ふたつのホテル   作:くにむらせいじ

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 歌詞引用個所 後編 まえがき

 歌詞引用個所が赤くなっている(ネタばらし版)後編(第7話)です。
 緑の字は、曲中のセリフを引用した所です。
 “曲名”を引用した個所は色を変えていません。






ふたつのホテル 歌詞引用個所 後編

 

 

 

 

 PPPライブ当日の午後。ヘリポートを改修したライブ会場。

 

 観客は満員だった。その中には、以前多数のフレンズ型セルリアンと戦ったメンバーもいた。

 

オオミミ 「直接、聞きたかったわ……」

 オオミミギツネのヘッドホンから、ケーブルがのびていた。

 客席の最前列、客席から見て左側、スピーカーのそばに、オオミミギツネとハブとブタがいた。

ハ ブ  「いーじゃねーか。特別待遇だぜ!」

 

 

 夕方近く。PPPが登場し、歓声と共にライブが始まった。

 

 光り輝*1くステージで、歌い踊るPPP。

 最高の盛り上がりを見せる観客。

 オオミミギツネが、片手を上げ、笑顔でジャンプした。

 

 

 ライブは中盤を過ぎ、日が沈み、周囲は暗くなっていった。暗い分、照明が輝いて*2見えた。

 ライトと水しぶき*3を使った演出が始まった。観客から歓声があがった。曲とシンクロして、光の線、光のカーテンが複雑な動きを見せた。観客は、興奮で倒れてしまいそうなほど盛り上がった。

 

 曲が終わってMCへ。

プリンセス「……この最高のライブを企画してくれた方がそこにいるわ!」

コウテイ 「このホテルの支配人、オオミミギツネさんだ」

 PPPのメンバーが、客席の最前列、ステージから見て右側を見た。

 

オオミミ 「え?」

 

ジェーン 「ホテル、残念なことになっちゃいましたけど……」

イワビー 「新しいホテル作ってるらしいぜ!」

 

マーゲイ 「オオミミギツネさん! 舞台へ! ほんとうの特別待遇ですよ!」

 ステージのわきからマーゲイが現れた。

オオミミ 「え? え?」

 オオミミギツネは、状況が理解できていない様子だった。

 

フルル  「またホテルでディナーショーやりたいよねー」

イワビー 「やったことないだろ!」

 

ハ ブ  「ほら! 飛び込め*4!」

オオミミ 「そ、そんな……あなたたちは?」

 オオミミギツネが、ハブとブタを見た。

ハ ブ  「あんたが主役だぜ!」

ブ タ  「夢を掴まえて*5ください!」

オオミミ 「……起きちゃうも*6のなのね、こんなこと……」*7

 オオミミギツネがステージへ上がった。そしてゆっくりとステージの中央へ歩いて行った。

 彼女はみんなの視線集め*8、観客から歓声があがった。

 

プリンセス「あなた、歌も踊りも完璧*9なんですって?」

 プリンセスが、オオミミギツネにマイクを向けた。

オオミミ 「ええ!? だれがそんなことを!」

 

 オオミミギツネは、客席の最前列、ステージから見て右側を見た。そこにはハブとブタいた。

 オオミミギツネとハブの目が合った。

ハ ブ  「へっへー」

 ハブが、オオミミギツネを見て笑った。

 

オオミミ 「ぁぃっぅ……」

フルル  「いっしょに踊ってみなーい?」

プリンセス「ええ! なに言いだすのこの子!」

ジェーン 「ステキですね!*10 でも……」

コウテイ 「そんなことして大丈夫なのか?」

 

マーゲイ 「だめです! MCだけですよ!」

 マーゲイがステージのわきから、両腕で×を作りながら声をかけた。

 

イワビー 「いーじゃねーか! 楽しまなきゃ損*11だせ!」

フルル  「つぎは、わたしたちのストーリーだっけー」

ジェーン 「ちがいますよフルルさん」

コウテイ 「それは次の次だぞ」

プリンセス「セットリストばらさないで!」

 

 

 プリンセスが、オオミミギツネの手を引*12き、アイコンタクトで、一緒に*13踊るように促した。

 イントロが始まった。アラウンドラウンドだった。

 オオミミギツネが駆け足で、PPPの後方の“ポジション”についた。

 

