転生したらバーサーカーのマスターになりました。   作:小狗丸

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「おいおい。一対一の戦いに横槍を入れるなんてルール違反じゃないのか?」

 

「これは聖杯大戦、つまりは殺し合いです。殺し合いにルール違反なんてないでしょう?」

 

「はははっ! それはもっともだ」

 

 白々しい笑みを浮かべながら言う獅子劫さんに俺が即答すると、彼は大声で笑う。この会話だけを聞くと平和なやり取りに思えるが、獅子劫さんの周りに漂う殺気は薄くなるどころか濃くなる一方だった。

 

「だがまあ、一対二で苦戦している「苦戦なんかしてねぇよ!」……とにかくセイバーのマスターとしては、援護の為にお前さんと戦わないといけないわけだ」

 

 台詞の途中で割り込んできたモードレッドの言葉に苦笑しながら獅子劫さんは、太股のホルスターに納めていた自身の魔術礼装……片手持ち用のショットガンを取り出して俺を見る。

 

 獅子劫さんが言っていることは正論だ。ランスロットはあと一、二分で使い物にならなくなるとはいえ、現在モードレッドが数で不利なのは確か。万が一の事態を防ぎたい獅子劫さんは、俺に手傷を負わせることで頼光さんの動揺を誘い、この場からの脱出を狙っているのだろう。

 

 ……そして獅子劫さんにとって一番最高なのは俺を殺すことで、殺しのプロである彼は、可能ならば迷うことなく俺を殺すはずた。

 

 正直、気が重い。獅子劫さんのことは前世でもこの世界でも好きで、できることなら殺し合いなんかしたくない。

 

 でもそれ以上に俺は死にたくない。だから獅子劫さんが俺を本気で殺す気な以上……。

 

 俺も、獅子劫さんを本気で殺すつもりで戦うしかないよな?

 

 

 

(目の色が変わったな……)

 

 獅子劫は目の前にいる留人の表情が変わり、自分に向けて明確な殺気を放ってきたのを感じた。

 

 魔術師は世界の裏側の住人だが、殺し合いの意味を理解して実行できる魔術師は、驚くほど少ないというのが獅子劫の持論だ。

 

 魔術師の世界では、命を懸けた決闘というのはそれほど珍しくはないのだが、そのほとんどは獅子劫から見れば、お互いの魔術を見せ合う自慢大会か、あきらかに格下の者を一方的に痛め付ける弱い者イジメでしかなかった。殺し合いをする以上は自分も殺される危険が常に付きまとうことを理解して、どんな手を使ってでも敵を殺して生き残ろうとする覚悟を持つ魔術師なんて、ほんの一握りしかいない。

 

 そして孔雀原留人はその「ほんの一握り」の魔術師であった。

 

 死の恐怖に怯え、自分が生き残る為に敵を確実に殺す心の弱さと強さを併せ持つ留人だからこそ、獅子劫は聖杯大戦に参加するように言われたとき助手にしようと考えたのだ。

 

 しかし今の留人は自分の敵。相手の実力をある程度知っている獅子劫は、慎重に攻撃の機会を伺う。

 

(さてと……。一年前、一緒に戦った頃からどれだけ強くなっているのかね? とりあえずあの『切り札』を使う前に決着を……!?)

 

「………」

 

 そこまで獅子劫が考えたところで留人が右腕を横に振り、それを見た獅子劫は即座に横に飛び退いた。

 

 直後、先程まで獅子劫がいた場所で大きな爆発が三度起こった。

 

「うおおっ!? いきなりかよ!」

 

 獅子劫がそう叫びながら自分がいた場所の地面を見ると、そこにはヒビがはいって割れた勾玉が転がっていた。先程留人は右腕を横に振った時に、爆発の魔術を封じ込めた勾玉を三つ、魔術で軌道を調整してから獅子劫に向けて放ったのだ。

 

 獅子劫は三度の爆撃を回避したからといって安心したりせず、ひたすらに走り続けた。そしてその背後では大きな爆発が次々と起り、爆炎と爆風が獅子劫を飲み込もうとする。

 

 見れば留人の袖から服の中に仕込んでいた勾玉が次々とこぼれ出て、魔術の効果で獅子劫の方へと飛んでいき、勾玉の爆撃に追われている当人は盛大に舌打ちをした。

 

「クソッ! 一体どれだけ仕込んでいるんだ……よ!」

 

 悪態をつきながら、獅子劫が手に持っていたショットガンを留人に向けて撃つ。しかしショットガンから放たれたのは鉛弾ではなく、人間の指であった。

 

 獅子劫が放った弾は魔術師の死体の指を加工したもので、魔術を込められた指の弾丸は自動で軌道を変えて目標……留人の心臓に飛んでいく。魔術の効果により、指の弾丸は厚さ数ミリの鉄板くらいなら容易く貫き、簡単に人の命を奪えるのだが、留人は逃げるそぶりも防御用の魔術を使う動きも見せなかった。

 

 そして獅子劫が放った弾がいよいよ留人の胸を貫こうとした時、彼が首にかけていた勾玉が薔薇色の光を放った。指の弾丸は全てその薔薇色の光に阻まれ、魔術の効果を失い地面に落ちてしまった。

 

「はぁっ!? 何だよそれ? そんなのアリかよ?」

 

 自分の必殺の魔弾をよく分からない手段であっさりと防がれたことに、獅子劫は抗議の声を上げるが、留人はそれに答えず、ただ無言で彼に視線を向けるだけであった。そして獅子劫には、その視線が「そんなことに気をとられていていいんですか?」と言っているように感じられた。

 

「? 何だ……って! しまった!」

 

 留人の視線の意味に少しの間をおいて気づく獅子劫だったが、気づいた時にはもう遅かった。留人の放った勾玉は、獅子劫を取り囲むように全方位から飛んできており、その数は二十から三十もあった。

 

「う、おおおおおっ!?」

 

 留人が放った二十から三十の勾玉は全くの同時に着弾し、一際大きな大爆発を起こした。


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