転生したらバーサーカーのマスターになりました。   作:小狗丸

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最初に謝っておきます。
アタランテファンの皆さん、ごめんなさい。


018

 この世界で俺が生まれた家、孔雀原家の時計塔が定める魔術師としての歴史はせいぜい数十年くらいと非常に短い。

 

 しかし日本の呪術師としての歴史は非常に長く、どれくらい長いかと言うと極東の呪術大国「邪馬台国」が誕生する前から歴史が続いている。

 

 孔雀原家は元々勾玉作りの専門家で、古代日本での勾玉は豪族の装飾品であり、神を祀る儀式に使用される神秘を秘めた祭具でもあった。つまり古代の孔雀原家は今で言うと王族や高位の貴族、そして神官にのみ勾玉という商品を卸す専属の宝石職人であり魔術師みたいな感じだろう。

 

 だから古代の日本では孔雀原家が作る勾玉はとても価値がある宝物であるのだが、その原材料は貴重な宝石や貴金属だけではなく、道に落ちているそこらの石でもあった。そんな歴史からこの世界の俺の父親は、初めて勾玉の作り方を教えてくれた時にこう言った。

 

『いいか、留人? 孔雀原家の技法は道に落ちているただの石を、黄金よりも価値のある神秘を宿した宝物に変える技なんだ。お前が手間を惜しまず、自分の持つ最高の技で石を使い勾玉を作れば、道にある……いいや、世界中にある石全てがお前の力となり、お前に富をもたらす宝になるだろう』

 

 父親が言った言葉は正に二千年近く続く孔雀原家の歴史なのだろう。この言葉は自然と俺の心の奥に落ち着き、固有結界の風景の原型となった。

 

 そして俺が固有結界に目覚めたのは以前参戦した剣の戦争の時だ。

 

 剣の戦争で俺と契約したあの剣士の英霊が魅せてくれた戦いの技と様々な光輝く武器を見た時、そこから感じた圧倒的な力のイメージと憧れが俺の中にあった父親の言葉と噛み合って、俺の中の世界が完成した。そのお陰で俺は、剣の戦争での最後の戦いで固有結界を発現させる事に成功して、ランスロットとそのマスターに勝つ事ができたのだ。

 

 つまり何が言いたいのかというと、この固有結界「偉大なる過去と宝の大地(ヴィシュヌ・パージュー)」は俺が想像する、神や悪魔すらも倒す絶対的な力と孔雀原家の歴史が「世界」というカタチになったものだという事で、それが意味する事はただ一つ。

 

「この世界にいる間は俺は無敵だ」

 

「無敵か……。中々大きい口を叩くものだな」

 

 俺の言葉に最初は驚いた顔をしていたアタランテが冷静さを取り戻し、手に持っていた弓矢を俺に向けて構える。普通であれば、弓兵の英霊に弓矢を向けられた時点で俺の死は確定しているのだが、今この固有結界にいる時だけはアタランテの行動は全て「一手」遅かった。

 

「ではお前の力がどれほどのものか見せてもらお……!?」

 

 弓矢を構えるアタランテの言葉が途中で途切れた。何故かと言えば、アタランテが構えた弓矢が突然、彼女の両手ごと爆発したからだ。

 

「ーーーーー!? 貴様っ! 私に一体何をした!?」

 

「………」

 

 アタランテは弓矢ごと爆発して肌が黒く焦げた両手を見てから、痛みを堪えながら俺に向かって怒声を上げる。確かに今の爆発は俺の仕業だが、わざわざ敵に手の内を教えるつもりは毛頭もないので、俺は無言で彼女の目を見返した。

 

「………! くっ!」

 

 俺が無言でいるとアタランテは少しの間俺を睨みつけてから後ろへ飛び退いた。恐らくはどんな攻撃手段持っているか分からない相手から距離を取り、出方を観察するつもりなのだろう。

 

 なるほど。確かにアタランテが取った選択は一つの正解だ。……それでも彼女の行動は「一手」遅い。

 

「っ!? ぐわぁああっ!?」

 