 踊り出そう*14とした次の瞬間、糸が切れたように、ぷっつりと音が消えた。

 世界の色が鮮やかさを失い、視野が狭くなった。

 

オオミミ 「……え……」

 

 

 オオミミギツネは、目をぎゅっと閉じて、悔しさにじ*15ませた。

 

 音の無い世界で、歌が始まった。

 

 

 ―――――― 運なんて待てないわ*16 ―――――― 

 

 

 オオミミギツネが目を開けて、ヘッドホンを外した。ばさっと髪が揺れた。

 

 客席のハブとブタが驚いた。

ブ タ  「ええ!」

ハ ブ  「なんで取った!?」

 

 オオミミギツネが、軽やかに踊り出*17した。

 ヘッドホンが床に落ちた。

 

 

 オオミミギツネは、たどたどしいながらも、まわりに合わせて歌い踊った。少し遅れて、少し間違った振り付けだった。だが歌詞は完璧だった。

 

 ハブとブタは、目を見開いて、オオミミギツネを見ていた。

ハ ブ  「すげぇ……」

ブ タ  「聞こえないはずなのに……」

 

 マーゲイが、ヘッドホンのケーブルを引っ張って、ステージからヘッドホンを回収した。

 

 音が無かった。自分と一緒に歌い踊るPPPの映像を、オオミミギツネは見ていた。音が無い分、映像が色あせて見え、左右や後方から来る情報が無い分、視野も狭く感じられた。

 

 

 もうすぐ、歌は2番のサビのはずだった。

 

 

 ―――――――― 聞きたい ―――――――― 

 

 

 オオミミギツネが、目を閉じて、息を深く吸い込ん*18だ。

 

 そして、パッと顔を上げた。髪からサンドスターが飛び散り、キラキラ*19輝い*20た。

 

 オオミミギツネの頭に、大きなけもの耳が戻った。

 

 オオミミギツネが目を開けた。

 

 一気に視野が広がり、世界に色が戻った。

 

 

 オオミミギツネの脳に、四つの耳から膨大な音の情報が流れ込んできた。

 音圧、周波数、波形、方向、距離、反響、残響……。音の洪水だった。

 オオミミギツネの脳は、大量の音の情報を飲み込んだ。

 そして、誰にも届かぬ速さ*21で、音を、分解、解析、合成、認識、記憶していった。

 

 リズム、メロディ、ハーモニー、歌詞……。

 ドッドッドッドッ……と、速くて大きい、自分の心臓の音が聞こえた。

 観客のざわつきや、PPPのメンバーの足音や、息づかい、彼女たちの心臓の音まで聞こえた。

 音の形、音の色、音の感触、音のにおい、音の味まで感じられた。

 

 オオミミギツネの脳では処理しきれない音が、あふれた。

 

オオミミ 「……う……うああっ……」

 オオミミギツネが、目を見開いて、一瞬苦しげな顔になり、ふらついた。

 

 音は音量を増し、立体感を増し、空気の振動や、はじける音の粒が、キラキラ、チカチカ*22と、七色に輝いて*23見えるようだった。

 

 オオミミギツネは、音で、自分のまわりの全てが見えた。

 

 やがて音は“見える”を超えた。

 

 オオミミギツネは、誰も未体験の景色*24を、聞いた。

 

 

 オオミミギツネは、ふらつきながらも歌い踊り続けた。先ほどより大きな声で、まぶしい太陽みたいな笑顔で歌*25った。そして、息つく暇もな*26押し寄せるしあわせ*27に身を任せて、踊った。

 やがて、ふらつきもなくなり、振り付けも歌も、完コピ*28以上の出来になった。

 

 

 ――――― ここは願いが叶う場所*29 ――――― 

 

 

 ハブとブタは、放心したように、オオミミギツネを見ていた。

 

 

 曲が終わった。

 

 オオミミギツネが、ふらりと倒れた。

 

 それを、コウテイが抱きとめた。

コウテイ 「大丈夫か!」

 

ブ タ  「しはいにん!!」

ハ ブ  「どうした!!」

 

 観客からどよめきが起きた。

 

イワビー 「なんだっ!」

プリンセス「救護を! 早く!」

イワビー 「ここは照明があつい!」

フルル  「あっちへ運んであげて」

マーゲイ 「貧血ですか!? 舞台わきへ!」

ジェーン 「手伝います! 顔色が……震えてますよ!」

 

