ジャンヌを迎えに行った先で獅子劫さんとモードレッドのコンビと戦い、更には途中参戦してきたアタランテと戦った日から二日が経った。
俺達がジャンヌを連れてミレニア城塞へ戻った後、ダーニックとランサーはジャンヌに「黒」の陣営に協力をしてほしいと頼んだのだが、やはりと言うかジャンヌは首を縦に振ることはなかった。その時にジャンヌの真名を知ったダーニックは、何とか彼女を捕らえてその力を利用しようと考えていたみたいだが、同じ神を信仰するランサーの前でそのような事はできなかったので、大人しくジャンヌを帰した。
今頃ジャンヌは「赤」の陣営と話をするために「赤」の陣営の本拠地に向かっていることだろう。
そして俺の二日前の戦いは案の定、「黒」のマスター全員に見られており、その反応は様々であった。
ダーニックは固有結界を使いアタランテを単独で撃破した俺を、手放しで称賛してくれたのだが、他のマスター達には俺の事を畏怖の目で見てくる者が数人いた。……正直、ゴルドやセレニケに驚いた顔で見られるのはどうでも良かったが、俺の親友であるカウレスに「お前、また無茶な事をしたな」と言いたげな呆れた目で見られたのは地味にショックだった。
まあ、それはともかく、今の俺はミレニア城塞の中庭に頼光さんとジークの三人でいた。
「一体どうしたんだ、ジーク? こんな所に呼び出して?」
俺と頼光さんをここに呼び出したのはジークで、その時の彼は何かを考えた真剣な表情をしていた。
「マスター、バーサーカー。いきなり呼び出してすまない。ここに来てもらったのは特訓に付き合ってほしいからだ」
「特訓?」
「ああ……。俺の中にあるランスロットの力。それを使いこなすための特訓だ」
「何?」
「まあ……」
俺の言葉にジークは真剣な表情で頷き、ランスロットの霊基と聖杯の魔力が埋め込まれた自分の胸に手を当てる。そんな彼の言葉に俺と頼光さんは思わず驚きの声を漏らした。
ジャンヌの来訪や俺がアタランテを倒したことも大きな話題となったが、ジークのランスロットへの変身もそれらに負けず劣らず大きな話題になった。
任務の報告の際に、ダーニックに質問されて、ジークがランスロットに変身した原因を「黒」のマスターとサーヴァント全員の前で説明すると、ゴルドがジークを解剖して徹底的に調べるべきたと言い出し、それに言葉には出さなかったがセレニケとキャスターも微妙に乗り気だったのには焦った。結局、ジークは以前のまま俺の専属の従者として扱われるようになったのだが、ダーニックがジークを戦力として計算に入れ始めたのは間違いないだろう。
俺はてっきりジークが戦力として扱われることを嫌がる……というか戸惑っていると思っていたのだが、むしろ積極的に次の戦いに備えようとする彼の姿には、逆に俺と頼光さんの方が驚いた。
「ジーク? 何故特訓に付き合えなんて言い出したんだ?」
「……マスターは知っているはずだが、俺は元々マスター達に魔力を供給するために作られたホムンクルスだ。そしてこの城塞の地下には俺と同じ目的で作られた……俺の兄弟とも言えるホムンクルスが大勢いる」
「……そうだな」
「……」
辛そうに言うジークの言葉に俺は短くそう答えることしかできず、頼光さんも無言で視線を逸らした。
「俺は、彼らをそのままにして自分だけ生き残ることに納得できなかった……。だから一時は力ずくでも助けてここから逃げようかと思った……。だけどそれをアヴェンジャーとライダーに止められた」
「アヴェンジャーとライダーに?」
意外な組み合わせに俺が思わず声に出すと、それにジークは頷いて続きを話す。
「止めてくれたのは殆どアヴェンジャーだが、彼は俺にこう言ったんだ。
お前が本当に兄弟を助けたいのなら、その手段をしっかりと考えろ。ただ闇雲に行動しても決して逃げ切れないし、万が一にも逃げ切れても、その先にあるのは無様に野垂れ死ぬ未来だけだ、と。
……そう言われて確かに俺は、彼らをどうやって助けるか、助けた後どうするか全く考えていないことに気づいた」
まさかアヴェンジャーがジークにそんな忠告をしていたとは。やっぱり何だかんだといって面倒見がいいんだな。流石はサーヴァント界屈指のツンデレキャラ。
「それでどうやって助けたらいいか悩んでいるとライダーが、この戦いが早く終われば仲間達の犠牲も少なくなる。自分達が早く勝ってみせるから応援をしていてくれと励ましてくれたんだ」
今度はアストルフォか。でも確かに的を射ている意見だな。
「だから俺は今までこの戦いが早く終わることを祈っていた。それしか俺にできることはないと思っていたから……。でも俺の中には、マスターがくれたランスロットの力がある。この力を上手く使えば、戦いを早く終わらせることができるんじゃないかと思ったんだ」
「ですから特訓を?」
頼光さんの言葉にジークが頷く。
「……それに、この『黒』の陣営の長であるランサーは、公平で寛大な君主だと聞いた。もし俺がこの戦いで活躍することができれば、仲間のホムンクルス達の待遇を良くしてもらえるかもしれない」
まさかジークがここまで考えていただなんて予想外だった。頼光さんなんか、「こんなに立派になって……」と言いたげな顔になって瞳を潤ませているんだけど。
「マスター……。俺のこの命とランスロットの力は貴方から与えられたものだ。しかし俺はこの命と力を仲間達のために使いたい。だから俺に特訓をつけてくれ。俺に、戦う力とチャンスをくれ」
そこまで言って、ジークは俺に向けて深々と頭を下げた。
「マスター」
そんなジークを見て、頼光さんも何かを言いたげな目を向けてくる。
……いや、ちょっと待って? これは卑怯じゃない? こんなの断れるはずがないだろ!?