 後ろへ飛び退いたアタランテが地面に着地した瞬間、今度は地面に接触した左足が爆発して、彼女は悲鳴を上げながら地面に倒れた。

 

「こ、これは……!? この奇妙な形の石……これが爆発したのか?」

 

 流石は英霊というべきか。アタランテは痛みに耐えながら自分の身に何が起こったのかを正確に把握して、俺の攻撃を見破ったようだ。彼女の言う通りこの地面を覆い尽くす無数の勾玉、その一つ一つが全て獅子劫さんにも使った爆発の魔術を封じた勾玉で、先程の二回の爆発は地面にある勾玉で行なったものだ。

 

 地面にある勾玉は俺の意思で操作する事ができるだけでなく、自動で俺に危害を加えようとする攻撃を撃ち落としてくれる。つまりこの固有結界に引きずり込まれた敵は、言わば地雷やロックオンが完了したミサイルの上で戦っているようなもので、俺はただ命じるだけで相手を確実に爆破する事が可能なのである。

 

「無駄ですよ。いくら貴女がどれだけ速く動けても、地面に足をつける以上、俺の攻撃からは逃れられない」

 

「ーーー! 舐める、なぁ!」

 

 俺の言葉にアタランテは怒りで表情を歪めた後、まだ無事な右足に全ての力を込めて、俺に向かってほぼ水平に跳躍した。その速度はまるで砲弾で、普通の魔術師なら防ぐ事も避ける事もできず、ただ彼女に体を喰い千切られて絶命してしまうだろう。

 

 だけど、やっぱりこの攻撃も「一手」遅かった。

 

「ガッ!?」

 

 俺に向かって高速で跳躍したアタランテだったが、彼女は突然「空中」で動きを止めて、驚愕の表情となって口から大量の血を吐き出した。

 

「な、何だ……? この、武器は?」

 

 そう言ってアタランテが見たのは、自分の体を貫く複数の光輝く武器。それは勾玉の地面に突き刺さっていた無数の武器の一部で、複数の光輝く武器は彼女の体ごと地面を貫き、アタランテの動きを止めたのだった。

 

 この固有結界で俺が操作できるのは地面の勾玉だけじゃない。当然地面に突き刺さっているこの光輝く武器の群れも操作可能で、今のはアタランテが勾玉の爆発に気を取られている隙に、武器を上空に用意したのだ。

 

「ぐ……! この、私が……こんな、簡単に……!」

 

「……」

 

 口から血を吐きながら苦しそうにもがくアタランテを見ていると胸が苦しくなってくる。さっきは前世の記憶の影響でつい八つ当たりをしてしまったが、基本的に俺はアタランテだけでなく「Fate/」シリーズのキャラクターのほとんどが好きで、本当は殺したくはない。

 

 ……でもそれ以上に俺は死ぬのが怖く、生き残るためなら敵が例え誰でも戦うつもりでいる。

 

 だから俺は今ここでアタランテを殺すのだ。

 

 アタランテは相手が子供以外なら人を殺すのに躊躇いを持たないし、敵を殺すためなら手段を選ばない非情さがある。もし俺が「偉大なる過去と宝の大地(ヴィシュヌ・パージュー)」を使っていなかったら、アタランテは獅子劫さんとモードレッドと協力して、まともに動けないジークを守りながら戦う俺と頼光さんを殺そうとしただろう。

 

 そしてもしここでアタランテや獅子劫さん達を見逃しても俺の命を狙い続けることに変わりはない上、それをしたら俺はユグドミレニアでの居場所を失ってしまう。

 

 つまりアタランテがこの戦いに途中参加した時点で、俺は彼女を殺すしか選択肢がなかったのだ。

 

「……すみません。そして、さようなら」

 

「ーーー!」

 

 俺は形だけの謝罪と別れの言葉を告げるとアタランテの周囲にある勾玉を爆発させて、爆発の直撃を受けた彼女はその体ごと霊基が完全に破壊された。

 

 こうしてこの夜、聖杯大戦で最初の脱落者が出たのであった。


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