 マーゲイが観客にアナウンスした。

マーゲイ 「申し訳ございません。ライブは中断させていただきます。しばらくお待ちください」

 ステージの照明が落ちた。観客はざわついていた。

 

 コウテイがオオミミギツネのわきを、ジェーンが足をつかんで、舞台わきへ運んで行った。

 

 

 観客からは見えない舞台わき。

 

マーゲイ 「わたし、はかせたちを呼んできます!」

 マーゲイが走り去って行った。

 

オオミミ 「ごめんなさい……ライブ、止めちゃって……」

 あおむけに倒れたオオミミギツネは、涙を流しながら力なく言った。目は焦点が合っておらず、泳いでいた。かすかに体が震えていた。そのまわりに、ハブとブタ、そしてPPPのメンバーがいた。

ハ ブ  「その耳、自分で作り出したのか……後先考えない*30で……」

 ハブは、憐れむような表情になった。

 

オオミミ 「きこえた……聞こえたわ……まぶしい音……あたま、こわれちゃう、くらい……」

 オオミミギツネは、涙を流しながら、ほんの少し笑ったように見えた。

 

オオミミ 「あれ? あれ? こえぇ、でない……」

ハ ブ  「聞こえてるぞ! 声は出てるだろ!」

オオミミ 「音のシャワー……受け止め*31きれなかった……こわれちゃった……」

ハ ブ  「おい! なにを言って!」

オオミミ 「まだ……夢の途中*32……けど……ペパプの歌で……死ねるなら……」

ブ タ  「ええ!?」

オオミミ 「なにも、いらない*33……」

ハ ブ  「ダメだっ!! 死ぬな!! ホテルはどうなる!!」

ブ タ  「いやです!! こんなの!!」

オオミミ 「たのしかった*34わ……」

 オオミミギツネが、目を閉じて、無理やり微笑んだ。涙があふれた。

ハ ブ  「聞こえるか*35!! 聞こえてるのか!!」

 

 オオミミギツネが、薄く目を開けた。

オオミミ 「もう……だらしないわね……しっかり、しなさい*36……」

 オオミミギツネが目を閉じた。全身の力が抜け、震えが止まった。

ブ タ  「しはいにん!」

ハ ブ  「おい!! おきろ!! 悪い冗談*37だろ!」

 

 

 

 

 

 待ってるのはどんな未来?*38

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ また会いにいくよ*42 ]

 

 

 ライブから2年ほどが経った、ある日の午後。完成した新ホテルの最上階。その一室。

 

 ハブが、ベランダの柵にもたれかかって、海に半分沈んだ旧ホテル跡を見ていた。部屋はきれいに掃除されており、きれいに整えられたベッドが客を待っていた。

ハ ブ  「何十回、否定しても、何百回、肯定するよ*43……」

 ハブが、つぶやくように歌っていた。

ブ タ  「いい歌ですよねぇ」

ハ ブ  「うおっ!」

 ブタが、ハブの後ろから現れた。

ハ ブ  「掃除終わったのか?」

ブ タ  「全室完了です!」

 ブタは、明るい感じで言った。

ブ タ  「それより、ハブさんの持ち場はここじゃないですよ!」

 ブタは、ちょっと叱るような口調になった。

ハ ブ  「あのひとのマネか?」

ブ タ  「そんなつもりじゃないんですけど……」

 ブタが苦笑いした。

ハ ブ  「いっつも、突然現れたんだよなー」

 

ブ タ  「これも……突然現れたんですよ!」

 ブタが、後ろ手に隠していたものを、ハブの前に笑顔で掲げた。

 

 ハブの顔が、驚愕に変わった。

ハ ブ  「……うそだろ……」

 それは、アナログレコードだった。その盤面には、「Japari Park」と書かれており、ディスクの3分の1ほどが大きく折れ曲がっていた。

ハ ブ  「音が出るやつだ!どこにあった!?」

ブ タ  「それが……」

 

 

 回想。新ホテルのエントランス。

 

ブ タ  「下で、掃除をしていたら……」

 

