「それで? これからどうするんだ?」
俺がミレニア城塞にある自室で椅子に座り床を見ていると、同じく椅子に座っていたカウレスが声をかけてきた。
「親友はどうしたらいいと思う?」
「俺に聞くなよ。俺だって分からないよ」
俺が聞き返すとカウレスはお手上げとばかりに両手を上げた。するとそんな俺達の様子を見て、頼光さんとアヴェンジャーの二人が何故か笑みを浮かべてきた。
「あらあら。マスターもカウレスさんも仲がよろしいのですね」
「それにマスターとマスターの親友とやらも、中々のお人好しのようだ。魔術師とは本来冷酷な人種だと思っていたが、これは評価を改める必要があるようだな」
「アヴェンジャーもバーサーカーもからかわないでくれ。……それで? 本当にこれからどうするんだ、ソイツ」
カウレスは疲れた顔となってアヴェンジャーと頼光さんにそう答えてから、俺のベッドの上で横になっている人物を見る。ベッドの上で横になっているのは、先程通路で倒れていたホムンクルス、ジークだった。
通路でジークが倒れているのを発見した俺達は、結局見捨てることもできず、とりあえず一番近かった俺の部屋まで運んでベッドの上に寝かせることにした。しかしそれからどうするかまでは全然考えておらず、こうしてカウレスと一緒に頭を抱えていたのである。
ジークはこの物語の主人公だ。彼がきっかけとなって「黒」の陣営は最優のセイバークラスであるジークフリートを失ってしまったが、最終的にジークが最後の戦いに勝利したお陰で人類は救われたのだ。
だから近いうちに様子を見に行こうとは思っていたのだが、まさかこんなカタチで出会うとは思ってもいなかった。
確かに原作でもジークは脱走するのだが、それはもう少し先のことだったし、彼を見つけるのはアストルフォの役割のはずなのだ。それがどうしてこのタイミングで逃げ出して、「黒」のマスターである俺やカウレスに見つかっているんだよ?
「……そうだな。ちなみに頼光さんとアヴェンジャーはどうしたらいいと思う?」
「私は助けたいと思います。必死に生きようとしている今の彼を見捨てるような事は、私はしたくありません」
「知らぬよ。俺は誰も導かぬ。ただマスターであるカウレスの行く様を見守るだけだ」
頼光さんとアヴェンジャーに聞いてみたら、返ってきたのはある程度予想できた答えだった。アヴェンジャーはともかく、頼光さんはジークを助けたいみたいだし、原作を知る俺としても、彼をこのまま放置したりダーニックの所へ突き出す気もないので、ここは何とか助ける方向で……ん?
「おい、留人……」
「ああ、分かっている」
そこまで考えていた時、ベッドで寝ているジークの様子に異変を感じた俺とカウレスは、魔術で彼の体を解析する。すると……。
「このホムンクルス……死にかけていないか?」
「みたいだな」
魔術でジークの体を解析してみると、彼の体からは生命力が枯渇しかかっていて、今も生きているのが不思議なレベルであった。このままだと後一時間もしないうちに死んでしまうぞ!?
確かにジークは元々ホムンクルスで、生命力を消費して魔力を作り出す、マスターとサーヴァント用の魔力供給源として創造されたホムンクルスだが、この最近のミレニア城塞で大きな魔術を使った形跡なんて……あっ。
俺の脳裏に常に仮面を被っている「黒」のキャスターと、彼が創造した宝具のゴーレムの姿が浮かび上がった。
そうだった。彼がいたんだった。彼のゴーレム創造にも魔力は使われていて、しかもそのゴーレムの創造は、俺がある助言をしたせいで原作以上に規模が大きくなり、使用される魔力も大きくなっている。だからジークは生命力が枯渇する寸前まで魔力を作らされ、自分が死んでしまう前に、最後の力を振り絞って脱走をしたんだ。
……あれ? じゃあジークが今死にかけているのって俺のせい?
「……………はぁ、仕方がないな」
これから何が起こるか分からない以上、原作の主人公のジークには生きていてほしい。だから俺は自分のした責任を取り、あとついでに頼光さんを悲しませないために、懐からあるものを取り出した。
……正直、これを使うのは惜しいし、何が起こるのか分からないというリスクも大きい。でも俺もカウレスも治癒の魔術の腕前は並み程度しかなく、他の魔術師達に協力を求められない以上は仕方がないだろう。
「何だそれは……勾玉?」
カウレスの言う通り、俺が懐から取り出したのは金属でできた勾玉で、勾玉は時折内部から光を放っていた。
「この勾玉の中に封じてあるものを使ってジー……ホムンクルスを助ける」
「ホムンクルスを助けるって本気か? というかその勾玉に封じてあるものって何だ?」
カウレスに聞かれて俺は一瞬答えるべきか戸惑ったが、それでも使うと決めた以上、隠してもしょうがないので答えることにした。
「聖杯だよ」