用個所 あとがき
読んでいただきありがとうございます。
以上、答え合わせ的なものでした。
文字の色を変えて、引用元の曲名を脚注で表記する作業は結構大変でした。書いてから時間が経っているため、筆者自身が忘れている引用個所もあるかもしれません。
「また会いにいくよ」で、引用が無い部分が続くのは、物語重視で書いて、上手く歌詞を挟み込めなかったためです。
・ 実は、色変え版の追加投稿に合わせて、本編(色を変えていない方)も少し修正しています。
・ 「夢みるプリンセス」と「わたしたちのストーリー」は特に重要な曲です。筆者は、“「夢みるプリンセス」は、しはいにんにぴったりな歌詞だなー”と思っていて、これをかなり意識して書いています。本作のタイトル案の一つに、「夢みるしはいにん」というのがあったくらいです。
・ 「とびきりの私を見てね」で、オオミミギツネに「ヘアバンド」をプレゼントしていますが、これは当初は「カチューシャ(大きなリボン付き)」でした。「Hello! アイドル」に合わせて「ヘアバンド」に変更したんです。ですが私は、カチューシャの方が合っている(ヘアバンドだと、飾り結びが頭の上でなく、おでこ寄りになってしまう)かなとも思っていて、今だに迷っています。
・ 「輝いて(輝く)」「一緒に」は、いくつもの曲に出てくる言葉です。偶然かもしれませんが、PPPに似合う言葉、という気がします。
本作で行った、歌詞を入れた書き方は……
大まかな物語を考える(物語自体は自分で考えたものですが、歌詞の影響を受けています)。
↓
歌詞から、使えそうなフレーズを探して書き出す(ここで書き出したもの以外の歌詞を使うこともありました)。歌を聴いて、ある程度歌詞を頭に入れておく。
↓
そして、
A 歌詞を挟み込みながら文章にする。
B 文章の中の言葉を歌詞に置き換える。
C 歌詞が収まるように、物語と、引用した歌詞の前後の文章を修正する。
という感じです。
A~Cは順番に行うのではなく、歌詞を入れられそうな場所を探しながら、三つの方法を使って文章を書いて、いじっていく感じです。作業の半分くらいは、書かずに頭の中で行います。
“歌詞抜き版”を書くとしたら……
Bで言葉を置き換えた個所は、歌詞を抜いて元に戻せます。でもAで歌詞を入れた個所や、Cで前後の文章を大きくいじった個所は、歌詞を抜いて書き直すのが大変です。
他の曲、PPPの新しい曲を入れて書き直せば、もっと歌詞が入るのでは……と思ったりもしますが、正直めんどくさいのでこのままにしておきます。歌詞を混ぜるのは味付けであって、それがメインではありませんし、2期のホテル3人組の話とか、ネタの鮮度が低いですし……。
2019/10/25 記
※ どうでもいい疑問……「鮮度が高い・低い」と「鮮度が良い・悪い」ってどっちが正しいんでしょう?
使用楽曲コード:07298021,72142669,72140968,72140411,71772073,71665714,24318892,24318876,23687827,23687819,23687801,23687789,23304049,23304006,23303778,23083808,22493352,N00040679