 ブタが、カウンター前の木の床をモップがけしていた。

 ブタが何かの気配を感じて、ちらりと、出入り口のドアの窓を見ると、ビュン! という音とともに、オレンジ色のなにかが去って行った。それは他の窓からもちらりと見えた。

 

ブ タ  「なにかが玄関の前にいたんです。でもものすごい速さでいなくなってしまって」

 

 ブタが、ドアを開けて外へ出た。そして足元に落ちているものに気づき、拾い上げた。

 

ブ タ  「それで、外を見たら、これが落ちていたんです」

 

 ブタが拾い上げたものは、折れ曲がったレコードだった。

 

 回想おわり。

 

 

 ハブが、レコードを受け取った。

ハ ブ  「わけわかんねーな。これがあったのは下の階だ。深すぎて掘りだせねえだろ? それに、玄関にいたのはなんだ? フレンズか?」

ブ タ  「たぶん、フレンズです」

ハ ブ  「親切なやつがいたもんだ……ふんふん……」

 ハブが、レコードのにおいをかいだ。

ハ ブ  「……わかんねぇ。あんた鼻がきくだろ? においしなかったか?」

ブ タ  「外ににおいは残ってたんですけど、かいだことがあるような、ないような……」

ハ ブ  「なんだよそれ……」

ブ タ  「たぶん、ネコ科の子だと思うんです。でもそれ以上はわかりません」

 ハブが、レコードを見つめて、少し考え込んだあと、つぶやいた。

ハ ブ  「…………遅すぎだぜ……」

 ハブがレコードの盤面を指でなでた。かすかに、キュッと音がした。

ブ タ  「あの箱がないのが残念ですねぇ……音が出ればいいのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忍び寄ってくる、ちいさな*44

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「聞こえてるわよ」

 

 

 

 ふたりが振り返った。

 少し開いたドアから入ってきたのは、大きな耳がある、茶色がかった灰色の、やや小柄なキツネだった。

 

ブ タ  「きつね?」

ハ ブ  「どうやって登ったんだ?」

ブ タ  「まさか!」

 

 キツネは、トテトテ……と歩き、タタタッと速足になって、ふたりに近づいてきた。

 そしてふたりを見上げ、ハッハッ、と荒い息をした。

 ハブとブタがしゃがんだ。

ハ ブ  「……これが、ほしいのか?」

 ハブが、床にレコードを置いた。

 キツネは、レコードのにおいをかいだ。だが、すぐにかぐのをやめて、今度はハブの膝に鼻先をくっつけるようにしてにおいを嗅いだ。

ブ タ  「ハブさんの方が好きみたいですね」

 キツネが、においをかぐのをやめて、ブタの方を見上げた。

 ブタが、キツネの頭をなでた。

ブ タ  「なつかしい、においですぅ……」

ハ ブ  「このぬいぐるみはしゃべらねーのかー?」

 ハブがキツネのあごをくすぐった。その声はやさしかった。

 ガブっ! と突然、キツネがハブの手にかみつこうとした。

ハ ブ  「ひっ!」  ブ タ  「わっ!」

 ハブはすぐに手を引いて逃れ、しりもちをついた。

ハ ブ  「何がダメなんだ*45よっ!」

 

 キツネは、タタタッとハブから数歩離れ、振り返った。

ハ ブ  「はっ……」

 一瞬、ハブとキツネが止まった。

 

 そして、キツネは前を向き、ドアの方へ、トテトテと歩いて行った。

ブ タ  「ハブさん! 行っちゃいますよ!」

ハ ブ  「まてっ!」

 キツネが速足になり、少し開いたドアから部屋の外へ出て行った。

 ハブが立ち上がり、ドアに駆け寄った。そして部屋のドアを開けた。

 

ハ ブ  「…………う……」

 ハブの表情が崩れた。

 

ブ タ  「ハブさんどうしたんですか!?」

 ハブは、ふらりと廊下へ出た。

ハ ブ  「……どうした、って……」

 ハブは声を詰まらせた。

 ブタも廊下へ出た。

ブ タ  「え……」

 

 廊下に、キツネの姿は無かった。

 

