聖杯戦争は本来、参加したマスターである魔術師とサーヴァントだけで行われる。
しかし聖杯戦争に何らかの異常事態が起きて、大勢の人々や世界に大きな影響が出ると聖杯が判断すると、聖杯は公正な裁定をするために、英霊の座より聖杯に託す願いを持たない英霊を、様々な特権を持ったクラス「ルーラー」のサーヴァントとして召喚する。
ルーラーのサーヴァントは他のサーヴァントの真名を看破するだけでなく、全てのサーヴァントに適用される令呪を複数所持しており、対サーヴァント戦では大きなアドバンテージを持つ。だからもしルーラーが味方となれば大きな戦力となり、逆に敵となれば大きな障害となると考えるのは、聖杯に叶えてもらいたい願いを持つマスターやサーヴァントにしてみれば至極当然のことだろう。
そして「黒」の陣営はルーラーを何とかこちらかに引き込めないかと考え、「赤」の陣営は早いうちにルーラーを排除しようと考えた。
原作では「赤」のサーヴァントの一人であるカルナが、今回の聖杯大戦に呼ばれたルーラーことジャンヌ・ダルクに危害を与えようとしたところに、ゴルドとジークフリートがジャンヌを助ける形で登場し、そのままジークフリートとカルナの戦いになっていったのだ。
だが、仕事の現場に到着してみればそこでは戦いなど起こっておらず、三人の男女が俺達の到着を待っていた。しかもその内の一人は俺がよく知る人物であった。
「おう、留人。久しぶりだな」
「
「おい、お前、心の声が漏れているぞ。というか俺の事をそんな風に思っていたのか?」
「「……っ!」」
突然の出来事に思わず本音を出してしまうと獅子劫さんは呆れたように言い、一緒にいた二人の女性達が吹き出す。そして俺は吹き出した二人の女性にも見覚えがあった。
あの二人の女性……やっぱりジャンヌとモードレッドか。獅子劫さんは原作通りモードレッドを召喚したみたいだけど何でここに? カルナはどこに行ったんだ?
「し、失礼しました。それで獅子劫さんはどうしてここに?」
「なに、俺達だけで単独行動を許してもらう代わりに、ウチの陣営の神父に一つお使いを頼まれてね。何でも向こうさんはお前のところ、ユグドミレニアの魔術師達に補給物資やらを奪われて忙しいみたいだからな。心当たりはあるだろ?」
俺が気を取り直して質問すると、獅子劫も気を取り直して答えてくれたのだが……凄い心当たりがある。というか、俺がそれを指示した張本人だし。
「……そうですね。それで、もしよかったらその『お使い』の内容を聞いても?」
「お前と同じさ。そこのお嬢さんを何とかしろってよ」
獅子劫さんは俺に答えると一緒にいた二人の女性の片方、つまりはジャンヌを見て、彼女は俺達の方に視線を向けて挨拶をしてくれた。
「初めまして。私はルーラー。此度の聖杯大戦の裁定をするために召喚されました」
「こちらこそ初めまして。俺は『黒』のマスターの一人、孔雀原留人。それでもってここにいるのは俺と契約をしたサーヴァントと、俺の従者です。よろしくお願いします」
「「……」」
俺がルーラーに自己紹介をして頭を下げると、一緒にいた頼光さんとジークも無言で頭を下げてジャンヌに挨拶をした。
「でも獅子劫さん? ルーラーの対処を頼まれたのに、戦っていなかったみたいですけど?」
ルーラーに挨拶をした俺は再び獅子劫さんに質問をした。俺達がここに来た時、獅子劫さん達とルーラーは戦っておらず、むしろ話をしていたみたいだけど?
「まぁな。俺達は元からこのお嬢さんをどうこうするつもりはなかったからな。俺の目的はお前だよ、留人」
「俺?」
「ああ、そうだ。ルーラーのお嬢さんと待っていれば『黒』のマスターが来るだろうから、そいつにお前がマスターになっているかどうか聞こうと思っていたんだが……やっぱり『黒』のマスターに選ばれていたか。……全く、最悪の予想が当たってしまったみたいだな」
獅子劫さんは頭が痛いとばかりに額に手を当てるのだが、そのサングラスの奥にある目は鋭い視線を俺に向けているのが分かった。
あれ? どうして獅子劫さんってば、俺をそこまで警戒しているの? 凄腕の武闘派魔術師である獅子劫さんにそんな目で見られると、怖くて仕方がないんですけど?
「ちょっといいか?」
俺が獅子劫さんの視線に内心で怯えていると、彼の隣にいたモードレッドが話しかけてきた。
「……始めまして。貴方は?」
「俺か? 俺はこのゴーライオンと契約しているサーヴァントでクラスはセイバーだ。よろしくな。『黒』のセイバーのマスターさんよ?」
一応原作知識では知っているのだが、こうして直で会うのは初めてなので、何も知らない風に挨拶をすると、モードレッドは好戦的な笑みを浮かべて答えてくれた。そしてゴーライオンと呼ばれた獅子劫さんが突っ込みをいれるより、俺が「セイバーではなくバーサーカーのマスターです」と訂正をするより先に、モードレッドは次の言葉を口にする。
「それで一つ聞きたいんだがお前、前に参加した聖杯戦争で本当にアイツを……?」
「うぐっ!?」
モードレッドが俺に質問をしようとした時、突然俺の側にいたジークが胸を押さえて苦しみだした。
「ジーク君!? 一体どうしたのです……!?」
「あ、ああぁあーーー!」
頼光さんがジークの様子を見ようと近づこうとするが、その前にジークの体から漆黒の霧が吹き出て彼の体を包み込んでしまった。
「おいおい……!?」
「一体何だよ、コレは!」
ジークの身に起こった異変に獅子劫さんとモードレッドも驚きの声を上げる。
こ、これはまさか、モードレッドの顔を見たせいでジークの中にある「あの英霊」の霊基が活性化したのか!?
「マジかよ……! よりにもよってここで出てくるのかよ!?」
いくらモードレッドが「あの王様」と瓜二つとはいえ、顔を見たくらいで反応するか、普通?
そして俺の言葉を合図にしたかのように漆黒の霧が晴れた。しかしそこにはジークの姿はなく、化わりにあったのは、漆黒の全身鎧を着た騎士だった。
「A……aaaaaaーーーーー!」
「……『ランスロット』」
俺は、ジークだった騎士の姿を見て小さく呟いた。