「それよりお前、大丈夫なのか? ゴルドさん、お前のことを凄い目で見ていたぞ」
通路を歩きながら話していると、カウレスが少し心配するような顔を俺に向けてきた。
「そうなのか? でも一体何で?」
「気づいていなかったのか? それに何でって……。そんなの、お前がゴルドさんが隠そうとしていたサーヴァントの真名を暴露したからに決まっているじゃないか」
俺が聞くとカウレスは呆れた声となって教えてくれた。
……ああ、そういえば、アヴェンジャーが真名を教えた後、アストルフォが他のサーヴァントにも真名を聞いて、セイバーが答えようとするとマスターのゴルドが待ったをかけたんだけっけ。これは原作でもあったやりとりだから最初はあまり気にしていなかったんだけど、その時のゴルドの言い方に腹が立ったから真名を暴露したんだよな。
そんなことを心の中で呟きながら俺はその時の事を思い出した。
☆
「そうなんだ。じゃあ君の真名はエドモン・ダンテスなんだね」
「その言い方は正確ではないな。俺の原型となった男が過去にそう呼ばれていた、というだけだ」
アストルフォがそう言うと、アヴェンジャーは彼に視線を合わせる事なく冷静にそう返した。だがアストルフォはそれで満足したようで、別のサーヴァント、「黒」のセイバーの元へと歩み寄った。
「それじゃあ、君の真名は?」
「俺は……」
「待て」
アストルフォの質問に「黒」のセイバーが答えようとした時、彼を召喚したマスターであるゴルドの声が遮った。
「セイバー、お前は黙っていろ。真名の公開もしてはならん」
「ちょっと、どういうつもり? サーヴァントの真名を公開する事は、事前に決め合っていたことでしょう?」
ゴルドの言葉にセレニケが目を細めて彼を見る。アストルフォが勝手に言い出したサーヴァントの真名の公開だが、これは召喚の儀式を行う前から決められていた事で、アストルフォが言い出さなくても行われていた。
本来の聖杯戦争ではサーヴァントの真名は最後まで隠し通すべき情報なのだが、これは聖杯大戦。同じ陣営のサーヴァント同士が協力し合って戦うのならば、サーヴァントの情報を共有し合ったほうが効率がいいという事で、「黒」の陣営のマスター達は己のサーヴァントの真名の公開を了解したはずだったのだ。
「悪いがそれは破棄させてくれ。情報が漏れる口は少ない方がいいからな」
「……!」
悪いとは口で言っていながら全く悪いとは思っておらず、自分達を信用していないという態度を隠そうともしないゴルドを、セレニケは怒りの目で見る。セレニケは黒魔術で目標を呪殺することを生業としている魔術師で、その視線には人を呪い殺せそうな圧力があったのだが、ゴルドはそれに気づいているのかいないのか涼しい顔で受け流す。
「安心しろ。真名こそ言えないが儂が召喚したセイバーは最強だ。『赤』の陣営なぞ、儂とセイバーだけで全て倒してくれるわ」
自慢気にそう言うゴルドの言葉からは、自分と自分のサーヴァントこそが最高だと信じて疑っておらず、他のマスターとサーヴァントを見下しているのが分かった。
そんなゴルドの態度にセレニケだけでなく、他のマスター達も不愉快な気分となり、一人のマスターがゴルドに近づきながら声をかけた。
「そうですね。確かにサーヴァントの情報は他のマスターに知られたくないですよね」
ゴルドに声をかけたのは「黒」のバーサーカーのマスターである孔雀原留人であった。
「留人?」
留人は表面上は友好的な笑みを浮かべてはいるが目は笑っておらず、そのことに気づいたカウレスが彼に声をかけるが、留人はそれに答えずにゴルドへ話しかける。
「ゴルドさんが召喚したのは確かに最上級の英霊だ。だけどどんな英霊にだって弱点がある。……そう、いくら竜殺しの大英雄でも弱点の背中を突かれたら大変ですからね」
「なぁっ!?」
「っ!」
『『……………!』』
留人の言葉にゴルドが驚いた声を上げてセイバーが目を見開き、彼の話を聞いていた他のマスターとサーヴァント達が驚いた顔となる。
今留人が言った「竜殺しの大英雄」に「背中が弱点」という言葉。この二つの言葉を聞いてすぐに思い浮かぶのは一人の英霊。
すなわち邪龍ファブニールを討ち倒した、ニーベルンゲンの歌の英雄ジークフリート。
なるほど、確かに「黒」のセイバーの正体がジークフリートであるならば、ゴルドが自慢する訳も、明確な弱点を隠すために真名を秘匿しようとした気持ちも分かる。それに今さっき見せたゴルドの驚きぶりから留人の言葉は真実なのだろう。
「き、貴様……! 一体どうして……!?」
「その鍛えぬかれた鋼のような肉体から『黒』のセイバーは武勲から英霊になったのは明白。
顔の作りや肌の色から、俺のようなアジアやインドの人間でもなく欧州の出身。
だけどその服装……まあ、サーヴァントの服装は個人の希望によって大きく変わる事があるからあまり当てにはならないけど、とにかく中世ヨーロッパの騎士にも古代ギリシャの兵士のようにも見えない。そうなると消去法で、ヨーロッパで何らかの冒険や怪物の討伐を達成した英雄の可能性が思い浮かぶ。
そして彼、セイバーは召喚されるとすぐに、この場にいる全員から背中が見えない位置へと移動した。この事からセイバーは、生前から、例え味方しかいない所でも背中への警戒を絶やさなかったことが分かる」
一体どうしてジークフリートの正体に気づいたと言いたかったが、驚きのあまり上手く言葉が出てこないゴルドに、留人は猫が鼠をいたぶるような笑みを浮かべて、ジークフリートの特徴を次々と口にしていく。留人がジークフリートの正体に気づいたのは、前世に記憶によるものなのだが、彼はそれをジークフリートの外見や立ち振る舞いから気づいた風に語る。
「ゴルドさんが真名の公開を拒否したことから『黒』のセイバーに明確な弱点がある事は疑いようがない。今言った特徴と明確な弱点を持つ英雄なんて俺は一人しか知らないんですけど……ゴルドさん、どう思います?」
「……!」
そして留人がジークフリートの特徴を全て口にしてそう締めくくると、ゴルドからは最初のような傲慢な態度が欠けらも見られず、顔を青くして恐れるような目を留人へと向けていた。
☆
正直あれはちょっとやりすぎだったかな? いくら他のサーヴァント達と一緒に頼光さんを馬鹿にされて腹が立ったとはいえ、もうちょっとやりようがあったかもしれないな。
いや、でもジークフリートの正体と弱点を教えた事で他のサーヴァントがフォローしてくれるかもしれないし、そこまで悪いことでは……ん?
通路を歩きながら考えていた俺は、通路の先で誰かが倒れているのを見つけた。倒れている人物は下着一枚だけという格好で、その姿には見覚えが……って、ちょっと待て。
「あれは……ホムンクルス」
俺と同じく通路の先で倒れている人物を見つけたカウレスが呟く。そう、今俺達の前で倒れているのはカウレスの言った通り、聖杯大戦で俺達マスターの魔力供給源として使用されるために大勢創造されたホムンクルスの一人であった。
そして俺はあの倒れているホムンクルスのことをよく知っていた。
……何でお前がそこで倒れているんだよ「ジーク」?
倒れているホムンクルスは後にジークと自ら名乗る、この物語の主人公であった。