ブ タ  「きえちゃった……」

 ハブが、肩を震わせた。

ハ ブ  「やめようぜ……こんな*46いたずら*47……うう……ぐす……」

 ハブは、立ったままうなだれて、涙をぬぐった。

ブ タ  「追いかけましょう! まだ近くに……」

ハ ブ  「いや、いいんだ。……ぐす……ここは、帰る場所*48じゃねえんだよ……」

ブ タ  「そんなことないです! ……これ、音が鳴らせれば、また来てくれますよ」

 ブタが、折れ曲がったレコードを掲げた。

ハ ブ  「……無理だ! 鳴らす箱がないし、こんなに曲がってたら……」

 

ブ タ  「じゃあ、叫んでください」

 ブタは笑顔で、明るい声だった。

 

ハ ブ  「は?」

 ハブは、気が抜けた様子だった。

 

ブ タ  「気合を入れて*49、海に向かって『支配人がいなきゃダメ*50だー!』って」

ハ ブ  「なんだよそれ……。そんなんで来るなら、いくらでも、何度だって*51叫んでやるよ! 声が、枯れ*52ても……」

ブ タ  「だいじょうぶですよぅ。支配人は、遠くにいても、近くにいても*53、ちゃーんと聞いていますから」

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ とびきりの私を見てね*54 ]

 

 

 ライブから数日後の夕方。未完成の新ホテルの最上階。

 

 日が傾き、空がオレンジ色に変わり始めていた。

 ハブが、ベランダの柵にもたれかかって、海に半分沈んだ旧ホテル跡を見ていた。最上階には床板が張られていた。天井もあったが、壁は一部が欠けていた。

ハ ブ  「ロッキン、ホッピン、ジャンピン*55……」

 ハブが、つぶやくように歌っていた。

ブ タ  「みみに残りますよねぇ」

ハ ブ  「おわあっ!」

 ブタが、ハブの後ろから現れた。

ハ ブ  「高いところ怖いんじゃなかったのか?」

ブ タ「床があるからだいじょうぶです。それより、ハブさんの持ち場はここじゃないですよ?」

ハ ブ  「支配人のマネか?」

ブ タ  「そんなつもりじゃないんですけど……」

 ブタが苦笑いした。

ハ ブ  「いっつも、突然現れんだよなー」

ブ タ  「やっぱり、あのひとがいないと、ダメ*56ですね……」

 

ハ ブ  「聞こえるか*57ー!! あんたがいないとダメ*58だってさー!!」

 ハブは、海に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近づいてくる、誰かの足音*59

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオミミ 「聞こえてるわよ」

 オオミミギツネが、階段を上ってきた。

 その頭には、けもの耳が無かった。ヘッドホンは付けていなかった。

 

 

 

 回想、ライブの日。

 

プリンセス「……わたしたちのせいで……」

ハ ブ  「あんたらのせいじゃねえ!」

 

ハ ブ  「つづけてくれ!」

プリンセス「え?」

ハ ブ  「お願いだ! ライブを続けてくれ! 支配人ならだいじょうぶだ!」

 

 ハブが、オオミミギツネを両腕で抱き上げた。

ブ タ  「ハブさん、なにを……」

ハ ブ  「ちょっと離れて見てる」

 ハブは、オオミミギツネを抱いて、走り去って行った。

ブ タ  「待ってください! どこへ!」

 

 ハブは、オオミミギツネを抱いて、暗い中、新ホテルの階段を上っていった。

 

 回想おわり。

 

 

 

 新ホテルの最上階のベランダ。

 

 3人はベランダの柵にもたれて、夕焼け*60を眺めていた。

ブ タ  「あこがれちゃいますぅ。キラキラの絵本*61みたいで」

オオミミ 「なに? なんのはなし?」

ブ タ  「おひめさまは、おうじさまのキ……」

ハ ブ  「やめろ!」

 ハブが顔をそらした。顔が赤かった。

オオミミ 「だからなんのはなしよ!」

ハ ブ  「あんたの地獄耳がなくなって助かったぜ……」

オオミミ 「…………」

 オオミミギツネは、ちょっと驚いた顔をした。

ハ ブ  「わりい! 言い過ぎた!」

オオミミ 「いいのよ。ちゃんと聞こえるから。……あなたの毒舌には助けられたわ」

オオミミ 「はあ!? なんだよ気持ちわりい」

ブ タ  「ふふっ。ふたり、ぴったり相性抜群*62です」

オオミミ 「……なに勘違いしてるのよ……」

 オオミミギツネがうつむいて、顔をそらした。

ハ ブ  「やっぱかわいくなったな!」

 ハブが、オオミミギツネの頭をくしゃくしゃとなでた。

 オオミミギツネが立ち上がり、近くに置いてあった小さな角材を拾って、木刀のようにハブに向けた。

ハ ブ  「ひいっ!」

オオミミ 「わたしをなぐさめ*63ようなんて、200キロ*64早いわ!」

ハ ブ  「単位がおかしいだろ! なぐさめてねーし!」

 

 オオミミギツネの後ろから、ブタが素早く何かをオオミミギツネの頭に付けた。

 

ハ ブ  「ぷっ! ふはは! 似合ってる! 超かわいい*65ぜ!」

 

オオミミ 「え? なにこれ?」

 オオミミギツネが、片手で自分の頭をさわった。そこには大きな耳のようなものがあった。

オオミミ 「みみ?」

 それは、暗いグレーの、大きな蝶結びが付いたヘアバンド*66で、頭の高い位置で結ばれていた。

 

ブ タ  「これ、ハブさんが……」

ハ ブ  「言うな!」

 オオミミギツネが、持っていた角材を落とし、うつむいた。角材がカランと音を立てた。

オオミミ 「やめなさいよぅ…… またこんな*67のー……」

ハ ブ  「もう、泣くなよー*68!」

 ハブが笑った。

オオミミ 「まいったわねえ……」

 オオミミギツネが涙をぬぐった。

ブ タ  「ほら、笑って*69ください!」

 ブタが、オオミミギツネの前に立った。オオミミギツネが顔を上げ、笑顔を作った。

オオミミ 「……ありがとう。これからも、よろしく*70ね」

 

 3人が眺めていた夕焼けに、スラリ、とあかね雲が伸びた*71

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
『大空ドリーマー』『ファーストペンギン』(曲中のセリフ)

*2
『大空ドリーマー』『ファーストペンギン』(曲中のセリフ)『わたしたちのストーリー』

*3
『純情フリッパー』

*4
『ファーストペンギン』『PPPのドレミのうた』(『アラウンドラウンド』)

*5
『アラウンドラウンド』

*6
『アラウンドラウンド』

*7
『Hello! アイドル』(いつの日かそんなこと 起こったりするのかな…

*8
『Hello! アイドル』

*9
『ようこそジャパリパークへ PPP with マーゲイ版』(曲中のセリフ)

*10
『けものパレード ~ジャパリパークメモリアル~』(曲中のセリフ)

*11
『大空ドリーマー』

*12
『200キロの旅』

*13
複数曲

*14
『夢みるプリンセス』

*15
『200キロの旅』

*16
『夢みるプリンセス』

*17
『夢みるプリンセス』

*18
『大空ドリーマー』

*19
『けものパレード ~ジャパリパークメモリアル~』『夢みるプリンセス』

*20
『大空ドリーマー』『ファーストペンギン』(曲中のセリフ)『わたしたちのストーリー』

*21
『アラウンドラウンド』

*22
『けものパレード ~ジャパリパークメモリアル~』

*23
『わたしたちのストーリー』

*24
『アラウンドラウンド』

*25
『純情フリッパー』(まぶしい太陽みたいな笑顔)+『ドレミファロンド(フレンズ Ver.)』(笑顔で歌うよ

*26
『ファーストペンギン』

*27
『PPPのドレミのうた』

*28
『THE WANTED CRIMINAL』

*29
『アラウンドラウンド』

*30
『Rockin' Hoppin' Jumpin'』

*31
『純情フリッパー』

*32
『やくそくのうた』

*33
『大陸メッセンジャー』

*34
『大陸メッセンジャー』

*35
『人にやさしく』(カバー曲)

*36
『夢みるプリンセス』

*37
『夢みるプリンセス』

*38
『純情フリッパー』

*39
『わたしたちのストーリー』

*40
『やくそくのうた』『大陸メッセンジャー』

*41
『Hello! アイドル』

*42
『やくそくのうた』『大陸メッセンジャー』

*43
『200キロの旅』

*44
『乗ってけ!ジャパリビート』(2番)

*45
『乗ってけ!ジャパリビート』

*46
『わたしたちのストーリー』

*47
『純情フリッパー』

*48
『アラウンドラウンド』

*49
『夢みるプリンセス』

*50
『夢みるプリンセス』

*51
『ファーストペンギン』

*52
『大空ドリーマー』

*53
『ファーストペンギン』

*54
『Hello! アイドル』

*55
『Rockin' Hoppin' Jumpin'』

*56
『夢みるプリンセス』

*57
『人にやさしく』(カバー曲)

*58
『夢みるプリンセス』

*59
『乗ってけ!ジャパリビート』

*60
『わたしたちのストーリー』(一緒に見てた夕焼け

*61
『夢みるプリンセス』

*62
『アラウンドラウンド』

*63
『人にやさしく』(カバー曲)

*64
『200キロの旅』

*65
『けものパレード ~ジャパリパークメモリアル~』

*66
『Hello! アイドル』

*67
『わたしたちのストーリー』

*68
『大陸メッセンジャー』

*69
『大陸メッセンジャー』

*70
『大陸メッセンジャー』

*71
『わたしたちのストーリー』




 歌詞引用個所 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 以上、答え合わせ的なものでした。
 文字の色を変えて、引用元の曲名を脚注で表記する作業は結構大変でした。書いてから時間が経っているため、筆者自身が忘れている引用個所もあるかもしれません。
 「また会いにいくよ」で、引用が無い部分が続くのは、物語重視で書いて、上手く歌詞を挟み込めなかったためです。

・ 実は、色変え版の追加投稿に合わせて、本編(色を変えていない方)も少し修正しています。

・ 「夢みるプリンセス」と「わたしたちのストーリー」は特に重要な曲です。筆者は、“「夢みるプリンセス」は、しはいにんにぴったりな歌詞だなー”と思っていて、これをかなり意識して書いています。本作のタイトル案の一つに、「夢みるしはいにん」というのがあったくらいです。

・ 「とびきりの私を見てね」で、オオミミギツネに「ヘアバンド」をプレゼントしていますが、これは当初は「カチューシャ(大きなリボン付き)」でした。「Hello! アイドル」に合わせて「ヘアバンド」に変更したんです。ですが私は、カチューシャの方が合っている(ヘアバンドだと、飾り結びが頭の上でなく、おでこ寄りになってしまう)かなとも思っていて、今だに迷っています。

・ 「輝いて(輝く)」「一緒に」は、いくつもの曲に出てくる言葉です。偶然かもしれませんが、PPPに似合う言葉、という気がします。


 本作で行った、歌詞を入れた書き方は……

 大まかな物語を考える(物語自体は自分で考えたものですが、歌詞の影響を受けています)。
  ↓
 歌詞から、使えそうなフレーズを探して書き出す(ここで書き出したもの以外の歌詞を使うこともありました)。歌を聴いて、ある程度歌詞を頭に入れておく。
  ↓
 そして、
 A 歌詞を挟み込みながら文章にする。
 B 文章の中の言葉を歌詞に置き換える。
 C 歌詞が収まるように、物語と、引用した歌詞の前後の文章を修正する。
 という感じです。

 A~Cは順番に行うのではなく、歌詞を入れられそうな場所を探しながら、三つの方法を使って文章を書いて、いじっていく感じです。作業の半分くらいは、書かずに頭の中で行います。

 “歌詞抜き版”を書くとしたら……
 Bで言葉を置き換えた個所は、歌詞を抜いて元に戻せます。でもAで歌詞を入れた個所や、Cで前後の文章を大きくいじった個所は、歌詞を抜いて書き直すのが大変です。


 他の曲、PPPの新しい曲を入れて書き直せば、もっと歌詞が入るのでは……と思ったりもしますが、正直めんどくさいのでこのままにしておきます。歌詞を混ぜるのは味付けであって、それがメインではありませんし、2期のホテル3人組の話とか、ネタの鮮度が低いですし……。
 2019/10/25 記



※ どうでもいい疑問……「鮮度が高い・低い」と「鮮度が良い・悪い」ってどっちが正しいんでしょう?

 

使用楽曲コード:07298021,72142669,72140968,72140411,71772073,71665714,24318892,24318876,23687827,23687819,23687801,23687789,23304049,23304006,23303778,23083808,22493352,N00040679


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